【凶賊盗賊改方・悔恨】黄昏の道

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:10 G 86 C

参加人数:8人

サポート参加人数:5人

冒険期間:01月29日〜02月05日

リプレイ公開日:2007年02月06日

●オープニング

 それは年を無事に越した人もそうでない人も、新しい年を迎え、江戸の町に活気が戻りつつあるそんなある冬の朝のことでした。
「んー‥‥今朝も冷えるなぁ、日が出て来れば‥‥? ‥‥‥‥あれ?」
 ギルドの表を掃いて水を撒こうと裏の方へまわった受付の青年、ふと視界に入った川になにかが見えた気がして目を懲らしつつ歩み寄ると、それに気が付き一瞬言葉を失って慌てて駆け寄ります。
「伊勢さんっ!?」
「‥‥ぅ‥‥」
「だ、誰か、医者を‥‥」
 船着き場に辛うじて引っかかっていたのは凶賊盗賊改方の伊勢同心。
 受付の青年が何とか引っ張り上げれば、どうも身体の前にも後ろにも傷を負っていますが、深手なのは背中からの傷のよう。
「‥‥‥、ねが‥‥芦、屋方の、ふ、ね‥‥」
 水に浸かっていたためか血を大分失っているようで、それを言うのがやっとで意識を失った伊勢を、同僚の手を借りて中へと運び込めば、やがて呼ばれて駆けつける医者。
「‥‥おかしい」
 連絡を受けて駆けつけた凶賊盗賊改方筆頭与力・津村武兵衛が小さく呟くように言えば、心配そうに奥の様子を窺っていた受付の青年は怪訝そうな表情を浮かべて武兵衛を見ます。
「伊勢は‥‥歩いて1日ほどの宿場に、鵺の松七絡みで裏付けを取りに‥‥」
「お一人でですか?」
「いや、孫次と行かせ、宿場役人へと協力を扇ぐように指示して‥‥出たのは一昨日だ」
 武兵衛の言葉に、受付の青年はぞくりと寒気を感じたように身を震わせるのでした。

「さて、こちらもちと慌しくなってしまってはいるが、やることは多い。今一組は長谷川様と共に、姿を消した火薙の樹一郎の探索に回って貰いたい」
 武兵衛が言えば、ごくりと唾を飲み込む受付の青年。
「あれから慎重に潜んでいるのか、旅籠と妾宅に張っては居ても、顔を知る者の出入りは見つかっておらんが‥‥だが、それぞれが盗賊宿である可能性があってな」
 妾宅のあたりでそれとなく調べたところによれば、その家に前に通ってきていた男はおそらく樹一郎ではないか、とのこと。
 旅籠の方で出入りしている者の方では客と住み込みで働いている者以外、どれほどいるかまでは少々確認しづらいよう。
 ですが、旅籠の下働きの男が一人、あちこちに出かけていっては、ぶらりぶらりと歩いているのが目に付くそうで。
「今のところ確証が持てぬが、調べていったところ、やはり他にはそれほど怪しいものは見当たっておらなんでな」
 怪しいと思えばどこだろうと怪しく感じてしまうでしょうが、前回確認をして怪しいと確信できたこの二箇所の見張りはとにかく厳重に、他の切り絵図の印には、密偵たちや同心が入れ替わり立ち代りに調べているところだそうで。
「なんとしても火薙の樹一郎の居場所を割り出せるよう、申し訳ないが手を貸して欲しい」
 武兵衛がそう言うと、受付の青年は依頼書へと筆を走らせるのでした。

●今回の参加者

 ea2702 時永 貴由(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea3731 ジェームス・モンド(56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea4653 御神村 茉織(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6780 逢莉笛 舞(37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン)
 ea8191 天風 誠志郎(33歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 eb0939 レヴィン・グリーン(32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国)
 eb0993 サラ・ヴォルケイトス(31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 eb1098 所所楽 石榴(30歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

七神 蒼汰(ea7244)/ アウレリア・リュジィス(eb0573)/ 佐倉 美春(eb0772)/ セラ・ヴェーリア(eb2523)/ アルディナル・カーレス(eb2658

●リプレイ本文

●心模様
「うん、今度こそ逃がさないようにっとっ」
 言って真剣な眼差しで絵図面を前にダウジングペンデュラム――銀色の振り子を手に見つめるのは所所楽石榴(eb1098)。
 人足寄場の方で仕事をしている改方専属絵師の嵐山から受け取った人相書きを覚え込むように繰り返し目を落としていたレヴィン・グリーン(eb0939)は、石榴の手元の小さな振り子へと目を向けると視線をその下、絵図面へと降ろしていきます。
「‥‥樹一郎の居場所は、やっぱりここみたい、かなっ?」
 小さく揺れていた振り子が妾宅を指し示すかのように回るのを見ると、レヴィンへと目を向ける石榴に、レヴィンも微笑んで小さく頷いて。
「前回はへまをして取り逃がしてしまったが‥‥今度は絶対に逃がさん」
「それにしても妾宅にしろ宿にしろ、見張りも確認も難しいところだな‥‥」
 天風誠志郎(ea8191)が厳しい表情で獲物の手入れをしながら呟くと、逢莉笛舞(ea6780)も現状での張り込みがどれほど負担になっているかを考えて小さく息をつきます。
「んー、あたしは旅籠の方かなぁ。とりあえず旅籠ならいろんなお客さんとか来るだろうし、お上りさんみたいに観光でって感じかなと」
「ったく、心残りな年越し・年明けだったからなっと。旅籠の方が辺りっぽい気もするが、妾宅の方に樹一郎が顔を出すかも知れねぇし、俺はそっちに回るか」
 考え込むように腕を組んで言うサラ・ヴォルケイトス(eb0993)、御神村茉織(ea4653)は軽く頭を掻くようにしながら仕切り直しだ、と肩を小さく竦めて人相書きへと目を落とし。
「伊勢様も、それに孫次の行方まで分からず‥‥くっ、去年を思い出してしまうな‥‥」
 厳しい表情で目を伏せる時永貴由(ea2702)に、にと笑いながら声をかけるのはジェームス・モンド(ea3731)です。
「何、命に別状はないとのこと。それにきっと宿場へと向かった者達が孫次を見つけて戻るだろう。俺たちも俺たちの仕事をやり遂げれば、自ずと道も開かれよう」
 モンドの言葉に貴由も何とか口元へと笑みを浮かべて頷き。
「まずは迅速に火薙の樹一郎一味の情報を集め、一網打尽にすることだ」
 誠志郎の言葉に頷く一同、石榴の手の中の銀の振り子は、それに同意するかのように相変わらず小さく揺れながら一点を指し示しているのでした。

●妾宅
「田村様、妾宅の様子は‥‥」
「相変わらず出入りは主にあの家に囲われている女と、その世話を焼いているという老婆だけだが、張っていると何度か窓の障子の隙間から覗く目がある。ほぼ間違いなく一味のものが潜んでいると思うのだが‥‥」
 貴由の問いかけに答え状況を説明するのは田村同心。
 田村の言葉を確認しながら見張り所の障子を薄く開いて御神村とモンドが妾宅へと目を向ければ、確かに落ち着きなさげに何度か薄く開かれる障子に気がついて注意深く見つめる2人。
「他になにか変わった動きは‥‥」
「いや‥‥ここのところ安定をしているといえばおかしな話だが、あまり中の者達の動きに異常もない」
 答える田村同心の言葉を聞きながら貴由も見れば、今は出入りする者の姿もなく、貴由と御神村、モンドは顔を見合わせると立ち上がるのでした。
「確かに俺はお前さん達のような隠密能力はないが、俺は俺でやりようはあるんでな」
 にかっと笑いかけたモンド、彼は数瞬後には妾宅へ大蛇と姿を変えて木を伝ってにじり寄っていました。
「‥‥こう言う時ジャパンにはふさわしい言葉があったな‥‥確か、蛇の道は蛇と行ったか」
 小さく口の中で笑ったモンド、妾宅の中へと入り込むと聞こえてくる声のほうへとそのまま近づいていきます。
『‥‥お前さんがしくじるたぁねぇ‥‥』
 妾宅に済んでいる女の人相書きと一致する女が煙管を燻らせながら言えば、肩を竦めるのは若い男で、その相は妙に気味の悪いもの。
『で、お頭ぁ下で寝てんのかぃ?』
『あぁ、奥にいるに越すこたないさね。それにしても、なんだい? 奉行所の役人かい?』
『いいや、お頭ぁ、今江戸にゃぁ煮え湯を飲ませてぇ鬼がいるんだとよ。は、莫迦莫迦しい、煮え湯飲ませてぇならさっさとお盗めを片付けりゃいいもんを、その鬼が怖くて今まで以上に慎重になってやがる』
 ひそひそと若い男と女の囁く声、それを梁を這いながら聞くモンドの耳に、女が老婆を呼んでなにやら持たせる様子が見え。
『へっ‥‥抜け目のねぇ婆ぁだ。それにしても、鬼ごとき怖がるようじゃぁ、うちのお頭の落ち目かねぇ』
『莫迦をお言いでないよ、お頭みたいなお盗め、まだあんたにゃ出来ないだろうさね』
 囁き合う男女の言葉を聞きながらそろりそろりと這うモンドは、奥に僅かに捲れた茣蓙に気がつき鼻先で押し上げれば、そこに見えるのは小さな窪みのある一見普通の板。
 その先まで覗きに行こうとして、なにやらぞくっとする視線を感じれば、奥の間に刀を抱いて座る中年の男の姿があり、一瞬見られたような気がして先に進むのをやめ、手前を探るモンド。
 それに何か気がついたことがあるのか今暫く妾宅を探ってから、モンドは再び梁を伝い屋根伝いから木へ、そして外へと逃れるのでした。
「‥‥あの老婆‥‥動きはあまり良くはないが、嫌な感じだな‥‥」
 距離を置いて老婆を尾ける貴由は、老婆から身を隠しつつ御神村へと小さく言って。
「この方向はあの旅籠だろうが、それにしちゃ今のが妙だな」
 2人で細心の注意を払って尾けているものの、途中の小さな橋の下に降りて腰を下ろすと、どうやら家から持ってきた握り飯を齧り付きながらちらちらとあたりを伺う様子を見せている老婆に小さく唸るように言葉を零す御神村。
 暫くその老婆の様子を張っていた二人ですが、やがて現れるのは、気の弱そうな若い商家などで働いている様子の男です。
「貴由はあの男を頼む」
「わかった、気をつけて」
 老婆に何かを渡してそそくさと去る男を見てそちらへと対象を変え後を追う貴由に、やがて再び歩き出した老婆を追えば、老婆がやってきたのは他の仲間が張っているはずの旅籠。
 老婆は直ぐに何かを宿の裏口にいる者に渡すと、包みを受け取り再び元来た道を戻り始めるのでした。

●旅籠
「赤鬼の意地に賭けて、必ず追い詰めてみせる‥‥」
 ぎりっと小さく歯を食いしばって厳しい目をして呟くのは誠志郎。
「あの男だ、よく旅籠の裏口から現れて、一刻程したら戻ってくるのだが‥‥」
 早田同心の言葉に頷いて男を見れば、ぎょろりと辺りを見回してから背を丸め歩いていく男の姿があります。
「利吉、見失うのではないぞ」
「任せといてくだせぇ」
 言われて飛び出していく密偵の利吉を見送ると、誠志郎は笠を目深に被りながら周辺の聞き込みに回るのでした。
「あれ? こんなところでどうしたのかなっ?」
 それぞればらばらに旅籠に客として入り込んだ一行ですが、旅籠内をそれぞれ気をつけて探りを入れているときのこと、レヴィンと石榴がばったりと宿の中で顔を合わせるのですが、なにやらレヴィンは少しお疲れの様子。
「あぁ、良かったです‥‥この旅籠の中は妙に入り組んでいて、迷いまして‥‥」
 レヴィンの言葉に微笑を浮かべる石榴ですが、妙に入り組んでいる宿の様子に口元に手を当てて首を傾げます。
「それぞれのお部屋の行き来も迷っちゃいそうなつくりだよねっ?」
「ええ、それに幾つか気になることが‥‥とにかく部屋に戻りましょう」
 頷いて石榴に案内をして貰いながら部屋へと戻るレヴィン。
「気になることってなにかなっ?」
「実は‥‥」
 部屋へと戻ると石榴に聞かれて答えるレヴィン、どこが入り口かはわからないらしいのですが、宿自体奥の方に二間程、また、廊下の下を移動する人の気配をブレスセンサーのスクロールを使うことによって確認したことを告げます。
「それで壁の一部の向こう側を確認してみたのですが‥‥数人の浪人者が集まっていました。一応この部屋なども調べまして、人が通る様子は感じられなかったのですが、廊下や奥の方にはいくつか隠された間や道があるようです」
「なるほど‥‥舞さんにも手伝ってもらって調べないとねっ」
 お疲れさまっ、にっこり笑って石榴が言えば、レヴィンも微笑を返すのでした。
「‥‥ここ、か‥‥」
 旅籠の裏をそっと確認し、暫くして抜け道らしきものを見つけた舞は小さく呟きます。
 石榴から聞いた言葉と、自身の気になっていた旅籠の間取りの違和感に納得して調べてみれば、舞は床下を少し掘って作られた抜け道を確認し、そっとその場を離れます。
「厨房や帳場のどこかに、旅籠で働いている者たちが通る場所などに他の入り口があるのだろう」
 見て回ったところでは、客室などには抜け道は見当たらず、外に出る道も裏のようやく見つけた道のみであることを確認して緩く息をつく舞。
「一度抜けて外の天風たちと繋ぎをつけねば」
「ここの旅籠、なんか変な人たちばっかりだからねぇ。通いで来てる料理人さんとおばさんの2人は別として、なんっかここで働いている人たち変だし、みんな関係者なんじゃないかなぁ?」
 江戸観光のお客だといって入り込んでいたサラはあっちこっちを見て回りながら江戸の事を聞きまわっていたそうで、そのときの受け答えに違和感を感じる人たちばかりだったよう。
「わかった、そのことも伝えてこよう」
 頷いて、舞は立ち上がるとそっと旅籠を抜け出すのでした。

●捕り物・妾宅
 戸を蹴破る音が静かな家々の間に響き渡り、そこになだれ込んだのは凶賊盗賊改方・筆頭与力
の津村武兵衛、そしてそれとともに裏から雪崩れ込んだのは舞です。
「きゃあぁぁっ!!」
 狂乱気味に悲鳴を上げて逃げ惑う女が裏へと向かえば、待ち受けていた貴由が鳩尾へと撃ち込んで意識を刈り取ると家の中へと身を翻して向き直り。
「畜生っ!?」
 若い男が匕首で切りつけるのをかわし舞がその男を小太刀で切りつけ取り押さえ。
「くっ‥‥」
 そして、その奥では中年男の一撃一撃をやっとのことで受けていた御神村、あわやという一撃を受け、ぎりぎりと押されていたのですが、不意に男の体から力が抜け崩れ落ち。
「さ、早く樹一郎を‥‥」
 裏のほうから聞こえてくる音に弾かれるように家を飛び出す御神村は、縁の下の一角が外れ這い出してくる男へと踊りかかります。
「くっ!!」
「ちっ‥‥手前ぇだけは逃がすかよっ!!」
 物凄い力で御神村を振りほどきかけるその男・火薙の樹一郎に死に物狂いで押さえ込みにかかる御神村に、助太刀とばかりに駆けつけるモンドと武兵衛。
「おのれ‥‥おのれぇぇっ!!」
 気が触れたが如くに暴れる樹一郎も3人がかりで押さえ込まれて縄が打たれれば、他の逃れようとしていた老婆や他の者たちも引っ括られ、ともに捕縛に乗り込んでいた同心たちが確保するのを確認すると体を起こす貴由。
「こちらにこれだけということは、旅籠の方に残りの一味が‥‥急がなければ!」
 貴由の言葉に頷くと走り出す一同と、鳥へと身を変え飛び出すモンドですが、その途中。
 音もなく逃げ去る一段を、旅籠へと向かう途中に見咎めたモンドはそっと男たちに近づけば。
「お頭、一体どういうことなんで‥‥」
「どっかの間抜けがよりによって俺たちの仕事のときに捕まりやがったってぇこった」
 口々に不満の声を漏らす男たち。
 旅籠に程近い船着場で散り散りに逃げる男たちをそこまで追うのが精一杯であったモンドは、改めてちらりとお頭と呼ばれた男の顔を思い起こしつつ旅籠へと急いだのでした。

●捕り物・旅籠
「凶賊盗賊改方である。神妙に縛につけっ!」
 誠志郎の上げる声とともに、旅籠では捕り物が始まっていました。
「石榴さんっ! そちらに4人いますっ!」
 スクロールを手に張り巡らせた探査網にかかる賊たちの姿を素早く石榴へと伝えれば、襖越しに突き入れられる一刀をかわして飛び出してくる男たちを扇で舞うが如く薙ぎ倒す石榴。
「二扇の扇舞‥‥二重の閃きごらんあれっ♪」
 楽しげに紡がれる言葉と共に部屋を僅かに照らす行灯の明かりにきらりと光る鉄扇。
 廊下を走り飛び出してくる男たち、石榴に向かおうとする男たちに気づいたレヴィンが瞬時に織り上げるのは一条の雷。
 男たちの潜伏するその一帯を息の合った様子で確保する夫婦。
 そして、裏でも苛烈な戦いが展開されていました。
「逃がさないよ!!」
 縄ひょうを繰り出すサラに、飛びついてくる男を十手で打ち払うのは早田同心。
 その周りいたるところで同心たちと盗賊たちが組み付き、打ち合い斬り付け合い、鋼の打ち合う音が響き渡ります。
「お頭!」
「ふふ‥‥こういうのも久しぶりだなぁ、なぁ、天風」
 にと口元に笑みを浮かべ、切りつける男を閉じたままの鉄扇で一撃で打ち倒す平蔵に、平蔵の傍で盗賊達を斬り倒し、小物たちが引っ括るのを守る誠志郎。
「長谷川様っ!!」
 そこへ駆け込んでくる妾宅捕縛に向かっていた一同。
「樹一郎は確かに引っ捕まえやしたぜ」
 笑って告げながら捕縛に加わる御神村、2人掛でかかられる同心の助太刀に入る舞、そして平蔵の無事な姿にほっとした笑みを浮かべる貴由。
 少し遅れ、モンドが駆けつければ強硬に抵抗していた賊たちのほとんどが打ち倒され、旅籠の賊たちは一網打尽に引っ括られたのでした。

●井綱の仙助
 捕縛も済み、樹一郎の尋問が行われているのと同じ頃、モンドの告げる特徴を筆を走らせて書きつけていくのは呼ばれて顔を出した嵐山です。
「あの夜に押し込みを働こうという者たちが他にもいたのですね‥‥」
「捕縛がもう少し早くても遅くても、そ奴らの仕事とかち合うことぁ無かった訳だ」
 何がうまくいくかわからねぇ、そう笑う平蔵。
 出来上がった人相書きを前に首を傾げたのは、密偵の一人、庄五郎でした。
「知っているのか?」
「へぇ‥‥いや、多分、何でございますが、顔の特徴が、人に聞いていた井綱の仙助とぴったり合うなぁと思いまして」
 その言葉に頷くと、緩く息を吐く平蔵。
「何はともあれ、皆、此度はご苦労であったな。また直ぐに声をかけることになるとは思うが、暫し、ゆっくり休んでくれ」
 そういうと、平蔵は微笑を浮かべて煙管盆を引き寄せるのでした。