【凶賊盗賊改方・悔恨】夕暮れの道
 |
■シリーズシナリオ担当：想夢公司 対応レベル：11〜ｌｖ 難易度：難しい 成功報酬：13 G 3 C 参加人数：8人 サポート参加人数：8人 冒険期間：03月05日〜03月12日 リプレイ公開日：2007年03月18日 |
|
●オープニング
その日、だいぶ明るくなってきたとはいえまだ暗い夕暮れ時、ふらりとやってきた浪人姿の二人を出迎えると、受付の青年は慌てて中へと通しお茶の用意を始めました。「すまねぇな、ぼちぼち片付けるところだったんじゃあねぇのか？」
「いえいえ、とんでもない、お客様がいる間は商い中なので」
笑って答える受付の青年に笑みを浮かべ笠を傍らに置くのは凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵、近頃では秘かに盗賊たちの間で鬼などと呼ばれる人物ですが、穏かで優しげな面立ちに笑みを湛えています。
今日供に着いてきたのは年若い田村同心のようで。
「そういえば、伊勢さんの具合はどんな按配なんですか？」
「おお、俺と違って若ぇからな、傷もくっついて体力を戻しながらの静養だが、もう大丈夫だ」
平蔵に言葉にほっと息をつくと、お茶を出し依頼書を用意すると、話し出すのを待つ受付の青年に、平蔵は頷いてゆっくりと口を口を開きます。
「今回はちと、事態が複雑でな」
いつもと比べて複雑と言うと、どれだけ複雑なんだろうか、一瞬そんな事を考える受付の青年ですが、当然口にせずに頷くと筆をとり見返せば、少し考える様子を見せていた平蔵は続けます。
「まず、気に留めねばならぬ事柄が複数‥‥具体的に言うと、今やらなければいけないであろう事柄が、六つ程あってな」
「む‥‥六つ‥‥」
「無論、全てをやれと言うわけではない、ただ、まずはそれぞれの話を確認して判断して貰おうと思ってな」
「はぁ‥‥」
「まずは火薙の樹一郎の残党‥‥これは主だったものは捕らえられているが、あの時その二箇所以外に散って隠れている者たちについての捕縛と、井綱の仙助と言う盗賊についての情報収集‥‥これで二つだな」
「はい、えっと樹一郎の残党捕縛と、井綱の仙助についての情報収集‥‥」
「次に、麻目の玄三が会っていたという、勝次郎以外の香具師についての情報が少し入ってきた。よって玄三を抑えるか、それとも策を弄している様子の勝次郎をまず抑えてしまうか‥‥」
現状どちらも他者との接触を断って籠もりつつある状況で、どちらにしても隠密裏にという条件がつくようで。
「そして、いま一つは細工師についてだ。かの者から聞き取った事柄を元に人相書きを作ってみた」
平蔵の言葉に頷くとそれを書き付けていく受付の青年。
「だが問題は、その人相書きの一つが伊勢が斬られたであろう、例の宿場のはずれにいる事が分かった」
平蔵がゆるく息を吐けば、受付の青年も出来るだけ整理をして書き付けている当で、少し考えるような仕草を見せます。
「そこで、この人相書きを元に、江戸の郊外に潜んでいるのではといわれる盗賊を追うか、先の宿場の者たちを押さえるか‥‥」
「‥‥‥たしかに、色々な事が山積ですね」
「うむ、そこでそれぞれに判断して貰い動いて貰いたいと思う。それぞれが選んだ事柄以外のもう一つを、こちらのほうでも出来うる限り手配をして対処していく事になると思われる」
平蔵の言葉に、受付の青年は考え込むかのように眉を寄せて筆を走らせ続けているのでした。
「さて、樹一郎の残党捕縛及び井綱の仙助についての情報収集についてだな」
「えっと、ところで井綱の仙助って‥‥」
「おう、出来れば血を流さないでという盗め口ではありが、仕方がなければ傷をつけるのもいとわないという盗賊で、江戸での盗み働きは今までなかったという話だ。目星をつけた場所を数箇所、順繰りに入って金蔵をごっそりと浚って行くそうだ」
「じゃあ、前に盗みに入っていた後にも、まだ狙われる場所があると？」
受付の青年の言葉に頷く平蔵。
「一月、二月ほどずつあけて入るらしいが、この前は儲けがない、二月開けてくれるかどうかはわからねぇ」
なるほど、と頷く受付の青年。
「もう一つ、火薙の樹一郎の残党は、それぞれが荒っぽい男たちだ。郊外と、それから江戸から半日ほどいったところにある宿場にいるらしい事は聞き出せたんだが‥‥」
「‥‥‥‥そのうちのどちらかを選んで探るか‥‥」
「手が足りなくなることを覚悟でどちらも追うか、だな」
平蔵が言うと、受付の青年は難しい顔をして黙りこくるのでした。
●今回の参加者
ea2702 時永 貴由（33歳・♀・忍者・人間・ジャパン）ea3731 ジェームス・モンド（56歳・♂・神聖騎士・人間・イギリス王国）
ea4653 御神村 茉織（38歳・♂・忍者・人間・ジャパン）
ea6780 逢莉笛 舞（37歳・♀・忍者・ジャイアント・ジャパン）
ea8191 天風 誠志郎（33歳・♂・侍・人間・ジャパン）
eb0939 レヴィン・グリーン（32歳・♂・ウィザード・人間・ロシア王国）
eb0993 サラ・ヴォルケイトス（31歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国）
eb1098 所所楽 石榴（30歳・♀・忍者・人間・ジャパン）
●サポート参加者
御神楽 紅水（ea0009）／ 七神 斗織（ea3225）／ イツキ・ロードナイト（ea9679）／ バデル・ザラーム（ea9933）／ 所所楽 林檎（eb1555）／ 天馬 巧哉（eb1821）／ 李 麟（eb3143）／ 曹 笈英（eb5594）●リプレイ本文
●備えその日、僅かに曇った空の下、凶賊盗賊改方の役宅･同心詰め所にて一同は言葉を交わしていました。
「まずは目先の危険である樹一郎の残党を捕縛せねばならん。だが‥‥」
「あぁ、同じ日に二つの凶賊が狙っていたとは、とんだ偶然だな‥‥」
天風誠志郎（ea8191）が言えば時永貴由（ea2702）は頷いて、聞いた話では危険そうだと僅かに眉を寄せます。
二つの事柄を同時に追うか、どちらかに専念するか、どちらにしても片側から目を離すわけにはいかない事も考えて、同心たちと共に打ち合わせを始めた一行、幾つかの案を出し合いますが、一つの形に纏まりつつありました。
「仙助も気にはなるが、二兎追うものは一兎もえずと言うし、俺は残党捕縛に専念させて貰おうと思ってな‥‥残党の方の捕縛は俺達に任せてくれ、思い出せる事はこれだけだが、仙助の情報の方期待して居るぞ」
先程から記憶を頼りに人相書きを書いていた様子のジェームス・モンド（ea3731）がにと笑って言う言葉に頷く逢莉笛舞（ea6780）。
「こちらは私と御神村殿で出来る限り情報を集めようと思う。もし可能ならば庄五郎殿の手をお借りしたいが‥‥」
「へぇ、私めがお役に立つなら、存分にお使いくださいまし」
どこぞの商家の番頭と言われても可笑しくないような穏やかな風貌をした男、密偵の庄五郎はにこり笑って頷き。
「まずは仙助が今まで狙った店について、だな」
御神村茉織（ea4653）が切り絵図を見下ろしながら仙助の目撃された辺りを指でなぞり言うと、暫し考え込んでから話し始める庄五郎。
「私としましては無理矢理聞き出すのは心苦しいのですが‥‥一刻を争う事態ですから、牢内の方々から情報を引き出そうと‥‥幸い林檎さんに手伝って頂けるそうですので」
言って優しく傍らの奥方である所所楽石榴（eb1098）に微笑を向けるレヴィン・グリーン（eb0939）。
石榴も微笑み返して頷くと改めて同心一同へと目を向けて。
「今回は特に慌しいと言うか‥‥特に時間に追われちゃって大変だと思うけど、よろしくお願いだよっ！」
「おう、任せておけ」
早田同心が笑って頷けば、与力の浅間真蔵は一同をぐるり見回して。
「樹一郎一味残党はもとより、井綱の仙助もいざとなれば躊躇う事はない者達。重々気をつけて事にあたって貰いたい」
各人、その言葉に頷くと、サラ・ヴォルケイトス（eb0993）は軽く首をひねり。
「うーん、残党の方で行くのはいいんだけれど‥‥どうしてくれよーかなぁ」
「我々は有力な情報が入るまで現場で張るよりあるまい？」
「そーなんだよねぇ。やっぱり現場を見て、良い見張り場所が見つかるといいんだけどなぁ」
むうと眉を寄せて言うサラに、誠志郎も御神村の持つ切り絵図を覗き込み。
「仙助の動きを見過ごす訳にはいかない。手も足りず大変だとは思うが、頼む」
「まぁ任せとけっと。絶対に井綱の仙助に仕事はさせねぇよ」
誠志郎が言えば、御神村はにやりと笑って見せるのでした。
●凶獣の息遣い
「この辺りは随分と賑わっているのだな‥‥」
辺りを軽く見回して微笑を浮かべ言う貴由に、茶屋の親爺はにこにこ笑って頷きながら席へ勧めてお茶を運んできます。
「へぇ、この辺りは何ですな、ちょいと遠出気分でと江戸からおいでになる方も多くて、お陰様で良い具合に商売させていただけまして」
「それは良かった。確かに、少し足を伸ばせばこういうところがあるのだ、骨休めに出てくる者も多いだろう」
貴由の言葉に頷くと、お団子を用意して出てくる主人、いつもこの店が賑わうのはもう少し遅い時間とのことで、この辺りの事を話すのも好きな様子。
「いえねぇ、女性の方に言うのぁ憚られますが、ちょいとお楽しみのために留まる男性のお客さんも多いですし、それに、この辺りは長逗留で湯治に来られる方も多くって。そりゃあ、有名な薬効有る温泉に行くのが一番でしょうが‥‥」
「良いところがあるのか？」
「えぇ、この宿場には幾つか温泉宿がありますが、高くもなく他に泊まっていても入れる風呂を用意しているところが有りまして、その近くで長逗留の人たちも。ただちょいと、乱暴そうな男達が最近あの近くにいるらしいってんで‥‥」
暫くのんびりと寛いだ様子を見せながら老爺から話を聞けば、老爺は随分とこの宿場に詳しいようで、老齢で宿を辞めて茶店にするまではこの宿場でちょっとした顔だったとか。
そうでもなければ、宿場としたら客商売なので普通は言わないのでしょうが、久々に話を聞いてくれる人が現れて嬉しくなった様子の老爺、他にはいわねぇで下さいよ、と付け足すとそう話します。
「何にせよ、この辺りで少し骨休めをするって言うんでしたら、そんな危ねぇとこにゃ近付かなければ、のんびり出来る良いとこですよ」
老爺の言葉に笑みを浮かべて頷くと、貴由は後から来る者もいるので近くに良い宿はないかと尋ね、昔客間に使っていた離れを使って良いという老爺。
「いや、人が済まないと建物が駄目になりますし、さっき言ったような連中が居ますから、ねぇ」
女性１人じゃ危ないから、たいしたお持てなしは出来ないですがと言うのでした。
一方江戸の役宅。
牢から引き出された樹一郎配下の男が括られ左右を同心に固められて引き出されると、その前に立つのはレヴィンと石榴の妹・所所楽林檎の姿が。
「残った者が行くであろう場所を教えて頂きますよ‥‥まずは郊外の植木屋、そして宿場の温泉宿についてです‥‥」
レヴィンは入ってきている情報を差し言うと、それまで控えていた林檎は前へと出て。
男の額に指を当てて一瞬黒く淡い光に包まれた林檎、レヴィンはスクロールを広げてから、申し訳なさそうな表情を浮かべ。
「このような方法で聞き出すのは申し訳ないと思いますが‥‥」
言うレヴィンの言葉に何を言っているのか分からないような表情を浮かべた男は、次にレヴィンの口から発せられた言葉に気味の悪い物を見るかのような目を向けるのでした。
「‥‥‥‥植木屋には反応はあるけど、弱い、かなっ？」
夕日が差し込む中、銀色の振り子を見ていた石榴が呟くように言えば、少しずつ位置をずらしていき、貴由が向かったはずの宿場の上で銀の振り子が激しく動き出し回るのを見て目を瞬かせて。
「‥‥これは‥‥この辺りの、ってことだけど‥‥」
ぐるぐると一帯を指して揺れる銀の振り子に石榴は小さく呟くと立ち上がるのでした。
「なるほど‥‥では、前はこの辺りも騒がしかったが、少し前に慌ただしく明け方当たりに出て行く者達が居たと‥‥」
そろそろ日も沈む頃、通りに面した小間物屋の女将さんから話を聞いているのはモンド。
江戸の郊外の植木屋についてずっと聞き込みを続けていたようですが中カナ情報も集まらず、そんな中で漸く掴めた情報。
「昔から居る職人さんなんですけれど、ちょっと荒っぽいところもあって‥‥最近は見かけないで、ご隠居さんだけが居るようで‥‥人が出入りしている様子もありませんし」
女将さんの言葉に礼を言って出ると、モンドは近くで一室借りて張っている誠志郎とサラに合流するため足早に戻るのでした。
●仙助の足取り
「‥‥厄介な状況になりやがった」
眉を寄せて言うのは御神村。
御神村は人相書きの一つ、仙助の配下らしき男を見かけて後を尾けたまでは良いのですが、その後男が入り込んだ建物を伺っていると、何やら様子の違った男が後から入ってきて、慎重を期すために息を殺して先程からじっとしていました。
『‥‥いい加減にお盗めを‥‥元が掛かりすぎていやすから‥‥』
『そのつもりであったが、妙な気配を感じてな‥‥前のこともある、今暫くは自重しておくことだ』
『そんじゃ、お頭は‥‥』
『もう暫く、後一月は待たせぬと‥‥腹を括り今暫くは大人しく隠れておれ』
後から来た男の姿はよく見えませんが、初老、とまでは行かないぐらいの歳で低い声の油断ならない男の様子。
何より、御神村が現れたときに気配を感じられなかったそうで、相当使える様子に一瞬嫌な汗を感じて小さく苦笑する御神村。
『先生をお呼びするほどでやすから、その辺は‥‥ですが、こう、男の独り身じゃあ、色々と‥‥』
へへとごまかし笑いする男は、先生と呼ばれた男にじろりと見られて慌てて何でもありません、と青い顔をして答え。
『なんぞ間違えがあってお頭へと累が及んでは困る故、な‥‥分かっておろう？』
小さく刀の音がしたことから切ると脅しつけていた様子の男は、それだけ言い置いて出ていき、中の男と同じく漸く息をつく御神村。
「‥‥なんて奴だ‥‥」
小さく呟くと、漸く身体を動かして室内を確認して、御神村はその男以外にも他に人が住んでいる様子の見える家に少し考える様子を見てとると、先程の男の言葉から判断し、今すぐにここを引き払うことはないと確認してからその場を後にします。
「１人で付けにゃ少々危ねぇ奴だったが‥‥出て行った姿を見た風じゃ、医者のような身なりだったぜ」
「こちらも一箇所、小さな飯屋をやっている配下を見つけたが‥‥どうも長くあそこにいたようで、盗めは江戸では行っていなかったようだが、江戸を拠点としていたのかもな」
御神村が庄五郎の出す食事をかっ込みながら伝えれば、先程戻ってきて先に済ませていた様子の舞も頷いて口を開き。
「とすれば、よそから来たっていっても、江戸のことにゃ随分と詳しいと考えた方が良いようだな」
「へぇ、私もちょいと聞いてきてございますが、どうも頭の仙助は江戸に来ると、煙のように配下の前からも消えてしまうそうで‥‥繋ぎは片腕とされている江熊の邦市と呼ばれる男が取っているそうで‥‥」
そう言ってから、何やら気になることのように首を捻る庄五郎に、眉を軽く上げて見やる御神村。
「何か気になることでもあるのか？」
同じように違和感を感じた舞が尋ねれば、医者のような風体の男のことを、いつだったか人伝手に聞いた気がすると答えます。
「‥‥本当か？」
「ええ、その、何処だったか思い出せず、申し訳ないんでございますが、どこぞの寺に寝泊まりをしている、滅法怖いお人が居たとか‥‥年の頃は、そろそろ５０‥‥といったところでございましたか‥‥」
どうにも思い出せないことのようで申し訳なさそうに身体を縮こまらせる庄五郎ですが、情報が増えるだけでも違うと伝えて参考にすることを確認します。
「その男が他の奴らん所に現れる可能性も有るからな。だが、かなり使える‥‥無理は互いにしねぇことだ」
無理をして万が一が有れば、それまで調べた情報も失う、互いにその意味を確認しあうと、３人は再び以降の探索について確認し合うのでした。
●残党殲滅
宿場では、既に貴由が男達の潜伏場所を、江戸から駆けつけた石榴やレヴィンに聞いて確認を済ませていました。
その日の夕暮れ時、宿場の茶屋裏にある離れには、同心達がそれぞれ見咎められないようにばらばらに集まって来て、やがて揃う一同。
茶屋の老爺には事情を話し快く貸して貰っていて、少々全員が揃えば手狭ではあるものの不自由ないほどの広さの中ではそれぞれが隠して運び込んできていた武具に身を固めています。
「おう、すっかり支度が調ったようだな」
落ち着いた声と共にそこへ入ってくる平蔵、傍らに控えるのは誠志郎で、役宅には筆頭与力・津村武兵衛が詰めているのが窺え。
平蔵は奥へとはいると、すぐに浪人姿から捕り物のための身支度を調えて姿を現すと、ぐるりと一同を見渡します。
「さて、これから二手に分かれ、火薙の樹一郎一味捕縛に向かう。この者達は特に気性が荒く、人を殺めること数限りなく、それほど場数を踏んでいる者達である。皆心してかかるよう」
そう言うと、平蔵は誠志郎へと顔を向け。
「天風は泉宿・聊方の捕縛に向かうよう。張っている早田と岩村の両名と合流するよう」
言って頷くと鉄扇を帯へと差し込み。
「俺は川沿いの小屋へ」
言うと戸を潜り出て行く平蔵をどこか心配げに見る貴由、誠志郎が立ち上がるとモンドも刀を差しにと笑い、サラもぎっと手の中の縄ひょうを見て。
「川沿いの小屋と聊は近すぎますからね、騒ぎが起きればすぐに気が付かれてしまいますし‥‥」
「うん、効率っ‥‥って言っちゃうとそれきりだけど、大丈夫だよっ！ 平蔵さんが居るし、それに信じてるしねっ♪」
レヴィンの言葉に石榴がにっこりと笑って言えば、その言葉に貴由も頷いて。
「では、行くか」
誠志郎の言葉と共に、一行も戸を潜りそろそろ薄暗くなってきた夕暮れの中を駆けるのでした。
「凶賊盗賊改方である！ 神妙に縛につけ！」
誠志郎の声と共に蹴破られる戸、レヴィンが読み取った温泉宿・聊の離れには７人の風体よからぬ男達が、その声に弾かれたように立ち上がり、二回から駆け下りようとするのですが、そこに立ちはだかる誠志郎とモンド。
「凶賊共、いくら潜伏しようとも、この俺の目が黒いうちはのがしはせん、大人しくお縄に付け！」
「‥‥こ‥‥んのぉ‥‥」
ぎりと睨め付ける男達、裏の窓から抜けようとした者も、身体を踊らせる前に鋭い爪がその肩に突き立ち、縄に身体を引かれて転落する男にかけられる声。
「逃がしたらまた可哀想な子が出るの。逃がさないし、逃げらんないよ」
だめだめ、とまるで嗜めるかのように平然というサラですが、男の方は激痛にのたうって。
「止まってください！」
レヴィンが言うも当然とまる気もなく刀を振り上げてきた男は、不意に足がぴくりとも動かなくなっているのにぎょっとした表情を浮かべ、そこに懐へと素早く入り込み扇の一閃。
「大丈夫かなっ？」
「ええ、無事ですよ」
微笑を浮かべて言い合うレヴィンと石榴の夫婦。
「済まんが刃向かう者には加減ができないからな」
言うと共に渾身の力で峯で叩き伏せる誠志郎に、その側でも、階段の横から一階へと飛び降りた男を叩き伏せるモンドの姿が。
凄まじい希薄を放った賊達でしたが、先に抜け道を探り早田と岩村の両同心と共に抑えた貴由の活躍もあり、一網打尽に。
平蔵の率いていた方も大きな問題も起きずに速やかに捕り物を終えたようで、捕縛した男達を同心達が引き立てていくのを見送ると、空を仰ぎ見る誠志郎。
「さて、御神村殿達の首尾はどうだろうか‥‥」
誠志郎は小さく呟くと、暫く江戸の方角の空を見上げているのでした。
●手掛かりの糸
その頃、御神村は詰めていた部屋で庄五郎の手伝いで一つの調べ物を完成させていました。
「余程の大店しか狙わねぇ、そして大抵が、祝い事が近くにある場所ばかり、か‥‥腐っていがる」
「奉公人にも振舞酒がある様なときばかり狙われているようで‥‥惨い奴らで‥‥」
そう小さく息を付く庄五郎、その時部屋に戻ってきたのは舞。
「‥‥件の男、見つけたぞ」
舞の言葉に、御神村は弾かれたように顔を上げるのでした。
