【凶賊盗賊改方】這い寄る影
 |
■シリーズシナリオ
担当:想夢公司
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 40 C
参加人数:7人
サポート参加人数:4人
冒険期間:10月28日〜11月04日
リプレイ公開日:2007年11月13日
|
●オープニング
その日、ギルドの受付の青年は暗い面持ちで受け取った手紙を懐に小さく溜息をついていました。
「『貴殿が関わる人々に関係し大切な仕事をお願いいたしたく文を遣わし候、身内の恥なれば内密にて、くれぐれも内密にて来られたし』‥‥うーん、ギルドでしっかりと読み上げてしまってたけど、大丈夫だよなぁ?」
言いつつも声が震えている受付の青年、仕事で呼び出されるのはよくあることだし、内密に来いということも今までなかったわけではなかったので、そこまで深く気にはしていなかった受付の青年ですが、その日は朝からなんだか嫌な予感があったようで。
不安げにあたりを見るのは、江戸の郊外にある宿の庭、その宿に来るように指示されてきたものの、いつまでたっても来ない手紙の主に不安がどんどん大きくなっていく受付の青年は、小さく息をついて地面へと目を落として。
ふいに自身の影がぬっと大きな影に覆われたのに咄嗟に振り返る受付の青年。
鈍い音と、崩れ落ちる受付の青年。
現れた影の奥、室内には口元に薄ら笑いを浮かべながら、その様子を見つめる男の姿があるのでした。
「‥‥仕事での呼び出しだったらしいですが、誰からっていうのは読み上げませんでしたから」
ギルドの受け付け、いつもそこに座っている受付の青年の姿は無く、代わりに12〜3の少年がどこか困ったような怒ったような表情を浮かべて依頼書の台帳を手に座っていました。
少年の名は正助。
受付の青年の元に身を寄せていて、ギルドのお仕事の手伝いや、時折仕事を受けて出かけることもある、元・冒険者嫌いの少年です。
彼が不機嫌なのにはそれなりに訳がありまして、受付の青年が仕事の呼び出しとのことでその日朝早くに出向いて行ってから一晩が経ち、ギルドに来てからギルドにすら戻っていないことを聞いたのは先ほどの事。
ですが皆が皆、正助に受付の青年の事を聞くのも当然のことで。
そして間が悪いことに、寄りにも寄って受付の青年が担当しているお客さんがやってきてしまっているのが現状で。
「ですが、仕事を頼みたいのです。できれば他の方ではなく‥‥御身内であるのでしたら、もしかしたら事情をご存知かもしれませんが。前にもお会いしておりますし」
そう言うのは凶賊盗賊改方の密偵・庄五郎、品の良さそうな商人身なりに姿を変えて、あたりに十分気を配ってやってきたようで、受付の青年の手伝いをしているのを過去にも目にしているためかそう切り出します。
他に回して問題ない仕事ならば他の者に回すのですが、受付の青年の仕事の中にも、まぁ一応他に回してはまずいような依頼人がいるわけで、改方もその一つ。
「実は‥‥妙な投げ文を受け取りましてね、それについて、少々おかしな事が‥‥」
そう言って手紙を取り出す庄五郎、それを受取って読めばそこそこ達筆ながら感じを極力減らし読みやすくした、そんな手紙で。
「なになに‥‥『いきのかかったにんげんは、そこそここんじょうがあるらしい、だが、いつまでもつか。うらぎりもののイヌには、しを』‥‥これって、誰か捕まっていて、しかも酷い目に合っていて、それをわざわざ知らせて脅しつけてきている、ってことですかね?」
「ですがね、正助君、いないんですよ、うちの密偵たちにも、協力してくれている酒場やら店やらからもいなくなった人間が」
怪訝そうに首を捻る正助に、この手紙の真意について調べて欲しいこと、ここのところ密偵たちは出来るだけ腕利き以外は身を潜め、監視らしい視線もあまり感じなくなっていると告げて。
「居なくなった人間がいないなら、ただ脅して‥‥おどし‥‥‥ぁ‥‥」
「‥‥‥いなくなった、人間‥‥」
不意に台帳に書き込んでいた手が止まる正助、そしてその瞬間まで失念していた庄五郎も何やら引っかかっていたものが解けたような、はっとした表情で。
「受付のが!」
「あ‥‥兄さんが!?」
それに気がついた正助は血の気を引かせて真っ青になり、庄五郎の表情もさっと変わり。
「‥‥念のため、他にも該当者がいないかの確認と、私どものとばっちりでこんなことになったのなら‥‥片ぁ付けさせて貰わねばなりませんが、まずはとにかく身柄の確保を‥‥」
「あ、で、でも、まだ決まったわけじゃ‥‥」
「この文に関係なく見つかりゃそれはそれで万々歳じゃないですか! しゃっきりとして、依頼を!」
「は‥‥はいっ!」
庄五郎の強い言葉に我に返った正助は、震える手で依頼書へと筆を走らせるのでした。
●リプレイ本文
●迫る刻
「‥‥冒険者が噛んでると知られたからか」
眉を寄せて小さく呟くのは天馬巧哉(eb1821)。
一行は庄五郎の飯屋に集まって、正助から改めて現状の説明を受けていました。
天馬の側では所所楽銀杏(eb2963)が小さく唇を噛み、李連琥(eb2872)と山本剣一朗(ec0586)の目にも沸々と怒りの色が見えていて。
「今回のやり口は気に入らないが‥‥落ち着いて行動しなければな」
山本の言葉に、銀杏の手伝いに来ていた大蔵南洋は頷き、自身の斬撃を易々とかわす男が相手側にいたことを伝えて。
「とにかく、ギルドの周辺やこの辺りでまずは情報を集めないと、です‥‥」
銀杏が言えば緋宇美桜(eb3064)は軽く首を傾げます。
「そう言えば、話に出ていた武家屋敷の周辺、今のところ起きている事態を考えれば係わりがあってもおかしくないし、ちょっとそっちの方から当ってみるのもありなんじゃないかなー?」
「それと、ここの警備も必要じゃろ? とりあえず我が輩は朝から晩まではとりあえずここに入り浸っている客に見せて突入の指示を待つぞぃ」
ゲラック・テインゲア(eb0005)の言葉に頷きつつ正助も口を開いて。
「連絡の拠点はここになるということですね?」
「それと年若い密偵などはこれまで通り、今暫くは身を潜めておいた方が良さそうであるな」
連琥の言葉に密偵であるおさえも同意を示し連絡の手配をするために立ち上がります。
そんな中、少し離れたところでにやにやと嫌な笑みを浮かべているのは室斐鷹蔵(ec2786)です。
その視線の先にいるのは、客の相手をしながら穏やかな表情を見せている密偵の庄五郎。
「‥‥フッ、たかが遊びと思うておったが‥‥火が付きよったわ」
口の中で小さく呟く鷹蔵、その表情は庄五郎を殺し障害を排除した時のことを思ってか、愉悦とも取れるもので。
それを耳にし眉を寄せ厳しい表情をするのは連琥で、鷹蔵の放つ異様な雰囲気にどこか気にかかることを確認するかのように庄五郎へと目を向ける連琥。
「なんにせよ、とりあえず早くに受付殿の足取りを追わねばな」
首を振って連琥が言えば、それぞれが立ち上がってめいめい表から裏からとばらばらに出て行き。
「そうだ、渡すのが遅くなって御免ねぇ。こっちの方ももう、出来上がったからね」
そう言って桐の箱を持ったおさえが戻ると、銀杏は差し出された箱を受け取って開ければそれは美しい黒髪の鬘。
「有難う御座います、ですよ‥‥」
調整のために暫く手を入れつつ様子を見ていたようですが、出来上がったのを確認して姉の所所楽石榴には既に髢を渡しており、そして妹の銀杏に鬘を見せれば、微かに笑みを浮かべてそれを身に付ける銀杏。
銀杏は前に引き続いて店で働く様子を見せながら、辺りの様子を窺うのでした。
●降りしきる赫
生暖かい飛び散る赫い緋い色彩、同じ刻に二つの場所で降りしきるのは、只赤。
古い武家屋敷の建つ一角の外れ、死角になる道を進み辿り着くその廃屋敷の、表と奥の間は、まさしく赤く染まっていました。
「ふん、口ばかりを動かしてるってぇからよっぽど自信が有るかと思ゃあ、なんだい、その程度‥‥」
にやにやと嫌らしい薄笑いを浮かべた男が、門に赤い色彩を振りまいた元凶で、その手には飾り気のない刀が一振り、足下には赤を彩るもの‥‥斬り伏せられた鷹蔵の身体。
男が一歩踏み出せば、山本はぎりぎりをかわし切った何気ない様子のその一振りで、頬にうっすらと浮かぶ細い一筋の線。
「――っ!」
教典を手にした天馬が息を飲むのは、男の足下に絡みついた草を容易く切って踏み出しかけた男が、なにかに気が付いたかのように立ち止まると振り返る様。
「‥‥そぅいうことかぃ」
そして、もう一つの赤は――。
「‥‥酷い‥‥」
屋敷の中、呟く桜の視界には連琥によって無力化された男と夥しい赤で部屋を彩った元凶が。
連琥は良く見知った、桜とて知人の手伝いに行って顔を見たことのある人物。
身体から夥しい量の血を流し縛り付けられ傷だらけの、自身の血の海に横たわるその人物は、ギルドの受付の青年その人。
「ま‥‥間に合わなかった‥‥?」
「‥‥いや、息が微かに‥‥」
桜が小さく呟くのと、そっと歩み寄った連琥が確認して受付の青年の身体に手を添えるのはほぼ同時。
本来ならば動かさずに直ぐに出来ることをした方が良いことは誰の目から見ても明らかですが、咄嗟に手拭いで血があふれ出る傷口を抑えると桜の手を借りて急いでその身体を屋敷から出す連琥。
「調べてたときには確かに、痛めつけては居たけどこんな‥‥」
明らかに一突きに突かれたその傷は、恐らくは匕首などで、運が良いことに心の蔵を突くには少々位置が悪かったよう、そして運が悪いことに突かれたのはほぼ囮が動き出す直前。
「顔も見られている、何も喋らないと言う状態なら‥‥」
「口封じ、なのかな。でも、大丈夫だよ、急所は、外れているからね‥‥」
血が地面に点々と落ちるも、服に血が染み込んでいくのも構わずに屋敷を抜けて直ぐの所、銀杏の待つ場所へと青年を運ぶ2人は、何処か祈るように言葉を交わしながら急ぐのでした。
●殺意のこちら側
飯屋で張る組と受付の青年を探す組に分かれての捜索中、受付の青年が呼び出された辺りへは、比較的簡単に辿り着くことが出来ました。
「‥‥僕がもっとしっかりと話を聞いていれば‥‥」
「いや、正助殿の責任ではない」
僧形で笠を目深に被った連琥と並んで歩く正助も小坊主のような姿をしており、小さく肩を落として呟けば、注意深く周囲に目を配りながら手掛かりを見つけようという正助は、何とか不自然に見えないよう気を付けてはいるようで。
「たまたまその日はギルドにいましたが、見送ったときには確かにこちらの方に‥‥」
「たしか、ゲラック殿の補助の方々から聞いた話ではどこぞの宿に入っていったらしいのであるが」
ガルディ・ドルギルスや芸楽亭外庵らが、庄五郎の飯屋に詰めているゲラックの変わりに聞き込みをしていて、人相書きも相まってそれらしい人間が入っていったと思われる郊外の宿に当たりは付いています。
「でも、宿の人は知らないし来ても居ないって‥‥」
「宿がどのような繋がりがあるかは分からないが、その宿にいたのはほぼ間違いないらしい。なれば、人一人を運び出すのに、誰にも見つからないでそれが行えるというのは、余程のことと思う」
「じゃあ、宿に来た人ではなく、宿から出て行った人を追えば‥‥?」
正助の言葉に頷く連琥、2人は宿の付近へとたどり着くと、痕跡の調査と足取りを追う事に専念するのでした。
「‥‥視線の主、は‥‥その屋敷群の側で途切れたらしい、です」
庄五郎の飯屋では銀杏がお店の手伝いをしながら姉の石榴から聞いた話を板場の庄五郎へと話していました。
「例の廃屋敷‥‥ですかねぇ。伝手があるのかそれとも余程に都合の良い場所を見つけたか‥‥」
「‥‥そこに、受付の方は、いるでしょう、か‥‥?」
困ったように僅かに眉を寄せて地面へと目を向ける銀杏、丁度今は客がはけていて、飯屋の中にいるのは他にはゲラックと山本。
銀杏と庄五郎の会話に板場の側の席について料理を味わっていたゲラックが口を開き、山本も目を向けます。
「なぁに、直ぐに他の者達が突き止めてくるぞぃ。そんなに心配せずとも直ぐに行方は分かるのではないかの」
「そうさね、だからそんなに暗い顔しないことだよ」
そうっと銀杏の頭を撫でてゲラックの言葉に同意を示すおさえ、庄五郎も頷いて。
「しかし、大蔵殿に聞かれて思い返してみても思い当たる節がないので思ったんだがなぁ‥‥」
「?」
首を傾げる銀杏にゲラックも庄五郎へと目を向けて。
「あぁ、いや‥‥少なくとも覚えはねぇはずなんですがね? そんだけ腕が立つっていったら、その男自体はもしかしたら元々は只の盗賊じゃねぇんじゃって」
「二本差しだったんじゃってことかい?」
「もしくは‥‥浪人さん、です‥‥?」
恐らくはどちらかではないかと庄五郎はおさえと銀杏の言葉に頷いて見せて。
「ふぅむ、普通の盗賊と見ていたら、痛い目を見るかもしれんということかの?」
そう言いながらゲラックは、改めて先の時の男の様子などを銀杏から聞くのでした。
「‥‥これは‥‥なかなか気が付きにくいが、上手く死角が繋がっている、といったところか」
貧しい辻占いの姿に身を窶した天馬が、桜を案内しながら注意深く打ち棄てられた武家屋敷の一角を進んでいくと、最近人の出入りがあると噂の廃屋敷への道のりに天馬は小さく呟いて。
「結構入り組んだ道だね。‥‥他の通りはともかく、ここは一見すると直ぐに目に付きそうなくらい他の屋敷に囲まれているのに‥‥」
そう言って道の中でぐるりと取り囲むような建物それぞれへと目を向ける桜。
「使われていない屋敷が多いと言うこともあるだろうが、それ以上にここの道は入り組んでいて目に付きにくい。それが構造上なのか故意なのかは分からないが」
桜の言葉に改めて確認するかのように言う天馬は、目的の廃屋敷が見えるとそれを伝え、そっと教典を取り出します。
「‥‥あの屋敷の‥‥奥の方に人の息遣いを感じるな。おおよそ4‥‥いや、5つ‥‥5人だろうな、少なくとも今は」
「昼に調べるのは危険かも‥‥見つかったら受付係さんが、ね。夜にまた来て‥‥でも、『はぐれ者』が居れば結構目に付くと思うのだけど‥‥そこまで簡単に見分けさせるほど間抜けじゃないか?」
辺りの様子を窺いつつ言う桜、少し考える様子を見せて、天馬は口を開きます。
「多分だが‥‥この辺りは確かに人目が少なくなり開いている屋敷が多いが、これほど無防備になってしまっているのは、先の乱の影響もあるのではないか?」
「‥‥そっか、そうかも」
桜は頷くと改めて屋敷の位置を心に留めて。
「それと、前にいた手練れと思われる男がいるかも知れない。あまり近付きすぎるのは危険だろう」
「うん、慎重に探ることにするよ。どのみち、お店を閉めた後、庄五郎さんともう一度来るつもりだよ」
一人で忍び込むのは危険、だからこそ偵察には前もって協力を約束して貰っていた桜は、じっとその屋敷を眺めると、天馬と共に再び付近の様子と屋敷の様子を窺いつつ捜索を続けるのでした。
●這い寄る死の影
受付の青年がいることを確認した桜の情報を元に、その一角、廃屋敷へとやって来ていた囮組である天馬に山本、そして鷹蔵。
「出て来ぬか! 戯けがっ!」
鷹蔵が屋敷の門を潜り、声を上げれば屋敷内では既にぐったりと満身創痍と言った様子の受付の青年が縛られて転がされていました。
「何も言わねぇ奴ぁ扱い辛くっていけねぇなぁ。‥‥っと、こいつの関係者かねぃ? 面倒臭ぇ、さっさと始末ぅ付けて裏からな」
そう言いながらにやにやと薄笑いを浮かべて手に取るのは、飾り気のない刀。
「‥‥じゃ、手筈通り後ほど‥‥」
男が表へと向かうのを見送った中にいる3人の男は、倒れている受付の青年を引き起こして、その匕首を振り上げ――。
「っと、見張りがいない分錠をしっかりかけているんだから。これで良しっと‥‥」
助け出すにも戸が開いて居なければ怪我をして居た場合運び出せない、そう言うことで裏の塀を越えて桜が解錠すれば、そっと戸を開けてするりと入り込む連琥。
と、特に意識を向けずとも強く匂ってくるのは、濃い血の匂い。
「っ!?」
家の戸へと駆け寄れば、中から開く戸から出ようとした男と鉢合わせになり、咄嗟に鳩尾へと繰り出した一撃で床に沈める連琥は、そのまま踏み越えるようにして中へと転がり込み、桜も警戒をしながらその中へと足を踏み入れて。
「そんな‥‥」
連琥が受付の青年へと深々と刺さった匕首を抜いて立ち上がった男へと挑みかかれば、戸へと飛びつくように向かった男へ手裏剣で足止めをする桜。
ほぼ同じ頃、表では鷹蔵がまるで挑発でもするかのように出てきた男に対して口を開いていました‥‥否、開こうとしていました。
「‥‥物好きな奴等じゃ。何を好機と‥‥」
それ以上紡がれない言葉、武器の有無も言葉も全く関係ないとばかりに、何気ない素振りで刀に手を触れさせた男は、鷹蔵が身動きを取ろうとする間も与えずに只一歩踏み出し、次の瞬間にはそこに立ち上る血煙。
「っ!? あの男も、夢想流‥‥? しかも、強い‥‥」
その一撃がどれほどのものか、その上男は造作もなくその一撃を繰り出して鷹蔵へと斬り付けたこと、殺しにかかったのではなく、嬲りにかかってきていたことに気が付き術者である天馬を庇うように立ちながら睨み付ける山本。
鷹蔵は正面からでなければ‥‥或いは正面でも全力で受けにかかれば可能性はあったかも知れませんが、その一撃は鷹蔵に深手を負わせ、結果として切り返すことは出来ませんでした。
山本は注意深く刀に手をかけつつ、男に対峙するのでした。
直ぐにもう1人を昏倒させて戻った連琥がその男を手刀で倒せば、部屋の中へと広がる血の海に、桜は小さく唇を噛みます。
「ま‥‥間に合わなかった‥‥?」
「‥‥いや、息が微かに‥‥」
受付の青年へと寄った2人が急いでその場から青年を運び出すのとほぼ同時、抜き身の刀に血をべったりと付けて踵を返して駆け込んだ男は、昏倒している男達に忌々しげに舌打ちをすると、そのまま刀を振り上げます。
「‥‥使いモンにならねぇなぁ、いらねぇよ」
その呟きと共に裏口へと鋭い視線を向けて飛び出す男。
男は直ぐにその場を駆け去り、後にはただ一突きで永遠に口を封じられた男達の骸が残されるのみなのでした。
「っ、血が‥‥血が止まらない、です‥‥」
傷口を押さえる銀杏、そこは屋敷より少し離れたとある茶屋の一室で、堅気ではありますがおさえと知己の者が営む店。
あまりの深手に癒しの力が効かない銀杏がきつく唇を噛みしめたとき、連琥が荷から取り出したのは小さな貝殻の器と卵形の容器。
「これを使えば‥‥」
傷口を合わせながらその上から連琥が塗りつける河童膏、見れば傷口から溢れていた夥しい血は止まり、微かに苦しげに呻く受付の青年へと桜は卵形の容器の中身をゆっくりと飲ませていき。
「‥‥これなら、僕も‥‥」
そっと傷口へと手を添えて再び癒しの力を使えば、大分血を失い青白い顔のままですが、うっすらと目を開ける受付の青年。
受付の青年はそのまま医者の元へと運ばれ、庄五郎の店に一行が集まれば、鷹蔵は重体、そして廃屋敷に3体の遺体と、消えた男。
「‥‥手掛かりが途切れてしまったの」
「奴らが諦めなければ、また何かあるでしょう」
ゲラックの言葉に庄五郎は小さく息を付いて、今は受付の青年が一命を取り留めたことを喜びやしょう、そうほろ苦い笑みを浮かべて呟くのでした。