【凶賊盗賊改方】潜み寄る影

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 50 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:01月11日〜01月16日

リプレイ公開日:2008年01月20日

●オープニング

 その日、正助少年と凶賊盗賊改方密偵・庄五郎の姿があったのは、医師の出原涼雲が診療所でした。
「ま、すっかり退屈しておってな、薬草の手入れや包帯の洗濯などに重宝しておるわ」
「まー、顔を覚えられていますからねー、診療所にいきなり押し込んでくることもないでしょうし」
 涼雲が言う言葉に答える声は庭から、見れば綺麗に洗ったさらしや包帯を呑気に干しているギルド受付の青年の姿に心配して損したとばかりにじと目を向ける正助と、ただただ申し訳なさに頭を上げられない庄五郎。
 よく晴れた冬の日の一時、先の事件より暫くの間、受付の青年はずっと出原涼雲の診療所に預かられていました。
「ここは人目もありますし、周りは普通の武家屋敷が多いですし、何より相手には生きているか死んでいるかもわからないっぽかったんですよね?」
「あれだけの血の量、死んでいると思われている方が自然でしょうが‥‥万一のことも考えてこちらに‥‥本当に、申し訳ねぇと思っておりやす」
 そう話しているところへ来客を告げるのは涼雲の弟子の青年で、通されてきたのは2人の浪人姿の男。
「は‥‥長谷川様!」
 笠を外せば来客は長谷川平蔵その人と、そしてその友人である壮年男性で、涼雲に挨拶を、そして受付の青年と正助には現状への詫びを述べてから庄五郎へと向き合い。
「庄五郎、お主がこちらと聞いてな‥‥。聞いたぞ、利吉が襲われた、と‥‥」
 平蔵の言葉に一同が庄五郎を見れば、孫次から平蔵へと伝わったときいて頷く庄五郎。
「利吉は運良く人が通りかかり、斬りつけられる前に気付けたと‥‥すぐに川に飛び込み泳いで逃げたおかげで、大事ございやせんで‥‥」
「俺も今んとこぁ死人も同然。故に、こいつに手ぇ貸して貰う事としたのよ。それでだ、密偵たちは決して一人で出歩かないよう、耳に挟んだ話もある、庄五郎、お主にはこ奴と共に動いて貰う」
 平蔵の言葉に壮年男性へと目を向ける庄五郎、壮年男性は僅かに笑みを浮かべて頷きます。
「平蔵さんの役に立てるようと思ってな。しかし如何せん腕にそこそこ自信はあっても、密偵の勝手はわからん故、宜しく頼みたい」
 用心棒のような扱いで構わぬと笑みを浮かべて言う壮年男性の様子を横目に、改めて平蔵は正助へと声をかけます。
「依頼を頼みたい。先の事件についての調査を継続して頼む。これ以上被害を出さぬためにも何らかの手を打ちたいのだ」
「は、はいっ、継続調査ということですね。わかりました、戻り次第依頼を出します」
 そう言って頷いて、正助は依頼書を慌てて取り出して筆を走らせて。
「‥‥ちょっと見ているだけって、寂しい‥‥」
 こっそりと、受付の青年は庭でそんな様子を寂しげに見つつ、哀愁の背中で洗濯物を干し続けるのでした。

●今回の参加者

 eb1821 天馬 巧哉(32歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3064 緋宇美 桜(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0244 大蔵 南洋(32歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ec0586 山本 剣一朗(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec2786 室斐 鷹蔵(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

ウォル・レヴィン(ea3827)/ 所所楽 石榴(eb1098

●リプレイ本文

●視線
 まだ新しい年となった様子が抜けきれない江戸の町、とは言え年を越してから大分落ち着いてきたその町中をゆっくりと歩くのは凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵の友人である壮年男性と、密偵の庄五郎。
 壮年男性はすっかりと月代を剃らず毛は中途半端に生え、質素な袷に袴姿で用心棒になりきっており、庄五郎は飯屋の親父として何やら荷を抱え談笑しながら歩いているようで。
「‥‥改方の長官が認める手馴れを用心棒として‥‥ですか」
 小さく呟いて2人の姿を離れたところから視界に入れて確認し、城山瑚月(eb3736)はその周囲へと気を配っていました。
「標的が庄五郎殿と踏まれたか、傍に置く事で例の男を釣れると読まれたか」
 庄五郎周りの事情が確実に掴めたと感じていなかった城山は、どちらを読みに行けばいいのか少し掴めていないようですが、どちらかと言えば前者の方が近いのではないかと感じているようで。
「それにしても‥‥――?」
 僅かに眉を寄せる城山、ちらりと視線の端に見えたような気がしたその男に意識がふと向いたのは、何か違和感を感じたから。
 その一瞬、十分に気を付けていたにも拘わらず視界に捕らえきれなかったその男の様子を思い起こして、その違和感に気付く城山は、小さく、本当に小さく口の中で呟きます。
「‥‥‥‥あれは、刀、か‥‥」
 その男が手に持っていたものは一見、本当に何の変哲もない杖のようでした。
 しかし男が一瞬その杖を握り直した、その仕草が間合いさえ詰めれば斬りかかれそうな、一種の異様な雰囲気を醸し出していたからと気が付くと、城山は嫌な汗を感じながら注意深く周囲を見回すのでした。
「あらあら、随分と可愛らしいじゃないかい」
 おさえの言葉に所所楽銀杏(eb2963)は、姉に着付けて貰った着物の様子を見下ろして小さく首を傾げます。
 そこは庄五郎の飯屋で、銀杏は手伝いに来ていた所所楽石榴の髪を使い作られた鬘と普段とは少し色合いの違う着物で、髪の色なども相まって一見別人のように見えます。
「えっと、この後、役宅で調べ物だったかなっ?」
「‥‥」
 こっくりと頷く銀杏はおさえへと顔を向けて。
「お昼過ぎあたりの時間から、毎日役宅に通う形になっちゃうですけど‥‥お願いします、です」
「あぁ、大丈夫だよ、庄五郎さんもいるし先生だっていてくださってるんだ、安心してお仕事してきて良いさね。でも、十分気を付けるんだよ?」
「‥‥はい、大丈夫、です‥‥」
 頷く銀杏は石榴と共に周囲を確認してから急ぎ役宅へと足を向けて。
「ごめんねぇ、連琥さんも色々と動きたいだろうに、留守の間足止めしちゃって」
「いや、その様な心配はご無用である。これも私の役割ゆえ」
 銀杏と石榴を送り出したおさえが二階へと上がっていけば、二階より周囲へと意識を向けていた李連琥(eb2872)が出されたお茶を手に微笑を浮かべ首を振ります。
「今はここを張っている様子は少なくとも見受けられぬが、恐らく庄五郎殿が出ておられるからではないかと思われる」
「‥‥やっぱり、庄五郎さんが狙われているのかねぇ? それとも、あたしら密偵が狙いか、改方が狙いか‥‥」
 考える様子を見せるおさえに、暫し連琥も思案に耽ると慎重な様子で口を開いて。
「恐らくは、密偵への恨みに思える。件の剣士は、狗と呼んだと‥‥過去に盗賊の、役人への裏切り者への蔑称とも聞いたことがあったゆえ」
「‥‥まぁ、あたしらは始めっから覚悟の上さね。盗賊であった頃、狗がどれほど憎まれるかは良く知ってるからねぇ」
 言ったおさえは、珍しく厳しい表情で一点を見据えて。
「だからこそ、どんな意図であれ信用出来なくなった者へ再び信頼を寄せるのがどれほど難しいか‥‥理解していない人にゃ、庄五郎さんに近付かしゃしないよ」
「‥‥」
 冒険者達自体に向いているわけではない不信感は、それでも確実に密偵達を蝕んでおり、それが分からないでもない、自身も見習いとは言え自ら密偵へと志願した連琥としても思うところはあるようで。
「‥‥済まないねぇ。でも、だからこそうちには、あの人にゃ足を踏み入れて欲しくないんだよ。‥‥‥‥‥‥‥少なくとも、理解するまでは、ね‥‥」
 小さく首を振って言うおさえは、小さく口を開き一言だけぽつりと付け足すと、下の階に戻ってきた庄五郎を出迎えに降りていくのでした。

●逃げた男
「んー‥‥改方になってからの記録には、無いみたい‥‥だな」
「盗賊だけじゃなく、辻斬りの線はどうだ?」
 手助けに来ていたウォル・レヴィンが自身の手元の束を置いて言えば、覗き込むようにして言う、少々粗末とも言える浪人姿の天馬巧哉(eb1821)。
 そこは改方の役宅で、そこには数人の人間が、棚一杯に並んだ調書きの中から分野に分けて調べ物をしていました。
「‥‥相手は密偵について詳細を知っていたようだし、密偵の絡んだ仕事も‥‥」
「辻斬りの線は奉行所時代の物ですなぁ‥‥」
 ウォルに続けて言いかけた天馬の耳に入ってくるのは荻田同心で、少し考える様子を見せて天馬へと顔を向けます。
「奉行所時代‥‥」
「ええ、改方は発足して日が浅いと言っても差し支えはないので。つまりは、他のお役目に比べて、ですが」
「確か御奉行所と書いてあったのは、そちらの棚の方だった、ですよ‥‥」
 銀杏が確認するように言えば、奉行所時代の幾つかの調書きを纏めた冊子を手に取る天馬。
「これは‥‥概要が纏めて有るだけのようだが‥‥」
「量が膨大な数に上る写しなので、詳細を描き出して目録にしてあると‥‥えぇと、この場合は‥‥」
 荷をしまう倉の地下に元の調書はしまってあり、概要にしまった場所が書かれているとのことで。
「とにかく‥‥あれほどの動きをする人間が、今まで何も記録に残っていないとは思えない」
 言いながら順繰りに調べていく天馬は、ふととある頁で手を止めて概要を読み返し。
「家人何レモ背後ヨリ一刀ニテ斬捨テ‥‥一味ノ吉三郎ガ密告ニテ張ルモ頭目、配下ヲ斬捨テ痕跡消シ逃走‥‥」
 呟くように読み上げる天馬ですが、その声は誰の耳にも届き。
「密告で捕らえられかけた盗賊‥‥」
「配下を斬り捨てて痕跡を、消す‥‥この間と同じ、です‥‥」
 その事件はある意味特別な事件であったのか、荻田が場所を確認するまでもなくその調書きを取りに出て行けば、部屋へと入ってきた筆頭与力の津村武兵衛も、概要に触れただけで厳しい表情となり。
「それは‥‥儂が担当したわけでない故、吉三郎の取り調べに同席したのみであったが‥‥酷い事件であった」
 改方が出来るほんの少し前のことのようで、荻田の出してきた調書きと合わせてみても、3件、何処も大店が襲われ家人を一刀で斬り捨て金蔵の中身を一切合切持ち去るといった手口だったそうで。
 吉三郎は何かへまをしたそうで消される前に頭目である男を捕まえさせようと奉行所に密かに通じていたとか、その証言を元に押さえに行くも頭目は口封じをして逃げたと。
「同心も2名ほど斬られ1人は死んだ。なるほど、あの時の件であれば、得心が行く」
「でも‥‥密偵の方を狙う理由が分からない、です‥‥」
 武兵衛の言葉に銀杏は考え込んで首を傾げますが、天馬は少し考えてから口を開き。
「この、吉三郎って、どうなったんだ?」
「つまらない喧嘩で殴られて、打ち所が悪かったようだと聞いたが‥‥花街で喧嘩を売って死んだらしいと。殴った男も盗賊との繋がりはなかった」
「その、吉三郎さんの所為で捕まりそうになったって、逃げた人は、知ってる、ですか‥‥」
 銀杏の言いたいことを汲んでか、暫しの思案の後、武兵衛は首を振って口を開き。
「密告であるとは思うておるやも知れぬが、吉三郎は奉行所に密告を申し出たときに『悪い物に当たり死んだ』となっておった筈」
 武兵衛の言葉に一同は、そこと密偵達へと繋がる意図を探すために、再び調書きへと向き合うのでした。

●夢想流の男
 その話を山本剣一朗(ec0586)が耳にしたのは、役宅での調書きの内容を伝えられた、2日後のことでした。
「ああ、何を考えているか分からないような、ちょっと不気味な感じの男じゃないですか?」
 夢想流の道場を伝手で歩き回っていた山本は、郊外の小さな道場の年若い主人が茶を勧めながら話すことに興味を持ち、先を促します。
「ええ、とても腕の立つ男だったと聞いておりますが、いつも顔には貼り付けられたかのような笑みが浮かんでいて、口元がにやにやとしていて嫌だ怖いと周りの人間に言われ続けていたそうです」
「ほう‥‥それで、その男は‥‥どういう男だったかや、棲家などは分からないだろうか?」
「棲家も何も、数年前にふらりと出て行ったきり帰ってこなかったそうです」
「‥‥それはもしや?」
「ええ、山本さんが先程言われた時期とぴたりと一致するのではないかと」
 若い道場主の言葉に眉を寄せて考えると、山本はその名を聞いて。
「その男、何という名か分かるか?」
「にのみや、はじめ‥‥そうそう二ノ宮基だったと思います」
「二ノ宮‥‥基。分かった。礼を言う」
 今聞いた名前を刻み込むかのように繰り返して呟いてから、山本は足早にその場を立ち去るのでした。
「現場百辺っていうし、やっぱりここは戻るべきだよねと」
 受付の青年が捕らえられていた武家屋敷に足を踏み入れながら言う緋宇美桜(eb3064)。
 そこには黒い大きな染みが裏口から土間を経て、畳一面にまで広がっており、遺体を運び出された以外に誰の手も加わっていないのが窺えます。
「戻ってきた様子もないかな? っと、じゃあこの際出し徹底的に調べさせて貰おうかなっと」
 土間へと降りれば萎びた野菜や転がっている大徳利、味噌などが無造作に出されておいてあり整理されているとは思えませんが、暫く持つだけの食料を置いていた様子が窺え。
「あれ‥‥? これ、なんだろ」
 ふと畳でもひっくり返そうかなどと部屋に上がりかけた桜は、黒く固まった土間の隅に血溜まりに見えたそこに何かが落ちているのに気が付きます。
「これ‥‥なんだろう、扇、かな?」
 血に塗れ固まっていたため何の塊かがよく分からなかったのですが、慎重にその形状を確認してみれば少し小振りの扇のようで。
「固まっちゃってるけど、ちょっと‥‥んっ!」
 少し力を入れればぱりぱりと嫌な音と赤い粉が舞い落ちる中、その扇は豪奢な刺繍の入った布を張ってある派手で高価そうなもので。
「江戸で好まれるような物じゃないよね、ちょっと派手で悪趣味だし」
 呟いてそれを手拭いで包むと、桜は改めて屋敷の中を調べ続けるのでした。
 同じ頃、賭場では室斐鷹蔵(ec2786)が賭場の用心棒達に追い返され舌打ちをします。
 少なくともこの辺りの賭場で人を集めている様子はないよう、賭場は儲けを出すために開く者が、金を持ってくる素人を鴨にすることの方が多い場所。
 荒らせるだけの実力を持った者や中には客の様子を窺う、賭場を取り仕切る者の手の者もいるため、人を集めるのには適していません。
 もっとも、賭場で人を見定めることがないとは言いませんし、賭場で負けが込んできた職人や店の手代などを抱え込めば利用も出来ますから、盗賊達が紛れていないとも限りませんが。
「ヤツのあの面、あの歪み切った笑み‥‥今思い起こしても胸糞悪い」
 平蔵と話す機会はなく、壮年男性からもやんわりと警戒されている様子が見えてか、夢想流の男のあの姿を思い起こしても沸々と煮えたぎるものがあり。
「次を当たるか‥‥」
 鷹蔵は忌々しげに吐き捨てるかのように男の顔を頭の中から追い出すと歩を進めるのでした。
「この度は大変であったな」
「あぁいえ、取り敢えずはこうして元気ですし。それよりも大蔵さんの方も、何だか大変なようで‥‥」
 そこは出原涼雲医師の診療所、大蔵南洋(ec0244)は受付の青年を訪ねて来ていました。
「早速で申し訳ないが、捕らえられていたときのことで、少し話を聞きたい」
 そう言って切り出す大蔵に頷く受付の青年、捕らえられていたとき殆どは痛みや寒さで意識が朦朧となっていてはっきりしないそうなのですが、頻りに密偵達と冒険者の繋がりについてや時期を聞いていたようで。
「お仕事については流石に話せないですからねぇ。でも、五体満足な状態であったことやその後殺されそうになったことから考えたら、聞ければ運が良くて聞けなかったら他に当たればいいや、って事だったんでしょうかね?」
「嫌な想像ではあるがそれは有りうるな。その時、他に誰か居なかっただろうか? 見張っている男達や夢想流の男以外にだが」
「んー‥‥上方訛りのなんて言うか、嫌ぁな脂ぎった感じの男が来てたような‥‥こう、いかにも下品って言うか‥‥」
「微妙に分かり辛いが、兎に角上方訛りの男が来ていた、それで何か話していなかったか?」
「うー‥‥ん、そうですね、早く仕事の時期を決めろとか何とか‥‥気になることが有るなら早く片付けてとか言っていたのに対して、密告した奴だけはどうこう‥‥済みません、どうしてもはっきりしなくてあれなんですが」
 受付の青年の言葉に首を振って立ち上がると、大蔵は一行と合流するために診療所を出て行くのでした。

●上方訛りの男
「失踪した腕利きの夢想流が二ノ宮基で、恐らくほぼ例の男だろうと言うことは分かった。後で一応人相書きを持って確認をしてこよう」
 山本の言葉、一行が集まるのは船宿の綾藤。
 理由は良く分かりませんが、庄五郎の飯屋で情報を照らし合わせられる雰囲気ではなかったためです。
「私の方は白鐘の親分と呼ばれている香具師の元締めのところで、郊外にいた禄でもない破落戸ではないかと聞いてきた。恐らくは盛り場などで喧嘩っ早い男達に声をかけたようだ」
 連琥が言えば城山も口を開いて。
「庄五郎さんを張っていた妙な男は恐らくその二ノ宮という男でしょう。長谷川さんのご友人を見て手を打差名渇矢野は腕の問題でしょうか? とにかく郊外のどの辺りまで行ったのかはおおよそ掴めましたが、塒までは‥‥」
「深追いは禁物だからな。受付の青年からの話では、あそこに上方訛りの男が出入りしていたことは分かった」
「やっぱり上方の方かぁ。でも、京都じゃないね、あまりにちょっと悪趣味で品が無さ過ぎたし、あの扇は」
 大蔵が続ければ桜は納得したように頷いて口を開き。
「後で上方から流れてきた盗賊について何かないか、また調べた方が良いです、ね‥‥」
 銀杏が僅かに首を傾げながら言えば、頷く一同。
「とすれば、打てる手は二ノ宮基という男の足取りから辿ること、上方訛りの男を追うこと、か‥‥人相書きが出来次第かかることとしよう」
 大蔵が言えば一同は改めて掴んだ細い糸を思い返すのでした。