【凶賊盗賊改方】迫り寄る影

■シリーズシナリオ


担当:想夢公司

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 32 C

参加人数:7人

サポート参加人数:2人

冒険期間:04月04日〜04月11日

リプレイ公開日:2008年04月23日

●オープニング

 その日、辺りが橙に染まる頃合い、ギルド受付の青年代理・正助少年は急ぎ足でギルドへと戻る途中でした。
「うわ、酷ぇ‥‥」
「何でも浪人同士の喧嘩とか‥‥?」
 聞こえてくる会話にちらりと目を向ければ、どうやらそこで斬り合いがあったようで、血の跡が残っており遺体は既に役所へと持ち去られた後のようで。
「物騒だなぁ‥‥」
 そんなことを呟きながら歩き出そうとする正助は、視線を感じた気がして振り向かないように気を付けつつ急ぎ足でその場を後にし、曲がり角を抜けたところで人混みにこれ幸いとばかりに姿を紛れ込ませて。
「‥‥‥‥‥‥‥っ、やば、かった‥‥?」
 気が付けばびっしょりと汗をかいており、視線を撒いたと確信すると、正助は思わず見知った店へと飛び込んで。
「おお、良いところに来おったの」
「‥‥へ? 彦坂、様‥‥?」
 飛び込んだのは水茶屋である難波屋で、おきた相手に何やら二階の階段を指し示しているのは彦坂昭衛。
 水茶屋は看板娘であるおきたは一切そういうことはしていませんが、場合によっては連れ出し料を払えば、といった事柄を行う場合もあるため、一瞬下世話な想像を仕掛けた正助ですが。
「何かあったのですか?」
「いや何、ちとおやじ殿の江戸抜けの見送りに、な‥‥」
「‥‥へ‥‥? 何の、冗談を‥‥」
 昭衛がおやじ殿と呼ぶのはただ一人、凶賊盗賊改方長官・長谷川平蔵のみで、言われた言葉が一瞬理解できなかったようで目を瞬かせる正助は、江戸抜けという表現は兎も角として、ただならぬ様子を感じて昭衛に促されるままに二階へと上がって。
「偶然とはあるものだ。少々焦臭い様子を感じてな、ちょいと相談しておやじ殿には消息を断って頂くこととした。故に、津村や他の同心達の改方関連の報告は己が引き受けることとなった」
 昭衛の言葉にぽかんと口を開けて見る正助ですが、皮肉げな口調とは裏腹に、何処か気乗りのしない様子を滲ませるのに気が付いて首を傾げ。
「その、何があったんですか?」
「いや‥‥またそれは後程、な。一つ言えるのは、おやじ殿も私も伊達に与するを良しとしておらぬ上、どうも密偵達の話から色々と気になる話を聞いてな。おやじ殿は改方と石川島のために面倒を避けるために一時的に姿を隠すべきであろうとなったわけだ」
 昭衛の話に厳しい表情のまま見る正助、昭衛は暫くの間密偵達の報告は自分に集まると説明すると深く溜息をついて。
「さてと‥‥それで、今密偵達を狙う者達の件だが、こちらの方も、厄介な事になってきていてな」
「えぇと、厄介なことと言いますと?」
 首を傾げる正助に口元を歪めて昭衛は息を吐くと話を始めて。
「先程、郊外で起きた喧嘩沙汰なのだが‥‥」
「‥‥まさか、うちの兄さんを攫った、あの‥‥」
 正助の脳裏に浮かぶのは受付の青年に害を為し、今は姿を眩ませている、恐らくは夢想流の二ノ宮基と思われる男の姿。
「おやじ殿も庄五郎も、孫次もほぼ間違いないのではないかと見ている。ここ数件、喧嘩などで既に四人目。ただ何とも言えない部分があるので今のところ辻斬りと判断して良いのかが微妙なところらしい。それに、改方は賊相手の仕事が主だからな」
「‥‥管轄違いだから手が出しにくい、ですか?」
「そういうことだ。まぁ、何にせよ親父殿のご友人に、相変わらず庄五郎に張り付いて頂いておるから、そちらは平気と思うが‥‥」
 どうも斬った相手の手口から考えれば二ノ宮であると思われるのに、何故あまり関係がない浪人などを相手に斬り合いをしているのかが微妙に得心行かない様子の昭衛。
「現状こちらを挑発してきているようにも思えるが、なら何故関係がない人間なのかが分からん。それも含めて、二ノ宮を追って欲しい。それと、上方訛りの男について、何か分かるのならばと言ったところだな」
「分かりました、それではその辺りを重点的にと連絡をしておきますね」
 正助が言えば、昭衛は頷いてすっかり冷え切ってしまったお茶を煽るのでした。

●今回の参加者

 eb1821 天馬 巧哉(32歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb2872 李 連琥(32歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 eb2963 所所楽 銀杏(21歳・♀・僧侶・人間・ジャパン)
 eb3064 緋宇美 桜(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb3736 城山 瑚月(35歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ec0586 山本 剣一朗(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ec2786 室斐 鷹蔵(38歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●サポート参加者

所所楽 石榴(eb1098)/ 所所楽 柚(eb2886

●リプレイ本文

●細い糸
「なんとか糸を辿らなければいけませんね‥‥それにしても、これが銀杏さん達の話に出た‥‥」
 城山瑚月(eb3736)が人相書きを見て微苦笑して呟けば、緋宇美桜(eb3064)が強烈だよね、と頷きながら言い。
 そこは庄五郎の飯屋、そこで相談するのは他に天馬巧哉(eb1821)と李連琥(eb2872)の姿もあり、所所楽銀杏(eb2963)は姉の所所楽石榴と共におさえの手伝いをしながら今までで分かってきた情報を纏めたりしているようで。
「先日の‥‥この蛇腹屋さんの関与は、どうでしょう、ね‥‥」
「うーん、でもあの悪趣味な扇子とか、そこまで趣味が似通っている人を短期間に見ることはないと思うし、何かあるとは思うけど‥‥」
 銀杏が尋ねれば、桜は少々困惑気味に頭を抱え額に軽く指を当てながら考え込んでいますが、少なくとも蛇腹屋はどうしようもないやつではあるものの、盗賊が出来るほどの能力があるとも思い難く。
「そこの辺り、山本さんにも確認したかったんだけどなー」
 体調を崩したのか山本はどうやらお休みのよう、首を傾げれば銀杏は首を傾げつつ。
「‥‥蛇腹屋が雇っていたらしい人たち‥‥とかはどうです、か‥‥?」
「そういえば誰かの紹介を受けたらしいことを耳にしましたけど‥‥」
 銀杏と桜が首を傾げている間、天馬は複雑な面持ちで僅かに眉を寄せ。
「しかし、長谷川殿が‥‥時勢で仕方ないとはいえ、何ともやりきれぬ事だろうな」
「まぁ‥‥完全に江戸から抜けていると言うよりは、出入りは出来るが、と言ったところで御座いやしょうが」
 天馬の言葉に頷きながらも、ご無事であることは分かっていやすし、と微かに笑みを浮かべて言う庄五郎。
 城山は、一度挨拶はしたものの、改めて庄五郎へと向き直って座り直すと口を開きます。
「そういえば、先日は潜伏を重視した為挨拶もせず、不義理を申し訳なく思います」
「いえいえ、お役目を考えれば仕方のないこと、どうぞ、あまりお気になさらんでください」
 丁寧な挨拶に庄五郎も小さく頭を下げて言えば、連琥は先程からじっと考え込んでいるようで。
「庄五郎殿、私は暫くの間、ギルドの正助と行動を共にしようと考えているが、如何だろう?」
「受付の方の事もある、すまねぇが、宜しく頼みますよ」
「心得た。それと、蛇腹屋の件と辻斬りの件、双方についても少し調べてみようとは思う」
 密偵としての心得を学ぶ連琥と庄五郎が互いに動きを確認すれば、城山はそこへ声を掛けます。
「李さんは既にご存じとは思いますが、二ノ宮基という男は、普通の刀だけでなく、仕込みも使うこととがあるようです。また浪人らしい姿を常にしているとも限りませんので、ご注意を」
「わかりやした、皆にももう少しの辛抱と伝えるついでに、その辺りも重々気を付けるよう連絡しやしょう。あと、今仮眠を取られている先生にも伝えておかねぇと‥‥」
 そう言葉を交わす一行、天馬は何やら気になることがあるようで、この後花街に向かい情報を集めてくるとのこと。
 城山も二ノ宮と吉三郎について何やら思うところがあるようで。
「おさえさん、少し良いですか?」
「はいよ?」
 城山に呼ばれ土間で人相書きと名を告げられるおさえは、吉三郎の人相書きを見て、何かを思い出そうとするかのように首を捻って。
「この顔は覚えがあるんだが、吉三郎‥‥? 昔どっかで見たことある気がするんだが‥‥ちょいと思い出せないか、あたしも考えてみるよ」
「そうですか‥‥」
 人相書きを渡し、後の判断はおさえに任せる事にした様子の城山は、それを確認すると、そっと庄五郎の飯屋を抜けて探索へと戻るのでした。

●商人
「蛇腹屋は例の盗賊じゃなくて、盗賊は商人を装っているようで、同じ悪趣味の扇子を持っていて‥‥うー‥‥別の商人、ですよね?」
 少し混乱してきたのか、ぐるぐると頭の中で混ざる上方から来たらしき男と上方から来た商人とを混同しないように首を傾げるのは桜。
 桜は蛇腹屋の店を確認しに行って、何やら主人が奥に引っ込んでがくがくぶるぶると布団に入りきらない身体で布団に潜り込んで震えている様子を確認してきています。
 念には念を入れての警戒中、ならばこそ、はっきりと関連があると認識されている庄五郎の飯屋か、参拝道にある茶屋等の座敷を使い、出来うる限り連絡の場所は注意を払っており、ここもそんなとある茶屋の奥座敷。
「一度綾藤辺りで情報を付き合わせた方が良いでしょうねぇ」
「人目に付かずに出入りできたりする上に、中でも色々と手配して貰えるのを考えれば、妥当だろうな」
 正助が振れば頷く連琥。
 改めて確認すれば、上方へと行って確認するわけはいきませんが、漏れ聞いた話ではそれなりに上方で長く商売をやっていたはずで。
 元々上方でも余りよく思われていなかったためか護衛は雇っていたようですが、上方から付いてくるほどの者もおらず、こちらに来てから新たに雇った人達だという噂も。
「それでですね、何だか紹介があったような言い方をしていたので、もしかしたら関わっている人の方が、と考えたわけです」
「では、そちらの筋を追っていった方が良いであろうな」
「じゃあ、後で情報の持ち寄り先を綾藤にって、連絡しておきますね」
「宜しくお願いする」
 お茶とお茶菓子を終えると立ち上がる桜にそう答える連琥、正助も注意深く周囲を確認しながら立ち上がり。
「そうだ、もし蛇腹屋の背後をもう少し調べるのならば、最近扱いが増えた品や取引先に何かあるやも
「ええ、調べてみますね」
 頷いてするりと店を出て行く桜を見送ると、正助と連琥も時間を少しおいてから店を出て、次の目標へと向かうのでした。

●迫り寄る影
「ふん‥‥斬られたのは本当にその場にいただけの奴か」
 小さく鼻を鳴らして詰まらなそうに吐き捨てるのは室斐鷹蔵(ec2786)。
 てっきり上方訛りの男に関係した者か、自身の正体を知っている者を消して回っていると鷹蔵は思ったのでしょう。
 しかし、それぞれの素性を調べに出向くまでもなく、既に銀杏の姉である所所楽柚がパーストの巻物を使い、そこに通りかかり全く互いに見ず知らずの状況で斬り合いが起きたらしいことは確認していて。
 鷹蔵がその足で向かったのは水茶屋である難波屋。
「何か李から言伝はあったか?」
「言伝、と言われましても‥‥」
 困ったように応対するのは難波屋の看板娘で連琥とも互いに憎からず思って居る様子のおきたです。
 鷹蔵は一つ舌打ちをすると、店の主人に紙と筆を持ってくるように言いつけ調べた結果を書き付けておきたへと差し出し。
 庄五郎の飯屋には引き続きおさえや、今回は昭衛からも偉く立腹した様子で出入りを拒否されたために他所を連絡手段に持ってきたようではあるのですが‥‥。
「連絡を取りに来るだろう、渡しておけ」
「はぁ‥‥」
 困惑気味に書き付けを受け取るおきた。
 今まで難波屋に上がって奥の座敷で相談や連絡を取り合う人がいなかったわけではありませんし、それなりに手助けをすることもありましたが、ここまで大っぴらに連絡の中継に使われたことがないため、おきたは戸惑っていて。
 難波屋は常に冒険者が出入りするわけでもなければ、用心棒を置いているわけでもない御店、その点を含めておきたは不安に思っても居るようで。
 出て行く鷹蔵は、自分が入ってきた後に来た客がその時おきたとその書き付けを見ていることに気が付くことはないのでした。
「あら、占いかい? あたしゃ占いは嫌いだよ」
「あらぁ、姐さん良いじゃないの。ねぇ兄さん、あたしを占っておくれよぅ」
 天馬が向かった先は花街、その中でも比較的出入りの緩い辺りで、自身の家に客を呼ぶこともある女達が占い師を装った天馬に気が付いて声を掛けてきます。
「‥‥じゃあ、やはりその頃に騒ぎが?」
「あぁ、景気よく遊んでた吉って男が死んでねぇ、あれは当たり所が悪かったんだろうけど、その日、荒れてたんだよ、吉さん」
「そうそ、暫くは居漬けで、馴染みの人ンとこに泊まり込んで‥‥その人かい? 胸を病んで去年ぽっくりさ」
 暫く占いをしてやっていれば、次第に色々と話を始める女性たちに当時のことをそれとなく振ってみれば、やっぱり分かるのかい? 等と聞きながら色々と話し始めて。
 聞いてみれば、特徴などから吉三郎と間違いが無さそうな男が、やはり喧嘩沙汰で頭を打って死んでしまったとかで、相手は誰か分かっていないが、その日、吉三郎はずっと居漬けだった家から出かけていったそう。
 帰ってきたときには既に荒れていると言おうか、怯えているようでもあり、通りすがった相手に吉三郎から突っかかって行っての挙げ句であるらしいことが分かります。
「役人とか来て大変でさ、でもその後はたいした騒ぎにもならないで済んだそうだよ」
 そんな話を聞いて、付近でやはり調べているはずの城山を待ち蕎麦屋に入れば、後から入ってきた城山と相席をしての何気ない風を装って接触して、現状の相談を始めて。
「荒れていた、怯えていたとの事だ、もしや吉三郎はその日に出かけていった先で、二ノ宮に姿を見られてしまった為の怯え、か?」
「どうやら吉三郎の死亡は確実のようですが、果たして、それを二ノ前は知っていたのでしょうか?」
 天馬の言葉に考え込む様子を見ながら言う城山、いくつかの情報を確認し合うと、城山は一度庄五郎の店へと戻るのでした。
「こちらはこの様なところでしたが、そちらの方は?」
「役宅の方のお話では‥‥荻田さんに、伺いました、が‥‥」
 戻り城山が銀杏へと訪ねれば分かったことを話し始める銀杏、吉三郎と思しき人間の処理はないないに、迅速に行われたとのこと、盗賊の頭領については宮辺と名乗っていたそうですが、特徴からして二ノ宮基であろうと思われること。
 それとともに、前回調べた時には調書きが膨大すぎて見つからなかったものの、前回から引き続き確認していた早田と荻田の両同心が未解決の辻斬りで今回の件と一致する事件を見つけていたとのこと。
「その盗賊の仕事らしきものが起きる、少し前だったそうです、よ‥‥」
「何らかのきっかけで辻斬りをするようになり、果ては盗賊まで身を落した、といったところでしょうか‥‥いや、もしやするとそちらの方に『向いていた』のかもしれませんね」
 銀杏が説明を終えれば難しい顔をして言う城山。
 と、そこへ駆け込んでくるのは正助少年と、少し堅気では無さそうな凄みを持った男で、その様子は緊迫しており、連琥の姿はありませんでした。
「そちらの方は、偉い難儀をしているようですねぇ」
 がっしりとした体格に柔和な笑みを浮かべた男・白鐘紋左衛門が言うのに、連琥は厳しい表情を僅かに曇らせ小さく頭を下げます。
 時は銀杏と城山が話しあっていた頃より少し遡り、連琥は今回の斬り合いの起きた地点でのことなどで幾つか相談に来ていました。
「松の言うことにゃぁね、李さん、どうもその件の頃に、うちの若い衆がお前様と同じような‥‥ね。会っているんだそうですよ。うちのシマでじゃないんで、斬り合い自体に介入しちゃいませんがねぇ」
 煙管を燻らせて話す紋左衛門に、緊張気味に正助はお茶を啜っており、連琥は密偵たちを挑発するかのように事件が起きている事を確認し、もし何かあったらまた教えて貰えるよう頼むと立ち上がったのですが、そこに入ってきたのは紋左衛門の信頼篤い沖松。
「‥‥」
「そうかぇ‥‥。お前様の昵懇にしている茶店の娘さんが見張られているようですがね、心当たりはありますかぇ?」
「‥‥ありゃ、不味いですぜ。一応うちのに見張らせてやすが、何かあったら時間稼ぎにすらならねぇ」
 紋左衛門と沖松の言葉にさぁっと血の気の引く様子の連琥、弾かれるように飛び出すのを見送ると、正助は引き攣った表情を浮かべて庄五郎の元へと向かおうとし、万が一に備えて沖松が同行することとなったそうで。
「大変‥‥急がないと、ですよ‥‥」
 銀杏が言うのに城山も頷き立ちあがると急ぎ難波屋へと向かうのでした。

●憎悪の矛先
「――――っ、あれは‥‥」
 それは天馬が既に亡くなったという吉三郎の女の家へと足を向けてそれとなく探っていた時のことで、付近の住人が二ノ宮らしき男をその周辺で見かけていたと聞くのに逸る気持ちを抑えようとするのですが‥‥。
「ほら、噂をすれば‥‥あの人だよ」
「っ!?」
 占いを受けに来た女性が顎をしゃくって見せる視線の先に、見紛うことなく、一度は銀杏の襲撃時に、一度は受け付けの青年を負ったときに確かに見た、人相書きにある、覚えるほどに見たその顔、手には飾り気のない黒い刀が一振り。
 その先を行くのは、何か急な用事があったのか、まだ年若い改方密偵の一人が周囲を気にかけつつ急ぎ足で進んでいるところで、緊張した面持ちで話を不自然にならない程度に切り上げて後を追おうとする天馬。
 と、その男に早足で歩み寄る町人らしき男が何事か耳打ちすると、にぃと笑みを浮かべて踵を返すのが見て取れ。
 嫌な感覚に必死で早足に駆ける二ノ宮の後を追えば、視界に入ってくるのは難波屋という水茶屋で。
 ずいと店へと歩み寄った二ノ宮に店の外でお客を見送っていたらしき娘が振り向けば、その間に駆け込んだ若衆に突き飛ばされるように転がる娘・おきたと、血飛沫をあげて倒れる若衆。
「拙いっ!」
 若衆に興味が無いかのようにずいとおきたへ更に踏みこもうとした二ノ宮へと瞬時に作り上げた天馬のムーンアローが打ち出されれば、凄絶な笑みを浮かべさらにおきたへと刀を振り上げつつ周囲へ視線を巡らす二ノ宮、そして、そこへと駆け込んでくるのは、連琥です。
「させぬっ!!」
 割って入るように無造作に振り下ろされる刀の下へ、白銀の籠手でその一撃を受け切れば、更に駆けつける城山と銀杏の姿に低く笑うと連琥より飛び退り距離を置き、周囲から寄ってくる姿を確認するかの様子に、天馬は身を隠し。
 二ノ宮は最後ににやりと笑みを浮かべ乱暴に懐紙で刀を拭うと納め、身を翻して駆けだして。
「銀杏さんは怪我人を‥‥」
 言って城山はその後を追い、難波屋へと駈け寄った銀杏は連琥が助け起こす若衆の傷口へと手を添えその傷を癒し、その間に天馬は二人と合流します。
「‥‥殺すつもりで無かったのが、幸いでした、よ‥‥」
 怪我で血は大分失ったものの助けられた命にほっと息をつくと、銀杏は連琥がおきたの無事を確かめている姿にほっと息をつくのでした。
 城山は二ノ宮の姿を、程良い頃合いから身を隠し追っていました。
「‥‥この店は‥‥?」
 辿り着く先、その大店へ裏口から入って行く二ノ宮を追い天井裏へと身を潜めて入りこもうとして、先客と目が合い一瞬言葉を失う城山。
「あ、あれ? 城山さん、何でここに?」
 そこには、蛇腹屋と取引のある上方の商人を追って辿り着いた桜の姿があったのでした。