【村から町へ】本格始動?

■シリーズシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:02月09日〜02月15日

リプレイ公開日:2008年02月20日

●オープニング

「あれ? お風呂‥‥工事中?」
 ほぼひと月ぶりに名もなき村を訪れた町作り責任者ウォルフリード・マクファーレンは、そう言って首を傾げた。
 先日、冒険者達に教わりながら村人総出で作った簡易入浴施設はなかなかに好評だったらしい。目下、更に使いやすく快適に過ごせるようにと改修工事が行われていた。
「そうそう、更衣室なんかもちゃんと作って、お風呂場も寒くないように屋根とか作ってるから、雪とか雨とかでも大丈夫だよ」
 ウォルよりも少し年下に見えるハーフエルフの少女が楽しそうに笑う。
「後はね、他の人におハダ見られると変身しちゃったりする人もいるから、一人で入れるような小さいのも作るんだって」
 変身とは狂化の事らしい。狂化に対して、余りマイナスのイメージは抱いていないようだ‥‥もっとも、それはこの村全体がそうなのだが。
「こんだけハーフエルフがいっぱいいるから、狂化するのが当たり前、なのかな‥‥」
 ウォルは屈託のない少女の笑顔を見て呟いた。迫害さえ受けなければ、狂化もただ個性のひとつに過ぎないのかもしれない‥‥まあ、余り極端なものでなければ、だが。
「そう言えばさ、こないだ村の名前決めようって言ったじゃん? 名前の候補、なんか良いの出た?」
「それがね〜、なんかず〜っと『村』って呼んでたから、今更名前とか付けるの恥ずかしいみたい。うん、あたしもちょっと、恥ずかしいかな」
 いざ名前を考えようとすると、どうしても気負った‥‥まあ、早い話が格好付けた名前しか思い浮かばなくなってしまうらしい。
「希望とか夜明けとか光とか‥‥なんか、照れ臭いよね、そういうの」
「ん‥‥まあ、そうだね」
 ウォルも同意する。だが、名前がないというのも何かと不便だ。
「じゃあ、何か恥ずかしくないようなの、考えて貰えるように頼んどくね。後は‥‥勉強はどうしてるの?」
「今はほら、大人の人達も暇だから」
 集会所に子供を集めて、その時々で知識のある大人が色々と教えているらしい。
「でも、人によって色々、言ってる事が微妙に違ったりするのよね。それに、いきなり難しくてワケわかんないような事を教えようとする人もいるし。だからやっぱり、専門の先生は欲しいかな。小さい子に読み書きとか簡単なこと教えてくれて、一緒に遊んでくれるような人。大人は先に教会が欲しいとか言ってるけど、やっぱりあたしは学校の方が良いな」
 学校と教会‥‥どちらも村人の要望が高かった施設だ。学校は勿論、子供の教育の為。そして教会は‥‥
「う〜ん、建物はなくても、お祈りはどこでも勝手に出来るのよね。こないだみたいに、ミサだって集会所で出来るし。それに、教会作ったからって結婚式とか挙げられる訳じゃないし‥‥やっぱりあたしは学校が良いわ」
 確かに教会を作っても教義まで変える訳にはいかない。例え異種族婚に対して寛容な人物が司祭になったとしても、それが公に認められる訳ではないのだ。まあ、こっそり式を挙げる事くらいは出来るかもしれないが、それでもやはり、戒律違反には違いない。恐らく上に知られたら破門だ。
「そうなると、名簿も自前で作らないと‥‥かな」
 誕生と同時に洗礼を受けるのが一般的なこの国では、住民の誕生や死亡といった記録は教会が保有している事が多い。だが、この村にはそれもなかった。
「まだまだ、やる事はいっぱいありそうだな‥‥」


「えーと、そんな感じで‥‥春までに学校か教会、どっちかを完成させたいかなって」
 後日、前回の報告書を師匠に提出したウォルは言った。
「お風呂はみんな気に入ってくれたみたいだけど‥‥だからって、外の人をいきなり呼ぶのはどうかなって、オレも思う。今までもあんまり乗り気じゃなかったし‥‥それに、もし偏見とか持ってる人が来たら、オレもヤだもん」
 偏見も迫害もないあの村で育った子供達の、あの屈託のない笑顔を曇らせたくない。
「そりゃ、いつまでもあの村だけに閉じこもってる訳にはいかない事はわかってるし、外の‥‥現実は厳しいんだって、いつかは知らなきゃいけないと思う。でも‥‥」
 確かに、ボールスとしても子供達に影響が出るのは避けたい。しかし、だからといって、いつまでもこのままでは何も変わらないだろう。
「‥‥どうすれば良いと思いますか?」
 今回は助け船を出すつもりはない様だ。そして師匠の期待通りに、ウォルは自分で答えを出した。
「あのさ、村の近くに‥‥新しく作っても、良い?」
 人を呼ぶ為の、温泉施設。村の中に余所者を入れたくないなら、自分達が出て行けば良い。
「営業時間とか決めてさ、村の近くなら働きに通う事も出来るし、外の人を村に入れなくても、村の人と交流は出来るでしょ? 村の人には種族とか関係なく働いて貰って、それで普通にしてるのを見て他の人にも慣れて貰えれば良いんじゃないかなって、思うんだけど‥‥どう、ですか?」
 上目遣いで様子を窺う弟子に、師匠は優しく微笑みながら頷き返した。
「それならきっと、村の人達も賛成してくれるでしょう。候補地の選定は任せましたよ」
「はいっ!」

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9531 星宮 綾葉(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レオン・クライブ(ea9513)/ シルヴィア・クロスロード(eb3671

●リプレイ本文

 正面の壁に大きな十字架が飾られ、少しばかり厳かな雰囲気になった集会所に、お馴染みの冒険者達と村の代表者達が集まっていた。
「‥‥村の為にはどちらも大切ですけど‥‥」
 学校と教会。順を追うなら必要な事を学べる場を優先したい、とマイ・グリン(ea5380)。
 それに対してルーウィン・ルクレール(ea1364)は教会を優先したいと言った。
「読み書き等は教会で教えられる事ですし」
「おいらとしては、学校と教会は同じ場所、かつ教師と司祭は同じ人でも構わないと思っているんだけど」
 デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)が言った。
「どれだけの人が専業で携わる余裕があるかと思えば、人数は確保できないと思うんだよね」
「確かに資金の問題もあるし、今の所は子供達もそう数が多い訳じゃない‥‥一人で両方出来ればそれが一番なんだが‥‥」
 村人の一人‥‥先日クリステル・シャルダン(eb3862)をその職に誘った男が、彼女の様子を伺う。
「答えを聞かせて貰って良いか?」
「‥‥申し訳ありませんが‥‥」
 クリスは少し困った様に微笑みながら、丁寧に頭を下げた。
「私はまだ当分、冒険者を辞めるつもりはありませんの。月の半分以上を留守にする事もある状態でお引き受けする様な、無責任な事はできませんわ」
「‥‥そうか‥‥」
 男は残念そうに溜息をつく。
「これ以上ない適任だと思ったんだが‥‥まあ、仕方ないな」
「本当に、ごめんなさい。でもその代わり、ふさわしい方が見つかるまで定期的に訪れるとお約束しますわ」
「この村には教師や司祭を勤めてもいいという方はいらっしゃらないのでしょうか?」
 サクラ・フリューゲル(eb8317)の問いに、村人達は少し気恥ずかしそうに顔を見合わせた。
「いや、いる事はいるんだが‥‥その、お嬢さん方と比べるとどうも見劣りが、な」
「何もない所から始めるわけですから、必要なのは才覚や知識よりもやる気だと思いますわ」
「そうだよ、聖書が読めて、子供たちに読み書き・計算が教えられればそれで十分じゃない?」
 デメトリオスもサクラの意見を後押しする。
「もちろん、魔法も使えたほうがいいんだろうけど、信仰に魔法が必ずしも必要じゃないでしょ? やる気がある人の方が大事だよ」
「賃金を支払う為の資金が足りなければ借りる事も出来ますし、知識や技術が足りなければ私達が‥‥私達に出来る事ならお手伝いします」
 星宮綾葉(eb9531)が言った。
「借金の担保としては‥‥これは代表者からお話して貰った方が良さそうね」
 と、ウォルの背中を押す。
 押されてウォルは自分の考えた温泉の計画を話して聞かせた。
「‥‥どう‥‥かな。これなら余所の人を村に入れなくても良いし、収入も見込めると思うんだけど」
「確かに‥‥温泉は良いな」
 村人も同意する。それで収入が得られれば、専業の教師や司祭を雇う事も出来るだろう。村の外とは言え、何かトラブルが起きる不安はあるが‥‥
「何事も、やってみなくちゃ始まらない、か」
「そうだな、もし何かあっても、村にまで危害が及ぶ事はなさそうだし‥‥」
「いつまでも領主様にオンブに抱っこって訳にも行かないしな。あんたらを雇う金だって、領主様が出してんだろ?」
 提案は概ね好意的に受け入れられた様だ。
「では私は村の近辺を歩いて、温泉が新たに掘れそうな箇所を探してみましょう」
 エリス・フェールディン(ea9520)の言葉に、デメトリオスが言った。
「最初は小さくてもいいから、拡張性がしっかりできるような場所が良いんじゃないかな。道から近くて、便利な場所‥‥あ、でも村には近すぎない方が良いかな」
「私も後で、少し見て回って来ますわ。広さ、工事のしやすさ、利便性、周囲の景観‥‥他に何か、考慮した方が良い事はあるでしょうか?」
 と、クリス。
「地元の人に一緒に見て貰った方が良いんじゃないかしら?」
 自分達の問題でもあるし、何より周囲の地理には詳しいだろうと綾葉が言った。
「じゃあ、これは決まりだね。今回は候補地を上げる位しか出来ないと思うけど‥‥」
 細かい事はまた後で詰めれば良い。
 村の名前については、いくつか出た候補のうちから村人達に投票で選んで貰う事になった。次にこの村を訪れる頃までには決まっている事だろう。

「ウォル君、ちょっと‥‥良いかな」
 集会所を出ようとしたウォルを、エスナ・ウォルター(eb0752)がそっと呼び止めた。
「え、融資‥‥?」
 金額は千G。金利は無しで、返済期限は無期限。担保は将来の温泉等で得られる収入。返済開始は、各施設の経営が軌道に乗り、利益が出始めてから三年目。一度の返済額は自由。
「私も、ハーフエルフだから‥‥だから、返済は何十年でも待っていられるの。だから‥‥このお金‥‥使ってくれる?」
「ちょ‥‥ちょっと待ってよ、いくら何でも大金すぎるだろ!? それに‥‥返して貰う気、ないんじゃない?」
「え、そんな事‥‥」
「ダメだよ、誰かに領主がケチだから他から借りたなんて言われたらどうすんのさ? エスナが将来この村に住むって言うなら、自分の村の事だから自分でお金を出すっていうのも良いだろうけど、とにかく今はダメ!」
 またしても、断られてしまった。
「‥‥ウォル、何かあったのでしょうか?」
 その様子を見ていたサクラが声をかけた。以前より物の考え方がしっかりしているように見えたらしい。
「べ‥‥別に?」
 その答え方は相変わらずだが。
「頑張るのは良い事だと思います。ですが肩の力を抜く事も必要な事ですよ? 『これは自分の仕事だから』と全て抱えこまずに、人に頼る事も覚えておいて下さいね」
「別に‥‥抱え込んでなんかいないけど?」
「‥‥そうですか? それなら良いのですが‥‥でも、無理はしないで下さいね。教わる事も頼る事も決して恥でも怠惰でもありません。その人にしか出来ない事もどこかにあるのですから‥‥」
 その言葉に、ウォルはサクラから視線を逸らし、独り言の様に呟いた。
「皆はそうかもしれないけど‥‥オレにしか出来ない事なんて、そんなの‥‥あるのかな」
「‥‥何に悩んでいるのかは分かりませんけど‥‥」
「うわあっ!!」
 突然、マイに後ろから話しかけられ、ウォルは飛び上がった。
「‥‥私達にとって今出来ない事の大抵は、諦めずに努力する限りいつか現実に出来る、夢と言うより目標に出来る事の筈です。‥‥私も、お料理の腕は何とか一人前と認めて貰えるようになりましたけど‥‥、そこに至るまでに冒険者になる前からの長い積み重ねがあってようやく‥‥ですし、それでも私にこの道を歩む機会を与えてくれた人には遠く及ばないです」
「え? だって、マイはもう完璧プロじゃん? 料理とか達人だし‥‥」
 それでもまだまだ、と、マイは首を振る。
「‥‥恐らく、ウォルさんに見えているのは頂に近い高みでしょうけど‥‥、目を逸らさずに一歩ずつ上り続ける限り、そこはいつかきっと辿り着ける場所ですよ」
 それだけ言うと、マイは踵を返し、集会所の隣にある温泉の改修工事現場に向かった。ストーンのスクロールを使って、水路や浴槽の補強を手伝うつもりらしい。
 その背に向かって、ウォルは呟く。
「‥‥多分オレには、ちゃんと見えてもいないと思うよ」
 見えない場所にどうすれば辿り着けるのか、そもそも、果たしてそこが自分の目指すべき場所なのか‥‥ウォルはまだまだ、悩み多きお年頃だった。

「学校なら、ここは教師たる私が頑張らなければいけませんね」
 錬金術講師の称号を持つエリスは張り切っていた。錬金術を教える機会などそうはないと思うが、それでも。
 石灰石を拾って加工し、文字を書ける道具に適用すると、板を黒く塗って黒板を作る。これで『耳学問』から『目で覚える学問』も備わった訳だ。
「今は、集会所で十分だよね」
 将来規模を拡張する事を視野に入れて、学校建設予定地を確保するのはいいかもしれないけど、とデメトリオス。
 クリスは小さな木切れに子供達の名前を彫って、一人ずつ手渡していく。自分だけの物など滅多に持った事がない子供達は大喜びだった。
 一方サクラは、教科書として簡単な絵本を作ったり、アルファベットを覚える為の歌作りに挑戦してみたり。
「そういうのは、ちょっと年上の子供達と一緒に作った方が良いんじゃない?」
 と、ウォルが横槍を入れる。
「子供達も、それ作るのに自分が関わったと思えばば愛着も湧くだろうし‥‥」
「あ、そうですわね。気が付きませんでした‥‥ウォルも一緒にどうですか?」
「え、オレも!?」
 そんなやりとりを、クリスは巣立ちを控えた雛鳥を見守る親のような心境で見つめていた。
 温泉の件も、自分の考えを押し付けるのでは無く、村の方達の気持ちを考えて一番良い方法を一生懸命考えたのだろう。
「そろそろ、子ども扱いしては失礼かしら」
「元から失礼だっ!」
 独り言が聞こえたらしい。だがそんな返事を返す所は、やっぱりまだ子供。
 傍らでは準備が終わったエリスが早速子供達に勉強を教えていた。簡単な計算や、ちょっとした実験など‥‥錬金術普及に賭ける情熱は不滅の様だ。
 ルーウィンとデメトリオスも、それぞれの得意な事を、それぞれのスタイルで子供達に教えていた。
 初等養育の教材については、クリスとサクラが作った分にマイが友人のレオンから渡された物も加え、当分不自由しないだろう。

 その頃、エスナは集会所で村人達の名簿作りに励んでいた。
 名前や家族構成、年齢、生年月日などに加え、得意な技術や希望の職種なども尋ねては記入していく。今後、次々と出来るであろう様々な施設の従業員として、その候補を選ぶ為の参考資料にもするつもりだった。
 こうして尋ねて行けば、教師や聖職者になりたい人も見付かるだろう。上手くすれば、次にこの村を訪れる時には決まっているかもしれない。