【村から町へ】フォンテ村の春

■シリーズシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:0 G 71 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:03月18日〜03月24日

リプレイ公開日:2008年03月26日

●オープニング

「フォンテ‥‥? 村の名前、それに決めたの?」
 早春の陽射しも暖かな午後。村を訪れたウォルに、ハーフエルフの少女ブランウェン‥‥ブランが嬉しそうに答えた。
「うん、村の皆で話し合って決めたんだ。どれも良さそうだから選ぶのに苦労したんだけどね。フォンティーヌって名前が一番人気だったんだけど‥‥異国の言葉で泉とか湧き水って意味だっけ? でもちょっと長いし、縮めたり略したりってアイデアも良いなって」
「ああ、それでフォンティーヌを縮めたわけか」
 確かそれを提案した彼女は「泉のように人々の憩いの、安らぎの場になってほしい」なんて言ってたっけ‥‥などと思いながら、ウォルは工事が完了した村の温泉に目をやった。
「名前も決まったし‥‥とにかく、何かひとつだけでも形になって良かったな」
 だが、まだまだこの村には足りないものが沢山ある。例えば‥‥
「ねえ、先生は見付かった?」
「うん、やりたいって人はね。3人くらい。でも、やっぱり専業にするには先立つモノが必要なのよね」
 と、ブランは指で小さな輪を作ってみせる。
「これから農作業も忙しくなるし、畑の方もまだ充分な広さがある訳じゃないから、皆で働いてギリギリって感じだし‥‥」
 生活に困る程ではないが、それほど多くの非生産人口を養える訳でもない。当分はその3人で、手の空いた時に交代で、という事になるだろう。
「やっぱり問題は資金かぁ」
 そう言えば、先日の融資の話はどうなっただろう。今度会った時に、それも聞いてみないと。それに、資金源としての浴場作りも本格的に始める必要がある。
「場所は大体決まったんだよね?」
 村から1kmほど南へ行った、川沿いの土地。キャメロットとタンブリッジウェルズを結ぶ街道からは少し外れているが、今の所その土地の権利を主張する者もいない。街道を通る旅人が足を伸ばすには少し遠いかもしれないが、町の住民が気軽に訪れるにはそう遠くない距離だった。
「あたし達、あの辺の村とは割と仲良くしてるから、声かけたら色々手伝ってくれると思うよ。まあ、向こうもこれから忙しくなるだろうから、タダって訳にはいかないかもしれないけど」
「うん、後でちょっと声かけてみるね。権利者じゃないって言っても、近くに何か作るなら挨拶ナシって訳にもいかないだろうし‥‥」
 それを聞いて、ブランは少し首を傾げ、可笑しそうにくすりと笑った。
「‥‥何?」
「だって、ウォルってばオトナみたいなこと言うんだもん。ついこないだまで、まるっきりコドモだったのに‥‥人間って、ほんとに早いんだね」
 この村の子供は殆どがハーフエルフ。ゆっくりと進むその時間に慣れた感覚では、ウォルの変化はよほど急激に感じられるのだろう‥‥尤も、本人にはさほど「変わった」という感覚はない様だが。
「‥‥そうかな。でも、まだまだ‥‥全然ダメだ。まだオレは、皆に守られてるだけの、ただの子供で‥‥今だって師匠の後ろ盾がなきゃ何も出来ないし‥‥」
「良いじゃない、それが子供の特権だもん。そんなに急がなくたって大丈夫だよ、ウォルはちゃんとオトナになれるから」
「そりゃ‥‥年をとれば大人にはなれるさ。でも‥‥」
 問題は、どんな大人になるか、だ。
 どんな大人になりたいか、ぼんやりとした憧れやイメージはある。だが、具体的な事となると‥‥
「ああはなりたくないってモデルなら、わりと簡単に思いつくんだけどな」
 自分の父親と、それについ最近出会った某領主の顔が脳裏に浮かぶ。
「まあ、てきとーにガンバんなよ。あんな奴にだけはなりたくないって思ってたのに、気が付いたら‥‥っていうのも良くあるパターンだけどね」
 ブランはウォルの肩をポンと叩き、そんな身も蓋もない事を言い捨てて風のように去って行った。

「‥‥まったく、あの子は‥‥」
 走り去ったブランの背を見送ったウォルの背後で、女性の声がした。
「ウォル、ごめんなさいね。誰に似たのか、あの子は口ばっかり達者で‥‥」
 ブランの母親、イウェリッドだ。
「あんたは立派に自分の仕事をこなしてるわ。あんたのお陰で色々動き出して‥‥ほんとに助かってるんだから」
 そう言って頭を撫でるイウェリッド‥‥リドの手から逃れ、ウォルは顔を真っ赤にして叫ぶ。
「だからっ! そう思ってんなら子供扱いすんなっ!!」
「あら、ごめんなさい。丁度良い位置にあるもんだから、つい」
 そうやって湯気を立てる所はまだまだ子供、と、リドは笑いを堪えながら手を引っ込め、話を続けた。
「ところで‥‥ねえ、そのうち教会も造りたいって話があったわよね?」
「‥‥ああ、余裕があればね」
「その時なんだけど‥‥その、ちょっと、お願い出来ないかしら?」
「何を?」
 ウォルの問いに、リドは年甲斐もなく‥‥とは言ってもエルフのこと、見た目はまだ20代だが‥‥頬を赤らめ小声で呟いた。
「ほら、あの‥‥キャメロットの教会には、壁に‥‥ほら、アレがあるでしょ?」
「壁って‥‥ラクガキでもしたいのか? 怒られるぞ?」
「ああ、もう、これだからオコサマはっ!!」
 リドは頭を抱えた。
「ダメ。あんたじゃ話にならないわ。誰か話のわかる大人を連れて来て!!」
 ‥‥結局、子供扱い。まあ、実際まだまだ子供ではあるのだが‥‥。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5380 マイ・グリン(22歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9520 エリス・フェールディン(34歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0752 エスナ・ウォルター(19歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb3450 デメトリオス・パライオロゴス(33歳・♂・ウィザード・パラ・ビザンチン帝国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 eb9531 星宮 綾葉(27歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)

●サポート参加者

桜葉 紫苑(eb2282)/ レア・クラウス(eb8226)/ シリル・ロルカ(ec0177

●リプレイ本文

「待ってたわよ、あんた達!」
 村に入るなり、そう言って出迎えたのはリド。彼女は一刻も早く例の話をしたくてウズウズしていたようだ。
「アレよアレ! あんた達ならわかるでしょ!?」
「ええ、アレですね」
 うんうん、わかるわかる、と言うように星宮綾葉(eb9531)が頷いた。
「私、実はロシアで恋人とそのアレを刻んで参りましたの」
「壁に落書き‥‥なるほど、そういう事ですか‥‥」
 と、ルーウィン・ルクレール(ea1364)。
「素敵ですわ。では6月までに教会を作らないと」
 間に合うだろうかと思案しつつ、クリステル・シャルダン(eb3862)が嬉しそうに微笑む。
「もし間に合わなければ、板に彫った物を壁に飾ってはどうでしょうか。教会が出来てから移動できる様に‥‥」
「それも良いですわね」
 ジャパンの絵馬のようだと思いつつ、サクラ・フリューゲル(eb8317)が言った。
「リドさんの他にも希望される方はいらっしゃいますよね?」
「そりゃそうよ。まあ、殆ど全員よね」
 どうやら、わざわざ希望をとる必要もなさそうだ。
「あの‥‥村に住んでいなくても、名前を刻んで構いませんか?」
 この村の教会ならボールスの迷惑にはならないだろうかと考えてからそっと尋ねたクリスに、リドは声をたてて笑った。
「当たり前じゃない! あんた、領主様のアレだろ?」
 そう言われ、火照った顔を両手で押さえつつ暫し視線をあちこちに彷徨わせた後、クリスは微笑みながら小さく頷く。
「あの人はこの村の恩人だからね。あんたらには一番良い場所を用意してあげるわ。まあそうじゃなくても、誰だって歓迎するけどね」
 と、リドは後ろの方で頬を真っ赤に染めているエスナ・ウォルター(eb0752)にウィンクして見せた。
「あ、私も、キャメロットじゃ出来なかったから‥‥その、作ってもらえると嬉しい、です」
 エスナはそう言うと、蚊の鳴くような声で付け加えた。
「‥‥6月なら‥‥ちょうど、式を済ませて‥‥一緒に刻印できるから‥‥」
「まあまあ、ジューンブライドかい!? おめでとう!」
 それを聞いた仲間達から一斉に沸き起こる「おめでとう」コールに、下を向いたエスナの頬はますます赤くなる。
「式はどこで挙げるの? そうだ、どうせならここでどう?」
「あ、あの‥‥でも‥‥し、式もそうですけど‥‥」
 頬を染めつつ、エスナは不安げに顔を上げた。
「イギリス国内で、異種族同士の刻印を認めて‥‥ボールス様の教会内での立場とか‥‥悪くなったりしないんでしょうか?」
「‥‥それは‥‥あるかもしれないわね。でも、自分の立場とか損得とか‥‥そういうの考えないから、あの人」
 まあ、それが良い所なんだけど、と溜息と共に呟いて、リドはポンと手を打った。
「そうだ、おおっぴらにやるのが拙ければ‥‥」
 土台の石に彫るのはどうだろう。
「上に教会を建てて塞いじゃえば、もう誰にも見えないでしょ? こういうのは本人達が覚えてれば良いものだし‥‥何百年も経ってから、遺跡になった教会の土台に彫られた名前が見付かる、なんていうのも‥‥良くない?」
 リドさん、案外ロマンチストの様だ。
「それも含めて‥‥ねえ、彼氏に聞いてみてくれない?」
 問われて、クリスは頷いた。
「はい、その‥‥後で手紙を出すつもりですので、その時に」
「手紙? すぐそこにいるんだから、会いに行けば良いじゃない、じれったいわね」
「でも、お仕事の邪魔になったり、ご迷惑になっては‥‥」
「なに言ってんの! 下手に遠慮したり、モタモタしてると、あっという間に爺さんになっちゃうわよ!?」
 経験者は語る、なのだろうか。
「‥‥本当に、あっという間なんだから」
 リドは小さく溜息をつき、そして‥‥沈んだ空気を払うように明るく笑い飛ばした。
「ああ、やめやめ! とにかくさ、出来る事は何でもやったモン勝ちって、ね?」

 その数時間後。
「‥‥ったく、遊びに来てるんじゃないってのに」
 綾葉を中心にある事ない事、色々な話題で盛り上がった女性同士の井戸端会議から漸く解放されたウォルは、大きな溜息をついて天を仰いだ。
 壁の刻印についてはサクラとクリスから説明を受けたが、どうも今ひとつピンと来なかったらしい。
「ウォル君も大人になればわかるわ♪」
 綾葉には頭を撫でられ、クリスには「サクラさんは人間だからキャメロットの教会でも大丈夫でしたね」などと意味不明(?)な事を言われ、そのサクラは何故か(?)自分の方を見て赤くなってるし‥‥
「女って、ワケわかんねー!」
 ワケがわかるようになる頃には、刻印の意味もわかるようになってるよ、きっと。
「‥‥可愛くない子供を撫でる大人はいないのですから、素直に撫でられる方が得ですよ」
 そんなウォルに、マイ・グリン(ea5380)が言った。
「‥‥と打算出来る頃には、大抵子供でなくなっていますけど。‥‥まあ、後何年かすれば、もう少し子供でいた方が楽だったと思うようになります」
「そりゃ、子供の方が楽かもしれないけど‥‥そう言や、こないだ誕生日だったっけ?」
「‥‥あ、はい‥‥」
「えっと、おめでと。オレ、色々貰ってるし‥‥お返しにプレゼントとかさ、なんか一応考えたんだけど‥‥」
 マイは何でも持ってそうだからな、とウォルは続けた。
「だから、今度オレが何か‥‥えっと、料理、作るからさ。食べに来てくれるかな。マイみたいに上手くはないけど、これでもちゃんと腕は磨いてるんだ。‥‥どう?」
「‥‥はい。では、そのうち‥‥」
 どうも感動の薄そうな反応だが、まあそれはいつもの事だ。
「じゃ、オレは現地を調べてくるな」
 そう言うと、ウォルは逃げる様にその場から走り去った。

「さて、今回は錬金術の応用で地質の調査をしますか」
 温泉施設建設予定地に立ったエリス・フェールディン(ea9520)は、いつものように錬金術的なアプローチを試みる。
 土に含まれる成分を分析して、そこを通って流れる水が人体に悪影響を与えないかどうか、それに建物を建てても問題のない地質かどうか。
「概ね、問題はなさそうですね」
 予定地はかなり広く、大部分が平らな土地だ。陽当たりも良く、住みやすそうな土地ではあるが‥‥
「殆どが固い岩盤で覆われている様ですから、農業には向かないでしょうね」
 どうりで誰も権利を主張しない筈だ。

「地元の方のお話では、川が氾濫する事は滅多にないという事でしたわ」
 村に戻り、それぞれの調査結果を持ち寄った冒険者達がそれを報告する。
「ただ、ちゃんとした道がありませんから‥‥」
 クリスの報告を、デメトリオス・パライオロゴス(eb3450)がメモに書き加える。
「じゃあ、最初に必要なのは道路の拡張費用と、それに建物は温泉本体と、食堂かな。宿泊施設は軌道に乗ってからでも大丈夫だろうし‥‥それから、学校と教会を造る費用も計算に入れておいた方が良いかな」
 収入の面では、以前の調査で見つけた薬草を売りに出す事で調達出来ないかとデメトリオスは考えていた。
「勿論それで足りるとは思ってないけど、ボールスさんに借金するにしても、なるべく少ない方が良いもんね。実際に交渉してみないと、どれくらいの収入になるかはわからないけど」
 タンブリッジウェルズの町と、キャメロット。両方の商人に掛け合ってみるつもりだった。
「でも、キャメロットの方が高く売れそうな気はするな」
「えと、私も‥‥この村で穫れる作物を売り物に出来ないか、調べてみますね」
 エスナが言った。住民の必要な分を残しつつ、温泉施設で食事として提供する分まで賄うには農地をどの程度拡大する必要があるか、その費用と人材の確保も必要だ。
「結構、大がかりな計算になりそうだね。でもボールスさんに融資を願い出るなら、しっかりした計画を出す必要があるし」
「‥‥そうですね‥‥」
 でも、と、マイがデメトリオスに言った。
「‥‥費用の計算は良いとして、収益の方はまだ未知数ですから」
 正確さよりも熱意を伝える方が良いのではないか。
「‥‥こういう物を作りますと報告するより、一度実際に温泉に入って貰う方が理解を得やすいと思います。‥‥エルさんもお呼びして‥‥」
「そうですね、私もキャメロットで少し調査をしてみましたが‥‥」
 温泉が出来たら入りたいかという質問に対し、返ってきたのはまず「温泉って何?」という答えだったと、エリス。その事からも、そう簡単に収益に結びつくような事業ではなさそうだ。
「まずは温泉の知名度を上げる事が必要ですね」
「じゃあ、とりあえず初期費用だけ計算してみようか。実際に見て貰えば、それが妥当かどうかボールスさんならすぐにわかるだろうし」
「ええと、じゃあ‥‥まず用意するのは、ちゃんと根拠を示した計算書と、大体の設計図‥‥で、良いのかな?」
 と、ウォルはちらりとサクラを見た。
「そうですわね。後は次回までに、それを元にボールス様に判断して頂ければ」
 収益の予想に関しては、今の所は大体の目途を立てる程度で構わないだろう。勿論、正確な数字が出せるなら、それに越した事はないが。
「それとは別に、細かい出費とかはエスナに頼んでも良い?」
「あ‥‥はい」
 どんな形であれ、ここを自分の村だと思ってくれるなら、資金を出して貰っても構わないだろう。
「じゃあ、返せるようになったらちゃんと返すから、必要な時には頼むな?」

 そして、冒険者達は余った時間でそれぞれの得意分野を子供達に教えつつ、のどかな村の春を満喫した。
「フォンテ村か‥‥。いい名前になりましたね」
「ええ、名前に相応しい、いい村ですわね‥‥」
 ルーウィンの言葉に綾葉が答える。
「エルフやハーフエルフ達が仲良く過ごせて‥‥。こんないい村を存続させる為にも、町興しは成功させましょう!」
「後の未来を作っていく為にも、焦らないで地に足をつけて考えていきましょう」
 春の陽射しの下、楽しそうに笑う子供達の声が耳に心地よかった。