【ミノタウロスの花嫁】襲撃

■シリーズシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:9 G 95 C

参加人数:10人

サポート参加人数:8人

冒険期間:02月03日〜02月09日

リプレイ公開日:2008年02月11日

●オープニング

「生贄を迎えに来る者、そして村から連れ去る者‥‥それに襲撃班。それぞれ担当は別になってやがる様だな‥‥」
 一仕事終えたガルムは村へは戻らず、近くの町の酒場で頭の中、そして得られた情報を整理していた。
 流石に用心深い連中だけあって、一ヶ所での失敗が他に響かないように考えてあるらしい。先日も恐らく、生贄が本物だったなら行き先は違った筈だ‥‥どこかは知らないが。
「また手掛かりが無くなっちまったってトコかね‥‥」
 いや、そうでもない。
 洞窟で捕らえた連中の話によれば、彼等は逃げた金ヅルを放置はしないようだ。逆らったが最後、売れるものは全て浚って行き、そして売れないものは殺される。最初に関わったあの村‥‥彼の故郷のように。
 襲撃班が幹部の居所を知っているかどうかはわからないが、それでも。何かしら手掛かりが得られるかもしれない。
 そうでなければ、また振り出しに戻るだけだ。
「とりあえず、早いとこギルドに頼んでおくか‥‥いつ来るかはわからんが、備えは早いほうが良かろう」
 そうだ、坊主にも今回の事を報告しておかないと‥‥
「今回は無事だったが‥‥さて、どうなるか‥‥どうするか、ね」

 今度の依頼は人買い達の襲撃から村を守る事。それだけだ。
 内容はシンプルだが‥‥
「こうなった以上は、村の連中の協力が不可欠だ。もう隠しちゃおけねえだろう‥‥いや、隠したままじゃ守りきれねえ。それに、何とかして連中に自分の村は自分で守る、そう思わせるようにしねえと‥‥」
 どちらにしろ、もう人を売って金を得る事は出来ない。
 ならば、嫌でも何か収入を増やす手段を考える必要があるが‥‥先日の冒険者達による調査では、村の周辺は硬い岩盤の上に僅かな土がへばりついている程度の痩せた土地で、肥料を与えても一度雨が降ればその殆どが流れてしまうような、地力の貧弱な所らしい。
「‥‥とりあえず土を盛って、そいつが流れねえようにすりゃ良いのか? それとも誰かが言ってたように、痩せた土でも育つモンを探した方が早いか‥‥?」
 薬草のように直接腹の足しにはならなくても、金に換えられるものが育てば良い。
「‥‥ま、俺は門外漢だ。そいつはわかる人間に任せるか」
 そう呟くと、ガルムは馬首を巡らせ少年‥‥マーカスの待つ村へと向かった。
「坊主の村とはそう離れちゃいねえ‥‥似たような環境の筈なんだが、あの村じゃ食うに困るような話は聞かねえな‥‥」
 その辺りも、少し調べてみる必要があるかもしれない。

「僕も行く!」
 話を聞いたマーカスは言った。
「おいおい、坊主、冗談じゃねえぞ。行ってどうするんだ? 足手纏いになるだけだぞ?」
「でも! これは僕の村の問題なんだ。それに‥‥僕だって何か役に立てるかもしれないじゃないか!」
 ガルムは真っ直ぐに見上げる少年の目を見返した。
「本気‥‥だな」
 こんな目をした子供を‥‥いや、漢は、止められない。止めてはいけない。
「よし、出来るだけの手助けはする。気が済むようにやってみろ、マーカス」
 そう言って、ガルムは少年の小さな肩をポンと叩いた。

●今回の参加者

 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea4137 アクテ・シュラウヴェル(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea5386 来生 十四郎(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9669 エスリン・マッカレル(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 eb3349 カメノフ・セーニン(62歳・♂・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb7721 カイト・マクミラン(36歳・♂・バード・人間・イギリス王国)
 eb8106 レイア・アローネ(29歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 eb9943 ロッド・エルメロイ(23歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ec1783 空木 怜(37歳・♂・クレリック・人間・ジャパン)

●サポート参加者

レイジュ・カザミ(ea0448)/ レヴィ・ネコノミロクン(ea4164)/ リデト・ユリースト(ea5913)/ メルシア・フィーエル(eb2276)/ ミッシェル・バリアルド(eb7814)/ ディディエ・ベルナール(eb8703)/ レイ・マグナス(eb9571)/ オグマ・リゴネメティス(ec3793

●リプレイ本文

 酒場の片隅で冒険者達が膝をつき合わせ、真剣な表情で話し込んでいる。
「アクテさんの故郷に蕎麦っていう穀物があるらしいのよ。あんた知ってる?」
 カイト・マクミラン(eb7721)が植物に詳しいディディエ・ベルナールに尋ねた。
「なんでも小麦が育たない場所でも育って、お粥とかお菓子‥‥ええと、何て言ったかしら、とにかくそんなのになるとかなんとか‥‥ねえ?」
 と、途中でアクテ・シュラウヴェル(ea4137)に話を振る。
「クレープやガレットでしょうか。確かにブルターニュの辺りでは蕎麦の栽培が行われていますが‥‥その村で育つかどうかは気象条件も調べてみないと」
「そうですねぇ、痩せた土地で育つというだけなら色々ありますが‥‥」
 ディディエは思い当たる作物や薬草の類を書き出し、そのメモをカイトに手渡した。
「アクテさんの仰る通り、土の状態だけでなく日照や気温、雨量なども関係しますから‥‥現地を見たわけではありませんし〜、お話できるのはこの程度ですねぇ」
「ありがと。やっぱり現地で調べてみないとわからないみたいね。後はアクテさんにお任せしちゃって良いかしら?」
「ええ、私も襲撃への備えを兼ねて村を調査して回るつもりですから」
「じゃあ、お願いね」
 カイトはそう言うと、今度は空木怜(ec1783)に向き直った。
「そういう訳なんだけど、向こうの村では何が穫れるのか、聞いて来て貰える?」
「ああ、わかってる。似たような環境でも生活に困ってないって事は、何かしらそこで生き延びる方法があるって事だからな。‥‥あの土地で直接的に食料を得る方法だったらありがたいんだが」
 怜はそう言うと、一足先にマーカスの姉、リンダの嫁ぎ先である村へと調査に向かった。

 一方、その隣のテーブルにも何人かの冒険者と‥‥体格は良いが白髪混じりの無精髭を生やした初老の男と、痩せて小さな少年が座っている。今回の依頼人ガルムと、村人のひとり‥‥この件に関して最初に声を上げたマーカスだ。
「‥‥済まないガルム殿。失態を繰返す己が情けない‥‥」
 エスリン・マッカレル(ea9669)がテーブルに置いた拳を悔しげに握り締めた。
「せめて生贄3人を奪われなかった事が救いか。村を護り抜く事は当然だが、此度こそ彼奴等の尻尾を掴まねば!」
「まあ、奴等が狡猾なのは判っちゃいたんだがな‥‥判っちゃいても有効な手が打てなかったのは、あんただけじゃない。気に病む必要はねえさ。その必要はねえが‥‥」
 ガルムは自嘲するような苦笑いを浮かべると、大きくひとつ溜息をついた。
「こうも毎回してやられると、流石に良い気はしねえな。で、何か策はあるのか? 今度こそ確実に奴等の尻尾を掴めるような方法が?」
 ガルムはエスリンに尋ねる。だが‥‥
「すまない、そこまではまだ‥‥」
 考えなければならない事、対処を迫られる事が多すぎて、その対策は後回しにされていた。
「奴等を潰してもトカゲの尻尾きりになりそうだし、できれば上位の人間を捕らえて情報を聞き出したいな」
 ルーウィン・ルクレール(ea1364)の言葉に、ガルムは更に大きな溜息を吐き出す。
「だから、どうやってその上位の人間とやらを捕まえるのか、それを聞きてぇんだがな、兄ちゃん。そもそも、切られても良いような尻尾しか現場にゃ出て来ねぇんだよ。だから厄介なんじゃねえか」
「まあ‥‥そうですね。状況から判断して恐ろしいぐらいに組織化されていますし、やつらの場合囮とかもしそうですし‥‥」
 それを聞いて、ガルムは諦めたように首を振った。
「‥‥まあ、俺も何か具体的な策がある訳じゃねえし、人には向き不向きってモンがある。あんたにゃ腕の方を期待しとくさ。‥‥で、他には?」
「わしは捕らえた相手にリシーブメモリーを使ってみるつもりじゃ。上手くすれば敵の本拠地も掴めるかもしれんでのう」
 カメノフ・セーニン(eb3349)が言った。生かして捕らえる事が出来なければ、メグレズ・ファウンテン(eb5451)がデッドコマンドで死体から情報を得るつもりだった。
「‥‥尻尾に頭の考える事がわかるとは思えねえが‥‥まあ、何もしないよりはマシ、か」
 今までの経験から、ガルムはその方法に懐疑的だった。
「そう言えば、確か前にも大掛かりな組織に逃げられた依頼があったような?」
 アクテが話の輪に入って来た。
「ああ、前にも‥‥ってえか、ことごとく逃げられてるな、幹部連中には」
「そうですか‥‥。足元にそんな大掛かりな組織が巣食ってるなら、事は重大ですね。領主に話を通じさせた方が良いのでは?」
「まあ、それも悪かねえだろうが‥‥どうだろうな」
 まともな領主なら、事ここに至る前に何か手を打って来る筈だ。
「街道からも外れた辺鄙な村だからな。領主がマトモだったとしても目が届かねえか、そもそも誰の保護下にも入ってねえか‥‥」
 敵もそれを見越してあの村を標的にしたのかもしれない。
「とにかく、調べてみますわ」
 もし領主がいるなら、その評判と財政事情の噂を聞き、話が通じるような人物ならシフール便を使って連絡を入れておくとアクテは言い、それを調べる為に一人酒場を後にした。
「それはそうと‥‥」
 ガルムは一同を見渡す。
「子犬はまだ何かの役に立つかもしれねえが、タマゴだのウサギだの鳥のヒナだの、お前ら遊びに行くつもりか?」
 冒険者の何人かは、これから戦いに赴くというその場には不似合いなペットを連れていた。
「真面目に仕事する気があるなら、そいつらは家にでも置いてきな」
 そんな大人達のやりとりを、マーカスは不安げな様子でじっと聞き入っていた。自分にも何か役に立てる事がないか、会話の中からそれを探そうとしているかの様に‥‥。

 出発間際、手伝いに来た仲間達がそれぞれの成果を報告する。
「出来れば見本として1苗だけでも実物を手に入れようと思ったんだけど」
 レヴィ・ネコノミロクンがエスリンに小さな袋を手渡した。
「今はその時期じゃないらしいの。だからこれ、種を少し分けて貰って来たわ。試しに栽培してみるには丁度良いんじゃないかしら」
 苗や種は必要ならノルマンから取り寄せる事も出来るらしい。ただ、輸入品だけあって値段はそれなりに張る様だが。
 薬草酒が作れるなら特産品にできるかもしれないと、酒好きレヴィはそんな事を呟いた。
「地図があれば少しはお役に立てたかもしれませんが‥‥」
 ダウジングを試みようと地図を探していたオグマ・リゴネメティスだったが、そこは地図にも載らないような辺境らしい。
 そしてレイジュ・カザミは手作り弁当を皆に手渡した。
「じゃあ頑張ってね。僕は村まで付いていけないけれど、ここから健闘を祈っているから! 」

 道中、空模様を気にしながら歩いていたカメノフが傍らのマーカスに尋ねた。
「お前さんの村じゃ、不自然に雨が多いとかないかのう?」
「雨? う〜ん、普通に降ると思うけど?」
 生まれてから殆ど村の外に出た事がないマーカスには、どんな状態であろうとそれが「普通」だろう。他の子供なら怪物に生贄を差し出す事さえ普通の事だと思っているかもしれない。
「ふむ、誰かが天候を操作しておる可能性はないかと、そういう意味で聞いたんじゃが」
「流石にそこまではしねえだろ」
 ガルムが答えた。
「しかしのう、わざわざ怪物の話まででっち上げて、大がかりな芝居までするような連中じゃ。それでも儲かるなら、あってもおかしくはないと思うのじゃが‥‥」
 ただ、イギリスは隣のアイルランドと並んで「一日のうちに四季がある」と評される程に天気が変わりやすい土地柄だ。わざわざ魔法で操作しなくても、魔法並に天気がコロコロと変わる‥‥実際、今も先程まで晴れていた空から雪が舞い始めていた。「まあ、その辺も隣の村と比べてみりゃはっきりするだろう。調べに行ってる怜の報告待ちだな」

「‥‥村の周囲に不審な奴は‥‥」
 乗って来たペガサスのブリジットを岩陰に隠し、マーカスの姉、リンダが嫁いだ村に向かった怜は途中で立ち止まり、バイブレーションセンサーで周囲を調べる。
「とりあえず、動くものはない、か」
 じっと動かずに身を潜めている相手をこの魔法で確認するのは難しいが、まあ多分、大丈夫だろう。
「あの村はミノタウロスの件を外部に漏らさない為に閉鎖的だった。その為にこういう土地での生き方を知るチャンスを逃していた可能性はある。あるいは‥‥あの人買組織がこの土地一体の村々全てに手を出してる可能性も‥‥」
 だがマーカスから聞いた限りでは、こちらの村には暗い影など見当たらないようだ。収穫も多くはないが、村人全員を養える程度はあるらしい。
 怜は周辺に広がる畑の様子を見ながら、村の中に入って行く。クレリック修行の一環としての無料診療という名目なら怪しまれる事もないだろう。
 まず最初にリンダの家を訪ね、無事を確かめる。
「あの、それで‥‥マーカスは無事なのでしょうか? あの子、この前ガルムさんと出て行ったきり‥‥」
「ああ、大丈夫だ。村の為に何かしたいって頑張ってる。危険な事はさせないから、安心してくれ」
 その言葉に、リンダは心底ほっとした様に表情を和らげた。
「それと‥‥わかってるとは思うが、全て片付くまで、例の件に関しては他言は無用だ。良いな?」
「はい、わかっています。この村の人達まで巻き込む訳にはいきませんから。彼‥‥いえ、夫は巻き込んでしまいましたけれど」
「その、旦那なんだが‥‥話を聞けるか?」
 リンダは頷いて奥へと姿を消す。入れ替わりに現れたのは、真っ直ぐな目をした意志の強そうな若者だった。
「僕も詳しい事は知りませんが、あの村もここも、条件は殆ど同じ筈です」
 この村がそれなりに潤っている理由を尋ねた怜に、彼はそう答えた。
「ただ、この村では収穫を増やす為にそれなりの努力をしてるからね」
 彼に案内されて畑に向かった怜は、何か気付いた事はないかと問われてまず目に付いた事を言ってみる。
「畑が石垣で囲まれてるのは何故だ?」
「勿論、せっかく作った土が流れないようにする為さ」
 彼の話ではここも少しの雨で表土が流れてしまうような痩せた土地だったが、周辺の荒れ地に生えた草や木、それを燃やした灰などを積み上げて土を作ったのだそうだ。
「土がないなら作れば良い。流されるなら流れないように囲えば良い。勿論、作物がちゃんと育つようになるまでは長い年月と途方もない手間がかかったけどね」
「他の村には教えなかったのか?」
「この方法だと、ちゃんとした土になるまでに何年もかかるんだ。それまでは作物を育てる事は出来ない。それに面倒だし‥‥上手く行くかどうかもわからなかったし、最初はどの村も耳を貸さなかったよ」
 だが、この村で成功してからは、他の村でもこの方法を取り入れていったらしい。
「でもあの村は閉鎖的だから‥‥それに、豊かになって生贄を差し出すのをやめれば報復されると思ったんじゃないかな」

 その頃、生贄の村では‥‥
「村人の説得はマーカスに任せよう」
 村の外、彼等がいつも馬を繋いでおく場所に身を隠したレイア・アローネ(eb8106)が仲間に問いかける。
「今までは彼を庇い伏せてきていたが、所詮私達では他人事、彼らが命を預けられないのは仕方ない。他人事ではない村の人間が適切だ。村の人間が立ち上がらないと駄目なのだろう」
「マーカス‥‥いやマーカス殿。君は自分も何か役に立ちたいと、そう言ったな?」
 エスリンの問いに、マーカスはしっかりと頷く。
「その決意を信じ、共に村人の説得を頼みたい。或いは君に村人の怨みが集まりかねない賭けだが、それでもやってくれるか?」
 その目をじっと覗き込みながらそう問いかけたエスリンに対し、マーカスは再び迷いもなく頷いた。
「でも‥‥僕みたいな子供の言う事なんか、聞いてくれるかな」
「大丈夫だ、私達も一緒に行く」
「ああ、だが前回は何かと揉めた事だしな‥‥ここは顔を知られていない者が行った方が良いだろう。ただ、前回からの事情を理解している者もいないと向こうも不安か。誰か一人‥‥」
「すまんが、俺は遠慮しておく。この前村長を簀巻きにした前科があるからな」
 冷静な話し合いが必要な時に、自分の顔を見て頭に血が上ったりしても困ると、来生十四郎(ea5386)が言った。
「説得が終わるまでは人前に出ずに、罠でも作りながら警戒に当たっていよう」
「では‥‥私が」
 エスリンが名乗り出た。
「アタシ、ちょっと先に村長さんとお話させて貰って良いかしら? ほら、いきなり大勢で押しかけても、かえって頑なになっちゃうかもしれないし」
「そうですね、まずは少しお話を聞いて貰って、マーカスさんには切り札になって頂いてはどうでしょうか?」
 カイトの言葉に、ロッド・エルメロイ(eb9943)が頷く。
「では‥‥それで行くか。上手く行くと良いのだが‥‥彼らとて平気で娘達を捧げていた訳ではないと信じたいな」
 レイアが呟いた。

「こ‥‥今度は奴等が襲って来るだと!? だから‥‥だから言っただろう1 貴様らのせいだぞ!!」
 顔を真っ赤にして襟元を掴み上げた村長の手を払い除けながら、カイトは言った。
「そりゃ、わかってるわよ。アタシ達のせいだって事は。だからこうして助けに‥‥」
「黙れ! そうか、お前等‥‥奴等とグルだったんだな!? この村はそろそろ絞り尽くして、もうロクな娘が残ってないから‥‥っ!」
「ああもう、落ち着いてちょうだい、ね?」
 カイトは村長にチャームをかけてみる‥‥が、まるで効果がなかった。
「あらら、完全に嫌われちゃったかしら?」
「村長さんのお怒りはごもっともですが‥‥」
 見かねたロッドが間に入る。
「このまま女性を売り続ければ村は滅びます。貴方の代で村を滅ぼすより、新たな道を探しませんか?」
「確かに、この間連中を逃がしちゃったのはアタシ達の落ち度よ。でも‥‥遅かれ早かれ、いずれ奴等はこの村を滅ぼしに来るわ。こう言っちゃなんだけど、売り物になりそうな女の子‥‥あと何人残ってるの?」
 村長は答えない。だが、先日広場に集まってきた顔触れを見る限り、そう多くはなさそうだ。
「私達が居る以上、奴らは村を滅ぼします。腹を決めて下さい」
「何だその言い草は!? だったら出て行け! 余計な事をするな!」
 ロッドの言葉に逆上した村長に、カイトが追い打ちをかけた。
「アタシ達がいなくても、奴等は来るわ。その時は誰がこの村を守るの?」
「元はと言えば、貴様らが原因を作ったんだぞ! 大人しく奴等に従っていれば、こんな事には‥‥っ!」
「でも、僕は嫌だったんだ!」
 子供の声が響いた。
「マーカス‥‥!?」
「僕がこの人達に頼んだんだ、姉さんを助けてって! だから、悪いのは僕だ。この人達じゃない!」
「村長、このような幼い者が声を上げているのだ。彼等の未来を開くのが大人としての務めではないのか?」
「それにな、奴等とは一度関わったらもう逃げ道はねえんだ。食うか食われるか、それだけだ。経験者が言うんだ、間違いねえ」
 エスリン、そしてガルムの言葉に、村長は暫し沈黙を続け‥‥そして言った。
「村の者を、どう説得する。奴等に協力しろと言ったのはわしだ。怪物の実態を知りながら黙っていたのも‥‥。今更、何と言えば良い!?」
「彼等の説得は、私達が行いましょう」
 アクテが言った。
「出来れば村長さんにも説得に加わって頂きたい所ですが‥‥」
 それは無理なようだ。村長は放心したように何度か首を振ると、ふらふらと奥の間に姿を消してしまった。

 そして翌日。
 カイトの奏でる楽の音に誘われて集まった村人達の前に、冒険者達に伴われたマーカスが姿を現した。
「この通り、僕は生きてます!」
 怪物の正体、花嫁の真実、そして組織の手口。
 だが彼の口から語られるその言葉に、村人達はさして驚いた様子も見せなかった。
「やっぱり‥‥知ってたの? 知ってて、生贄にされる人達を見殺しにしてきたの!?」
「見殺しにした訳じゃない」
 誰かが言った。
「人買いに売られるからといって、全てが不幸になる訳じゃない。運が良ければこの村に残るよりも幸せになれる。そう信じて送り出して来たんだ」
 この村でまだ生贄を出した事がないのは、女の子がいないか、まだ幼いか‥‥それ以外はどこの家でも少なくとも一人は犠牲になっていた。
「それに、女の子は売り物になると思えばこそ育てる気にもなるが‥‥余所の村じゃ、産声も上げないうちに潰される事だってあるんだ。この村に生まれたのはまだ運が良い方だよ」
 確かにそれも一理あるかもしれない。だが、だからといって人身売買を正当化出来る筈もなかった。
「その娘達はこの村を救おうとして生贄になった筈です。彼女らの為に、過去に何があったかではなく、今この村に何が起ころうとしてるかを考えて下さい」
 アクテが村人達に襲撃計画の事を話して聞かせる。たちまち、広場は騒然となった。
「何て事をしてくれたんだ!」
「今まで生贄を出し続けて来た、その苦労が水の泡じゃないか!」
「生贄さえ出せば、俺達はここで静かに、平和に暮らせるんだ!」
「何だと!? 生贄を出した事もないくせに、その静かで平和な暮らしは誰のお陰だと思ってる!?」
「うちの娘を返せ!」
 ‥‥等々。
「ねえ、あんた達。理由はどうでも良いのよ」
 カイトが言った。肝心なのは、もし今ここで残りの女性全部を差し出しても奴等は襲撃をやめないだろう事。
「それに、一年に一人の生贄計算なら村に娘が居なくなった時点でいずれ起こる事です。いいえ、今は一年に三人、でしたか?」
「この村より全ての女性が消えれば、用無しの村を奴らは滅ぼすでしょう。今が抗う最後の機会です。私達がこの村を守ります。協力して下さい」
「収入の道が断たれる事への不安はわかるが、私達もこの村で出来る自足の方策を探している。どのみち後戻りは出来ん‥‥」
 カイトに続いてアクテ、ロッド、そしてエスリンが説得を試みる。
「勝手な事を‥‥」
「誰が頼んだ、そんな事‥‥」
「奴等に逆らう気などなかったのに‥‥」
 広場には様々な声が飛び交う。が、先程と比べてだいぶ勢いは落ちていた。
「この子達の新しい未来を築く為に、協力してはくれまいか?」
 マーカスの肩に手を置いたエスリンの言葉に返って来た反応は、渋々ながらもそれを肯定するものだった。
「やれやれ、これでやっと人前に顔が出せる‥‥と、村長は?」
 十四郎の問いに、レイアが答える。
「家に閉じこもったまま、出て来ないな」
 この村には集会所のような施設はない。住民を避難させるなら広場に近く、比較的大きな村長の家とその周辺に集まって貰うのが良いのだが‥‥
「穀物庫はどうだろうか。今しがた見て来たのだが、殆どが空であったし‥‥」
 エスリンが言った。この時期に穀物庫が空になっているというのも問題だが、この場合は都合が良い。
「女子供や年寄りは殆ど入れそうだな‥‥元気な男衆には外で警戒に当たって貰うか」
 今まで女性に助けられて来たんだ、それ位しても良いだろうと十四郎が笑う。
「じゃあ、俺はもう一回り、辺りを見回って来るかな。戻ったら手伝うからな」
 柵作りに精を出すメグレズにそう声をかけると、十四郎は昨日のうちに仕掛けた罠の確認と、敵が潜んでいそうだと当たりを付けた場所の見回りに出た。

 その日、冒険者達は村人と協力して柵を作り、罠を仕掛け、消火用の水や砂を用意し‥‥
 だが充分な準備が整わないうちに、奴等は来た。

 それは突然始まった。真夜中、昼間の作業で疲れた村人達がぐっすりと寝静まった頃。
 ――ゴオオッ!!
 村の中を一陣の風が吹き渡り、各所に仕掛けられた鳴子が一斉に音を立てる。
「来た!」
 交代で見張りについていた冒険者達は一斉に行動に移った。ある者は敵の捕捉に、ある者は村人達の避難誘導に動く。が‥‥
 真っ暗で何も見えない。流石の鷹目もこの暗闇では役に立たなかった。おまけに避難訓練をしていない村人達を、しかも真夜中に叩き起こして避難させるのは至難の業だ。
 そして、避難の最中にも敵は魔法での攻撃を無差別に仕掛けて来る。ストームの暴風にライトニングサンダーボルトの雷光、いずれも専門ランクでも射程の長い魔法だ。たちまち、村人達はパニックに陥った。
「落ち着いて! 大丈夫だから‥‥って言っても聞こえないかしら」
 カイトは荷物から竪琴を取り出すと、それを思い切りかき鳴らした。
「メロディーでも覚えとくんだったわ」
 だが、魔法効果のないただの演奏でもそれなりに効果はあるものだ。楽の音を耳にした村人達は次第に落ち着きを取り戻し、カイトの言葉に耳を傾ける。
「そうそう、落ち着いて。こっちよ、付いて来て。怪我した人は誰か助けてあげてね」
 その間に、ロッドは村じゅうを回って村人達を起こし、避難を促す。こんな状態で白兵戦に持ち込まれたらひとたまりもない。一刻も早く全員を無事に避難させなければ‥‥だが焦る気持ちとは裏腹に、避難はなかなか捗らなかった。
「むう、どこから撃って来るんじゃ‥‥?」
 カメノフはパッシブセンサーのスクロールを取り出し、自身に魔法をかける。それで感知した相手の位置は、例のミノタウロスの洞窟‥‥その上の岩場。カメノフもそこを狙ってライトニングサンダーボルトを返すが、張り出した岩に阻まれて雷光は届かない。
「あの岩山の上だな?」
 自らにオーラエリベイションをかけ、エスリンは愛騎ティターニアで上空に舞い上がる。その視力をもってしても闇に溶け込んだ岩山の形はうっすらとしか見えないが、魔法が発動する瞬間の淡い緑色の光を捉えてそこを目掛けて矢を放った。
 2本同時に放たれたそれが当たったか否か、それを確認する術もないが‥‥暫く何の動きもない所を見ると、どうやら当たったらしい。と、思った瞬間。左肩の辺りに鋭い痛みと衝撃を感じ、エスリンは愛騎の背から危うく落ちそうになる。
「向こうには見えているのか‥‥!?」
 エスリンは左肩に矢を受けたまま、地上へと引き返す。向こうにもインフラビジョンを使える者がいるようだ。
「アクテ殿、私にも付与して頂けないだろうか?」
 隣村の調査から戻っていた怜の治療を受けながら、エスリンはアクテにそう頼み込んだ。
「MPの都合上、6分しか保ちませんが‥‥」
「それで十分だ」
 エスリンは再び上空に舞い上がると、言葉通りに6分以内にきっちり始末を付けた‥‥魔法使いが一人と、射手が二人。
 だが、冒険者達が上からの遠距離攻撃に気を取られている間に、地上には戦士達が投入されていた。
「まだ避難が終わっていないってのに」
 文句を言いながら十四郎が前へ出るが、避難所へ向かう村人達が手にしたランタンや松明の明かりだけでは敵の姿はよく見えない。しかし、向こうからははっきり見えている様だった。
「こいつらもインフラビジョンか!」
 冒険者達は村人達を庇いながら、ゆっくりと避難所へ近付く。だが彼等が避難を終えるまで、敵が待ってくれる筈もない。魔法が効いている6分間が勝負とばかりに敵は猛攻を仕掛けてきた。相手が何人いるのか、それさえよくわからない。だが、とにかく村人達を守る事が最優先だ。
「敵の足元にマグナブローを打ち上げます。それを目印に!」
 自らの視界を確保したアクテが言い、あちこちから火柱が立ち上がる。仲間のひとりひとりにインフラビジョンを付与して回る時間も、MPの余裕もない。相手の魔法効果が切れれば、更に効果を追加する余裕は流石にないだろう。それまで、とにかくこれで乗り切るしかなかった。
「よし、見えた!」
 一瞬炎に照らされた敵の姿を目に焼き付けると、十四郎はその場所に向かってソニックブームを放ちつつ走り寄る。だが、敵もその場にじっとしている訳ではない。
「く‥‥っ、何処へ!?」
 後ろに通してしまったかと振り向いた途端‥‥
「‥‥ぐぅっ!」
 ばっさりと斬られた。
「‥‥ちっ、まだまだ精進が足りねえか‥‥っ」
 やがて6分が過ぎようとする頃、今度は家の屋根を目掛けて火矢が撃ち込まれた。家は殆どが石造りだが、屋根は草や木の枝で葺いてある。流石にそこまでは防火対策を施す暇がなかった為に、たちまち数軒の家の屋根から火の手が上がった。しかし皮肉な事に、そのお陰で現場の視界が開ける。そこに見えたものは‥‥
 ルーウィン、十四郎、レイア、そしてガルム。4人が地面に膝をついている。前衛のうち、立っているのはメグレズひとりだった。対して、敵はざっとその倍の数はいるだろうか。
「邪魔なわしらを排除してから、ゆっくり楽しもうという訳かのう」
 レイアの頭上に振り下ろされようとする剣の軌道をサイコキネシスで逸らしながら、カメノフが言った。
「そうは行きません、ここからが本番です」
 メグレズは手近の十四郎をギブライフで治療すると、すぐさま手持ちのリカバーポーションを飲み干した。次いでレイアにも同じ事を。
「くっ、不覚を取った。だが、二度と同じ手は食わん。村を潰そうとする外道に容赦はしない!」
 レイアは立ち上がりざま相手の攻撃を盾で払い除け、怯んだ隙にスマッシュを叩き込む。
 ルーウィンとガルムには仲間の援護を受けて、怜が薬を届けた。
 治療を受けて復活した仲間達は今までのお返しとばかりに思い切り剣を振るう。
「妙剣、水月!」
「妙刃、破軍!」
 頑丈なメグレズは文字通り壁のごとく村人達の前に立ち塞がり、敵の攻撃をはねのけていく。視界さえ確保すれば苦戦するような相手ではない‥‥が、何しろ数が多い。
「これだけ人を雇えるとなると、随分と潤っているのでしょうね」
 マグナブローとファイアーボムで前衛を援護しながらロッドが言う。獲物である女性や子供達は既に穀物庫の中に避難が完了していた。
「でも、これ以上良い思いはさせないわよ」
 カイトが群がる敵をスリープで次々と眠らせる。
「あら、格闘仕様の相手にはスリープが天敵ってホントだったのね。アタシ、役に立つじゃない?」
 確かに、格闘に特化した相手には精霊魔法は効きやすい傾向があるようだ。だがその反面、魔法使いには利きにくい。
「そちらは任せて貰おう」
 相変わらず離れた場所から魔法を撃って来る敵の魔法使いをその発動光で探し、エスリンは確実に仕留めて行く。
 やがて戦況の不利を感じたのか、どこからともなく聞こえた口笛の合図で、敵は潮が引くように撤退して行った。
「‥‥ねえ、追いかけないの?」
 避難所に身を隠していたマーカスが出て来て、冒険者達を見渡す。
「‥‥まあ、追いかけて捕まえられた試しがねえからな」
 だいぶくたびれた様子のガルムがその頭をひと撫でして答えた。

 そして、屋根に放たれた火を消し止め、怪我人を治療し、近くに残党が潜んでいないかを確かめた後、生け捕りにした数人の賊に対して、冒険者達の魔法による尋問が始まった。
 だが‥‥
 誰も、何も知らなかった。ただ時間と場所を指定され、指示された通りに動く‥‥互いに名前も顔も知らない、ただの寄せ集め。勿論、依頼主の事も、その本拠地も知る筈がない。
「やっぱり、そうか‥‥」
 ガルムが深く息をつく。
「また、糸が切れちまったな」
 いつになったら奴等の息の根を止められるのか。天を仰いだガルムの服の裾を、マーカスが引っ張る。
「逃げられたの? そしたら‥‥また襲って来るかもしれないって事? 皆がいない時に‥‥」
 その可能性は否定出来ない。派手に暴れて敗走し、もう来ないだろうと油断させた所で再び襲う。
「彼奴等なら、それもやりかねん‥‥か」
 エスリンが呟く。だが彼等がこの村に常駐する訳にはいかない。
「ねえ、僕を探せる?」
 暫しの思い沈黙の後、マーカスがカイトを見上げて言った。
「僕にテレパシー、通じる?」
「ええ、そりゃまあ‥‥結構付き合いも長くなったし、ねえ?」
 それを聞いて、マーカスはにっこりと微笑んだ。
「じゃあ僕、後片付けの手伝いしてくるね」
 マーカスは冒険者達に背を向けると村人達のもとへ戻って行った。
「‥‥どうしたのかしら、あの子?」
 だが、冒険者達はそれ以上マーカスの事を気にする事は出来なかった。
「‥‥村長がいない‥‥」
 今後の事を話し合おうと村長を呼びに行った玲が低い声でそう言った。
 襲撃前は確かに自宅に引きこもっていた筈だ。いつの間に、どこに行ったのか‥‥?
「彼なりに責任を感じているのかもしれませんね。村人達に会わせる顔がないと、そう思ったのではないでしょうか‥‥」
 自室には、アクテが贈ったラッキープローが立てかけてあった。
「村長ひとりの責任じゃねえのにな‥‥探すか?」
 そっとしておいた方が良いのかもしれないと思いつつ、一抹の不安を感じた十四郎が一同に尋ねる。だがその答えを聞く前に、外で騒ぎが起こった。
「た、大変だ! 子供達が‥‥村長に浚われた!!」
 家の片付けに追われ、目を離した隙に。
「大人達が隠していたこの村の真実を話してやると‥‥村長が子供らを集めてたんだ。それで、どこに行くのかと思って見てたら‥‥!」
 いつの間にか村外れに停めてあった馬車。それに乗せられて、どこかへ行ってしまった。
「ちょ‥‥それ、いつの事よ!?」
「つ、つい、今しがただ。あんたらなら追えると思って‥‥」
 カイトの問いに、村人が答える。
「まさかあいつ、これを知って‥‥!?」
 怜の言葉にカイトは慌ててテレパシーを使った。
『ちょっとマーカス! あんた、そこに乗ってるの!?』
『追いかけて来て! 糸が切れないように、僕が囮に‥‥』
 そこで、マーカスからのテレパシーは途絶えた。
「早く、助けに行ってやらないと‥‥!」
 だが、今はただ糸が切れないように、それを追うだけで精一杯だった。