【守ること、戦うこと】塞いだ耳、閉じた心

■シリーズシナリオ


担当:STANZA

対応レベル:フリーlv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:12人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月01日〜04月08日

リプレイ公開日:2008年04月09日

●オープニング

「まぁ〜た、あんな無茶してっ!! どんだけ心配したと思ってんのよっ!?」
 オーグラ退治から数日‥‥。
 相変わらず、ルル火山は噴火を止める兆候を見せない。それどころか、ますますヒートアップしているような。
 さて、今回は何に対して怒っているのかと言うと‥‥
「どうして一人で足止めしようなんて思うワケっ!? しかも、相手が毒を使うってわかってるのに、毒消し全部アイツに使っちゃうなんてっ!!」
「大丈夫ですよ、本当に危なくなったらちゃんと逃げますから」
 ルルの剣幕に押されながらも、ボールスは机に肩肘をつき、書類の上に乗ったネコを撫でつつ呑気に微笑を浮かべていた。
「それにいくら特殊能力を持っているとは言え、オーグラの足止め程度の役にも立たないのでは、円卓の騎士の名折れですしね」
「そりゃ大丈夫なのはわかってるけどっ! わかってたって心配なモンは心配なのよ!」
「それは‥‥そうですね」
 確かに、それはある。と言うか‥‥
「私も、人の事は言えないか」
 と、苦笑を浮かべる。
「でも、良かった」
「何が?」
「ジャスティンですよ。ちゃんと助けを呼んで来てくれたのが、嬉しかったな‥‥と」
「ん〜〜〜、そう思いたい気持ちもわかるけど〜」
 ルルは疑わしげに眉を寄せた。
「私達に出くわしたのも、わんこに引っ張られて来ただけじゃないの?」
「でも、私の事は何も言わずにそのまま逃げる事も、或いは嘘をついて皆を帰らせる事も出来たでしょう」
 それをしなかったという事は、口で言うほど嫌われている訳ではない‥‥と、思いたい。少なくとも向こう側へ行ってしまう危険はなさそうに思われた。それでも、僅かな心の揺らぎを捉えて巧みに引き寄せるのがデビルのやり口ではあるのだが。
「あと一押し‥‥かな」
「どうにか、なると思う?」
「‥‥多分。時間はかかるでしょうが‥‥彼が自分も誰かに必要とされている、自分を大切に想ってくれる人がいると、そう実感出来るようになれば」
 心が満たされれば、他人を思いやる気持ちも自ずと生まれて来るだろう。そうなれば、彼も馬鹿ではない。領主として自分が何をすべきか、教えなくてもわかるだろう。
 だが今はまだ、彼の心にはそんな余裕はない。固い殻に阻まれて、どんな言葉も、想いも、彼には届かない。いや‥‥届いているのかもしれないが、彼はまだ、それを素直に受け入れられずにいた。
「‥‥もう少し、もう少しだけ時間があれば‥‥」
 本音を言うなら、彼には自分の補佐として働いて貰いたい。依頼での言動や報告書を読む限り、彼の才能はトップに立つよりも、二列目としてこそ活きる性質のものに感じる。無理をして領主の座に留まらせる位なら、クラウボローを併合して‥‥楽にしてあげた方が良いのではないか。
 だが、降ろされるのは屈辱だろうし、今まで以上に憎悪を募らせてしまうかもしれない。
「難しいな‥‥」
 ボールスは大きく溜息をつくと、椅子の背にもたれかかった。

 その数日後。
「え‥‥植林?」
 ボールスに呼ばれたウォルが、思わず聞き返した。
「ええ、そうです。オーグラが暴れたせいで、随分見通しが良くなってしまいましたからね」
 嘘はついていない。確かにオーグラ達も暴れていたし。‥‥まあ、木を薙ぎ倒したのは彼等ではないのだが、細かい事は気にしない。
「ですから、森に植える苗木を手配して貰えませんか?」
 と、ボールスはウォルに必要な苗木の種類と本数を書いたメモを渡した。
「‥‥本当はあの場所に隠れ家でも作ろうか、と‥‥少しだけ、思ったのですが」
「隠れ家?」
 それを聞いてウォルが目を輝かせた。
「それ良い! 植林なんかより絶対良い!」
 隠れ家とか秘密基地とか。男の子なら誰もが一度は憧れる、自分だけの城。
「師匠! そっちにしようぜ! な? な?」
 あの場所は、森に住む者さえ滅多に立ち入らないほどの奥地にある。土地勘のあるボールスでも、犬の鼻に頼らなければ再び辿り着くのは難しそうだった。そんな場所なら隠れ家でも秘密基地でも、何を作っても誰からも文句は言われないだろう。
 勿論、そんなものを作ったからといって特に何を‥‥人目を憚るようなアンナコトやコンナコトをするつもりはないが。
「男の浪漫だよ、な、師匠!」
「そうですねぇ‥‥でも、時間がかかりますよ?」
 恐らく2〜3日の滞在では終わらないだろう。それに、何かを作るにしても植林は必要だった。
「空から丸見えでは隠れ家とは言えませんからね」
「なんだ、師匠も乗り気じゃん!」
 言われて、ボールスは苦笑を浮かべた。
「それは、皆さんの意見を聞いてから決めましょうか」
 タンブリッジウェルズの城からも、徒歩なら丸一日はかかる距離だ。何かを作ったとしても気軽に遊びに来られる距離ではない。‥‥まあ、空からならひとっ飛びではあるが。
「後はジャスティンも誘って‥‥」
「ええ、あいつも!?」
「彼にもたまには息抜きが必要でしょう? 今回は戦闘もなさそうですし、堅苦しい事を考えずに楽しんで貰えれば、少しは気持ちも解れるかと‥‥」
 今までは戦いの現場に触れさせる事で彼の内面に働きかけようとしていたが、それは余り効果がなかったらしい。ならば今度は方向を180度変えてみてはどうか。
「んー、でもアイツがいるとさ、師匠が楽しめないじゃん?」
「私は‥‥行くつもりはありませんから」
「ええっ!?」
「私がいると、ジャスティンが嫌がるでしょう? 彼の心を解すのが目的なのですから‥‥」
 それに自分が付いて行ったのでは、冒険者達の仕事を妨害する事になりかねない。必要以上の介入が彼等のプライドを傷付ける事もあるだろう。勿論、そんなつもりはないのだが‥‥。
 自分は彼等の「上に立つ者」ではあっても「仲間」にはなれないらしい‥‥ボールスはそんな事を感じていた。
「ダメだよ、そんなの!」
 その言葉に、ウォルが食ってかかる。
「師匠はあいつと仲直りしたいんだろ!? そんな腫れ物に触るみたいにビクビクしてたって、良い事なんかひとつもない。遠慮ばっかしてっと、誤解が大きくなるだけだぞ!」
「でも、相手が嫌がっているものを無理には‥‥」
「本気で嫌がってるかどうかなんて、わかんないだろ! 師匠は押しが足りないっ!」
「は、はい。すみません‥‥」
 師弟、立場逆転。
「とにかくさ、もうちょっと強気に行こうぜ? 今度は仕事じゃないんだから、依頼人だからって遠慮する事もないだろ?」
「そう‥‥かな」
 ボールスは大きくひとつ、息を吐き出した。
「では‥‥エルも一緒に連れて行って良いですか?」
 たまには外に連れ出してやりたいという気持ちと、ジャスティンに甥っ子の顔を見せる良い機会かもしれないという思いと。
「あ、良いんじゃない? そだ、どうせだからさ、3人で仲の良いトコ見せつけてやれば? そうすりゃ嫌でも自分が出遅れたって事に気が付くんじゃない? 師匠だってさ、あいつに遠慮して我慢してたんだろ? この際だから思いっきりイチャ‥‥」
 ――スパーーーン!!!
 ‥‥確かに、傍にいるのに話も出来ない、近付く事すら躊躇われるような状況は拷問に近かった訳だが。しかし、TPOは弁えている‥‥つもり、だ。多分。
「色々溜め込んでると、ストレスであっという間に老け込んじまうぞ〜!」
 そんな軽口を叩くと、ウォルは一目散に逃げていった。

●今回の参加者

 ea0050 大宗院 透(24歳・♂・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea0071 シエラ・クライン(28歳・♀・ウィザード・人間・イギリス王国)
 ea1274 ヤングヴラド・ツェペシュ(25歳・♂・テンプルナイト・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1364 ルーウィン・ルクレール(35歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea5913 リデト・ユリースト(48歳・♂・クレリック・シフール・イギリス王国)
 ea7244 七神 蒼汰(26歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 eb3630 メアリー・ペドリング(23歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 eb3862 クリステル・シャルダン(21歳・♀・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 eb5451 メグレズ・ファウンテン(36歳・♀・神聖騎士・ジャイアント・イギリス王国)
 eb6596 グラン・ルフェ(24歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb8317 サクラ・フリューゲル(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ec0246 トゥルエノ・ラシーロ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イスパニア王国)

●サポート参加者

八代 紫(eb3902

●リプレイ本文

 まだ夜も明け切らぬ早朝。猫屋敷の前に集まったのは、すっかりピクニック気分の冒険者達だ。
「重箱につめてお弁当を作ってきました。でも‥‥」
 と、一同を眺め渡して小さく溜息をついたのはサクラ・フリューゲル(eb8317)。
「この人数だと、足りないですね‥‥どうしましょう‥‥? 」
 確かに、今ここに集まっているだけで14人。しかも後から更に増える予定だ。
「どうしましょって言われてもなー」
 ウォルが答える。
「よし、じゃあオレが全部食ってやる!」
 こらこら。
「サクラとしては、それでも良いんじゃない?」
 からかい気味にトゥルエノ・ラシーロ(ec0246)が言った。
「何か色々あるみたいだし。詳しい事は道中で聞くから、覚悟しなさい?」
「あの、か、覚悟とは‥‥何の事でしょうか‥‥?」
 額に汗をかきつつトボケようとするサクラに、トゥルエノが軽く肘鉄を食わせる。
「もう、わかってるくせに〜」
「ウォル、独り占めはいけませんよ」
 そんな様子を微笑ましげに眺めていたボールスが口を挟んだ。
「後で皆さんに分けて頂けば良いでしょう? 少しずつでも保存食に添えれば彩りになりますし、手の掛かったものがあれば嬉しいものですからね」
「なんだよ、師匠だって独り占めする気満々のくせに〜。ほら、アレ」
 と、ニヤニヤしながら、後ろの方で控え目に佇んでいるクリステル・シャルダン(eb3862)に目配せをするウォル。
 ――すぱぁん!
 すかさず師匠のハリセンが飛んだ。
「いってえ! 図星指されたからって怒んなよー! 大人気ないぞー!」
「ウォル、遊びに行く訳では‥‥」
「そりゃわかってますけど♪」
 そう言いながら、七神蒼汰(ea7244)はボールスの背中を押した。
「ほらほら、邪魔が居ない間だけでも楽しまないとね。さっさと行く♪ 折角早起きして集まったのに、すっかり夜が明けちまいますよ?」
 殆ど無抵抗に押されつつ、ボールスは一同を振り返る。
「ええと、他に先行される方は‥‥?」
 言われて、グラン・ルフェ(eb6596)は手に持っていたフライングブルームを背中に隠した。
「いえっ! 俺は馬で行きますから!」
「まぁ、誰にでも休暇は必要なのでしょう‥‥。私も特に急ぐ必要はなさそうですから‥‥」
 大宗院透(ea0050)が言い、シエラ・クライン(ea0071)も仲間の様子を見て、持っていた箒をボールスに手渡そうとする。
「私もブーツで行きましょう。良かったら、どうぞ?」
「いや、あの‥‥折角ですが」
「グリフォンなら、ええと‥‥二人で乗れると思いますわ」
「‥‥ああ、そういう事ですか」
 はい、そういう事です。だが、ルーウィン・ルクレール(ea1364)は‥‥
「私は先行してもいいかもしれませ‥‥」
 ――スパーーーン!!
「‥‥あ、すまん、つい」
 思わずその後頭部をハリセンでひっぱたいた蒼汰が謝る。
「っつーか、お前さんにはケルピーがいるだろが!」
 結局、空から先行するのはボールスとクリスの二人だけになった‥‥と言うか、して貰ったと言うべきか。
「あ、そだ。師匠、オレにもハリセン貸しといてよ。ジャスティンにツッコミ入れるからさ!」
 そしてハリセンと案内役の忍犬、珠をウォルに預けてまだ暗い空へ舞い上がったボールス達を見送り、蒼汰はウォルの頭に手を置いた。
「そういやウォルは神聖魔法、少し覚えたんだって? これからも頑張れよ♪」
「まあ、おめでとうございます♪ 機会があれば腕前も知りたいですわ」
 剣術を含めて、と言うサクラに、ウォルは「べつに、お祝いされるような事じゃないだろ?」と、そっけない。
「ってか、その手をどけろーっ!!」
 ウォルのハリセン攻撃を巧みに避け、蒼汰はケルピーのシルフィスに跨った。
「暫く瑪瑙の面倒を頼むな。それじゃクラウボローで‥‥ほら、ルーウィン殿も」
 まだ薄暗いうちなら、ケルピーで街道を突っ走っても大丈夫。多分。
「では、俺達もぼちぼち行きますか」
 トゥルエノにブーツを貸したグランが言った。ついでに独り言‥‥
「まるっと二日の長をボールス様に与えてさしあげれば、いくらあの方でもナニかアクシデントを起こすことができるハズ‥‥タブン」

「ねえ、そーちゃ! かーさまは? ねえ、かーさまは?」
 城に着くなり、エルが飛び出して来た。どうやら、ルルの真似をして「蒼ちゃん」と呼んでいるつもりらしい。
「もうすぐ迎えに来るからな。大人しく待ってろよ」
 足元にまとわりつかれた蒼汰は、くしゃくしゃとそのふわふわ頭を撫でた。
「もーすぐって、いつ? ねえ、いつ?」
「そうだなあ‥‥」
 二人が一緒に連れているイーグルドラゴンパピーのスピードは、確かケルピーの半分だった筈。だが、こちらは道なり、向こうは空から一直線だ。
「う〜ん、やっぱり、もうすぐ‥‥かな?」
 空を見上げた蒼汰を真似て、上を向くエル。
「‥‥あ!」
 遠く、小さな点にしか見えない魔獣の姿を目ざとく見付けたエルは、ぶんぶんと短い両腕を振り回しながらぴょんぴょん跳ねる。
「かーさまー!!」
 やがて中庭に舞い降りたグリフォンの元に、エルは転がるように駆けていった。
「エル!」
 ボールスの手を借りて地上に降りたクリスは、そのまま背を屈めてエルを待つ。
「久しぶりね。元気にしていたかしら?」
「うん、えりゅ、げんきでいいこだったよ!」
 飛び付いて来たエルを抱き止めたクリスだったが‥‥
「おっと」
 その余りの勢いに、後ろによろけたところをボールスが支える。
「少し会わないうちに、大きくなったでしょう?」
「ええ、本当に‥‥」
 装備品の力を借りなければ、抱き上げるのはとても無理だった。暫くしたら、それさえ出来ないほどに大きくなるだろう。少し寂しい気もするが‥‥
「今のうちに、沢山遊んで‥‥沢山思い出を作っておきましょう」
 その背を支えたまま、ボールスは二人纏めて抱き締めた。あっという間に過ぎてしまうのは子供の時間だけではないが‥‥とりあえず、それは考えない事にしておこう。
 そんな様子を遠目に見ていた蒼汰は、ボールスを迎えに出て来たらしいルルに声をかける。
「俺はジャスティン殿連れ出しに先にクラウボローへ行くけど‥‥ルル殿は一緒に行くか?」
「またアイツ誘うの?」
 ルルはいかにも不機嫌そうな声を上げる。不機嫌の理由はジャスティンか、それとも向こうに見える結界のせいなのか、それは聞かない方が良さそうだ。
「まあ‥‥いいけど、付き合ってあげても。でも、私はアイツを煽てたり持ち上げたりなんか絶対しないんだから!」
 はいはい、わかってます。まあ、それは誰か他の人がやってくれるだろう。
 そして後続の仲間達が追い付くのを待ってケルピーを城に預け、ブーツに履き替えると、蒼汰は膨れっ面をしたルルを肩に乗せてクラウボローへ向かった。

「ジャスティンっ! 植林ついでにピクニックに行くぞ!!」
 都合も聞かず、勝手に屋敷に上がり込んだ上に、だしぬけにそんな事を言いだした蒼汰に、ジャスティンはこれ以上ないと言う程の渋面を作った。
 だが、そんな事はお構いなしだ。
「息抜きだ息抜き、ほら行こうぜ♪」
 強引に腕をとり、ぐいぐいと引っ張る。
「もちろん、植林と言っても領主の義務などではない。たまには、のんびりやってみぬかという誘いだ」
 問答無用で肩に乗ったメアリー・ペドリング(eb3630)が言った。
「ジャスティン殿は、元は神聖騎士であろう? 体力もそれなりにあるのではないか?」
 だが、ジャスティンはむっつりと黙ったまま顔を背ける。その視線の先を追うように、肩から降りたメアリーは正面に回った。そして、相手の目線より少し低い位置から相手を見上げる。ついでに小首を傾げ、両手を合わせてみたらどうかと思ったが‥‥それは少々、何と言うか‥‥イメージが違うような。
「僕に体力なんて、ある訳ないだろ!? 神聖騎士なんて名前だけだ」
 つれないお言葉。しかし反応があっただけマシというもの。
「それでもシフールの私よりはあろう? ついでに私の寝袋を持って貰えると有難いのだが。そうだ、保存食もお願い出来ぬだろうか?」
 森の中には馬は入れない。馬に乗せていた荷物は誰かに持って貰う必要があった。
「私のお菓子も、持って貰えると有難いであるな」
 持ちきれないほどのお菓子を買い込んで、馬に乗せてきたリデト・ユリースト(ea5913)が言った。
「後で皆で美味しく楽しく食べるである。これは絶対に持って行かないといけないである! でも、私には持てないである‥‥」
 リデトも真似して、上目遣いに見上げてみる。御年45歳にはとても見えない童顔は、こんな場合に重宝だ。
「どうして僕が‥‥!」
「ジャスティン殿しか頼れる者がおらぬのだ」
 嘘も方便。メアリーは、ジャスティンは頼りにすれば結構乗ってくれる所がありそうだと踏んでいた。
 そんなシフずの説得の賜か、半刻ばかり後‥‥ジャスティンは漸く、渋々ながらも首を縦に振った。
「はい、ありがとうございます、商談成立ですね!」
 それまで辛抱強く物陰に隠れていたグランが両手を広げて現れる。
「ジャスティン様、お迎えに上がりました! え? 汚らわしい? 慣れて下さい。長い付き合いになるんですから♪」
 もう完全に、グランのペース。ジャスティンは何も言えず‥‥何かを言う気力さえも無くしたかのように、ただ溜息をついていた。だが、口で言うほど嫌がっているようには見えない。
「前回の依頼で、存外可愛いところがある‥‥ように思えましたが、ビンゴでしたね」
 グランはこっそり、蒼汰に耳打ちした。黙って頷き返してから、蒼汰はジャスティンに向かって言った。
「じゃあ、行こうぜ? ‥‥あ、呼び捨てタメ口は嫌か?」
 返事はない。という事は、多分OKなのだと勝手に解釈して、蒼汰はにっこりと笑いかける。
「ありがと」
「‥‥ふん」
 補佐役のケヴィンには既に話を通してある。暫く留守にしても問題はなさそうだった。‥‥まあ、全く問題がないというのも、それはそれで問題なのだが。

 その少し前。
「ふはははは、さあて、久々のタンブリッジであるなぁ」
 悪人笑いを発しながら仲間達と共に街道を行くのは、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)だ。
「なにやら余の忙しい間に、例のオーグラどもはもう既に倒してしまったとか聞いたであるぞ。今度こそ余がばったばったと倒してやろうと思っていたがのぅ」
「なに言ってるのよ」
 トゥルエノがツッコミを入れた。
「いつまでも退治せずに放っておく訳にいかないでしょ?」
「それは、わかっているのであるが‥‥」
 一方ではウォルがサクラと馬を並べていた。これまでの戦いやジャスティンの事、色々と聞き出そうとするサクラだったが‥‥今のウォルは秘密基地の事しか頭にない様子だった。
「流石は男の子、と言うべきなのでしょうか‥‥」
「む、今、隠れ家を作ると聞こえたであるぞ!」
 ここにも男の子がひとり。
「ひみつきち、それは漢の浪漫! 口を出さずにはいられない! やはりツリーハウスにするであるか? 手頃な大木が必要であるな。昇降には縄梯子などがいるであろう」
 ヴラドも、語りだしたら止まらない。
「‥‥な、なんなの? このなんとも言えないオーラは‥‥っ!」
 それは、オトコの世界。女人禁制な訳ではないが、そこはやはり男の子の世界なのだ。

 そして、男の子はここにも。
 荷物の空輸と現場の下調べ、それに計画立案の為に先行した筈の円卓の騎士は、ツリーハウスを造るのに適した木の検分に熱中していた。まあ、それも確かに計画のうちなのだが‥‥何か他に、先にするべき事があるような気がするのは気のせいだろうか。
「やっぱり、この木が良さそうですね」
 などと言いながら身軽に登って行ったのは、オーグラ達から背中を守ってくれていた、あの木だった。根元に散った血の跡は、何度か降った雨ですっかり流されていた。
「とーさま、えりゅものぼゆー!」
 下で、エルがじたばたしている。
「エルには何か‥‥籠のような物を用意した方が良いかもしれませんわね」
 その様子を見てクリスが言った。何か、上で取っ手を廻すと縄が巻きついて板が上がっていく様な仕掛けを。
「ここまで‥‥登れないと思いますか?」
 ボールスは悪戯っぽく笑い、用意していた縄梯子を降ろす。
「エル、母さまを驚かせてあげましょうか?」
「はぁい!」
 エルは元気に縄梯子に取りつき、あっという間に上まで登ってしまった。
「かーさまもおいでよー!」
 本当に、子供の成長は早いものだ。

「‥‥で? 一体ナニしてたワケ、この人は?」
「い‥‥たたたっ!」
 翌日。仲間と共に現場に到着したルルに、ボールスは思い切り耳を引っ張られた。
「な、何って‥‥別に何もっ!」
 確かに、様々な点で何もしていないと言うか、何も進んでいないと言うか。唯一形になったのはツリーハウスの設計図くらいな物だろうか。と言っても、それはクリスが書いた物で‥‥
「ええと、エルと遊んで、薪を集めて‥‥夜はずっと見張りをしていましたから」
 そして今日はクリスが設計図を書いている間に昼寝。それだけ。
「それだけなんですか!? 折角二日のアドバンテージを差し上げたのにっ!」
 グランよ、君は何を期待していたのだ。いや、気持ちはわかるが。
「設計図は、まだ基本的な部分しか書いていませんの。皆さんの希望を容れられるようにと思って‥‥」
 到着した仲間達にお茶を振る舞いながら、クリスが言った。
「しかし、何も弄っていないなら検分には好都合であるな。まだ黒幕の証拠は挙がっていないのであろう?」
 ヴラドは現場を調べてデビルの痕跡などが無いかどうか、確認するつもりでいた。
「それなら私も手伝うわ」
 と、トゥルエノ。
「悪魔があれしきで諦めるとも思えないし‥‥」
「しかしまあ、派手に切り倒したであるな〜。まるで暴風なのだ」
 今まで歩いて来た森の中とは違い、すっかり視界が開けたその広場を見てヴラドがしきりに感心する。
「いや、見事な腕前ではあるのだが」
「腕前とは、何の事でしょうか?」
 すっかりシラを切り通す気満々のメグレズ・ファウンテン(eb5451)がニコヤカに聞き返した。
「これはオーグラ達が暴れた跡です。そうですね、皆さん?」
 上から見下ろされ、一同はこくこくと頷く。相手は笑顔なのに、何故にこうも恐ろしいのか‥‥。
「しかし私達が戦いを仕掛けたせいである事には違いありませんから、森を元通りにする為に頑張りましょう」
 そう言うと、メグレズはハンマーとスコップ、そしてロープを手に作業にかかった。フェアリーのアルカンシェルに、グリーンワードで苗木達がどこに植えてほしいと言っているか、何を欲しがっているかを聞いてもらい、それに沿って植林の大まかなレイアウトを決めていく。
「俺が苦戦している所を、木をなぎ払う荒業で助けてくれたメグレズさんの為‥‥いや、これはオーグラ達のせいでしたねっ」
 などと言いながら作業を手伝うグラン。もっとも、力仕事はメグレズにお任せした方が捗りそうだが‥‥そこは心意気というヤツだ。
 クリスの魔獣達、ファルとフォルティスは倒木の撤去を手伝っていた。後で製材すれば、ツリーハウスの建築材料にもなる。
 彼等の仕事ぶりを遠巻きに見ているジャスティンには「大人しい子達だから驚かないでほしい」と言ってあったが、彼はそもそも魔獣達に近付くつもりもなさそうだった。と言うか、相変わらず指示がないと何も出来ないらしい。彼はただひたすら、忙しく動き回る冒険者達をぼんやり眺めていた。
「プラントコントロールでは根を引き抜く事は出来ない様ですね‥‥」
 ビクともしない切り株を前に、シエラが呟いた。切り株に自分の根を土から引き抜くように命令出来ないかと考えたのだが、そんな自殺行為はいくら植物でも受け入れてはくれないらしい。
 ならばメタボリズムで腐食を早める事はどうだろうか。
 切り株から再生する程の活力があれば残しておいても良いだろうが、最早枯れるのを待つだけなら引導を渡してやった方が良い。力仕事担当のルーウィンや蒼汰に頼んで弱った切り株を破砕して貰うと、シエラはジャスティンを呼んだ。
「メタボリズムと言えば誰もがデスとのコンボばかり考えるらしいですけど、私はこういう使い方の方が、自然のサイクルに手を貸すようで好きなのですよね。と言う事で、かるーくお願いします」
 腐敗を促進させるとは言ってもそれなりに時間はかかるが、自然のままに任せるよりは良いだろう。
「ついでに浅く埋めておいて頂けると助かります」
 相変わらず渋々ではあるが、とりあえず言われた事だけはきちんとこなすジャスティンを、シフール二人組が盛んに褒め称える。
「誰かの役に立つ事は、気分の良いものであろう?」
 だがそんなメアリーの言葉にも、何の反応もない。
 ――すぱぁーん!
「返事くらいしろよ!」
 いきなり、ウォルのハリセンが飛んだ。
「ま‥‥まあまあ、ウォル。落ち着いて」
 サクラが慌てて割って入るが‥‥
「だってさ、こいつムカつくんだよ! なんか‥‥昔のオレみたいで!」
 確かに、以前のウォルも何を話しかけても返事をしなかったり、口をきいても「べつに」だけだったり。似たような所があったかもしれない。
「お前、皆がお前の為に色々気を遣ってくれてんのがわかんないのかよ、この石頭!」
「何が僕の為だ! これはみんな‥‥お前達がした事の尻拭いじゃないか!」
「そういう意味じゃねえっつってんだよ!」
 そんな白熱する掛け合いに、影を落とす巨大な壁‥‥じゃなくて、メグレズ。
「今‥‥この惨状の原因について、何かおっしゃいましたか?」
 にっこり。
「大丈夫ですよ。森をこんなにしたオーグラはいなくなりましたから」
 そして、ジャスティンに聖なる豹の指輪を差し出した。
「‥‥何だよ、口止め料か?」
「そう思って頂いても構いませんが」
 相変わらずニコニコ。
 そのプレッシャーに負けたのか、ジャスティンはくるりと踵を返すと、逃げるようにその場を離れた。ただし、ちゃっかりプレゼントだけは持って。
「あ、目の届く所にいて下さいねー?」
 グランが叫ぶ。まあ、周囲には鳴子を仕掛けてある。一人でどこかへ行こうとしてもすぐにバレるだろうが。
「‥‥以前、お会いした時から何か変化はあったのでしょうか‥‥」
 サクラが呟いた。気にかかってはいたし、出来れば何か話をしたいのだが。
「ジャスティン様は何をお望みなのでしょうか‥‥?」
「さあね」
 と、ウォルが素っ気なく答える。
「あいつはオレ以上に、バカで頑固で石頭らしいぜ」

 仲間の輪から離れたジャスティンに、透が話しかけてきた。
「この前の話ですが‥‥」
 ボールス暗殺の件。本人は冗談半分で聞いたつもりらしいが、無愛想で無表情なその態度から、それが冗談だなどと誰が思うだろう。
「怨みをかう様な今の闇の道を進むなら、もっと感情や私情を殺すべきです‥‥」
「馬鹿にするな! 言っただろう、僕はそこまで落ちてなんか‥‥っ!」
 その時。ジャスティンの頭の中に、声が響いた。
『‥‥決心は、ついたか?』
 ジャスティンは不安げに辺りを見回す。
「どうしました‥‥?」
「デ‥‥デビル‥‥」
 透の合図で冒険者達が集まってきた。だが、石の中の蝶も、クリスの専門デティクトアンデッドにも反応はない。
『うぬなど所詮はその程度の小物に過ぎぬと、彼奴等は皆、腹の底ではそう考えているのだ。‥‥悔しかろう?』
 それでも、声は頭の中に響いてくる。
「テレパシー‥‥か!?」
 トゥルエノが言った。あのデビルは月魔法まで使えるのか? 蝶が反応するのは直径30m。それ以上の距離から届くなら、魔法は専門以上という事だ。
『うぬが如き小物には、所詮は無理な相談であったか‥‥?』
 クリスが何度目かに達人レベルの魔法を成功させた時には、それは既に遠く去った後だった。ジャスティンの頭の中に、不快な笑い声を残して‥‥。

 それっきり、期間中はデビルの声を聞く事も、姿を見る事もなかった。
「しかし、これで一層はっきりしたである‥‥デビルがジャスティンどのを狙っているという事が」
 ヴラドが言った。
「デビルは聖職者や高貴な魂の堕落を好むゆえな」
 しかし、折角のピクニックだ。デビルの影に怯えてばかりでは面白くない。
「皆で警戒していれば良いのである。我々がいる限り、ジャスティンどのには指一本触れさせないのである」
 ‥‥という訳で。翌日からシフずがジャスティンの傍に付き従い‥‥って、それは今までと同じか。
「さてと、今日は何をして遊ぶであるかな」
 魚釣りに誘ったり、木登りに誘ったり。食べられる木の実を探しに行くのも良い‥‥ただし、余り遠くない範囲で。遊ぶ事とお菓子を食べる事の提案については、いくらでも考えつくリデトだった。
「私は錬金術の話でも振ってみるとしようか」
 ここまでの道中、趣味や気になる女性の有無などを色々と尋ねてはみたのだが、どれも反応なし。ならば問答無用でこちらの話に引き込んでしまうのもアリだろう。メアリーには錬金術についてならいくらでも熱く語れる自信があった。
 他には植林を手伝って貰うのも良いだろう‥‥ウォールホールで開けた穴が塞がる迄の間、じっと苗木を支えていて貰う、ただそれだけの事ではあるが。
「では、俺は頑張って獲物を狩ってきますね! ジャスティン様に天然物を振る舞って差し上げますから!」
 グランが意気揚々と出掛けて行く。
「そう言えば、昨日は保存食で間に合わせましたが‥‥折角ですから何か新鮮な材料が欲しいですわね」
 今回は料理を頑張る予定のサクラが言った。
「ミントにセージ、カモミールにソレル等々‥‥そろそろ良いハーブが採れる時期なのですよ♪」
 自分はそれを見付けて来ようと、シエラがいつになく楽しそうに言った。
「割と強い植物ですから、森の中でも探せば見つかるでしょうね」
「そう言えばボールス様が釣りがお得意と聞きましたね。お願いしても良いでしょうか?」
「ええ、任せて下さい」
 そしてクリスは近場で木の実や山菜などの食材集め。
「えりゅもいくー!」
 今回かーさまにべったりのエルは、勿論今日も一緒だ。何となく、そろそろお邪魔虫になりそうな気もするが、デビルの影がある以上は安全の為にも二人で一緒にいた方が良いだろう。
 残りのメンバーは引き続き土木作業と隠れ家作りだ。
「ここに隠れ家作成法の各例があります‥‥」
 ひとり駄洒落を呟きながら、フライングブルームで上空から隠れ家周辺を観察する透。木の皮を壁に貼ったり、囲まれてもいい様に逃げ道を確保する事も必要かもしれない。
「秘密基地ですか。どうでしょうね」
「なあ、この木の間に網かなんか張ってさ、自由に渡れるようにするって、どう?」
「あちこちにロープを垂らしておくのも良いかもしれぬのだ。腕力が鍛えられそうであるな」
「昇降機は荷物用にあっても良いかもしれないな。後はシエラ殿がいれば蔓か何かで自動昇降が出来そうだ」
 雁首揃えて夢中で計画を練る男の子達。
「やっぱり‥‥オーラが出てる‥‥!」
 その様子を覗き見て、トゥルエノが呟く。
「入って行けないオトコの世界を感じるわ‥‥!」
 でも、なんだか楽しそうだ。かなり、とっても。混ざりたい。しかし、最初の一歩が踏み出せない。だって、女の子だもん。
 そんなトゥルエノと同じように、彼等を見つめているのは‥‥
「ジャスティン?」
 取り巻きシフずは休憩中のようだ。
「入っていきたいなら遠慮する事ないのよ? 男の子なんだし」
 それに、誰も邪魔にしたりはしない。
「冒険者だって騎士だって立派な人もそうでない人もいるわ。けれどみんな懸命に頑張ってる。頑張ってなさそうでも、みんな必ずどこか必死に。それを否定できる者なんていないから、あとはほんの少しの勇気だけよ」
 そこまで言って、トゥルエノは急に思い出したように付け加えた。
「‥‥あ、ハーフエルフが馴れ馴れしくごめんなさいね」
「‥‥べつに‥‥お前が悪い訳じゃない」
 お、なんか反応が。
「父さんが‥‥あれは穢れたものだからって、そう言ってた。それだけだ」
 ウォルが聞いたら「お前は親父の言う事なら何でもハイハイ聞くのか!」と言いそうだ。「親父が死ねって言ったら死ぬのか!」なんて事も。
「少しは自分を好きになれそう?」
 それには答えず、ジャスティンはただその場に佇んでいた。‥‥暇してるなら、向こうでメグレズの手伝いでもして来れば良さそうなものだが。
 メグレズは倒れた木の皮を剥ぎ、綺麗に切り揃えて建築材を作っていた。その木々は殆ど全て、メグレズが自分でぶっ倒したものだ。ここは責任を持って再利用せねばなるまい‥‥小さな端材に到るまで、きっちりと。

 その頃、近くの川では‥‥河原を掘って作った簡単な生け簀に、大きな魚が3匹。ボールスの釣りは順調のようだ。
 そしてクリス達は呼べば聞こえるような場所で食材を集めていた。
「とーさまー!」
 手にした籠が一杯になった頃、エルが森の中から走り出て来る。
「とーさま、えりゅたち、おしごとおわったよ? ‥‥あ、おさかな!」
 エルは生け簀の魚に釘付けになっている。蒼汰に貰ったクッキーをひとかけら、魚達にお裾分けしてみたり。さあ、今のうちだ!
 クリスは丁寧に許可を得てから、ボールスの隣に腰を下ろした。その距離、30cmはあるだろうか‥‥そんなに遠慮しなくても良いのに。
「あの‥‥」
「はい?」
 何か言いかけて、言葉を呑み込んだクリスの顔を覗き込む。
「どうしました?」
「あの‥‥少しだけ」
 クリスはおずおずとその顔を見上げると、小さな声で言った。
「少しだけ、我侭を言っても良いでしょうか?」
 少しなどと言わず、いくらでも聞いてあげたいのに。そう思いつつ黙って頷いたボールスに、クリスはそっと身を寄せた。ほっと安堵の溜息をついたのが、その体から伝わってくる。
 ボールスはその小さな肩に腕を回した。ごめん、ありがとう、そして、愛してる。その他、言葉にならない数多の想いを込めて。

「あのねー、おさかな、おそとにでたいってゆってたの!」
 釣りをサボっていた訳ではない。腕が鈍い訳でも。ちゃんと釣れてはいたのだから。ただ‥‥
「だからね、えりゅがだしてあげたの!」
 そういう訳だ。
「それは‥‥良い事をしましたね」
 サクラが笑いながらエルの頭を撫でた。
「では、今日のメニューはこれに致しましょう」
 やっぱり、念の為に持って来て良かったと新巻鮭を取り出す。新鮮な川魚だと主張するにはかなり無理がありそうだが‥‥まあ、塩抜きをすれば何とか。ならない?
「大丈夫ですよ、ボールス様が坊主の分は俺がきっちり埋め合わせしますから!」
 グランの獲物は太ったウサギが二羽。
「おお、いよいよ食事であるな! 豊富な森の幸を堪能するのだ〜」
 大きな男の子達は遊ぶ事と食べる事が専門らしい。食事作りは女性陣にお任せだ。
「これでも料理は結構得意なのよ? 数少ない私の趣味だから‥‥ね」
 トゥルエノが得意なのは南欧風の家庭料理らしい。野外で再現するのは難しそうだが‥‥
「へえ、今度機会があったら教えてくれよ!」
 と、ウォル。
 そして食事時、メグレズは持参したプレゼントをボールス達に渡す。
「私ってそんなに食いしんぼに見える?」
 などと、レーションリングを貰ったルルはちょっと膨れたりもしたが。
「機嫌直すであるよ。ほら、お菓子をあげるであるからして」
 リデトがお菓子の山を指差す。機嫌を取るのも食べ物とは、ますますムクれそうな気がしないでもないが。
 エルには天使化計画の一環としてエンゼルティアラを、ウォルにはデザイナーのペン。ボールスが貰ったアンチポイズンリングは、これ以上魔法に力を入れる余裕のない現状ではとても有難い。
「ジャスティンどの、前回の最後はそれなりに打ち解けたようであったが‥‥このまま上手く我々冒険者の輪の中に入って来れればいいかもしれぬのだ」
 素直に同じテーブルに着いたジャスティンを観察しながら、ヴラドが独り言を漏らす。
「もっともそれはボールスどのも同じであるな」
 こちらも円卓の騎士ということで気兼ねしてるやもしれぬ、と思う。
 そのボールスは、透に「アーサー王に仕えるには忍者よりもナイトの方が良いのだろうか」といった事を訊かれていた。
「さあ、どうでしょうね」
 王がどう考えるかはわからないが、少なくともボールスは、今の彼に背中を預ける気にはなれなかった。
「何故、ですか‥‥」
 理由は教えられない。教えてやるほど甘くない。それは、自分で気付かなければ意味がないのだ。

「‥‥結局、隠れ家作りの方は余り進みませんでしたね」
 現場を後にするその日、シエラが言った。植林の方はほぼ予定通りに進んだが、隠れ家の方は殆ど計画だけで終わってしまった。
「時間のある時に少しずつ進めて行けば良いでしょう。急ぐ物でもありませんからね」
 それに、作る過程も楽しいものだとボールスが笑う。
「今度来る時は、美味しい実の生る木も植えたいであるな! 楽しみのひとつに出来るであるよ」
 流石はリデト。やはり、りんごの木?
 そして帰りがけ、ジャスティンを送って行った蒼汰は、思い切って誘いをかけてみた。
「なぁ、前に領主に為りたい訳じゃないみたいな事言ったよな? あれ‥‥まだ変わらないか?」
 怪訝そうな顔で見返す相手の答えを待たず、蒼汰は続けた。
「変わらないなら‥‥いっそ辞めてさ、こっちで補佐役の仕事教えてくれないか? 優秀な人材が欲しいんだ、アンタなら申し分ないし‥‥」
 返事はない。返事がないならOK‥‥という訳にもいかないか、こればかりは。
「とにかく、考えといてくれよ、な?」
 さて、ジャスティンはどんな答えを出すのだろうか‥‥?