【新たな斎王】巫女不足に付き 〜人の巻〜

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:1 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月01日〜06月12日

リプレイ公開日:2006年06月10日

●オープニング

●斎宮 〜戦の途中〜
「‥‥参ったねぇ、まさかこんな事になるとは思いも寄らず」
 斎宮の内部、下に見える伊勢と五条の宮の兵達を見下ろして嘆息を漏らすのは神野珠‥‥その姿が煤けて見えるのは、巫女装束が何故か薄汚れているだけが理由ではないだろう。
「とは言え、今の所は斎宮来訪中止の旨が認められた文は来ないし‥‥」
 未だ衝突せず、睨み合う両軍を見て江戸にいる斎王の元へ伊勢の現状を綴った文こそ早急に送ったが、返事は未だ来ずに予定として組まれている斎王の歓迎をどうしようかと珠は悩んでいた。
「やると言う認識でいいのかな、一先ずは‥‥まぁ万が一来なくても、簡単ながら一通りの教育は済んだし巫女云々の話もまだ皆にしていなかったから、どの様な形であれやらなきゃならないよねぇ‥‥よし、決めたっ!」
 だが時間は彼女に思考する程の余裕を与えず、返事を待つだけの時間も惜しい彼女は巫女教育の一件を纏めれば頭の中で全ての要因、流れを踏まえて結論を弾き出すと早く踵を返すのだった。

 ‥‥目の前にある、新たな問題から逃げるかの様に‥‥。

●今回の試練
「人がいない家、と言うのは何とも寂しいものだな‥‥」
「そうですね」
 伊勢、先日の試練を終え珠の家に戻って来たばかりのレリア・ハイダルゼムがもぬけのからとなっている家の様子に珍しく、寂しげな声音を響かせると暫くの間、此処に間借りして住まわせて貰っている楯上優も同意して頷いた、その時。
「ん?」
「鳩、ですね」
「文が結わえられている‥‥珠か。帰って来たばかりだと言うのに慌しいな」
 空気を穿つ、僅かな音を捉えてレリアが庭を見やればその片隅に舞い降りたのは一羽の鳩で、彼女は静かに鳩の元へ歩み寄ると足に結わえられている和紙を解き、開き放っては躍る文字からそれを書いた主を判断しては、綴られている文字に視線を這わせる。
『京都も伊勢も今は大変な事になっているけど、近々来るだろう斎王様を歓迎する事はそのまま決行! ま、これは最初に話した通りよね? 江戸からの連絡もないし、今までの試練も問題なく突破した事も踏まえて、あたしが判断したから宜しく!』
「その頃に戦が終わっていればいいが‥‥それと肝心の斎王が来なかった場合はどうするつもりだ」
「続き、ありますね」
 その内容は斎王の来訪に付いて、皆の対応を求むと言う事だったがレリアは伊勢の現状を思い出し、苦笑こそ湛えていたが厳しい声音で呟くも優に促され続く文に再び視線を躍らせると
『今回は別段制限無し、皆で相談して好きな様に持て成して頂戴。あ、でも斎宮の中はとある事情があって当面入る人員を制限しているから、屋外で実施出来る事にしてね。因みに斎王様が来なかった場合は私を労う事♪ 猶予は三日、その間にどうするか決めて練習なりしておく様に。あたしは別件が忙しいから斎王様が来る予定の日にだけ顔を出すわ』
「‥‥だそうだ」
「最近、珠さんは忙しいですからね」
「ん、まだ続きがあるか」
 次の内容は斎宮の詳細に始まり、皆に行って貰う事の一部始終が綴られていてレリアは再び嘆息を漏らすが優の言葉には確かにと頷き、まだ続く文を読み続ける。
『そして最後に。最終的に斎王様(か若しくはあたし)の反応等を見て、伊勢神宮に仕える巫女に相応しいかあたしが判断するから覚悟してね‥‥とは言っても皆の場合は非常時の要員で、巫女に認められたからと言っても伊勢神宮に常時拘束するつもりはないから、その点は安心して頂戴』
「‥‥そんな話だったか?」
「伊勢は時折、慌しいですからね。人手は多い方がいいのでしょう」
「とは言え非常時の要員とは何だ、全く」
「まぁまぁ、レリアさん。皆さんもそうでしたがレリアさんも巫女装束がお似合いでしたから大丈夫ですよ、きっと」
「‥‥‥此処まで来た以上、やる他に無いか」
 そして最後、簡単に締められているどうでもいい余談は流してレリア‥‥当初にされた話を思い出せず小首を傾げれば苦笑を浮かべる優の説明を聞けば憮然とした表情を浮かべ剣士は憤慨するが、的の外れた巫女の言葉に深く溜息を付くと頭を掻きつつも冒険者ギルドへ文を送るべく、まずは和紙と筆を探すのだった。

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 依頼目的:斎王の歓迎!(場合によっては珠の慰労)

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は伊勢神宮から出ます。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 関連NPC:神野珠(本番当日に合流)、楯上優、レリア・ハイダルゼム(同道)
 日数内訳:京都から伊勢二見にある斎宮まで往復日数七日、準備期間三日、本番一日。
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●今回の参加者

 ea2448 相馬 ちとせ(26歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5298 ルミリア・ザナックス(27歳・♀・パラディン・ジャイアント・フランク王国)
 ea5480 水葉 さくら(25歳・♀・神聖騎士・人間・ジャパン)
 ea5556 フィーナ・ウィンスレット(22歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea7694 ティズ・ティン(21歳・♀・ナイト・人間・ロシア王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb1210 ファルネーゼ・フォーリア(29歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

源真 霧矢(ea3674)/ ミィナ・コヅツミ(ea9128)/ 神哭月 凛(eb1987

●リプレイ本文

●斎王来訪を前に
 伊勢は二見‥‥戦乱を乗り越えた斎宮を前に集う、巫女装束を纏った十人の巫女達。
「何とか乱も治まって何よりだな。これで安心して斎王様を迎え入れる準備が出来よう」
「でもジャパンの宗教施設で斎王様の歓迎、ねぇ‥‥外国人にはかなりの難題ね」
「えぇ、異邦人の私が無事に巫女としてお迎えする事が出来るかどうか‥‥ちょっと不安です」
「そこを気にしていたら何時までも始まるものが始まるまいし、何より此処まで来たのだ。もう少し位自信を持っても構わないと思うぞ」
「‥‥はい、そうですよね」
 その一行が中、それなりに荒れ果てている光景ではあったが‥‥普段は厳しげな面立ちの中に僅かだけ安堵の笑みを浮かべてガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が呟きに、頷きこそするも不安だけは隠せずに金髪を弄ってはロア・パープルストーム(ea4460)がその身を縮めこませると、フィーナ・ウィンスレット(ea5556)も表情を曇らせながら同意するが‥‥彼女らを宥める様にレリア・ハイダルゼムが静かに声を掛ければ、暫くの間を置いて二人に漸く笑顔が浮かぶ。
「これがいよいよ最後の試練ですね。でも、斎王様ってどんな方なのかしら?」
「そう、ですね‥‥」
「私も話だけでしか聞いた時がないので良く分かりませんが、聡明な方だと聞いております」
 しかしながらその傍らでは相馬ちとせ(ea2448)は言葉の割に頬を赤く染めては発奮していたが、ふと思い浮かんだ疑問を口にすれば水葉さくら(ea5480)も同じ事を考えてらしく、二人は揃って首を傾げるが皆の背後に立っていた楯上優が簡潔な答えにはちとせ、唇に指を当てては頭上を見上げるも
「‥‥ですがそれだけにお会いするのが楽しみ、です」
 さくらが漏らした小さな呟きには納得し顔を見合わせては二人、頷き合う。
「歓迎するなら、メイドの私の得意分野だね。頑張るよ!」
「でも、メイドである前に今のわしらは伊勢神宮の巫女である事も忘れずに‥‥のぅ?」
「もっちろん!」
 すると次に響いたのは一行の中で一番に小さなティズ・ティン(ea7694)が笑みを湛えれば、その彼女とは逆に長身であるエルフのファルネーゼ・フォーリア(eb1210)がその身を屈ませ諭すも、頷いて彼女へ応えればティズは皆へ呼び掛けては真先に、目の前に聳え立つ斎宮目指して駆け出すのだった。

『喜んで貰える様、願ってます☆』
「ふむ、頑張らねばな」
 さて一行、一通りに打ち合わせに優との確認を取った上で行動を開始すればその中、必要な資材を買い出すべく伊勢の町に戻る巨躯の巫女候補がルミリア・ザナックス(ea5298)は知人から託された手紙を見て、最後に躍る激励の文字へ感謝すればまずは自身が作ろうとしている物の材料を探す。
「通じているのかね、まぁ良く分からないけどジャパンで歴史が深いのはやはりこっちだな。尤も、巻物が持つ意味合いとは違うだろうけど」
「なるほど、ねぇ」
 ファルネーゼと共に斎王が存分にくつろげる場を拵えるべく資材の買出しに励むロアは通りすがり目に留めた札から彼女がしてくれた話を思い出し、露店に佇む青年から話を聞きながら軒先に並ぶ幾枚もの札を見つめ、簡素ながらも魂込めて作られたそれに感嘆の声を漏らす。
「どうじゃ?」
「勉強になったわ‥‥でもこれ、私には今すぐ作れそうにもないのよね」
「なら、一枚どうだ? 暇潰しの礼に一枚ならただでやるよ」
 その時、様々な荷を抱え戻って来たファルネーゼの声が響けば彼女は素直に感想を述べるも次いで、躍る文字の複雑奇怪さから今の自身には作れない事をも感じてぼやけば、その様子にロアの話に付き合っていた青年が笑い言うと、先以上に真剣な眼差しを湛えて彼女は改めて札を食い入る様に見つめ‥‥口を開いた。
「疲労に効くものってないかしら?」

●心よりの歓迎
 そして三日目は優指導の元、礼儀作法について教われば付け焼刃ながらも巫女たる立ち振る舞いを得た一行はいよいよ当日、斎王との邂逅を前にしていた。
「‥‥流石に少し、緊張するの」
「そう言えば、今更な質問なのですが‥‥『斎王』とは一体、何なのでしょう‥‥?」
 斎王が座する場を前に包む、普段の依頼とは全く違った緊張感が漂う中で‥‥それに飲まれファルネーゼが喉を鳴らせば一行も同様に頷くが、そんな場にも拘らず‥‥いやむしろ皆の緊張を解そうとしてか、さくらが素っ頓狂な質問を繰り出せばその問いへは珠。
「そうねぇ。起源は長くなるから割愛するとして、『斎王』は未婚の内親王や女王が勤める事となり、天照大御神の御杖代‥‥まぁ、神の意を受ける依代として長く伊勢神宮に奉仕する人の事ね」
『‥‥へー』
「ま、いいけどね。それじゃあ行くわよ」
 別段戸惑う事無く、自身が知る『斎王』に付いての知識を掻い摘んで説けば一行は生返事だけ返すと嘆息を漏らす彼女だったが、今は一先ず諦めて皆の先に立っては進み‥‥何時作ったのか、『歓迎! 斎王様♪』と書かれた看板にてるてる坊主がぶら下がる陣幕の布をめくるや同時、良き香りが流れる色彩鮮やかな場にて即座に膝を折っては頭を垂れる。
「斎王様にはご機嫌麗しく‥‥」
「その様な殊勝な事を言う貴女はどちら様でしたか‥‥あぁ、冗談です」
 そして続く珠の声音は今まで聞いた記憶のない、真面目な調子に言葉遣いで十人の巫女達は流石に驚くが‥‥珠とは顔見知りなのか、彼女の形式的な挨拶を途中で遮る『斎王』へ皆は今度、目を丸くするも
「遠路の長旅、お疲れの事と存じます。心ばかりの拙いもてなしですが、暫しごゆるりとお寛ぎ頂けましたら幸いです」
「何かありましたら、是非お申し付けを。この日を待ち望んでいたのですから」
「余りお気遣いなさらずとも結構ですよ、ですが感謝致します。暫しの間、宜しくお願いしますね」
 ルミリアが作った香り袋が放つ香りに落ち着いて、礼儀正しく頭を垂れては『斎王』を敬い労いの言葉を掛けるガイエルとロアへまだ年若い『斎王』は微笑を返した後、彼女も頭を下げれば改めて一行を見据え口を開いた。
「これより以降、伊勢において斎王を勤める事となる祥子内親王です。至らぬ所はあろうと思いますが、宜しくお願い致します」

 さりとて、それより場は斎宮の前へ移り広大な庭の真中にある舞台にて。
 官人官女等を含めた斎王以下五百人程の視線が注がれる厳粛な空気の中で佇む一行‥‥優が携える神楽鈴の音が凛と響き渡ると玉串持ちし九人、同時に動き出せば斎王へ神楽舞の奉納を始める。
 傍から見れば何処かぎこちない舞ではあったがそれでも真摯な気持ちだけ忘れずに皆が舞えば、それは確かに斎王へ届いていた。
「舞としては例え拙くとも、皆の目を惹くものはありますね」
 だが一行は彼女が漏らした感想は神楽鈴が音色にかき消され皆の耳には届かず、だが一行は一つの信念だけを持って舞を続けた。
(「全ては斎王様の為に!」)

「な、何か御用があれば‥‥遠慮なく仰って下さいね」
「えぇ、ありがとうございます」
「粗茶ですが、どうぞ」
 神楽舞終わり暫し‥‥たおやかな笑顔湛える斎王のその傍らに座り、相変わらずおずおずと尋ねるさくらだったが親しみを込めて響いたその声音に斎王は笑顔のまま答えるとその場にお盆を抱えやって来たフィーナ、一つの茶碗を差し出すも斎王が傍らに立つ側近がそれを阻むとその意を早く察して彼女、僅かな躊躇の後に器を下げようとする。
「珠が信頼を寄せている者です、その行為を無碍にしてはなりません」
「しかし‥‥」
 だが斎王、凛とした声音を響かせて側近を嗜めればそれでも食い下がる彼女へ一瞥だけで下がらせるとその器を手に取り内親王はガイエルの魔法によってしっかり冷やされてはフィーナが心血込めて淹れた冷茶を飲むも、次には僅かに眉を顰める。
「英国の薬草からに出したお茶ですが‥‥お口に召しませんでしたか?」
「いえ、外国のお茶は飲んだ事がなかったもので」
 その表情を見て恐る恐る問うフィーナだったが、それは杞憂で表情を綻ばせ斎王は彼女へ言うと改めて茶碗へ口をつける。
「美味しい、ですね」
 そして笑顔と共に返って来た感想にそれを淹れたフィーナは此処で漸く胸を撫で下ろした、その時だった。
「やっぱり食事は皆で食べた方がいいから、皆で一緒にたべよっ! と言う事でこれから料理を作りまーす」
 機を伺っていたのだろうティズの声が斎王の注意を惹けば、場に居合わせる皆の視線も注がれる中で彼女は人懐こい笑顔を浮かべて長大な剣握り、目の前に転がる豚へ挑むのだった。
「ティズ、いっきま〜す!」

「うぅ〜ん‥‥」
「ま、まぁ‥‥そんなに、気落ちしないで‥‥下さい」
「えぇ、料理はとても美味しかったですから、ね?」
 それより暫し、伊勢の隠し芸大会では好評だった先の結果が此処では裏腹に不評だったティズが地に倒れ付しては呻く今、彼女を慰めるさくらに内親王も続けば彼女は漸く顔だけあげると
「あ‥‥始まりますよ」
 先に神楽舞が舞われた舞台に久しく誰かが現れれば、二人を促してはさくらがミトンをつけたまま、手を叩いてはポフポフと気の抜けた拍手を舞台に立つ皆へ送った。

「昔々ある所に、滝壷を占領して民草を困らせる悪い河童達が居ました」
 寸劇のお題は特に明示されていないが、舞台の傍らに立つちとせの語りからとある村やその近隣にある滝を訪れる者達へ悪戯を行う河童がいると言う設定らしい。
「悪いごはいねがぁ〜」
『それは少し違う気が』
 そんな中、舞台に現れたのはルミリアが扮する一匹の‥‥非常に大きな河童。
 だがそれを気にせず演じる彼女の、正確にはちとせ脚本による台詞へ密かに突っ込む観客達だったが、ルミリアは気付く筈もなく舞台は次の場面である伊勢神宮へ移行する。

「えーっと。こんな感じかしら、ね?」
 その頃、舞台袖で首を傾げながらロアは自身がイメージする映像を舞台の奥に垂れ下げた布へファンタズムの巻物を用い、背景として投影していた。
 丁度今はフィーナらが演じる伊勢神宮の巫女達が村を訪れては河童の話を訪ね回っている場面。
「そう言えばあの河童達、ちゃんと言いつけ守っているかしら‥‥でも一体、何があったのかしら。どうにかしてあげたいのだけど」
 その中でふと、先日の一件以降からもあの滝で一時的だが暮らしている河童達を思い出せば伊勢神宮で調査している筈の、その原因が気になるが‥‥ちとせの台詞に場面の変わり目だと気付いて彼女、再び背景を置き換えた。

「そこに現れた、我ら正義の伊勢巫女軍団!」
 ロアが効果の高い巻物に込められた魔法を行使出来る時間が短い為、テンポ良く進む寸劇はいよいよクライマックスへ迫る。
「く、どうにでもしやがれっ」
 漸く河童の住処を突き止めた巫女達、河童の元へと迫ればルミリア河童が腹を括り叫ぶ中でレリア河童は何故か白旗を振るだけ。
「貴方は自分が派手に悪い事をして、仲間の窮状を広く知らせたかっただけなのじゃろう‥‥?」
「っ、そんな事は!」
「泣きたい時は、遠慮せずとも良い」
 その彼女らを見つめる緋袴ながらも微妙に色合いが違う五人の巫女達が一人、ファルネーゼが目を細め問い質すもレリア河童が相変わらず白旗を振る中でルミリア河童は的を射られ、呻くが素っ気無い口調ながらもガイエルが二人を見つめ言えば
「私達は誰をも救う為、此処までやって来たのですから‥‥もう、大丈夫ですよ」
「‥‥うわぁぁぁん!」
 穏やかな微笑を菩薩が如く湛えたフィーナの言葉に打ちのめされるとルミリア河童は泣いて彼女に抱きつくのだった。
「彼女達の心からの説得を受けて、河童達は改心したのでした。これもひとえに神宮、ひいては斎宮様のご威光でありましょう。どんとはれ」
「‥‥面白そう」
「え?」
「いえ、これは事実に基づいたお話でしたよね? どうやらやるべき事は山の様にある様で」
 そして背景が僅かに歪む中でちとせが寸劇の最後を締めると‥‥受けは良かった様で、官人達の拍手が場に響けば斎王も拍手こそすれ、的のずれた呟きを漏らせばそれを聞いていたティズが首を傾げ振り返るも彼女の様子に斎王は慌て、すぐに真面目な表情を浮かべれば伊勢の実情が一端を垣間見て、艶やかな自身の黒い前髪を掻き揚げた。

●未来
『私達の為に、わざわざありがとうございました。珠の話ではどうやら皆様伊勢神宮の巫女になられるとか、今後ともご縁が続きそうで嬉しい限りです。何かあった際にはまた宜しくお願い致しますね』
「最後はやっぱり、綺麗にして帰りたいよね♪」
 意外にも人懐っこい一面を見せた斎王が一行と別れ際、笑顔と共に一行へ掛けた言葉を思い出してはすっかり巫女装束も板についたティズ、料理の失敗は忘れて広い斎宮の片隅を竹箒で上機嫌に掃きまくっていた。
「レリア様の‥‥意外な一面が見られて、楽しかったです。またの機会、があったら‥‥宜しく、お願いします‥‥ね?」
「エドに宜しくな」
「‥‥あぁ、何かあった時は此方こそ頼む」
 そしてティズが申し出に皆も賛同し、散っては手伝うその中で長かった一連の依頼の終わりを惜しんでか、レリアを挟みさくらとガイエルが忍び笑いを堪えながら礼を告げれば彼女が僅かに顔を顰めながらも頷き返すと
「本当に楽しかった、忝い」
「いえいえ、本当に今までお疲れ様でした。またご縁が合ったら此方こそ宜しくお願いしますね」 
「それと珠殿、河童巫女‥‥とかはともかく、異文化、異種族交流もだんだん盛んとなろう。だが、楽しむ気持ちに垣根は無い。貴女なら必ず皆と友になれるだろう」
「とにかく、お疲れ様。貴女の為にこれをあげるわ、まだ一息つく訳には行かないでしょうから、それまではこれで我慢してね」
「やー、色々と嬉しいわねぇ」
 感謝の意を告げては斎王に接する時と変わらず、恭しく優と珠へ一礼するルミリアと初日に貰った札を手渡すロアへ二人はそれぞれに表情を綻ばせるも
「そう言えば、伊勢神宮の巫女のお話ってどうなったのじゃ?」
「あー、そうねぇ。すっかり忘れていたわ」
『‥‥‥』
「皆合格!」
 とその時になって肝心な事を思い出したファルネーゼが掌打てば、次いで紡ぐ問いと共に珠を見やるとその彼女は臆面もなくそれだけ言って、皆を唖然とさせるが珠はすぐに答えを提示すると場に響くのは歓声。
「だけどあたし、今忙しいから色々と遅れるかも知れないわ。手続きが結構大変なのよね」
『手続きって‥‥』
「まぁでもそう言う事。とにかくこれからまた、有事の際には宜しくね!」
 だったがそれも束の間、捲くし立てて言う珠に一行はその最後もやはり口を開ければ皆が浮かべる表情に苦笑だけ浮かべる優の傍ら、レリアが嘆息を漏らしている事にも気付かず彼女は何時もの笑顔だけ皆へ労いの代わり、贈るのだった。

 〜終幕〜