巫女部隊【名称未定】起動

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:9 G 43 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月25日〜07月07日

リプレイ公開日:2007年07月02日

●オープニング

●更なる歩み
「で、段取りは整ったのね?」
 伊勢は斎宮‥‥その内部が頂点の中央にある斎王の間において、側近の光より報告を受けて頷き尋ねたのはその部屋が主である現斎王の祥子内親王。
「各所より承認が降りましたので、次の段階へ移行出来ます」
「そう、お疲れ様。漸く‥‥なのかな」
「そうですね」
 その問い掛けに対し、側近は深く頭を垂れたまま肯定の旨を告げると斎王より労いの言葉と、次いで紡がれた感慨の言葉を受けて光は答えながら益々頭を垂れるが
「所で、肝心の人選ですが‥‥どうされますか?」
「うーん、そうねぇ」
 しかし次にはすぐ顔を上げると、これより設立される巫女達の部隊に付いて質疑の立場を先までと逆にして尋ね掛ければ、首を傾げて斎王は惑う事暫し。
「どうしよっか?」
「‥‥本来であれば有力な寺院から相応しい面子を集めるべき、なのでしょうが」
「時間も余りあるとは思えないし、警護も考えると一寸人が多過ぎるのよねぇ‥‥そうなると」
 やがて質問に質問を持って返して来た主に側近は密か、嘆息を漏らすがすぐに一つの提案を掲げるも‥‥斎王が次に紡いだ意見は果たして彼女も考慮していたからこそ最後まで言わず、すぐに次の案を考えるが
「冒険者から公募、しかないわね」
「ただ、巫女としての経験が」
「最低限の講習を実施し、後は実践で経験を積んで貰うしかないわね。一応だけど過去の実績もあるし」
「習うより慣れろ、ですか」
「そう言う事、ルルイエも含めて‥‥ね」
 しかし考えあぐねた末に出た、斎王からの新たな‥‥と言うよりは二番煎じな案を聞くと側近はそれも考慮していたからこそ、すぐにその問題点を挙げればしかし斎王はそれを意ともせず次に言葉を返せば渋面を湛え呟いた光へ頷き掛けると
「とりあえず、どれだけ残っているか分からないけど以前に募り集った巫女を中心に面子を集めて頂戴。後は中核になるルルイエと経験者の優に声を掛けておいてね」
「はっ」
 大雑把ではあるが指示をすぐに下せば、立ち上がり踵を返した光の背中を見つめつつボソリと囁くのだった。
「‥‥一つ、大きな機を迎える以上は早急に手を打って伊勢内の体制を整えないと、ね」

「‥‥必要な衣装や道具に関してはこちらでも準備しておきますので、以上の内容で宜しくお願いします」
「分かった」
 後日、京都の冒険者ギルドを訪れる楯上優とルルイエ・セルファードの姿が見受けられればその依頼は早々とギルド員の青年によって受理され、依頼書に認められていた。
「しかし来て早々、大変だな」
「いえ、埴輪だけ造っているのも飽きたのでジャパンの事に付いて知る丁度良い機会です」
 その最中、彼は伊勢へ携わって早々に巻き込まれる形となったルルイエへ話し掛けるも、彼女は苦笑を湛えて答えを返せば
「でも、以前はこんな事はなかったのですが‥‥」
「話を聞く限り、恐らくは眠っていた一年の間に覚醒したのでしょう。命を持たぬ者を察知する力に」
「‥‥何ででしょうね?」
「そればかりは何とも」
 次には唐突に、自身が今回の依頼に招集された理由‥‥何故か死霊の存在を察知する事が出来た以前の依頼を思い出しては呟くと彼女が英国から今に至るまで、ある程度の事情を聞いていた優が自身の推測を述べるとルルイエは果たして首を傾げ、尋ねればそれには苦笑を返すしかない巫女であったが
「それでは暫くの間、宜しくお願いしますね。一先ず今回は伊勢において重要だと思われる地を回り、清める事です。以降は斎王様のお話通りなら近隣の祭事等に出向く事もあるかと思いますし、もしもの時は‥‥」
「私に出来る事があるのなら、私にしか出来ない事があるのなら‥‥もう二度と後悔はしたくないので、何事にも臨みますよ」
 改めて彼女らが新しく設立され、所属する事となる巫女達の部隊が今回と‥‥それより後に臨む任に付いて語り、しかしその最後は自身の優しさか甘さからか言い淀むもルルイエはそれを受ければ先までと表情を変え、決然とした面持ちを湛え頷くのだった。

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 依頼目的:伊勢の各地を清めて回れ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は斎宮側が準備する為、不要です。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:ルルイエ・セルファード、楯上優
 日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は八日。
 その他:女性限定(申し訳ありませんがご協力、宜しくお願い致します)
 また、部隊名を募集していますので宜しければ検討下さい。但し、その際は相応しいだろう名前でお願いします。
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●今回の参加者

 ea1569 大宗院 鳴(24歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea4591 ミネア・ウェルロッド(21歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 eb0524 鷹神 紫由莉(38歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3581 将門 夕凪(33歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb4756 六条 素華(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb4803 シェリル・オレアリス(53歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

●集う、巫女達
 京都より伊勢へと至るは、女性だけで構成された冒険者達‥‥その彼女らが今回、引き受けた依頼とは斎宮にて募っていた巫女部隊に加わる為。
「んー、私は巫女だわ。過去、沢山の試練を仲間と共に切り抜けて来た内の一人よ」
 そんな一行の中、過去にもあった伊勢神宮にて急遽募集があった臨時巫女募集の際に名乗りを上げたロア・パープルストーム(ea4460)が金髪をはためかせながら昔を懐かしみ、呟けば
「伊勢も長いわ。神宮も、知らない場所ではないわ。私は何時も清く、正しい。紛れもなく一点の曇りなく‥‥私は巫女」
「‥‥大丈夫ですか?」
 その当時を思い出すかの様、先ずは自身に思い込ませるべく一人囁き続けるとそれを見守っていたルルイエ・セルファードはいよいよ我慢出来ず、尋ねると
「五節御神楽とは別の巫女部隊か。以前、祥子様が来られるまで少し巫女修行させて貰った経験を活かし、私も手伝うとしよう。しかし‥‥」
「しかし‥‥どうかしましたか、ガイエルさん?」
「いや、何でもない」
 ロアが彼女に慌て、応じるその傍らでは彼女と同じく巫女経験があるガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が決意を新たに固くするも‥‥その言葉尻が淀めば、その惑いを見抜いて一行の引率役でもある楯上優が首を傾げると、その際に与えられた二つ名を思い出せて彼女は渋面を湛えつつも首を左右に振るが
「巫女さんかぁ〜。ミネア、あんまりジャパンの宗教詳しくないけど‥‥出来るんならやってみよっかな♪」
「えぇ、大丈夫ですよ」
「あっ、でもミネアは既に新撰組の三番隊仮隊士なんだけどそれでも巫女さんの部隊に入れるのかなぁ?」
「‥‥えーと?」
「ま、良いんじゃない。どっちつかずだと困るけど今の所はね」
 『巫女』と言う単語を改めて聞き、小さき剣士がミネア・ウェルロッド(ea4591)が惑いを見せつつも此処で漸く腹を括れば、笑顔にて応じる優だったが‥‥次に響いた彼女からの言葉には惑いで応じ、しかし斎王が顔見せ程度か唐突に現れてはミネアを見つめ言うと彼女もまた笑顔を湛えれば
「将棋や囲碁は神が我々に与えた遊戯とも言われています。この経験によりもしかしたら、その極みに少しでも近付く事が出来るかも知れませんね」
 やはり『巫女』と言う言葉を受けて次に六条素華(eb4756)が静かな面持ちにて淡々と呟くと‥‥直後、何時の間にか皆の視線を受けている事に気付けば一つ、咳払いの後。
「勿論、我が国の現状を憂いての志願ではありますが」
「そうですね。日本の信仰の中心の伊勢の情勢は京都、神皇様を守る私達志士にとっても大事です。故にジャパンは伊勢を中心とした日本古来の信仰を心に確り、柱に持たねばと思い志願しました」
「おぉ、偉いわね! 感心感心」
 自身が動機を付け加えれば、果たしてその後に頷いた志士の鷹神紫由莉(eb0524)が艶やかな笑顔を浮かべ、素華の後に続くと二人に感心する斎王だったが
「就職したいのですが、何処か紹介して頂けませんか」
「‥‥えーと」
「そう言った巫女さんなら、別の所を当たって頂戴な」
「嘘です、ごめんなさい」
 それならばと口を開いた、一行の中で一番に見た目は巫女らしい大宗院鳴(ea1569)の動機‥‥と言うか、問い掛けを聞けばそれには当然に戸惑う優ではあったがすぐにばっさりと斎王が斬って捨てれば、即座に頭を垂れて詫びる鳴へ苦笑を湛えつつも改めて集った巫女候補達を改めて見回した後、斎王は笑顔で告げるのだった。
「まぁ、取りあえず無事に面子は集まったと言う事で‥‥これから暫く、宜しくね!」

●巫女に付いて 〜教育実習?〜
「作法とか分からない事ばかりですが、宜しくお願い致します」
 伊勢神宮の正宮‥‥その傍らに建てられている神楽殿に一行が集えば、その内部に漂う厳かな雰囲気を即座に感じ取った将門夕凪(eb3581)が何処かぎこちなく、改めて巫女に付いての手解きをしてくれる優へ深々と頭を垂れれば
「大丈夫ですよ、そちらにいるロアさんやガイエルさんも以前はそうでしたから」
「‥‥ごめん、作法とか一寸忘れたかも」
「でも、何事もチャレンジするのが吉よね」
「そうですね」
 彼女の固い反応にも表情を綻ばせて、優が宥めればロアを見やるも‥‥すぐに返って来た、ロアの自信なさげな言葉が場に響くもそれを慰めるかの様にエルフのシェリル・オレアリス(eb4803)が声を掛ければ、頷いて夕凪。
「でもせめて、見た目だけでも巫女らしく見えれば良いのですが‥‥」
「何か、落ち着かないですよね」
 身に纏う着慣れない巫女装束故に自身の全身をくまなく見回し言えば、それには同意とルルイエも苦笑を湛えると顔を見合わせる二人だったが‥‥次に先までとは違う調子で優の声が凛と場に響き渡ると、場の空気が一変した事から皆は彼女の方へ視線を向ける。
「先ず初めに、部隊創設の意図ですが‥‥斎王様曰く、人々に安らぎを与え安寧を守る為に‥‥だそうです。よって、当部隊の主な活動としては祭祀に携わる事が多くなると言う話でした」
「あれ、そうなの?」
「‥‥後は、状況にも寄るでしょうが余程の事がない限りは」
 すれば彼女の口より先ず、紡がれた巫女部隊創設の意図にミネアが首を傾げれば僅かに肩を落とす優ではあったが、すぐに気を取り直せば苦笑を湛え彼女に頷き返すと手近な窓より見える外と、浮かぶ太陽の位置を見ては再び言葉を紡ぎだす。
「それでは時間も余りありませんので先ずは巫女、と言う存在に付いて‥‥」
「所で、巫女は僧とは違うものなのでしょうか?」
「えーと‥‥僧の方が基本、戒律が厳しいですね。五種の戒を設けていますから」
 その最初、歴史や文化の側面から見た巫女に付いての講釈‥‥を説こうとしたその前、素華が一つの率直な疑問を優へ投げ掛けるとそれを前に彼女は僅かに惑うが、すぐに明確な差を彼女へ提示すると
「‥‥話の腰をまた折る様ですいません、もう一つお聞きしたいのですが」
「はい、何でしょう?」
「結婚した事のある者、子供のいる者には巫女になる資格はあるのでしょうか?」
「あ‥‥」
 それに頷く素華の傍らにて、遠慮がちに掌を次に掲げたのは紫由莉。
 自身の今まで歩んで来た道と先に優が上げた五戒の話から思い浮かんだ疑問を紡げば、それに自身も思い当たるからこそ反応して口元を抑えて声を漏らす夕凪だったが
「そう言った印象を持たれる方が多いのは事実ですが、実の所はその限りではありませんので問題はありません。では改めて‥‥先ずはその源流から」
 その疑問を前、優は苦笑を浮かべれば一般的に伝えられている風説を一蹴すると改めて一行を見回した後、漸く本題を切り出した。

 さりとて、巫女に付いての歴史から始まった講義はやがて祭祀の際に用いられる道具への講釈に変わり、皆それぞれではあったが一先ずは必要最低限の知識を得れば次には実習へと移ったが、特に重点が置かれたのは神楽舞だった。
「皆さん、筋が良いですね」
 皆が皆、何度か目にした優の舞を見よう見真似で実践する光景を彼女が見ればその表情を綻ばせると
「武道の型は動きに意味があり、神楽舞にもまた似ている所があるからだと思います」
「ミネアはそんなに難しい事、考えてないかなー」
「慣れると面白いですよね?」
 彼女へ夕凪が抱いた感想を率直に返しながらも舞い続ければ、その傍らにて足元おぼつかずともしっかりした軌跡を描きながら舞うミネアも頷き応じるとルルイエもまた微笑を湛えれば皆へ頷きかけて優。
「尤も、大事なのはその動作ではなく心のあり方です。清々と、神へ祝詞を織り舞を披露している事‥‥それだけは忘れずに肝へ銘じておいて下さいね」
 表情を尚も緩め、しかしはっきりとした口調にて皆へ告げればもう暫く皆の舞を見守るのだった。

 皆、冒険者と言う事もあってか神楽舞に付いては然程労せず、ぎこちなさこそ残るが一通りの型を覚える頃になれば、充実した一日は終わりを向かえ‥‥伊勢神宮にて一晩を過ごすと翌日より伊勢藩内の要所を清めるべく、十人は部隊として初めての任務へ臨んだ。

●清廉潔白であれ
「行った事がある所なので、迷う心配もなくていいですね」
「まぁ、そうですね」
 翌日、先ずは鳥羽へと向けて伊勢神宮を発った一行は道案内を勤める優と鳴の後を追えば笑顔を湛える鳴にシェリルも笑顔で応じ、頷くが
「あ、そう言えばこの辺りは伊勢海老が美味しいんですよー。後はー‥‥」
『‥‥‥』
 鳥羽の海が見えて来る頃になれば、唐突に饒舌となっては鳥羽の名物談義を始めた鳴の様子に皆は唖然とするも、しかし皆の反応には気付かず彼女。
「あ、ほら。着きましたよー‥‥ってどうしたんですか?」
「いや、この様な雑念は問題ないのだろうかと思ったのだが‥‥」
「‥‥少し、厳しいですね」
「えー!」
 やがて最初の目的地に辿り着いた事を告げれば漸く、皆の反応に気付いて振り返り様に尋ねる彼女はガイエルの疑問と優の回答を聞けば直後、不満げに叫んだのは公然の事実だった。

 それより後‥‥鳥羽の要石から始まった清めの儀は伊雑宮、倭姫命腹掛岩と何事もなく推移する。
「勇がいなかったんだけど、何をしているの?」
「レイさんと一緒に修行に励んでいると言うみたいですよ?」
 その移動の間、ロアがルルイエに途中にて寄った伊雑宮の宮司が息子の名を上げては不在だった理由を尋ねる程、余裕がある道程もほぼ終わりが近付いた折。
「何事もなく、此処まで至れた事に果たして何らかの意思や思惑は働いているのでしょうか?」
 順調過ぎるが故に素華が訝るのも尤もだったが、此処最近は妖怪達の動きが僅かとは言えなりを潜めている伊勢の情勢を考えるとある意味、何事もなかったのは当然と言えば当然だった‥‥例え今の状況に何らかの意図があろうと、なかろうと。
「久々ではあるが、やはり此処も場の空気は余り良くないな」
「何となく息苦しい、ですね‥‥」
 そして場は変わり、漸く一行の前に最後の清めの場である斎宮跡が現れれば‥‥大きくも静かに佇む建造物を前にガイエルが厳かな口調にて瞳すがめ呟くと、直後にルルイエもか細い声にて場の歪みを察知してか、言葉を漏らすも優が門前から皆の方へ振り返れば呼び掛ける。
「先ずは要石を前に今までと同様、清めの儀を行いましょう。それから辺りも清める事にします」

「これが、斎宮跡の要石‥‥」
「今までのものと変わりませんが、今までのものとは何か雰囲気が違いますね」
 果たして斎宮跡へ至った一行は此処にある要石を前にし、何かを感じ取ってか紫由莉に夕凪が密かに表情を厳しくして呟くと
「この封印、大丈夫なのかしら?」
「えぇ。他の要石もそうですが先日、新たな封印を施したので問題はないそうです」
「もし大事に至るならしろこちゃんで石化させるのも有りかな、って思ったのだけど」
「流石にそれは‥‥」
 同じ事を抱いてかシェリルも優を見つめ尋ねるも、彼女から返って来た答えを聞けば何処となく残念そうにシェリルは肩を落としながら連れて来た異形のペットが頭を撫でてやると、その光景を前に優は苦笑を湛えるのが精一杯だったが
「それでは、始めましょう。ですが今回は皆さんだけでやってみて下さい」
「分かりました、それでは‥‥」
 やがて立ち直れば皆へ声を掛け、それぞれに必要となる道具を渡せばそれを受けて紫由莉が応じると、神に見立てるべく用いる玉串を要石へ捧げる為にその眼前へ置けば
「それじゃ、撒くからねー!」
「‥‥全てを阻む、聖なる障壁。今一時、厳かにて清廉たる聖域を此処に成すべく万物を守り、包め‥‥」
 確かな足取りにて皆の元へ戻って来た彼女を確認した後、ミネアが手にしていた清めの塩に和紙を細かく刻み、清めた幣(ぬさ)を場のあちこちへとばら撒けば、万が一の妨害を考えてガイエルが邪なる者を阻む結界をすぐに構築し、完全なる聖域を作り出すと
「神楽鈴を」
「えぇと‥‥はい」
 次に響いたルルイエに応じ、僅かに慌てつつもロアが手にしていた神楽鈴を揃い鳴らせば場に響き渡る、清らかなる鈴の音。
『はらいたまえ、きよめたまえ‥‥』
 それが響く中、皆がやがて揃い祝詞を織れば‥‥要石を前、置かれている玉串に捧げるべく神楽舞を始める巫女達。
 足取りこそは未だたどたどしいものではあったが‥‥その姿に心は清廉にて潔白なるもので、確かに皆は優の教えを実践して暫しの間を舞い続ければ
「一時でも良いですから、平穏な世であります様に‥‥」
 舞が終わる直前、囁く様にして紡がれた言の葉は果たして夕凪が奏でたもので‥‥凛と響いたその声が掻き消えると同時に神楽舞が終われば、清めの儀は此処に完成した。

●その名は‥‥
「皆さん、お疲れ様でした」
 清めの儀を終え、伊勢神宮へと無事に戻って来た十人の巫女達は近くにあった茶屋にてささやかな打ち上げを行っていれば、初めてながらもそれぞれに頑張った皆の労を先ず労ったのは先輩巫女の優。
「以降、私は皆さんの補佐に回りますので今日までに学んだ事は忘れず今後に繋げて下さいね」
「はーい! 出来る限り頑張りまーす」
 しかし次にはその旨だけを確かに告げる彼女ではあったが‥‥清めの儀を執り行い、確かな手応えがあったからこそミネアが歳相応に元気な声を響かせ応じれば頷く皆ではあったが
「所で、次は一体何をやるのでしょうか?」
「そうですね、伊勢の状況がこのままであれば‥‥暫くはお祭等に駆り出される事が多くなるかも知れませんね」
「人々の心に、安らぎを与える為‥‥よね」
 既に先を見据えているからこそ、素華が掌掲げ優へ尋ねれば暫しの間の後に答えを紡いだ彼女へシェリルが微笑み言えば、頷く彼女だったが
「次は行った事のない所の名物を食べてみたいです」
「‥‥此処まで純粋なら、良いのでしょうか?」
「大丈夫、優?」
 次に響いた、相変わらずの調子を保つ鳴の様子に優は首を捻りつつ‥‥しかし今度はそれを認めようとすれば、ロアの紡いだ心配が響くと後に場には笑いが木霊するのだった。

 『十種之陽光(とくさのひかり)』
 「十人の巫女、各々が天照様や陽の光が如く人々を優しく見守り、安らぎを与える存在であれ」との意を込めたそれが部隊の名として選定されたのは果たして必然だったか。
 何はともあれ、これにて名実共に斎宮管轄の伊勢に蔓延る闇を祓う部隊が構築された。
 因みに次点は素華が考えた『神那岐(かんなぎ)』だった事も一応、補足しておく。

 さて、これより『十種之陽光』が歩む事となる道程は果たして見えずとも‥‥少なからず伊勢に蟠る闇へ対し新たな楔が一つ、穿たれたのは間違え様のない事実である。

 〜一時、終幕〜