【十種之陽光】猿田彦神社にて
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■シリーズシナリオ
担当:蘇芳防斗
対応レベル:11〜lv
難易度:難しい
成功報酬:12 G 67 C
参加人数:8人
サポート参加人数:4人
冒険期間:12月01日〜12月10日
リプレイ公開日:2007年12月08日
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●オープニング
●影一つ
揺れる木々、しなるその枝葉が折れるより早く一つの『影』が宙を蹴れば遠く高くへ飛翔して次なる枝へ飛び掛かる。
「‥‥ふぅん、思っていたより芳しくないですな」
困ったかの様に嘆息を漏らし、しかし一連の巧みな動作は続けたまま『それ』は密かに静かに森の中を進んでいた。
「どうやらこの事態、口伝通りに『皆』を招集する必要がありそうですが」
徐々に前方の視界が開けてくるその中、やがて一つの決断こそ下すも
「さてはて‥‥果たしてそれに足るか、代わりに見届ける必要はありそうですね。しかし私なりに見定めるとは言え、どの様にしましょうか」
木々の切れ目が直前にてあった太い枝に初めて両手を掛け、枝を支点に身を宙へ舞わせ直上へ飛び上がれば暫しの間、中空を泳いだ末に先程手を掛けた枝の上へ物音一つ立てず着地した『影』は視界の先にあった大きな寺を見据えると、今日も沢山集う人々を眺めながら先に下した決断へ至る為の解について、考え込むのだった。
●猿田彦神社
伊勢、天照大御神を祭る伊勢神宮からこそか‥‥この地には多く寺院や寺社が存在する。
その内が一つ、導きの神とも言われる猿田彦神を祭神として奉る寺院の一つである猿田彦神社にて境内を掃除していた一人の巫女が微かにだけ変わった場の雰囲気を敏感に察知すると金髪をたなびかせ、辺りへ視線を彷徨わせる。
「‥‥ん」
「どうかしましたか?」
その巫女、レリア・ハイダルゼムが漏らした声にこの寺の宮司が娘である楯上優が普段は寡黙な彼女が見せた反応に何事か尋ねると
「‥‥以前に感じた覚えのある気配を少し、捉えたのでな」
「一体、何でしょうか」
「さてな、殺気は感じなかったが‥‥気は抜けん。少し、周囲を警戒してみるか?」
口を開いてはレリア、端的に告げれば首を傾げる優に彼女も答えを持ち合わせている筈はなく肩を竦め、しかし先よりも厳しい表情を湛え周囲を油断なく見回しながら言えば
「そう、ですね‥‥最近の伊勢の情勢を考えれば慎重過ぎる位の方が良いかも知れません。万が一にもこれ以上、此処を端にして混乱が大きくなる事があれば‥‥」
「なら決まりだな、念の為に冒険者‥‥いや、『十種之陽光』を集めて貰えるか斎王様に打診してみよう」
それに優が端正な面立ちに影を宿しながら同意すれば、それに対して早くレリアは決断を下すと伊勢市街にいる斎王の元へ赴くべく、踵を返す。
「はい、最近は隊として余り目立った行動も取られていないでしょうし久々に動いて貰えればお互いにとって良い方向へ働くかと。宜しくお願いします」
そしてその背へ、優も頷きながら応じれば相手が見ていないにも拘らず深く頭を垂れると、それを背中越しに感じながらレリアは腕を掲げ彼女へ応じた。
「‥‥さて、どの程度動けるかな」
●
その一部始終を見つめていた影、やがて解に至れば一人頷く。
「ふむ。ならば此処は一つ、単純にかくれんぼで決めるのが良いかも知れませんね」
微笑を湛えたそれは暫し眼前の風景を見守れば、やがてレリアに倣うかの様に踵を返すと再び枝を蹴れば
「さて、そうとなれば勘付かれてもいる様ですし‥‥少々私も本気を出すとしますか」
西洋から渡ってきただろう、銀髪の巫女に薄々とは言え勘付かれていた事から確かにそれだけは決めると
「久々に、腕が鳴ります」
木々の中を先と変わらない速度で進む『それ』は自身知らぬ内、微笑を湛えたままにその姿を梢の奥へと消すのだった。
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依頼目的:猿田彦神社の界隈に潜んでいる存在を見付け出せ!
必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)
対応NPC:レリア・ハイダルゼム(ez1069)、楯上優(共に同道)
日数内訳:目的地まで四日(往復)、依頼実働期間は五日。
行動場所:伊勢、猿田彦神社の近隣
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●リプレイ本文
●集う巫女達
伊勢に数多ある寺社が一つ、猿田彦神を主神として奉る猿田彦神社に冒険者であり且つ斎宮が創設した巫女部隊『十種之陽光』に携わる者達が久々に集っていた‥‥その目的は最近、この神社が近隣に蔓延っていると言う気配の捕縛。
「久し振りの巫女のお仕事だ〜♪」
「本当に、皆さんお久し振りです」
「二人とも息災で何より。毎回全員揃わぬのが難ではあるが、それぞれの事情がある事を考えれば止むを得ず‥‥か」
その一人、一行の中で一番に幼い剣士がミネア・ウェルロッド(ea4591)は久々の集合にはしゃぎ、やはり久々に見た猿田彦の巫女が楯上優に飛びつけば彼女を抱きとめて優は皆を見回し頷くと、神妙な面持ちを携えていたガイエル・サンドゥーラ(ea8088)が漸く此処で顔を僅か、綻ばせるが
「それにしても今回の依頼は何とも珍妙な話の様だが」
「そうですね、別に何かあると言う訳ではないのですが」
「つかず離れず、何者かの気配がこの近隣に漂っている‥‥」
次いで今回の依頼について話を切り出すと頷き返した優が辺りへ視線を配する中でこの寺社付きとなったか、レリア・ハイダルゼムが剣呑とした面持ちを携えて口を開くも
「となると今回、隠れんぼの鬼を探すと言う事になるのでしょうか?」
「砕いて言えば、そうかもな」
「隠れんぼ〜♪ ミネアが鬼かぁ、頑張るぞ〜♪」
「でも、わたくしは余り得意じゃないんですよ。どちらかと言えば食べる方が‥‥」
一行の中では一番に巫女と見えなくもない大宗院鳴(ea1569)が至ってマイペースに呟けば改めて成すべき事を確認すると、苦笑を浮かべるレリアの傍らでミネアも無邪気に鳴を見ては頷くが‥‥その直後に鳴、途端に顔を曇らせるがすぐにその話題を食べ物の方へ誘導すると鼻白むレリア。
「しかし悪意がない妙な気配とくれば土地に住まう妖怪や精霊の類と思いつきますが‥‥さて、どうなのでしょうね」
「この情勢では些細でも気に留めねば大事に発展しかねません。前回の様な失策を繰り返さない為にも、先を見据えて動かねばなりませんね」
「あぁ‥‥そうだな」
そんな光景を傍らにて目に留めた鷹神紫由莉(eb0524)が艶やかな微笑を湛えつつ、自身の推測を皆の前にて紡ぎ自問自答するが、六条素華(eb4756)が正しく棋士が如く先を見据えんとして瞳を細めれば現状にて判断出来る事だけを言いとガイエルもまた同意して頷けば、蒼き空を見上げた。
●
「はぁ、皆様全員巫女なのですね‥‥わたくし、場違いでしょうか?」
その巫女達が真剣な面持ちにて話す一方‥‥今回、この依頼に同道する侍が七神斗織(ea3225)は艶やかな黒髪を撫でては不安げに囁くも
「そんな事はありませんよ。お二人様については今回、皆さんの護衛と言う事で考えて貰えれば」
「‥‥そうですよね、頑張りますっ!」
その不安を耳にしてか、優が彼女の元へ近付くなり声を掛けるとそれを機にして侍は漸く瞳に強い光を宿せば頷くと、改めて猿田彦の巫女と挨拶を交わしていた。
「それにしても、天照さまは何処へ行かれたんでしょうか‥‥少し位、足跡を残して下さっていたら安心出来るんですけどね」
「それについては斎王様等が当たっている‥‥尤も今の所、有力な話は揃っていないそうだが」
「そうですか‥‥とそう言えば、優さんは今回どうされるのですか?」
しかしその傍ら、物憂げな表情を携える魔術師のルーティ・フィルファニア(ea0340)は未だ行方不明なままである天照大御神の安否を気にするも、首を左右にだけ振る優を見れば再び溜息をつき、しかし今の依頼は果たすべく顔を上げれば同道すると言う巫女へ行動の指針を尋ねると
「私も少しだけお手伝い致します。先日の一件よりレリアさんから弓の手解きを受けていますので」
穏やかな雰囲気は湛えたままにその答えを紡げば驚くルーティだったが丁度その時、近くにある店で夜営の事も考えて食材を買って来ると言っていた将門夕凪(eb3581)が戻って来るとガイエルは彼女が頷く様に準備が整った事から周囲の一行を見回せば
「それではそろそろ、始めようか」
レリアが身の丈程度の大剣を担ぎいよいよ一行を促すと、皆は猿田彦神社が周辺の梢の中へと歩を進めるのだった。
●影を追って
そして森の中、素華らはそれぞれが駆る馬の歩調を揃え猿田彦神社の周囲が濃い緑の中を駆けていた。
「皆様から、はぐれない様に‥‥」
その殿である斗織、自身よりも巧みな馬術にて前を駆けている素華に紫由莉の背中を見失わない様、必死に手綱を操りながらその背を凝視しては囁くと
「もしかして、方向音痴のきらいが?」
「‥‥えぇと、まぁ‥‥はい」
遅れる彼女を気遣い、振り返った素華がその囁きを辛うじて聞き止めるとそれから推測出来る事をざっと纏めた後、一言だけ尋ねれば‥‥果たして愛馬を止めた斗織は口篭りながら、しかし遂には気恥ずかしそうに肩を縮めては頷く。
「それでしたら、もう少し歩調を落として気を付けて進まないと行けませんね」
「ですが余り悠長にもしてはいられませんし‥‥その、ご迷惑を」
「今はまだ、探す段階ですから先ずは確実にその気配の主を探せばそれで良いかと」
「その通りですね、今もこうして歩いている傍らにて潜んでいる可能性が十分考えられますし」
「すいません」
するとその答えを受けて紫由莉が今度、口を開いては穏やかな笑みを湛え言うと益々遠慮する侍だったが尚も二人から諭されれば頭を垂れ、小さな声音を響かせて詫びるも
「気になさらなくて大丈夫ですよ、出来ない事をそれぞれ補助する為に皆さんがいるのですから」
「そうですね‥‥それなら、私が出来る事は精一杯頑張ります!」
微笑を湛えたままに紫由莉が最後にそれだけ斗織へ言うと、漸く先まで曇っていた端正な面立ちに笑顔を宿して彼女は髪を揺らす程に勢い良く頷けば、三人は再び揃って先よりも更に速度を落とし森の中にあるだろう違和感を捉えるべく愛馬にて闊歩するのだった。
「そう言えば猿田彦神社に奉られている方は導きの神だとか‥‥この筋金入りの方向音痴が治らないか、仕事が済んだらお参りしてみましょうか」
直後、密かに響いた斗織の願望に二人が笑みを湛えながら。
●
そして捜索は進み猿田彦神社へ足を運んでより三日の刻を経るも、未だ一行は謎の存在を捕捉出来ずにいた‥‥捜索の方法に関して言えば決して間違ってはいないのだが。
「この辺りに、神の眠る場なりと言った物が口伝にてないだろうか?」
「いいえ、確かに歴史は正しいのですがそれ程大仰な物は」
「ならばこれだけ古いお寺、隠し扉等と言ったものがもしかすれば‥‥」
その間、ガイエルや紫由莉が閃きから一行は森だけに限らず猿田彦神社自体も捜索の対象として探るが、これもまた大きな手掛かりがないままに終える。
「でもでも、何かいるのは多分間違いないよ!」
とは言えミネアや一部の者はその存在感を極稀にだが確かに感じていれば、意識せずとも焦燥感に駆られる一行は四日目を迎える。
「いないな」
森の中、樹の隙間から覗く太陽を見上げてレリアがボソリ呟く‥‥その口調こそ普段と変わらないものではあったが、心中はやはり穏やかではない。
「それなら、食事でもしましょう。もしかすれば釣られて出てくるかも知れませんよ?」
「そうだねっ♪」
だが、その彼女と行動を共にする鳴とミネアは別段普段と変わらないまま。
レリアと同じく頭上を見上げ、太陽の位置から昼頃であるのを察して食欲旺盛な巫女が二人へ笑顔で提案すれば、やはり無邪気な笑顔を湛えてミネアも応じると二人は揃い携えて来た今日の昼の分の弁当を取り出すも
「‥‥そんな悠長な」
「だから、じゃないかなー。それにほら、焦ってばかりじゃ見付かる物も見付けられないよ」
その二人の様子を目の当たりに、嘆息を漏らし冷たい響きを含ませた言葉を吐くレリアだったが、次いで幼き剣士に己が内心を言い当てられると漸くその場へ腰を下ろすが
「あぁ、此方にいましたか」
直後にその場へ響いた聞き覚えのある声を耳にすれば三人はそちらを振り向くと、自身らとは違う場所を捜索している筈の素華らの姿を見止める。
「そちらはどうだ?」
「いいえ、今の所は‥‥ですが、辺りに地形は大よそ頭に入りましたので」
その唐突な登場に何か動きがあったか僅かな期待を持ってレリアは尋ねるが、はっきりと首を左右に振る素華の様子に内心でだけ密かに落胆するも、彼女の話はただのそれだけではなかった。
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「魔法の類ですか、正確に此方へ来ますね。それならばそろそろ」
そして六人が合流してより後‥‥一刻程の時間を経た頃、時折場所を移動しつつ大半はその身を潜めていた存在は今になって此方へ真直ぐに迫る六人の様子を遠目ながら確認する。
「動くとしますか」
さすると一言だけ囁いた後、それは自身が腰を落としていた太い枝から漸くその身を引き剥がした。
「あっ、あっちの木の枝が揺れたよっ!」
「どうやら、動き出したな。これからが本番、か」
一方、素華のバーニングマップによって導きを得た六人は再び二手に別れて捉えた存在を挟み込む形で森を駆ければやがて、視界の片隅に枝が不自然に大きく揺れる様を留めたミネアがそちらを指差すとレリアは漸く訪れた機に嘆息こそ漏らすが
「でもこれでは何か、隠れんぼじゃなくて‥‥追い駆けっこですね」
「そうだな。だが、たまになら悪くない」
「それじゃ、追い詰めよー!」
狼煙代わりに天へ雷撃を放った鳴の苦笑めいた響きを聞けばそれに頷き、不敵に笑むとミネアが益々の元気さにて叫べば三人は揃い、速度を上げて影を追うのだった。
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「暇、ですねぇ」
「余りこの場より動けませんから、しょうがありません」
それより少し前、影を追い込むべき場として定めている猿田彦神社のその前にて捕縛を担当する者達は暇を持て余せば、それを口にして訴えたのはルーティだったが優の的を射た発言にはぐうの音が出る筈もなく頷きだけ返すと
「それなら継続は力なり、今日も舞の練習をしましょうか」
「それじゃ、私も何時もの様に見学させて貰いますね♪」
依頼が始まってより行っていた舞の練習を行うべく夕凪が呟けば、反対する理由が無いガイエルも同意すると境内の片隅にて二人が準備を始めると、代わり映えのない風景からそちらへ視線を向けルーティも笑顔を湛え言えば、準備が整った巫女達へ優が声を掛けようとしたその時。
『‥‥っ!』
天上を目指し走る、一条の雷撃を四人が見止めて息を詰まらせると来るだろう方へ揃い向き直れば身構えると、場に訪れる沈黙だったが‥‥それも僅か、梢が擦れる音から恐るべき速度で此方へ迫ってくる存在を確認すればルーティとガイエルは即座に印を組み上げる中、遂に眼前の梢が大きく揺れれば同時。
「眼前の者‥‥その動きに我、枷嵌めん!」
弓に番えていた矢を解き放っては優が現れた影に狙いは定めず、次から次へ矢継ぎ早に放つ中でルーティ、アグラベイションを放つとその効果を受けてか微かに舌打ちを響かせる影‥‥その存在は今までに見た時のない、似ていると言うのなら化け猿を更に一回り大きくした巨躯を誇るそれ、恐るべき速度を緩やかにすると
「神の力が欠片、かの敵を戒めるべく光の縛鎖と形を成せ」
次いでガイエルのコアギュレイトが発動するも、しかしそれには巨躯の猿が抵抗を果たせば四人の頭上をそれでも飛び退ろうと、持てるだけの速度を維持して飛翔する。
「どうかこのまま、同行して頂けないでしょうか?」
「そればかりはまかり通りませんね。もし、それを望むと言うのなら力を示しなさい」
だがそれは直後、一瞬だけ遅れて地を蹴った夕凪によって阻まれれば地に降り立った巨猿は果たして言葉を紡ぐと驚く彼女だったが、それは一瞬だけ。
「それでは‥‥っ!」
すぐに夕凪は言葉を紡いだ巨猿目掛け左手に嵌めている手袋を脱ぎ捨てては肉薄すれば、それが行動するよりも早く再び放ったガイエルのコアギュレイトが今度こそ巨猿を束縛すると直後、夕凪は毒に染まる左手を掲げ‥‥。
●果たしてその影
夕刻を迎え、朱色に染まる境内の中。
「大丈夫か?」
「問題、ない」
「相変わらず‥‥まぁ良い、体に良いだろう茶を調合して煎じて来た。良かったら後で飲むと良い」
蒼白な顔を携えるレリアへガイエルがその身を案じて問い掛けるが、素っ気無く応じる彼女の様子に苦笑を湛えつつガイエルは懐より一つの小袋を取り出せば、それを剣士へ押し付けると
「しかし‥‥」
次いでその視線を非常に大柄な猿の方へ向け、その存在を訝れば遠目に巨猿を見つめる。
「乱暴なやり方で申し訳ないです。拘束は解けませんが解毒と治療は施しましたので安心して下さいね」
「とりあえず、お名前があれば聞かせて頂けると嬉しいんですけど」
「猿田彦神‥‥」
やがて、巨猿を介抱し終えた夕凪が先ずは一言だけ詫びるとその後‥‥ルーティは早々に皆が先ず疑問の思う事について尋ねれば、巨猿が己の名を告げると場に居合わせた一行は息を飲む。
「とは言え、二代目ですけれどね」
だがその反応に猿田彦神と名乗った巨猿は口元を緩め、一言だけ補足すれば固まった場の雰囲気を緩めようとするも、それだけでは足りず硬直したままの一行。
「流石は伊勢と言いますか‥‥天照様だけではないんですね」
「それは当然です、何せジャパンに存在する神の数を八百万とも言われていますから」
「へー、そんなに多いんだ」
「それにしてもその方がわざわざ、私達に接触を持ったと言う事は何かお話があるんですよね?」
だがやがて声が上擦るのを抑えながらルーティが口を開いて尋ねると目尻をも下げ、表情を緩めて猿田彦神は応じるとミネアがその数の多さに絶句する最中で次に響いた魔術師の問い掛けへは変わらぬ場の雰囲気から首を縦に振るだけで答えれば
「それでは、お茶菓子はありますから暖かい所でどうでしょうか?」
「‥‥ふむ、それも悪くないですが私の存在が余り公になってもあれなので今の斎王に取り次いで貰いたい次第だけ、お願いされたい」
漸く自身を取り戻し、準備していた茶の席へ猿田彦神を招く紫由莉だったが今度は首を左右へ振って猿田彦神が応じれば、身体の感覚をやっと取り戻した事に気付くと一行へそれだけ告げて近くに生える樹の一番高い枝へ身を躍らせれば、最後に皆へ一時の別れを告げる。
「それではまたいずれ‥‥暫く私はこの界隈にいますので、何かあれば人目を忍んで呼び掛けて下さい。このご時勢、変に勘違いされてもお互いに困りますしね」
そして未だ唖然とする者が多い中でももう、振り返る事はせず再び森の中へと姿を消すのだった。
天照大御神に続き、伊勢の地に降り立った猿田彦神‥‥その導き手たる御神の登場は何を意味するか未だ分からず、しかし伊勢にとって新たな局面を迎えた事だけ確かに告げた。
〜一時、終幕〜