【五節御神楽】体現すべき意思

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:6 G 66 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:11月23日〜11月30日

リプレイ公開日:2006年11月30日

●オープニング

●紅蓮
 京都は今、猛々しく荒れ狂う紅蓮に包まれていた。
 下手人は長州藩が強硬派、先の乱より様々な変哲を経て手を組む事となった五条の宮の帰還に合わせての蜂起である。
 乱れるばかりの国をあるべき姿へ戻すべく、王道復古を掲げる為にも京都制圧を狙う長州藩は先の五条の宮が失敗から学んだ事より今回、京都内部の各所へ事前に手勢を潜入させれば遂には決起の日を迎えると躊躇う事無く町へ火を放ち混乱を増長させる間、各所にある要所を潰しに掛かるのだった。
 義は国を混乱の渦中へ陥れてしまった無能な幼帝、安祥神皇にではなく我らにありと言わんばかりに。

 しかしその影で泣く者が少なからずいる事は事実であり、果たしてそれが義と言えるかは‥‥誰の目から見ても明らかであった。

 そしてこの混乱は諸国へも伝わる事となり‥‥僅かずつ、混沌は芽吹きだす。

●斎宮にて 〜届けられる、京都炎上の報〜
 伊勢は二見、海岸沿いにそびえる斎宮内部にて今‥‥伊勢の神職に携わる者が集えば、一つの話題に付いて議論が交わされていた。
「今後『五節御神楽』も懸念していた伊勢に起きるだろう異変の兆候を今より収拾出来る手段は何かお考えですかな、斎王様」
「要石を巡る他にないでしょう、経年劣化による封印の弱体化と言うのが現在考えられる唯一の見解だからこそ‥‥」
「さすればその道中、人選は‥‥」
「失礼します、急ぎ故に」
 その議論、斎王こと祥子内親王の内では既に結論は出ており‥‥故に慌てる事無く、自身より一回り以上も年齢が上である神職者達を前にしてもたじろかず、自身が考えを初めて明らかにすれば一様に頷く神職者達が内の一人が新たな質問を呟いた同時、唐突にその場へ現れたのは『闇槍』が首領。
 詫びだけは欠かさずに、一つの書状を斎王へ託せば現れた時と同様に今度は霧散すると‥‥それより暫く、届けられた書状に目を通し終えた斎王は一言も発さず立ち上がれば、何事かとざわめく場の者達が前に開いたままのそれを置いて踵を返すと一同はその書状を読んで即座、表情に驚愕と戦慄を宿らせる。
「これは‥‥!」
「急な事態だからこそ、この場は解散します。今は各々、見据えなければならない事に専念して下さい」
 すれば斎王は緊急事態故に場の解散を告げれば皆が慌しく去る中で側近の名を呼ぶと彼女が駆けつけるなり、すぐに己が成すべき事の指示を下す。
「『五節御神楽』をすぐに京へ向わせて下さい。斎王としてこの事態‥‥ただ俯瞰している訳には行きませんし、伊勢藩もこの状況では迂闊に動けないでしょう。ならば僅かとは言え、この様な時こそ彼女らを派遣せねば」
「しかしこの様な状況だからこそ伊勢も、神宮も予断の許さない状況です。無理をする必要はないのでは」
 がその指示に対して側近は、相変わらずの調子で斎王へ意見すると‥‥暫しの間を置いて斎王は口を開く。
「伊勢だけとは言わず、各地において『守りの旗頭』として体現して貰いたくあるのですよ、『五節御神楽』には‥‥」
「流石にそれは」
「それでも‥‥疑わなければ、人は何だってなれる筈だと信じています」
 己の抱く理想は大き過ぎると自身だからこそ分かってはいるが‥‥だからこそ、抱く本心を紡ぎ出せば次には照れ隠しの苦笑を湛える祥子へ光は呆れるが、それでも彼女は緩やかな光を瞳に湛えたままではあったが、側近から決して視線を逸らさずに改めて告げるのだった。
「京都へ『五節御神楽』を派遣すべく、冒険者ギルドを介して各員へ連絡を。何を成すべきかは皆さんへ一任すると、それだけは忘れずに付け添えておいて下さい。尚、『闇槍』は現状のままで」
「はい」

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 依頼目的:京都へ赴き、人々を守れ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は忘れずに。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王(同道はしませんが相談には乗ります)
 日数内訳:依頼実働期間、七日。
 推奨レベル:Lv15〜、それ以下の方に関しては十分に留意して下さい。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

リオーレ・アズィーズ(ea0980)/ ゴールド・ストーム(ea3785)/ 藍 月花(ea8904)/ ルーク・マクレイ(eb3527)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●猛る焔、惑う群集
 視界に広がるのは京の街並み、今の時期であれば周囲にある山々が燃えているかの様に映る紅葉に覆われる中で静かに佇んでいる筈の街は今ではそのあちこちが紅蓮に染まっていた。
「僅か半年でまた戦争、か‥‥京の人達はたまったものじゃないわね」
「全くです。そしてこの景色、神様仏様はどの様な心境にてご覧になっているのでしょうかね」
「苦しむのは、何時だって力のない人達‥‥ちょっと、頭に来るよ」
 その街中を眼前、斎王の命を受けては集う『五節御神楽』の面々は目の当たりにした光景にそれぞれ、様々な反応を見せるがその中で哀しげに睫毛を伏せるステラ・デュナミス(eb2099)が呟けば同意して渋面を湛える『五節御神楽』が一人、神田雄司(ea6476)も静かに‥‥だが柄に伸びる掌だけは強く握り締める中、周囲を漂う熱気にか、それとも長州藩が行為に対しての怒りからかハンナ・プラトー(ea0606)が己の髪を逆立たせるも
「そうですね、戦いって何時も大人の勝手ですから」
「だけど私達にも出来る事はあって、それを成す為に此処にいるのだから‥‥愚痴る前に動くとしましょう」
 雄司はそんな彼女に同意しつつも宥めれば、改めて市街の方を見つめると息を吐いては強張る肩より力を抜いて呟くと続くステラの言葉を受ければ彼は黒き羽織を靡かせて一歩、街の方へと踏み出して‥‥次にはすぐに振り返ると
「‥‥所で、御所へ挨拶に行った方が良いのでしょうか?」
「問題はないと思うけど私達は私達でやるべき事があるから、それは落ち着いてからにしましょう」
 皆を見つめ斎王直属の部隊であるからこそ‥‥と言うよりはマイペースに気になる疑問を口にすれば、神木秋緒(ea9150)の回答を聞いて一先ず頭を巡らせるも
「しかし『守りの旗頭』、ですか‥‥とても、大きなものを負わされてしまった気もしますが五節御神楽の名に‥‥祥子様の心に恥じぬ様、全力を持って京都の人々を守る為に一指し舞うと致しましょう」
「そうだな‥‥民を護りし『五節御神楽』! いざ参ろう!」
「あいよ、『五節御神楽』のお手伝いとして頑張りますか」
 その間に『五節御神楽』たる証の白き装束に黒き羽織を着こなすセリア・アストライア(ea0364)の決然たる声が厳かに響き渡ると彼女に同意して頷く天城月夜(ea0321)が鬨の声を上げれば、やる気なさげに‥‥だが瞳に湛える光を尚強くして鋼蒼牙(ea3167)も月夜に続くと十人は惑いも見せず、紅に染まる街の中へと駆け出した。

●体現すべき意思
「う〜ん、こうも争いが続くと京都って案外争いが絶えない都市なのかなー‥‥」
 京都の町へ入り暫く、魔法の靴を履いては黒く足元にまで伸びる長い鉢巻を靡かせて疾駆するルーティ・フィルファニア(ea0340)は碧眼すがめ、美しかった街並みのあちこちで燻る火の手から逃げ遅れた人々がいないか探しながら京都に来てより今まで起きた出来事を思い出し、次には哀しげに瞳を伏せるも
「ルーティ殿、向こうの瓦解した家屋の近隣に逃げ遅れた住民達がいる。済まないが頼む」
「分かりました‥‥もう、あんな想いは懲り懲りなのに」
 空を魔力込められた箒にて舞い、ルーティと同じく上空から逃げ遅れた人々を捜索するルクス・シュラウヴェル(ea5001)に呼び止められれば彼女、駆けていた方とは反対を指差すルクスの指示に従い慌て踵を返しつつも視線を地に落とし呟くが
「だからこそ、出来る事はしないと行けませんよねっ」
 だが次には顔を上げると自身を叱咤すれば尚、駆ける速度を上げた。

「しかし容赦がない、戦う者達ばかりでないと言うのにこれの何処に義があると言うのだ‥‥!」
 そしてそれは上空を舞うルクスも同じく目の前に広がる光景に静か、怒りをたぎらせるが赤き紅蓮の中にて一点の黒を見止めると
「ミラ殿、大丈夫か?」
「問題ありません、一先ずこの辺りは落ち着いている様なので別の場所へ行こうかと思っていた所です。他の皆さんの位置は?」
「あぁ、それなら‥‥」
 その黒点である巨人の騎士がミラ・ダイモス(eb2064)へ声を掛ければ直後、彼女より返ってきた答えを聞いてルクスは安堵し、ミラの問い掛けに対して答えようとするも‥‥視界の片隅にて蠢く影を見付ければ、視線だけ早くそちらに向けるとミラも彼女の意をすぐに察し疾く刀を迸らせて、的確に己の首を狙う白刃を受け止める。
「ちっ」
「正しきと言いながら、王権の奪取を狙う賊臣が狼藉に民の安らぎを奪わせません。闇を断つ剣にて‥‥我々『五節御神楽』が貴方方の目論みを必ずや阻みます」
 すると直後に響いた舌打ちと地を蹴る音に、すぐに己が身に闘気を纏わせながらそれを瞳で追ってミラは紅の中で佇む白刃携える影を鋭き眼光にて貫いては漆黒の刃振るい、黒き軌跡を描き悠然と確固たる意思を告げて地を蹴った。
「覚悟は、宜しいですね」

「地の精よ、己が力貸したもう‥‥其の領域に道を成すべく、その業を揮わん」
 同じ刻、ルクスの導きから現場に駆けつけたルーティは先に到着していた月夜と共に瓦解する家屋に埋もれ逃げ遅れた一人をウォールホールの魔法用い、助け出せば
「これで大丈夫‥‥っと」
「貴方達は?」
「『五節御神楽』‥‥伊勢の民だけでなく京や他の民をも救い護る、艶やかな舞い手なり」
「‥‥月夜さん」
「それ所ではないと言うのに‥‥思いの他、深く入り込んでいる様だな。だが」
 傷が酷い青年を傷薬にて一先ずの治療を施し天馬の背へ乗せると、その中で響いた彼の問い掛けに月夜は己が駆る天馬に人々を乗せながら微笑み答えるが‥‥次に響いた、ルーティの固き声音を聞くと月夜は肩を竦めながら黒き羽織を靡かせ警告発した彼女が見る方へ向き直るが、次にルーティが放った魔法と同時に月夜は彼女の手を掴めばすぐに天馬に跨り高みへ昇ると直後、次々に現れる長州藩の手の者へ向け高らかに声を張り告げ、その場を後にするのだった。
「悪いが今は相手をしている場合ではない、お主らと違い拙者ら『五節御神楽』が振るう刃は斎王の意により人々を守り、救う為にあるのだからな」

 とは言え『五節御神楽』も人の子である以上、完全ではない。
「消火が追い付かない‥‥ハンナさん、早くして!」
 大気中の水を掻き集めてはそれを疾く手繰り、正しく業火となって燃え上がる屋敷へ休まずに水をぶつけるステラの叫びは果たして屋敷内へ逃げ遅れた人達を救うべく飛び込んだハンナに届いているか‥‥不安に駆られつつ、それでもステラは辺りで共に消火活動に励む人々を火の粉から守る為、最低限の水だけを周囲に漂わせながら一心不乱に数多、水の礫を燃え盛る屋敷へと注ぐが
「下がって! 崩れるわよっ!」
 その次の瞬間、火の壁から子供を抱えて飛び出したハンナの姿を見やると嫌な音を立て始めた屋敷に次に起こるだろう事態を察し叫ぶとステラの叫びを合図にしてか途端、屋敷は瓦解する。
「‥‥皆、助けられなかったよ」
「泣く事は何時でも出来るわ、でも今しか出来ない事があるのなら‥‥往きましょう」
 そして直後、盛大に舞う火の粉から場にまだいる人々を守らんと魔術師がすぐに掻き集めた水を広く辺りへ展開する、その中で唯一助けられた子供を抱えたまま崩れ落ちるハンナの呟きにステラは歯噛みこそすれ、しかし自身を奮い起こす様に強張った声を響かせた。

 それでも『五節御神楽』による逃げ遅れた人々の救助は続いていた。
 全てが全て、助けられた訳ではないが‥‥一行は未だ続く戦から視線を逸らさず、自身らが出来る事を今も全うする。
「初めて世間に知られる祥子内親王様の部隊、この国の民や権力者はどう見るのだろうか?」
「規模が規模だし、落ち着いて来たとは言えこの状況ではそれ所じゃない気がするけれど」
 だが御所にて大きな動きがあってから、次第に落ち着いていく情勢を目の当たりにしてか京都に入ってより真面目な面持ち携えていた雄司が何を思ってか不意に呟くと、油断なく辺りに視線を配しつつもそれを聞いていた秋緒は至極無難な答えを返すが
「それでも、私達は組織の一つです。」
「いや‥‥それはいささか大きく考え過ぎじゃないか?」
「そうですかねぇ」
「少なからず俺はそう思うけどな。さて、異常は‥‥っと」
 『五節御神楽』が初の対外への行動に際し、感動していた彼はその答えでは引き下がらずに尚、熱く語るもあっさりとした答えを紡いだ蒼牙の言葉を聞けば雄司、頭を巡らせるとその彼の様子に苦笑を湛える侍は直後に視界の片隅で蠢く影を見付ければ声を張り上げた。
「あー。何をやってるかな、こんな時に‥‥いや、こんな時だからこそか。まぁその、何だ‥‥痛い目見るか?」
「何奴」
「うわっ、怖っ」
 それは最初、酷く小さな影に見えたが手に持つ火種が見えたからこそ彼は呼び止めるも‥‥立ち上がった影の、その巨躯振りに驚けばすぐに雄司の背へ隠れるが
「と言う訳にも行かないか。『五節御神楽』の補佐、鋼蒼牙‥‥邪魔するぜっ!」
「貴殿らが、か‥‥ふむ」
「我等は民衆守護に遣わされし伊勢神宮の御使いなり! 無礼を働くとそちらが後悔する事になるぞ!」
「故に無益な戦いはやめましょうや」
 すぐに考え直すと彼は再び雄司の背から飛び出せば、惑う事無く一気に間合いを詰めて敵が抜いた刀に己の刀をぶつけ動きを封じるも、まだ幾分の余裕があるのだろう見定める様に三人へ視線を這わせる長州藩の手の者はしかし、次に轟いた秋緒の叫びに揺らげばその間隙を逃さず雄司はあえて間をずらし、のんびりとした声音で停戦を申し出るも
「斎王直属の部隊だったか、自らが出て来ずに何を言うかと思えば」
「そちらが掲げる義と比べれば、大分まともかと思いますが‥‥如何ですか?」
 引く気はないのか、蒼牙と相変わらずに鍔迫り合いを演じる彼は平静を取り戻すと鼻を鳴らし三人を嘲笑うが‥‥秋緒より返って来た言葉には己が誇りを傷付けられてか、見る見る内に顔を朱に染めるも彼女は構わず、尚も彼へ曲げる事が出来ない自身の意思を高らかにぶつけるのだった。
「義を掲げるのなら、己を持ってではなく先ずは民を持って掲げるべき! それが出来ぬならすぐに京より去りなさいっ!」

●安寧を与えたもう
 戦いは永劫続くものではなく、どの様な形であれ終焉を迎える‥‥それが一行にとって望むものでなくとも。
 京都の乱、再びの終幕‥‥神皇側にすれば負けに等しい結果ではあったが、それでも人々は戦いが終わった事に胸を撫で下ろす。
「あ〜、疲れた」
「暖かいお粥、下さいなー」
 故に『五節御神楽』も戦い終わった後の京都が街並みを見回った後でも力なき人々の前では気落ちする姿を見せず、明るげな声音響かせ帰還を告げては一時の安らぎをねだると
「ちょっと待って下さいね」
 蒼牙とルーティが呼び掛けにセリア、一人で仮に拵えられた簡素な厨房にて慌しく駆け巡りながら応じるとすぐに二人へ器を放らんばかりの勢いで粥を渡せば再び駆け出すも
「やっぱ暖かい飯はいいなぁ。そして料理姿もいいなぁ」
「でも、早く済ませて手伝って貰えませんか。ルクスさんがさっきから物資の運搬にてんてこ舞いで、ステラさんも怪我人を介抱する為に近くの山まで薬草を摘みに往復しているから、彼女達の手伝いをして欲しいんです。それに加えてこちらも人手が足りなくて」
「あーいよ、分かった」
「その代わり、これもどうぞ」
 その背中を見つめながら蒼牙は呑気にのたまうも、その様子にセリアは普段の口調ながら彼を窘めんと言葉を紡げばすぐに返って来た答えに身を翻して彼女、漬物を盛った器を差し出すと笑顔を浮かべる彼に微笑み返した後‥‥辺りの光景を一瞥しては哀しげに睫毛を伏せてセリアは想いを巡らせる。
「‥‥これから一体、どうなるでしょうね‥‥」

 その傍ら、負傷した人々が多く地に横たわる中でハンナは一人で心身共に苦しむ皆を介抱せんと限りなく優しく、静かにリュートベイルを奏でては歌を響かせていたが
「大丈夫、ハンナさん?」
「うん、過ぎた事をくよくよ悩んでもしょうがないし」
 日頃より聞く歌とは僅かに違う気がしてステラが彼女へ声を掛けると言葉の割にうな垂れる赤毛の騎士に何時もの気勢はなかったが、まだ元気な子供達が場に居合わせる意気消沈とした大人達に構う事無く辺りを駆け回る光景を目にすれば
「でも、決めたんだ。縁の下だろうが何処だろうが皆が笑ってくれるのなら‥‥私はこの力を何時でも、何時までも振るうよ」
「そうね。私達にはそれしか出来ないけれど、それすらも出来ない人は沢山いるし‥‥それならせめて、私達は惑わずに進みましょう」
 次に顔を上げるとハンナの瞳には曇りなく、強き光が宿っている事にステラが気付くと彼女もまた頷き微笑んで、手に持つお盆と粥が盛られた椀の事を思い出せば慌ててそれを人々へと配って回る。
「この光景を見たら祥子殿は果たして、どう思うだろうか‥‥」
 その中で一人、今では煙だけが燻る京都の街並みを見下ろして月夜は心を痛めていた。
 『五節御神楽』が出来る事を全うしたとは思いながらも、目の前に広がる燦々たる結果を見れば一行の誰しもがそう思うのは当然だろう。
「ならばこそ拙者は祥子殿の為す事を見守り、見届けたい。先に何が待っているとしても、必ず」
 だから彼女は決意する‥‥斎王が何を願い、これから何を成すのか、その道程から結果の全てを見届けようと。

 こうして、京都にて起きた乱は終わり‥‥密かに活躍した『五節御神楽』と補佐の面々は様々な想いを抱きながら、次なる斎王からの召集を待つ事となった。

●斎王の目論見
 伊勢、斎宮は斎王の間にて静かに佇んでいる斎王は今しがた、京より帰還したばかりの『闇槍』が諜報員から事の報告を受けていた。
「京都の状況は‥‥そうですか」
 告げられたその報告、『五節御神楽』の動向と京都の状況を聞けば彼女は僅かに肩から力を抜いて瞳こそ緩めるも
「義弟にはくれぐれも宜しく伝えておいて下さい、それと決して無理をするなとも」
 浮かべる面立ちは厳しいまま、再び京都へ戻ると言う彼へそれだけ伝えると静かに頷いては消えた彼が先までいた場を暫し見つめる彼女。
「さて、まだ静観と言う訳には行きませんが‥‥『彼』が一時であれ、伊勢より退こうとしているのなら今の期を逃す訳にも参りません。そろそろ私達も動き出す事にしましょう、次にも何時かあるかも知れない乱の為に、伊勢の秩序を正すべく」
 息だけ吐けば再び顔を上げると、再び集った神職者達を前に口を開けば以前に話しそびれた決断を紡ぎ‥‥そしてその最後に斎王は己が決断に際し、避けて通る事が出来ない重要な鍵の名を口にし、場に介する皆へ問うのだった。
「その為にも先ずは『白焔』の真なる使い手の選定をします‥‥宜しいですね?」

 〜一時、終幕〜