【五節御神楽】再び、鳥羽へ

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:12 G 41 C

参加人数:10人

サポート参加人数:5人

冒険期間:12月30日〜01月11日

リプレイ公開日:2007年01月06日

●オープニング

●斎宮にて
 伊勢は二見、斎宮の中にある斎王の間の窓辺より今日も見える夫婦岩を達観しながらその間の主が斎王は一人でいるにも拘らず、珍しく真面目な面持ちを携えてその窓辺が外に広がる光景を静かに魅入っていた。
「いよいよ、出立が近いですね‥‥今回の巡行が後、きっと伊勢は斎王様が望む姿になるでしょう」
「えぇ、そうですね‥‥」
 そんな中、何時もと変わらずに彼女の近くにてかしまずいている側近の感慨深げに紡いだ言葉には簡潔に答え頷くも、その表情が和らぐ事はなく
「とは言え、安心は出来ません。きっとこれからはもっと大変な事になるでしょう、私達も‥‥伊勢藩も」
 今より更に先を見て、何事か考えに耽っている彼女だったが‥‥今はそれよりも、目先の事に集中せねばならない事を思い出して斎王。
「そう言えば『五節御神楽』は?」
「はい、各自それぞれに待機しています」
「宜しい、それでは皆を参集して下さい。次の任を言い渡します」
 側近へ尋ねると、彼女よりすぐに返って来た答えに頷けば長い事いた窓辺より身を引き離して己が座へ向かいながら『五節御神楽』の参集を告げると
「‥‥鳥羽の露払い、ですか」
「えぇ、私達が成すべき事に極力専念すべくお手伝いして貰わないと‥‥とは言え、そう簡単には終わりそうにありませんけどね。どちらも」
 その指示より側近、全容をそれなりに把握しているからこそ『五節御神楽』が次に就く任を言い当てれば斎王は頷いては言葉を紡いだ後、まだ始まりにも拘らず最先のそれが苦難の様相を示すだろう事に対して肩を竦めるのだった。

●言い渡される任
「皆、集まりましたね。急な呼び立てにも拘らずご苦労様でした」
 それより数日後、やはり斎王の間にて集う『五節御神楽』とそのお手伝いさんを前に初め、口を開いたのは祥子内親王で深々と頭を垂れては皆を最初こそ労うも
「さて今回、皆にやって貰いたい事ですが‥‥鳥羽に未だ潜む牛鬼を今度こそ、眠らせて貰いたいのです」
「あれ、でも牛鬼は‥‥」
「何時からか鳥羽にて暴れている牛鬼を以前、打倒こそ出来ませんでしたが確かに深手だけを負わせ、海へと退かせたのですが‥‥最近になって再び力を取り戻して来た様で、徐々にその動きを活発にしているそうです」
 次に早速紡いだ本題には皆が皆、驚きを隠さず瞳を見開けば当然の様にさざめく場ではあったがその中、響いたお手伝いの騎士が首を傾げ手の呟きを斎王が耳にすれば以前にあった話を簡潔にだけすると彼女の疑問に答えれば
「本来であれば原因であると思われる祠を新たに立て、再び静かな眠りに着かせたいのですが‥‥それを今回、行なうには少々時間が足りません」
「と言う事は牛鬼を退治しろ、って事でいいのかしら」
「そうなりますね、いささか不本意ではありますが‥‥残念な事に牛鬼が居座っている辺りに要石の一つがある故、早急に事を成さねばならない以上、私達が選べる手段は最早それしかありません」
 その原因である事象を解決したく思っている事を告げ、しかしそれは今回不可能である事も次いで皆に伝えればやはりお手伝いが魔術師の確認には表情を曇らせながらも頷く斎王‥‥本来、護り手である筈の『五節御神楽』を自らが進んで戦いの場へ誘わせるのだから、その表情を彼女が湛えるのは当然と言えば当然だろう。
「ともかく以上、少なくとも牛鬼だけは皆様が抑えて下さい。その他、状況にも寄りますがこちらの補佐にも回って貰えると助かりますが‥‥相手が相手故、それは厳しい相談でしょう」
「まぁ、出来る事を出来るだけやってみるさ」
 だがその惑いを抱える事も自らが決めて、今回の決断に至ったが故に皆よりなじられる事を覚悟した上で再び口を開けば、一先ずはあっけらかんとした答えが浪人の口より返って来た事に安堵する彼女。
「あ、それともう一つ。そちらの補佐に猿田彦神社の巫女、楯上優を配しますので彼女の事も守ってあげて下さい」
「何でまた?」
「要石の再封印に際し、少しでも敵の目を欺く為です。彼女が『白焔』の使い手である、と言う偽情報を流布した上で」
「なるほどね」
「尤もその分、皆には負担を強いる事になりますが‥‥」
「まぁ‥‥何とかなるよね?」
「首を傾げないで下さいな」
 それでも自らを戒めながら‥‥だがまだ続く話は言わねばならず、最も重要視されている要石の再封印を円滑に進める為にその協力を皆へ頼めば、返って来る自信なさげな答えには斎王、初めてその表情に苦笑いではあったが綻ばせると立ち上がってはその最後、皆へ告げ手は踵を返すのだった。
「それでは以上、各自準備に。また、これ以降に付いては追って連絡します。それでは、今回も厳しい依頼になりますが宜しくお願いします」

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 依頼目的:牛鬼を打ち倒せ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
 それらは確実に準備しておく様に。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:祥子内親王(同道せず)、楯上優(同道)
 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は六日。
 推奨レベル:Lv18〜、それ以下の方に関しては十分に留意して臨んで下さい。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

リオーレ・アズィーズ(ea0980)/ 藍 月花(ea8904)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ 鷺宮 吹雪(eb1530)/ 木下 茜(eb5817

●リプレイ本文

●再び、鳥羽へ
 年の瀬を前に、京都の外れに集うのは伊勢の斎宮が持つ部隊の一つ『五節御神楽』の面々。
「最近伊勢も騒がしくなって来ましたねぇ、酒が恋しいこの時期に‥‥とほほ」
「まぁそれはしょうがないよなぁ、この一件を片付けたらのんびり呑む事にしよう」
 その『五節御神楽』の中で数少ない男性が神田雄司(ea6476)、黒衣を冷たき風に靡かせながら遠くに見える民家のあちこちより昇る煙を見つめ呟けば、彼の背へ鋼蒼牙(ea3167)が声を掛け宥めると頷く雄司に蒼牙も応じ、頷き返せば暫し呑気に話を交わす二人の傍ら。
「しかし今回は牛鬼ですか。お嬢様もよくよく強敵と戦う運命に有るのですね」
「そんな事はありませんよ。しかし伊勢と件の牛鬼は、大分長い付き合いになっている様ですね‥‥そろそろ終わらせるとしましょう」
「そうですね、河童の皆さんも未だに困っていると言う話を聞きますし今度こそは」
「‥‥しかし、今回は凄いな」
 嘆息を漏らす従者を宥めるセリア・アストライア(ea0364)は舞う風に黒髪靡かせ、鳥羽の方を見やれば次には瞳をすがめると隣に佇んでは呟いた楯上優に応じると、他の皆がいる方を見やって同時に響いたルクス・シュラウヴェル(ea5001)の言葉を耳にしながら、セリアはその視界に有翼の巨鳥に白馬、角持つ白馬に雪狼や巨大な亀龍を捉える。
 尤もセリアの傍らにもまたグリフォンがおり、凄まじい絵面が展開しているからこそ集合場所が京都の外れだったりする訳で、ルクスが漏らした呟きも至極当然なら他の皆の意見もまた同じく。
「そうですね、この絵は余り見ませんよね」
「壮観と言うか精悍と言うか‥‥達観?」
「達観されても、ねぇ?」
 蒼き亀甲龍の主であるルーティ・フィルファニア(ea0340)も辺りを見上げて呟けば、唖然と口を開け放ってはハンナ・プラトー(ea0606)が漏らした言葉へは、それらを興味深げに見つめていたステラ・デュナミス(eb2099)も苦笑を浮かべ、それらを凝視する優へ肩を竦めて見せるも‥‥彼女は複雑な表情を湛えたまま反応を示さず。
「‥‥大丈夫、ですよね?」
「この子達は大丈夫。拙者らに手を貸してくれるもの故に」
 だが次いで、翼持つ白馬の主が天城月夜(ea0321)へ問えば黒き長衣纏う彼女は惑う事無く告げると今度は沈黙する猿田彦の巫女へ雄司。
「祥子内親王様の御考えは‥‥」
「‥‥少なからず不安視はされるかと、ここまでの力を振るわなければならない事に」
「確かに、ね。扱いを間違えると恐ろしい事になるからけど‥‥でも、今回の依頼には欠かせぬ力です。だからこの力、決して間違わずに振るうわ」
「はい、理解しているのでしたら斎王様もきっと信じてくれると思います。今までの経緯から考えてもそれは明らかですし」
「ありがとうございます。必ずや斎王様の期待に応えて見せます」
 これだけの魔獣が揃う事は稀だが、その事に付いて見せたのだろう先の反応に付いて彼が問えば、どう答えたものか悩みながらも口を開く優へまだ新しき黒衣を纏う神木秋緒(ea9150)が真っ直ぐな視線にて彼女を見つめ宥めれば、それに応じて頷く優へミラ・ダイモス(eb2064)が間違いなくこの場にて誓えば巫女は『五節御神楽』の皆を見回し、改めて促すのだった。
「それでは、斎王様が待つ鳥羽へ手筈の通りにそれぞれ、向かいましょう。道中気を付けながら」

 そして刻は過ぎ、大よそ三日を経て一行は鳥羽へ辿り着く‥‥と同日の内に斎王が連れ立つ、要石に新たな封印を唯一施せる霊刀が『白焔』持ちし別働隊もやがて同じ場へ合流する。
 その意は最終的な打ち合わせ。
 時間こそ限られているとは言え、やらない事には互いが力を合わせては目指す最終的な目的を成す事が難しくなるが故に二班が顔を合わせるのは必然であった。
「死ぬな、とは言えないが無理なら引く事も勤めだと思う。無駄に華散らす事もない‥‥俺達も控えている」
「そんな気はさらさらないから安心して、むしろ貴方達の方こそ気を付けてね」
「俺達と違って相手が何か分からないからな」
「その気遣い、有り難く頂戴する」
 そして斎王が二班を仲介しては手早く打ち合わせを済ませれば、『五節御神楽』の面々へ外套被りし剣士が静かな声音で忠告すると微笑を湛えて秋緒が間違いなく断言すれば、蒼牙の労いへ眼帯にて右の瞳を覆う浪人が会釈すると皆は次いで、斎王へと視線を投げる。
「斎王様もご無事で‥‥」
「大丈夫よ、彼らがいるからね」
「それに祥子様の身は、この体を張っても守り通してみせますよ」
「よろしくね、っと‥‥それじゃあそろそろ動きましょうか。今回の目的、どちらか片方がしくじれば成し得る事は出来ないでしょう。それを肝に銘じて各々、事に臨んで下さい」
 すれば次に響く月夜の硬き面持ち携える中にて紡がれた心配へ内親王、何時もと変わらぬ笑顔を湛えて見せれば巨躯の志士が誓いを聞いて彼女は漸く顔を綻ばせるとその後に斎王は皆へ呼び掛ける。
「ですが先にも話に上がった通り、命は無駄にせぬ様にも各自努めて下さい。自らの命を護れない方に一体、何が護れましょうか‥‥それでは皆が皆、再び揃う事を祈っております」
「それでは伊勢の平和の為に‥‥『五節御神楽』、出陣と行きましょう!」
 その最後が己の願いを間違いなく皆へ告げれば解散を告げると惑いを見せずにセリアは踵を返して、鬨の声を上げるのだった。

 そして、戦いはいよいよ始まる。

●激突! 〜牛鬼咆哮〜
 鳥羽の海、荒れ狂う波間の中に潜んでいた牛鬼はやがて雷鳴の如き咆哮を上げる‥‥それは主を乗せて空から迫る二頭のグリフォンにペガサスと、眼前に佇む蒼き亀甲龍の存在故に。
 そしてそれらは最初、視線だけで互いに睨み合い牽制するだけだったが
「クパーラ!」
 蒼き亀甲龍の主であるルーティの叫びを聞いて、初めてクパーラが咆哮上げれば遂に動き出す牛鬼。
「このまま、陸へ上げましょう」
 その動き出した高位の水の精霊を前、グリフォンを駆っては黒衣に風を孕ませるミラは強く皆へ叫ぶと空を駆る面子は適度に距離を保ちながら、蒼き亀甲龍は牙を剥いて牽制しながら潮が徐々に引いていく海より牛鬼を引き剥がすべく陸を目指した。

「ま、『白焔』持ちが敵に突っ込む様な動きを見せるのも変だしな。ここは心強い仲間達に任せよう」
「は、はい‥‥」
 その光景を遠目に、牛鬼を誘き寄せようとしている場にてそれが迫り来る様を見守る優は久々の実戦を前に多少狼狽すれば、普段の自然体にて臨む蒼牙はいとも気楽そうな声音で彼女を宥めるも
「しかし本当に凄い光景ですね‥‥」
「全くだ。しかしどうにも、これで俺の活躍は終わりになりそうなのが何とも複雑‥‥」
 次に響いた彼女の驚嘆に頷けば、魔獣達が繰り広げる激戦に舌を巻きつつ、しかし既に自身の仕事を終えた彼はこれからどうしようかと悩み、辺りに視線を巡らせれば
「とは言え、一応役目が回って来たか‥‥えー、悪いけどあれの退治を手伝ってくれるか? 一人で受け持つには一寸、数が多過ぎ」
「勿論です、まだ腕は拙いですが必ず伊勢の闇は払って見せます!」
 以前に伊勢で『白焔』の使い手に関する偽りの情報を流したからこそ、こちらに食いついたと思われる妖の群れが迫る様をすぐに捉えると蒼牙は優に声を掛ければ、秋緒から借りた刀は背負い先までとは違う力強い返事を紡げばすぐに駆け出す彼女の背を見つめ、うーんと唸った後に蒼牙も頭を掻きながら駆け出すのだった。
「負けちゃ、いられないなぁ」

 そして程無くして牛鬼は一行が望む戦場に辿り着くと、その足元にて佇む皆を見るなり激しき咆哮を轟かせる。
「これは‥‥流石に怖いかも」
「実は‥‥蜘蛛が嫌いなのですよ」
 それを前にハンナは流石に一歩後ずさり、初めて目の当たりにした牛鬼にたじろげば雄司もまた別の意味合いにて尻込みこそするが
「‥‥ええぃ、それでも負けるもんかー!」
「皆さんとなら何でも出来そうな気分ですよ」
「同感だ。故に全力でお相手しよう」
 僅か一時で立ち直れば、先に牛鬼が放った咆哮に負けじ叫ぶハンナに瞳を引き絞り囁いた雄司へ月夜も微笑めば、改めて眼前の敵をねめつけると‥‥暫しの間を置いた後に吐き出した吐息と共に刀抜き放てば、それを合図に戦士達は一斉に地を蹴った。
 必ず牛鬼を打ち砕くと決意して。
「さて‥‥水の精の本気と意地、少しは届くといいけれど」
 そしてその傍らに控える癒し手と魔術師達の一人、牛鬼とは相性の悪い水手繰るウンディーネは地に突き立てていたダークへ祈りを捧げる中で溜息混じりに呟くが
「いえ、引く訳には行かないこの戦い‥‥求める理の一端を断つ事になろうとも必ず、届けて見せるわ」
 地に突き立つダークが結界を成してその範囲内に牛鬼を収めた事を間違いなく確認すれば、彼女は決意して早く印を組み大気中にある水を掻き集めた。

 だが戦いは苦難の一途を至る。
 蒼牙にルクスが駆るユニコーンより託された闘気の力宿し、ステラが張り巡らせた精霊の力を弱体化させる結界を張り巡らせているにも拘らず、だ。
「ぐ‥‥うっ!」
「つつつ、痛過ぎだって‥‥」
「無理はするな」
 もう何度目の交錯か、雄司にハンナが防御重視で挑むも振るわれる爪に、牙に薙ぎ払われれば体の各所より血を滴らせながら退けられると消耗激しい二人に声を掛けるルクスがすぐに癒しの掌こそ掲げるも、完全に傷が塞がらない様子に癒し手は僅かに眉を潜めるが
「流石は、と言う事かしら。微動だにしないその姿、見ているだけで疲れるわ」
「でも‥‥最初に比べれば動きは鈍っていますし、話に聞いていた牛鬼とは違う様で‥‥助かりますが」
「個体差でもあるのかしら」
 愛馬を駆って一撃離脱を念頭に置いた戦術で挑む秋緒でも『五節御神楽』の装束をボロボロに、血と土埃に汚ししながら‥‥しかし肩を竦めて見せれば、そんな彼女を筆頭に皆の意思は未だ固いままである事は伺えた。
 見た目でははっきり分からないものの、確かに動きが鈍っている牛鬼を変わらず睨み据えて精霊切り裂く霊剣を強く握り締めて呟く雄司に、未だセリアの盾が残っている事に対してステラが後方にて首を傾げるも
「でもそれより先ずは!」
 まだ余力ある一行を叱咤する様、残されている時間が限られている事を告げる代わりにルーティが叫べば再び駆け出して一行。
「分かってる!」
「もう少しで足を‥‥」
「皆さん、退いて下さい!」
「向こうは‥‥大丈夫よね、ならっ!」
 彼女が叫びに即座、応じる月夜に雄司も駆け出すと皆がひたすらに攻撃していた足の一本を再び二人が切り付ければ、避ける暇なき一刃を受けて咆哮上げる牛鬼だったが‥‥次に鋭き牙が並ぶ口が開け放たれると、危険を察したルーティの警告が響く中で水の精霊がその元に集う気配を察してステラが蒼牙達の様子を確認してすぐ、氷嵐を完成させ牛鬼より放たれた氷嵐を打ち消せば同時にルーティの呪文も完成し、牛鬼を高々と虚空へ舞い上げ叩き落すと今までの比ではない絶叫にも似た叫びを上げる牛鬼へ
「この一撃が、平和への一歩と信じる‥‥だから!」
「これでお終い‥‥よっ!!!」
「狂いし神霊よ眠れ、斬魔伏滅‥‥彗星撃」
 その絶対的な隙を逃さず皆が駆け寄れば、セリアの強烈な一撃によって完全に足が一本を砕かれ、すぐに立ち上がろうとしていた牛鬼のバランスを崩した所へ秋緒が紅蓮宿し刃にて腹部を貫いて直後にミラが渾身の一撃を、その頭部へ間違いなく打ち込み砕くのだった。
「申し訳ありません、ですが静かに‥‥眠って下さい」
 その光景を見るだけで精一杯だった雄司が静かに、口元より流れ出でる血に構う事無く祈りを紡ぐ中で。

●消えた影、見えた影
 そして戦いの後、徐々に薄らいでいく牛鬼を一行はその形が完全に消えるまで見送っていた。
「やっぱりハードだったな‥‥もう、私にシリアスは似合わないのにね」
「全くだ、そして思った通りに強敵だった‥‥後ろに下がってた俺が言うのも何だが」
「いえ、でも私は助かりました。ありがとうございます」
「いや何の」
 そんな一行の中、ボソリと何時もとは違う調子にてハンナが岩の上、片膝を抱えて呟くと少し離れた所にいた蒼牙も肩を竦め同意すれば、先まで牛鬼がいた場所を見つめ自嘲するが優が次に紡いだ感謝の言葉に彼は頭を左右に振って返すも、それでも優は笑顔を湛えると
「しかし祥子内親王様も中々ですが楯上さんも中々に‥‥伊勢の女性は強いですね」
「そんな事は‥‥ないです、例え僅かでも出来る事があればやりたいだけなので」
 直後に響いた雄司の感嘆に今度は彼女、少し照れてか頬を染め‥‥だが真剣な面持ちにて自身へ言い聞かせる様に呟いたその時、東の空が白み始める。
「そう言えばこんな時に何だが‥‥あけましておめでとう。今年もよろしくっと」
「そうね、明けましておめでとう」
 すればその光景を前、蒼牙がふと新年が明けていた事を思い出せば皆に振り返り挨拶すると秋緒がそれに応じれば、光が徐々に満ちる中で一行は目的を達成した事に思い至り漸く表情を緩めるのだった。
「くすくすくす」
「クスクス」
「ぷっ」
「‥‥っ、何奴!」
 がそれが許されたのは僅かな間だけで。
 すぐに何処からか三つの嗤い声が聞こえてくればルクスがまなじり上げて叫び、辺りを伺うと‥‥一行の対面の崖が直上、三匹の狐の姿をその目に捉える。
 無論、言語を解している事に一行は突然の闖入者へ警戒感を露わにするが
「何奴、だって」
「何だろう?」
「獣じゃない?」
『‥‥‥』
 彼らはそんな一行の様子などお構いなしに無駄話を交わせば皆を呆れさせるも
「なら、何用でしょう」
「用は済んだよ、この戦いを見届けるって言う用事がね」
「そのついで、あれも見に来たんだけど‥‥うーん」
 声音こそ緩やかにしてセリアが問えば彼ら、率直にその意を告げると次には一斉に視線を揃えて優と‥‥彼女が携えている刀を見つめ言うが、それには裂帛を持ってステラが応じる。
「悪いけど、詮索する暇は与えないわよっ!」
『うひゃ、こりゃ退散だー』
 そして響いた彼女の声音は即座、周囲の大気を凍て付かせ数多の刃に変えて打ち出すとそれを前に彼らは影に潜り、次には声のみ響かせ逃げの一手を披露すれば
「妖弧が三匹も、私達の監視だけに付くとは‥‥」
「私達の想像以上に高位の妖怪さんが複数、動いているみたいですね。これ以上ややこしい事にならないといいのですが‥‥」
 その言葉通り、やがて完全にそれらの気配が消えた事を確認してから月夜が黒衣を冷たき風に靡かせながら呟くと、それに頷くルーティは今までの経緯を必死に纏めながらこれ以上の負荷は勘弁して欲しいと渋面湛え、祈るのだった。

 〜一時、終幕〜