【五節御神楽】死力激突

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:11〜lv

難易度:やや難

成功報酬:11 G 68 C

参加人数:10人

サポート参加人数:10人

冒険期間:01月25日〜02月05日

リプレイ公開日:2007年02月03日

●オープニング

●黒影飛翔
「さて、一先ず打てるだけの手は打ったか」
 伊勢は二見‥‥斎宮の直上に漂う雲に紛れる様に佇み、眼下のそれを冷淡な光湛えた瞳で見据えるのは伊勢にて暗躍する天魔。
「斎王が要石の再封印に執着している今‥‥近くが夫婦岩には海長虫、京都では黒門。伊勢藩は先ず動けぬだろうし、斎宮とて現状の戦力は心許ない筈」
 今の伊勢が置かれている状況を完全に把握しているのか、嗤う様に呟く影‥‥要石の結界が完成すれば、伊勢にて跋扈する妖の群れの殆どが封じられるにも拘らず今は何故か斎宮だけを見据えている。
「とは言え、『闇槍』と『五節御神楽』は残っているか。やはりもう一手、欲しい所だったが‥‥今は止むを得ん」
 その真意は読めず、だが天魔は次に己の足元を見やり蟠り蠢く妖達を見つめれば数こそ多いが確固たる強さ持つ存在がなき事に憂いの表情を湛え、だがすぐに自嘲の笑みを浮かべると更なる高みを見上げれば
「‥‥次なる風を読む刻か」
 静かにそれだけ呟いて、やがてその場より掻き消えた。

●狙われた斎宮
 丁度同じ刻、斎宮内部。
「把握は済んだ?」
「はい‥‥主には此処からも見える森を中心に広く展開されているのが主力です」
「頭らしい奴の存在は確認出来た?」
「いえ、特には‥‥」
「あんたで見付けられない、と言う事は何時もの様に高みから見物決め込んでいると判断して問題なさそうね」
 主要な面々を集め、斎王の間にて『闇槍』の頭領から突如開かれた妖達の報告を受けていたのは神野珠だった。
 何故彼女が、と問われるならその理由は場に集う面子の中では一番に戦いと兵法に長けており斎宮におけるその地位も相応であるからこそ、今一時だけ斎宮の全てを統括する権限を与えられているからである。
「‥‥さて、どうしよっか? 問題のない相手だとは思うけど、決して気の抜けない相手ではある事もまた然り」
 そして一通りの報告を受け終わった後、彼女は盛大に溜息を漏らせば次いで辺りを見回し尋ねるが‥‥場を包むのは沈黙のみ。
 その、思った通りの反応に対し珠は頭を掻くが
「斎王様の意を此処で試してみたいけど‥‥駄目よね、リスクが大き過ぎるし」
 次に自身、以前に斎王から聞いた話を思い出しては一つの案を紡ぐがそれには集う面々が否定的な視線だけ一斉に彼女へ注ぐと肩を竦め、珠はあっさりと自ら折れる。
 先に彼女が言った通りで、失敗でもしようものなら『はい駄目でした』と言って済む様な問題ではないからこそ。
「そうなると‥‥後は無難に残る『闇槍』の面子で各隊を統括し主力と衝突。斎宮の防備に携わる隊は私が指揮する、と言う事で皆さんいいかしら?」
「はい‥‥」
「問題はない、が『五節御神楽』を忘れている様じゃが?」
 と言う事で早く珠が別案を掲げれば『闇槍』が頭領に場の面々はすぐに頭こそ垂れるも、その面子が中で一番の年長者である老女の問い掛けには彼女。
「それも抜かりなし、独自の判断で動いて貰うから今の勘定には入れてないだけ」
「いわゆる、遊撃か」
「そう、あの面子なら今は下手に他の隊へ組み込むよりそっちの方が余程上手く働いてくれるでしょうからね」
 未だ斎宮を目前に、蠢くだけの存在を先に目の当たりとしながらも満面の笑みを湛え答えればその話を聞いて納得する彼女に続き珠は皆へその理由を丁寧に説明するが
「じゃがそれ故に‥‥」
「この戦いの要よね。統率の欠片が無い敵とは言え何を仕掛けてくるか分からない以上、自由に動ける『五節御神楽』の動き如何で戦況は十分に変わり得る可能性を孕んでいる。たったの十人でもこれだけ大規模な戦いだからこそ、私が見落としているだろう小さな穴をどれだけ潰す事が出来るか‥‥戦いは大規模であればある程、些細なきっかけで瓦解するから『五節御神楽』にはそれを未然に防いで貰いたいわね。『斎宮の護り手』たる為に」
 再び響いた老女の言葉は、それを途中で遮ると新たな斎王が伊勢へ来てより久し振りとなる大規模な戦いに潜んでいるだろう、不安要素は看破出来ず‥‥それ故に『五節御神楽』に期待を寄せて珠が呟けば
「さて、長話が過ぎたわね。とりあえず敵もまだ本腰じゃないだろうけど何時でも打って出られる様に此方も準備するとしましょう。斎王様が帰って来る場所を守る為にね!」
 眼下に広がる光景を改めて見つめながら、何時もと何ら変わらない明るげな声音にて皆へ告げれば早く一同は動き出すと、その中で珠は斎王の間が隅にて常に黙しては座り込んでいるだけの『彼』へ漸く声を掛け、行動を促すのだった。
「さて、それじゃあ貴方にも一働きして貰うわ」
「‥‥分かった、今まで培って来た技術の全てを持って斎宮を守り通そう。何より、あの時の誓いを守る為に」

 そして、戦いは始まる。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:斎宮を守り抜け!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要、また防寒着も必須な時期。
 それらは確実に準備しておく様に。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。

 対応NPC:神野珠、アシュド・フォレクシー
 日数内訳:移動六日(往復)、依頼実働期間は五日。
 推奨レベル:Lv15以上(新規参入者がいる場合)、それ以下の方に関しては十分に留意して臨んで下さい。
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●今回の参加者

 ea0321 天城 月夜(32歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea0340 ルーティ・フィルファニア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea0606 ハンナ・プラトー(30歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea3167 鋼 蒼牙(30歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea6476 神田 雄司(24歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea9150 神木 秋緒(28歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb2064 ミラ・ダイモス(30歳・♀・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

沖田 光(ea0029)/ 李 飛(ea4331)/ マーヤー・プラトー(ea5254)/ 御神楽 澄華(ea6526)/ 緋芽 佐祐李(ea7197)/ 朱 蘭華(ea8806)/ マクシミリアン・リーマス(eb0311)/ ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ マルティナ・フリートラント(eb9534)/ 朝海 咲夜(eb9803

●リプレイ本文

●その真価は果たして
 伊勢は二見、斎宮に至った一行はその内部にて一先ず今までの戦況に様々な話を今回は斎宮を司る神野珠と交わせばその後、休む間も無くいよいよ本格的に動き出すだろうと予見されている斎宮より遠くに見える大きな森を望んでいた。
「多い、な。とは言え、やれる事をやるだけか」
「‥‥そうね。けれど毎度毎度飽きもせず、良くあれだけ数を揃えて来るわよねぇ。ある意味感心だわ」
 その森に見える、数多き妖を見て取った鋼蒼牙(ea3167)が真面目な声音にて呆れてみせると、今までと全く違う彼の様子にステラ・デュナミス(eb2099)は内心でだけ首を傾げつつ、だがあえてそれには触れぬ様に暫くの間を置いて疑問を飲み込んだ後に視線を森の方へと向け瞳をすがめ、肩を竦めるが
「でもこれ以上、こんな景色は何処であろうと見たくもないから必ず‥‥守り通しましょう」
 次に彼女は吹く風にはためく衣服を強く払い、整えると厳しい声音にて誰へともなく告げ今はこの場にいない斎王の為、端的にだが高らかに皆へ呼び掛けると
「護りの御旗たる『五節御神楽』、その力を皆の目に焼き付けてみせましょう」
 彼女に同意しすぐ頷いた神木秋緒(ea9150)は寒空の下で舞う風に身を縮める事無く、むしろ胸を張って皆へ告げると靡く黒き髪と長衣をそのままに戦場へ向けて一歩、踏み出すのだった。

●死力激突
 それより一行は三班に別れ行動を開始する、その内の二班が戦場の只中を駆け巡る遊撃に回り残る一班が斎宮にて休息を取りながら、有事の防衛に当たる構成は敵の真意が見えないからこそ不安が残るも、導くべき結果に惑わない一行の意気は高かった。
「戦闘は長い‥‥が、故に集中力を切らさぬ様にな」
「分かっていますよ、それでは気を付けて下さい」
「あぁ、お互いにな」
 その一班、やはり何時もとは違う調子のままで臨む蒼牙の呼び掛けが響くと、この班では一人で空を舞う妖を相手取るセリア・アストライア(ea0364)は今では既にその調子を気にせず頷くとすぐにグリフォンに跨って空高くへと飛翔すれば
「さて、それでは少々出遅れているが故、早急に動こうか」
「‥‥はい」
 暫し彼女を見送った後、秋緒とルーティ・フィルファニア(ea0340)へも呼び掛ければエルフの魔術師が次に遅れて紡いだ返事と同時、駆け出した。

 陸を這いずる敵の主な構成はアンデッドを中心にした多種多様な混成部隊でその歩みこそ遅くはあったが、『闇槍』が率いる斎宮の部隊が攻撃に怯む事無く前へだけ進む死兵の群れを前にすれば、その数はさて置いても戦い慣れしていない者達にとってそれは十分脅威に映る。
「うあぁっ、来たぞぉー!」
「っ、後退する!」
 加え今は死人憑きや死霊侍程度でこそ抑えられているも、それ以上の突出した存在‥‥例えば今、彼らの前に現れた馬頭鬼を目前にすると戦線が後退せざるを得ないのもまた事実だった。
「優しくも雄々しき大地の精よ、その御力を借りては振るわん不可視の波動‥‥我が眼前、ある物全てを薙ぎ払え!」
 だがそんな折、響いた詠唱は誰が紡いだものか、後退する彼らが考える暇なく織られた呪文はやがてその効果を現すと次には馬頭鬼とその直線状に存在する不死の群れを片端から薙ぎ倒し、地へ打ち倒せば兵の一人がその始点を見やると黒き長鉢巻を頭に巻くルーティの姿を捉え、次には軍馬に跨り前線へ駆ける秋緒に蒼牙と交錯する。
「大丈夫ですか?」
「は、はい」
 その彼、彼女らが簡潔な問いへ僅かにだけ答えを返せば二人は再び地を蹴ると、漸く起き上がりかけた馬頭鬼へ迫り疾き一刃を立て続け見舞ってその鬼の体を穿ち、武器を砕けば
「例え斎王様が居られずとも、伊勢に我等の在る限り斎宮を妖怪の手になど渡しはしない!」
「我ら『五節御神楽』も戦っている! 勇敢な兵達よ、我らは負けん!」
 すぐに振るう長槍を引き戻し、容赦なくその頭部を貫きながら秋緒が凛と鬨の声を轟かせれば、『五節御神楽』の到来を告げる蒼牙の叫びが辺りを包むとやがて後退していた兵達の足は止まる。
 昨今の京都であった戦乱、目立った功績こそあった訳ではないが‥‥それでも斎宮の兵達にとっては斎王の意が具現化された『五節御神楽』の存在は既に裏でだけ動く『闇槍』を越えるものとなっており、その鼓舞は確かに兵達に浸透すると
「此処は斎王様のおわす神聖なる場所! 斎王様が戻るべき場所を失わぬ様に、この地を共に護り抜こうぞ!」
 その最後に正しく戦巫女が如くこの戦場に存在する秋緒の声が場に響き渡ればやがて、兵達の雄叫びだけが辺りを覆い包んだ。
「神木さんはともかく、鋼さんは本当に大丈夫なんでしょうか。頭でも打ったのか、それとも‥‥?」
 とは言え、辺りに注意深く視線を配しながらもその光景を見つめるルーティは何時もの立ち振る舞いと全く違う蒼牙の様子に、考えられる原因を推測しながらどうしても気になって何時までも首を捻るのだった。

「この地を狙う悪鬼羅刹は、この斬魔刀がその全てを斬り捨てる。『五節御神楽』が一人、ミラ・ダイモス‥‥参ります。恐れなき者だけ、掛かって来なさい」
 一方、彼らとは違う海上を睨み据える防衛部隊と数多くの埴輪がいる側へ回っていたのはミラ・ダイモス(eb2064)と神田雄司(ea6476)、斎宮の正面にて兵と妖がぶつかり合った丁度その頃に海が泡立つのを見止めればその中で早く海より上陸した一体の大蟹を正しく言葉の通り、強烈な斬撃見舞わせ一刀にて両断して見せれば高らかに海へと叫びを放つも
「余り、この手の呪文は好きではないが‥‥この状況ではそうも言っていられないな」
 それには引かず、徐々に海上へその姿を現す妖の群れへ彼らと同道するアシュド・フォレクシーは何を思ってだろう渋面を浮かべながら、だが惑いを早く振り払い詠唱を織り紡ぐ。
「吹けよ氷雪、刃を成しては我が眼前に立ちはだかるもの‥‥その全てを切り裂けっ!」
 すれば詠唱の完成と直後、大気中に具現化した数多なる氷の刃は間髪置かず海上に現れた妖の群れへ疾く広く打ち据え貫くが
「っ、しまった‥‥」
 いかんせん工房にて篭り切りの期間が長かった彼はその頭上まで注意及ばず、次に眼前へ飛来した数匹の以津真天が嘴開き、ほくそ笑む様に舌打ちをする羽目に遭う。
「分かって頂けますか? 貴方は既に存在してはいけないものなのですよ‥‥それでは、御免」
 もそれは黒き長衣を靡かせ、早く場に駆けつけた雄司は既に死せし鷹の先ず一匹が内懐に飛び込めば念仏にも似た一言だけ囁いて直後、その頭部を日本刀にて貫いて絶命させると残る禍々しき鷹は宙へと退避する。
「済まない、助かった」
「いいえ、とんでもありません‥‥ですが、この『太刀』も限界に来た様です」
「‥‥何がだ?」
「何でもありませんよ、ただの独り言です」
「お二人とも、大丈夫ですか。援護が遅れて申し訳ありません」
「あ、あぁ。大丈夫だ、こちらこそ久々の実戦に付いて行けず迷惑を掛けているから気にしないでくれ」
 その最中、手近な埴輪に指示を出していたアシュドはすぐ彼へ礼を言うも‥‥返って来た言葉の最後、小さな声にて紡がれた彼の真意は解す事が出来ず魔術師は問うも雄司はその表情を綻ばせれば、遅れ駆けつけたミラの詫びにアシュドこそ平伏すると彼女は次いで、雄司の顔を見やる。
「神田さんも、大丈夫ですか?」
「えぇ、問題ありません。それよりも‥‥」
 その表情に何時も以上、精細を欠いていたからこその問い掛けだったが‥‥彼は改めてミラへも首を左右に振っては答えると、次いで視線を再び海に戻せば厳しい声音にて呟く。
「まだもう暫く、続きそうですね」
「ならば尚も沸く敵以上にこちらがそれを屠ればいいだけの事です」
「容易く言ってくれる」
 すると長大な刀を担ぐ彼女はその光景に瞳をすがめながら、静かにそれだけ言い放つと肩を竦めるアシュドではあったが、次に雄司が放った雄叫びには同意して腹を括った。
「我ら斎宮の守り手たる『五節御神楽』、雑兵如き者の数など意にも介しません! だからこそ斎宮守りし兵達よ、今一時だけでも斎王様の為に己が内の武器を掲げ眼前の敵を共に薙ぎ払おうぞ。全ては伊勢の為に!」
「‥‥そうだ、もうこれ以上『大事なもの』を失う訳には行かない!」

●窺い知れぬ真意
 戦いが長く続く中、一行の鼓舞は果たして効を成せば数に勝る妖達と一進一退の攻防を繰り広げていた斎宮側は四日目も昼の入り頃には漸く、その戦線を森の方へと押し上げ始めていた。
「ふむ、これで準備完了だな」
 そんな折、斎宮にて先まで共に戦っていた天馬と共に休んでいた『五節御神楽』の一人が天城月夜(ea0321)は近頃伊勢にて跋扈する妖孤を誘き出すべく、広き庭の片隅にて軽く炙った油揚げをあちこちへ放っていた。
「もう少し、柔軟性のある魔法だったら良かったんだけど‥‥」
「それが世の理なのだから上手く扱える様にしないとな」
「うっ、まぁね‥‥」
 その、何処か可笑しな光景にステラは苦笑を湛えながら自身が習得している魔力看破の水鏡の詠唱織り、それを眼前に生み出せば癖のあるその魔法に付いて次にぼやくも、先まで負傷する兵達の治療に当たっていたルクス・シュラウヴェル(ea5001)に宥められると言葉に詰まってしまう彼女だったがそんな折、唐突にその刻は来る。
「わーい、油揚げー!」
 突如、何処からか快活な声が聞こえてきたかと思えば一人の子供がその場に飛び込んで来ると地に落ちている油揚げに惑いもなく飛びつく光景が四人の目の前に展開されれば
「‥‥埴輪」
「は、油揚げのが美味しいよ?」
 余りにも早い展開に、場に居合わせる皆は暫し呆然こそするが‥‥次にルクスが斎宮の兵全てに対し提案した合言葉にて尋ねてみれば答えは帰ってこず、次いで先にステラが作った水鏡を揃い皆で覗いては彼を見てみると、映し出されていたのは狐の姿だった訳で
「この斎宮に何用か」
「いや、一寸見学に」
「‥‥帰る場所を失くす人が出てくるのは、もうごめんだからね」
 次に四人が取った行動は早く、一先ず一枚を平らげたその彼へ月夜が大脇差の峰にて小突き問えば、真剣な面持ちにて返って来たその答えを聞くと静かに怒気を膨れ上がらせ、しかしその表情には憂いを湛えるハンナ・プラトー(ea0606)も続き、狐へ細身の剣を突き付けると
「今回の‥‥いや、お前達の本当の目的は一体何だ」
「天岩戸に何が眠っているか、分かる?」
「天照大御神‥‥」
 退路が断たれただろう妖孤へルクスが未だ見えない妖達の目的の全容に付いて鋭い声音で問い質せば、彼の答えならざる答えにステラは伊勢神宮が祭神の名を呟くが‥‥彼女が紡いだ答えに対し妖孤はただ嗤うだけ。
「いずれ、力の弱い妖達は要石の影響を受けて姿を消すんだ。それなら、有意義に使わないとね。斎宮を落とす事だって出来るかも知れない今の機に」
「‥‥詰まる所、今回の戦が起きた要因は貴方達の都合と言う解釈で問題ないですね?」
「そう受け取って貰って構わない」
 その意味深に紡がれた妖孤の問いの真意を四人が解するより早く、再び彼の口から今回の戦が事由を聞かされると丁寧に確認をしながらも静かに怒気を纏いながら問うステラの声が掻き消えるより前、この場にいる誰とも違う者の声が響けば皆は声の方を一斉に見やると何時の間にか天魔が四人の背後に佇んでいた。
「一つ、告げよう。私達はこの地に眠る『災厄』を再び蘇らせる、ジャパンの要であるとも言えるだろうこの地を先ずは崩す為に」
 すれば妖孤を警戒しつつも皆は現れた天魔を睨み据えるとその眼差しを前に翼持つ彼は肩を竦め、しかし初めてその目的を告げる。
「悪いけど、それはさせないわ」
「‥‥まさかこうも早くお目に掛かるとは思っても見なかった」
 それが真実か否か分からないとは言え、宣戦布告と言ってもいいだろう天魔の宣言にしかし次に場に響いた声は漸く斎宮に辿り着いた斎王その人のもので、やはり唐突な登場を前に四人はともかく天魔までもが驚いたその時だった。
「うぇーん!」
「泣いても無駄です。これ以上、貴方方の悪行を許す訳には行きませんのでっ!」
 上空よりまた新たな声が聞こえると直後、斎宮に言葉発する一羽の鷲がぶつかれば壁伝いにそれが地へ墜ちると同時、たまたま言葉を用いて指示を出していた鷹を見付け追っていたセリアもやはり同じ場所に激突したのは‥‥尤も、グリフォンの質量からすればそれは壁伝いに転げ落ちる筈などなく、斎宮に見事な風穴を開ける羽目となればその光景を前に全員が沈黙する事暫し。
「祥子さん、お戻りになられていたのですねー‥‥」
「丁度今しがたよ、でもまぁ見事に」
 出来た風穴よりグリフォンと共に申し訳なさそうに顔を出したセリアの呼び掛けに斎王は肩を竦め答えると、様々な意味で混沌とする斎宮前はそれより再び沈黙が続くのだが
「良く分かった、思った通りに一筋縄では行かない事が。そして、手駒が足りない事も」
「まだ今は刻ではない事が良く分かった、ならば私達はお前達と戦う理由がない。故に引かせて貰う」
「勝手にすればー、生憎こっちもそれ所じゃないし」
 その沈黙を切り裂いて天魔が口を開けば、だがその口振りとは裏腹に笑みをその表情に宿すと次に翼をはためかせ言えば、その彼へ飛び掛かろうと未だ怒気を孕ませているハンナを手で静して斎王がぞんざいに答えを返すと天魔は鼻でだけ嗤い空へ消えれば、また二匹の妖弧もその一瞬の暇に影の中を転移し一行より離れ、自陣目指し戻って行く。
「悪いわね、皆」
「いえ、そんな事は」
「一先ずは目の前の事に集中して頂戴、まだ気が抜けないみたいだし」
 そんな彼らを見送りながら斎王は色々な意味を含ませボソリ呟くが、ルクスはそれを否定し頭を深く垂れるも、首を左右に振って祥子はその視線を空から引き剥がし眼前に未だ広がる戦場を見やり言うと、場に居合わせる月夜を筆頭に場に居合わせる皆は一様に斎王へかしまづくのだった。

 そしてそれより一日を要し、斎宮を前にしての戦いはその幕を閉じた。
 秩序に理念なき敵勢に対して斎宮の兵達は斎王の帰還をも聞けば尚意気高くしてそれの掃討を成し遂げる。
 だが斎王の帰還までの間、持ち堪える事が出来たのは間違いなく『五節御神楽』の存在であったのは言うまでもないだろう。
 しかし明らかになった妖達のその真意は一端だけを垣間見る事が出来ただろう故に、一行に斎王は戦が終わった後も複雑な表情を湛えていたが
「とりあえず皆、生きてるみたいだね。うんうん‥‥生きてるって素晴らしい」
 今はそれを気に留める風も見せずハンナは妖孤を前にしていた時の表情など忘れ、笑顔にて勝利の凱歌を奏でるのだった‥‥出来る事なら今この時に昇る朝日が未来の斎宮にも輝いて欲しいと願って。

 〜一時、終幕〜