【拭えぬ情念】暗影

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月01日〜10月06日

リプレイ公開日:2007年10月10日

●オープニング

●影、出ずる
 夜の暗がりの中、幾つかの影が蠢いていた。
「取り敢えず、力量の程は分かった‥‥」
「それでは」
 その一つ、ボソリと呟けばそれに応じて顔を上げる別の影が響かせた言葉に頷くと‥‥最初に声を発した影は顔を上げ、やがて視線の先に映る寺を見つめれば口を開く。
「動く。そもそも目的があるからこそ此処にまで来たのだからな」
 すると回りの影はそれにやはり頷き返すとその光景に満足して口元を歪めれば
「一先ず、手筈の通り動く様に」
「だがその案、慎重過ぎやしないか。もうあの人は‥‥」
「だからこそだ。息子は半人前、もう一人の爺は何者か知らんが、腕が立つものの所詮は一人‥‥だとしても、慢心は自らの足元を崩す。それに冒険者が合流する事も考えれば気を引き締めてこそすれ、油断は出来まい」
「‥‥分かった」
「それならば、動いてくれ」
 次いで出した指示にしかし別の影が口を挟むも、それを分かっているからこそ最初の影はその意見をあっさり蹴ると‥‥完全にこそ納得はしていない様だったが、その意見に肯定して口を挟んだ影が踵を返すと他の影もそれに倣って皆動き出せば、場に残る一つの影。
「漸く、貴方を越える事が出来そうだ‥‥」
 再び静寂に包まれる闇の中、土中にいる亡者達が密かに響かせている怨念に耳を傾けながら視線の先にある寺を凝視したまま、感慨深げに微笑んでは呟くのだった。

●語られる真相
「どうやら、きおったか」
 一方、寺の境内にいた安藤兵衛は周囲の異変を展開するデティクトライフフォースで敏感に察知していた‥‥とは言えその生命反応は効果範囲ギリギリの所で探知するもすぐに消えれば、それを繰り返すのみ。
「え、何が‥‥ですか?」
 その事を老いし僧侶が訝りつつも、久慈司が響かせた疑問に暫しの間を置いて応じる彼。
「‥‥お主の父が遺した物を狙う、不届きな輩がじゃ」
「それって」
「あの杖、じゃな」
 そしてその口より紡がれた司の父に纏わる、初めて語っただろう話を聞けば‥‥それにも拘らず、マイペースに再び尋ねる彼に兵衛は苦笑を漏らすと寺に唯一置かれている仏像が握る杖の事を口にすれば
「実はあの杖、死者を揺り動かし更に新たな力を与えると伝えられておっての‥‥最近までは主の父が管理していたが、先日の不慮の事故でそれも叶わなくなった」
「もしかして、その不慮の事故‥‥」
「‥‥察しが早いの。昔、あやつの弟子だった者の仕業じゃと言う話だ。理由は言うまでもなく、あの杖を狙っての事らしい」
 その杖が持つ、秘された力の事までも口にすると司はそれで最近に起きた父の死の真意を知れば、老人は顎を撫でながら顔を綻ばせるが‥‥すぐに表情を厳しいものに変えると
「杖を狙う弟子の事をわしはよう知らんし詳細も聞けんかったが、わしの最後の弟子じゃったあやつの‥‥最後の願いじゃからこそわしがそれを請け負い今、此処にいる訳じゃ。主を守り、杖を守り‥‥これから主が何かを守る時の力を与える為にの」
「そ、そうだったんですか‥‥それに父の最後を看取ったのは貴方だったんですね」
「偶然、じゃったがな」
 司の父との接点も付け加えながら己の真意を語れば司は父と老人の接点、それ程の力を持つ杖の存在と老人が寺に滞在する理由に驚くが
「ともかく司、自衛位は出来る様になったじゃろうから牧の事は任せたぞ」
「か‥‥構いませんけど、兵衛さんは」
「無論、打って出る‥‥が如何せん、数が違うじゃろう」
 それよりも兵衛は今の状況を打破すべく立ち上がるが‥‥外へではなく、すぐ近くにある机の方へ向かうと筆を取れば手紙を認める事暫し。
「幸いにも積極的に仕掛けてくる気はない様じゃし、皆が来るまでのんびり待つとしようぞ」
 すぐに筆を置くと、先の話を聞いて後に落ち着かなくなってか牧の周囲をグルグルと歩く司へ声を掛ければ、外にある墓地に広がる闇を厳しい眼差しで見据えるのだった。

――――――――――――――――――――
 依頼目的:墓地に姿を現した謎の僧侶の一団を捕縛せよ!

 必須道具類:依頼期間中の保存食(日数分)は必要なので確実に準備しておく事。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
 (やるべき事に対し、どの様にしてそれを手配等するかプレイングに記述の事)

 対応NPC:久慈司(墓守)、安藤兵衛(老練の僧侶)、安藤牧(僧侶の孫娘)
*NPC詳細
安藤兵衛【僧侶(黒)】:知重視、物理戦闘は護身が出来る程度。
 習得魔法:ディストロイ、デティクトライフフォース、ダークネス、ロブメンタル、レジストマジック(達人8、高速有)
久慈司【僧侶(白)】:バランス、物理戦闘は未だ不安有り。
 習得魔法:ホーリー、デティクトアンデット、ホーリーフィールド(初級7、高速無)
 日数内訳:目的地まで二日(往復)、依頼実働期間は三日。
――――――――――――――――――――

●今回の参加者

 ea6437 エリス・スコットランド(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 eb5301 護堂 万時(48歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb5379 鷹峰 瀞藍(37歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb5581 東天 旋風(34歳・♂・忍者・パラ・ジャパン)
 eb7046 篠杜 観月(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 eb7343 マーヤ・ウィズ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ec1173 大神 萌黄(33歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ec2502 結城 弾正(40歳・♂・侍・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●暗影 〜真意〜
 京都より程無く離れた所に建つ、とある古びた寺を今日は久々に客が訪れていた。
「よぉ、爺さん。来たぜ‥‥それと司達も、元気そうだな」
 その一団の中、始めに声を発したのは一行の中で一番に逞しい侍の結城弾正(ec2502)が響かせたもので、それに応じて寺に住む老練の僧侶とその孫娘に跡取り息子が揃い顔を上げればそれぞれに浮かべる、元気そうな表情を見て口元だけ綻ばせると
「話の大まかな概要は伺いました。相手は黒き宗派の僧侶人間が八人ですか‥‥厄介ですね」
「とは言え、数はこれで同数じゃ」
 僧侶の大神萌黄(ec1173)もまた、それを前に微笑こそ浮かべるが場に漂う空気からかすぐにそれを収め、本題を切り出すも笑う老人ではあったが
「墓地から死人を生み出す、何らかの念を解き放つ方法はないのでしょうか? せめてそれだけでも断てれば‥‥」
「気付いたか?」
 次に彼女が切り出した話を聞けば途端、表情を厳しくして安藤兵衛は問い返すと頷く萌黄に深く溜息だけ返した後、彼はこの寺に纏わる話の一つを語り出した。
「まぁ気付きもするか‥‥しかし、まだ暫くは掛かるじゃろうな。雪ごうとしてはいるが何せこの墓地の一角には罪人達の怨念が未だ、こびり付いておるからのぅ」
「そうだったのですか‥‥」
「それは今回の一件に関与していると?」
「確かめる術はないが、そうでもないと説明が付かん」
 それはこの墓地に秘された事実‥‥その話を一通り聞き終えた後に萌黄は内心でこそ今までの状況を納得し、そして愕然とするが‥‥それを圧し留めて尋ねた護堂万時(eb5301)の問いに老人はしかし肩を竦め、複雑な表情のまま呟くも
「それよりも爺さん、先ずはあんたの事をもう少し詳しく聞かせて貰えないか?」
 それよりも先ず、聞くべき事がある事を弾正が告げれば一行の視線はそれより後に兵衛へ注がれた。

「敵の目的は分かりました、ならば先ず今は眼前に力を注ぎましょう」
「‥‥しかしその真意は一体、何でしょうか?」
「そればかりは彼らを捕まえて聞き出さないと現状、何とも言えないでしょうね‥‥それでは、一仕事してきましょうか」
 それから暫く司と兵衛の繋がりや寺にある魔杖の力、それを狙う存在に付いての話を一通り聞き終えて東天旋風(eb5581)が意を決すれば、皆もまた同意して頷くが直後に響いた陰陽師の問い掛けにも明確な意を持って彼が答えると、戦いを前に墓地へ赴くべく立ち上がれば他にも三人が立ち上がるとその場を後にすれば、動いた場の空気に茶の湯気が揺らめく中。
「司さん、杖は大切な物ですわ。ましてや死者の眠りを脅かす様な者の手に渡るのは危険です」
 その茶を淹れたマーヤ・ウィズ(eb7343)が初めて口を開くと、浮かべている彼女の毅然な面持ちを前に呼び掛けられた司は微かだが肩を震わせるが
「けれど結局は道具。最悪、司さんは牧さんと自身の安全を最優先して下さいね。杖は取り返せば済むのですから」
「‥‥あ、はい」
 すぐに先の言葉を翻し、微笑みながら彼の肩を叩いては囁くと内心を見透かされている事に気付いた彼は気恥ずかしげに肩を縮めながら、しかし頷くと
「何か裏があると察してはいたんだ‥‥仕方ない、乗り掛かった船故に最後まで面倒を見るぜ」
「ふん、それは以前も聞いたわい。じゃが、頼りにしておるぞ」
「たよりにしておるぞー」
 一通りの話に納得が行った弾正が息を吐きながら呟くとそれには鼻を鳴らし、兵衛が応じれば老人に倣ってその孫娘もまた異口同音に続けば戦いを前にしながらも場の空気は穏やかな物に包まれた。

「あー、掃除も楽じゃないな‥‥っと」
 それより後、視線を屋外へと移せば墓地の只中で土を掘り返してはぼやく鷹峰瀞藍(eb5379)らの姿があった。
「ほら、ブチブチ言わないで先ず手を動かして」
「そうですね、しかし中々‥‥」
「終わらないよな」
 そんな彼を宥めるのは彼と同じ忍者が篠杜観月(eb7046)で、しかしその動きは辺りにいるかも知れない敵に勘付かれ、警戒されない様に振る舞いながら至って呑気に瀞藍を叱咤すれば同意する旋風だったが、辺りを見回し嘆息を漏らせば彼に続きしつこく嘆息を響かせると
「しょうがありません、一度休憩を挟みましょう」
 そんな男性陣の様子に微か、肩を竦めては場に似つかわしくない白のみで統一された衣装に身を包むエリス・スコットランド(ea6437)が場を纏めればその場より一時、離れる四人だったが
「‥‥で、進捗はどうですか?」
「まぁ、ぼちぼちか。少なからず近くにまで敵が来ている感じはないし、仕掛けている物も物だから気付かれてはいないと思うぜ」
「そうですね」
 真先に踵を返したエリスが振り返らないまま、静かに尋ねれば‥‥それに瀞藍と旋風が応じると前を向いたまま、頷きだけ返す彼女だったが
「‥‥とは言え、油断は禁物です」
「えぇ、それでは一度寺へ戻って‥‥暫く間を置いてから最後の仕掛けを拵えましょう」
 僅かとは言え、気の緩んだ自身を戒めるべく直後に声を響かせれば観月もまた頷くと罠の設置に後どれだけ、時間が割けるか分からないからこそ一時の休憩を取るべく寺の方へ歩を進めるのだった。

●暗影 〜戦い〜
「‥‥動きは、ないな」
 吹く温い風の中、漆黒の衣を纏う者の囁き声が場に響く。
「辺りに警戒こそ払っているが‥‥それが手緩い」
 するとそれに呼応してまた一つ、別の影の囁きが辺りの空気を震わせると更に別な影が姿を現せば嘆息を漏らせば次いで、自嘲の笑みを湛えるが
「人の事は言えないがな」
 それを見て尚も最初の影は平然と表情を崩さずに淡々と告げれば、いよいよ影は動き出した。
「それでは、始めよう」

 直後、寺は遠距離から放たれる魔法の的になっていた。
「ちょ‥‥目的の杖があるってのに奴ら、本気かよっ!」
 その光景を前、流石に瀞藍も狼狽を露わにするがその間でも単発ながら間隙なく、魔法を叩き込まれれば揺らぐ寺の中。
「えぇと‥‥すいません。ですが瀞藍さんが言う様に杖がある以上は流石に本気ではないと思います」
「あぁ、そうだな。それに罠もあるとは言えこのままでは、分が悪いのは確かだな」
 見張りで兵衛と共に外の様子を伺っていた万時‥‥その存在こそ察知し、皆へ警告こそしていたがその急な行動に一先ず頭を垂れつつも敵の本意を言い当てれば、弾正も同意して頷くと立ち上がると
「ならば一先ず、黙らせるとするか。主らも手伝え」
「言われずとも」
 未だ揺さぶられている中にも拘らず、平然と座り込んでいた兵衛も漸く立ち上がれば魔法を使える者達へ呼び掛ければ応じるエリスではあったが
「ですが司さん、結界の方は大丈夫そうですか?」
「‥‥正直、不安です」
「頑張って!」
 続くマーヤの問い掛けに果たして尋ねられた司は直撃こそ在り得ないだろうが念の為に杖と牧を守る為、範囲こそ狭いながらも張り巡らせてある結界を維持に付いて率直な答えを返すが、次に響いた牧の激励を聞くと眦上げれば‥‥それを前に皆笑むと、次いで魔法を行使出来る者達はそれぞれに詠唱を織り、魔法を振るう。
「地の精霊、我が声に耳傾けよ‥‥!」
「白き母、その御技を持ちて我に闇払う力を与えん‥‥そして世界に光条をっ!」
「月輪の矢、敵対する黒き僧侶にささやかなる痛みを与えん」
「暗き破壊の波動、万物を砕くべく解き放たれし」
 そして墓石の存在に留意して振るわれたそれが放たれると事前、兵衛の指示した場所へ的確に突き刺されば途端に止む遠距離からの攻撃に、中でもマーヤの魔法が見た目にも激しく効果を成した事から無言で彼女を見つめる皆だったが
「歳は秘密よ?」
 それらの視線を受けても、穏やかに笑んで彼女は皆へ応じると改めて墓地の方を見やれば万時が声を発すると
「‥‥散開、した様ですね」
「ならば、行くぞぉっ!」
「言われなくとも!」
 維持したままの望遠視界に映る敵の動きを口にすれば、弾正と瀞藍を先に一行はいよいよ寺より飛び出すのだった。

 そして直後、出来た攻撃の空白を縫って墓地へと躍り出る一行は散開する黒き僧侶達へそれぞれ、肉薄する。
「意外に、身は軽い様ですが‥‥しかし」
「‥‥っ」
 果たしてその一番、縄ひょうを巧みに振るう観月が意外と足取りの軽い黒き僧侶が一人へ牽制しながら迫りつつその動きに感心するも、笑みは絶やさずに尚も迫れば飛び退る僧侶は直後何かに足を取られ体勢を崩すと
「縛鎖の光輪、眼前の敵を戒めよっ」
「もう少し、辺りに気を配った方がいいですよ。何処に何が潜んでいるか、分かりませんからね」
 その隙を見逃さず、予め織っていた詠唱を完成させて萌黄がコアギュレイトを至近距離にて完成させれば、その有効距離故に後がない状況にも拘らず相手の縛に成功してみせると暗闇の中、張り巡らされている漆黒の縄を見つつ安堵の吐息を漏らす中で観月はそれだけ、地に転がる僧侶へ告げるとすぐに辺りを見回せばその時。
「ぬおぉぉおぉっ!」
 弾正の雄叫びが轟いて後、長十手にて激しく僧侶の一人を打ち据え吹き飛ばせば敵の視線を一手に受けると、その傍らに潜みながら密かに支援する旋風。
「弾正さん、考え無しに突っ込むのは危険‥‥」
「問題、ないっ!」
 やはり窘めるも、それには自信を持って侍が応じれば首を竦めながら‥‥しかし旋風も応じる代わり、今度は彼よりも先に立って忍術にて強化した脚力で地を蹴り駆け出せば弾正に狙いを定めていた一人の黒き僧侶へただ一足にて迫れば鞘に収めたままの剣を振るう。
「中々に出来ますね、流石と言うべきでしょうか」
「えぇ。ですがこの辺り一体、それなりに罠を仕掛けていますからいずれは‥‥」
 だが敵もさるもの、旋風の攻撃を辛うじて避ければ反撃の狼煙に再び魔法を早く織り紡いでは放つと、一行と一進一退の攻防を繰り広げればその光景を前に後方から様々な巻物を用いて援護に徹する万時が新たな巻物を取り出しつつ感心すると、頷くマーヤではあったが‥‥直後。
「魔法に気を付けながら、待つだけでも十分な筈なんだけどな」
「とは言え、このままでは」
「それもそうだ、っと」
 戦端が一つで瀞藍とエリスが得物を振るう中で呟けば遂に、大きな罠である油入りの落とし穴へ敵を追い込み叩き落すと、見上げる僧侶の視線をそのままに受けながら忍者の彼は一言だけ素っ気無く、告げるのだった。
「さて、このまま火を放っても良いが‥‥どうする?」

 それから‥‥確実に設置した罠へ僧侶達を追い込み、確実に打ち倒しては拘束して無力化するとエリスを中心に今回の黒幕を探るべく尋問を行うのだが‥‥自身の尋問に手応えを感じながらも曖昧な答えしか返って来ない、黒き僧侶の様子から彼女は一つの結論に思い至る。
「どうやら、主犯に付いて詳しい事は知らない様ですね」
「‥‥司様のお父様を手にかけてまで、杖を使ってやり遂げたいと想う事。その方の想いとは一体、何なのでしょうか」
「さてね」
 だがそれでも、萌黄は携えていた疑問をぶつけるが‥‥やはり肩を竦めるだけの僧侶。
「別に義理立てしている訳じゃねぇ。例の杖の力って奴を、見てみたかっただけさ。だからお前さんの質問に興味はないし、聞こうと思った事すらない」
「‥‥同じ僧侶として恥ずかしい事を良くも平然と」
 漸く一行の前で本音を告げ嗤えば彼女は持つ性格故に、正直な心象を表情に表し言葉にすると鼻を鳴らす黒き僧侶ではあったが抵抗も此処まで。
「これ以上は無駄か、ならば然るべき場で然るべき処置を施して貰うとしよう」
 拘束されている事に代わりがない以上、兵衛がそう告げれば彼らにはそれに従う他ないのだから。

●暗影 〜後始末〜
 果たしてそれより後、聖印を奪い猿轡を噛ませた末に縛り上げては外に転がしている黒き僧侶達を傍目、一行は司らと言葉を交わしていた。
「死者を揺り動かし、更に新たな力を与えると伝えられていると言う杖の使い方はどうなのでしょう‥‥いえ、それ以前に本当にその様な力があるのでしょうか?」
「お主は、どう思う?」
 そんな折、兵衛を見つめて疑問を発する萌黄だったがそれを受けて尚も揺るがず、尋ね返す老いし僧侶を前に彼女は暫し思考を巡らせるも
「‥‥有り得ない話ではない、と思いますが」
「いきなりにも話が飛躍して、正直に言えば着いて行けなくもあります」
「そうか」
 やがて無難だろう答えに落ち着けばそれを言霊にすると、万時もまた彼女に同意して頷くが‥‥何を考えてだろう、ただ一言だけで返すと当然ながら首を傾げる二人だったが
「その‥‥お疲れ様でした。自身、何も出来なくてすいません」
 直後、眼前に茶が置かれればそれを携えて来た司は皆に置いて回った後、場にいる皆を見回しては頭を垂れる‥‥果たしてそれは、最先にあった敵の魔法による遠距離からの攻撃に際しての対応を詫びての事か。
「いや、良くやったと思うぜ。俺は」
「そうですわね、初陣の割には良く場の空気に飲まれませんでしたわ」
「お兄ちゃん、格好良かったよー!」
 だが頭を下げる彼を前、瀞藍は湯飲みに口をつけては温めのそれを一気に飲み干して後に笑みながら断言するとマーヤもまた頷いてその理由を掲げれば、必死になって守ってくれた事を知る牧もまた言うなり司に抱き着くと、複雑な表情を浮かべつつ‥‥その口元だけは綻ばせる墓守見習い。
「で、先日の答えは出たかい?」
 しかし直後、瀞藍から出されていた宿題に付いて問われれば途端に司は身を固まらせると忍びの割、見た目派手な彼はニッと笑えば
「じゃあまだまだ、半人前だな」
「うっ、それには返す言葉も」
「まぁ慌てなさんな、焦る事はないんだからな」
「それでは、墓地の掃除に取り掛かりましょう。いささか派手な事になってしまいましたし」
 司へ言葉を掛けるも、狼狽する彼の頭を叩いては宥めれば‥‥次に響いた、観月の提案に今度は時間の都合で数こそ少なかったが大掛かりな落とし穴を拵えた瀞藍が身を固くする番で、唐突にその動きを止めるが
「それでも、皆でやればすぐに終わります」
「それなら僕も手伝います」
 それには別段気付いた風も見せず、エリスが皆へ呼び掛ければ司が肩を揺すりながらも応じると、他の皆も頷きながら次々に立ち上がれば安堵の溜息を漏らす瀞藍の傍らで白き神聖騎士は微笑むと、皆の先に立っては歩き出して言うのだった。
「それでは、皆さんでやりましょう」

 そして戦いの後‥‥墓地の掃除に取り掛かる一行を遠く、高台より見つめる一つの影があった。
「いささか相手を侮り過ぎていたか。こうなれば打って出る他にないが‥‥さて」
 それは冒険者達を見つめたまま、ボソリ呟くと次いで渋面を湛えては今後の展望が厳しい事に思い至るも
「少し、無理するか」
 墓地の片隅にて司やマーヤとじゃれあっている牧の姿を見止め、すぐにその表情を緩めれば思案を重ねるのだった。

 〜一時、終幕〜