【Dead Command】〜殺会〜

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 40 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月04日〜01月12日

リプレイ公開日:2005年01月11日

●オープニング

「あの時、皆死んだんじゃなかったんですか!」
 ほの暗い屋敷の一室、ロス・アヴォルドは未だに背を向けて一言も発さない男に痺れを切らして激昂するも、空気が揺らぐだけでその男は微動だにしない。
「それにまだあの時のや‥‥」
 その様子にいささか肥え過ぎた感のある体躯を揺すって近寄るとそう言いかけて、首が宙に飛んだ。
 微かな灯りに照らされるのは椅子に掛けたままの男の近くに悠然と立つ、浪人風の男が振るった血に濡れた刃。
 そして中空を薙いで血を払うと、それを静かに鞘に収め倣う様にその動きを止める。
「昔と変わらず使えないな君も、そして死んだ彼らも‥‥皆殺してしまっては分からなくなるではないか、あそこまでして埋められなかった心の隙間。その餓えを癒せる存在と成り得るかどうかを」
 そして沈黙。
「‥‥済まないが、彼を迎えに行って貰えるだろうか」
「承知致しました」
 彼の言葉に浪人は、答えの変わりに静かにその場を後にする。
 浪人が去った後、また彼は一人静かに呟いて眼を閉じる。
「同じ場所に立った君は果たして、友となり私を癒してくれるか‥‥それとも闘争の果て、私の餓えを潤してくれるのか」
 そして闇の中で彼は狂気の笑みを浮かべるのだった。

 飽きもせず今日もまた雪がこんこんと降りしきる中、冒険者ギルドの扉が大きな音と共に思い切り開け放たれる。
 外を緩やかに舞うと寒気、そしてそれと共に入って来たのは防寒着に身を包んだセアトだった。
「お、お兄ちゃんが‥‥」
「もしかして、またいなくなったとか?」
 息荒く言葉を紡ぐ彼女に受付嬢が尋ねると、彼女は静かに頷いて一枚の紙片を受付嬢に差し出した。
「昨日まで家にいたのに、今朝起きたらお兄ちゃんがいなくなっていて‥‥慌ててシェリアさんにグロウさんの家にも行ったんだけど、二人ともいなくて。それで家に戻ったらこの紙が」
「‥‥どうすればいいかな?」
「嫌な予感‥‥とても、とても。お兄ちゃんを‥‥助けて下さい」
 セアトの話に受付嬢は改めて尋ねる、何を成し遂げたいのかを。
 そして答える、少しの間だけ逡巡こそしたが明確な想いを。
「分かりました‥‥すぐに準備するから少しだけ待ってね」
 セアトの真っ直ぐな視線を受けて、受付嬢は頷くとすぐさま手配を始めるのだった。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6900 フェザー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea6902 レイニー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea8202 プリム・リアーナ(21歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea9815 フォールト・レイナルグ(19歳・♀・ファイター・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●Flying Away
「それじゃ、馬の事よろしく頼むぜ。フォールトさん」
 そう言ってヲーク・シン(ea5984)は自らの愛馬をエルフの船乗り、フォールト・レイナルグ(ea9815)に託し、「お借りするぜ!」と彼女の礼に頷くとちょっと締まらない防寒着代わりのまるごとトナカイさんに身を包んだままフライングブルームに跨る。
「済まぬが先行する、可能な限りは待つが‥‥」
「間に合わない時は気にせずに、依頼の成功が第一ですから」
 ヲーク同様に空飛ぶ箒に跨る叶朔夜(ea6769)に、カシム・ヴォルフィード(ea0424)は手馴れた冒険者ならではの返事をすると
「気を付けてねー」
 ヲークのバックパックに入る三人のシフールを代表してプリム・リアーナ(ea8202)がエルフの船乗りと美しい魔術師に言うのを合図に、彼らは空へと浮遊しやがて目的地を目指し滑空を始めるのだった。

 そんな彼らを見送って暫く、残された二人も彼らを追いかけるべく追走を始めようとしたが
「ディア海賊団フォールト・レイナルグ、行っくぜぇ!」
 初めて受ける依頼にも拘らず、フォールトの気合は十分‥‥も、ここは陸の上。
 海の上ならまだ駆け出しながらも生業を船乗りとする彼女の能力はいかんなく発揮されたのだろうが、どうにもこうにも上手く行かない。
「おぉーい、少しは言う事聞いてくれよー」
 ヲークから借りた馬を操るのにも四苦八苦なその様子に、カシムもどうしたものかと困り果てる。
「‥‥僕も上手くはないんですよね」
 静かに一人呟くカシムの言葉は暗に、彼らの前途が多難である事を指し示していた。
 果たして先行している五人に追いつく事では出来るであろうか?

「大丈夫でしょうかね?」
「へぇ、ろくでもない兄貴でも人の心配はするんだな」
 その頃、空を滑るヲークのバックパックの中でプリムと一緒に荷物扱いとなっているフェザー・フォーリング(ea6900)が心配そうに呟くと、それに茶々を入れるのは弟のレイニー・フォーリング(ea6902)。
 身なりは女性の格好だが、異性に間違われやすい風貌と弟に女装をさせる趣味がある兄のおかげでそんな格好に‥‥我慢する事は良くないが事情あっての事だろう、不憫としか言いようがない。
 そんな彼は、不意に過去を思い出してか絶叫する。
「‥‥全く、兄貴なんてまともな奴が居ないな!」
「妹よ! そんな事を言うとは兄は哀しいぞ!」
「此処、狭いんだからそんなに暴れないでよー!」
 やがてバタバタしだす彼らを一喝するプリムだったが、暫く兄弟の闘争は続いた。
 ‥‥まぁ、寒いので丁度いい運動にはなるのだろうが。

 と暴れまわるバックパックを抱えるヲークは苦笑を浮かべながら呟いた。
「頼もしい限りだ」
「目的を前に、力尽きなければいいのだが‥‥」
 その様子を少し心配する叶だったが、それでも彼らは前へと進む。目的を、セアトの願いを達する為に。
「兄貴なんかー! 兄貴なんかー!!」
 バックパックから響くレイニーの叫びに、やはり何処か締まらないのは気のせいだろうか?

●Sword Dancer’s
 先行する五人は当然の事ながらカシム達よりも早く、ゼスト達の目的地と思われる大きく古ぼけた屋敷を着いていた。
「此処に来るまで、二日と半。道中ゼスト達を見なかった事を考えると‥‥」
 呟く叶に誰よりも判断早く提言するのはフェザー。
「カシム様方には申し訳ありませんが、何かしら起こる前に屋敷に入った方がいいかも知れません」
「そうだな、他にも敵がいるだろうし場が混乱するより先に‥‥」
「‥‥おい、始まったぞ!」
 言って頷くヲークの言葉を、レイニーはその耳に届いた剣戟の音で思わず叫び遮ると他の皆を誘う様に先頭を飛翔し、慌てて四人も彼の後を追う様に駆けるのだった。

「相手、多過ぎ!」
 叫びと共に放つシェリアのストームが敵の一人を捕らえ吹き飛ばすも、まだその数は彼らの倍近くおり思わずゲンナリする。
「罠だと言えば、退く奴か?」
「いーえ、それだったらいつもこんなには苦労しないわよ‥‥」
 グロウの呟きに釣られて嘆息を漏らす彼女だったが、その背筋にヒヤリとした感覚を覚え振り返れば、目前で刃をかざし立つ一人の敵。
 ‥‥だがそれが振るわれるより早く、更に背後から忍び寄っての一撃で彼女への攻撃を阻害したのは叶。
 その右腕を抉るもしかし相手もさるもので、即座に残った片腕を振るって彼の肩口をお返しとばかりに切り裂いたが、その一瞬の隙を見逃さずにシェリアとレイニーは同時に電光の束で薙ぎ払う。
「お前ら、何で此処に」
「あんなものを置いていってそんな事を聞くのか?」
 レイニーはセアトの元に残された紙片の事を暗に言うと、グロウはそれを察して苦笑を浮かべる。
「思った通り相手も本気じゃなさそうだし、引き際かもな」
「分かっているなら尚の事、相手の意図に乗るのは愚策だと思うのですが」
 グロウの言葉の通り、五人が駆けつけてから辺りを取り囲むだけで静かになる敵の様子と彼の言葉に半ば呆れつつフェザーが言えば、グロウは向こうで剣舞を繰り広げている当人を指差した。
「あれが言う事聞けば‥‥ここには来ていないさ」

 その当人、ゼストは広間の奥にいる蒼い髪の男に飛び掛ろうとするもその前に立ちはだかる一人の侍を前に進む事が出来ず、激しく刃と刃をぶつけては互いに血肉と火花を散らしていた。
 そんな激しい剣舞の中に飛び込むヲークはゼストに聞こえる様、その後ろから槍のリーチを生かして侍を攻撃しつつ、棒読みで彼に呼びかける。
「妹が悲しむぞ、不毛な事は止めないか?」
 答えはないが、一瞬の逡巡がその動きを鈍らせるのを見てヲークは更に畳み掛ける。
「兄を失った傷心の妹が、その隙につけ込む俺の毒牙に掛かっても良いのかっ!」
 変わらずまるごとトナカイさんに身を纏うヲーク、台詞に格好が何とも場の雰囲気とミスマッチだが、ヲークがゼストに言葉を掛けた瞬間に緩んだ攻撃を掻い潜って自分の間合いを作る侍は、彼目掛けて刀を振るう。
「つぅ!」
 辛うじて槍でその軌道を逸らし、深手こそ避けるも膝を突くヲークに止めと上段から刀を振り下ろした時
「凍っちゃいなさいよ!」
 未だにヲークのバックパックに潜んでいたプリムがそんな掛け声と共にアイスコフィンを放つも抵抗され、だがそれを脅威と感じてか侍はあえて距離を置く。
「君の意思は分かった、初めての顔見せはこの程度でいいだろう。今日はもう帰りたまえ」
「ここまで来て何を言う、ブルー!」
 五人が来て初めて口を開いた青い髪の男の言葉に、残されていた紙片に記されていた名を叫び激昂するゼストだったがその怒りは程無くして収まる。
「あんた、凍ってて」
 その様子に説得は無理と判断したプリムは依頼を全うする為、彼に悟られるより早くアイスコフィンで氷の棺に閉じ込めると、グロウがその提案を呑む。
「次に逢う時があれば、覚悟しておいた方がいいぜ」
「その日が来るのを楽しみにしているよ」
 青い髪の男がそう静かに呟くと、部下達を下げ一行が帰る道を開けるのだった。

「寒さは凌げても、お腹が減っては‥‥」
 その頃元気なく目的地を目指して歩く二人、カシムがうっかり保存食を買い忘れていた為に、到着が遅れていたりする。
「こりゃ、間に合わねぇかな?」
「すみません‥‥」
「まぁ、しょうがないよなぁ」
 しょげる彼の隣をヨタヨタと歩く馬に乗って励ますフォールトだったが、やはり初めての依頼だっただけにその声音は出発の時とは違い、精彩を欠いていた。
「可能な限り急ごうぜ、食料もギリギリしか持って来てない上に二人で食べてるからな」
「はい‥‥」
 女性に見間違えられるカシムに男気溢れるフォールトの凸凹コンビは、空っぽのお腹を抱えて街道を進む他なかった。
 そんな二人が皆と合流するまでには、後一両日の時間を要するのだった。

●Next Stage
 パーン、と乾いた音が辺りに木霊すると遅れて男性の声が響く。
「死で償わせて何もかも終わらせても何も残らないし、生きて償わせてもいい筈‥‥それに何よりもうこれ以上、誰も罪を重ねて欲しくないんです!」
 あれから一行になんとか合流したカシムとフォールト。
 氷の棺から蘇るゼストが再びあの屋敷に戻ろうとしたが、何の前触れもなく合流したばかりのカシムはいきなりその頬を平手で叩き、叫んでいた。
「‥‥お前は見ていないだろうが、あの屋敷にオレを呼びつけた青い髪の男、あいつこそオレが今まで探していた男だ。それを見つけた以上、オレはもうキャメロットには戻らない」
「駄目だ! 妹が待ってるんだろ! それにそんな無責任な事は許さないからなっ」
 叩かれた頬を気にする事無く呟く、ゼストの言葉に彼とは初対面なフォールトがそれを否定する。
「無責任だと?」
「先程の戦いを見て思ったが、死に急いでいないか? 死ぬ事程、簡単な事はないんだ。死ねば何もかもなくなるな」
 意識せずともフォールトの言葉に図星を突かれ、怒りを露わにするゼストだったがそれに構う事無く更に抉るのは叶。
「卑怯な言い方かも知れないけど‥‥セアトさんは復讐なんて望んでないだろうし、ゼストさんがそんな事をしていると知れば悲しむと思う」
 そして、叶に続いてカシムが紡いだ言葉の中にある妹の名を聞いてか、その表情に動揺の細波が走ったのを見て取ったフォールトはビシリと言う。
「あんたの負けだ、ゼスト‥‥帰るぞ」
「詳しい事情が解れば、打開策が見出せ協力出来るかも知れません。一度キャメロットに戻って、仕切り直すべきだと思うのですが」
「そうだな、お前も一度何をするべきか考える時なのかも知れない」
 彼女に続いてフェザーとグロウも賛同する意思を見せると、当の本人は踵を返して静かに舌打ちをすると、キャメロットに向けて歩き出した。
「その舌打ちはなんだー! お前の性根、鍛え直してやる!」
「取り敢えずは解決、かな?」
「だな。ただ、どんな形になろうと一度あいつとは面と向かって話す必要があるのかも知れない、な」
 ゼストの後姿に叫び、追い縋るフォールトを見て苦笑しながらも安堵するプリムにヲークは揺れ動く彼の心を垣間見てか、そう感じずにはいられなかった。