【Dead Command】〜過ぎし日〜

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:2〜6lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月25日〜01月30日

リプレイ公開日:2005年02月01日

●オープニング

「すまないが一つ、物を尋ねたい」
「はい‥‥なんでしょうか?」
 ある日の冒険者ギルド、日が優しく照りつける昼下がりに訪れた一人の男性。
 年の頃は中年だろうがナイスミドルと言った感のあるその男性の問い掛けに受付嬢が頷くと、彼は早速口を開いた。
「以前にあった予告殺人の件、こちらで色々と動いている話を聞いたが間違いないか?」
「‥‥そうですけど」
「それに絡んだ事で依頼したい事があるのだが、いいだろうか」
 唐突な彼の言葉に最低限の言葉で肯定する彼女に、突然の依頼を投げ掛けるも
「その前に私もお尋ねしたいんですが、どちら様ですか?」
 当然と言えば当然な彼女の質問に、彼は苦笑を浮かべて答えるのだった。
「すまないね、ノッテンガムの領主をやっているオーウェン・シュドゥルクと言う。以後お見知り置きの程、宜しくお願いする」

「それで今回頼みたい依頼なのだが、ゼストの説得をして貰いたい」
「説得‥‥ですか?」
「予告殺人が起こる発端となった事件の黒幕がやっと発覚してね。それが今、彼が追っている男『ブルー』なのだよ。ブルーはノッテンガムにいる、昔から‥‥そして今も。だがあの事件の犯人だと分かった以上、すぐにでも彼を捕らえなければならない」
「事件の当事者として、それを任せたいと?」
「そう言う事だ、だが殺さずにな。気持ちは分かるが‥‥過去の事に今の時間を費やす必要はないと思うのだよ‥‥」
 大まかな説明に頷く受付嬢に、一通りの説明を終え最後の言葉に重みを込めて呟くと彼女はニコリと笑って返事をした。
「分かりました、でも直接説得されてはどうですか? お話を聞く限り、顔見知りの様な感じですが」
「大分時間が開いてしまっているからな、私の場合は。それを鑑みれば、この件に携わっている冒険者達の方が適任かと思ったからだよ」
 オーウェンの言葉に彼女は頷くと、書き終えた依頼書を確認して貰い賛同を得ると早々と依頼板にその紙片を貼り付けて、改めて依頼人に一礼をして言葉を紡いだ。
「面子が集まるまでそう時間は掛からないと思いますが、暫くの間お待ち下さいね」
「あぁ、ここまで来た以上急いてもしょうがあるまい。ゆっくり待たせて貰う事にする」
 そしてお互いに微笑を交わすのだった。

●今回の参加者

 ea0424 カシム・ヴォルフィード(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5984 ヲーク・シン(17歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea6900 フェザー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea6902 レイニー・フォーリング(26歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea8202 プリム・リアーナ(21歳・♀・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea9815 フォールト・レイナルグ(19歳・♀・ファイター・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●Source
 領主の元へと向かう皆とは別行動を取るフェザー・フォーリング(ea6900)はその目的の人物を見つけると、彼の肩に止まっては呼びかける。
「話を聞きたいのですが、構わないでしょうか?」
「‥‥構わん」
 ゼストの家路へと向かう道の中、彼の口から出た言葉に驚きながらしかしその歩を止める気配がないゼストにフェザーは慌てて質問を紡ぎ出す、セアトを前にしてこの話は出来ないから、時間はそうない。
「ブルーとは、一体何者ですか?」
「オレにとっては‥‥オレの家を潰した復讐すべき対象だ」
「だけど、どうしてそれを知る事が出来たのですか? 事件が起きた時ゼスト様はまだ幼かったのでは?」
 彼の言葉に、疑問が思い浮かぶフェザーは即座にそれを口にすると彼は何も言わず、暫しの時を経て懐から一枚の紙片を取り出した。
「奴について、詳しい事はオレも知らない‥‥何を考えているのか、何をしたいのか。だが、これが全てを伝えてくれた。これに載っている奴らこそ復讐すべき相手なのだと」
「これはその事件に絡んだ者の名前ですか? 『ゼスト、これを託そう。あの事件に関わる人物を連ねてある、そして自らがこれから進むべき道を決めよ』‥‥」
 呟く彼の言葉に耳を傾けながら、フェザーはその紙片に踊る文字を読み通せば意味ありげな文章の末、ブルーに以前ゼストがその命を奪った二人の犠牲者にロスの名前が記されている事に気付く。
「これを見て思い出した。両親を、友を殺される中で何も出来なかった自分が今、何を成すべきなのか‥‥」
 虚ろに遠くを見やる彼の表情にフェザーはその心の深遠を垣間見ると同時、気付けば目の前には見慣れた家が建っていた。
(「しかし何が一体、ゼスト様に‥‥それとこの紙片の出所は」)
 気になる事の核心にまで至る事は出来ず、更に予想を越える大きな何かが背後で蠢いている気がして彼は顔を顰めるのだった。

「過去の事件についてだがノッテンガムの貴族、デクスター家が何者かの襲撃に遭いゼストとセアトを除く全員が殺されたと言う事件だ。何故彼らだけ生き残ったのか、どうしてそんな事をしたのか、氷解せぬ疑問は残るがその事件についての黒幕だけは何とか追う事が出来た」
「それがブルー、か‥‥」
 かたや、ノッテンガム領主のオーウェン・シュドゥルクの元で話を聞く六人。
 最初に紡ごうとしたカシム・ヴォルフィード(ea0424)の疑問より早く、事の発端に答えるオーウェンに先日出逢った男の名を口にする叶朔夜(ea6769)へ領主が頷くと
「しかしブルーが黒幕ねぇ‥‥ロスって貴族とブルーが居たら、ロスが黒幕だと思うのが普通だと思うんだけどねぇ、何を根拠にブルーが黒幕なんだ? それにそもそも、ブルーって何者だよ?」
「そう言えばそのブルーやロスさん、ゼストさんに殺された人達の関係は一体?」
 更なる疑問を投げるのはヲーク・シン(ea5984)に、カシムも気になっていた事を尋ねるとオーウェンは小声で再び口を開く。
「彼らの繋がりについては調べがついている、その事件以前からブルーとその三人は主従関係にあった様だ。そしてデクスター家との関係は今、洗い出しをしている最中だ」
 カシムと叶の問いにまず答えるオーウェンは、一つ溜息をつくとヲークを見つめ
「そして、君への答えなのだが‥‥」
 答えを口にすべきか逡巡し、暫くの間を置いてから口を開いた。
「今はまだ、話す事が出来ない。ノッテンガムの暗部に関わると思われる事ゆえに」
「ちょっと待ってよ、そこまで話が大きくなるの?!」
「ブルーが未だにノッテンガムの地にいる事についてもだろうか?」
 プリム・リアーナ(ea8202)は叫ぶと、叶も尋ねるが領主は二人に対して静かに頷く。
「そう、この一件は予想以上な事件になると思っている‥‥調査は進めているが、今はまだ話す事が出来ない事もある。だが、それを少しでも知る為にブルーを捕まえたいのだよ。ブルーの背後にある何か、そしてそれを排除する為に」
 抑揚はなく、淡々と話す彼の言葉にヲークはまだ何か腑に落ちずに再び口を開いた。
「引きずり出したら拙い相手が居るなら、先に言ってくれよ? ま、先方からしゃしゃり出てくる可能性も有るけど‥‥その辺の処置は任せても大丈夫だよな?」
「疑われているのかな、私もその何かに一枚噛んでいるのでは? と‥‥そう思うのは尤もかも知れないな、話せない事の方が多いのだからな。だが、信じて貰いたい。ブルーを捕まえ真実を知る為に、ゼストの過去を振り払ってやる為に‥‥頼むっ!」
 ヲークが紡ぐ言葉の意を察し、だが彼はそれを否定して一行に頭を下げて詫びるとカシムはそれを信じる様に微笑み、また一つ問い掛ける。
「ゼストさんの事を心配している様ですが、彼とオーウェンさんの関係は?」
「ゼストは昔から良く世話してやった仲でな、あの事件から数年間私の父親の元で養っていたんだよ。しかしあの時の彼は見ていられなかった‥‥誰にも心を開く事なく。やがて妹に物心がついて暫く、キャメロットへ移り住んだ。私はそんな彼の様な者を二度と出さない為に努力し、やっとの事で領主になった。そして暫くの間ブルーを追い掛け、ゼストが絡んでいた事件を知る事になったのだ」
 そして一度、言の葉を切ると彼は節目がちに呟いた。
「ゼストを‥‥過去の呪縛から解放してやりたいのだよ、その為には君らの力が必要なのだ」

●Sunlight
 しかし真面目な話はいつまでも続く訳はなく、一行は息抜きにとそれぞれキャメロットの町へと繰り出すそんな中、フォールト・レイナルグ(ea9815)はゼスト達の家に辿り着くと居間にいたセアトに一つの提案をする。
「ゼストのせいで最近落ち着かなかったろ? 気分転換に町へ買い物にでも出ないか?」
「いいわね、私も最近誰かさんのせいでゆっくり町を見て歩く余裕もなかったし付き合ってもいいかしら?」
「‥‥ち」
 その場に居合わせたシェリアは彼女の言葉に賛同して笑みを浮かべるも、同じく扉の近くに佇んでその背後で舌打ちをする誰かさんの態度に振り返りざまに拳を腹部に埋め込めば、一瞬遅れてフォールトの手がその頬を捉える。
「その舌打ちは何かしらね?」
「全くだ、事実だろうに‥‥で、どうする?」
 その光景に微苦笑を浮かべながらもセアトは頷くとフォールトはニッと笑う。
「じゃ、行こうか」
「はいはーい、俺も行くっ!」
 その直後に鈍い音と同時に扉を開けて現れたのはヲーク、ナンパ好きの嗅覚が働いたのだろう‥‥そして一拍の間を置いて、彼は足元に転がるそれに気付く。
「何やってんだ、ゼスト?」
「‥‥ほっとけ」

 そんなゼストを荷物持ちに、五人は揃って様々な店を見て回る。
「‥‥セアト、兄には幸せになって貰いたいか?」
 そんな中、セアトと二人になったフォールトは不意に尋ねてみると暫し逡巡する彼女だったが
「お兄ちゃんもそうだけど、皆が幸せになれるといいよね」
 そう言って笑みを浮かべる彼女に、フォールトはその頭を撫でた。
「そうだな、セアトの言う通りだ。それだって言うのに‥‥」
 呟き、目の前の光景に溜息をつくとセアトもそちらを見つめる。
「そんな趣味、ないんだけど」
「え〜、似合うと思うんだけどなぁ‥‥鞭と仮面。あ、返すのは全てが終わってからで良いよ〜」
「そんな物騒なものを渡すなよ、なくても物騒だと‥‥」
 事前に準備していたマスカレードにホイップをシェリアへ手渡そうとするヲークに困る彼女が呟く中、それでもとヲークが勧めればそんなシェリアにゼストが茶々を入れると直後
「貰うわね、ありがとう」
 礼を囁いては、その鞭を素早く掴み柄で彼の頬を突き捏ねる。
「さっきから一言多いわね‥‥」
「やっぱり似合う、それじゃあ頑張れよゼスト」
 冷酷な笑みを浮かべるシェリアの様子にヲークはそれだけ言ってフォールト達の元へ逃げる様に戻ると、セアトにこれまた準備していたかんざしを挿してやる。
「今の仕事が一段落したら、皆でピクニックにでも行こう〜。勿論『お義兄さん』も一緒にね!」
「誰がだ!」
 ゼストの叫びを聞く事なく微笑むヲークにセアトは頷くと、フォールトの碧の瞳と視線が合うや囁いた。
「こう言うのも幸せ‥‥ですよね?」
「あぁ、これからこんな日が続くといいな」
 静かに頷く彼女と答えるヲークにセアトは、降り注ぐ陽光の様に微笑むのだった。

●Soul Stirring
「君達の質問に対して、答えられる事は以上になる。それでもまだ、君達が疑問に思っている事の方が多いとは思うが、それに対して今の私は答える術がない」
 そう言って最後に温和に微笑むオーウェンの表情を見て一行はそれぞれ、複雑な表情を浮かべるもこれ以上は何も情報が得られない事だけは理解して、カシムは立ち上がる。
「行きましょう、僕の意思に変わりありませんから」
 その真っ直ぐな瞳を受け、他の面々は首を横に振る事は出来なかった。

「‥‥何も知らずに親しき者の成した事を知らされ、いきなり一人きりになるのは辛いものが有るぞ」
 あれから暫く、ゼストだけを呼び出す一行に彼が応じた頃には既に日が落ちていた。
「何が言いたい?」
 叶の言葉に尋ねるゼストにプリムはその真意を語る。
「ノッテンガムの領主さんがブルーを捕まえる為、貴方の力を借りたいって」
 そしてオーウェンに書いて貰った手紙を差し出すと僅か、ゼストの表情が揺らぐも彼はいつもの口調で突き放す。
「応じる義理はない、それに何を今更‥‥」
「言う事聞かないとセアトに全部話すぞ〜」
 その言葉を読み切っていたレイニー・フォーリング(ea6902)は最後まで言わせる事無く遮ると
「あんたは仇だなんだと騒いでりゃいいかも知れねぇが、あんたが死んだら今度はセアトがあんたの仇を取ろうとするかも知れないぜ? 俺にもそこにいるクソ兄貴の事を時々本気で殺したくなるけど、もし誰かに殺されたら流石に少しだけ寂しいし仇位は取ってやろうとか言う気に‥‥もしかしたらなるかもな」
「取ってくれ、妹よ‥‥」
 言いたかった事を早口に捲くし立てればゼストは静かに、フェザーはうな垂れるが二人にフォールトは気にする事無く彼女の後に続く。
「卑怯な手段ではなく、正々堂々と決着をつけないのか?」
「お前達に何が‥‥」
「分かりますよ、ある程度の話は聞きました‥‥だから貴方にはこれ以上、罪を重ねて欲しくない」
「罪にはそれ相応の罰が与えられるものなの。ま、要するにアンタが手を下すまでもないってコト」
「それにセアトを悲しませたくない、ここにいる皆がそう思っている‥‥」
「お前には俺達がついているんだ。迷惑なんざ、かけるだけかければいい!」
 カシムを中心に一行の言葉が連なれば、ゼストはその拳を近くに佇む木へ打ち据えた。
「どうしてお前達はそこまでする、あの事件がなければ顔すら知る事すらなかったのに!」
「そうしたいからに決まっているじゃない! それに‥‥」
 誰かから命令される事を嫌い、自由奔放を望むプリムが何を聞くと言った口振りで叫ぶと息を吸い直し、その続きを呟いた。
「それに今はもう、知らない仲じゃないでしょう?」

 翌日、オーウェンがノッテンガムへ帰る日‥‥あれからゼストの答えを聞けぬまま、今に至る。
「しょうがない、事は迅速に成す必要がありそうだ。とりあえずの方針を決める事が出来ただけでも前進したと言えるだろう、今回の件は急でもあっただろうし‥‥君達が気にする必要はない、済まなかったな。今後についてはまた後日、改めて連絡させて貰うよ」
「だが、大丈夫なのか?」
 馬車を前に詫びる領主にヲークは尋ねるも、彼は微笑を浮かべ静かに首を傾げるだけ。
 そして領主が馬車に乗り込もうとしたその時、皆の前にゼストが姿を現した。
「その‥‥申し出、応じよう」
 どの様な変化があったのかは分からない、だが少なくとも一行に出会う前の彼なら考えられない言動で一行は確かに、彼へ何かしらの影響を与えていた事は間違いなかった。
「殺しは駄目ですからね」
「さぁ、行こうぜ!」
「‥‥あぁ」
 今は何も尋ねず、彼に微笑みながらも釘を刺すカシムと彼の胸を叩くフォールトにゼストは端的に答えるが、その瞳は僅かな逡巡の光が宿っている事を今はまだ誰も気付いてはいなかった。