【人の想い】ダイジナモノ.2

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:4〜8lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 60 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:04月11日〜04月21日

リプレイ公開日:2005年04月19日

●オープニング

●亡き者の想い
「この子は、真実を知ったら恨むでしょうか? 忌むべき血を引く事に、人から疎まれる自身が体に‥‥でも、この子ならきっと‥‥乗り越えてくれると信じています。その為に私は、生きている間に世界の素晴らしさを、本当の優しさを‥‥伝えたい」
 自らの傍らで眠るまだ小さな命の頭を撫でて呟く彼女は微笑むと次いで、近くにかしまづく一人の男性に語り掛ける。
「後の事は宜しくお願いしますね、とても大変な事を押し付ける様で申し訳ありませんが」
「いえ、貴女の無茶な注文には慣れていますので大丈夫ですよ」
「‥‥無理はしなくていいんですよ、貴方はとても優しい‥‥なのに一人でこれから抱えて行かなくてはならない。近くにいてあげる事が出来ればいいのですが‥‥」
 彼の物言いに、少しの沈黙を挟みながらそれでも彼女は目を伏せて言うと
「貴女には、やるべき事があります。それを止める事は誰にも‥‥そして私にも出来ません。だから私は私が出来る事を精一杯、成すだけです」
「ありがとう‥‥」
 彼の言葉に彼女は一滴の涙を零すのだった‥‥。

「‥‥イアンが一人で此処まで来たか。だが‥‥まだわしはお前に、その真実を伝える事は出来ん‥‥彼女が遺したお前だからこそ、その行末を見切るまでは」
 そして窓の外、僅かに蠢くものを見つけ彼は立ち上がった。
「今になって再び動き出したか、だが“あれ”を渡す訳には行かん‥‥今はまだ、誰にも」
 手近にかけてあったマントを羽織ると、彼はまだ辛うじて動く体に鞭を打って闇が包む夜の帳へと出て行った。

●企む者の想い
「‥‥ち、なんだよこの有様は」
 まだ鳥の囀りも始まらない、朝も早い頃。
 刺す朝日とは真逆な黒よりも黒い鎧に身を包んだ青年は打ち倒された死体を見て舌打ち一つ、これで三体目ともなればそれも当然か。
「過去とは言え流石、あの巫女がいた村だけの事はある。多少は出来る奴がいるな‥‥おもしれぇ」
 呟き、舌で愉しげにその唇を湿らせるも任務の事を思い出し、また舌打ち。
「目標がいないんだったな‥‥しゃあねぇ、“鍵”もそうだが今はとりあえず此処にあるだろう“扉”を探す事に専念するか。“鍵”がいずれ向こうから来れば手間も省けて両方回収出来るだろうし、最悪こっちからいつでも呼び出す事が出来るだろうからな」
 そして再び、深き森へ向けて踵を返すのだった。
「つまらねぇ、この世の中の全く持って何もかも。だが闘争だけが空っぽなオレを満たしてくれる‥‥だから誰でもいい、オレを愉しませてくれ」
 その瞳に飢えた光を宿して‥‥。

●拒絶された者の想い
「何が起きているのでしょう、一体」
 森を掻き分け、木々の枝を飛び次いで先日訪れた村の周辺の様子を伺っているのはイアンその人。
 見ただけでは普通の森となんら変わりない周囲の風景だったが、幾多の森を見てきた彼の目にそれは、明らかに違って映っていた。
「何か、これから始まるとでも言うのですか‥‥母さん」
 今は亡き人に尋ねるが、当然ながらその答えは返って来る筈もなく今、自らがやるべき事を見出す為に再び、人に見つからぬ様注意しながら次の枝へ飛び移ろうとした時だった。
「うわぁーーーん!」
「くっ!」
 響き渡る子供の泣き声に振り返ると、何者かに襲われようとしていたその子を助けるべく急ぎ弓を掴んで矢をその肩口へ放てば、こちらを見たその襲撃者の腐敗し切った顔を確認するとイアンはそれに近付きながら倒れるまで矢を穿ち続ける。
「‥‥なんでこんな所にズゥンビが」
 倒れたズゥンビが動かない事を確認しながら、子供の元に駆け寄れば彼は瞳を輝かせ
「ありがとうお兄ちゃん、強いんだね!」
「そんな事ないさ」
 今はフードを外しているにも拘らず、ハーフエルフの存在を知っているだろうその子は別段それを気にもせず抱きつくき微笑むと釣られイアンも微笑んだ。
「なのに村のお爺ちゃん達は皆、お兄ちゃんの事を悪く言って‥‥どうして?」
「それはお兄ちゃんにも分からないな、けれど‥‥決めたよ」
「何を?」
 すると今度は表情を曇らせて呟く少年に、彼は母親の言葉を思い出して何かを決意する。

『出来る事があるのなら、自らが決めた事は迷わず貫きなさい。私がいなくなったら貴方は厳しい世界に立つでしょう、そして世界に悲観するかも知れない‥‥けれど、世界は美しい。どんなに辛い事ばかりでも必ず光は差すのだから‥‥けして世界を、人を見限らないで、ね』

「この村を守る事をね、でも皆には秘密だよ。僕と君だけの秘密」
「うん、分かった!」
 答えを紡ぐイアンは言って彼の頭を撫でると、彼の笑顔に笑顔で応えるのだった。

●今回の参加者

 ea1716 トリア・サテッレウス(28歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea2438 葉隠 紫辰(31歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5541 アルヴィン・アトウッド(56歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea5810 アリッサ・クーパー(33歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6769 叶 朔夜(28歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9093 リィ・フェイラン(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

セリア・アストライア(ea0364)/ カファール・ナイトレイド(ea0509)/ 獅臥 柳明(ea6609)/ 野乃宮 美凪(eb1859

●リプレイ本文

●Past Story
「なるほどなるほど‥‥ありがとっ、助かったよ〜」
「ではそろそろ行こうか」
 手伝いに馳せ参じた友人達の話を聞いて、頷く逢莉笛鈴那(ea6065)は感謝を言葉にして伝えると、ガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の呼び掛けに応じ一行の元へと駆け出した‥‥先日訪れた村を守る為に、疎まれながらも自らの心に渦巻く何かを確認する為にやって来たイアンの想いに応える為に。

「信仰を忘れたい村ってどう言う事? この前教えて貰ってないから今度こそ教えてね、事件に関係あるかもだし。それに巫女って何の巫女?」
「村長がイアンの母親を忌むべき巫女と言った事と何か関係があるのではないか?」
「‥‥知る限りをイアン殿、教えて頂けけまいか?」
 キャメロットから離れ、うららかな陽気の中で日が沈めば今日の宿に相応しい場所を見付けて手早く準備を済ませる一行。
 以前と同じく逢莉笛手製、先の依頼で手に入れた熊の肉を用いた食事が振舞われ旨い食事に興じながらも一行は、イアンに気になっていた事を尋ねれば何とも言えぬ複雑な表情を浮かべるも
「母さんが何者なのか、巫女が何なのか‥‥語る事はなかったし、私も聞かなかった。ただ、ジーザス教の白いクレリックでとても優秀だと言う話は聞いた記憶があります。恐らくですが‥‥あの村で神格視されていたから巫女と呼ばれていたのではないのかと」
 彼の推測に耳を傾ける静かな一行に、彼は続いて言葉を紡ぎ出す。
「あの村については実際に見るまで、母さんから聞いた一つの昔話だと思っていました」
「昔話‥‥か?」
 呟くイアンに葉隠紫辰(ea2438)がその単語に疑問符を浮かべ問えば、頷いて彼は改めて口を開く。
「‥‥ある所に村が一つ。その頃、その村には祈りを捧げる存在はなかった。だがいつの日か、一人の女性がその村を訪れジーザス教を広めるといつの間にか人々は信心深くなりました。それは彼女の存在もあったからかも知れない、美しくどこまでも響き日々紡がれる彼女の歌に魅了されて。だけど‥‥それはそう長くも続かなかった」
 一区切り入れるイアンにアリッサ・クーパー(ea5810)は逢莉笛とガイエルの友人達が仕入れた話を整理しながらも、その話を静かに聞き入る。
(「あの村の歴史、でしょうか‥‥イアン様の母親については細部こそ分かりませんでしたけど確かにこの村には過去、実力も確かなクレリックが存在していて‥‥その話で言われている女性がイアン様の母親なら」)
 思考の渦に呑まれ、だがイアンが続きを紡げば止むを得ずそれを中断するアリッサ。
「‥‥数年の後、村を訪れたハーフエルフがいました。彼は種族の垣根を越え、村人達に受け入れられると彼女と共に教会で暮らす様になりましたが、それから何故か門を閉じる日が多くなり‥‥そしてある日、邪なるものが現れた。たまたま別の依頼で冒険者達がいたので大事には至らなかったけど、今まで崇めていた彼女がいつの間にか姿を消せば村人達は落胆し‥‥だがその事件を忘れまいと、教会の扉はその日から完全に閉められセーラ像もあえてそのままにしている村がある、と言う話でした。本当はもう少し長いんですけどね」
「‥‥‥」
 どこにでもある様な、掻い摘んでの話に面白味などある筈もなくイアンが苦笑を浮かべ‥‥だからこそ意味深に聞こえた一行は沈黙する。
「その話を思い出して、ついね。けど‥‥」
 矢張り彼もその話を思い出して引っ掛かるのだろう、沈黙は更に重なったが
「‥‥まずは食事をしましょう、折角の料理が冷めてしまいますし考えるのはそれからでも」
 その沈黙を切り裂いてアリッサ、食事を再開すると皆も再び目の前の料理に向き合う。
(「キャメロットの教会にその記録はなかった、隠して得をする事があるとは思えないですね‥‥ですが先日の村長との話とこの話、確かに噛み合います。それを何故昔話の中で歌われている女性と思しきイアン様の母親が彼にも伝えたのでしょう‥‥あの村に、あの教会に何かが?」)
 パズルのピースよろしく錯綜する情報に何者かの意図を感じずにはいられないアリッサだったが、それでも空腹には勝てずにまずは食事を採る事にした。

 そして食事が一段楽すれば、いつの間にか一人離れて友人のシフールから話を聞いていたリィ・フェイラン(ea9093)は彼女を肩に乗せ、皆へ目的の村近隣の様子を語り出した。
「時間が時間であの村までは行けなかったが、付近の村々から得た情報では過去にあの村でズゥンビが現れたと言う話は聞いていないそうだ」
「そうなると、人為的なものになるのか?」
「断定は出来ないが、その可能性が高いな‥‥だがしかしどう言った理由で」
 美しい銀髪を靡かせる彼女にアルヴィン・アトウッド(ea5541)はそう推測すると、叶朔夜(ea6769)は再び沸いた疑問を口にする。
「分かりません。ただ何かがあの村にあるのかも知れなくて、それで何かが動き出している‥‥そんな予感はします」
 その呟きに一行は再びイアンを見つめると、当の本人はそれだけを静かに呟く。
「まぁ村に行けば何か分かるかも知れません、直接的な行動は取れないですけどね♪」
 そして場に再び重々しい雰囲気が立ち込めるが、それを払う様にトリア・サテッレウス(ea1716)、笑顔で紡ぐ彼の言葉に一行は頷くと
「ま、今日はゆっくり休みましょう‥‥とその前にイアンさんは変装しましょうね」
「‥‥うん?」
「四六時中フード被っていると私はハーフエルフだよ、って言っているのと同じじゃない。自慢じゃないけどこう言うのは得意だから、ね。大丈夫だから」
 逢莉笛が更に場の雰囲気を変える為にか、提案すれば嫌な予感を覚え後ずさるイアンに構う事無く迫れば少しの間を置いて、叫び声が一つ森に木霊した。

 ‥‥暫くしてイアンとリィ、ハーフエルフの二人は揃って逢莉笛の手に掛かり(尤もリィは自ら申し出たのだが)二人ともそっくりな髪型に同じヘアバンドをあしらっては、皆の前に鎮座していた。
「助かった」
「うわー、二人とも可愛いよ!」
「‥‥‥‥」
「ん、何かな?」
 感謝を言葉に微笑むリィと視線だけで何事かを訴えるイアンに邪気なく笑顔を浮かべる逢莉笛、そして他の皆はその光景に笑いを何とか噛み殺す。
 それでも先程までとは違う楽しげな雰囲気はイアンの気持を確かに解し、ヘアバンドを気にしながらも皆との会話を楽しもうと努力してみる事にした。

●Forest Labyrinth
 やがて村へと至るに一行は三組に分かれ、それぞれがイアンの依頼を全うする為に動き出した頃‥‥それを見守る存在が一人。
「今はまだ機じゃない、か。さて‥‥とりあえずあいつを待つ事にするか」
 頬杖をついてはそう呟き、一人の男は離れた樹上より静かにリィ達を眺めるのだった。


 そんな事は露知らず、だが叶とリィにイアンの三人は存分に辺りを警戒しながら村の様子を見つめる。
「‥‥静かなものだ、遠目に見ただけではなんら変わり映えのない普通の村なのだがな」
「そうですね、けれど母さんが言っていた事は本当だった」
 先日の件を思い出してか呟くリィにイアンも頷くと、彼に叶は一つ問うた。
「イアン殿の母親とはどんな方だったのだ?」
 先日の話から気になっていた問いにイアンは空を見上げ
「優しい人でしたよ、分け隔てなく。血が繋がっていても、周りの人から迫害を受けていたハーフエルフの私にもね」
「けど、母親について詳しい話は知らないのか」
「えぇ‥‥自身の事はほとんど何も話しませんでしたね。この前言った様に、白きクレリックだった事以外は」
 お揃いのヘアバンドをつけるリィに複雑な表情を浮かべつつ、そう答えるとがさりと草むらが揺れれば‥‥一人の少年がひょっこりと顔を出し、三人を見て開口一番
「‥‥誰?」
 少年の呟きにイアンが固まれば二人は苦笑を浮かべる。
「最近、何方か亡くなったと言う話を聞いた事はないかな?」
 リィは現れたばかりの彼に話を聞こうと近付いては屈み、視線を同じ高さにすると優しく言葉を掛ければ
「うーん‥‥ない!」
 少年のはっきりとした返事にリィは静かに頭を撫でると、叶は何か閃いて彼に一つの話を語り始めた。
「では、こんな話を聞いた時はないかな‥‥」
 そしてイアンが語った昔話をそのまま語れば彼は一つ、知っていると肯定する様に一つ頷くのだった。

「神よ、哀れみたまえ‥‥望まぬ生に終焉を」
 一方のトリア達、ガイエルがサンワードのスクロールで二体のズゥンビがいるだろう場所に行き着くと静かに交戦を開始していた。
「おいでっ、私の大ガ‥‥むぐ!」
「っと、それは」
 いつも浮かべている笑顔は消え、厳しい視線で静かに呟いて闘気の宿った刃で一体を切り伏せ‥‥ようとし、その後ろで逢莉笛が呼ぼうとした大ガマを中断させるトリアを見て、冷静に木々を操りそれに止めを刺すガイエル。
「済まないな、トリア殿。気付かなくて」
「‥‥良く考えれば目立っちゃうね、ごめん〜」
 たった一体だったそれが動きを止めた事を確認してから詫びる彼女らに、だがトリアは表情を変えず
「まだ、もう一匹います」
 周囲を再び警戒すれば、近くで草と草とが擦れる音に
「‥‥出て来て下さい」
 二人の前に立ち、トリアが警告を発すれば‥‥彼らの前に現れる非常に動きの鈍いもう一体のズゥンビだったが
「‥‥大丈夫だ、もう動かぬ」
 反応して剣を構える二人に、非常に緩やかな動きから止まるだろうと察して二人を制するガイエルの言葉から程なく、何もする事無くズゥンビは崩れ落ちた。
「なんでかしらね?」
「自然に発生したものであれば、常に蠢き彷徨う筈だ。となると‥‥」
「アトウッドさんの予想が確信になりますね、それにしてもどうしてこんな事を」
 一つの事象が確信に変わる三人だったが、それ故に沸く疑問に答える者はいない。
 それでも勤めを全うすべく先程まで蠢いていた死体を弔っては三人、今は再び森を進む他なかった‥‥微かに響く嘲笑だけは聞き取る事が出来ず。


 それから一行は情報交換の末に墓地を中心に警戒に当たるが、そこからズゥンビが現れる事はなく村人達に存在を悟られないままイアンの依頼を日々順調にこなしていた。
 だが何処からか不意に現れるズゥンビ達。
 その数は思った程多くなく、今までに駆逐した数は両の手で数えられる程度‥‥人為的な物であるのが確かになるも、それの意図までは分からず一行は最終日の夜を迎えていた。

「これでよし。さて、次はどちらか?」
「こっちだ‥‥」
 フォレストラビリンスを展開し、尋ねるアトウッドに灯りを点し彼方を指差す葉隠はその先頭に立ち、唯一夜目の利かないアリッサを誘導するも当の本人はと言えば
「‥‥すいません」
 普段と別段変わらず、静かな表情を湛え静かな口調でただ闇の空気を震わせるだけ。
 その様子に葉隠は別段気にしなかったが、何の気無しに頭を軽く掻いた時だった‥‥その手を下ろし、二人が進めようとした歩を制し止めたのは。
(「誰かいる‥‥人か?」)
 だがはっきりとは判別出来ず、逡巡するもひとまず灯りを消して雲に月が隠れれば闇を纏おうとする。

 かさり

 しかし誰かの歩みで僅かに草が音を奏でると、次の瞬間に何か三人に飛来する。
 それを散開して回避するとアトウッド、飛来した何かから相手の大まかな方向を掴み位置は出鱈目ながらも魔法を放つと、それを迂回しながら駆ける葉隠はやがて再び現れる月明かりによって相手の顔が視認出来る距離まで近付き‥‥やがてその動きを止めた。
「村長殿、か」
 そして彼らはお互いに、ささくれ立つ警戒の念を緩めた。

「どうして此処にいる?」
「ギルドの依頼でモンスター退治を引き受け、その調査をしている所だ。村長殿こそこんな時間に」
「‥‥散歩、じゃよ。しかしこの辺りではその様な話は聞いた事がないんじゃが、何方の依頼か?」
「申し訳ありませんが、守秘義務に関わるのでお教えは出来ません」
 近くの木を背もたれの変わりに老いた村長が座れば、お互い出方を伺うも埒が明かないと見て彼は鼻息を荒くして
「ふん、ならばそう言う事にしておこう。だが依頼が終わり次第、早急に出て行って貰おう‥‥無用な混乱は招きたくない」
 咎める事無く、早々に話を打ち切ろうとするが冒険者達はそれだけでは引けなかった。
「村人が大事なのは分かります、けれど大事なものを見失ってはいませんか?」
「イアンは決意を決めたと言っていた、何を隠しているか知らぬが知らずに動くと双方要らぬ危険が及ぶと思うが‥‥如何か」
 含みを持たせたアリッサの質問は、核心を突いたのだろうか村長を押し黙らせるとそれを機と見たアトウッドは更に一押ししたものの
「‥‥我々、冒険者は必要とあれば席を外そう。だからせめてイアンと話す事は出来ぬのか?」
「今もまだ何も言う事は‥‥ない、まだ‥‥決められぬ」
 その一言にイアンと何らかの繋がりがある事を示し、だが村長はそれだけ言うと彼らを傍目に立ち上がっては再び夜の森へその姿を消すのだった。
 ‥‥そして翌日の朝を迎えた一行は静かに、様々な思いを抱えながら再びその村を後にした。

●Black Thought
「つまんねぇな、楽出来るかと思ったが‥‥早々上手くはいかねぇか」
 一行と同様に、木々の群れに身を隠しては一部始終の様子を伺っていた男はイアンに一行が村より去る姿を見届けつつ飽きずに舌打ちをすると
「でも上手く行かなくて良かったと思ってるだろ、兄貴」
「‥‥遅いんだよ、ツァール。どこで遊んでやがった」
「ちょっとな。久々の任務だったから少し腕慣らしを」
 背後から静かに、その心情を見抜き呟く弟のツァールに兄は遅参した理由を問い質すと薄い笑みを浮かべる弟。
「ふん、まぁ間に合ったからいいか‥‥」
「で、兄貴。いつあいつらを呼ぶんだよ」
「時間を掛け過ぎている、すぐにでもやるぞ。だが奴らを舐めて掛かるなよ」
「分かっている、俺も少し遊んで来たからな」
 顔に格好もほぼ同じ弟の言葉に、兄はその肩に巻かれている包帯を目に留め溜息を漏らす。
「‥‥とりあえず、だ。墓に行くぞ、此処を抑える為にこっちも数を揃える」
「あいよ、けど少し位優しい言葉を掛けてくれてもいいだろ‥‥全く、人使いが荒いぜ」
「お前が言えた口か」
 そして二人はお互いの胸を叩くと、暗き森の彼方へと消えていった。

 〜Go to Last Stage?〜