【レギオン】封滅黒衣

■シリーズシナリオ


担当:蘇芳防斗

対応レベル:7〜13lv

難易度:難しい

成功報酬:7 G 60 C

参加人数:10人

サポート参加人数:1人

冒険期間:09月28日〜10月13日

リプレイ公開日:2005年10月07日

●オープニング

「重歩兵っ、前へ! 壁を成して奴らの進行を止めろ!」
 シャーウッドの森が一角にて、今日と言う日もノッテンガムの騎士団が一部隊はレギオンと激戦を繰り広げていた。
 戦いは日々続き、だがレギオンの数は間違いなく減らしていると言う確かな手応えはあり、此処最近の戦闘は比較的小規模なものばかりだった。
「しかしこの数‥‥奴らとて無尽蔵と言う訳ではあるまいに、何処から沸いてくる」
 ‥‥が今日に限ってはその限りではなく、今までにないレギオンの数に呻く部隊長だったが森を、市街を、何よりもノッテンガムを守る為にただひたすら指揮を取っては剣を振るう。
「奴らが今まで戦力を小出しにしていたとは考え難いが‥‥何が起こっている?」
「そりゃ封印がまた一つ、壊れたからなぁ。当然だろうが」
 その疑問に帰って来る答え、慌て彼は振り返って抜剣するもそれより早く首元から熱い液体が流れ出ている事を感じると、目を閉じてもいないのにその視界が黒で埋まる事に再び疑問を感じたが、胸元を貫く衝撃にその疑問は霧散し‥‥彼はその場に倒れ伏した。
「た、隊長ぉ‥‥っ!」
 その異変にいち早く気付き、一人の魔術師が振り返り叫ぶもその視界に飛び込んで来たのは黒衣の男とその後ろに控えるズゥンビの群れ、その身に纏う鎧が陽光を浴び薄く輝けば見慣れた刻印が彼の目に飛び込んで来る。
「‥‥元は仲間だったんだろ? そう怖がんなよな、それにすぐお前らも仲間にしてやるからさ」
 そして黒衣が下卑た笑みを浮かべると、指を弾いて後ろで静かに佇む死人達へ命令を下す。
「さ、騎士団を潰せ‥‥っと、お前らは待機な」
 それを受諾したズゥンビ達が主の命を果たす為に動き出せば、黒衣は頭上を見上げ釘を刺すと入り乱れる三つ巴の戦いを悦に入っては見入るのだった。
 数が多いとは言えズゥンビだけであればそれは然して問題ないのだが、レギオンと挟撃を受ける形になった騎士達にとってそれは死を決意させるのに十分だった。
 だがそれでも剣を掲げて戦いを継続するも、やがて森に慟哭が次々に木霊する。
「後三つ‥‥しかし次は何処だよ、地図位よこせっての」

「‥‥下がっていいぞ」
 ここ数日の、ノッテンガムの森におけるレギオン戦においての報告を受けた領主は沈痛な面持ちを携え語る伝令へそれだけ告げると彼はその表情をそのままに、領主の部屋を退出する。
「後手後手だな、オーウェン」
「言うな‥‥人事の再編が終わって『聖人』の護衛に加え対レギオンだけであれば対抗出来得る規模の戦力を確保したと言うのに、このタイミングで『暗部』が介入してくるとはな」
 今日は珍しく、ノッテンガム城に留まっていたレイ・ヴォルクスが頭を抱える友人へ手厳しく言えば、それに表情を顰めつつも予期せぬ事態を収拾する為の思考を巡らす。
「内部を洗うか?」
「その件は別に動いている、それよりも『暗部』だ‥‥奴ら、何を考えている」
「今回の引き金、そうだとは踏んでいたがその割には動くのが遅いな」
 その様子にレイが提案すれば続く領主の返事に肩を竦め、次いで話が『暗部』について移行する。
「『暗部』のルーツ、やはり知る必要があるか。我々は『暗部』の事に付いて知らなさ過ぎる‥‥ブルーが知っているとは思えないが尋問は引き続き行なえと係の者に伝えてくれ。私はゼスト達を伴って長老達の元へ向かう」
「分かった‥‥が、私はどうすればいい?」
 どうにも少ない『暗部』の情報が懸念材料の一つ、と挙げればオーウェンはそれを得るべく、自由に動かせる駒への指示を下す中、名前が挙がらなかった自身についての行動を確認の為に問うレイへは
「『暗部』の一部隊が目的だろう封印の破壊‥‥その行動の阻害、ないしは殲滅を冒険者達と共に行なってくれ、これ以上の封印の破壊は非常にまずい」
 そう次の指示を下すと、その回答へレイが満足気な笑みを浮かべる。
「今までと違い、受けではなく攻めか‥‥そうなると、上空からの探索部隊もそれなりには必要だな。それはこっちで手配しておこう」
「済まん、助かる」
「気にするな‥‥あの時、助けて貰った借りを返しているだけだ」
 踵を返すと同時、それだけ言って手を掲げれば彼も部屋を辞するのだった。

――――――――――――――――――――
 ミッション:暗躍する『暗部』を撃退せよ!

 成功条件:???
 達成条件:『暗部』を撃退出来た時。
 失敗条件:依頼期間中に封印が一つでも壊された場合。
 必須道具類:依頼期間中の食事は依頼人が提供しますので、保存食の準備は不要です。
 それ以外で必要だと思われる道具は各自で『予め』準備して置いて下さい。
(販売されていないアイテムに関して、使う場合はプレイングにて根拠の明示を忘れずに)

 その他:シャーウッドの森を暗躍している『暗部』の発見、及び撃退が今回の依頼内容になります。
 が、レギオンは代わらず活動的に蔓延っていますので十二分に注意を払った上で索敵、戦闘を行なって頂きます様に‥‥大変ではあると思いますが宜しくお願い致します。

 傾向:索敵〜対人戦闘中心
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●今回の参加者

 ea0364 セリア・アストライア(25歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea1180 クラリッサ・シュフィール(33歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea2269 ノース・ウィル(32歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)
 ea3190 真幌葉 京士郎(36歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4460 ロア・パープルストーム(29歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea5001 ルクス・シュラウヴェル(31歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea5936 アンドリュー・カールセン(27歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7209 ロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イスパニア王国)
 ea8088 ガイエル・サンドゥーラ(31歳・♀・僧侶・エルフ・インドゥーラ国)
 ea9093 リィ・フェイラン(32歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)

●サポート参加者

バデル・ザラーム(ea9933

●リプレイ本文

●Connection(因縁)
 ノッテンガムへ至る道を進む中で新しく入る、侍の真幌葉京士郎(ea3190)へ皆が今までの概要を語る。
「ありがたい、話を聞ける事で何か感じ取れる事もあるのではと思ったのでな‥‥と、レギオンが封印の位置を感じ取って襲撃してきているのなら、黒衣の者はその跡を付けて封印の位置を知ろうとする、とは考えられないか?」
「恐らく‥‥その可能性は高いだろうな」
 そして一通りの話を聞き終えると若々しい顔立ちの侍が考えに、陽光に輝く銀髪をたなびかせリィ・フェイラン(ea9093)は頷き返すと
「ならレギオンを利用する事が、最適な道案内だと思うのだがどうだろう?」
「そうですね、それはあたしも考えていましたわ‥‥しかし」
「しかし、なんだ?」
 皆からも反論がない事から提案を掲げる京士郎へ、自身の金髪を梳かしつつロゼッタ・デ・ヴェルザーヌ(ea7209)は賛同したが、その表情は陽光降り注ぐ天候とは裏腹に僅か曇っていた。
「いえ、追跡が容易過ぎる点が引っ掛かりまして」
 その理由を皆へ述べ、思考を巡らすも
「ですが何とかこの状況を変えなければ‥‥このままでは、悪い流れが止められません」
 様々な要因が絡み合う現状からセリア・アストライア(ea0364)が悲嘆をその表情に浮かべ呟くと、一行を沈黙が覆い包む。
「しかし、止められないと決まった訳でもない。だから皆を呼んだのだが‥‥その意気では困るな」
「はっ、失礼しました!」
 だが、それを切り裂くのは一行を出迎えにやって来たレイ・ヴォルクス。その言葉へ表情を変える事無くアンドリュー・カールセン(ea5936)の敬礼を始めとして皆は一先ず頷くと、次いで挨拶を交わしてからレイへ現状の確認を始めた。

「いつぞやイアン殿の前に現れた者らと同じか? ともすれば魔本とも‥‥」
 レイとの合流は皆の予想より早く、この機とばかり尋ねるガイエル・サンドゥーラ(ea8088)の真剣な眼差しを受け
「よく覚えているな、そう言えばイアンは今頃何をして‥‥」
「今は昔話をしている場合ではないだろう、レイど‥‥」
 それでも話を逸らそうとするレイがインドゥーラの僧侶へ語ると、声音こそ静かにノース・ウィル(ea2269)が僅か、憤怒の瞳を持ってそれを途中で遮るが舞う埃に蒸せ、咳き込むと凛々しい表情も台無しである。
「‥‥何、皆がどれだけ本気か試してみただけだが、さて‥‥何処から話したものか」
 しかし彼女の様子を気にする事無く、珍しく真面目な雰囲気を漂わせるレイは一行を見回し、まず肩を竦め場の雰囲気を和らげると帽子を被り直してから背を向けてから語り始めるのだった。
「今の『暗部』に付いて、知る事は少ない。それが例えシャーウッドの森に住む長老達でもな‥‥だが『暗部』の元は彼ら、シャーウッドの森がエルフ達の中で狂気を孕んだ者達によって生まれ、『人』をより高みへ至らせる事を目的とした集団だ」

「レギオンに付いて‥‥『暗部』が絡んでいる可能性は大じゃの」
 一方のノッテンガム城、空飛ぶ箒の力で一行よりほんの僅かに先んじて到着したルクス・シュラウヴェル(ea5001)は、レギオンに付いて記されている古文書を解読するシャーウッドの森が長老の一人とコンタクトを取っていた。
「シャーウッドの森に住むエルフ達と『暗部』が協力して封印したレギオンじゃ‥‥今振るわれている力は未だ、仮初のものじゃ」
「ちょっと待て、それは‥‥」
 古文書の解読状況から語られた話の意外な行方に、彼女は驚きながらもその事について問い質そうとしたが
「‥‥昔、ただ只管に知識を求める者達が我らの中に幾人かいた。その者達が『人』をより高みへと昇らせる為に呼んだ『狂気』、それがレギオンの源流。だがそれは我らが手に負えるものでなく、二重の封印を施し眠らせるのが精一杯じゃったそうだ」
 長老は手に持つ古文書に視線を落とし、それに綴られる話を語り出す。
「『魔本』が揃い開かれた時こそ、『狂気』が解放されレギオンも目覚める‥‥故にまずは、封印の樹を守る事が先決。それが一本だけでも残れば『狂気』は解放されぬ」
 固唾を呑んでその話を静かに聞き入るルクスを傍目に、長老がそこまで言えばやがて古文書を閉じ、彼女と目を合わせると一言だけ告げるのだった。
「急げよ、まだ猶予はあるし新たな封印ももう時期すれば‥‥じゃが嫌な予感だけ、消えぬ」

「今、『暗部』が目論んでいる目的も恐らくはそうだと思う。レギオンを用いる事で今度こそ、それを成そうとしている‥‥そんな気が、する」
「そうか、ならば尚の事‥‥向こうの都合で人の命を弄ばせはしない」
 そして暫く、レイの話を聞いてそれでもノースが紡ぐ決意から場の雰囲気が更に張り詰める中
「今為すべき事は何か‥‥迷いはないか?」
「さぁ、な。迷いがないと言えば嘘になるだろうが」
 語り手の一挙一動から気持ちを察し、何時もより柔らかな声音で尋ねるガイエルへ答えた彼の声は僅か、震えていた気がした。
「‥‥ね、レイ。その鷹の名前は何?」
 だがそれには気付かない振りをして、ロア・パープルストーム(ea4460)がレイの肩に止まる鷹を見ながら辺りの雰囲気を和ませようと尋ねるが
「ゼピュロスと言う名だが‥‥おいっ」
「どうしたんですか〜? 美味しい餌ならありませんよ〜」
 彼女の視線に気付いたゼピュロスと呼ばれたその鷹、最近の戦闘から痛む自慢の髪を気にする騎士のクラリッサ・シュフィール(ea1180)が右肩へ止まると、ロアにはそっぽを向けるのだった。
「‥‥どうせ私は動物に好かれるタイプじゃないわよ」
 そして一人、小さくロアが不平を紡げば皆は歩く速度は変わらず早かったものの、僅かながら口元だけ綻ばせた。

●Search and(乾坤匹敵)
「ズゥンビに防御はない。最大の一撃をぶつけろ、それがズゥンビになった戦友への供養だ」
 シャーウッドの森を、レギオン達が多数進んでいると思われる破砕の跡を辿りながら進む一行。
 その途中、防衛部隊とかち合えば情報収集のついでに騎士が一人へ忠告する木々の群れ‥‥ではなく、周囲と見事に擬態化を完了させていたアンドリュー。
「あ、あぁ‥‥分かった」
 困惑しながらも騎士が一つ頷いたのを確認してから彼は身に纏わり付く草葉を揺らし、踵を返すと
「アンドリュー‥‥貴重品ではあるが状況が状況なのでな、良かったらと思って」
「すまん、遠慮なく借りる」
 それを辛うじて見抜いたノースがその背後から声を掛け、一本の白き矢を彼へ差し出せばアンドリューは言葉少なく返し、それを受け取る。
「気にする必要はない、此処まで共に死線を潜って来た‥‥仲だからな」
 そんな彼へ一言だけ言えば、視線が合うなり唐突に背を向け歩き出すノースの反応に
「う、む?」
 アンドリューは去って行く彼女の背中を戸惑いながら見送るのだった。

「しかしロゼッタの言う通り、追跡が上手く行き過ぎているな」
 そして再び進み出す一行だったが、何事もなくレギオンの群れが進む跡を追尾出来ている事からロゼッタの言葉を思い出し、呟きを漏らすリィ。
「だが私達は進む他に道はない、それが罠でも」
「ロア殿ー、東の方角に何か見えるか?」
 麗しい射手の警鐘を受け、それを胸に留めつつも残された痕跡を正確に追尾して皆を先導するルクスの足は止まらず、ガイエルもまた借り受けた地図に目線を落としながら太陽の導きから梢の群れを抜け、空中を漂うロアへ一つの方角を指し示し尋ねる。
「いるわね、でも‥‥そこへ行くまで苦労しそうよ」
 彼女の赤外線視界に微か見える、小さな赤の群れとそれに遅れて進む青の光点‥‥だがその途中に幾つか見受けられる赤い光を目に留めれば、髪を掻き揚げると地上へ降りる事にした。

「‥‥この地図に記されている場所へ、もう一人だけ連れて様子を見て来い。不用意に近付くなよ」
 一方、『黒』の部隊。
 レギオンの跡を僅か外しながら進めばまた、防衛部隊を打ち崩すと手にする一枚の地図を黒尽くめの部下が一人へ託す。
「もう一月経つだろうによ、今でも地図に頼るってあり得るか‥‥偽装、かもな」
 そして逡巡する黒衣の男だったが、道中に伏せて来た兵達の動きを考えると決めた道は変えず、進む事に決めれば亡者の群れを率い再び進軍を開始した。

●Dark(黒)
 それから時は暫く流れる。
「下手に長引いたせいか、下らねぇ策ばかり思い付きやがって‥‥」
 封印に殺到する十数体のレギオンが攻撃を持ってしても容易に打ち砕けない氷の檻へ舌打ちをして、遅れて封印の元へ駆けつけた黒衣の男は苛立たしさを露わにするがズゥンビ達への指示は忘れず
「騎士達を押さえとけよ、余り時間は掛けられねぇ。兄貴にどやされちまうからな」
 苦笑を浮かべ言えば、自身は周囲の警戒を行う為に詠唱を紡ぎ上げようとした時だった。
 一条の閃光が疾り、手を貫く痛みを感じたと同時に冒険者達が飛び出して来たのは。
「‥‥僅かに遅かったみたいですね」
「だが、手遅れではない様だな」
 まず飛び出してはその状況にも拘らず静かに呟くセリアへ、ノースがまだ残る希望を紡げば
「ち‥‥‥足止めも出来ねぇのかよ、あいつらぁ!」
 手の甲に突き刺さる銀の矢を抜き、かなぐり捨てると怒りに震える指を一行へ向けて弾いた。

「あれは、あの時の‥‥」
 その黒衣の手を貫いた矢を放ったアンドリューは、怒りに震えるその姿を記憶の中から弄り当てると静かな怒りをその心に燃やす。
「我々を駒鳥の如き小さな存在と侮っていると、後悔する事になるかも知れないぞ‥‥」
 それは彼より少し離れた場所から精密な狙いを持って矢を射掛けるリィも同様で、その顔立ちに違和感を覚えながらも
「偽りの生に縛られた、哀れな騎士に真実の安らぎを!」
 周囲の状況から次には鳴弦の弓が弦を弾き叫ぶと、動きが鈍くなるズゥンビへ狙いを定めたアンドリューの弓からまた、一条の光が迸った。

(「ゾンビ‥‥えぅえぅ、怖いよぉ〜」)
 内心、蠢く死体の群れに怯えるクラリッサだったが、それでも引かずに駆け抜ける一行の姿に自身を奮い起こすと、己が身に闘気を立ち昇らせその力を皆へ配り与える。
「例え束で来ようとも二の太刀要らずのこの一閃に、払えぬ闇なしっ!」
 そして彼女から闘気の加護を受けた侍が強靭な膂力を全開に己が得物を一閃すれば、広がる剣気の帯が死者を打ち据えるも屈強な鎧に包まれたそれらは四肢を飛ばされながら、それでも行進を止めない。
「それよりもレギオンを!」
「青き檻‥‥いざ包み込め、刻までもっ」
 叫びを詠唱に、ロアが京士郎の長巻へ更に炎を宿すと視界の片隅に浮遊するレギオンを見付けたロゼッタが即座にそれを時止まる氷の檻へ封鎖すれば
「ロゼッタ殿、封印も頼む!」
 次いで灰の人形を呼び出そうとするロゼッタだったが後方で一行の支援に徹するルクスの叫びに振り返ると、封印の樹を覆い守る氷の檻にひび入る様子を見止め、今度はそれを対象にアイスコフィンの詠唱を紡ぎ上げる。
「乙女の柔肌に傷を付けさせる訳にはいかんからな‥‥一撃で決めるっ!」
「お話は後で、ゆっくりと聞かせて貰います」
「ふ‥‥っざけるなぁっ!」
 ズゥンビと指揮系統を失い暴れ狂い出すレギオンとが縺れ合う中、その混乱を突いて京士郎とセリアが黒衣へ肉薄し、三人がそれぞれが得物を振り翳したその時‥‥木々が激しく揺れると、蒼い閃光が氷の檻に突き立った。

●Azure(蒼穹)
「っ‥‥なんだ」
 腕を翳し、突然の出来事にガイエルが呻くと降り注いだ蒼い閃光の衝撃で立ち上る土煙はやがて晴れ、封印の袂に蒼い甲冑を身に纏う巨躯の男は僅かに眉根を顰め、佇んでいた。
 そしてその隣には蹴散らされたレギオンの群れと氷の檻に守られている封印の樹、幸いにもロゼッタのアイスコフィンが僅かな差で完成し、その攻撃を防いだ事に一行は安堵するが突如として静まる戦場に気は抜かず、武器は構えたまま。
「立ち寄ってみればこの様か‥‥ロイガーが嘆くぞ」
「分かっているっ!」
 不意に響く、『蒼』の声に激昂し近くの樹へ拳を打ち付ける黒衣の男‥‥その隙を逃さず梢の影より二人の射手は沈黙の中、佇む黒衣へ鋭く矢を放つが
「話の途中で無粋だねぇ」
 紅の鎧に包まれ、不敵な笑みを浮かべる女戦士の振るう鎌がそれを『黒』の一人へ突き刺さる寸での所で叩き落とす。
 次いで、静かな場に響く舌打ちは誰の物か。
「それは魔本かっ! 一体何処で」
 その時、巨躯の男の腰に揺れる一冊の本を見て、叫ぶガイエルへ
「‥‥話す理由は、ない」
「まさか‥‥いや」
 彼の答えにハーフエルフの青年を思い出すが、それが誘導である事に気付いて口を噤む。
「‥‥聡いな、流石に。そう容易く喋っては貰えぬか」
「一体、何故こんな事をするのかしら」
 それを鼻で笑い感心する中、拳を硬く握り締めながらも勤めて冷静にロアが口を挟み、彼らへその真意を尋ねると
「破壊こそ全ての命を強く輝かせ、羽ばたかせる為の翼‥‥それをこれから、振り撒く」
 やがて紡がれる、彼らの真意と思しき言葉に一行が目を見開けば
「‥‥そう、あの時に我は誓った。己の為だけに醜く争う弱き者達を導く為に!」
 叫びと同時、その身より放たれる闘気に皆は圧倒されるも
「戦うしか、道はないか‥‥ナシュト」
 今まで沈黙を貫いていたレイの唐突な呟きと同時、中空へ弧を描き巨躯の男目掛け緩やかに落下する青き布をはためかせる一本の槍だったが、それはすぐに切り落とされる。
「‥‥今、お前に構っている暇はない。レイ・ヴォルクス‥‥だが次に会った時、お前は殺す」
 『ナシュト』と呼ばれた巨躯の男が一閃に、苦悶の表情を浮かべるレイへ彼はそれだけ告げれば『紅』を伴ってその場から駆け出すと
「次だ‥‥次こそ必ず決着をつけてやる、俺が生きる証を‥‥」
 血に濡れる指を弾き、残るズゥンビ達へ指示を下してから『黒』がそれだけ呟くと動き出した群れと擦れ違う様にその中へ飛び込み、姿を消した。
 徐々に明らかとなる『暗部』の目的が大きさに呻き、それでも残る死者達をまずは弔う為に戦闘を再開する一行を残して。

 残る封印は、二つ。