●リプレイ本文
●連れだされるイゴール
イゴールから相談を受けた冒険者達は、とりあえず彼を連れだす事にした。
イゴールを囲んでいるのは、ミケイト・ニシーネ(ea0508)、カンター・フスク(ea5283)、セフィナ・プランティエ(ea8539)の三人だ。残りの冒険者達は、『他の事』をしている。
イゴールが可愛くて仕方がないらしいセフィナは、頭を撫で、
「ご立派ですわ、イゴールさん!」
とイノシシを獲ってきたイゴールを褒めてあげた。
(「意外に‥‥怖いですわね」)
イノシシが『取れたて』なのか、まだ生きているようで怖い。
その後ろには、
(「なんで僕が‥‥」)
と思いつつも、周りが女性ばかりなので、イノシシを押しているカンターの姿が。足下で、『ふとっちょネズミ』がイノシシに噛(か)みついている。
「あんまりカジるなよ、ネズミー」
ジャパン人から聞いたのか、『ネズミー』なる呼び方を考えてきたカンター。‥‥しかし、呼び方が気にいらないのか、靴(くつ)を噛(か)まれる。
「‥‥この‥‥」
ゲシッ!
‥‥ゲシ、ゲシ。
とりあえず踏(ふ)んでおくカンター。‥‥離れて、またイノシシを噛むネズミー。
一緒に『大物ゲット』を目指していたミケイトも
「大物やなくても大したもんやで〜」
と言って、褒めてくれた。
「また頑張る」
と言ったものの、続ける言葉に迷うイゴール。
ミケイトはイゴールの成長を喜んでいたが、それと同時に気になる事がある。
(「おかしいなあ‥‥ハーフエルフはんて、世間の目ぇとか風当たりが厳しいんやろ?」)
シャハノンは『伯爵』であると書かれていたし、不思議である。
(「何か事情でもあるんやろか?」)
そうしている内に、ある館の前に着いた。
「キミが言っていたお金持ちの家というのは、ここかい?」
カンターに聞かれ、
「はい、リューリクという富豪さんのお家です。‥‥ウフフフフ‥‥」
かなり、というより『とっても』喜々(きき)としているセフィナ。猫達に会えるからだ。
イゴールから「金持ちの家にいる猫と遊んでいる」と聞かされていたので、てっきりイゴールとリューリクは友人か何かと思っていたのだが‥‥。
執事にリューリクの部屋まで通され、
「見た事のない顔が多いが」
と聞いて、
(「‥‥もしかしたら、お友達ではないのかしら?」)
驚くセフィナ。
強気の判断だったのだが‥‥目を合わせて、不思議そうにしている二人を見て、落ち込むセフィナであった。
「セフィナはん、この家の猫達、凶悪やで〜」
ミケイトが『ふとっちょネズミ』を両手で抱えながら、走り回ってる。‥‥その後ろには、数匹の猫達。
猫達がネズミと食べようとしている。‥‥当然といえば当然の行動に、ず〜んと沈(しず)むセフィナ。‥‥と思いきや、
「なにをボ〜っと見とるん!?」
ミケイトを羨ましそうに見ている。
「カンター君‥‥執事が紅茶を入れてくれるそうなんだが、飲むかい?」
リューリクが、一人落ち着いているカンターに声をかけてきた。
「こうまでしたら、遠慮してもね。‥‥いただこうかな」
軽く肩をすくめるカンター。
その後ろではガチャン、ガチャンと猫達が調度品を壊している。
ちなみに、イゴールは『勝手に』忍び込んで遊んでいたらしい。
●人影見つからず
リジェナス・フォーディガール(eb0703)は、皆とは別行動をとっていた。ちなみに、彼女は兄と入れ替わりで、この依頼に参加している。
リューリクの家の前で、彼女は周囲の様子を覗(うかが)っている。
(「なんとか、その女性を見つけられればと思ったのだけど‥‥」)
ルーロ・ルロロ(ea7504)から聞いた情報で、『素性の分からぬ女』の存在は聞いていたものの、見つけられずにいた。
(「きっと、どこかで見ているはずだわ」)
と思い、周囲の様子を探ってみる。
彼女が得意とする森の中ならともかく、普通に隠れた存在を見つけるのは難しく、
(「駄目かしら? 聞きたい事があったのに‥‥」)
‥‥あきらめて、自分もリューリクの家の中に入っていった。
●バードの人脈
アストレア・ユラン(ea3338)とエディン・エクリーヤ(eb1193)は、同業(バード)達に『シャハノン伯爵』についての話を聞きに行っていた。
「シャハノン伯爵について、何かお知りになっている事はありません?」
エディンは、同業者に話しかけていた。なぜか寝袋を抱えて、『寝る気』満々だが、まだ耐えている(?)ようだ。
アストレアも、シフールのバード仲間達とパタパタ飛び回りながら話をしていた。
「う〜ん‥‥シャハノン伯爵って名前には聞き覚えはあるけど、詳しくは分からないなあ‥‥上の人の話だから」
「そうなんか‥‥」
(「バード仲間に聞けば、何か分かると思ったんやけどなー」)
羽の『パタパタ具合』を落とすアストレア。‥‥ちょっと落ち込んだようだ。出来れば住んでいる場所やシャハノン伯爵に関する様々な情報を集めたかったのだが、なかなか上手くいかなかった。
エディンが後ろから声をかけてくる。
「皆さんにシャハノン伯爵の事をお聞きしてみたのですけど、もともとはご子息に爵位を渡していて‥‥ご子息がご病気で亡くなったので、再びシャハノン伯爵を名乗っているそうですわ」
「う〜ん、シャハノン‥‥思い出した‥‥伯爵家のご子息とエルフの侍女が恋に落ちて、でも、その男も身分が捨てられなくて別れてしまったんだっけ‥‥?」
首をひねる別のバード仲間。
「出来れば、もうちょっと詳しく教えてくれへん?」
アストレアが聞いてみると、
「そのリッチス‥‥シャハノン伯爵だけれど、あんまり良い噂は聞かない人だよ。何をしているかは分からないけど、やり方が強引で恨んでいる人も多いんだって」
「そうなんかー。せや、何か食べたいものあらへん? 情報も教えてもらったし、おごるなー」
教えてくれたバード仲間に、食事をおごってあげるアストレア。
「三十年ぐらい前の話ですの‥‥私ならとっくに忘れていると思いますわ」
食事中にエディンが聞いてみたところ、どうやら結構前の話らしい。
とにかくシャハノン・リッチスなる人物が評判の良い人物ではなく、三十年ほど前に流れた『その息子とエルフの侍女が恋に落ちた』という噂だけは分かった。
●解体作業
「うふふ‥‥」
猫を愛してやまないセフィナは、猫達に『猫パンチ』をくらっても幸せそうだ。
リューリクからエサをもらって、それをあげているので、猫達が寄ってきている。
「猫さん、猫さん、もっと有りますよ♪」
いっぱい集めたいのか甘いのか‥‥食わせまくっている。
以前より飼い慣らされたのか、あまり暴れない猫達に大満足のセフィナであった。‥‥たまに思いっきりエサを奪われているが。
カンターとミケイトが保存食を作るため、庭でイノシシを『解体』している。
ベキッ。
ペチャッ。
ギシャギシャッ。
などとよく分からない音の中で、カンターが語る。
「保存食にするには、干すなり塩漬けにしないと駄目だ。生では何日も保たないからね」
肉を切り出しながら、並べていく。
「こういう技術も身につけてこその狩人やで〜」
肉を並べるのを手伝ったり、
「こんなエェ肉、保存食にするには、もったいないわぁ〜」
と言って、良いところの肉をザクザク切り出している貧乏性のミケイト。ちなみに、毛皮も別にしてとっておいてある。
後で、調度品の『弁償代』になったのは内緒だ。
「‥‥うん」
肉をぺちゃぺちゃしているイゴール。
「いいかい、家族というのはね」
カンターは、イゴールに『家族』について話していた。
「僕は、家族とは、夢などを共有できる仲間のような存在だと思っている。ただし、家族は子孫を残す場でもあってね。後継者という言葉は、伯爵の子孫を絶やさないために、伯爵の家族になるという意味だと思う」
遠くで、ウンウンと頷くセフィナがいるが、彼女はまだ『猫の魔力』から抜けきっていない。
「もし伯爵と会って家族になりたいなら、今まで通りに暮らすのは難しい」
イゴールは、難しい顔をした。
「家族‥‥」
「イゴールはんは、家族と一緒に暮らしたいんか?」
ミケイトが横から聞いてみる。
「よくわからない」
と答えるイゴールであったが、明らかに気になっている様子であった。
「うちは貴族のボンボンになるよか、気張って強く生き抜く男になって欲しいわぁ‥‥でも、己の選択は己で決めんとあかん」
と言葉を続けるミケイト。
「あたえられて貰うだけやなく、幸せは自分から獲りにいかなあかんで」
「ん〜」
ミケイトは軽い調子で語りかけてくれたのだが、問題が問題なだけに、返す言葉の見つからないイゴール。
「イゴールさんの人生です。じっくり悩んで、お決め下さい」
エサがなくなって猫達に逃げられたセフィナが、頭を抱えている様子のイゴールを撫でながら、そっと話しかけると、しばらくした後で、うなずくイゴール。
「その子の先生が来たらしい」
上からリューリクが声をかける。どうやら、『狩りの先生』リジェナスがやって来たようだ。
悩んでいるイゴールに、一言だけ伝えに来たようである。
「あなたの事は、あなたが決めなさい、もうあなたは人の言う事に流されずに、自分の事は自分で決めれるはずだから」
「‥‥うん」
まだ悩んでいる様子のイゴール。
そこへ、アストレアとエディンがやって来た。
「あのな‥‥」
と言って、アストレアが話し出したのは、バード仲間達から聞いてきたシャハノン伯爵に関する事だ。
「シャハノン伯爵は、あんまり良い噂はないみたいなんやわ‥‥。それにな、昔、伯爵の息子とエルフの侍女がそういう関係になったんやけど‥‥息子が彼女との縁を切ったって、そんで、その息子は病気で亡くなっててな‥‥」
もちろん噂であって確証はないが、イゴールが捨てられた身の上だけに、信憑性は感じた。
エディンが言った
「三十年ほどの前の噂だそうですのよ」
という言葉も、イゴールの年齢と比べると辻褄(つじつま)が合ってしまう。
話を聞いて落ち込むイゴールを見て、シュンとするアストレア。
「ごめんなー。でも、出来るだけ判断材料を揃えて決めてほしかったんよ‥‥それに、噂やから、本当かわからへんし」
さりげなくネガティブになっていくアストレア。彼女自身も悩みがちだけに、言うか言わないか迷っていたようだ。
ミケイトは出来ればなごやかに終わらせたかった事もあって
(「こういう事態になってほしくはあらへんかったな〜」)
と思いつつも、口には出せない。
「伯爵に会うか会わないかはキミの自由だけれど、もし会う気なら言ってくれ。付いていくから」
カンターにそう言われて、顔をあげるイゴール。
「付いてきてくれるの?」
「ああ、キミが望むならね」
クシャクシャッとイゴールの頭を撫でてやる。
ミケイトも、
「どんな事あっても、うちらは友達やもん」
と笑顔で言ってくれた。
ニコニコと喜ぶイゴール。
『友達』と言われて嬉しいらしい。
「出来れば継承権を持ちたいのか、ただ会いたいのか決めてから行ってくださいましね。もちろん、あちらにいかれる時には、ご一緒させて下さい」
セフィナも、もちろん『弟』が心配で、付いて行きたい気持ちはいっぱいだ。
「私も同行したいと思いますわ」
寝袋がギュッと抱えながら、語りかけるエディン。
「‥‥来る?」
と聞かれたリジェナスは、
「私か兄さんかは分からないけれど」
と言って軽く微笑み、
「冷めちゃうわよ」
執事が運んできた紅茶に、口をつけた。
(「皆と一緒なら‥‥」)
紅茶と同時に、シェアト・レフロージュが
「元気がない時は甘いものが良いですよ」
と言って友人のミケイトに持たせてくれた『果物の蜂蜜漬け』を食べながら、そんな事を思うイゴールであった。
そのちょっと後で、イゴールから
「大丈夫」
と言われて、
(「よかったわ〜」)
クルクル飛ぶアストレアの姿と、猫舌ぶりを発揮して、
「‥‥‥」
紅茶に口をつけられないセフィナの姿があった。
‥‥何時の間にかエディンが消えている。
●日向ぼっこで屋根裏占拠
イゴールが暮らしている屋根裏。
「イゴールさんのお部屋、本当に日当たりよくて気持ちよさそう‥‥」
などと言っていた『寝袋を抱えた人物』が一人いたはずである。
そして‥‥
「‥‥!」
エディンが寝ていて、帰ってきたイゴールがビックリする姿が見かけられた。
『ネズミー』が寝袋に入ったエディンに体当たりしてみたが、
「ん〜」
『寝返り』で潰された。
「‥‥ネズミー」
ネズミーを引っ張りだしてやるイゴール。ネズミーで決定らしい。
「キー!」
気にいらないらしいネズミー。
●空から侵入
さて、三日めの夜。
周囲が高い塀(へい)で囲まれ、屋敷というにはあまりにも物々しいシャハノン伯爵邸に謎の人影があった。
「ほっほっほ〜」
フライングブルームを使って、屋根に飛び乗るルーロ。
(「門から入ったら、きっとバレてしまうからのう」)
確かに、人が注目しない『上』から入ったのは、正解であった。
(「それにしても、警備が多い家じゃの〜」)
見下ろすだけでも、十の『動く明かり』が見える。
「お邪魔するぞよ〜」
フライングブルームに乗りながら明かりの点いていない部屋の窓を開け、そっと降り立つ。
ブレスセンサーを使って、警備がいないかの確認をする‥‥静寂の中での『詠唱の囁き』はまずいが、連続して使わなかったのが幸いして、気づかれなかった。
(「金持ちの家というのは、何時も入り組んでいてよう分からんのー」)
足音を消しながら、適当に屋敷内動き回るルーロ。
伯爵の部屋を探そうとして、それらしきドアを開けようとするが‥‥鍵がかかっている‥‥が、またフライングブルーム。‥‥便利すぎる。
その部屋の窓を、そっと開けて侵入する。
‥‥困ったのは、明かりを点けられないという点である。月明かりを頼りに、置かれているものを漁っては戻し、漁っては戻ししていたが、『時間』が気になる。
前に皆で作った『報告書』を見かけると、ルーロの表情が変わった。なぜか彼が書かなかった『エルフの女性』の事が書きくわえられており、その終わりに疑問じみた文と一緒に『フェイザリー』という名前を書かれていた。
(「‥‥そろそろ限界じゃな」)
ルーロは窓を閉じ、夜空の上を舞った。
その後、イゴールを訪ね、
「血の繋がりだけで家族になれるとは限らんが、とりあえず会ってみたら、どうじゃ?」
と言うと、イゴールは
「皆と一緒に行く」
と返した。‥‥どうやら、皆が一緒に行ってくれると言うので、とりあえず継承権関係なく『会いに行く気』のようだ。
●ちょっとだけの報酬
その日‥‥イゴールから『ほんのちょっとの報酬』が届き、冒険者の多くは『苦笑い』をした。保存食が、ちょうど8日ぶん売れたのだろうか。