黒馬車ロンド2〜襲撃再び

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:2〜6lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 69 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月19日〜10月24日

リプレイ公開日:2004年10月27日

●オープニング

 彼女は三度殺され、三度蘇り、四度目には息をふき返す事は無かったという。
 湖畔にある領主の城で侍女として働いていた彼女に何があったのか、何故殺されたのか、知る者は居ない。今ではその城から人が消え、廃墟と化している。
 かわりに住み着いたのは、死したるもの‥‥。
 今でも彼女は、その城にたった一人で住んでいる。

 先日の報告書を、月明かりの元で一人読みふけっていた。
 そっと書庫に入ってくる気配に顔を上げると、祖母マリアが毛布を手に裁っていた。マリアは、そっとコールに毛布をかけてやる。
「あまり根を詰めてはいけませんよ、コール」
「‥‥」
 コールは報告書を差し出すと、マリアに渡した。
「婆様、何故レディ・ロンドは4度も殺される事になったのでしょうか。何故十字架が怖いのか‥‥何故、十字架があるのにもかかわらず、教会が無かったのか‥‥。十字架に、恐れられる‥‥何かがあるのでしょうか」
 静かに、コールがマリアを見つめる。マリアは首を振った。
 その答えは、マリアには分からない。今や、誰もその答えを知るものは、この村には居ない。しかし、それが隠されて来たが故風化したのか、それとも存在しなかったのか‥‥。
 コールは、今一度詳しく調べようと決意していた。
 あれから2週間、2度目の襲撃の時期がやって来る。
 モンスターの数は増え、街中に危険が満ちあふれるだろう。
「‥‥婆様、もうじき2度目の襲撃がやってきます。その時に彼ら‥‥冒険者が来たら、一緒に少し調べてみようと思います」

 ギルドに再び、コールからの依頼が舞い込む。
 あの街に二度目の襲撃の時期がやってきた、と。
 黒い骨の馬にひかれた馬車に乗り、死したる者レディ・ロンドが現れる。死者の群れと黒い空の獣・コウモリを伴って‥‥。

●今回の参加者

 ea1565 アレクシアス・フェザント(39歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1625 イルニアス・エルトファーム(27歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1987 ベイン・ヴァル(38歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 ea2790 バルザ・バルバザール(25歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)

●リプレイ本文

 本来活気にあふれている時間であるはずの、昼食時。訪れた街は窓を打ち付けたり、家の隙間や屋根を修繕する為に家の周囲を行き交っていた。
 街の様子を見て回りながら早足に歩くコール・マッシュは、ふいと振り返った。視線の先で、鮮やかな赤い髪の女性が、こちらに視線を返していた。
「‥‥コール殿、今から屋敷に戻られるのか?」
「ああ。‥‥君たちは襲撃準備かい?」
「そうじゃな、そっちはウォルターが率先してやってくれておる」
 フォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)がちらと視線をそらすと、2人の元にベイン・ヴァル(ea1987)が加わった。
「シャルロッテが到着した。‥‥これで、今回からはお前を入れて九人で戦える」
「そうか。何にせよ、手の足りぬ時に間に合って良かったのう」
 ほっとしたように、フォルテシモが表情を和らげる。ベインは、ちらとコールを見て口を開いた。
「メディクスとイルニアスが、レディ・ロンドの調査に出ている。ウォルターは門の準備に区切りがついたら、屋敷の書庫に行くそうだ」
「わしも、今から行こうと思うておった所じゃ。コールも戻る所じゃと言うしな」
「‥‥お前、一体いつ休んでいる」
 唐突に、ベインがコールに聞いた。
 コールは、何の事だ、と言いたげな表情で言葉を待っている。
「この間言ったな、お前は。笑っていて欲しいと。‥‥俺には、お前が無理をしているようにしか思えない。俺達が居る間は、少し休んだ方がいい」
「大丈夫、これは毎年の事なんだし」
 と笑って言うコールに、ベインはやや堅い表情で首を振った。
「調べ物なら、ウォルターやメディクスに任せておけばいい。一月もの間、気を張り続けるのは、体に良く無い」
「ほう‥‥」
 含み笑いをしつつ、フォルテシモがベインを見る。
「いつも無茶をするおぬしが、そんな事を言うとはのう」
「俺は確かに無茶はするが、仲間の事を信じている」
 そう言うと、ベインはウォルターが作業をしているはずの南門の方に視線を向け、踵を返した。フォルテシモはくく、と苦笑をしてコールを見やる。
「コール殿、ベインに免じて‥‥ここはしばし休まれよ。調べ物は、わしがウォルター達とやっておくでな」
「‥‥分かったよ」
 少し眉を寄せて、コールが笑って答えた。

 その頃、メディクス・ディエクエス(ea4820)は街の中で、イルニアス・エルトファーム(ea1625)は近くの村でレディ・ロンドとこの街の信仰について調査していた。
 彼女が十字架を恐れる理由が、この街の信仰に何か関わっているのでは無いか、と二人とも考えている。書庫でフォルテシモとともに古い書類を見ていたウォルター・ヘイワード(ea3260)は、丁度揃って姿を見せたイルニアスとメディクスの二人に気づき、手を止めた。
「すまんなウォルター、邪魔をしたか?」
 メディクスが書き物をしているフォルテシモの手元をのぞき込むと、彼女はぼろぼろの書類と格闘している所であった。
「放っておくと、破れたりインクが霞んだりするのでな。羊皮紙の質が悪いせいじゃろう。書類を駄目にしてしまってはマリア殿に申し訳ない故、書き写しておる」
「で、何か分かったか?」
「そうですね‥‥まずそちらのお話が聞きたいのですが」
 ウォルターはメディクスとイルニアスを見返すと、二人は顔を見合わせ、まずメディクスが話を始めた。
「さすがに、数十年前の痕跡を探すのは困難だね。街の地図なんか無いし、これといってジーザス教以外の宗教の痕跡は見あたらない。どうやら、この屋敷のロビーを教会の代わりにしているんだって?」
「‥‥そうマリアが言っていましたね」
 ウォルターが、ここには居ないコールの祖母マリアの事を、話す。
「何でも、この屋敷はあの城からこの街に移ってきた時に領主が建てたのだとか」
「ちょっと気になったんだが、この屋敷の土台は一部分、焼けたようなあとがある。火事にでもなったんじゃないか、と思うが」
「焼けたのか‥‥それとも、焼いたのか」
 ぽつりと言ったイルニアスを、ウォルターとメディクスが振り返る。
 涼やかな表情で、イルニアスが呟くように言葉を続けた。
「そもそも、痕跡が全く無いというのはおかしい。まるで、隠蔽したかのようじゃないか?」
「何か分かったのですか?」
 ウォルターが聞くと、イルニアスが顔を上げた。
「‥‥私はこの周辺山間部の村や家を回ったが、一部年輩者の間ではジーザス教黒を信仰している者が居る事が分かった。大きな街では白が信仰されているが、この周辺には、そういう者が居る」
「実は、残っておる数少ない書類の中、百年ほど前までは同じような痕跡があるのが分かった。百年以上前の書類は見ての通り、ほとんど傷んでしまっておって、読むのも大変じゃがのう。確定は出来なんだが‥‥イルニアスの話を聞いて、確信出来た」
 と、フォルテシモは書き写していたぼろぼろの書類を見せて言った。ウォルターは、書き写したものを二人に手渡しながら、話を継いだ。
「ほとんどの書類は残っていませんが、その後の書類から見るに‥‥城で何かが行われていたらしいのです。その記憶を封印する為、彼らはすべての記録を消したらしいですね」
「‥‥ああ。それと、レディ・ロンドに連れ去られた者も調べてみた」
 メディクスによると、連れ去られた者のほとんどは成人であるという。
「これは‥‥白の神聖騎士である俺の考えなんだが‥‥」
 メディクスは、視線を動かしながら、話を続けた。
「もしかすると、誘拐されているのは、黒の信仰に則って‥‥堕落したと思われる者じゃないかと‥‥。恐怖に駆られて街から逃げ出そうとした者、弱者に無償の施しをしていた神官‥‥心弱き者‥‥」
 イルニアスが、メディクスと目を合わせた。

 白い馬に乗って現れたシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)は、油だらけになって作業をしているバルザ・バルバザール(ea2790)と全く対照的に、きちんとした清潔な服を身にまとっていた。
 バルザは不服そうに、シャルロッテを見上げている。
「ねえシャルロッテ殿。僕、この間もこうやって泥だらけになってたんだよ。その間ウォルター殿は、指示をして居なくなっちゃうしさあ、メディクス殿は“ご苦労様”と言って素通りするし、イルニアス殿は姿も見せないしさあ」
「‥‥」
 バルザを、ちらりとアレクシアスが見つめる。アレクシアスも、バルザを手伝って作業しているのである。他の者も、決してサボっている訳ではないのだが。
「申し訳ありません。よもやこのわたくしが、寝過ごしたばかりか道を迷うとは‥‥。作業はわたくしが致しますので、バルザはお休みになってくださいまし」
「もういいよ、終わっちゃったし」
 はあ、と息をつくとバルザが体を起こす。アレクシアスが、最後の一体を立て終えて視線を彼女に向けた。
「作戦は聞いたか。北門はメディクスとフォルテシモ、コールとバルザ。南門が残りだ。ベインとイルニアスは、中央広場の鐘の所に居る。蝙蝠が襲って来るというのに、街の者に鐘突きなんてさせられないからな」
 北門はコールが立ち、メディクスとバルザ、フォルテシモが護る。南門は残るイルニアス、アレクシアス・フェザント(ea1565)と、ウォルター、シャルロッテが護る。バルザが先ほどから必死に作っていたのは、十字の人型に油を染みこませた布を巻いたものだ。これはウォルターの指示で行っている。
「ベイン殿は、丁寧に自分の腕を切って血を染みこませていたよ。‥‥そんなの見たら、僕もしない訳にいかないじゃないか。僕だって‥‥」
 と言うバルザの腕には、布が巻かれていた。ベインに対抗して血を流したらしい。
「わかりました、ではわたくしは南門に行ってウォルターさん達のお手伝いをすれば良いのですね」
 じい、とシャルロッテはバルザの腕を見つめ、ふいと笑った。
「‥‥バルザは勇敢な方ですね」
「そう‥‥?」
「あまりおだてるな」
 うれしそうな顔をしたバルザ、間髪入れずアレクシアスが言った。

 空を覆う黒い影。
 闇が天空を支配する刻を刻み始めると、それらは静かに浸食してきた。人々はただ襲撃が止むように、と扉も窓も堅く閉じ、部屋の片隅で抱き合って震えている。
 広場の鐘楼でそれをまっさきに確認したベインは、鐘をうち鳴らした。二度、三度うち鳴らすうち、小さな蝙蝠達がベインを見つけて飛びかかった。
 両門の仲間には、鐘の音は届いたであろうか?
 ベインは手を止めると、腰の剣をすらりと抜いた。イルニアスを眼下の鐘楼の下に確認し、ベインは剣の威圧で鐘楼から蝙蝠をたたき落としていく。
 小さな黒い獣たちが自分に向けて襲いかかるのを、静かに待ち受けるイルニアス。
 蝙蝠は彼の腕や体に牙を立てようと、一直接に飛びかかった。直前、イルニアスがオ−ラアルファ−を発動させ、そのオーラの力で蝙蝠をなぎ払った。
 とにかく出来るだけまとめて倒しておく為に、自らの怪我は厭わない。
 蝙蝠だけならば、ドアをこじ開けて家に侵入する事は出来ないだろう。問題は、死者の群れが町中に入り込む事だ。
 と、ベインの耳に鐘の音が響いた。
 それは南門から、聞こえて来た。

冷静に鐘を鳴らしたのは、ウォルターであった。
 この時点でアレに攻撃を仕掛けようとする者は、ここには居ない。
 静かに、彼らの横を通り過ぎてゆく‥‥黒い馬車が。
 アレクシアスは、門からやや離れた場所で蝙蝠をオ−ラアルファ−で一掃している。ウォルターは、グラビティーキャノンで門の前に押し寄せる死者の群れを叩いていた。
 しかし、スカルウォリアーとズゥンビはなかなかウォルターだけでは、一度に倒せるものでは無い。すぐにウォルターがプラントコントロールで蔦を利用し、蔦ののびる範囲内に這わせて足元をさらった。
 足下をさらわれた死者をしとめるのは、シャルロッテの役目である。ズゥンビとスカルウォリアーであれば刀が通用するので、威力の高い刀を手にしていた。
 だが、あくまでも彼らの目的はズゥンビとスカルウォリアー、そして蝙蝠を食い止め殲滅する事‥‥。
 黒い影が姿を現した時、シャルロッテの手が一瞬止まった。
 ちらりとアレクシアスを振り返り、シャルロッテは刀を一振りした。そうっ、と手を胸にやる。静かに彼女の横を、黒い馬車が通り過ぎた。馬車はウォルターの横、そしてアレクシアスの脇を通っていく。
「‥‥モンスター襲撃を食い止めろ、シャルロッテ」
 低い‥‥しかしよく通るアレクシアスの声が聞こえた。
 ぎゅっ、と十字架を握ると、シャルロッテは目の前の死者を毅然とにらみつけた。

 何があったのか?
 顔を上げたバルザに、メディクスが声を発した。
「‥‥バルザ、南門の事は奴らに任せておけ!」
「分かって‥‥」
 ふ、とバルザが振り返る。釣られて、フォルテシモがその視線の先を見た。
 車輪が土を踏む音が‥‥聞こえた気がする。
 黒い影が‥‥。
 コールの凝視する先で、黒い馬車がゆっくりと月下に影を落としている。
 コールの横には、あの十字架が立っていた。

 枝と葉の隙間から、日光が差し込んでくる。光のカーテンをくぐり抜けるようにして、シャルロッテの馬が疾走していた。彼女の馬の速さに、アレクシアスとバルザの馬は着いていくだけでやっとであった。
 彼らの目指す先は、一つ。
「あれをご覧下さい」
 シャルロッテがすう、と手を差し上げ指した。バルザが眉を寄せ、何があるのか目を凝らす。すると、アレクシアスが低い声を発した。
 森の木々の合間に、蔦が絡まる石造りの建造物がそびえている。そのうちの一角を指している。
「‥‥デビル‥‥いや、デーモンか?」
「あのデーモンの装飾‥‥これで間違いはありませんね」
 シャルロッテは馬の手綱を引き、城に背を向けた。バルザは首を傾げ、アレクシアスを見返す。
「何、どういう事?」
「イルニアス達の言う通りだ。この地域は、黒のジーザス教を信仰していた‥‥しかし、その事実が何らかの理由で隠蔽されている」
「十字架を恐れる理由‥‥それはここで黒のジーザス教が信仰されていた事に、何か関係があるのでしょう。‥‥そしてもし‥‥」
 深い悲しみを思い、シャルロッテが表情を曇らせる。うつむき加減だったシャルロッテは、顔を上げて再び城へと視線を戻した。
「もし‥‥連れ去られた人々が、何かの生け贄であるとしたら‥‥」
「彼女は四度も殺されている。彼女が殺された事も、その生け贄と関連があるのかもしれないな。そのたびに復活させられ、生け贄にされていたなら、許し難い事実だ」
 アレクシアスが、城を厳しい表情でにらみつける。と、その視線が何かを見つけた。木々の合間、城の向こうに何かある。アレクシアスが馬を進めると、バルザが声をあげた。
「アレクシアス殿!」
「怖いなら戻れ」
「そういうの、単なる無茶な行為って言うんだよ! 見つかったらどうするの」
「‥‥だったら、静かにしろ」
 とアレクシアスが後ろを振り返りつつバルザをたしなめると、馬の足を速めた。その後に、シャルロッテが続く。
 立ち止まったアレクシアスの目の前に広がっていたのは‥‥。

 明け行く空を見上げ、フォルテシモがすうと目を細めた。どうやら、二度目の襲撃は終わったらしい。町は静けさを取り戻していた。広場に戻ってきたイルニアスやウォルター達が、ベインの元に集まる。
「‥‥ん? シャルロッテとフェザントはどうした? バルザも居ないが」
 メディクスが聞くと、コールが答えた。
「彼らは、湖畔の城の様子を見てくると言っていた」
「大丈夫か、奴等だけで‥‥」
「心配なかろう、様子見だけじゃ。‥‥それよりのう」
 フォルテシモは、深いため息をついた。
「この襲撃、あのロンドの様子‥‥確かに生け贄を求めて居るように見えるが、それにしては自ら出歩くのは妙じゃな」
「どういう‥‥事ですか?」
 ウォルターが表情を堅くする。
「別の何か‥‥捧げるべき相手が居るかのようではないか」

 アレクシアスの目の前に広がっていたのは、いくつもの墓。
 名も無き墓碑が、そこに林立していた。
 弱き者よ、明日の我らの為に身となり糧となれ。
 墓碑にはそう刻まれていた。
(担当:立川司郎)

●ピンナップ

シャルロッテ・フォン・クルス(ea4136


PCシングルピンナップ
Illusted by 沖田龍