夢見る霧3〜官能の霧
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■シリーズシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 16 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月20日〜02月26日
リプレイ公開日:2005年02月28日
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●オープニング
騎士フェール・クラウリットの報告を、レイモンド卿は静かに聞いていた。細く緩やかで長い金色の髪を肩で揺らし、窓辺に置いた椅子にもたれてじっと聞き入っている。
「捕らえた盗賊は、すでに騎士団の牢にあります。森にあった大麻も持ち帰りました。それについては、現在調査中です」
「‥‥そうですか」
レイモンドはフェールを見上げ、くすりと笑った。
「それで‥‥どうですか、旅は。楽しいですか?」
「‥‥どういう意味でしょう」
相変わらずのフェールの言葉に、レイモンドはまた声をたてて笑った。
「ふふ‥‥フェール、少し安心しました。あなたが誰かと集団行動を取る事が出来るようになって。メテオールの騎士団長も‥‥ロイも、あなたの事をとても心配していましたから」
「私は、騎士団としての行動では、いつも集団行動は取れています」
「そうでしょうか‥‥仲間を信頼するのは、集団行動で最も大切な事だと思いますよ。一人で何でも出来るようになるには、とても大変です。剣士が魔法使いには‥‥なかなかなれるものではない。でも、同じ時間があれば、優秀な剣士と優秀な魔法使いが育つではありませんか。それが仲間というものではありませんか?」
レイモンドの言葉‥‥フェールは黙って聞いていた。しかし、拳を握りしめ、震える声で言葉を発した。
「では‥‥騎士団としての責務はどうです。‥‥父は“メテオール”騎士団員だった。でも、ロイやローゼと共に冒険者となり、旅に出て‥‥そのまま死んでしまった。私はろくに父の顔を見る暇も、剣を教わる暇すら無かった。騎士団としての責務を捨てて旅に出るのが、いい事なのでしょうか」
すう、とレイモンドの手が上がる。その手はすう、とフェールの剣に添えられた。レイモンドは、フェールの言葉に怒っても悲しんでもいなかった。
優しい表情をしている。
「あなたの父君は、騎士団での任務よりも優先したい道を見つけたのですよ。そして、人々を苦しめていた連続殺人鬼・死臭アスターを倒した。誇りなさいフェール。そしてあなたも‥‥大切なものをみつけなさい」
フェールは、黙って退出した。レイモンドはそんなフェールの態度を怒りもせず、ただ消えていったドアを静かに見つめていた。
いつになく、暗雲たれ込める表情でフェールは待っていた。
パリギルドの老人も、そんなフェールを困ったようにちらちらと見ている。
「‥‥行くのかね。行くのはいいが、そんな顔をしないどくれ」
「関係ない。‥‥ご老人、彼らを再び招集してくれ。今度は行き先がリアンコートだ。任務は調査。それだけでいい」
フェールはかつ、と靴を鳴らして踵をかえした。
あの森で見つけた、大麻。大切な証拠として、持っている。これは、一人で見つけたものではなく、他の仲間達と見つけたもの‥‥。
激しく心の中がざわめくのを押さえ、フェールは拳を握った。ともかくも、あのリアンコートの領主の悪事を暴く‥‥それが与えられた任務だ。
リアンコートに行って、そのしっぽを掴む‥‥そして戻ってくれば、この苦しみの全てが解放される‥‥そんな風に感じていた。
●リプレイ本文
先日会った時はまだ中毒症状の抜けなかったリリィも、もうすっかり回復していた。マリー・アマリリス(ea4526)はリリィの様子を伺い、ほっとした様子で振り返った。
「これなら、もう大丈夫ですね。大麻の影響ももうほとんどありません。‥‥油断は禁物ですけれど」
「姉ちゃん、良かったなぁ。‥‥まあ、もうしばらく無理せんとこの教会にお世話になっとき」
元気になった彼女を見て、嬉しそうに遊士璃陰(ea4813)が言った。リリィも微笑を浮かべて、マリーや遊士を見返す。
「はい。‥‥本当にお世話になりました」
「。‥‥それでリリィさん、今日来たのは他でもありません‥‥あのリアンコートのお屋敷であなたが見た事を、話して頂きたいのです」
リリィの顔色を見ながら、エルリック・キスリング(ea2037)が聞いた。リリィは少し眉を寄せ、ぎゅっと毛布を握りしめる。キスリングが黙って返答を待っていると、しばらくしてリリィが口を開いた。
「‥‥奥様の‥‥」
リリィはふと顔をあげてキスリングを見つめた。
「奥様のお気に入りのお香があるんです。いつも奥様がお一人の時に使われるお香なんですけど、誰もお香は嗅いだ事が無いばかりか、それが入った小箱すら触らせて頂けません。とても高価な物だと聞きました」
しかし、ある日リリィはたまたま別の用事があった引き出しをあけた時、その箱を目にした。あるのは知っていたが、その時は部屋に誰も居らず、興味にかられてリリィは箱を手に取った。
「すると蓋の裏に、奇妙な紋章が書いてあって‥‥それを見ていると、奥様がお部屋に戻って来られて、箱を見ていた事を知られてしまったんです。それから、深夜までお部屋に監禁され、縛られて‥‥気が付いたあの森に居ました」
「奇妙な紋章‥‥とはどんなものでした?」
「えっと‥‥翼が生えた獅子の紋章でした。側に、“フゥの樹”という文字が」
キスリングはつ、とあごに指をあてて考え込んだ。そんな紋章は、見た事が無い。少なくとも、キスリングの記憶の中には。もっと紋章知識に詳しい者が居れば、分かるのだろうか。そもそも、フゥの樹とは何なのか‥‥。
「それ以外に、何かお気づきになった事はありましたか?」
マリーがリリィに聞くと、リリィはしばらくまた考え込み、そういえば‥‥と話し始めた。
「私がお部屋に監禁されていた時、奥様と話していた男が居ました。‥‥それが、どこから入ってきたのか、いつのまにか奥様の側に立っていたのです。神父の格好をしていました」
リリィが見たのは、それが全てだった。
遊士は話しを一通り頭の中でまとめると、二人に一端ここを離れる事を告げた。
「ベルシードが調べとった情報も気になるし、わいはクランツ商会の動きをちょいと見張る事にするさかい、あとは頼んだで〜」
「あ、はい。お気を付けください。もし何も分からなかったら‥‥おびき出すという方法もありますから」
マリーがそう言うと、遊士はちょいと手を挙げてでていった。キスリングは遊士が居なくなると、マリーと向き合って眉を寄せた。
「闇商人をおびき出すのは、危険です。‥‥マリーさん、もしそんな事をお考えなのであれば‥‥一人でしないように。いいですか?」
「ご心配ありがとうございます」
ぺこり、とマリーは一礼した。
ドアの外には、シャンティイの騎士団の者が2人、立っていた。閉めた内側には腕組みをしてロングソードを抱え、エグゼ・クエーサー(ea7191)が立っている。エグゼはラシュディア・バルトン(ea4107)を待っているだけなので、ラシュディア、そしてグリュンヒルダ・ウィンダム(ea3677)の作業には関わるつもりが無い。
ヒルダは部屋に繋がれた一人の男の前に立つと、静かに見下ろした。
「‥‥他の方にお聞きしたところ、あなたが仲間を率いていたと伺いましたが、それに違いはありませんか?」
「さあね」
しらん顔で答えた男に、ヒルダは変化なく言葉を続ける。
「だんまりを続けるのは、得策ではありませんね」
男はただ、俯いて黙っている。するとラシュディアが、彼の顔を覗き込んだ。
「なあ、聞きたい事に答えてくれれば、その対価として色々優遇してくれるそうだ。なあ、ヒルダ?」
ラシュディアがヒルダを見返すと、ヒルダも頷いた。ヒルダは事前にレイモンド卿に面会しており、それについて了解を得ていた。
「レイモンド卿は、麻薬取引よりもっと先の情報を知りたがっています。それを答えてくれれば‥‥あなた達の身の振りも変わってくるそうですよ。答えていただけないのであれば、今のこの話しを聞いたあなた達を黙って放っておく訳はありません」
「それは脅してんのか」
ヒルダはにこりと笑った。深くため息をつき、男がヒルダを見上げた。
「しゃあねぇな。‥‥何だ、聞きたい事は」
「闇市についてです。あなた達の商品との取引は、いつどうやって行われているのですか」
「そんなん話したら、俺達が殺されちまう」
「では今殺されますか?」
「‥‥日時も場所もバラバラだ。日時と場所は、仲間内しかしらねぇ。だから次の場所は俺も知らない。いつもはリアンコートのはずれの‥‥幾つかある酒場のどこかでやっている」
店、とはクランツ商会の倉庫の事であろう。エグゼはそこまで聞いて、体を起こした。
「それじゃあ、一端俺たちはそこに向かってみないか? ここはヒルダに任せておいていいだろう」
「‥‥はい、お任せてください」
ヒルダが微笑を浮かべる。ラシュディアは男はヒルダを交互に見ると、こくりと頷いた。
遊士、そしてエグゼ達はフェールに一通り話しを伝え、情報を交換しあうと再び街に紛れていった。エグゼは自分の方が年下なのに、弟のようにフェールを心配していたし、遊士も気に掛けていた。
そんな二人を元気に送り出したのは、ベルシード・ハティスコール(ea2193)だった。いつものように元気に手を振って送ると、フェールの腕を取った。
「さ、それじゃあ僕達は聞き込みに行こうよ」
「‥‥あ、ああ」
フェールはベルシードのペースに、すっかり巻き込まれっぱなしだ。とりあえず聞き込みをするというベルシードにあわせて普段着に着替えると、ベルシードとともにリアンコートの領主屋敷にまでやってきた。
ベルシードは真剣な表情で、フェールを見上げる。
「いい、フェール。僕達はワイン商なの。ワインの売り込みにやって来たんだからね」
「‥‥俺はワインなんて持っていない」
「また持ってきます、とか言えばいいんだって」
「しかし、それは嘘じゃないのか」
「もう、それでいいの」
無言でベルシードを見つめるフェールを、ちょっと起こったようにしてベルシードは見返した。
「‥‥そういえば聞いたよ、フェール。言っとおくけど、僕がよく喋るんじゃなくて、君が喋らないだけなんだからね。自分の判断基準が世間の基準だと思ったら、大間違いだよ」
「‥‥そうかもしれないな」
珍しく言い返さずに了承したフェールに、ベルシードは嬉しそうに笑顔をうかべた。
「そうよ。‥‥だからさ、いい? 今回は僕に合わせてくれればいいの」
「ワインなら‥‥」
「うん?」
「‥‥ワインなら、シャンティイが産地だ。レイモンド様がお好きだから」
しばらく黙ってフェールを見ていたが、ベルシードはフェールの肩をたたいた。
「じゃ、ワインの解説は頼んだから」
こくりとフェールが頷いた。
二人が去った後も、ヒルダは引き続き彼らに話しを聞き出していた。リリィの話しを伝え聞いたヒルダは、それについて彼らに問いかけてみた。
「‥‥リアンコートの領主達が、大麻を使っているそうですね」
「儀式に使うって聞いたぜ。何の儀式かはしらねぇが」
「儀式‥‥それは、神父も関係しているのですか」
「ああ、神父の格好をした奴は何度か見た。若い男だったな」
確かに、彼の話す神父の姿はリリィが言っていた神父の姿と一致した。ヒルダはすう、と視線をはずす。
「神父‥‥それは“フゥの樹”という文字と関係するのでしょうか」
「フゥの樹?」
「何か知っているのですか?」
くるりとヒルダが振り返ると、男が頷いた。
「詳しい話は知らないが、そういう組織の名前を何回か聞いたな。‥‥悪魔崇拝団体だって聞いた事があるぜ。ヤバいんじゃないのか?」
フゥの樹‥‥そして、翼ある獅子の紋章。
それが、今回の件と関係しているのだろうか。
フェールの前を元気よく駆けてくるベルシードに、エルフェニア・ヴァーンライト(ea3147)は静かで冷静な視線を返した。ここ数日キスリングとエルフェニアが倉庫を見張っている場所は、倉庫から少し離れた古い家だ。キスリングが周囲を調べた結果、この家は最近使われていない事を知り、二人で見張りの為に使わせてもらっていた。
「屋敷の方は、どうでしたか?」
「うん‥‥まずあの屋敷なんだけど、どうやら闇商人達は庭にある地下道から出入りしているようだね。多分、地下に秘密の部屋か何かあるんじゃないかな。入っていった後で屋敷に光が灯った様子もないし、屋敷の中で取り引きしているとは思えないもん」
ベルシードが答えた。
「それらしき連中を、こちらでも目撃しました」
見張っていたエルフェニアとキスリングは、何度か彼らの姿を見ていた。
「ただ‥‥倉庫にリリィさんが言っていた神父は、確認出来ませんでした」
エルフェニアもキスリングも、二人ともその神父らしき者は見かけていない。また、ベルシードとフェールも神父の姿は目撃していなかった。
「一体‥‥どこから出入りしているのかな」
「今、闇商人の追跡と市場の確認は他の方が行っています。私はここで今しばらく見張りをしますが、ベルシードさんはいかがしますか?」
キスリングが聞くと、ベルシードは再び屋敷の見張りに戻ると答えた。フェールは、窓から倉庫を見ている。と、その背後にエルフェニアが立った。
フェールが振り返る。
「‥‥フェールさん。あなたのお父上の話、ロイさんから聞きました」
フェールは少し驚いたようにエルフェニアを見返す。エルフェニアは、以前アスターの霊を倒す為の依頼を、ロイから受けていた。マリーや遊士は、その時の仲間である。
「お前もロイと同じか」
「‥‥あなたのお父上は、とても立派な方だと思います。何の罪の無い人々を殺め、何とも思っていなかった‥‥いや、それを使命だとすら思っていた。アスターとはそういう男でした。あなたのお父上は、命をかけてそれに立ち向かい、民を脅威から守ったのです」
フェールは、何も答えずに視線をそらしたままである。エルフェニアは言葉を続けた。
「‥‥あなたは私に似ている。私の父も騎士でした」
つい、とフェールが振り返った。
「父は戦いから幼かった私や母を守り、同じようにして民の為に命をかけて‥‥死にました。ですが、私は父を誇りに思います」
顔を上げたエルフェニアは、毅然としていた。その瞳の迷いも怒りもない。
「父は、最期まで騎士であり続けました。フェールさん、貴方も御父上を愛されている。その剣が何よりの証ではないのですか?」
フェールの腰には、今でも狼の紋章の剣が下がっている。
息をきらせながら走り続ける男の姿が、遠ざかっていく。男はちらりと後ろに視線を向け、彼らが追いついて来ないのを確認すると、横道に入った。
男が小さく舌打ちして顔を上げると、さっきまで尾行していた金髪の青年が立っていた。
「もう追いかけっこは終わりかいな」
逃げようとした男の腕を、遊士が掴む。ちらと視線を後ろに向けると、ようやくラシュディアとエグゼが追いついてきた。エグゼは苦しそうに息をはきながら、ラシュディアに声をあげた。
「なぁ、確保出来ないじゃん、気付かれて逃げられちゃったないか」
「何だよ、お前こそ忍び足とか出来ないわけ?」
「出来ないよ、お互い様じゃないか」
言い返すエグゼとラシュディアの間に、遊士が割って入った。ラシュディアの作戦通り、闇取引の商人達を尾行させるのには成功したのだが、いざ捕まえようという段になって逃げられてしまった。
が、同じように聞き込みをしていた遊士に目標がシフトして尾行しているのに遭遇し、三人でようやく捕まえる事に成功した。主に遊士のおかげであるが。
「まぁ‥‥気付かれそうな聞き込みしたわいが悪かったけど、隠密行動は得意や。対して、エグゼ達は作戦はともかく隠密行動は得意やなかった。‥‥という事はやな」
「うん、協力すれば良かったね」
エグゼがははっと笑いながら答えた。すう、と背筋を伸ばし、さて、と男に向き直る。
「じゃ、色々と聞かせてもらおうか。‥‥大丈夫、こういう事は彼が得意だから」
エグゼがラシュディアを見返す。ぶちぶち言いつつ、ラシュディアは男の前に立った。
「俺達、別に闇取引撲滅とか、麻薬反対運動をしている訳じゃないから」
横で麻薬反対をエグゼが訴えていたが、とりあえず無視をする。
「ある人について聞きたいだけだ。答えてくれたら、情報料を渡すよ」
男は静かにラシュディアとエグゼを見上げた。
見張りから戻ってきたキスリングとエルフェニアが揃うと、これで九人全員の帰還が確認出来た。九人はリアンコートの宿に集結し、それぞれの調査結果をまとめた。
「わい、ゲルマン語が得意やないさかい、聞き込みはうまい事いかんかった。で、結局エグゼとラシュディアとで尾行して来た兄ちゃんを捕まえて、色々聞いたってわけや」
隠密行動の得意な遊士であれば、尾行して来た男を捕まえるのは簡単だ。彼らから聞いた話、そして皆が聞き込みをして分かった所によると、クランツ商会には何人か取引をしているメインの個人商人が居る事が分かった。
「締め上げて聞いた所によると、彼らは倉庫で取引をしているそうだね」
エグゼが言うと、見張りをしていたエルフェニアが頷いた。捕まえた彼らの一味があの森で大麻を取り、あの倉庫で商人達に売りさばく。そして商人達が闇市などで取引をする。その売上金は、リアンコートの領主に回っていた。
ただ、ここで出てきたのが謎の組織の名前だ。
「フゥの樹‥‥」
マリーがすうと表情を曇らせて呟いた。視線を、遊士やエルフェニアに向ける。
あの‥‥あの一件。
「死臭アスターの一件で‥‥彼を調べていた時、監獄で働いていた時のアスターに接触した男がいたらしいのです。それが神父の姿をしていて‥‥」
「何だって?」
フェールが顔色を変えて、マリーに詰め寄った。
「その神父は、アスターの一件に関わっている男だというのか」
「ま、まだ分かりません。でも‥‥」
何故だかとても気になった。姿の見せない、謎の神父‥‥彼の目的は一体‥‥。
(担当:立川司郎)