使徒の音色2〜死徒殲滅

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 63 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月22日〜02月28日

リプレイ公開日:2005年03月02日

●オープニング

 少女は、まだ少し暗い瞳をしていた。安全な城内につれてこられても、コール・マッシュの祖母マリアからティーカップを受け取っても、口数は多くなく暖炉の前で椅子の背に体を埋めるようにしていた。
 死者の群れがひしめく教会でただ一人生き残った少女‥‥ブルーメは、マリアの問いかけに顔をふいと上げた。
「‥‥さあ、少し落ち着きなさいな。今のところ、教会には変化は無いようよ。死者の群れは今のところ、シャンティイからレイモンド卿の騎士団“メテオール”から人を派遣してもらって、監視しているわ」
「ありがとう‥‥ございます」
「いいの、だから落ち着いて」
 にこりと笑うと、マリアはそっとブルーメの肩に手をやった。

 ぱたんとドアを閉じると、廊下の端に青年の姿がうつった。窓に背をあずけ、マリアが出てくるのを待っていたのか、彼女が気がつくとこちらに向かってきた。
「コール、あの子も大分落ち着いたわ。‥‥どう、レイモンド様やデジェルから連絡はあった?」
「‥‥いいえ、父上はレイモンド様の城に詰めっぱなしだ。ここ最近ずっとそうですから‥‥何かあったのでなければいいけど。しかし父上が不在の間の代理は僕‥‥父の返答が無いという事は、教会も僕の思うようにしていいのだと思うけど‥‥どうでしょう、婆さま」
「私に聞く事は無いわ、あなたはあなたの思うようになさいコール」
 祖母の言葉を聞き、コールは小さく頷いた。
 何故、あの教会にモンスターが現れたのか。
 あの男は何者なのか。
「ともかく‥‥謎を解く為にも、あの教会にいるモンスターを殲滅しなければならない」
「そういえばコール‥‥あの子、鐘突堂を守ってくれ‥‥といっていたわ」
「鐘突堂?」
 教会の脇にある、小さな鐘突堂。螺旋階段の上に、彼女が付いていた鐘がある。その鐘の音色は、遠くの村まで響き渡ったという。マリアに語った、ブルーメ‥‥。
「あの鐘の事を‥‥何故かとっても気にしていたのよ。大切なものだから、何とか確保して欲しいって。それが無理なら壊して欲しいと言っていたわ」
「壊して欲しい‥‥か。鐘を壊すのは簡単では無いけど‥‥出るならそうして上げよう。でも‥‥あの鐘に何があるんだろう‥‥今回は厳しい戦いになりそうだな」
「気を付けて、コール」
 祖母は珍しく、心配そうにそう言った。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6128 五十嵐 ふう(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

 のろのろとした動作で蠢く死体達は、それ自体素早い動きではないが、数は決して少なくはなかった。聞いていた通り‥‥。
「ざっと三十体‥‥って所ね。さて、どうする?」
 さらり、と銀色の髪をかきあげ、マリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)は振り返った。この中でコールとマリを除けば、みな剣を使う事に自信がある者ばかりである。
 うち、治癒の術を使える神聖騎士がシャルロッテ・フォン・クルス(ea4136)とメディクス・ディエクエス(ea4820)の二人。
「わたくしとメディクスさんは、教会の門周辺に居る事にしますわ。回復の術が使えますから、いつでも頼ってくださいませ」
「そうだな、シャルロッテとメディクスは、そうしてもらった方がいいかもしれない。僕も、シャルロッテ達の近くに居るよ」
 コールは、バーニングソードでフォローをするつもりのようだ。コールがそうするなら、マリも彼らと行動に共にするしかない。
「あたしも、戦う術がほとんど無いから‥‥コールと一緒におとなしくしているしかないわね」
 マリは肩をすくめて言った。
 割り振りは、レーヴェ・ツァーン(ea1807)とレイ・ファラン(ea5225)、アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)が一組、教会周辺にメディクスとシャルロッテ、コール、マリ。そしてやや離れてレオンスート・ヴィルジナ(ea2206)と五十嵐ふう(ea6128)が墓地に向かう事になった。
「リョーカ、あたしのハンマーの前に出てくんなよ? 巻き添えになるぜ」
「あら、五十嵐こそ俺にズゥンビの死肉をまき散らしたりしないでよね」
 つんとした口調で言うと、リョーカは墓地に視線を向けた。
 風が‥‥。
 風が死臭を運んでくる。

 鋭いレーヴェの日本刀が、風を斬る。ズゥンビの動きを見極めながら、レーヴェは彼らの腕や足を切り裂いていく。狭い門を利用し、レーヴェが立ちふさがってズゥンビに斬りつけていく。
 やや横では、レイが柵越しにスピアを振っている。柵越しであれば、ズゥンビの攻撃を受けにくい。
「柵を越える事すら思い付かないのか‥‥愚かな死者が‥‥」
 レイは舌打ちすると、スピアで目の前に一体を切り裂いた。横合いから身を乗り出してレイを掴もうとするズゥンビの腕をスピアの柄で払い、そのまま回転させて切り裂く。レーヴェの居る門から、レイと反対側の柵にはアルジャスラードが陣取り、群がるズゥンビに立て続けに拳をたたきつけた。
 連打をたたきつけた後、甲でズゥンビの頭部を叩くように払う。立て続けに、左側のズゥンビの肩を突いてもぎ取った。
 アルジャスラードの腕は、死肉にまみれて腐臭を放っている。だが、それに構っている暇は無かった。門に居るレーヴェは、大振りに刀を振りかぶり、次々にズゥンビに斬りかかっている。
 レーヴェの動きに釣られて、門周辺にいたズゥンビがよろりと足をそちらに向けた。
「‥‥リョーカ、行け!」
「頼んだわよ」
 レーヴェの声を受け、リョーカとふうが駆けだした。立ちふさがるズゥンビを、リョーカが刀を振って散らす。ちら、とアルジャスラードがレイに視線を向けた。
「レイ、俺は井戸の方に回る。お主はここを頼む」
「じゃあ、俺は教会を墓地の方に回り込む。レーヴェ、コール達のお守りは頼んだぞ」
 レイの返事を聞くと、アルジャスラードは突っ込んだ。
 コールの魔法支援も、長い時間は保たない。おまけに、数が多すぎてズゥンビの攻撃を全て避けきれなかった。一体を相手にしている間に、もう一体‥‥。
 墓地に行ったリョーカ達は無事で居るだろうか‥‥。アルジャスラードがそう考えていると、いつの間にか背後にメディクスが立っていた。
「コール達はどうした」
「あっちはレーヴェが、ね」
 メディクスの手がアルジャスラードの肩を掴み、治癒の術の詠唱をする。じきに傷がやや癒され、腕に力が戻った。礼は言わない。言う間もなく、アルジャスラードは拳をズゥンビにたたきつけていた。
「‥‥きりがない、アルジャスラード。レーヴェの言うように、とにかく動きを止めていけ」
「そうするしかない‥‥か」
 アルジャスラードはよろよろとこちらに向かって来るズゥンビの足を蹴りつけると、その足を吹き飛ばした。

 教会の壁の向こうで、何かが戦う気配がある。柵の向こうにいるズゥンビの意識が向こうに向いているという事は、すぐそこに誰かが来ているのであろう。
 リョーカはなるべくふうから離れないようにして、ふうのフォローをしつつ刀を使っていた。しかし、ふうのハンマーは、死肉であるズゥンビを崩すのには適しているが、その反面‥‥。
 眉を寄せて、リョーカが声をあげる。
「五十嵐、あんたもっと綺麗な戦い方が出来ないの? ‥‥ただでさえ、こんなセコイ戦い方させられてるっていうのに‥‥」
「そいつはお互い様だ。‥‥こいつら、臭いったらありゃしねえ‥‥おらぁ、退けっ!」
 ふうは唇の端に笑みを浮かべつつ、ハンマーでズゥンビの体を叩いた。ふうのハンマーと、彼女の隙を補うように空を切り裂くリョーカに、傷をつけられる者は居ない。
 とっ、とふうはハンマーを肩に担ぎ上げて一息ついた。
「悪いねえ、あんたの出番は無かったよ」
 ちら、とふうは、柵の向こうに居るアルジャスードとメディクスに声をかけた。すう、とリョーカが鐘突堂へと視線を向ける。教会周辺は、大分片づいたようだ。門のあたりに、レーヴェとシャルロッテ、レイの姿が見える。おそらく、コール達もその近くに居るのだろう。
「ねえ、一端合流しましょう。鐘突堂の事も頼まれていたじゃない?」
「教会の中にも、まだズゥンビが残っているはずだ」
 リョーカが言うと、アルジャスラードが答えた。

 開かれた鐘突堂の門の向こうに、光が見えた。ちらりと振り返り、コールがマリに声をかける。
「‥‥急ごう」
 こくりとマリはうなずき、足を速めた。彼女の側には、刀を手に構えるリョーカの姿がある。鐘突堂の中とはいえ、ズゥンビが居ないとは限らない。現に先日来た時は、ズゥンビがそこにまで迫っていた。
 ふ、とリョーカの刀が動く。バランスを失った転がったズゥンビに、上からふうのハンマーがたたきつけられる。
「ほら、さっさと先に進みな」
 ふうに急かされ、マリが階段を上がった。ドアを開けて鐘突堂の上に上がると、そこから下がよく見渡せた。教会周辺のズゥンビはもうほとんど駆逐され、教会の門にメディクスがホーリーライトを持って立っているのが見える。
 ちらりと眼下を見下ろしながら、ふうが呟いた。
「それにしても、大切なものなんだろうに‥‥壊せってのはどういう事よ」
「そうね‥‥何か秘密が居るのかもしれないわ」
 マリは鐘の周囲に視線を走らせる。表から見るかぎりには、普通の鐘だ。続けて、鐘の下に潜って鐘の内側を見てみる。
「確かに‥‥それもそうなんだけど、僕はもう少し違う事が気になってた」
「何、気になっていた事って。お嫁さんになってくれるかどうか?」
 リョーカが冗談交じりに言うと、コールが眉を寄せた。
「ち、違うよ! ‥‥こんなズゥンビだらけの中、よく一人だけこの鐘突堂にたどり着けたな‥‥って」
「‥‥それもそうだな」
 ふうが顔をあげる。たしかに、自分たちでさえ協力しなければあっという間にズゥンビに囲まれてしまう、このモンスターパークに、彼女は一人で立てこもっていたというのか‥‥。
 するとその時、マリが声をあげた。
「ねえ、ちょっとこれ見てくれない?」
 鐘の中を見ていたマリが、コールに声をかける。コールが中を覗いてマリの指す所を見ると、そこに何か文字が書いてあった。
“第三の使徒‥‥その聖なる血の音色”
「‥‥使徒?」
 鐘の下から体を出すと、マリは鐘をじっと見つめる。そして、そっと手を鐘に伸ばした。

 強く、高い鐘の音色が教会に響き渡る。その音色が鳴り響くと、鐘突堂に周辺に蠢いていたズゥンビ達がひるんだ。そう、メディクスが手にしている聖なる光に照らされた時のように、彼らはそれから逃げるように体をくねらせる。
「‥‥何だ、あれは」
 アルジャスラードが、鐘突堂と、そしてメディクスの手元を交互に見る。メディクスにも、それは分からない。鐘が鳴り響く間‥‥その音色は死者達を追いやっていった。
「この隙に、一気に教会内の敵をたたくぞ」
 レーヴェが刀の柄を握りしめると、アルジャスラードが教会の門に手を掛けた。周囲の敵はあらかた押し、残りはこの中に居る者を残すのみ。ちら、とアルジャスラードがメディクスを見る。
「いいか?」
 ぐい、とドアを開け放つと、メディクスは手に持った聖なる光をかざした。光に照らされ、教会の内部が明るく輝く。十体ばかり居るズゥンビ達の動きがゆらりと止まった。
 中に居るズゥンビは皆、遺体の損傷が少ない、真新しいものがほとんどだ。メディクスの光に後押しされ、レーヴェとアルジャスラードが突っ込んだ。
 鎧を着た騎士らしき死者に、神官服の者。アルジャスラードは鎧に構わず拳を叩き込む。対してレーヴェは、腕や足を狙って動きを止めていく。もとより、教会内は椅子や祭壇が邪魔をしていて、取り囲まれにくくなっている。通路を利用して、一体ずつレイとアルジャスラード、レーヴェが倒していった。
「‥‥終わったか?」
 ふい、とホーリーライトの消えた手のひらを見つめつつ、メディクスが聞いた。鐘突堂の上から、マリがこちらを見下ろしている。軽く手を振ると、マリは奥へと引っ込んでしまった。
「聖なる血の音色‥‥ね。なるほど、こんな謎があったって訳」
 マリが、ズゥンビ達を見下ろしながら呟いた。この鐘には、ホーリーライトのような効果が隠されていた‥‥この鐘をうち鳴らす時、その効果が発揮される。
 しかしそれにしても‥‥こんな大切なものを、何故あの子は壊せなどと言ったのだろうか。
 マリが振り返ると、コールも同じように考え込んでいた。

 一体一体から死者の最後の言葉を聞いているシャルロッテの脇に立ち、レイはその動きを止めた死者の群れを見まわしていた。一見すると、死者の躯がまき散らされた凄惨な現場‥‥。中には、いくつか騎士らしき姿もあった。
 すさまじい臭気が鼻をついている。
「これだけの騎士やクレリックが揃っていて、全て皆殺し‥‥ズゥンビの仲間入りとはな。一体どこの勇者だ、敵は」
「半分以上はあの墓地に眠っていた遺体だろう」
 遺体を見ながら、レーヴェが答えた。
「こんな所に建った教会だ、騎士やクレリックとはいえ、そう数は多くあるまい」
「そうは言っても、相手はとても単なる旅の神父だとは思えないがな」
 レイの視線の先に居たシャルロッテが、すうと背筋を伸ばして立ち上がった。厳しい視線で、遺体を見下ろしている。シャルロッテはレーヴェとレイを見やると、口を開いた。
「‥‥皆同じです。神父‥‥そして‥‥悪魔。彼らは最後にそう強く感じていますわ」
「悪魔‥‥ね」
 レイは、教会の奥に飾られた十字架のレリーフを見上げた。

(担当:立川司郎)