使徒の音色3〜聖者語り

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 64 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月14日〜03月20日

リプレイ公開日:2005年03月21日

●オープニング

 何か言いたげに、コールはじっと少女を見つめていた。テーブルに肩肘をついているコールの視線の先で、少女‥‥ブルーメは、窓辺のソファで祖母のマリアと談笑している。あの死者の群れの中に取り残され、救出されて日も浅いとは思えなかった。
 祖母マリアは、誰にでも警戒心を解かせる、不思議な雰囲気を持っている。しかし、彼女がこうして落ち着いてマリアの差し出すティーカップを受け取り、笑いかけ、話をしているところを見ると、どうしてもそれだけでは無い気がしてならなかった。
「‥‥ブルーメ、少し聞いていいかな」
 コールが話しかけると、ブルーメはシナしをやめて、顔をコールに向けた。
「何でしょうか?」
「あの教会のモンスターは一応、全て倒した。君はこれから、あの教会に戻るのかい?」
 ブルーメは少し間を置き、答えた。
「はい。出来れば、あの教会に戻って再建したいと思っています。‥‥私一人しか、今は残っていませんから‥‥」
「そうか‥‥」
 コールは、こちらに視線をやっているマリアと目を合わせる。
 やがて、コールは背を伸ばして椅子から身を乗り出した。
「‥‥ブルーメ、君はどうしてあの鐘に‥‥力が宿っている事を教えてくれなかったんだ。黙ったまま、どうして壊してくれなどと言った」
「それは‥‥」
 ブルーメは、少しひるんだように表情を変えた。それから、俯いて手をぎゅっと握りしめた。
「あの教会の鐘は‥‥聖なる力が宿るのだ、と聞きました。この辺りに伝わる古い伝承にある、聖人の使徒の血を浴びたとされています。それ故か、鐘をつくと死者を退かせる力を持っています」
「伝承? ‥‥ええと‥‥ああ、そうだ。領主が長い旅と困難を経て、強力な悪魔を倒したといわれる‥‥シャンティイやこの辺りに伝わっている伝承だね。僕も詳しくは知らないけど‥‥人づてに聞いた事がある。その領主が聖人化されているんだっけ」
「はい、そうです。あの鐘の事を余りおおやけにすると、悪い人に盗まれそうになったり、悪魔が狙ったりするので、今まで黙っていました。それに、あのままにしておくより‥‥壊す方がいいんじゃないかと思って」
 何か釈然としないという様子で、コールは聞いた。

 やがてブルーメは、コールの元を発って教会へと戻っていった。
 だが‥‥。
 マリアは、コールにそうっと紅茶を差し出した。深夜遅くまで、コールは書斎に籠もっている。とはいえ、ここにある本はそれほど多くは無く、そのほとんどはこの領地に関するものばかりだ。
「ねえ、婆さま。聖者のお話、聞いた事がある?」
「‥‥私も詳しくは知らないわ。子供に聞かせる程、簡単にしか知らないの。でもお話は、今でも聖者と使徒の子等に正確に伝えられていると聞くわ」
「僕は‥‥もう一度あの教会に行ってみなければならない」
 あの少女が、何故一人生き残ったのか? 他の者は皆殺しにした謎の神父が、その少女は何故見逃したのか。何故今まで生き残っていられたのか。
 あの鐘を、何故破壊したかったのか? あの教会に何があったのか。
「もう一度、行こう。あの教会に何があるのか調べ、そしてブルーメに話を聞かなければ」
 何故だろうか。何か嫌な予感がする。
 あの少女‥‥あの教会。
 そして、謎の神父‥‥。

●今回の参加者

 ea1695 マリトゥエル・オーベルジーヌ(26歳・♀・バード・エルフ・フランク王国)
 ea1807 レーヴェ・ツァーン(30歳・♂・ファイター・エルフ・ノルマン王国)
 ea2206 レオンスート・ヴィルジナ(34歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4136 シャルロッテ・フォン・クルス(22歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea4820 メディクス・ディエクエス(30歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6128 五十嵐 ふう(28歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea9248 アルジャスラード・フォーディガール(35歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・インドゥーラ国)

●リプレイ本文

 丁度コールが到着すると同時に立ち上がったのは、メディクス・ディエクエス(ea4820)だった。メディクスは彼を待ちわびていたようで、コールを出迎えると一言二言何か言い、そのまま酒場を出ていった。
「みんな元気そうだね」
「元気なら、有り余ってるよ」
 不服そうに、五十嵐ふう(ea6128)が言い返す。
 コールは酒場の席に着くと、ふとメンバーを見まわして一人足りない事に気づいた。
「8人じゃなかったかな」
「ああ、彼女は別件の依頼の関係で間に合わなかったんだ。すまないな」
 レーヴェ・ツァーン(ea1807)の低い声が、コールに話しかけた。
「コール、あの教会に伝わる伝承‥‥もう少し詳しく聞かせてくれないだろうか」
「うん‥‥でも実は、僕もよく覚えていないんだ。旅に出た領主が、様々な困難の末に7人の使徒とともに悪魔をうち倒す、くらいしか。お婆さまは詳しく知っていると思うんだけど」
 その祖母マリアに、メディクスが話を聞きに行ったのである。何だか、話を聞きに行くというのにどこか嬉しそうだったのが気になるが。
「その話とあの教会、何か繋がりがあるのだろう。そうでなければ、あの教会が襲われた事は出来すぎている」
「そうね‥‥レーヴェの言うように、ちょっと不自然な所が多すぎるわ」
 レーヴェに続いて、レオンスート・ヴィルジナ(ea2206)が言った。
 不自然な点‥‥まずレーヴェが言った教会襲撃の謎。伝承の残る教会が悪魔らしき者とズゥンビに襲われた‥‥。
「話の腰を折ってすまないが、ズゥンビについて聞きたい」
 リョーカが話を続けようとした所に、アルジャスラード・フォーディガール(ea9248)が割り込んだ。眉を寄せ、リョーカがアルジャスラードを見返す。
「何よ」
「ズゥンビに殺された者はズゥンビになるのか?」
 リョーカはぎくりとして、身を引く。モンスターに関する知識は、リョーカは持っていない。ズゥンビの事は、モンスターの事を多少なら知っているレーヴェやレイ・ファラン(ea5225)も、よく分からない。
 最後の頼み、とアルジャスラードがコールを見た。コールは長い間死者の群れと戦っていたのだから、何か知っているかもしれない、と。
「ズゥンビ‥‥一応同じようにズゥンビと言っているが、それには二種類ある。一つは、神聖魔法で作られる動く死体。そしてもう一つは、君達も見た事があるズゥンビ。前者の方は、あくまでも魔法で動かされているだけ。後者の方は、魔法の効果時間が無く、何かに動かされているわけではない。生者を襲い、その血肉を貪る。確かに、ズゥンビに殺された者はズゥンビになる。ただ、必ずそうなる‥‥とも限らないと思うよ」
「なるほど‥‥」
「どうしてそんな事を?」
 コールが聞くと、アルジャスラードは少し考え込んだ。
「何かある‥‥という訳ではないが‥‥前の時、数が多い事を気にしていたから。鼠算式に増えていくのかと思ってな」
「その死者の群れで、一人だけ生き残ったのが、あの子なのね。それが犯人候補‥‥っていうのも、何か意味があるとしか思えないわ。‥‥とにかく、何か調べるにしても、その伝承の事がなんにも分からないんじゃ、当てが無いじゃない。‥‥あんた地元でしょ、思い出しなさいよ」
 どん、とリョーカがテーブルを叩く。リョーカに急かされ、コールが考え込む。
「そう言われてもシャンティイ周辺の伝承だとしか‥‥」
「シャンティイが舞台なのね。‥‥わかった、とにかくあの辺りで聞き込みするわ」
 椅子を蹴ってマリトゥエル・オーベルジーヌ(ea1695)が立ち上がった。

 伝承のお話?
 椅子に掛け、マリアは微笑を浮かべてメディクスを見返す。
「そうね。子供に聞かせるようなお話だけど、いいかしら」
「‥‥で、使徒って何?」
「わかったわ、最初からお話しましょうね」
 マリアは慌てず、ゆっくりと語り出した。

“若くて立派な領主様が居ました。領主様は、見目麗しい女性に恋をします。だけどその人は、実は悪魔だったの。悪魔は領主様をたぶらかして、領民を襲いました。領主様はご自分の罪を深く反省し、旅に出られました”

 旅に出た領主は一人の僧侶に出会い、彼女とともに悪魔に立ち向かう決心をする。しかし悪魔の力に僧侶の魂は奪われてしまう。神に祈った領主は、僧侶の遺骸から7人の使徒を授かった。その使徒等と領主は、戦いの末に悪魔を討ち滅ぼした。
「‥‥と、こんなお話よ。‥‥僧侶の遺骸から使徒が現れるなんて、少し非現実的でしょう? でもこれは子供に語り継がれたおとぎ話。本当の所は、誰にも分からないわ。この伝承には謎が多くて、おまけに資料も無いのよ」
「どうして何も残っていないんだ?」
「とても古いお話だから。紙はすぐに朽ちるものでしょう? 人の口から口へと語り継がれるうち、お話も簡素化されてしまっているのね」
 マリアは話を終えると、そっと皿を差し出した。マリアが焼いた菓子がのっている。メディクスは菓子に口を付けず、話に聞き入っていたのである。
 彼女の焼いたお菓子を食べながら、まるで自分がおとぎ話を聞いている子供だな、とメディクスは苦笑した。
「コールは、あのブルーメって子が怪しいって言ってた。マリアはどう思ったんだ」
「そうね‥‥あの子がどういう目的だったのかは、私には分からないわ。‥‥でも一つだけ。“怯える少女”では無かったわね」
 あの、黒馬車に乗ったロンドの襲撃に毎年毎年‥‥百年に渡って苦しめられた人々の恐怖。それは、マリア達はずっと見てきた。それから解放された領民たちの、心からの感謝と喜びも見た。
「ロンドが消えた夜‥‥私たち領民のだれ一人、眠れなかったわ。‥‥そういうものなの。現実とは、すぐに受け入れられない」
 ふふ、あのコールでさえ、私のベッドに枕を持って来たのだから。マリアは笑いながら言った。

 シャンティイ。レイモンド・カーティス子爵の治める地である。カーティス家は古くからこの土地を治める領主の家系で、現領主のレイモンド卿は若く美貌の青年だと聞く。
 城内には“メテオール”と呼ばれる騎士団が常時詰めており、騎士団はシャンティイやクレイユの子供達の憧れでもある。
「この領主‥‥一番可能性が高いのは、レイモンド卿ってわけね」
 シャンティイの教会で神父達から古い記録を拝借したマリは、それに目を通しながら呟いた。マリとリョーカが、あのクレイユの教会について調べていると聞き、彼らは最初は渋っていたがじきに資料を出してくれるようになった。
「怪しまれても仕方ないけど、あの態度のかわりよう‥‥」
 マリはあまり気にしないようだったが、リョーカは彼らの態度に首を傾げる。
 教会の扉が開く音に気づき、リョーカが顔を上げた。ちら、とマリも顔をあげると、入り口にいた神父が丁重に出迎えているのが見えた。年は三十才前後だろうか。その格好からして、どうやら騎士のようだ。
 彼はリョーカとマリの前に足を止めると、視線をこちらに向けた。
「‥‥お前達か、悪魔崇拝団体と伝承について調べているというのは」
「そうだけど、あなた‥‥」
 ちら、とリョーカが彼の持つ剣に視線を落とした。そこには、狼の紋章が‥‥。それを見たリョーカは、はっと顔色を変えた。
「あなた‥‥あなた、ウルフマンの息子ね?」
「そうか‥‥ロイの知り合いか。俺の質問に答えろ、何故悪魔崇拝団体を調べている」
 マリが、リョーカと男の顔を交互に見る。やがて、かわりに名前を名乗って話を切りだした。
「あたしはマリ、彼はリョーカよ。リアンコートで悪魔崇拝がらみの依頼があった、ってギルドで聞いたわ。あたし達、クレイユにある教会が襲われた件について調べているの。それに関連して、悪魔と思われる不審な神父が目撃されているのよ」
 マリが手早くそれについて説明すると、男は何か考えながら、しばらく二人の顔を見た。
「‥‥お前達もギルドの者か‥‥。まあいい。此度の件は、領主が悪魔崇拝にかかわっていた事にある。領主と妻を捕縛に向かったが、今一歩の所で不審な神父に領主を殺された。その領主が関わっていたのが、“フゥの樹”と呼ばれる団体だ。おそらくこれが悪魔崇拝団体で、神父も関わっている」
「教えてくれてありがとう。‥‥でもあなた、名前を名乗ってくれてもいいんじゃない? 俺達は名乗ったわよ」
「名前か‥‥俺はフェール・クラーク。フゥの樹絡みで何かあれば、メテオールに来い」
 フェールは事務的に二人にそう言うと、すう、と背を向けて歩き去った。

 マリとリョーカ、そしてメディクスから話を聞き、コールはひとまず教会に行ってブルーメと話そうと言った。マリ、そしてレーヴェも教会は調べておきたかったし、メディクス達も教会は捜索しておきたかったからである。
 教会の周辺は、まだ先月の戦いの跡が残っていた。壊された柵、傷ついたままのドア。
 メディクスが言っていた事‥‥マリアの言葉をレイは思いかえしていた。
 ブルーメの様子を見ていると、確かに恐怖というものが感じられない。ここは、悪夢に見る程おぞましい場所であるはずなのに。
「マリとリョーカが、教会の事を調べにいった」
 ちら、と視線を動かすと、後ろを時々振り返りながら、そうっとこちらに向かってくる、ふうの姿が見えた。ふうは二人の姿を見つけ、小走りに駆け寄った。
「いや〜‥‥マリもレーヴェも、あんな古い本、よく読んでいるな。あっちの部屋は駄目だな、棚はひっくり返ってるし死肉が散ってるし、汚いったらありゃしねえ」
「逃げてきたのか」
「何言ってんだ、ちゃんとお喋りしてるか、見に来てやったんじゃないか」
 来てくれ、とは言ってないが。
「大体、あたしは武器を振り回す方が性に合ってるんだよ!」
「‥‥そんなに腕力を使いたいなら、思う存分振るえ」
 振り返ると、アルジャスラードが腕を腰にやって仁王立ちしていた。
「何しろって言うんだよ」
「いいから来るんだ」
 アルジャスラードは腕をひっ掴むと、文句を言っているふうを引きずっていった。
 ‥‥話を戻そう。
「この伝承には悪魔が関わっている。だからかどうかはわからんが、シャンティイの大きな教会でも、秘されていると思われる事項がいくつかあった。一つは伝承の詳細。そして、使徒の末裔がどこに居るのか。その伝承に伝わる物品がどこにあるのか」
 それに関しては誰に聞いても、口を開かなかった。本当に知らないのか、黙っているのか、見分けはつかなかった。
「その伝承に伝わっているうちの一つが、この鐘です」
 ブルーメが答える。レイは、ちらりとブルーメを見て、言葉を続ける。
「彼女達が調べた結果、神父達が探していたんじゃないかと思われるものは、アタリがついた」
「‥‥本当ですか?」
「伝承を正確に書いたといわれる。正本。それは、何度も好事家たちが在処を調べてきた。その可能性がある場所の一つといわれていたのが、この教会だそうだ」

 マリと資料を探していたレーヴェが、疲れた様子で部屋を出てきた。メディクスがそれに気づき、アルジャスラードが声をかけた。
「何か分かったか?」
「いや‥‥日記のようなものしか無いな。マリが言うには、これだけ伝承が残って居るのに、何一つ資料が無いのはおかしいと」
 マリはそうは言ったが、レーヴェはそれも仕方ないと思う。紙はどこでも貴重品だから、書物が大量にあるとは限らない。おまけにすぐに痛んでしまうから、それほど古いものは残っていない。
「ところで、そっちは何か見つかったか」
「俺はふうと、祭壇周辺を調べている。教会で一番重要なのは、祭壇だからな」
 ブルーメとの話はリョーカやレイがやっているようだから、ふうにはこういった力仕事をさせている方がいい‥‥との判断だが。
 その時、ふうの声が耳に届いた。祭壇の前でがれきを退けていたふうが、何かをじっと見ている。何かを見つけ、その周辺のがれきを撤去していた。
「ふう、何を見つけた」
 アルジャスラードとレーヴェが駆けつけると、ふうが指を指した。祭壇のがれきを取った下から、一カ所だけ違う床が姿を現している。レーヴェがそっと手を伸ばすと、その端に指をかける。
 力を少し入れると、横に動いた。下から、漆黒の空間が徐々に広がっていく。微かに風が吹いてくるから、どこかに空気穴はあるのだろう。
「メディクス! ちょっと来てくれ」
 アルジャスラードが声をあげると、メディクスとリョーカが振り返った。

 ブルーメが、立ち上がった。アルジャスラードが、何か見つけたらしい。レイは椅子から立ち上がり、ブルーメの後ろ姿に声をかける。
「コールの使いであるマリ達が聞いても教えなかったものを、つい最近身を寄せたばかりの修道女に‥‥そんな大切な事を教えるものなのか」
 驚いて、ブルーメが振り返る。
 その時、風が吹いた。リョーカの横を抜け、アルジャスラードの前を通る。
「‥‥何か今通り抜けたぞ!」
 ふうの声、同時にアルジャスラードが叫んだ。
「後ろだ!」
 倒したはずの死者の群れが、そこにあった。真新しい、二体の死者が。
「またなの‥‥もう」
 嫌そうに刀を抜くリョーカと、メディクスが斬りかかる。
 レイの視線の先で、ブルーメは唇の端をつり上げた。風が、彼女の横を抜ける。いつの間にか、その後ろに男が立っていた。神父の服を着た男が。
「‥‥正本では無いな。確認しておけ」
「あたしは考えるのは面倒臭ぇんだ、やっぱ最後は腕力だろ!」
 ふうが、神父に向かって小太刀構え、突撃した。レイの目が見開かれる。止める間もなく、ふうの小太刀が突き刺さっていた。
 神父は、動かない。手応えはあった‥‥しかし、ふうが二度目、三度と刺しても神父の反応は無かった。まるで、小太刀が存在しないかのように。
「な‥‥なんだこいつ!」
「来い!」
 レイがふうの腕を引く。コールが門の所にいる。メディクスがホーリーライトを出す。リョーカの銀のナイフは馬に乗せたまま、レーヴェはそもそも効果のある武器が無い。
 わめくふうを引きずって教会を離れ‥‥。
 様子を見に行ったアルジャスラードとレーヴェの報告によると、あの穴は閉じられずに残っていたという。
「おそらく、あの穴に向かったんだろう。‥‥神父はどうだかしらないがな」
「ふう、何故無茶をした」
 レーヴェにきつい口調で言われ、ふうがうなだれた。
「あたしだって死ぬ気だったんじゃないよ、歯が立たないのかどうかと‥‥」
「効いてなかったな。普通の小太刀が悪魔に効くわけがないが」
 アルジャスラードが言い返すと、ふうが背筋を伸ばした。
「それが分かって、よかったじゃないか。なあ?」
 ‥‥一行は首を振ってため息をついた。

(担当:立川司郎)