食人伝承3〜死臭シシリー
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■シリーズシナリオ
担当:立川司郎
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:10月03日〜10月08日
リプレイ公開日:2005年10月12日
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●オープニング
かつて、アンジュコートの街には一人の男が居た。
レイモンド・カーティス卿はガスパーとラスカ、そしてコール・マッシュを呼び寄せると、アンジュコートのから救出された少女ネイを部屋に招き入れた。
ガスパーが部屋の中に促すと、ネイは恐縮した様子でおずおずと中に入り、一礼した。
「‥‥アンジュコートから参りました。ネイともうします」
「ご苦労でしたね。‥‥ネイ、まずあなたに言わねばならない事があります。あなたのお婆様のことです」
レイモンドが告げた非情な報告に、ネイは顔を覆った。
彼女にとって大切な家族が亡くなった事を、レイモンドは告げたのだった。皆、無言で彼女を見つめている。ガスパーはゆっくりと首を振ると、舌打ちした。
「しかしレイモンド卿、シシリーを捕まえるのは死臭アスターを捕まえる位大変ですよ。死人が出るばかりだ」
「はい。‥‥それに、気になる報告がありましたね」
レイモンドが言っているのか、先の報告にあった、シシリーの様子である。彼が獣に変化した‥‥。魔法を使うという報告はなかったはずだが、一体何が彼に起こったというのだろうか。
「ネイ、あなた達はシシリーの事をケムダーと呼んでいますね。‥‥何故あなたが、その名前を知っているんですか?」
コールはレイモンドの言葉の意味を理解していない様子だったが、ラスカは静かに目を伏せた。
「ケムダーではなく、ヴォラスと呼ぶはず‥‥」
「‥‥」
ネイは、黙っている。するとレイモンドは、小さく息をついた。
ヴォラスと呼ばれた男。伝承の使徒の一人である。一般には僧侶の女から生まれたとされる使徒であるが、それをまるまる信じて居る大人など少ない。
「あなたは何故、命を救われねばならなかったのですか。‥‥あなた方アンジュコートの人々は、いつも私たちに非協力的で‥‥困らされます」
レイモンドの、柔らかくも厳しい視線がネイに向けられる。
ネイは、ちらりとラスカを見上げた。目元を覆ったラスカはネイが見ている事に気づかなかったが、ネイが黙っている事は分かる。
「‥‥ネイ。既にレイモンド様は、薄々ご存じですよ。あなたが何を知っているのか、お話しなさい」
「‥‥分かりました」
彼女が、その命を救われねばならなかった理由。
ネイは眉を寄せて口を開いた。
「私達アンジュコートの住民は、1年ごとに神官を引き継いできました。引き継ぐ神官は、自分が神官である事を誰にも告げず、次の神官を選択してその者だけに引継を伝えます。今年の神官は、私でした」
何故そのような習慣が残ったのか、ネイには分からない。
ネイが引き継いだのは、先月行方不明になった少女からだった。彼女はどこか深刻な様子で、ネイに神官を引き継いだ。
「引継の際、引き渡しされるものがあります。‥‥カシェ写本ヴォラスと、その二次写本です。写本と伝承についての話を聞かされた後、写本を神官が、いずこかに隠すのです」
写本本書は、ネイの自宅に隠していた。これは既にシシリーに回収された可能性が高い。
しかし写本の写本が、伝わっているという。その写本の写本を、村内に隠していた。
「私は‥‥あんな事が起こっていたものですから、恐くなって友達に話してしまったんです。彼は‥‥私を守る為に命がけでメッセージをギルドに託してくれました」
「その人は、二次写本の在処も知っているのですか?」
「‥‥はい。すみません」
「どこに隠しました、すぐに人をやって回収させねばなりません」
強い口調でレイモンドが問うと、ネイは顔を上げた。
写本は‥‥教会の聖母像の台座の中に。
「‥‥では、二次写本の回収と‥‥シシリーの処理を頼んでおかなくてはなりませんね。ギルドに依頼書を出しておいて下さい」
「はい」
ガスパーはすう、と頭を下げると部屋を退出した。
ネイは、黙って頭を垂れている。
レイモンドは、微笑を浮かべてネイに話しかけた。
「‥‥聞かされた伝承の内容、話せないのですね。それは‥‥」
それは、使徒誕生に関係するからでは?
レイモンドの問いかけに、ネイははっとした顔を上げた。
●リプレイ本文
彼女は口数少なく、ベイン・ヴァル(ea1987)やジラルティーデ・ガブリエ(ea3692)に会ってもあまり表情は変えなかった。
教会内部の造りや女神像について、それから二次写本やネイの取り合いの男についても、ベインは聞いた。
「君の為に命を賭けてくれた男も、狙われているかもしれない。‥‥ケムダーというものについて、そして二次写本。教えてくれ、ネイ」
ジラが強い口調で語りかけると、ネイは顔を上げた。
「ケムダーの事、伝承の事についてはお話し出来ません。あれは、村人の中でも神官にのみ伝えられるもの‥‥村人でもないあなた方に、お話しする事は出来ないのです」
「何故だ。何故、そこまでして話せない」
「‥‥」
ちらり、とネイがレイモンドを見る。レイモンドは何か気づいているのか、そっと首を振った。
「ヴォラスはあなた方の中に恐怖を植え付けている‥‥それが為、あなた方は未だに彼をケムダーと呼んで恐れているのですね。ではどうすれば、写本について教えてもらえるのですか」
「‥‥村人たる資格はただ一つ。‥‥ただ‥‥私が出した料理を一口残らず食べて、はき出す事もなかったら、次の神官と認めましょう」
それを聞いて、レイモンドが‥‥珍しく眉を寄せた。
あからさまに、表情を曇らせる。ふ、とベインがそれを見て気づく。
「‥‥どういう事ですか」
「恐れる対象と同じ位置にまで墜ちる‥‥あなた方が何故そこまでヴォラスに思い入れるのか、理解出来ません」
レイモンドはそう言い残すと、部屋を退出した。
残されたベインとジラは顔を見合わせ、沈黙した。
此度の戦い、ただではすまない。
皆一様に、そう感じていた。アリス・コルレオーネ(ea4792)はあらかじめ、レイモンドにも村に被害が出るかもしれないと話してある。自分の魔法を使えば、あちこちを壊してしまいかねないからである。
それだけ、手加減が出来ない相手である‥‥だから、アンジュコートの一件に関わった時から、シシリーを一番に考えてきた。
とにかく殺すまで戦い、殺した後は全て焼き尽くして灰にする。
クオンの意見に反対する者は居ない。
アリスは、いざとなれば自分ごと氷付けにでもするつもりだった。
「3度目は‥‥いやだ。もう奴との戦いは、終わりにしたい」
そう呟いたエグゼの肩に、そっとアリスが手をやった。
油断なく入り口に立って周囲を見まわす荒巻源内(ea7363)。無言で意識を集中する彼の側にはアリス、そしてジラが居た。
アリスは離れる事なく、左手には石の中の蝶が握られている。
教会を見上げ、クオン・レイウイング(ea0714)が足を止める。スクロールで術を掛けて姿を消したクオンは、荷物を教会入り口に置いてふり返る。
皆には見えていないだろうが、声は聞こえるはずだ。
「‥‥準備はいいか?」
「ああ。‥‥入り口は頼む、俺は二次写本を取りに行く」
ベインが言うと、 マリー・アマリリス(ea4526)が彼に付いて教会に足を踏み入れる。
マリーは彼を見上げながら、不安そうな表情を浮かべた。
「写本はやはりありませんでしたね。‥‥しかし二次写本だけでも、奪われないようにしなければ‥‥」
そう言うと台座の方へと、向き直る。マリーの後ろに立ったエグゼ・クエーサー(ea7191)が、左手にベイルを持ったまま視線を落とす。
姚は入り口の方を気にしながらも、ベインに続いて女神像の前に立った。
「ベイン、手早く回収して戻るぞ。‥‥二手に分けたままで居るのは、まずい」
「分かっている」
ベインは、女神像に近づくと両手を掛けた。姚天羅(ea7210)がそれを手伝って女神像を動かす。
すう、とマリーはふり返って目を閉じた。周囲に‥‥悪魔の気配は無い。
そう。石の中の蝶も羽ばたかない。
悪魔の気配もしない。
影が落ちた。突然、そこに‥‥。
荒巻が即座に反応し、声をあげた。
「上だ!」
飛び降りざまに、シシリーが剣を一閃する。その一薙ぎは、アリスを一撃で昏倒させる。
何も反応しなかった。ジラの石の中の蝶は羽ばたいていないし、先ほどマリーが行ったデティクトアンデッドにも反応が無かった。
「何故だ! こいつ、悪魔じゃないのか!」
「残念だったな‥‥“まだ”ってのが正しいぜ」
ジラ、そして荒巻が剣を抜く。
駆け寄ろうとした教会内のベインやエグゼが気づくより先に、シシリーは扉を閉めて木で封をする。その額に一本の小柄が光る。乾いた音を立てて、小柄はシシリーの左手に据え付けられた小さな盾に防がれた。
中から、エグゼが叫んだ。
「ジラ、荒巻! どうなって‥‥っ!」
「窓だ!」
ベインがエグゼに声を掛ける。
一方外では、ジラが剣を抜き掛かっていた。荒巻がすぐさまアリスに駆け寄り、抱え起こす。ぐったりとしたまま、意識は無い。肩口はざっくりと抉れていた。
クオンは攻撃に転じようとするも、姿を魔法で消したままであり、発動した魔法を解除する事は出来ない。運悪く、シシリーが現れて小柄を投げる丁度前、自分にインビジブルの魔法を駆けたばかりだったのだ。
自分自身の姿も無いまま、クオンは鞄を手探りでスクロールを手にしようとする。
自分が見えないという事は、スクロールもどれが何だかよく見えないという事‥‥。舌打ちすると、クオンは腰に差しているはずのダガーの位置へ、手をやる。
荒巻がアリスを抱え上げて、後ろに引きずっていく。とにかく、ベイン達が合流するまで、何とか時間を稼がなければならない。
とはいえ、ジラもうかつに攻め込む事が出来ない。そこに向けて、シシリーの一突きが取り出される。受け流そうとしたジラの剣をかすめ、シシリーの剣が食い込む。
まだ‥‥まだ引く訳にいかない。エグゼとベインが来まで、引きつけておかなければならない‥‥。
ジラは堪えて、剣を構える。
「‥‥き、貴様‥‥アスターの被害者だったお前が‥‥なんでフゥの樹なんかに荷担するんだ」
ジラがシシリーに語りかける。しかしシシリーは唇の端をつり上げて笑ったまま、剣を右上方から振り下ろした。受け止めようとするジラの剣ごと剣が叩き込まれ、体を切り裂く。
血が体から吹き出し、ジラの体は地に転がった。
シシリーは視線を、荒巻とアリスに向ける。そこに、再びクオンのダガーがシシリーに投げられた。ダガーはシシリーの肩に突き刺さる‥‥が、シシリーは視線をダガーに向け、すう、と抜いて投げた。
からり、とダガーが転がる。血が肩口に滲んでいるが、あまり気にする様子もない。
「あの程度じゃ、かすり傷かよ‥‥くそっ‥‥効果が切れる頃には、取り返しがつかない事になっちまう」
焦った様子で、クオンは周囲を見まわした。立ち上がろうとするジラが、小さな声で何か言った。立ち止まって視線を向けるクオン。
「教会を開けろ‥‥クオン‥‥!」
「‥‥そうか。わかった、待ってろ」
クオンは教会に向けて、駆けだした。ちらり、とクオンが去った方向に、シシリーが目を向ける。立ち上がりかけたベインの胸に一撃、剣を突き刺すとシシリーはゆっくりと引き抜いた。
とんと、剣を肩に乗せる。
「さて、どうする兄ちゃん?」
「‥‥」
荒巻はアリスを寝かせると、立ち上がった。ぎゅっとダガーを握りしめる。
ふ、と荒巻の姿が消えた。地面から塵が上がったと思うと、次の瞬間荒巻はシシリーの背後に立っていた。短刀を突き立てる、荒巻。
渾身の力で突いた短刀は、確かにシシリーに食い込んだ。シシリーがすう、と目を細めた。手応えはわずかだ‥‥しかし、何度か続ければ。
そう思っていた荒巻の懐に、剣が入り込んでいた。荒巻の攻撃の隙をついて、シシリーが剣を突き出す。剣が荒巻の腹部を貫通し、鮮血で体を染める。
とっ、と足下を少しふらつかせ、シシリーは口元に伝う血を拭う。
「あんな術があるとはねぇ‥‥ジャパンのニンジャってすげぇな」
高笑いをしつつ、剣を振り下ろす。
ふり返ったシシリーの眼前に、エグゼ‥‥そしてベインと姚が現れた。息を切らせながら、マリーがおいつく。
「シシリー‥‥絶対に逃がさない、お前だけは!」
エグゼが怒号を上げ、剣を構えて斬りかかる。
シシリー相手に、小細工が利くとは思えない。今の自分の力を発揮する‥‥それだけだ!
エグゼの一降りが、シシリーの盾をかすめて肩を切り裂いた。荒巻とジラとの一戦で、いくらかダメージは受けている。
流れるような動作で、エグゼに合わせて姚が小太刀を懐から抜く。空を切り翳した小太刀は、軽くシシリーの盾に防がれる。
シシリーは、姚の方は向いていない。
いけるか‥‥。
エグゼが続けて、剣に力を込めて突き出す。シシリーは軽くそれを体を捻って避けた。
「しまっ‥‥」
以前の戦いを、思いかえしていた。シシリーのカウンターが、エグゼの胸元を突き抜ける。まだ、シシリーはこれだけの力を残していたのか。
エグゼが傷口を押さえ、一歩後ろに下がる。
す、とベインが本をかざした。
「シシリー、二次写本が欲しくは無いのか。これが欲しくて来たのだろう?」
ベインの言葉に、シシリーがくっと笑った。
「はあ? 二次写本なんかが欲しくて居るんだと思ってたのか。お笑いだぜ‥‥俺の事も‥‥何もわかっちゃいないな。言ったはずだぜ‥‥俺は、悪魔になるんだってな」
視界の端でクオンがアリスを助け起こしていた。ジラと荒巻は、既に命を絶たれているらしく、マリーは眉を寄せている。
「おい、マリー! アリスは生きているぞ!」
マリーとベインがそちらを向く。ちら、とエグゼも彼の方を向いた。
シシリーの意識が逸れるのを確認したエグゼが、剣を握りしめる。その剣が再び、シシリーを捕らえた。眉を寄せ、呻くシシリーをエグゼが見上げる。
「終わらせる‥‥シシリー!」
「‥‥くっ‥‥」
シシリーの手が伸びる。エグゼの傷口に、再びシシリーの剣が食い込む。
ベインが斬りかかろうとした、その時‥‥。
ふう、とシシリーの姿が消えた。血痕が地に飛び散る。ぐらり、とエグゼが血に倒れ込む。アリスの元に駆け寄ろうとしていたマリーが足を止めた。
「エグゼさん!」
「マリー、こっちが先だ!」
クオンに急かされ、マリーはアリスの体に触れて治癒をかける。すぐさま、引き返してエグゼの治癒にかかる。
その間、ベインがジラの荷物にあった石の中の蝶を手に取った。
だが、それは全く反応が無いまま‥‥。
彼らの脇を抜けて、一匹の小さな蠅がフラフラと森の方へと向かった事は‥‥誰も気づかず。気づくはずもなかった。
最後に、ふらつく足取りでアリスが部屋に入ると、そっとジラがドアを閉めてくれた。
彼も、いや荒巻やエグゼも元通りの体調とはいかないだろうに。
「‥‥気を遣うな、一人で歩く事も出来ぬわけではない」
アリスはそう言うと、二次写本に目を通しているレイモンドの前へと進み出た。
パタン、と本を閉じると、レイモンドは深いため息をついて視線を落とした。怪訝そうに見ているアリスを、レイモンドが見返す。
「‥‥シシリーが見捨てる訳がわかりました」
「どういう‥‥ことだ」
アリスが聞くと、レイモンドはふ、と苦笑した。
「これはね、本当の写本の内容を隠す為に作られた、偽書なんですよ」
かつて、この村に住んでいたヴォラスという青年。悪魔をうち倒す為、天使の命に従い彼は救世主たる領主の元へとはせ参じた。いずれ、使徒と呼ばれる事となる青年である。
彼は僧侶の死後、悪魔を倒す為にその力を尽くした‥‥。
二次写本では、そう書いてある。
だが、レイモンドは気に入らないようだ。
「どういう事だ。‥‥それは内容が違うのか。では、シシリーは何故この村に来た」
ベインが聞くと、レイモンドは少し厳しい口調を返した。
「そもそもシシリーを倒すように言ったのは私ですが、何故シシリーがこの村を狙っていたのか、どういう事情がこの村にあって隠していたのか、そして浚われた少女や殺された人々の関係‥‥調べなかったあなた達の責任ではありませんか? シシリーが悪魔の力を得ようとしている事が分かっていれば、虫に変化する事も、彼の現在の体の事も含めて事前に対策が取れたと思いますが」
返す言葉もないベインやエグゼ達。黙ったままの彼らの様子を見て、レイモンドは写本をマリーに渡した。
「読んでみるといいでしょう」
「はい」
マリーは受け取ると、本に目を通しだした。ジラと姚が、横から流し読みしている。ラテン語を読めない他の者達は、見ているだけだ。
その間に、レイモンドがちらりとラスカを見て声をかけた。
「しかし、今回は追い返す事が出来た‥‥それだけで成果があったとも言えますか。ラスカ、何か知っているのでしょう? 今のシシリーの状態について」
声を掛けられて彼女は顔をあげ、少しだけ頷いた。
「‥‥私たちの家系は裏切り者の家系‥‥今の彼の状況ならば、心当たりはあります。恐らくシシリーは、悪魔と契約したのでしょう。悪魔と契約すると、魂を代わりに奪われますが、少しずつ悪魔の力を手に入れます。そして全ての魂を捧げた時、悪魔と化すと言われています。彼はまだ、完全なる悪魔となっていないのだと思われます」
「なるほど‥‥もしかすると、アンジュコートに向かったのも、悪魔との契約を進める為に必要だったからなのかもしれませんね」
燃えさかる家の中にシシリーが残したもの‥‥それは、壁に書かれた悪魔との血の誓約書だった。今はもう、知る者はここに居ない‥‥。
掠れる視界の中に、何かが映る。
一人の男が、自分を見下ろしていた。
黒い神官の服を身につけた‥‥男。
「‥‥ぐっ‥‥あ、悪魔ヴォラス‥‥まだ‥‥終わっちゃいねぇ」
「最後の生け贄が無いが?」
静かな声が、天から響く。
シシリーは手を差し出した。
これで終わりだ。これが最後だ。
「俺の魂を全て‥‥持っていけ。殺したいだけ殺し、犯し、奪った‥‥これ以上何が‥‥必要だって言うんだ」
すう、と嗤う影。
「さあて‥‥そこまで“闇”への道は近くはなかろう? でなくば、アスターを越える事など出来まいに」
神父の言葉を聞き、舌打ちしたシシリーはずるりと立ち上がり、暗闇へと体を引きずっていった。
(担当:立川司郎)