鋼鉄のアルカンシェル2〜銀狐、暗躍

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:7〜13lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 18 C

参加人数:8人

サポート参加人数:2人

冒険期間:09月03日〜09月09日

リプレイ公開日:2005年09月11日

●オープニング

 赤茶けた髪の奥の目が、じっと彼らを見つめていた。
 彼の周囲で息を殺している少年達は、彼の一挙一動に注意し、息を殺している。
「アルシエロ‥‥俺達を見捨てるのかよ! もう、テリトリーを守るどころじゃねえ、あんた達だってヤバイんじゃないか」
 アルシエロと呼ばれた少年は、目を閉じて息をついた。
 あの少女、銀狐。
 彼女のチームを生かしておく事が危険であるのは、自分も分かっている。だが、彼らを受け入れる事が吉と出るか凶と出るか‥‥。
 しばしの時を経て、アルシエロは口を開いた。
「分かった、メトロの残党を受け入れよう」
 その言葉を聞いて、メトロの少年達は表情をゆるめた。

 つい先日の話である。
 勢力を拡大し続ける銀狐が、動いた。
 銀狐は、メトロに攻撃を仕掛けてきたのである。元々寄せ集めばかりの銀狐は、この戦いでは一進一退で、じきに撤退していった。
 しかし、撤退した直後‥‥メトロがテリトリーの本部に戻って来るまでの間を、銀狐は突いた。
 メトロのリーダーは、部下をけが人の収容や、テリトリー内の巡回に向かわせていた。気がゆるんでいた‥‥そう、戦いは終わったと思っていたから。
 引き返した、と思っていたから。
 しかし、本部で待っていたのは‥‥銀色の髪の少女。
 少女は建物の影に隠れ、気配を隠して待っていた。やがて、放たれた一本の矢。
 確実にその矢は鋭く、メトロのリーダーを貫き、装甲の合間を縫って命を奪った。
 銀狐が再び攻撃を仕掛けてきたのは、このあとであった。
 メトロは壊滅状態。半分は銀狐の捕虜、もしくは殺され、残り半分はちりぢりになり、何人かがアルカンシェルへとたどり着いたのだった。
 こうなれば、他の小さなチームでは太刀打ちできない。
 自分達が行くとすれば、あそこしか無い。
 メトロのメンバーは、リーダーを暗殺された怒り、チームが壊滅した悔しさをはらす為の力を、アルカンシェルに求めたのである。

 アルシエロの報告を受け、一人の男が煙草の煙を吐いた。
 椅子に深く腰掛けた中年の男は、左腕が肘から切り取られていた。
「‥‥ゴーシュ、怒っているのか」
「いや、別に。メトロには、アルカンシェルでどうこうする気は無いだろうさ、まあ相手が人質を使って何かしないかぎりな」
 ゴーシュはそう答えると、煙草の火を消した。
「鉄の爪は‥‥変わった」
 ほつりとアルシエロが言うと、ゴーシュはふ、と苦笑した。
「変わっちゃいないさ。盗賊は盗賊。やる時は、女だろうが子供だろうが坊さんだろうが殺すし、奪うし、犯す。奪う時は、何もかも持ち去っちまう。悪魔がそれにくっついた所で、何も変わりゃしないさ」
 ずいぶん前に引退してしまったが、まだ自分には築きあげたこの町がある。
 少しは、鉄の爪の情報も入っていた。
 メトロや他のチームの少年達が、怪しい術と思っているモノ‥‥それは、大麻だ。
 何も知らない少年達の間で‥‥そしてこの貧民街で、静かに広まっている。
 悪魔の、誘惑。
「‥‥銀狐、放っちゃおけねえな」
 ゴーシュは呟いた。

●今回の参加者

 ea3047 フランシア・ド・フルール(33歳・♀・ビショップ・人間・ノルマン王国)
 ea3062 リア・アースグリム(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea3674 源真 霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea3770 ララ・ガルボ(31歳・♀・ナイト・シフール・ノルマン王国)
 ea3856 カルゼ・アルジス(29歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea4813 遊士 璃陰(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5796 キサラ・ブレンファード(32歳・♀・ナイト・人間・エジプト)
 ea7866 セルミィ・オーウェル(19歳・♀・バード・シフール・フランク王国)

●サポート参加者

野乃宮 美凪(eb1859)/ シータ・ラーダシュトラ(eb3389

●リプレイ本文

 空箱の上にちょこんと座り、小さな竪琴をかき鳴らす。
 うす茶色の髪と羽をゆっくりと揺らしながら、セルミィ・オーウェル(ea7866)は歌声を響かせた。リズムにあわせて、体と羽を揺らす。
 セルミィの故郷の森を歌った歌である。
 最初は追い返されたが、それでもセルミィは負けじとそっと側に寄り、歌いだす。
 そのうち、彼らもセルミィに構わなくなった。
 セルミィに敵意は感じなかったし、怒られても悲しそうな顔で懇願して来られると、追い返すのが不憫だった。
「何でこんな所に居るんだ、あんた」
 一人がセルミィに聞いた。
「えっと‥‥私、買われて来たんです。シフールとか精霊とか、一杯私と一緒に買われてきました。だけどその人、偉い人に捕まってしまって‥‥私、一人ぼっちで放り出されちゃったんです」
 この辺りの話しは、セルミィが今まで受けた依頼に関係している。とある事情から、シフールや精霊を売買している商人に、わざと捕まった事があるのである。
 以来、何かあるたびにこの話を使っていた。
「国に帰ればいいんじゃない?」
「‥‥そうしたいです‥‥。私も‥‥帰りたい」
 ぽつり、とか細い声で言った。
 故郷に一度帰りたい‥‥それは、セルミィのほんとの本音でもある。
 はっ、とセルミィは顔を上げた。つい国を思い出し、悲しい気持ちになってしまった。
「あ、でも今は全然寂しくないですよ。だって、皆様にこうして歌を聞いて頂けるんですから‥‥それに」
 話しているセルミィの視界に、誰かがやってきた。アルカンシェルのメンバーの表情が強ばる。皆一斉に立ち上がり、武器に手をやった。
 セルミィはわたわたと飛び上がり、メンバーと彼女を見た。
「あの‥‥あの」
「お前‥‥確か、この間割り込んできた奴だな」
 メンバーの一人が言った。静かに、彼女がローブのフードを降ろす。リア・アースグリム(ea3062)は、すう、と視線を動かした。
「異変があったと聞き、戻ってきました。‥‥この張りつめた空気‥‥何があったのですか?」
「あんたには関係ない」
 厳しい口調で、一人が言う。セルミィは心配そうにリアを見つめ、アルカンシェルとリアの間を飛び回った。
「あの‥‥あのですね、メトロというチームが銀狐に攻撃されて‥‥壊滅してしまったのです」
「銀狐‥‥」
 リアはそう呟くと、ふい、と背を向けた。セルミィがリアに、声をあげる。
「あ、リ‥‥いえあの‥‥待ってください、どこに行くんですか」
 リアは無言で、闇の中へと消えていった。

 フランシア・ド・フルール(ea3047)がやって来た時、既に誰かが彼らと問答を繰り返していた。
 左右から鋭い刃物を突きつけられて、なおフランシアは進んだ。そっと手でそれを退け、声を上げる彼女の側に寄る。
「何故戦いを起こすのですか! ‥‥子供同士で、大人同士のような醜い争いをする事などありません」
「‥‥これ以上口を挟むなら、切り捨てる‥‥」
 少年はそう低い声で言うと、ちらりとフランシアを見やった。フランシアの側には、青い羽根のシフールが浮いている。
 彼らの中の何人かは、フランシアを覚えている者も居た。彼女は先月、信仰を説いて回っていた‥‥彼らは興味を示さなかったが、印象強く記憶に残っている。
「あなた方は、何故遺体の埋葬を行わないのですか?」
 フランシアが少年に、聞いた。
 街のあちこちに、先日の抗争で無くなったメトロのメンバーの遺体が転がっている。銀狐のメンバーの遺体は片づけられているようだ。
「どこに埋葬するってんだ? 埋葬したきゃ、勝手にしたい奴がすればいい」
 リアは、視線をそらして目を伏せた。フランシアは、遺体を見やってララ・ガルボ(ea3770)の方へと向き直った。
「たとえ主を信じぬまま亡くなった者であれ、街頭に放置してまま朽ちていくのを見過ごす事は出来ません。ララ殿、荷車をここに連れてもらえますか?」
「はい。私は遺体を運べないから、積み込みはお願いしますね。‥‥あ、そこのあなた」
 ララが、リアを指した。
「あなたも手伝ってくれますか? ‥‥それと、見ているだけならあなた達も」
 と、銀狐のメンバーも呼びつけた。しかし、彼らは冷ややかな表情でそれを見ている。むうっとした顔で、ララは腰に手をやった。
「敵だろうと味方だろうと、同じ街に住んでたんでしょ?」
「知らないね、死んだらただの肉だろ」
「たしかに死んだ躯は、肉に過ぎません。しかし躯を弔う事は、その魂を送る作業‥‥そして我らの修行の一つなのです」
 フランシアはそう言うと、遺体の側に膝を着いた。
 既に腐臭を放ち始めている遺体を、嫌な顔一つせずに抱え上げる。その様子に、リアが足を向けた。彼女の側にかがみ込み、共に遺体に手を差し出した。

 暗闇の中、布ずれの音だけが響く。
 足音を消し、気配も消して歩く。影の後ろを静かに、追うようにして。彫刻のような彫りの深い顔つきの奥にある赤みがかった瞳は、猫のように鋭くソレを睨んでいる。
 やがて、その彼女の視線が止まった。彼女の視線の先にある気配が、足を止める。
 彼女の後ろに、いつの間にか人影が立っていた。
 一つ、二つ。
 影が、ゆっくりふり返った。
 人とエルフの双方の血を引いた、少年。
「‥‥何か用か」
「やはり‥‥一筋縄ではいかないか」
 キサラ・ブレンファード(ea5796)は、後ろに立つ少年達の動きに注意を寄せながら、口を開いた。
「メトロが壊滅したと聞いた‥‥お前も暗殺が可能なのか、試してみた」
「何が言いたい?」
 アルシエロが聞き返す。
 ‥‥傭兵を売りに来た。
 キサラが、言った。

 壊滅したメトロのテリトリーは、半分を銀狐に、半分はアルカンシェルが占拠していた。そのちょうど真ん中部分を挟んで、彼らは一触即発の状態にある。
 居場所を失ったメトロの残党は、小さなチーム達が寄り集まる外壁に近いエリアに身を寄せていた。
 ざっと数えて、12人。
 数人のメトロメンバーとともに、カルゼ・アルジス(ea3856)はようやく彼らと合流していた。あれだけ居たメトロのメンバーが、今は12人‥‥。
 皆、沈み込んだ表情を浮かべていた。
 あれから、食べるものもろくに口にしていないようだった。
 カルゼは彼らの様子を伺いながら、そっと鞄から保存食を出した。
「あの‥‥これ、さっき盗ってきたんだ。食べる?」
「お前、いいもん持ってんじゃん」
 一人がそれを奪い取る。すると、年輩の男が怒鳴った。
「おい、がっつくな! 見てるだけで苛つくぜ」
「均等に分けてやれ。‥‥持って来たのはお前なんだ、お前が分けろ。‥‥て、名前は何だったけ」
 カルゼは顔を上げると、鞄の中の保存食を分けていった。
「僕、カルだよ。ほら、お母さんが死んじゃって‥‥」
「ああ、リーダーがパンやった奴か‥‥」
 そう口にして、また皆どんよりと暗い空気に包まれた。
 ちらり、とカルゼが上目使いでメンバーを見まわす。
「あのさ‥‥さっき牧師様みたいな格好の女の人が、みんなの遺体を運んでいたよ。‥‥行ってみようよ。僕‥‥リーダーにちゃんとお礼が言いたいよ」
「‥‥そうだな」
 一人が立ち上がると、その他の少年達もふらふらと立ち上がった。

 一人は源真霧矢(ea3674)。もう一人の金色の髪をした少年は、遊士璃陰(ea4813)と名乗った。霧矢も璃陰も、ノルマン風の名前ではない。
 身のこなしも隙が無く、璃陰は軽い調子だが‥‥どこか落ち着かなかった。
「へえ、おたくがゴーシュか。元鉄の爪‥‥間違いないな?」
「‥‥お前達、何者だ。銀狐について知ってるってのは、どういう事だ」
 ゴーシュが、煙草に火をつけながら聞いた。
「俺達‥‥ああもういいな。うちら、ちょいとした理由があって‥‥ある組織を追ってたんやわ。そんで、その詳しい情報が知りたいねん」
「それと俺と、何の関係がある」
「鉄の爪が、悪魔崇拝団体‥‥フゥの樹と手を組んだっちゅうの、知ってはる?」
 ゴーシュは、黙って霧矢の顔を見ている。
 すると、璃陰が口を開いた。
「そんだけやない。銀狐、あれはフゥの樹の手先かもしれへんねん」
 がちゃり、とドアが開いて、彼の言葉を遮るように二人、入ってきた。
 後から入った少年はドアを閉じ、ゴーシュと視線をかわす。
「同じ連中だな」
 アルシエロが聞くと、キサラは霧矢と璃陰を見て頷いた。
「そうだ」
「‥‥俺ら、レイモンド卿の命令で来たんや。フゥの樹に荷担した鉄の爪と‥‥あの銀狐の情報が欲しいねん」
 璃陰はゴーシュに、以前別の依頼で銀色の髪をした少女が目撃されているという話しをした。その少女は、フゥの樹のメンバーとされる青年と行動を共にしていた。
 キサラは、璃陰の話に付け加えるように、続けた。
「それだけではない。‥‥その少女、もしかするとアサシンガールかもしれない」
「アサシンガール?」
「そう‥‥特別に育てられた、暗殺者。詳しい情報は、ギルドが封鎖しているから入手困難だが、フゥの樹とは別の組織の一味だ」
 キサラの話は、霧矢や璃陰も初耳だった。アサシンガールの噂は、少しだけ酒場などで耳にした事はあるが、知っていてもその呼称程度だ。
「アサシンガールであるなら、メトロのリーダーを暗殺する位は簡単にやってのける。‥‥私がアルシエロを尾行したのなど、子供の遊技にしかすぎない」
「連中には、ヤバい奴が多いねん。‥‥協力してくれへんか」
 璃陰が、眉を寄せて必死の様子で詰め寄った。ゴーシュがふう、と息をつく。霧矢はそっと璃陰の肩を掴んだ。
「璃陰、ちょいと落ち着きなはれ」
「‥‥分かってる。せやけど‥‥俺、大事な人‥‥助けたいんや。大麻のせいで、あの人‥‥フェール、悪魔に狂わされとる」
「大麻か。ここ最近貧民街で流通しているものだな」
 ゴーシュが聞くと、霧矢が頷いた。
「元々、霧の森で発生してたもんや。それを、フゥの樹が使て‥‥えらい勢いで広まってんやわ。璃陰が言うとんのは、レイモンド卿配下の騎士やった人‥‥な?」
 ちらりと霧矢が璃陰に視線を向けると、璃陰がこくりと頷いた。
「大麻には、鉄の爪が関わっとるて‥‥聞いた」
 無言で、アルシエロがゴーシュを見る。
 しばしの沈黙の後、ゴーシュが煙草の火を消した。
「‥‥分かった。こっちも大麻にゃ、困ってた所だ。あんた達に協力しよう」
「ほんまか?」
 ぱっと、璃陰が表情を明るく変える。
「ああ」
 ゴーシュには、気になる事があるらしかった。
 それは‥‥大麻の事。
 貧民街は、大麻を買う程の金が無い者が多い。大麻を売り買いする拠点には不向きだ。
 では、何の為に銀狐‥‥フゥの樹が手を伸ばしてきたのか。
「‥‥作る為さ、大麻を」
 ゴーシュは、どこかで銀狐が大麻を栽培している‥‥そう考えていた。
 霧矢と璃陰が顔を見合わせる。
 そういえば、つい先日霧の森が火事になったと聞いた。それにはフゥの樹が関わっており、周辺にズゥンビやインプが現れ、ギルドから人がかり出された。
 大麻の生息地であった霧の森で、フゥの樹が火事を起こした‥‥とすれば、どこか別の地、たとえば貧民街で大麻を栽培していると考えられるだろう。

 遺体は、貧民街の外‥‥リアンコートの白教会に埋葬された。
 貧民街から遺体を運び出す様は、多少人の目もあった。しかしリアとフランシアは何度も往復し、ほぼ二人(むろんララも手伝ったのだが)で運び、墓地に埋葬したのだった。
 教会の神父は二人の様子を見て、途中から彼女達を手伝って埋葬してくれた。
 終わる頃には、フランシアとリアの服には腐臭がこびりついていた。
 自分の体に鼻を近づけ、ララが悲しそうに眉を寄せる。
「水浴びしたいです。フランシアさん、ちょっと近くの川に行ってきますね」
「私はここで祈りを捧げています」
 フランシアは、墓に膝をついて目を伏せた。
 リアは立ちつくしたまま、墓標を見つめている。
 しばらくすると、ララが引き返してきた。ふ、とリアがふり返る。ララの後ろには、数人の少年が立っていた。
 フランシアがゆっくりと視線を返す。
 先頭に居るのは、カルゼだった。
「あの‥‥ここに仲間が‥‥メトロのメンバーが埋葬されたって聞いたんだけど」
 カルゼが聞くと、フランシアが立ち上がった。
「あなた方は、メトロの方ですか」
「うん」
 カルゼは墓の前に立つと、すう、と仲間をふり返った。
 何と言っていいのか、何をどうすればいいのか‥‥仲間はただ困惑の表情で呆然と立ちつくしている。
 ララが彼らの周りを飛んで、肩に手をやった。
「せっかくお別れの挨拶に来てくれたんですから、もっと元気だして下さい。あの‥‥ほら、これから頑張るぞ、とか‥‥ねえ?」
「元気なんか出ないよ」
 一人がララに、気力のない声で返す。
 カルゼは墓を数えると、リアとフランシアに聞き返した。
「ねえ、メトロのリーダーは‥‥知らないかな?」
「メトロのリーダー? ‥‥そういえば見ませんでしたね。ここに埋葬されたのは11人ほどです」
 リアが答えた。
 カルゼは、仲間をふり返って首を傾げた。
「えっと‥‥元々60人ほどで、ここに12人いて、遺体が11人で‥‥」
「アルカンシェルに十数人、収容されたと聞きました」
 リアが付け加え、カルゼは額に手をやって呻いた。
「半分‥‥足りないんだけど」
「半分も銀狐に寝返ったとは思えない。第一、あの抗争で20人以上が死んだはずだ。リーダーの遺体もない」
 リーダーの遺体はどこに行ったんだ。‥‥仲間はどうしたんだ。
 メトロの少年は、答えを求めるように呟いた。

(担当:立川司郎)