紅血の一族2〜引き寄せられる者達

■シリーズシナリオ


担当:立川司郎

対応レベル:8〜14lv

難易度:普通

成功報酬:4 G 15 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月24日〜10月29日

リプレイ公開日:2005年11月03日

●オープニング

 霧の森から北上したとされる、バンパネーラの人々‥‥。
 彼らは人里離れてひっそりと霧の森の奥に住み、霧を使ってその姿と村を隠していた。しかし、いつの間にか霧の森にフゥの樹が出入りするようになり、霧を発生させていた大麻を奪われてしまった。
 そして、大火。
 かつて村があったはずの場所に、アッシュは立っていた。ここは霧の森の最も奥に位置し、周囲を霧に囲まれている為に人が出入りしない。
 この村にたどり着く為には、霧の薄い部分を縫うようにして、霧の森を長時間歩いて抜けなければならない。村の周囲には、大麻の栽培畑があった。
 ゆっくりと、村を歩き回る。
 ふ、とアッシュが視線を上げた。
 弓を持った、一人の少女が焼け跡の家に立っている。白銀の髪と、赤い瞳。
 アッシュとよく似た、整った面立ちの彼女は厳しい表情でアッシュを睨んでいた。
「サーファ、久しぶりですね」
「‥‥兄さん‥‥何しに来たの、今更」
 低い口調で、サーファが言う。アッシュはふ、と微笑した視線を落とした。
「私はレイモンドを‥‥人を信じる事にした。しかし、村を捨てた訳ではないよ」
「私たちはヒトを信じないし、信じてはならない。‥‥掟を破ったのは、兄さんの方だわ。しかも、レイモンドに村の事を話し、あまつさえギルドの奴らにまで話したんでしょ? 違うかしら。‥‥そんなの村を捨てたも同然よ」
 するりとサーファは背を向けた。
 アッシュが彼女の名前を呼ぶ。サーファは背を向けたまま、立ち止まる。
「サーファ、皆はどこに行ったんだ。北上したというのは本当なのか‥‥そこには、巫女の血統が居るのだよ」
「巫女の血統? ‥‥そうか、我らはまだ巫女と使徒に縛られているのね‥‥馬鹿馬鹿しい話ね」
 サーファは悲しそうに目を伏せた。
 横顔が、アッシュの目に映る。すう、と視線を上げてサーファは青い目でアッシュを見返した。
「皆は、ここより更に北の森に居るわ。あんたが居ると聞いて、あの森に行っているのよ。あんたに頼るかどうするかは、会って話す気なのね」
「協力は惜しまない」
「それだけじゃないわ。北の森には、精霊達が多く住んで守っていると聞いた‥‥もしかすると、そこに住めるかもしれないと考えてるのね。だけど、それが巫女の住む村の近くだとは‥‥」
 この時‥‥。
 一人の少女が、どこかの森を歩いていた。前を飛行しているのは、シフールより一回り小さな妖精と、一人の少年。
「だから待ってなさいと言ったのに‥‥メイ」
 妖精が言うと、メイは嫌、と甲高い声で叫ぶと、つたない足取りで駆けだした。

 霧の森を出たバンパネーラの村人三十人ばかり、霧の森から北上してアッシュが住んでいる森へとたどり着いていた。アッシュの住む森の向こう端には、メイが住むティアの村がある。
「しかし、問題は離反した者達です。サーファの話では、村で大麻研究を行っていたうちの一人、カルーナがフゥの樹に荷担したそうです‥‥現在、悪魔とオーガを連れてティアの村の森に来ています。しかしあの森は精霊が多く住む森ですからね、そう簡単に入れないでしょう。現在は、うちの村の者が何人か牽制して止めているようです」
「分かりました。ひとまずあなた方は、バンパネーラを確保してください」
 確保出来なければ、死をも厭いませんよ。アッシュが小さな声で言うと、レイモンドはちょっと眉をしかめた。
「いいのですか、アッシュ」
「人とバンパネーラが不用意に接触するような事があっては、なりません。バンパネーラとバンパイアを見分けるのは、人々には非常に難しいでしょう。そのせいで、我々と友好的な村にバンパイアが紛れて出没し、村を滅ぼす‥‥こんな事件が、歴史上幾つかあった事は、あなたもご存じでしょう?」
「あの村は巫女の血統が居る村‥‥結果的にバンパネーラを受け入れるような可能性があるなら、バンパネーラの事は話さない方がいいかもしれませんね」
 バンパネーラとバンパイアの差は、生者と死者の違い‥‥アッシュはそう考えずに居られなかった。

●今回の参加者

 ea1625 イルニアス・エルトファーム(27歳・♂・ナイト・エルフ・ノルマン王国)
 ea1681 マリウス・ドゥースウィント(31歳・♂・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea1861 フォルテシモ・テスタロッサ(33歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1872 ヒスイ・レイヤード(28歳・♂・クレリック・エルフ・ロシア王国)
 ea3579 イルダーナフ・ビューコック(46歳・♂・僧侶・エルフ・イギリス王国)
 ea3674 源真 霧矢(34歳・♂・ナイト・人間・ジャパン)
 ea4813 遊士 璃陰(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

アルフィン・フォルセネル(eb2968

●リプレイ本文

 報告書に目を通す、銀色の髪の青年。しばしの間、何枚もの報告書にそうして静かに目を通していたが、彼はやがて一通り見終えて視線を上げた。
「‥‥分かりました。経験もお有りですし、約束も守って頂けそうですね」
 ああ、分かっている。
 年は四十前後程だろうか。エルフの男は、ふ、と小さく笑って答えた。
「約束しよう。口外はしない」
「ええ‥‥そうしてください。口外した場合、私達もあの人を止められはしないでしょうから」
 恐らく一番彼のことを知っているであろう、忍びの者ですら‥‥本当に殺りかねん、と言うのだから。
 分かっている。彼がそれほど慎重になるのは、村の者の事が心配だからだ。銀髪の青年が言うと、エルフの男は頭を掻きながら立ち上がった。
 人混みをかき分けながらギルドを出ると、入り口の前で五人ほど人が集まって立っていた。そのうちの一人が、彼らに気づいてふり返る。
「あ、来たわね」
「‥‥あれ、フォルテシモさんが居ませんが?」
「彼女は先にブーツで向かったわよ。ごめんなさいね、私の方が遅れちゃったから」
 肩をすくめて髪をさらりとかきあげ、ヒスイ・レイヤード(ea1872)は苦笑した。
「まあ、今回はマリウスはんも調査報告書読まなあかんかったし、そないに遅れてへんよ」
 源真霧矢(ea3674)がヒスイに言い返した。

 バンパネーラ。バンパイアと酷似した特徴を持つ種族である。しかしバンパイアと違い不死の生物ではなく、しかも僕を増やす事が出来る。
 馬車に揺られながら、イルダーナフ・ビューコック(ea3579)は彼らの話をよく聞いていた。アッシュの事や、バンパネーラという種族の事。
 イルダーナフも英国からパリに来て一年ばかり‥‥人より長く生きてきたが、バンパネーラの事は実はよく分からない。
 ほとんど‥‥いや、全くといっていい程人と接触が無い種である為、彼も“バンパイアと似た種が居る”としか分かっていない。
「アッシュさんが話すには、バンパネーラとバンパイアは非常に酷似しているそうです。まず、牙で相手の精神力や体力を奪う事‥‥そして、姿が鏡などに映らない事。目が赤くなる事など、特徴としてバンパイアと重なります」
 ゆっくりとした口調で、アリアン・アセト(ea4919)が彼に話した。アリアンも、もし彼らに会った場合にバンパイアかどうか確認するには、デティクトアンデットを使うのが確実だと考える。
「バンパネーラって、精気をもらわないと生きていけないっていうのはホントなの?」
 ヒスイがアリアンに聞いた。アリアンも詳しい事が分からないので、イルダーナフの方をちらりと見やった。
 イルダーナフは首をかしげ、眉を寄せる。
「さあな‥‥彼らの事は、俺もよくわからんからなあ」
「アッシュはんは、そないな事言うてへんかったけど‥‥。第一、誰か襲うてる所なんか見た事ないし」
 遊士璃陰(ea4813)がヒスイに答えた。
 真相がどうであれ、バンパネーラの人々はヒトを傷つけるつもりは全く無い。ヒトと仲良く生きる事は出来ないが、敵対して生きていく事も望んではない。
「出来れば、そのカルーナも‥‥あんまり傷つけたく無いわね。バンパネーラの人たちをあまり刺激したくないし」
「そうだな。‥‥もしカルーナと揉めれば、バンパネーラ達と歩み寄る事が難しくなる」
 イルニアス・エルトファーム(ea1625)は、低い声で言った。

 他の七人とは別に、一足先に出たフォルテシモ・テスタロッサ(ea1861)。彼女はブーツを使って移動時間を短縮し、ティア村まで来ていた。
 ティア村には、同時にもう一斑ギルドから配置されているはずだ。森を北側から抜けるルートを探す為、そしてバンパイアを倒す話をしておいた方がいい、というアリアンの意見もあって、フォルは村の者に会っていた。
 彼らとの話し合いはアリアンに任せるとして、フォルは森を抜ける為の案内役を紹介してもらう事にした。
 森を一番知っているのは、彼女だろう。
 村の者がそう言って連れてきてくれたのは、シフールより一回り小さな妖精だった。
 妖精はじろじろとフォルを見上げて、ああっ、と声を上げた。
「‥‥って、どこかで会ったっけ」
「ふむ。妖精に記憶力を期待する方が間違っておるのか、それともわしの個性が弱いのかのぅ‥‥」
 悲しそうにため息をつくと、フォルは腰をかがめてシェリーと目線を同じくした。
「シェリー、わし等は森を北側から泉に抜けたいのじゃ。聞いておると思うが、バンパイア退治をせねばならん」
「そうらしいわね。‥‥そうね、泉が気になるし、付いていってあげてもいいわよ。ここに居てあたしに出来る事なんて、たかが知れてるし」
 腰に手をやって胸を張ると、シェリーはちょん、と勝手にフォルの肩に座った。
 ‥‥相変わらずの態度だが、森を良く知るシェリーが付いてきてくれるというのは心強い。フォルはふふ、と笑った。

 泉を北側から近づくルートは、そもそも獣道のような細くはっきりとしない道しか無い。道なき道を進むのは、踏みならされた道を進むより遙かに労力を必要とする。
 ここは、狩猟の心得がある自分と、森林での行動に長けたイルニアスが先頭を進むのがいいだろう、というイルダーナフの意見もあって、彼ら二人が先に進む事になった。
 シェリーはイルダーナフとイルニアスの二人をじいっとしばらく眺めた後、やっぱりこっち、と呟いてイルニアスの肩に座った。
 やっぱり妖精でも年とか顔とかで選ぶのか、と言いたげなのはマリウス・ドゥースウィント(ea1681)。
 思わぬ所でシェリーキャンに会えて、さっきからじっとシェリーを見ている。可愛らしいその姿に釘付けだ。
 片やまったく興味の無いイルニアスは、森深く分け入りながらも道筋を確認していた。
「そろそろ泉に着く頃か」
「うん、そうね」
 シェリーが答えると、イルニアスはふり返って璃陰の姿を探した。
 一旦彼に様子を見てきてもらった方がいい。イルニアスが言うと、璃陰は荷物を預けて南の方角へ目を凝らした。
 目には映らないが、何かが動いている気配はする。
 足音を殺して森の奥に向かう璃陰の耳が、何かを捕らえていた。
 ヒトの声だろうか。木に姿を隠しながら近づいていく。木々の茂みで影となった森の中に、何人か人の姿がある。そっと顔を覗かせた璃陰の方へ、ぴくりと一人が反応を示した。
「あちゃ、しもた!」
 璃陰は身を転じて駆けだした。璃陰の姿に気づいた影は、夕日に伸びる影のように忍び寄ってくる。
 後ろを伺いつつ前を見ると、見えない所から様子を伺っていたイルニアスが璃陰に気づいたのが分かった。腰の剣に手をやったまま、姿を現す。
 後ろから追ってきていた影は、ぴたりと足を止めた。
 いつの間にか、六人ばかり後ろに追いついて来ている。じりじりと後退する璃陰に代わり、フォルが前に進み出た。
 フォルは毅然とした態度で、彼らを見据える。
「お主らじゃな、アッシュの同胞は」
「同胞? さあな‥‥レイモンドに下った男など、俺たちの同胞などではない」
 彼らのうちの一人が、フォルに答える。青白い顔に、透き通るような銀色の髪。目は青く澄んでいたが、どこかその奥に赤い火が見える気がした。
「フゥの樹が悪魔組織だと知っておろうに‥‥そのような未来を得る事で、光は見えるのか?」
「ヒトと生きていく事は永遠に出来ない。だったら、悪魔と共に生きる方が楽ではないか」
 男はふ、と薄く笑った。フォルの後ろで、マリウスが静かに首を振る。
「あなた方は、大麻をフゥの樹に持ち込みました‥‥それがどれだけ危険なものか、おわかりでしょうに。元々それは、森と仲間を守る為の術だったのではありませんか?」
 毒を食らわば皿まで‥‥。悪魔に下るなら、その生きる糧も命も心も、悪魔に捧げて何の問題がある?
 隠れて生きねばならない未来に、光はあるのか?
「でも‥‥アッシュはんは、隠れて生きてへんよ」
 ぽつ、と璃陰が言った。男が鋭い視線を向けてくる。すう、と彼を見返した。
「レイモンド卿に使われても居らへん。自分の意志で生きて、自分の意志で戦うてるで」
「俺たちも自分意志で戦うさ。‥‥悪魔共にな」
 男は剣をすらりと抜くと、剣先を合わせてきた。そっと目を閉じ、フォルが俯く。
「そうか‥‥もう、話を聞く余地も無いのか」
 ならば、剣をもって止めるのみ!
 フォルは剣を抜いて突き掛かった。璃陰が彼女に続いて、刀を抜く。
 やれやれ、と呟いてイルダーナフが十字架を手の中に包み込み、祝福の言葉を彼らに向けて呟いた。
 散開した七名のうち、一人が璃陰。話していた男はフォルの前に立ちはだかった。イルダーナフとアリアンを庇うようにして、左右にイルニアスとマリウス。後ろを霧矢がカバーして守る。
 フォルの前に立った男は、抜き放った剣を鮮やかな剣筋で、横から切り込んできた。
 その俊敏な動きに、剣を叩き込まれたイルニアスも目を見張った。後ろに立っていたアリアンが、すう、と眉を寄せる。
 イルニアスがちらりと後ろをふり返った。
「‥‥どうだアリアン」
「いえ。皆バンパイアではありません」
 イルニアスが剣を押し返すと、かあっ、と彼の目が赤く染まった。
 一人、二人、三人。霧矢と接している男と、マリウスがたった今剣で肩を切り裂いた男。それから、フォルを剣で叩き伏せ、地に転がした男。
 赤い目‥‥口元には、牙が覗いていた。
 後ろからイルダーナフが瞬時にフォルの傷を癒していくと、マリウスは彼女の前に立った。後ろの一人には構わず、まっすぐ剣を突きつける。かろうじて剣が肩に触れると、返す刃で後ろに居た男を貫いた。
 剣を引くと、一息ついて見下ろす。
 もう一人の男は、袈裟懸けにイルニアスの刀が切り裂いていた。
「くっ‥‥」
 男が片手に持っていたナイフを、イルニアスに向けて振る。ナイフがイルニアスの頬をかすめ、背後の木に突き刺さった。
 彼がナイフに気を取られた一瞬の間で、男は今まさに霧矢の刀を肩に食い込ませたばかりの男の肩に、その牙を突き立てた。
「お‥‥おまえ、仲間やあらへんの?!」
 驚愕の色を隠せない霧矢は、刀を引き抜いて男を見返す。
 口元についた血を拭い、ふふ‥‥と笑い声をあげた。
「何故、俺達の作戦にヒトを連れてきたと思う? ‥‥食料にする為さ」
 男の目が、深紅に染まる。
 その時、風を斬る音が男を貫いた。肩口に刺さった矢の衝撃で、ぐらりと男の体が傾く。二撃目を、後ろに飛び退いて避けると男は矢の飛んだ方角を睨み付けた。
 銀色の髪の少女が、弓に矢をつがえて構えている。
 彼女もまた、赤い目をしていた。

 ゆらゆらと揺れる水面を、イルダーナフとアリアンは無言で見つめた。視線をかわし、まずイルダーナフが水を手にすくってみる。
 臭いもなにも無い。
「何かが混入された気配は無い‥‥な」
「アンチドートを使えば、大麻の効果が薄まるかもしれません」
「いや、この泉を全部フォローすんのは、さすがに俺でも無理だ」
 イルダーナフは立ち上がると、ふり返った。
 銀色の髪の少女は、泉周辺を調査する霧矢やイルニアス、マリウスの様子を黙って見ているだけだった。
 たまりかねて、霧矢が声を掛けた。
「‥‥なあ、あんたがサーファはんやろ。アッシュはんの妹やな」
「血は繋がってるけど、それだけのひとよ」
「そないに冷たい言い方、止めなはれ」
 霧矢は、茂みの中からシェリーのものと思われるがらくたを見つけだした璃陰を見ながら、言った。
 茂みから出てきたのは、シェリーや人狼のヴェントの荷物。他には、特に何も無い。
 腰に手をやり、ヒスイがぐるりとゆっくり見まわす。
「何も無いわ‥‥絶対罠とかあると思ってたのに」
「泉や精霊などに、何か仕掛けるつもりだったのは間違いないと思うのですが」
 マリウスが言うと、ちらりとサーファが右に視線を動かした。
 彼女のやや後ろに、アッシュが立っていた。
「その泉は、精霊は住んでいませんよ。住んでいたのはシェリーだけですから」
「だったら何故、彼らはこの泉に留まっていたんだ」
「そういえば‥‥」
 疑問をぶつけるイルニアスの言葉を聞き、霧矢が口元に手をやる。
 彼が何か言っていた。フゥの樹の仲間に噛みついた時に‥‥。
「作戦て‥‥言ってたな。何か、まだする気なんか?」
「‥‥まだ気は抜けないようですね」
 アリアンは村の方を向くと、すう、と目を細めた。

 結局捕らえたのは、フゥの樹の四人に加えてバンパネーラの村の男が一人。二人は逃走したまま、見つかっていない。
 バンパネーラの身体能力は、ヒトよりも優れているのだ。
 アッシュはそう言うと、捜索を一旦打ち切った。アリアンとフォルが村に報告に向かっている間、ひとまずサーファを連れてアッシュの家へと戻ってきた。
 アッシュの家の前では、疲れ果てた様子の人々が座り込んでいた。
 どこか気まずい雰囲気が漂い、アッシュも彼らも口をきかない。が、そんな彼らの様子を見てヒスイが口を開いた。
「あのね、何か話したらどうかしら。これからどうするのか、とか」
「そうだな。協力してもらう事は出来ないのか‥‥カルーナともう一人は逃げているんだ」
 イルニアスもヒスイに続いて、彼らに言う。
 彼らは黙ってアッシュをじいっと見つめた。視線を逸らし、アッシュが首に手をやって息をつく。
 何とも言えない様子。
 霧矢はつかつかと歩み寄り、お互いのあいだに入った。
「なあ‥‥あんたらかて、穏やかに過ごしたいだけやろ。だったら、レイモンド卿に頼ったらどうや。卿は話が分かる人やで」
「レイモンドもヒトだ‥‥ヒトなど頼れない」
 サーファが答える。
「そないに言うけどな、アッシュも卿も‥‥こないな事になるまで、黙っとったんやで。そもそもバンパイアが出たいうて噂になったさかい、ギルドに依頼が出たんやから」
「うん‥‥それに、カルーナとかサーファとか‥‥大麻の研究をしとったんやろ? せやったら、大麻で苦しむ人も助けられるんちゃうの?」
 何か思い詰めたような様子で、璃陰が聞いた。ちらり、とイルニアスが彼を見返す。おおよそ、璃陰が何を言いたいか分かっていた。
 人と接して生きてはいけない。
 サーファの言い分は、皆承知している。
 だが、シャンティイに関わってきた彼らだからこそ、アッシュやレイモンドの事も、彼らよりも分かっているつもりだった。
「‥‥ともかく。カルーナを捕まえなきゃ。あの村に迷惑を掛けるわけにいかないわ」
 巫女は関係なく‥‥。
 サーファはアッシュを、青い瞳で見つめた。

(担当:立川司郎)