【将来設計】性根を叩き直す

■シリーズシナリオ


担当:龍河流

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 95 C

参加人数:6人

サポート参加人数:2人

冒険期間:12月01日〜12月08日

リプレイ公開日:2007年12月12日

●オープニング

 知る人ぞ知るハーグリー家の兄弟姉妹は、いずれもある道を究めた教師陣だ。イギリス生まれだが、あちらの高名なケンブリッジとは無関係。個人の家に住み込みか、通いで、一人二人の生徒を相手に教育を施すのがお仕事だ。たまに後見人のために、社交も行ったりする。
 そしてこの五人の依頼人は、家屋敷を手に入れたことで冒険者ギルドに依頼を出し、これまで二度ほどモンスター退治と引越しの手伝いを同じ冒険者に頼んでいるのだが、今回は少し内容が違っていた。
 こちらのほうが、より冒険者ギルドに良くある依頼だが、護衛をして欲しいと言って来たのだ。

 護衛対象はハーグリー家三女のジェーンと、その後見人の息子でエルフの三十歳、イワノフ。
 普通護衛といえば、危険な地域を通る旅をするから、誰かから狙われているからなどの理由があるものだが、今回は目的地も危険もない。
 実際には依頼人のジェーンが、後見人の息子であるはずのイワノフの尻を乗馬鞭で十回引っぱたいたのが依頼の持ち込まれる三日前で、現在も何かことあらばひっぱたく勢いだが、これをどうこうするのは仕事のうちではない。
 ただ、この季節に野営経験がエルフの長い人生の中で一度きり、もう一人は三十年の人生で零の二人がロシアのこの季節に二人だけで野宿などしては凍死間違いなしだ。そうならないように、最低限の世話をするのが、今回の護衛の仕事である。

 こんな話になったのは、父親が富裕商人のイワノフが、使用人の人間の八歳の子供が靴の手入れをするからと受け取りに来た時に、放って寄越したことに始まる。この日のイワノフはジェーンの長姉のヴィクトリアにイギリス語を習っていたが進み具合が非常にはかばかしくなく、苛々していた。それで靴も投げてしまったが、これが相手の目に当たり、一時はどうなるのかという騒ぎになったのだ。
 当然家の主人と使用人、それぞれの息子だからイワノフのほうが立場は強い。けれどもイワノフの父親は使用人に無体な真似を働いたことを非常に怒り、それ以上にしつけ係のジェーンが烈火のごとく激怒して、鞭打ち十回になったのだ。イワノフには分からないが、ジェーンは一応手加減はしている。
 ところが怒られたイワノフがジェーンに使用人のくせにと口答えしたので、『身の回りの世話も一人で出来ず、十分に働けもしないのに、偉そうな口を利ける立場か』と父親に一人で別宅に送り込まれそうだったのだ。ジェーンと一緒に三泊四日の野宿になったのは、なにかものすごい激烈なやり取りがイワノフの父親とジェーンの間であったものらしい。

「ジェーンの後見人様は、一代で財産を築かれましたので、お若い頃は大分ご苦労なさったのではないかしら。使用人にはもちろん、その身内の私共にも細かく気を配ってくださるお方ですの。ですから、イワノフ様が他人に怪我をさせても謝らなかったのにとてもお怒りで‥‥でも一人で別邸に送ってしまったら、イワノフ様の生死に関わりますから、ジェーンが付き添うことになりましたのよ。あの子もたいして苦労を知っているわけではありませんから、皆様には歯がゆいことも多々あると思いますけれど、どうぞ大きな怪我などしないようにだけ、見守ってあげてくださいませ」
 事情説明で付いてきたヴィクトリアは、今回の依頼についてそう説明していたという。

●今回の参加者

 eb0744 カグラ・シンヨウ(23歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb2782 セシェラム・マーガッヅ(34歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec0700 アルトリーゼ・アルスター(22歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ec1051 ウォルター・ガーラント(34歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 ec1983 コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(24歳・♀・クレリック・エルフ・フランク王国)
 ec3063 ジリヤ・フロロヴァ(14歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

サラサ・フローライト(ea3026)/ 以心 伝助(ea4744

●リプレイ本文

 我侭息子とその家庭教師を連れて、野宿体験合宿の補助をする。また今回も集まった六名の冒険者の大半はそういう心持ちだったが、コンスタンツェ・フォン・ヴィルケ(ec1983)は相変わらずずれていた。
「ロシアには大いなる父の峻厳なる教えが満ちていると聞き及んではおりましたが、本当でしたのね。それになんて愛に満ち溢れた教育をなさるお父様でしょう」
 驚いているイワノフの父親に、続いて他の五人も挨拶したが、一番丁寧だったのはアルトリーゼ・アルスター(ec0700)だった。ハーグリー家の変わった依頼でご一緒するのも三回目、皆、承知している。
「やっぱりお説教よりはご飯がいいもんね」
 ジリヤ・フロロヴァ(ec3063)が言う通り、最終日にご馳走してくれるはずの相手だからだ。
 だが、もしも彼らが『面白い人が集まったよな』なんてことを考えていたとしたら、ジェーンは『自覚は?』と尋ね返してくれたことだろう。
 巫女装束の白クレリックのカグラ・シンヨウ(eb0744)、毎回まるごともーもーを持参するセシェラム・マーガッヅ(eb2782)もけっこうなかなかどうして‥‥
「まずは買い物でしょうね」
 唯一、ウォルター・ガーラント(ec1051)だけはいつもの通りに冷静だ。単に冷静なだけなら、特に問題がある輩は混じっていないが、見た目の問題というのはやはりある。
 それはさておいて、問題のイワノフを連れて買い物に行かねばならない。

 買い物は、予想通りに波乱含みだった。なにしろイワノフが、皆の言うことを聞かない。父親に雇われたのだから、自分の言うことこそ聞いて当然という態度だ。
 これに多少なりと動じたのは年少のジリヤくらいで、他はコンスタンツェが懇々と際限のない説教を繰り広げようとした程度だ。ジェーンは首根っこを捕まえて、引き摺っている。
「いいか、イワノフ。私達は父上から厳しく躾けて良いと許可を貰っている。よって、君を甘やかすのは仕事ではない」
 それにぴしゃりと言い聞かせたのがセシェラムだ。家事全般得意な彼は、子供の躾にも心得があるらしい。有無を言わせぬ勢いで、イワノフの動向を見張っている。彼自身はイワノフがジェーンの手を振り切り、道に飛び出して荷馬車に轢かれたりしないようにと見守っているだけなのだが。
 そんな怖い『お父さん』に後ろを固められ、もっと怖い『お母さん』に引き摺られたイワノフが連れて行かれたのは、旅装を調えるための店だった。
「お値段、エチゴヤよりちょっと高いかな? 保存食の内容は‥‥見られないね」
 アルトリーゼが店の者に聞くと、懐に余裕がある人々が短期間の旅行や移動の際に使用する品物を揃えてあるそうだ。よって、ちょっと贅沢なものが多い。
「二人とも何にも持ってないんだから、一式揃えるつもりでね。防寒着は家にあるのでもいいかもしれど‥‥汚れるから買ったほうがいいかも」
 勿体無いなと思いつつ、カグラもこの時ばかりは積極的にイワノフに話しかけている。今イワノフが来ている上着で出かけたら、動きにくいし、夜盗に狙われかねないからだ。でも、この店は衣類の準備もない。他にも色々と足りなかった。
 よって、内容が充実している食料を買い、ランタンも一つ。もちろん全部イワノフとジェーンに背負わせる。
「さ、自分の荷物は自分で持つのです。助け合いは美徳ですが、今回ばかりは人それぞれの責任を果たすのが、私どもに求められている道なのですよ」
 コンスタンツェの応援は、どこまで有効だったかちょっと怪しい。
 エチゴヤでは、とうとうイワノフが、
「なんてこんなことしなきゃいけないんだっ」
 と逆上したが、セシェラムに一言、
「父上の命令だからだ。自業自得だろう」
 そう返されて、黙ってしまった。
 防寒服に毛糸の手袋、靴下、上着、テントは二人用で更に寝袋、ランタン用の油に火打石、逐一使い方の解説を入れながら、それぞれ二人の荷物に加えていく。テントは体力的な問題でジェーンが担当だ。
 これで一通りかと思ったところで、ジリヤがイワノフに示したのがナイフだ。
「保存食のお肉を切ったりするのに必要だからね」
「それと聖書は必ずお持ちくださいませ。どんな時でも主への祈りは欠かしてはいけませんわ」
 コンスタンツェが『寒くてもひもじくても、心から聖句を唱えていれば満たされる』と聖書を勧めたが、アルトリーゼに『それはひもじさが突き抜けたときの幻覚です!』と言い切られ、しばらく二人で『話し合い』を繰り広げていたらしい。
 この間に、イワノフは多分一番怖くないからだろう、ジリヤにナイフの選び方を聞いている。ついでに調理用具もあれば温かいものが食べられると聞いて興味はあるようだ。
 こうして、調理用具は一度荷物をまとめてから考えるにして、全部の買い物が終わった時には日も暮れようかという頃合になっていた。ものの見事に、二人とも野営道具各種の使い方を知らないので、説明に時間が掛かったからだ。この時点で出発は三日目と決まる。
二日目は一日掛けて、荷物をきちんとまとめさせる作業の予定だ。

 ようやく二日目。アルトリーゼは朝も早くからどこかへ、コンスタンツェはどうしても聖書が必要だと、それぞれ出掛けていった。
 よって、残った四人の内、ウォルターが中心になってイワノフとジェーンに荷物のまとめ方を実地で示しながら説明することになったが、なぜだか教えられる側にジリヤが混じっている。今回自分の分のテントも自力で運ぶので、出来るだけ負担が少ない方法を知りたいらしい。
「‥‥経験と言うのは、貴重ですね」
 この日、一度の説明でさっと纏め上げたジリヤと、何回も積み上げた荷物が崩れた二人を見比べて、珍しくもウォルターがしみじみと述懐していた。
「でも、確かに初めは私も知らなかったし」
 なにより昨日よりは真面目にやっているようではないかと、カグラは応えている。
 その後、ジェーンは少しばかり荷物纏めが早く終わったので、セシェラムのところにやってきて、保存食の美味しい食べ方を習っていた。
「世の中には、豪勢な保存食もあったものだな」
「一週間以内に食べ切るって注意付きだけど」
 値段分、干し肉の味付けに凝っているので、三泊四日同じものを食べさせても、身体を壊すことはないだろうと一安心だ。後は二人が慣れないナイフの取り扱いで怪我をしないことを祈るばかりである。
 なお、イワノフもジェーンもなんとか荷物はまとめたものの、やはり全部の荷物を背負うといささか足元が危ないので、ウォルターがそれぞれの身長に合わせた杖を作って渡していた。それでも調理用具はイワノフが背負うことにしたようだ。
 夕方になってアルトリーゼが大量の食品を買い込んで戻ってきたのが発見され、セシェラムとウォルターに『現地調達ならまだしも』と注意を促され、コンスタンツェに『お二人と同じ生活をするのが私達の務めですわ』と諭され、ジリヤに『僕もグリゴリーがいたら色々運べたんだけど』と無邪気に言われ、カグラに『どうしても必要なんですね』と慰められていた。
「これがないと、生きていけないんです。‥‥志半ばで倒れる私を許してください」
 もちろん誰も許しはしなかった。叩き起こして、荷物はまとめさせる。

 三日目、それは野営の一日目。目的地に到着したのは、昼と夕方の間の夕方に近い頃合だった。なにしろイワノフが歩き慣れないので時間が普通の五割増しかかったのだ。
「かえって疲れる‥‥」
 そう呟いたのが誰だったか、冒険者六名は揃って同じ事を考えていた。自分の歩調とはまったく違う人の歩みに合わせるのはなかなか消耗する。まあ歩き通しただけでも良かったかもとはウォルターの見立てだった。
 だが、目的地に到着したからといって気は抜けない。そこが安全かどうかの確認をしてから、テントを張る場所を決めて作業して、大急ぎで枯れ枝を集めて薪にしなくてはならない。
 と、そこで皆気付いた。
「手斧を忘れていたか。仕方ない、薪にするのは最低限手伝うから、枯れ枝を探して来い」
 普段の依頼の時なら誰かが道具を持っているか、なくても叩き割ったりして薪を作るが、イワノフとジェーンに力技は期待できない。それでセシェラムが今回初めて少しだけ甘いことを言った。扱いやすくしておかなければ、枯れ枝だって持て余すに違いないのだ。それは流石に凍死しそう。
 ところが。
「薪って作るのか?」
「作るんですよ。あなたの家では、街の外に住んでいる人と契約して、必要な薪の分の木を切り出してもらって、薪にしてから届けてもらっています。もちろんその分のお金は、全部旦那様が稼いだお金で支払います。今回は二人しかいないから、二人で作るんです」
 一貫して、冒険者は先生役と割り切っているジェーンが、突拍子もないことを言うイワノフに慣れた様子で教えていた。あまりの非常識発言に虚を突かれた六人だが、それぞれに納得した。
「この辺りから、もう違ったんですね」
 これはあまりに危ないと、カグラとジリヤがイワノフに、コンスタンツェがジェーンに付き添って枯れ枝を集めに出掛け、その間にセシェラムとアルトリーゼはこんなに真剣に薪の事は考えたことなどないかもしれないという勢いで枯れ枝を集めて、薪にした。
 ウォルターは周辺に安全と食糧確保を兼ねた罠を仕掛け、魔法のトラップが発動した跡がないかも確かめた後に、ハーグリー家の屋敷にも挨拶に出向いて居場所を告げる仕事まで済ませて、帰り道に枯れ枝を集めて戻ってきた。
 問題の二人もなんとか枯れ枝は集めてきたが、ウォルターが貸してくれた手斧でイワノフが指を落としそうになり、ジェーンが覚束ない手付きで作業していた。その間にイワノフは水汲みだ。我侭を言うかと思いきや、そんな気力もなくなったようで、促されるままに仕事はしているが‥‥この日は何もかもが予想以上にはかどらなかった。
 でもとりあえず保存食でスープを作って、文句も言わずにパンと食べたら、イワノフは寝てしまった。ジェーンも翌日やることを確かめて、早々に引っ込んでいる。
 その後、アルトリーゼがカグラにねだって強請って、ご飯の割り増しを作ってもらっていたが、そのいい匂いがしても二人とも起きてはこなかった。
 翌日の朝、容赦なく早起きが美徳のコンスタンツェに叩き起こされた。

 野営二日目。半分寝ているようなイワノフに、ウォルターが前日に仕掛けた罠を作動させて見せた。昨日の段階では割と素直に働いていたが、寝起きにまたぶつぶつ文句を言っていたので、『言うことを聞かないといかに危険か』と示すためだ。獣用の吊り上げ罠だったが、ロープの素早い動きにイワノフは度肝を抜かれたらしい。
 続いてカグラに、魔法の罠類の場所を詳しく聞かされ、『大人も大怪我をするんだから』と解説されて、よほど怖かったのだろう。ジェーンかジリヤにくっついて歩くようになり、一人で逃げ出す心配はないなと皆に思われていた。
 でも、火を起こすのもうまくいかないし、ナイフも見ていないと怪我をしかねない手付きで使うし、水汲みも下手だし、森の中ではよく転ぶし、そのほかにも色々と問題はあるのだが、一番の問題点は。
「男の子の強がりですかね」
「出来ないことを認められないと、後々苦労するだろうな」
「あの強がりをどこまで認めてあげるかでしょう」
 未だ、分からないことがあっても、自ら六人の誰かには尋ねに来ないことだ。ジェーンに尋ねて、一緒に教えてもらいに来る。もちろん態度は今ひとつよろしくない。
 それでも怪我をさせた使用人の子供が暖炉の世話も出来るのが実はすごいことだったとは、一応実感していたようだ。コンスタンツェの昔の苦労話に、ちょっと思い当たるところがあったらしい。
 だがやっぱり、『お願い』も『ありがとう』も言わないので、六人より先にジェーンに尻を叩かれている。おかげでこの日はふてくされながら寝入ったようだ。

 そして三日目のこと。
 早起きが美徳のコンスタンツェといつもより少し早く起きたカグラがテントの外に出たら、悲鳴がした。途端にセシェラムとウォルターが飛び出してきて、夜明け頃の見張りだったアルトリーゼとジリヤはイワノフ達のテントに入っている。代わりにイワノフが転がり出て来た。しがみ付いたのは、コンスタンツェとカグラの二人にだ。
「ジェーンが、血がいっぱい出て、肩のところ」
 すわ何事かと女性陣がジェーンの様子を確かめたところ、一昨日に荷物の背負い帯が肩に食い込んで傷になっていた。当人はちょっと腫れているだけと思っていたら、そこの皮膚が破けて出血している。『血がいっぱい』は大げさだが、おかしいと思って触れたジェーンの手が真っ赤になったので、イワノフは死ぬような大怪我だと思ったようだ。
「このくらいで、魔法使ってもらったら罰が当たりますよ」
 ジェーンは案外平然としていて、コンスタンツェが治療するとの申し出も退け、カグラに痛いところを隠していたとはと叱られている。イワノフは泣きそうな顔で、ジリヤとアルトリーゼに励まされていたが、ジェーンが怪我をちょっと手当てしただけでいるのを見て‥‥ウォルターの肩を叩いた。
「ジェーンは帰りの荷物を持てると思うか? えと、教えてくれ‥‥ないか」
「そういう時は、先に教えて欲しいと断るものですよ」
 一言釘を刺してから、ウォルターは『かなり厳しい』と断言した。この点、ウォルターはきちんと尋ねられたことには、ちゃんと返事をしていた。
 それを聞いたイワノフは、ジェーンに『治してもらえ』と叫んだ。嫌だのそうしろと言い争った挙げ句、話が途中なのにイワノフはコンスタンツェに頭を下げたのである。
「お願い、ジェーンの傷を治してあげて」
 そのまますごい勢いで泣き出したので、呆然としたのが何人か。セシェラムが徹底して『自分のことは自分でする。前向きに、さぼらず働け』とはっぱを掛けていたので、ジェーンに何かあれば自分も家に帰れないと短絡したようだ。皆同じようなことは言っていたが、彼の中ではウォルターが一番、セシェラムが二番目に怖かったらしい。
 でもこれで、『怪我をしたら周りの人がどれだけ心配か』はよく肝に染みたようで、この後はずっとジェーンより働こうと心掛けているのは皆が見て取れた。
 もちろん、相変わらずジリヤの半分くらいしか働けてはいないのだけれど。
 それでもなんとか、帰り道はイワノフがテントを背負って、行きより更に時間は掛かったけれども無事に家まで帰りついたのである。玄関で倒れて、そのまま動けなかったとしても‥‥皆誉めたし、中でもコンスタンツェはべた褒めにしていた。

 最終日、イワノフは朝食を食べ過ぎて腹痛を起こし、ジェーンは風邪をひいて、挨拶だけしか顔を出さなかったが、約束通りに六名にはご馳走が振る舞われた。もちろん父親はその席で、野営中に何があったのかを聞きたがったのだが‥‥一名ばかり、口は話すためではなく食べる専用になっている者がいて、その分他の五人が忙しかったようだ。