ゴーレム兵装、新規開発計画〜鉄の船浮かぶ
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■シリーズシナリオ
担当:龍河流
対応レベル:8〜14lv
難易度:やや難
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:3人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月10日〜05月17日
リプレイ公開日:2009年05月22日
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●オープニング
今回用意された船は、全長八メートルほどだった。
あちこちに金鎚で叩いた跡が見えるが、きちんとした小型船の形をしている。いささか平べったく、喫水線が浅いが、見守る人々の前で海面に下ろされ‥‥
「やっと浮いたわねー」
鉄製ゴーレムシップ開発責任者のエリカが呟いた通りに、海面にしっかりと浮かんだ。
見物に来ていたゴーレムニストのリカードが手を叩いたものだから、物見高い見物人達からも拍手が起きた。鍛冶師と船大工達は、見るからに上機嫌だ。
それも当然。
鉄製の船を浮かべるなど、天界人達が幾ら『出来る』と言っても信じない者多数。色々教えてもらって、天界の船の図面も描いてもらい、鉄製の船を浮かばせるためのステキな理屈が書いてある表も貰ったが、これがまたなかなか浮かぶ代物を作り上げられなかった。
だがしかし、メイディアゴーレム工房の人々が目撃している通りに、鉄製の船も海に浮かんだのである。
なんだかすぐに錆びそうだなどとは、言ってはいけない。
ついでに、
「こんなものが出来るなんて、天界人の図面ってすごいですね。よっぽど分かりやすい?」
リカードの質問に、鍛冶師の責任者は一言。
「途中からわからんくなって、あとは勘と経験さ!」
「いやー、さんざん失敗したな」
船大工の責任者も、からからと笑っている。
聞かなきゃ良かったが、ともかく様々な人の尽力で船が浮いたことに間違いはない。
さて、浮いたとなれば、今度はちゃんと船としての用を為すかを確かめなくてはならない。
つまり問題がないか、実際に操ってみる必要がある。
ちなみに浮いたとはいえ、これはまだゴーレムシップの素体状態。はしけよろしく棹で操るか、ガレー船のように櫂で漕ぐか。人力で確認となる。この時点でおかしなところがあれば、魔法付与前に直さなくてはならないからだ。
でも、鉄の船。今は浮かんでいるが、人が乗ったら沈むかもしれない。そう考えるのか、鍛冶師も船大工も率先して乗ろうとはしなかった。
ここで最初に動いたのが総責任者のエリカだったが、実際に船に乗り移ったのは彼女のお守りと認知されている鎧騎士のプロコピウス・アステールだった。危険なところに、ゴーレムニストで女性を先に向かわせることなど出来ないと言うわけだろう。
「プロコピウス卿、船は扱えるのですか?」
二人乗っても、船は沈まなかった。でもいささか傾いたように見えて、天界人の鎧騎士メイメイがアステールに尋ねたが、返事をしたのはエリカのほうだ。
「扱えるも何も元はガレー軍船の船長もしたことがあるって。帆船もだし、フロートシップもゴーレムシップも、少しは乗っていたことがあるんでしょ?」
「乗せてもらったことがあるという程度ですよ。操船手順は憶えておいたほうがいいでしょうから」
これを聞いて、首を傾げた者が多数いた。アステールは鎧騎士で、工房では人型ゴーレムを作った際の起動確認などを依頼している。だから人型ゴーレムの操縦が出来るはずだ。そういう人だと思っていたのだが。
ガレー軍船の船長経験者が、どうして工房に? それこそゴーレムシップで沿岸警備でもしていたほうがいいのでは?
そうして、リカードは別のことも知っていた。
「エリカ様、アステールさんにグライダーに乗せてもらったって言ってませんでした?」
「工房上空を一回りね。やぁね、この人はゴーレムは一通り全部乗れて、特に船関係に強いのよ。小さくても領地持ちだし、ゴーレムじゃない戦闘経験は色々あるって」
これを聞いて、皆が思ったのは唯一つ。
「あたしのお守りには惜しい人材よね」
まったくその通りだが、エリカ本人が言うと何か変。ちなみにアステールがエリカのお守りなのは、主命によるものだから、主君には恵まれていないのだろう。
「ま、そんなところで腕前は保障するから、リカードもメイメイもお乗り。人数乗せないと、様子も分かりにくいわ」
アステールの腕前が確かでも、船そのものの出来とは無関係だが、エリカがせっつくので呼ばれた二人も乗り込む。この時にゴーレムニストのリカードが先だったのは、男の意地だろう。
鉄の船は四人乗っても沈まなかったが、
「少し重心が左に寄ってますね。修正できますか?」
「そりゃあきっちりするさ。そこは任せてくれ」
「あと、船首をもう少し重くしてください。この大きさのゴーレムシップだと、速度によって船首が浮き上がりそうですから」
「外付け部品の出来は大丈夫?」
「付ける時は、ヒートハンドだろうな」
関係者が集まって、問題点を挙げ始めるとあれこれと出てくる。いずれも修正可能だから作業は速やかに割り振られたが、一つだけどうにもならないことがあって。
「で、エリカ殿。魔力付与はどうするね。あんた一人でやるのか?」
「仕事の予定がみっちりで無理ね。応援呼ぶから、ちょっと待って」
ゴーレムシップ作成のための人手が足りないのだ。エリカも工房の一員としての仕事が立て込んでいて、このゴーレムシップにだけ魔力を注いではいられない。
となれば、最初の時同様に応援を呼ぶのである。
●リプレイ本文
いつも慌しそうなメイディアゴーレム工房のはずれ、ゴーレムシップの作成地域のこれまた端っこに、件の鉄製ゴーレムシップの素体は鎮座ましましていた。あまりに素っ気無い、はしけのような船体である。
「これ、後ろに操舵席を設けるのだろう? 座席は後付けでいいのか?」
集まった三人のゴーレムニストのうち、布津香哉(eb8378)が責任者のエリカに問い掛ける。彼と門見雨霧(eb4637)は人や積み込む荷物の安定のため、船縁に半円の輪か手すりを取り付けるべきだとも考えていたが、そういうものは一切ないのでまずは座席について確かめたのだ。
と、予想通りというか、相変わらず行き当たりばったりというか。
「そういうのも必要ね。よし、急いでつけてもらわなきゃ」
エリカは、今まさに気付いたという様子である。ゴーレム魔法を掛けてから弄るのは最低限にしたいから、その前に追加となるともちろん魔法付与に掛かれるのは何日か後のこと。
「プロコピウスさーん、そういうところが分からない人なんだから教えてあげてよ」
「魔法を掛けてから、また手を入れるつもりかと思っていたよ」
門見の嘆きにはアステールの謝罪が返されたが、門見だって分かっている。スコット領から、あちらこちらとゴーレムを要する出来事は冒険者ギルドに持ち込まれないものも含めて増えている。そこで新規開発とはいえ、鉄製ゴーレムシップにだけ集中してはいられないのだ。
ゆえに、船体素体の調整が済むまでの間は、水流制御板と精霊力集積機能の素体にゴーレム生成を付与して、その魔力浸透時間を確かめたりするのがいいだろう。
「今回目指すのは、既存ゴーレムシップより少し固くて、少し速くて、少し搭載量が多い。そして扱いが難しくない。そういうものでいいのよね」
レン・コンスタンツェ(eb2928)の意見には、その時居合わせた人々の誰も文句はなかったが、鍛冶師との調整を済ませて戻ってきたエリカは『速度重視』と念押ししている。レンも分かってはいるが、そこを追及するあまりに完成が遅れることがあってはならない。この一点を確かめて、実際の作業に入ることになった。
そうして、ゴーレムニストは誰でも知っているが、彼らの仕事の大切な要素には『待つ』というものが入っている。
初日に改めて整理したのが、三人が使用出来るゴーレムニストの魔法の内訳だ。
レンが水精霊砲、水流制御板、防御力制御、行動制御の四つ。
門見がゴーレム生成、地精霊砲、精霊力制御装置の三つ。
布津が精霊力制御装置、行動制御の二つ。
元々魔法を使っていたレンは魔法修得数が多いが、練熟度は布津のほうが高い。幾つか重なっている魔法があるが、ゴーレムニストの基本ゴーレム生成は門見のみ修得と、作業をするなら適材適所を心掛けろと言わんばかりの状態だ。
ゴーレムシップ作成に必要なのは、ゴーレム生成と水流制御板、精霊力制御装置、精霊力集積機能だ。防御力制御はシップ系に掛けるのは大変なので通常使われないが、今回は大きさも限られているので付与も検討の視野内だろう。
船体素体が鍛冶工房でとんてんかんてんやっているので、初日の午後には水流制御板と精霊力制御装置を布津と門見とアステールの三人で作業場に運んでいって、まずは門見がゴーレム生成を掛けた。
「鉄製は最初だから、魔力浸透も何日掛かるか不明なんだよね?」
ゴーレム魔法は魔法陣の上が基本だから、一つずつ魔法陣に置いて魔法を発動させる。魔力浸透の時間は素体材料と大きさに比例して長くなり、木と鉄を比べれば後者は大体倍くらい掛かる。工房では同時進行で幾つものゴーレム機器が作られていて、ゴーレムニストの数は限られているから忙しいが、一つのゴーレム機器が完成するまでの日数の三分の一か四分の一は魔力浸透に掛かる時間なのだ。
門見が人型ゴーレムを参考に、ざっと見積もって水流制御板と精霊力制御装置に必要な日数は二日半、余裕を見て三日。その頃には、船体素体に追加の設備がつく予定だ。その船体素体に魔力付与して、こちらは浸透に五日から六日、余裕を見て一週間‥‥
「俺達は何をしに来たんだ?」
布津が『もっと働かせろよ』と、ゴーレム生成を門見に任せたエリカが立ち去ったのとは正反対の方向に叫んだが、木製の小型ゴーレムシップだって一から作り始めれば二ヶ月は掛かるのである。魔法付与開始から完成までの概算三週間は、まあ妥当なところ。
それに布津が精霊力制御装置、レンが水流制御板に魔法付与すれば、一応今回の依頼はきちんとこなしていることになる。続きは次の依頼となるが、エリカはじめゴーレムシップ開発関係者は人件費に渋いところがあるので、魔力浸透期間に彼ら三人を雇っておくはずがないのは予想も簡単だ。
まさか素体の膨張割合を測って、それを記録しておけばいいってこともない。ちなみに金属は木や石に比べて膨張しやすいはずだが、こちらの素体は四割増し程度。人型ゴーレムの素体が二倍近くになるのと比較すると、材質の全体分量が少ないのと形がやや複雑なのが原因ではないかと三人の意見は一致を見た。二つの装置とも、大体同じ比率で膨張したので、船体素体もこの比率で膨張してくれるのを願うばかりである。
と、竜と精霊と、それぞれ信仰対象に祈ったところで、彼らは結構時間が空いた。もちろんゴーレム工房が、それを放っておくはずはない。
ゴーレムシップの作成手順と日程は、レンが前回作った仕事の割り振り表に明示したので、その気があれば工房の誰でも知ることが出来るようになった。ついでにアステールが三人の使えるゴーレム魔法の一覧も張り出したので、どの魔法の使い手がいつ手が空いているのかも分かる。門見と布津が人型ゴーレムにグライダー、チャリオットの操縦が出来て、前者は鍛冶師仕事、後者はヒートハンドが可能なことも書いてある。レンは鉱石の見極めが出来ることと、スリープの魔法が使えることまで付記。
一日目の夕方、三人とも天界人と呼ばれる身分ながら、アプト語の読み書きには困らないので、『これで仕事があるのだろうか』と張り出されたものを眺めていたのだが‥‥
最初に声が掛かったのは、レン。
「あの男、寝かしつけて欲しいんだけど」
仕事に没頭するあまり、寝食を忘れ、他人の忠告も耳に入らない、鬼気迫る様子の技師を強制的に眠りの世界にご案内する仕事。
明日からの仕事に、一抹の不安を覚えた三人だった。エリカは自分の仕事が終わったら、挨拶もなしに帰っちゃってるし。
二日目は、三人とも出稼ぎの日である。
実は使用魔法をすり合わせたところ、エリカが精霊力集積機能を使えるので、四人で分担すれば必要な魔法付与が可能なことは判明していた。けれどもだからってゴーレムニストを遊ばせておくはずもなく、深夜のうちに割り振り表には誰かが書いていった仕事の依頼がわらわらと。
門見が『溶解メッキ方式で防錆しよう』と提案する間も、レンが作業工程を見直して次回以降の予定を考える暇も、布津がゴーレム武器にゴーレム生成を魔法付与したらどうなるか知らないかと確かめる余裕もない。
レンが連れて行かれたのは精霊砲の作成工房だ。
「水のしか作れないけど、大丈夫?」
「水精霊砲の発注だから。ええと、あっちのからだ」
小型から大型まで、作り掛けの精霊砲がたくさんある中、連れて行かれたのは小型の精霊砲、ゴーレム生成付与済みの前。水の精霊砲が多数欲しいとの要望があり、現在担当工房は昼夜分かたずの作業進行中だ。確かに案内してくれた女性のお肌が荒れているなんて、レンも思っても口にはしない。
それに他の二人とエリカの会話を聞いていれば、どこからの発注で、その到着がどれだけ待ち望まれているのかは理解できる。それはもう、必死になるだろう。どこまで追いついているのか、あやぶまれるが。
「次回は何か手伝ってもらうかもしれないし」
そうでなくても、頼られたらいい加減な仕事は出来ない。
でも、夕方、魔力が尽きるまでみっちりと働かされるとは思わなかったのだけれど。
布津は鍛冶工房で、ブラン精製をさせられていた。ヒートハンドでなければ扱えない金属だが、工房で火の精霊魔法が使える鍛冶師は他の仕事も山積みなので、空いている時間だけでいいから専任で仕事をしてくれと、半ばさらわれてきている。先方の言っていることと態度が違うのだが、仕事のためだと分かっているので怒る気にはならない。
小さなブランの欠片を、ちまちまと溶かしているとなんとなく切ない気分にもなってくるが、連れて来られたのがゴーレム武器の工房なので気を取り直して、周りに色々と尋ねてみる。ゴーレムシップ用に防錆塗料にどんなものがあるのか知りたいし、何より。
「そういう剣にゴーレム生成掛けたら、魔法の武器にならないのか? ゴーレムだってマジックアイテムの一種なんだから、なっても不思議はないと思うが」
そうすれば、ブラン合金製やレミエラ装着の高価な武器でなくともカオスの魔物に有効と考えたわけだが、これは時々考え付くゴーレムニストや鎧騎士がいるらしい。
「試してはみるけど、うまく行った試しはないそうだよ。ゴーレム生成だけだと未完成って事じゃないのか」
ちなみに人型ゴーレム並に魔法を重ね掛けすると、今度は鎧騎士が直接手を触れて起動しないと魔法の武器として効果が発揮できないらしい。ゴーレムが持っても半永久的に効果があるとなると、今のところはブラン合金とレミエラ装着が主な作り方だ。これも壊れると作り直しで、工房は常に忙しい。メイディアでこうだから、前線の鍛冶場はもっと大変だろうと言われれば、現地を知っている布津は頷くしかない。
門見が向かわされたのは、フロートシップの作成工房だった。大きな造船工房の床に巨大な魔法陣が描かれていて、その上にフロートシップ素体の木造船が乗るように工房そのものが作られている。見れば彼の師匠でもあるユリディスがちょっと疲れた表情で、奥の方から出てきたところ。顔を見るだけでも嬉しい間柄のはずだが、相手の背後でエリカが含み笑っているとそうはいかない。
「うかうかしていると、エリカに意地悪されるわよ」
気を付けなさいねと、早朝から仕事をしていたらしいユリディスが休憩に向かってしまって寂しい門見は、フロートシップを見上げて深々と溜息を吐いた。
「働け」
「はいはい。作っているところを見ると、壊しちゃった時のことを思い出すなぁって」
本当に、まったくそんなつもりはなかったし、その時は全力を尽くしたと断言できるが、こうやって作る側に回れば、エリカが前回叫んでしまっていた理由も察せられる。
となれば、貰う報酬分以上に働いてみせようと、門見は思うのだった。猫背の後ろ姿を眺めても、そういう決意をしたようには見えないのだが。
三日目も似たような出稼ぎ状態を過ごして、四日目。
船体素体が出来上がったので、また浮かべてみる。人が乗っても傾きもないし、新たに付けた部分の強度も申し分ない。こういう点の確認には三人とも知識があるから、通り一遍の確認ではない。それで問題なしとなったので、鍛冶師達も一安心だ。
船体素体用に新たに描かれた魔法陣の上に据えられた素体に、門見がゴーレム生成を掛ける。
これを一晩置いて、三人がかりで膨張度合いを測る。幸いにして目視では亀裂なども見当たらないし、膨張度合いも他の部品とだいたい同じだが、細かいところはやはり違っていて、次回どうやって接合するかの相談も必要だ。ヒートハンドでおおむね問題はないだろうが、素体と同じ材質の鉄を手配しておくべきだろう。そして何より、どこに接合するかが大切である。
その計画を立て、接合や魔力付与、浸透の必要日数も計算して、実験の段取りを付けた。流石に次回呼ばれた時に、実験まで辿りつきませんでしたとなったら腹ただしい。
あと。
「亜鉛メッキってのがあるんだけど」
相変わらず『分かると思うなー』と叫びだしそうなエリカに、防錆方法について提案したりするのも忙しい。これは門見の提案だが、布津が船大工達に確かめたところ、専用の塗料は手配済みだそうだ。後はメッキ出来るだけの亜鉛が、エリカ達に準備できるかどうか。
そのあたりの覚書もレンが書記をして、ひとしきりまとめてエリカに渡しておく。いくらなんでも忘れはしないだろうが、日程の無駄がないようにまとめてあるので参考資料にはいいはずだ。ただエリカは読み書きがかなり遅いので、結局アステールが苦労するのだが。
でも。
「これで実験が成功したら、追加でご褒美上げるけど、あたしが用意するとレミエラか宝石あたりなのよね。現金がいいとか、何か欲しいものがあれば聞くだけ聞いてあげるから、考えといて」
人型ゴーレムは無理だけど、ゴーレムの武器なら物により融通してあげるとも言われたが、それだけ貰っても使いどころがある人はそうはいまい。
上機嫌のエリカが、その勢いで実験の準備を整えて、早めに次の依頼を出してくれることを祈る三人だった。