【猜疑の侯爵】果たすべき誓い
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■シリーズシナリオ
担当:冬斗
対応レベル:8〜14lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 98 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月31日〜01月05日
リプレイ公開日:2010年01月14日
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●オープニング
冒険者ギルドの立場は芳しくない。
先日、冒険者の一人が貴族に対し凶行に及んだ。
それによって被害を受けた貴族とその派閥は犯人の身柄と冒険者の名簿、報告書等の所有権を要求。
『命を狙われた』という正当性を盾にされては拒否も許されない現状だった。
「カオスの魔物の仕業だとは言ってるんですがね。証拠がないの一点張りです」
「殺されかけた被害者が魔物と契約していたと主張しても信憑性は薄い。――確かに有効な一手だったな」
罪を唆す者。
『隻眼』とも呼ばれていたカオスの魔物はその呼び名の通り冒険者の一人に『罪を唆せた』。
結果、最も疑わしかったエルウッドは『カオスの魔物と契約した悪しき冒険者に命を狙われた被害者』となってしまった。
「‥‥一歩間違えれば命を落としてましたよ」
「その言い方は正確ではない。『一歩間違えたから』エルウッド卿は生存しているのだ。むしろ奴等からすればエルウッド卿は死んでくれた方が良かったのだろう。ギルドとの対立が決定的になるからな」
「裏切られたという事ですか‥‥」
「カオスの魔物と手を組めると考える方が間違っている。その点では卿は甘かったと言わざるを得ない」
前回の依頼人、ディレオ・カーターがギルド員と話している。
決して暇な身の上ではない筈なのだが早馬を駆けてこの場に足を運んでいるようだ。
「裏切るといえば、冒険者の報告で気になる事が」
ギルド員が気がついたように話を振る。報告書を読んで、ではない。彼が直接耳にした話を。
「騎士姿の男と戦っていた剣士の話なんですがね――ああ、報告書にもありますが、カオスの魔物を倒したのも彼女なんですが――カオスの魔物の致命的な隙を突いて斬り伏せた。けどですね、
どうもこの隙、騎士姿がわざと作ったんじゃあないかって言うんですよ、彼女」
「――なんだと?」
その時、ギルドに来客が訪れた。
赤毛をなびかせたその青年は騎士のような甲冑を纏い――。
◆ ◆ ◆
「アデルの奴、裏切りませんかね?」
ジェラードは主に対し、仲間への不信を口にする。
「冒険者共ノ言ウトオリダナ。人間ノ方ガ猜疑ニ長ケテイル」
そう答える主、デカラビアにジェラードは疑念を抱かざるを得ない。
「元々奴はオレらとは違う。カオスに傾く弱さを持ちながらカオスに染まる潔さのない男だ。それにアンタ、『隻眼』から奴の魂受け取ってないらしいじゃないですか」
つまり彼の魂は現在誰も握っていないという事になる。取り返す事も不可能ではない。
「『隻眼』ハ配下デハナカッタカラナ。我ニ渡ス筈モナイ。
――じぇらーど、貴様ハ疑イガ過ギル。信ジロ」
ジェラードが乾いた笑いを浮かべる。当然だろう。悪魔に信じろなどと言われては。
「馬鹿な、何を信じろって――」
「――奴ハ間違イナク裏切ル。
必ズダ。疑ウ必要ハナイ。ソレヲ信ジロ」
そう言って、巨大な眼を禍々しく細めた。
◆ ◆ ◆
「――話は聞いていますか」
赤毛の騎士、アデルが口を開く。
人目を忍ぶように奥の部屋に通して、ギルドとディレオが面会に応じる。
「‥‥あんたがエルウッド卿襲撃の犯人グループの一人」
「はい」
ギルド員はごくりと喉を鳴らす。容疑者の一人がこうして目の前にいる。即、捕まえないのはディレオの口添えがあってこそだ。
「アデル・エインズワース。今は亡きエインズワース家の長男。冒険者、ステラ・エインズワースの兄だな」
ディレオの言葉にギルド員が驚きの表情を浮かべる。
「‥‥そこまで御存知ですか」
「お前がアデルだという可能性は冒険者からの報告だ。エインズワースの事は知っていたからな」
「つまり、ステラには知られているという事ですね‥‥」
アデルは溜息を一つ。
諦め? 違う、それは覚悟だ。
「デカラビアの元に案内します。
我々を殺してください」
◆ ◆ ◆
エルウッド邸。
先日、冒険者の襲撃があった屋敷の最奥、最も警戒厳重である筈の当主、オスカー・エルウッドの部屋に容易く侵入を成したその男。
「お元気そうでなによりです。エルウッド卿」
「貴様‥‥デカラビアの‥‥」
自ら裏切った相手の敵意の視線を受けてなお平然と居座るジェラード。
「怒らないでくださいよ。今日はアンタに朗報を持ってきたんです」
「朗報だと?」
「ええ、冒険者共を嵌める手筈を――ね」
ジェラードの笑みにエルウッドは当然とばかりに不審さを顔に出す。
「私を嵌めた貴様等を信じろと?」
「信じるかどうか、話を聞いてからでも遅くないんじゃないですか? 信じられないのなら外の衛兵を呼ぶなりお好きにどうぞ。オレは逃げるだけです」
「‥‥話せ」
(「マジで乗ってきやがった‥‥!」)
主にエルウッドの元に行くように命じられた時は、切り捨てられたかとも思ったものだが、
(「いやはや、確かにアンタの言うとおり。人間ってのは救い難い程にドス黒い――」)
「ウチの裏切り者が冒険者と接触します。アンタはそこを押さえてくれればいい」
◆ ◆ ◆
冒険者ギルドにはもうアデルの姿はない。ディレオ達は彼を拘束せずに解放した。
「信じるんですか? 彼を」
アデルは待ち合わせの場所を指定。そこに冒険者を呼んで貰えるよう告げた。
デカラビアは魔物の棲む森の奥に居を構えている。
(「数を集めれば気取られます。腕利きを少数揃えてください。敵はジェラードとデカラビア。下級の魔物を使役出来ると思いますので気をつけて」)
「罠だろう。ただし、デカラビアのな」
おそらくアデルは泳がされている。
冒険者達が魔物の手先と会う現場を押さえられれば決定的な証拠となるというところか。
対策は簡単だ。
待ち合わせの場所に向かわなければいい。
たった一人のアデルをエルウッド一派は捕まえる。
それを手柄と主張し、ギルドの利権に食い込もうとするだろう。
エルウッド等を裁きにくくはなるが、同時に彼等も冒険者と魔物の癒着は騒げなくなる。
だが、ディレオはこの件を冒険者達に任せることにした。
「いいのですか?」
「この一件で最も被害を被ったのも、最も力を割いたのも彼等だ。
――ならば決着も彼等の手に委ねるべきだろう」
●リプレイ本文
●広報活動
「――カオスの陰謀でギルドが乗っ取られそうだって?」
「シッ! 声が大きいです、セイルさん!」
旅人達の集うある酒場。
セイル・ファースト(eb8642)とサクラ・フリューゲル(eb8317)はそんな会話を、わざとらしくもなく、かといって聞き流す程の小ささもない声で交わしていた。
「あくまで噂ですわ。名家の貴族も関わっているのですから『デマでした』じゃ済みませんわよ?」
「‥‥だな、悪ぃ」
「無茶やるわよね、ホント」
そそくさと場を離れた二人をルスト・リカルム(eb4750)が迎える。
「相手は貴族よ。目をつけられたら洒落にならないんだから」
「もう、目をつけられてるさ」
「ありがと。助かるわ」
礼を言うのは限間時雨(ea1968)。
時雨は数週間前に受けた依頼で貴族殺害未遂の容疑をかけられていた。
不幸中の幸いなのが依頼自体が極秘で行われていた事。
なので犯人が冒険者だということはわかっても特定に至っていない。
「ギルドも庇ってくれていますし、今のうちに解決しちゃえばいいんですよ」
空元気も元気の内。倉城響(ea1466)が励ますのは時雨だけではなかった。
「‥‥ありがとうございます」
それが自分に向けられたものと知り、ステラは笑顔で返す。
その表情は曇ってはいたが、それでも感謝と信頼があった。
●森の冒険者達
森の中からフォーレ・ネーヴ(eb2093)が戻ってきた。
「いやー、力入れてるわ。包囲網って感じ」
「‥‥捕まえる気満々ってワケね」
迎えるのはルストと響。
ルストもわかってはいるもののお尋ね者扱いは正直気分は良くない。
森にはエルウッドの私兵団が待ち伏せているとの事。
今フォーレが確認してきた訳なのだが、
「無茶すれば破れない事もないよ。でも一人二人は危ないかも‥‥それに全員無事だったとしてもそこまでしたらギルドの方でも庇えなくなるだろうしね‥‥」
「やっぱり時雨さんとセイルさんに期待させて貰うしかないわね」
待ち合わせの場所には一人待つ赤毛の騎士。
その耳元に誰かが囁く。
『――デカラビアはいないの?』
一瞬驚きの表情を浮かべるアデルだったが、すぐにそれが魔法によるものだと気がつき、平静を保つ。
『時雨よ。隻眼の魔犬に一杯食わされた女って言ったら通じる? ‥‥ムカつく自己紹介だけどね』
皮肉混じりの時雨の言葉にカオスの追手ではないことを安堵する。
「君か。‥‥なるほど、疑うのも無理はない。罠かも知れないのは確かだ」
『信じるわ。とりあえず近くにカオスはいないみたいだし』
「――石の中の蝶か。ジェラードの言うとおりだ。何でもありだな、君らは。デカラビアが怖れるのも無理はない」
『知ってのとおり魔法には効果時間があってね。無駄話は惜しいの。デカラビアがすぐ近くにいないなら単刀直入に用件を言うわ。エルウッドの私兵が待ち伏せしてる。
あなたの裏切りバレてるわよ』
そして一人待つアデルの元に姿を現したのは二人。
「アデルさんですね? 先日はどうも」
響はそう言ってアデルの手を引く。
「デカラビアの元に案内するのは、ここから無事に脱出した後でお願いしますね?」
「待っ‥‥!」
「詳しい話はここから離れてから、だよ♪」
フォーレも有無を言わせない。ここはエルウッドの私兵が遠見の魔法で監視している。もう既に自分達の接触に気付いている筈だ。
「貴方の覚悟も察しは付きます。ですが今は従って下さい。ステラさんに逢わせるまでは生きていて貰います。なんとしても」
「‥‥‥‥!」
有無を言わせぬというのならこの時の響の顔にこそ、それはあった。
「響には従っておいた方が身の為だよ。
――ああ見えても私の知ってる中で一番怖い人なの」
草木をかき分ける音。
隠す気もない大勢の人間の気配。
しばらく遊ばせておく気だったが二人がアデルを連れて逃げるのを確認するや制圧に出たということだろう。
だがそんな事はフォーレの下調べでわかっている。
「うわっ!」
「な、なんだ!?」
「なにかが‥‥!」
「カオスか!?」
私兵団を襲う見えない敵。
ミラージュコートを着込んだ時雨が撹乱を目論む。
姿が見えないだけでこの人数を止める事は至難だが、森である地の利と、何よりカオスがいるという先入観が兵士の足を鈍らせた。
彼等はエルウッドがカオスと通じている事実を知らない。
この任務はカオスと通じる冒険者を捕縛する目的だと本気で信じている。
故に混乱する。
(「用心が仇になったね、エルウッド。アンタにゃ斬ったり邪魔したり悪いコトばっかだけど、同情はしないよ。アンタも覚悟の上なんだろう――!?」)
それは時雨にも言えること。
素性がバレれば今度こそカオスとの繋がりを否定出来ない。
ミラージュコートの効果時間は長くない。
だがそれで充分。少しの足止めが出来れば充分だった。
この視界の悪い森の中なら。
フォーレ達三人はカオスの魔物に囲まれていた。
「流石にタダで行かせる気はないってワケね‥‥」
響は言葉より早く愛刀を振るう。
『隻眼』を両断した獅子王はカオス達をものともしない。
「さっすが♪」
フォーレも縄ひょうを華麗に捌く。鍛えた刃先には魔力が宿り、魔物達の急所を抉る。
アデルの剣も修練を重ねたものなのだろう。カオスの力に頼ったものではない、人間の意志が宿っていた。
この魔物達には彼女らは倒せない。
だがそれで充分。少しの足止めが出来れば充分だった。
時雨に足止めされたエルウッドの私兵の追いつく時間が稼げたなら。
その目的に二人も気付く。
「キリがありません‥‥!」
そこに聖なる光が飛ぶ。
「ルスト!」
「お待たせっ!」
駆けつけたのは金髪のクレリックと、
「無事でしたか、皆さん――」
「サクラさん、ナイスタイミングです!」
そして――
「――兄様」
●奇策・発動
三人の援軍で――実質戦えるのは二人だが――道が切り開けてくるフォーレ達。
「アデル、ステラ! 話は後だってば! 今は急ぐよ!」
遠くに追手の気配を感じたフォーレが叫ぶ。
だが彼女の知覚には逆方向からもう一つ。
「くぅ――っ!!」
悲鳴はサクラ。
魔法の盾で受けなければ身体ごと、いや、後ろに庇うステラごと貫かれていただろう。
止められたのは盾と、ルストのグッドラック。オーラエリベイション。そして一度命を脅かされた一撃故。
「殺す気で不意打ちしたのにやるじゃねえか、お嬢ちゃん」
「――ジェラード‥‥!」
「こんな時に‥‥っ!」
響の獅子王の一閃を槍で受ける。
『隻眼』を斬り伏せた必殺の一刀を互角に受け持つ。
(「いえ‥‥それ以上‥‥!」)
達人であるが故に正確に力量を見極める響。
その背後から稲妻が奔った。
「―――!」
ジェラードの黒髪が宙を舞い、頬から血の華が咲いた。
「避けたっ!?」
響の剣を囮にしての絶妙な一投。
容赦なく、紛れもなく、眉間を射抜く刃を放った筈なのに――。
「‥‥今のは中々だったぜ。やっぱりお前等は侮れねえな」
槍を構え直すジェラード。もう不意打ちは通用しないだろう。
ルストはホーリーを使えるとはいえ戦闘向きではない。
サクラ一人では魔物達相手に退路を切り開くのは至難だ。
ステラは勿論、アデルも妹の存在に剣が鈍っている様だった。
この状況で響とフォーレがジェラードを相手にするのは窮地が過ぎる。
最早一刻を争うのだ。
せめてあと一人いれば――だが時雨はいない。もうミラージュコートの効果も切れ、身を隠しているところだろう。
「――待て。『アイツ』は――」
ジェラードが『それ』の不在に気付いたのとほぼ同時。だが響とフォーレの二人を同時に相手していた彼は『それ』には気付けなかった。
上空から急降下する巨大な影。
誰が気付けるだろう。
空から竜が降ってくるなどと――。
「――そろそろ反撃といこうかい!」
「セイル・ファーストォォ!!」
「――やっぱり不意打ちであっさりって訳にゃいかねえか」
イーグルドラゴン・フレイの背にアデルを乗せ翔けるセイル。
元々、急襲の本来の目的はアデルの奪取だったのでそれで充分といえた。
「君は‥‥」
時雨達同様、当然セイルも知っている。
そして自分を救う為の博打を打った事もアデルには容易に察しがついた。
「ステラが心配してる。ウチの仲間達もアンタにゃ死んで欲しくないって思ってる」
それはわかる。
時雨も響も、初めて会ったレンジャーの少女も、皆真剣だった。
こんな自分の為に。
「ありがとう。――だがそれでも僕は生きるべきじゃない。いや、帰るべきじゃない」
「お前な――」
「聞いてくれ」
そして空を背に、アデルは語り始めた。
●アデルの死
エルウッドの私兵とはルストとサクラが交渉。
ルストはエルウッドを治療した『賊の仲間』ではあったが、幸いな事に重傷を負わされていたエルウッドは時雨の顔しか見ていなかったようだ。
話し上手なルストと冒険者として顔の利くサクラで交渉を優位に進める。
「ですから赤毛の騎士はこちらで捕縛しました。勝手な事をされては困る? 魔物退治は冒険者の仕事です。別に貴方達の獲物っていうワケでもないでしょう?」
「威勢のいいお嬢さんだ。しかし私は賊の一人に襲われてるのでね。この手で捕まえなければ夜も眠れやしない。
そうそう、もう一人いるんだが――栗色の髪の女冒険者を知らないかな? 冒険者ギルドにも聞いているんだが何故か見つからなくてね」
目の前の冒険者達が時雨の仲間達だとは察しがついているのだろう。
脅しをかけるエルウッドだったが、まさか目の前の娘が死に掛けた自分を救った冒険者だとは思っていまい。
(「――思っていたとしてもやる事は同じ、か」)
「栗色の髪の女性はわかりませんが――わかりました。そういう事でしたらお引渡しします」
「サクラさんっ!?」
驚くルスト。
「ただ――お一つだけ。エルウッド卿はどこでこの情報を仕入れたのです? 私達もこの情報を手に入れるのには苦労しましたの。それでも信憑性が今一つなのでこの人数でしか動けなくて‥‥
卿はどうやってここまでの兵を動かす程信頼に足る情報を?」
「セイル、お疲れさん」
迎えたのは唯一エルウッドの前に顔を出せない時雨。
いや、もう一人。顔を出せないのは彼も同じ。だからここで出迎える筈だったのだが。
「‥‥アデルは?」
「悪ぃ、止められなかった」
ばつが悪そうにセイル。顔色を変える時雨。
「‥‥何があったのさ?」
皆と合流したセイルはエルウッド達を谷の方へ案内する。
深い谷底には赤い髪の男が鎧も引き裂けた無残な死体となっていた。
「‥‥取りに行きますか?」
この谷底を降りるのは命懸けの業だろう。
「この狭さじゃ俺の竜も降りられませんね」
「いや、いい。死亡が確認できたなら充分だ」
意外にもあっさりとエルウッドは引き下がる。
「奴は何か言っていたか?」
「黒幕とか、魔法とか色々使って聞き出しました」
「誰だ?」
「『何』じゃないんですか? 人間じゃないんだから」
「‥‥‥‥」
「言えませんよ。依頼主に知らせるまでは守秘義務なんで」
●兄の想い
エルウッドは兵と共に引き揚げた。
冒険者達の計画通りに。
アデルの遺体はセイルの魔法アイテムで造り出した偽物。
効果時間がある為、回収されれば発覚してしまうものだったが、エルウッドはアデルから手掛かりが見つかる事を恐れ、遺体を谷底へ見逃した。
ルストとサクラの駆け引きも打ち合わせ通り。
そして――、
『両親を殺したのは僕だ。カオスに操られて、じゃない。僕は確かに殺意を以って両親と家人を皆殺しにしたんだ』
アデルはセイルにそう告白したという。
『ステラは僕がカオスに操られたと信じている。ならそれで通すべきだ。ステラは知るべきじゃない。事の真相を』
「――無理に連れてきたら自害しかねない勢いだった。済まない」
そうセイルは頭を下げる。
ステラはサクラに連れられ席を外している。アデルの伝言を言い含めて。
『僕の魂はデカラビアが捕らえている。だから連れてこられなかったと伝えておいてくれ』
実際の所はデカラビアは魂を持ってはいない。『隻眼』は力関係こそあれ同志であって配下ではないのだから。
「事の真相ってなんなんですか?」
響が詰め寄る。
今の話だけではアデルが『いい兄』でいる為にステラに会えないとしか聞こえない。
「それも重要だけど‥‥それだけじゃないんだね?」
その詰問に、代わりに時雨が答えた。
「アデルが両親を殺したのは――妹の為らしい」