探偵遊戯〜この大地で・3〜
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■シリーズシナリオ
担当:月原みなみ
対応レベル:8〜14lv
難易度:普通
成功報酬:4 G 15 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月21日〜05月26日
リプレイ公開日:2008年05月29日
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●オープニング
東部を森林地帯、西部を山岳地帯に囲まれており、聖山シーハリオン周辺の中立地帯と国境を接しているのが、ウィル北西部に位置する分国セレだ。
美術品や工芸品など細かな作業を必要とする産業を主に、高い文明度と学力を保持。
多くの優秀なウィザードを輩出している。
分国王コハク・セレがエルフという事もあってか、人口の約八割が同族。
東部森林地帯、その樹上に建てられた首都には「エルフの街」という俗称が付いている程だ。
そのため国の支配階級もほとんどがエルフで構成されているが、中には他種族も存在する。
アベル・クトシュナスはその内の一人だ。
分国領内の西、山岳地帯に隣接するヨウテイ領領主にして伯爵位に就く彼は二七歳の人間。二年前に若くして息子に爵位を譲り隠居した父親が冒険者をしていた頃に分国王に気に入られ、この国の騎士として召抱えられたという経緯がある。
性格はいたって温厚だが、賑やかな事が大好きで好奇心も強く、長い命を緩やかに生きるエルフ達の間では異彩を放つ人物としても有名だった。
そしてこの日、彼が分国王に提出したのは王都で知り合った冒険者達から提出された企画書の束と、王侯貴族の目の届かぬ土地で暮らす庶民の生活を改善しようと動き始めた彼らの後見人になって欲しいという頼みの言葉。
「実現するか否かは実際に行動を起こしてみなければ判りません。しかし天界の知識や技術を用いての生活力の向上は、試してみる価値は充分にあると存じます」
膝を折り、左拳を胸に進言する彼の前方には分国王の姿がある。
長く艶やかな銀の髪に理知的な顔立ち。
穏やかな眼差しを、今は伏せるように手元の書面に落として臣下の口上を聞く彼の傍らには、齢一六〇に届こうという魔術師ジョシュア・ドースターも同席していた。
メイ出身の彼はかつての第二次カオス戦争を自ら体験しており「エルフの街」と呼ばれる国に興味を抱き渡って来たのが三十年ほど前。
以後、その経験と実力を買われてセレの筆頭魔術師になった。
「‥‥しかしクトシュナス卿、そなた王都へは別件で赴かれたはず。この手土産はどうしたことか」
その筆頭魔術師に問い掛けられたアベルは苦い笑み。
「これもその別件絡み。冒険者達が組織立案に思い至るきっかけとなったのは、オーガ族の襲撃を受けて荒廃した村の復興でした」
「――」
「このところ国内で頻発しているオーガ族の襲撃は、どうやら他国におけるセレ寄りの地域でも頻発しているようです」
遅い報告に、分国王と筆頭魔術師は絶句の後で軽い嘆息。
「まったく‥‥」
分国王は手にしていた企画書を控えていた側近に手渡すと静かに立ち上がった。
「荒廃した村の復興を冒険者に託すか」
「我々の国庫とて無尽蔵ではありません。新たな産業は国外からの収入を増幅させ民の暮らしを豊かにすると同時に国そのものを潤すでしょう。その布石となる組織の結成に王が関与されたとあれば、他国のセレに対する認識が向上するのは必至」
「人間の世に生きる者達の認識など私には関わりないこと」
「承知しております。しかし王には守るべき民が在る」
臣下が更に言い募れば、コハク王は再び嘆息した。
その様子にアベルは笑む。
「王はお優しい。民の暮らしを改善させる可能性を無視などなさらない」
人によっては無礼とも取れる断言を、しかしアベルはそう取らせない。
父子でよく似た性格だと、三度王を嘆息させた人間貴族に筆頭魔術師は小さく笑う。
王都のギルドにシフール便が送られたのは、この数時間後の事である。
●
「手紙には何と?」
ギルドの受付係に尋ねられて、セレからの手紙を渡された滝日向は難しい顔。
数日前に企画書を持って帰郷したアベルからのシフール便は彼宛になっていたのだ。
――が。
「‥‥読めない」
「はい?」
聞き返してくる受付係に、日向は苦虫を噛み潰したような顔で手紙を返す。
「俺にはセトタ語の手紙が読めないんだっつーの!」
「あぁ」
なるほどと手を打った青年は許可を貰って代わりに手紙の中身に目を通した。
書いてあった主な内容は二つ。
「組織の名前を決めておくのと、組織をスタートさせる場所を幾つか候補として挙げて下さったようですね」
「候補地?」
途端に目を輝かせた日向に、受付係は更に内容を読み進めた。
アベルからの手紙には先日の依頼期間内で定まらなかった組織の名前を今度こそ決定しておく事と、そして三つの村の名前が記されていた。
一つはセレ南部に位置するギザン領のクアチナ村。
二つ目は同じくセレ南部のルルナ領シアンテ村。
そして三つ目、西部のヨウテイ領ホトギ村。
村に関する情報はそれぞれだが、唯一共通しているのは、その全てがここ最近のオーガ族の襲撃によって荒廃の一途を辿っているという点だ。
「それは冒険者達と相談しないとな」
村の名前があるという事は、話が前進している証。
机を指で叩きながら呟く日向の口調が熱を帯びるのとは対照的に、ギルドの受付係は眉根を寄せて悩み始めていた。
(「ギザン領のクアチナ村‥‥? つい最近どこかで聞いた覚えが‥‥あれー‥‥?」)
その答えが出るのは、もうしばらく先になる。
●リプレイ本文
「では君達の組織名は『暁の翼』。最初に行動を起こすのはルルナ領のシアンテ村で決定――という事で良いんだな?」
セレから冒険者達を迎えに来たアベルは、目的地へ向かうフロートシップの船内で一人一人の顔を見遣りながら確認の意味を込めた言葉を掛けて来た。
「ああ、それでいい」
頷き返す日向に続くのは、リール・アルシャス(eb4402)。
「希望が持てる名だし、エンブレムの図案を考えるには色などもイメージしやすいと思うんだ」
「エンブレム?」
「俺達の組織活動を支援してくれるための許可証を発行してくれると言ったろう? それに判り易い図を入れておけば、字が読めない相手にもこちらが何者なのか伝わり易いだろうと皆で話し合ったんだ」
不思議そうに聞き返してきたアベルにリールが答えれば、彼女の隣ではその図案を共に考える予定のルエラ・ファールヴァルト(eb4199)が、出発前に準備して来た画材道具一式を指し示した。
「貴族としての嗜み程度ではありますが絵画には覚えがあります。幾つか候補となり得る図案を描いて、そちらも皆で選ぼうと思いまして」
「なるほど」
アベルは穏やかに笑んで冒険者達の意見を聞き入れる。
「ではエンブレムが決まったら、その図案もこちらに提出してくれ。許可証に写していこう」
「ありがとうございます」
礼に則った動作で感謝の意を示す鎧騎士二人。
少し離れた後方から彼女達の遣り取りを見守っていた他の面々も、話が纏まったのを知って安堵の表情を浮かべた。
「日の出間近の空‥‥、太陽に向かって飛んでいく鳥の姿とか、これからの光りある未来を目指そうっていう組織には似合いだと思ったんだ」
ほっと胸を撫で下ろしながら呟く国塚彰吾(ec4546)の隣では組織の名付け親であるソード・エアシールド(eb3838)が、イシュカ・エアシールド(eb3839)と言葉を交わしていた。
「‥‥組織名が『暁の翼』なら、私達は羽根ですか?」
「かもな。一人一人の力は小さく何も出来なくても、皆で力を合わせれば飛んでいける。天を向いて羽ばたく鳥‥‥そんな感じか」
終始和やかな雰囲気を醸し出す彼ら。
その一方で、対照的に表情を硬くしていたのは船の隅に居たソフィア・カーレンリース(ec4065)だ。
普段はムードメーカーの名に相応しい笑みを絶やさない少女が、今日は口数少なく、仲間への反応も遠慮がち。
そんな彼女の様子に友人であるレイン・ヴォルフルーラ(ec4112)が心配しないはずはなく。
「ソフィアさん、大丈夫ですか?」
「え?」
ハッとして顔を上げる彼女に、レインは笑みを深める。
「気負い過ぎちゃダメですよ。これから行く先でエルフ族の皆さんが私達にどう接してくれるかは判りませんけど、どうにかしなきゃって責任をソフィアさん一人が背負う必要はないんですからね?」
「レインさん‥‥」
この中で唯一のエルフであるソフィアは、分国セレという他国とは趣きの異なる国を前にして確かな緊張を強いられていた。
他部族には非協力的と囁かれるエルフ族。
彼らから力を借りるには自分が声を上げなければならない、と。
だが。
「みんな一緒です」
レインのその言葉に、ソフィアは笑む。
「はい♪」
ようやく取り戻した彼女らしい笑みに、他の仲間達も安堵の表情。
‥‥ばかりではなく。
「いいねぇ女の子二人のああした光景。正に花の蕾が綻ぶ瞬間ってのを見させて貰ったよ」
「あれでセーラーでも着ていたら文句無しの学園ドラマだな」
そんな些か問題有りの発言をするのはアベルと日向。
セーラーと言うのが判らない貴族が聞き返し、元探偵がその説明など始めようものなら、同じく天界出身の彰吾が距離を置いて咳払いし、一方、華岡紅子(eb4412)は楽しげな笑みを浮かべながら会話に割り入った。
「あらあら探偵サン、そんな悠長な事を言って良いのかしら。若い子に嫌われるような事を言っていたら、授業がスパルタになるわよ?」
彼女が言うのは、日向のアトランティスにおける語学力の話だ。
アベルから送られてきた手紙を読めなかった件も合わせて、識字率の向上を図るにもその一人目の生徒は日向だと考えられていた。
紅子が教える役ならば、日本語を素地がある分だけ勉強も捗るだろうが、場合によって国の政に関わるような場合には、より高度な語学力が必要。
となると其処は語学に精通しているレインの担当となる。
「確かにな。あぁ見えていざ授業となると厳しそうだ」
「ね?」
「何の話ですか!?」
二人の会話が自分を指していると気付いたレインが動揺する。
次いで辺りから起こる笑いは、非常に和やかで。
セレの人間貴族は楽しげに微笑むのだった。
●
ルルナ領のシアンテ村は、先だって冒険者達が聞いていた通り、住人の半分がエルフ、半分が人間で構成された農業を中心とする土地だ。
約一年前にオーガ族の襲撃を受けた際に住人のほとんどが負傷。
荒らされた土地は疲弊し、人々は村から少し離れた場所でかつかつと生活しているという。
現在の人口はおよそ八〇名。
種族間の交流は、――ほぼ皆無。
話を聞く限り、村人達の収入も多くは見込めないと判じたソードが硬い声音で問い掛けた。
「このような状態になってから、シアンテ村の税負担は軽減されているのか?」
この質問にはアベルが苦笑いの表情になる。
「軽減と言うよりも、ほぼ免除の状態だね」
「免除?」
「収穫量が低過ぎて、例え税を一割まで下げても村人達の生活が立ち行かなくなるのは必至だ。その代わり、働き手となり得る若者達を王都に呼び、国のために働いてもらっている。些少だが給金も出るし、それを故郷に仕送りしているといった感じかな」
「‥‥まるで時代劇だな」
日向がぽつりと言う例えに、紅子と彰吾が成程と思う。
端的な表現をするなら「出稼ぎ」だ。
「シアンテ村は数年前にもオーガ族に襲われた事があってな‥‥、度重なる災害に精神的にも参っている。種族による溝も日々深まっていくしで、領主も頭を抱えている状態だ」
そんな話を聞く冒険者達が佇むのは、その荒れ果てたシアンテ村の一角だ。
人気のない、まるで跡地のように忘れ去られた気配を漂わせた土地は、相当の面積がある事も相まって落ちる沈黙の帳が重く、深い。
「その領主殿はどちらに?」
「領内の別の村に居を構えている。気が優しい故か争い事は避ける性分でな‥‥、どうにも巧くまとまらない」
リールの質問に答えたアベルに、次いで問い掛ける紅子。
「この村出身のゴーレムニストがウィルに居ると思うのだけど」
「ああ、ナージ・プロメ女史か」
すぐに名前が出て来るあたり、やはり国内でも有名な人物なのだろう。
「そうだな‥‥。縁があれば組織の協力者として声を掛けてみるといい。良い返事があるかもしれない」
少し考えた後でそう続けたアベルの表情は、沈んだ中には意味深な色合いを滲ませ、紅子達は小首を傾げつつも機会があればと思う。
「村の住人が暮らしている土地は、ここから少し歩いた先だ。――行くか?」
勿論、と誰ともなしに声が上がる。
この土地に暮らす人々に会わなければ意味がない。
「それと、一つお願いがあるのですが」
ルエラが申し出る隣には彼女と同意見の面々が並ぶ。
「今回はシアンテ村からと言う事になりましたが、可能なら全ての村の現状を自分の目で確かめておきたいので、短い時間で構いませんから各村を拝見させて頂けませんか?」
「全ての村を?」
アベルは若干驚いたように目を丸くした。
「それは構わないが‥‥」
呟きながら一人一人を見遣る、その視線を受けてイシュカが口を開く。
「‥‥どの村もオーガ族の襲撃によって荒廃の一途を辿っているのですよね? 他の二つの村にも出来る援助はしたいのですが‥‥」
「それに、各村の住人が何を望んでいるのかを直に聞きたいんだ」
リールにも言葉を重ねられ、今回の依頼主は苦笑を交えながら肩を竦めた。
「判った。回る事は可能だが日程は限られている、かなりの駆け足になるが構わないか」
冒険者達の表情が輝く、それが答え。
「なら、各村で別の村の話題はなるべく口にしないと約束してくれ。こちらにも色々と事情があるんでね」
アベルの要求は、普通に考えれば些か奇妙だ。
しかし今は全ての村を回る事を優先したい冒険者達は一応の理解を示す。
それらの反応を受けて、イシュカが『二つの村』と言ってくれたから彼らの言う『全て』が今回の候補に挙げた村限定だと知れたアベルは、当初の自分の勘違いを思うと背筋に冷たいものが流れ落ちる。
(「‥‥こっちの原因も突き止めないとな‥‥」)
焦りを滲ませた呟きは、しかし冒険者達の耳に届く事は決してない。
それに関しては既に別の依頼がギルドに張り出されている頃だから。
●
シアンテ村から東に五〇〇メートルほど歩いた場所に、彼らの暮らす土地があった。
入り口と見られる木造の塀、その中心から奥へ通っている一本の道の左右に家々が並ぶ。
その景色だけを見れば何と言う事は無い。
たが、明確な答えを引き出せない、漠然とした違和感のようなものが胸中に湧き起こる。
アベルは冒険者達のそんな心境を察したのか、苦笑交じりに村の左側を指し示した。
「通りの左はエルフの集落、右側は人間の集落だ」
「‥‥分かれているんですか?」
「完全にな」
イシュカに答え、彼らは村の入り口を通った。
足先は右側、人間の集落に向かっている。
「俺も人間の一人だからな。勝手にあちらに入ると良い顔はされないんだ」
「そこまで‥‥」
僅かに語尾を震わせて呟くソフィア。
そんな彼女をレインが気遣った。
暫く歩くと、眼前には春に相応しい緑に色づいた小麦畑が広がる。
本来のシアンテ村に比べれば狭い土地での栽培。収穫量も高くは期待出来ないが、少なくとも民の希望にはなる彩りだ。
「この辺りでは小麦の他に蕎麦粉も作っている」
「蕎麦粉!?」
思い掛けない穀物名に彰吾が声を上げ、紅子や日向も驚き顔。
「セレにもお抱えの天界人はいるからな。こっちはその植物が何なのかすら判らなかったが、その男が職人だったことが幸いして改良が進められている段階だ」
まだ大量生産には至っていないというが、貴重な食物である事に違いはない。
現在の卸先は王都に限られているそうだが、今後どうなるかは『暁の翼』次第。
「となるとセレに本店、各国に支店を出す蕎麦チェーン店とかアリか?」
「こっちの職人育成も有りよね」
天界出身者の意見交換に、他の面々も希望の光りが一つ増えた事は喜ばしいと感じていた。
だが、小麦畑で作業していた村人が彼らに気付いたと同時、上がった声には面食らう。
「伯爵様……!」
アベルの姿を見るなり声を上げた女性に、他の村人達も呼応するように顔を上げ、作業を投げ出して彼に駆け寄ってくる。
「伯爵様、今日こそ迎えに来て下さったのですか!?」
「私達をお助け下さるのですか!?」
足下に縋るようにして集まってくる村人達に、冒険者達は咄嗟の声も出なかったが、アベルは慣れた様子で彼女達を落ち着けようと試みる。
「落ち着きなさい。何度も言うように、君達に土地を捨てさせる事は出来ない。――だから君達の生活を援助してくれる冒険者を案内しに来たんだ」
「冒険者‥‥?」
村人達の視線を受けて、ルエラ、リールと、一人一人が順に自己紹介していった。
貴方達の生活を必ず向上させると丁寧に説明したが、しかし村人達は聞き入れない。
「此処で何をやったって同じですっ、またオーガ族に攻め入られ、全て奪われて終わりです!」
「お願いですから安全なところに‥‥っ、他の村に移住させて下さい! 命の心配をせずとも良い土地でやり直させて下さい!」
必死の哀願を、しかしアベルは「この土地でやり直すのだ」と言って譲らない。
状況を掴み切れずに口を挟む事も憚られる冒険者達。
後に村人達のいない場所で聞かされる話だが、近頃この周辺の農村はあらかたオーガ族の襲撃を受けており、どこも土地は荒廃し、他所の村から人を迎え入れるような余裕は無いのだと言う。
そして識字率にも関わる事ながら、他所からの情報が入って来ないのは、この場合は幸なのか不幸なのか。
民は自分の国に襲い掛かっている状況を知る由も無いのである。
他所の村から時期に応じて働き手を集い、協力体制を敷いて各村の収穫高を高められないかと提案するつもりだったリールだが、それが困難な事は予想に難くない。
何処も自分の村と同じだと知られれば民の間で混乱が生じるのは必至。
そうなれば国の基盤そのものが揺らぎかねない。
だからアベルは、他所で他の村の話をしないで欲しいと言う。
此処で踏み止まろうと説得する。
オーガ族が立て続けに村を襲う原因は、また別の冒険者達に依頼してある。
「必ず、君達が穏やかに暮らせる環境を取り戻す。だから今は、この土地で、彼らと共に新たな行動を起こして欲しい」
決して視線を逸らさず語る貴族に、村人達も不承不承ながら聞き入れる気配を見せ始めた。
と、そんな騒ぎを聞きつけたのか、離れた場所からこちらを盗み見ている小さな影にソフィアが気付いた。
「‥‥エルフの子」
尖った耳は疑いようも無い。
同族だと気付いたソフィアは、ほぼ無意識に子供に向かって走り出していた。
●
「! ソフィアさん?」
傍にいたレインが驚き、反射的に彼女も走る。
気付かれたと知り逃げる子供を追うソフィア、その友人を追うレイン。
人間の集落を出て、エルフの集落に。
あちらと同じように春の彩りを見せる小麦畑を横切った森の手前で、ソフィアは子供の腕を掴んだ。
「待って!」
「放せよっ」
子供が力いっぱいに腕を振り上げてソフィアを突き放そうとするが、そこは大人と子供。
抵抗などものともせずに動きを制した。
「お願い、少し話を聞かせて」
「人間に話すことなんかない!」
「僕はエルフだよ」
「!」
言い、自分の耳を指差すソフィア。
「ね。君と同じエルフ。‥‥話を聞かせてくれる?」
「でも‥‥」
子供が言い淀む間に追いついたレイン。
「ソフィアさん、一体どうしたんですか‥‥?」
肩で息をしながら声を掛けて来る彼女を見て、子供は再び表情を険しくした。
「そいつは人間だっ」
「人間だけど、レインさんはお友達なんだ、悪い人じゃないよ」
「悪くなくたって変だっ、人間はみんな変だ!」
頑なに言い張る子供は、ソフィアにもきつい言葉を浴びせる。
「人間が友達だなんて言うおまえも変だ! 人間なんかと一緒にいたら、いつかおまえも仲間外れにされるぞ!」
「仲間外れ‥‥?」
意味が掴めずに聞き返す、その態度が更に子供の怒りを煽る。
「人間なんか大嫌いだ!」
言い放って駆け出す子供を、ソフィアもレインも追えない。
意味が判らない。
――判らないけれど、少女達の胸中を襲った衝撃は大きかった。