【黙示録】混沌の楔 3

■シリーズシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月21日〜04月05日

リプレイ公開日:2009年03月30日

●オープニング

 ●リグの現状

 冒険者達が辿り着いたリグ国内最初の場所、それは天使レヴィシュナが示した宿だった。森の中に佇む宿は西側の山岳地帯にも程近く、主な客層は経営している夫婦と同じドワーフらしい事は建物全体の作りと家具の大きさで察しが付いた。
 そこに、真夜中の来訪者。
 それも人間が主の種族構成に女将は最初こそ驚いていたものの、
「こんな夜中にお疲れさま」と彼らを中に案内してくれた。
 食事は? 温かな飲み物は?
 そんな問い掛けにも各自答えながら「最近はどうだ」と話を振ってみる。
 些細な情報でも今後の行動指針になればくらいの気持ちだったのだが、何という幸運か、それともこれも天使様のお導きだったのか。
 ドワーフの夫婦はとってもお喋り好きだったのである。
「あたし達も詳しくは知らないよ? けどね、何でもホルクハンデ領の領主様が国王様のやり方に激怒して? 内戦を起こそうとクロムサルタの領主様に協定を持ち掛けたって専らの噂でねぇ」
 そんな噂が出ている時点で何かと終わっているだろうと冒険者達は思うのだが、夫婦も疑問は抱きつつ話を続ける。
「ほら。この宿の向こうは山岳が連なっているだろう? あの辺りからゴーレムの素材を発掘出来るもんだから、この宿はお国の関係者達にも結構贔屓にして貰っていてねぇ」
「こんな場所だろ。お偉いさん達の管理下から少しでも離れられると気が緩むって言うのかねぇ‥‥結構、本音が聞けたりするもんなんだよ」
 そんな採掘工達の会話を総合してみると、表向きは平穏に見える王都リグリーンだが、その実、リグハリオス領に点在する村々からは兵役という名目で男達が連れ出され、戻らない。王都への物資の荷運びも頻繁に行われており、戦争の準備と思われる動きは誰の目にも明らからしいが、何を名目に、何処へ宣戦布告するのかは判らない。
 かつてこの国は北部のエ・ラオの国に侵攻しようとして、国王同士の一騎打ちによりこれを断念した経緯がある。
「ある人は今度こそエ・ラオの国を支配する気だと言うし、ある人はウィルへの侵攻を目論んでいると言う。‥‥あの穏やかを絵に描いたような御人だったグシタ王が戦争を起こすってのは、あたし達にはどうも信じられないんだけどねぇ」
「そうそう。ホルクハンデ領の領主様が内戦を起こそうと計画されていらっしゃるのは、国王の他国への侵攻を止めるためだって話もある」
「けど、クロムサルタの領主様ならそういう話も信憑性があるんだけど、あのホルクハンデの領主様じゃねぇ」
 噂に聞く領主達の性格を鑑みるに、結局はどの噂も信憑性に欠けるという事らしい。
「もし本当に戦争が起きるなら、あたし達はこの宿を閉めてクロムサルタ領に移住しようと思ってるよ」
 一番信用出来るのはクロムサルタの領主だからと夫婦は語った。
 長いようで短かった話を終え、頂いた食事も綺麗に片付けられた頃、冒険者達は「この夫婦ならば」と仲間の似顔絵を差し出した。
 この二人を探していると告げれば、妻が目を瞬かせる。
「あらぁ? この子達‥‥」
「ご存知なのか?」
「ええ。確か王都に行くって‥‥そうそう、モニカ様や黒鉄の三連隊の話なんか熱心に聞いていってね」
 リグの国の竜騎士であり、正騎士でもあるモニカ・クレーシュル。
 自国生産したゴーレムを含むシルバーゴーレム『キャペルス』、アイアンゴーレム『グラシュテ』を駆るドワーフで編成された黒鉄騎士団。その中でも実力者として名高いガラ・ティスホム、ドッパ・グザハリオル、ダラエ・バクドゥーエルで形成されるのが黒鉄の三連隊。
「それで‥‥っ、その話を聞いた後、二人は何処へ行くと行っていただろう?」
 更なる情報を欲して身を乗り出す冒険者に夫婦は顔を見合わせる。
「あら‥‥ちょっと待って、貴方達‥‥あの子達とどういう関係なのかしら‥‥」
 警戒するような表情を見せられて冒険者達は「しまった」と思うが、一方の夫婦も複雑な心境を滲ませた表情で、語る。
「あの‥‥こんな事、言ってしまって良いのか判らないけれど‥‥」
 しかし根が話好きな夫婦。基本的に口は軽い。
「この子達‥‥その、花街で働くからリグの情報にも通じなきゃって言ってたのよ‥‥相当な借金を抱えて困ってるんでしょう‥‥? あ、まさか貴方達、その取立て!?」
「――」
 はてさて、何と答えたものか。
 いずれにせよとりあえずの情報は集まっただろか‥‥?

●今回の参加者

 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb1592 白鳥 麗華(29歳・♀・鎧騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4856 リィム・タイランツ(35歳・♀・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb7871 物見 昴(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文


 借金の取り立てかと疑われた冒険者達は思わず失笑。最初に口を切ったのは飛天龍(eb0010)だ。
「友人でな。厄介ごとに巻き込まれたと聞き、力になりたいと思って二人を探している」
 ポンとその手が叩くのはユアンの肩。次いで口を切るのは石動良哉。
「俺達と、その子が身内。こっちの三人が友人で‥‥」
 示す先には天龍とキース・ファラン(eb4324)、リール・アルシャス(eb4402)。
「彼らの事が心配で探している‥‥。また、借金が増える事にならないと良いが」
 深々と溜息をつくリールに、天龍も相槌。
「巻き込みたくなかったのだろうが俺達に黙っていなくなるだなんて、水臭い奴らだ‥‥」
 そうして哀しげな顔をして見せればドワーフの夫婦は完全に彼らを信じた。
「まぁ‥‥っ、何て事かしら」
「そんなわけで、な」
 続くのは陸奥勇人(ea3329)。
「俺は、その護衛だ。依頼主はこの子でな」
 そう語り、ユアンの頭を撫でる。
「リラ達はこの子の養い親でもあるんだが、ここしばらく行方知れずって事で捜してくれと頼まれたってわけだ」
「そうなの。冒険者って本当に色んなお仕事を請け負われるのね」
「え」
 誰も冒険者などと口にした覚えはないのだが、何故にバレたのかと驚く彼らに夫婦はあっけらかんと語る。
 曰く、
「依頼主から仕事を請けるってことは、そうなんでしょう? それに身なりを見てもとても一般の人とは思えないし」
 言われて自らの姿を見直してみれば特殊なデザインの衣服だったり装備だったり、武器だったり。今は屋外で休ませているペットも、冒険者でなければ同伴は困難だ。
「それにしたって、よく関所の役人達が、冒険者が通るのを許したわね」
 不思議そうに呟く女将にイシュカ・エアシールド(eb3839)が俯いた顔を蒼褪めさせると、すぐさま陽気な声を上げたのはリィム・タイランツ(eb4856)。
「そりゃ、ボク達は善良な冒険者ですから!」
 それが理由になったのかどうか、ともかくドワーフの夫婦はそれ以上彼らを怪しんだりはしなかった。シルバー・ストーム(ea3651)は静かに息を吐き、白鳥麗華(eb1592)は小首を傾げて新たな質問を投げ掛ける。
「普段はそんなに冒険者の出入りに厳しいのですか?」
「そうね‥‥ここ最近は見ないわよ。ほら、この宿は関所から一番近い場所にあるから、例えば宿には寄らなくてもそれなりに姿を見かけるものなんだけど。ほら、冒険者の中にはウィルで身分のある人も多いでしょ? かなり警戒しているから、貴方達も冒険者とはあまり口にしない方が良いかもしれないわね」
 口にする気などさらさら無かったのだが、バレてしまった。改善の余地がありそうだ。
「ちなみに、その二人がどの方向に行ったか覚えてるかい?」
 勇人の問い掛けに夫婦は怪訝な顔。
「花街で働くって言うんだから、王都に向かったんだろ?」
「違うのかい?」
 なにやら興味を引かれたらしく身を乗り出してくる夫婦に「そうだよな」と笑って誤魔化す。どうやら話好きな夫婦は好奇心も旺盛のようで、詮索は此処までにした方が良さそうだった。
「最後に、一つ」
 問い掛けたのはリール。
「念のため、他領地のお勧めの宿屋などをご存知であれば、教えて頂けないだろうか。我々が花街に着いた頃は、借金取りに追われて、既に他の領地へ移動している可能性も無いとは言い切れないし」
「んー‥‥と言ってもね、ここ最近じゃ宿を閉めちゃう同業者も後を絶たないし、あたし達じゃリグハリオス領の情報くらいしか‥‥それだってどこまで正確かなんて判ったもんじゃないよ?」
「そうか、‥‥ありがとう」
 詳しく説明してくれた夫婦に改めて礼を告げ、その夜はそのまま宿で一泊した。そして翌朝、彼らは目的地目指して行動を開始する。
 王都ではなく、クロムサルタ領。ドワーフの夫婦から聞いた話を信じ、まずは信用が置けるという領主に会うべく都ロレルサルタ目指して――。





 森の中、山岳に沿うように歩いてクロムサルタ領を目指す冒険者達は、ユアンと石動兄妹を中央に配し、彼らを囲むようにして移動する。その意識は周囲に向けられ、微かな変化にも対応出来るよう神経を研ぎ澄ます。
 その中で、ユアン達の緊張を幾らかでも和らげようと思うリィムが口を切る。
「戦争が起こりそうだってゆーならその前に王都へ入ってリラさん達と合流したいけど‥‥何処にいるのかなぁ‥‥」
 気になるのは皆が同じ。陽魔法の使い手である香代が何度かリラ、カインの行方を知るべくサンワードで陽精霊に問い掛けてみるのだが、応答は変わらず。リィムの助言を受けて個人で試してみても、日中は行動をしていないのか動きを知る事は敵わなかった。
「しかし、馬車を借りるのに一日五〇Gは法外も良いところだよな」
 呆れた声で言うのはキース。
 宿を出る前にドワーフの夫婦に確認したところ、身分を証明せずとも借りられる馬車となれば、それでも安い方らしく、いつまで借りて、またいつ返せるとも知れない旅路ではやはり徒歩で移動する他なかった。
 夫婦の話では、リラ達が宿を訪ねたのは一月以上も前の事。その足跡を辿るには余りに日が経ち過ぎており、追いつくのに急ぐというのも無理が有り過ぎる。
「‥‥気は急くのですが‥‥出来る事を一つずつ、ですよね‥‥」
 ぽつりと呟くイシュカに、大きく頷くユアン。
「大丈夫だよ」
 大丈夫。
 きっと二人の居場所を見つけられる、見つけてみせる、――そんな幼子の気持ちが伝わって来るから冒険者達は笑む。
「いずれにせよ何らかの伝手でも作らんと今後の動きが取り難いのは確かだな。人脈作る時間があれば良いが」
 息を吐きながら勇人が呟いた言葉は、皆の気持ちを代弁するものだった。





『続・リグ漫遊記。
 国の掟は外れども武芸の道は外れども、決してそらせぬ人の道。
 いざいざ如何?』
 夜も更けようという時分に焚き火に当たりながら己の日記をつける麗華はこの時間の見張り担当だった。山岳を背後に、火の粉が森の木々に燃え移らないよう配慮した位置で彼らは体を休ませる。
 昨日も、一昨日も。
 土地はリグハリオス領からクロムサルタ領へと移り、その際には特に大きないざこざもなく先へ進む事が出来たのだが、そこまでの道程が問題だった。
 ほとんどの店がその扉を閉めてしまっていたのだ。
 宿屋どころか酒場や食堂など人が集まる場所はもちろん、民家もしんと静まり返り、町には廃墟のように不気味な静けさが漂う。とても情報を収集したり宿を借りたりというような雰囲気ではなく、冒険者達は首を傾げるばかり。天龍やイシュカといった料理上手が仲間にいるお陰で、味気ない保存食も宿屋の食事より美味く安心して食せるのがせめてもの救いと言えるだろうか。
『恐るべきおしゃべり夫婦の情報提供をもってやって来ましたクロムサルタ。途中立ち寄るリグハリオスの町はどこも静まり返っていた。明日にはクロムサルタ最初の町に到着するようだが些か不安。
 まずは、花丸良好という此処の領主の評が正しいかと周辺領地の近況を情報の基盤としたい。
 ――ただ、リグ国王自体結構イケメンだそうなのでその辺りも興味が尽きないところだ』
 そのような内容を全て華国語で書き綴る麗華の日記は、ともすれば天然の暗号文章。しかし多種多様な人々が集まるアトランティスであるから、その取り扱いには充分な注意が必要で、中にはリグの国情に関する事ばかりではなくリィムと良哉が軽業の練習をしている際の様子や、天龍がユアンに稽古を付けている時の事等、ささやかな日常の記録も少なくは無い。果たして他人に見られて困るのがどちらなのかは知らぬが仏と言ったところか。夜が更ければ彼らは先に進む。
 不安を残しながらも、更なる先へ――。





「案内板のようですね」
 森の中の岐路でそれを発見したシルバーは、途中で通り抜けてきた静かな町で、偶然にも拾う事が出来た簡易的な地図を取り出し、大凡の見当を付けて現地の印を付けた。リグ国内の三領土、リグハリオス、ホルクハンデ、クロムサルタの大凡の境に森や湖と言った地理情報と、幾つかの町の名前のみが入ったそれには、誰がどういう目的で使っていたのか所々に人名と思われる走り書きと、安くは無い金額が記録されていた。とはいえ地図があって困るという事はなく、以前の使用者が誰であれ大した問題ではない。
「こちらに進めば二〇〇メートル程でクロムサルタ最初の町に寄れるようだな」
 書かれているセトタ語をリールが声に出して読み上げ、そしてもう一方。
「この先‥‥約三〇〇キロでリグハリオスの首都、リグリーンだ‥‥」
 あの二人がいるかもしれない、王都。
「‥‥」
 心はそちらに引かれる。
 だが。
「あいつらに追い付いても、収穫がなけりゃ帰れんしなぁ」
「ああ」
 勇人が言い、天龍が頷く。
「‥‥行こう」
 そちらに体を向けて唇を噛み締めた香代の背にそっと触れて促すキースの言葉に動かされるように皆の歩は、クロムサルタへ。
「‥‥それにしても、人に会いませんね‥‥」
 ぽつりとイシュカが零した呟きに応じたのはリィム。
「通ってきた道近辺の町や村は、人が逃げてもう久しい感じだったしね」
 途中で難民にでも会う事が出来れば話を聞こうと考えていた彼らだが、そういった人々にすら会わないのは進行方向がクロムサルタ故だろうか。だとすれば宿のドワーフの夫婦が語ったように、クロムサルタの領主は信頼が置けるのかもしれないが。
 かくして辿り着いたクロムサルタ最初の町、ジャネゴ。
 冒険者達は其処でようやくリグの人々と会う事が出来た。





 勇人のグリフォンにはしばらく姿を隠してもらい、冒険者達が町に入ると、擦れ違う人々は怪訝な視線を向けては来たものの、近頃は難民等の流れ者が多いせいだろうか、怪しいと呼び止められる事はなかった。
 クロムサルタの都、ロレルサルタに到着するまでは一箇所に長居するつもりもないが、情報収集はしておこうという事で彼らは幾つかの組に判れて行動。キースとリィム、石動兄妹が道沿いで軽業を披露し人々の歓心を得ながら話を聞き出している間、リールは酒場に顔を出し、共に、このご時世、何らかの仕事が無いだろうかという話題から切り出す。一方でシルバーと天龍、イシュカはクレリックの布教活動を装い、怪我人の手当てを施しながらどういった経緯で負傷したのか、その場所では何があったのかを聞いていく。
 そして勇人と麗華の二人は直球で職探し。
 腕っ節には自信があるのだと断言したなら、一人の商人が都ロレルサルタまでの護衛を頼んで来た。馬車四台の大所帯。人数的にも彼ら全員を雇えるという事で話しは決まり、一行は都へと歩を進める事になり、その道中、彼らは自分達を雇った商人から予想以上の収穫を得る事になった。
 服飾関係の流通を生業にしている商人はこれまで自由気ままに国内を移動、情報にも通じており、傭兵としての職を探しているという麗華の言葉には「だったら首都へ行け」とあっさり答えた。
「遠からずグシタ王は戦争を起こす、少しでも戦力になるなら国は喜んで雇ってくれるだろうよ」
「戦争が起きるのは間違いないのか?」
 天龍の問い掛けもあっさりと肯定。
「間違いないね」
「ちなみに‥‥何処に戦争を仕掛けるかは判っているのかな」
「ウィルだろう?」
 キースの質問には、そう答えた。
「そんなの無謀だって逆らったお偉方が変死したとか、首都じゃ一時期騒然となったもんだが、妙なんだよな。ついこの間リグリーンに寄ったら、不気味なくらい街の中が活気付いててさ」
「へぇ‥‥」
「嫌な話ばっかり聞かされたんだぜ。地方の村から集められた男達が大勢変死して死臭が蔓延したとか、真夜中にそいつらの死体が歩き出したとかさ。まぁ噂なんて何処までホントか判ったもんじゃねぇけどさ」
 そんな事あるわけねぇのに‥‥笑い飛ばす商人の口が軽いのは、そう言いつつも言い様のない恐怖が胸中に渦を巻いているからだろうか。各地で異変の起きている昨今、自分達リグの国だけがカオスの魔物と無関係でいられるはずがないのは、きっと誰もが自覚している。
「リグに難民が増えたのもな、地方に品が届かなくなったのと、領民達の日々の糧まで戦争のために雇った傭兵達の食料に奪い取られ、働き手の男衆が兵役だって連れて行かれた挙句に「死んだ」だ。その理由だって兵役の訓練に耐えられずだの、訓練中の事故だのってな‥‥」
 だんだんと声が沈んで行く商人に、勇人。
「しかし、正騎士のモニカ卿も黒鉄の三騎士も、こんな民を苦しめる形での政策に賛同する感じには思えねぇんだが‥‥」
 言ってから、三騎士には忠誠心が。
 モニカには天界人という縛りがあったことを思い出す。最も、モニカが本当に天界人なのかどうかは定かではないようだが。
「なんだい、あんた達モニカ様を知ってるのか」
「そりゃ、有名人ですもの」
 驚いたように聞き返してくる商人に、そう応じたのは麗華。
「お近付きになりたいのは当然じゃないですか」
「ああ、確かにな。モニカ様は美人だし‥‥」
 不意に目元を緩ませた商人だったが、ハッと我に返ったかと思うと、遠慮がちに彼らを振り返り、言う。
「‥‥あのな。傭兵になりたいなら首都へ行けって言ったけどさ。実のところ、勧めはしないぜ? この国は‥‥おかしくなってる」
「おかしく?」
「ああ‥‥」
 商人は口篭った後で前方に視線を戻し、続ける。
「どうせ傭兵で雇われるなら、このずっと先にあるホルクハンデの傭兵になった方が後味は良いかもしれないぜ?」
「ホルクハンデの傭兵?」
「ああ。リグってのは、元は三つの分国で成り立ってた国なんだが、権力争いでリグハリオスに負けて分国王の地位を奪われてからは一介の領主。その積年の恨みが溜まりに溜まってるみたいでさ、ウィルを攻め落とすために戦力を寄越せっていうグシタ王の命令に背いただけじゃなく、ホルクハンデはホルクハンデで傭兵を集めて、リグハリオスを攻め落とす気らしい。このまま行けばウィルとの戦争の前に、リグの国での内戦だ」
「内戦‥‥」
 リールの復唱に商人は「ああ」と細かく頷く。
「その内戦に協力しろって、ホルクハンデからクロムサルタに度々使者が来てるって専らの噂だ。ホルクハンデからも王都からも自分のところの戦争に協力しろって言われてさ。クロムサルタ伯もいい迷惑だよな」
「‥‥クロムサルタ伯は‥‥戦に手を貸すおつもりなのでしょうか‥‥?」
「さぁなぁ。けど、協力するならホルクハンデだろう」
 不安そうな面持ちで問い掛けたイシュカに、商人は肩を竦めてそう答える。
「クロムサルタ伯は賢人だ。ウィルに戦争し掛けて異国に迷惑掛ける前に、何とか国内で手を打とうと考えるさ」
「‥‥」
 皆が口を揃えて賢人だと言うクロムサルタ伯。
 冒険者達は、その人の住む都ロレルサルタに辿り着いた――。