【黙示録】混沌の楔 4

■シリーズシナリオ


担当:月原みなみ

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:4

参加人数:9人

サポート参加人数:1人

冒険期間:04月05日〜04月20日

リプレイ公開日:2009年04月12日

●オープニング

 ● 領地を隔てて

 クロムサルタ領の都、ロレルサルタは冒険者達がこれまで見て来たリグ国内の中で最も活気に満ち溢れている土地だった。
 警護を依頼してきた商人は二、三箇所ほど用を足した後でリグハリオス領に向かう予定らしく、もしも冒険者達が王都で傭兵なり仕事を探すのであれば行き先は同じ、また護衛を頼みたいと申し出、もしも首都に向かうならば明日の今頃、この場所で待ち合わせようという言葉を最後に別れた。
 それから冒険者達も、何処へ向かうにしろ必要なのは情報だとして行動開始。手分けしてロレルサルタの各所へと散らばった。
 知りたいのはこの土地の領主の動き。
 リグの国の正騎士モニカ・クレーシェルや、高名な黒鉄の三騎士達がどのように認識されているのか。
「‥‥町での噂話だって、馬鹿には出来ませんし‥‥」
 冒険者の一人はそう言い、町の市場で不足しているものや、男女の比率を調査。
「しかしここのところの戦力増強、半端ないですね、先輩」
 酒場の一角で、王都ではなく隣のホルクハンデ領の傭兵募集に応じるつもりだという男を発見した冒険者は、彼に酒をご馳走しながら話を盛り上げる。
「もし正騎士のモニカ様と戦う事になんかなったらどうするんです」
「はぁーっははは! そりゃ光栄だよなぁ、こんな流れ者がモニカ様と一戦交えられりゃ、そりゃ死んで本望だろ!」
 彼は豪快に笑い、酒を煽り。
 別の食堂でも街の人々の話に耳を傾ける冒険者達の姿が。もちろん彼らとて何も注文せずに店内に留まるわけにはいかないからと軽い食事を取っていたのだが、その最中。
「そう言えばさ、香代」
 冒険者の一人が、石動香代に声を掛ける。
「陽精霊に、この国の要人達の位置情報を聞いて貰う事って出来るのか?」
「え‥‥」
 香代は驚いたように目を瞬かせた後で難しい顔。
「‥‥あとで、試してみるわ‥‥でも、私も、兄の魔法も、力はそんなに強くないし‥‥期待はしないで、ね‥‥」
「俺らの場合、術の数を増やすのに躍起になってたもんだから成功率もあんま高くないしな」
 兄の良哉がその頃の自分を思い出したように苦く笑った。



 そのような時間を各々が過ごし、再び集まった時に彼らが得ていたのは新たな四つの情報。
 クロムサルタ伯と呼ばれるこの土地の領主エガルド・J・クロムサルタは町民の噂通りの賢人であり、気性の穏やかな人物であるという事。
 また、彼はホルクハンデ領の領主側に付く事をほぼ決意しているという事。
 このクロムサルタ領でも傭兵の募集が集まるという事。
 そしてその説明を民にすべく、明日の正午に都の南、噴水広場に領主自らが姿を現すという事――。 

●今回の参加者

 ea3329 陸奥 勇人(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea3651 シルバー・ストーム(23歳・♂・レンジャー・エルフ・ノルマン王国)
 eb0010 飛 天龍(26歳・♂・武道家・シフール・華仙教大国)
 eb1592 白鳥 麗華(29歳・♀・鎧騎士・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb3839 イシュカ・エアシールド(45歳・♂・クレリック・人間・神聖ローマ帝国)
 eb4324 キース・ファラン(37歳・♂・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb4402 リール・アルシャス(44歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4856 リィム・タイランツ(35歳・♀・鎧騎士・パラ・アトランティス)
 eb7871 物見 昴(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●サポート参加者

真崎 翔月(eb3742

●リプレイ本文


「陸奥様は不破様、飛様は李様‥‥」
 声は抑え気味に仲間の名を繰り返し呟くイシュカ・エアシールド(eb3839)に、そのように緊張しなくても大丈夫だと声を掛けるリール・アルシャス(eb4402)。
「‥‥ええ、ですが‥‥」
 間違えそうな自身を歯痒く思う彼に、不意に声を上げたのは白鳥麗華(eb1592)。
「私のことは『うさみみのレイたん』って呼んでくださいね☆」
「――」
 頭上でぴょんとラビットバンド。
 遠くの樹上で鳥が鳴く。
(「外したか。外したか私」)
 ちっと些か悔しそうに指を鳴らして遠ざかって行く彼女の背に、リィム・タイランツ(eb4856)がぽつりと一声。
「麗華さんは天然さん‥‥?」
「だな‥‥」
 こちらもぽつりと同意を示すリィムに、イシュカは思わず笑みをこぼし、少し気持ちが軽くなった彼は自らも偽名を考えなければならない事を思い出す。
「‥‥いっそのこと本名を‥‥」
 口にしてから慌てて首を振り。
「‥‥そうですね、では『シュカ』で」
「シュカ殿か、それは私達も覚え易くて助かる」
 そう答えるリールは『リリル』と名乗る予定で、リィムは『ミィム』。皆、明日の噴水広場で行われるホルクハンデの傭兵募集における領主自らの演説を聴きに行く際に名乗る偽名を用意しているのだ。その中で一人、偽名を名乗る事無く、傭兵募集の場にも行かないと決めているのは物見昴(eb7871)。相棒の忍犬二頭と共にクロムサルタの先、ホルクハンデへの潜入を決意していたからだ。傭兵募集に応じて組織に入ることで見えてくる物は勿論あるだろうが、外にいてこそ見える物も確実にあるはず。加えて、中と外で情報を伝え合える術も確保しておくべきと言うのが忍としての昴の意見だった。
「こっちで入手した情報を伝える方法だけれど」
 その伝達には細心の注意を払わなければならない。周りが味方ばかりとは限らず、常に直接言葉を交わせるとも限らない。何処かの置石の配列、鳥の声真似、筆記記号での暗号文書の取り交わし――方法は様々あるが、昴がホルクハンデへ潜入し近くに居ない事を前提に考えると、困難な部分が有る事も否めない。
「直接会うなら変装は必須、だよな」
「ボクが外にいられるなら軽業師に扮するのもアリなんだけどねー」
 言う石動良哉に応えたのは、やはり傭兵募集に応じる予定のリィム。最も、この作戦も契約条件によって考え直す気は充分にあるのだが。
「ま、いざという時にはこの子らに手紙を託して届けさせるよ」
「ああ」
 忍犬達の頭を撫でて言う昴に陸奥勇人(ea3329)が頷く。
「何がきっかけになるか判らねぇしな。打てる手は打っていこうぜ」
 彼の言葉は、皆の気持ちの代弁。敵の正体も不明な現状で派手に動く事は危険極まりなくとも、消極的過ぎれば得られる情報は限られる。
 どう動いても不安は付き纏う。
 これまで数える程しか交流のなかった異国。
 土地の情報すら満足には無かったリグ全土を相手に、仲間二人を連れ戻そうと、たった十二名の冒険者で挑むだけでも難題なのだ。
「しかし触れを出せば事足りるだろうに、わざわざ自ら出向くとは。人柄は噂に違わず、か?」
 リグハリオスに聞く不穏な噂が真実ならば、勇人が呟く言葉から連想される事態は、一つ。ここで手を打たれても不思議はなく、領主が真に賢人ならばそれを予測しないわけがない。飛天龍(eb0010)もそれを想像し、すぐ傍で作戦を頭に入れようとしている幼子の肩を叩く。
「さすがにユアンの外見では相手も傭兵として雇う事はしないだろう。おまえは俺と共に外からの情報収集にあたって貰うが、良いか?」
「はいっ」
 師匠と一緒ならば反対意見など出るはずもない。自分も出来る事で役に立とうという強い思いに、勇人が言葉を重ねる。
「ユアン。これからは下手すりゃカオス相手でなく人同士の戦いにもなる。だからお前は最優先で自分の身を護れ。そうすれば俺達が気兼ねなく動ける分、皆にとって有利になるからな」
「はい!」
 一方で、そんな幼子を心配そうに見遣る石動香代に気付いたキース・ファラン(eb4324)は、彼女の固く握られた拳を労わるように触れた。
 最初こそ驚いた顔を見せた香代だったが、その手を拒む事はなく。
 傭兵募集に応じるべくヴィントの名でダガー使いのレンジャーとなるシルバー・ストーム(ea3651)は、戦法を変えるため自ら持ち歩くわけにはいかないスクロール魔法の巻物を香代に預かっていて欲しいと話す。
「多少なりとも碑文についての知識の有る方の方が安心出来ます」
 その言葉も自分を元気付けるためだろうかと、そう思った香代は深呼吸を一つ。気を取り直すように表情を改めるとシルバーから巻物を受け取った。
「‥‥ちゃんと預かるわ‥‥大切に‥‥」
「ええ」
「‥‥ありがとう」
 その言葉をキースに向ければ、彼は笑む。香代は笑っていた方が良いと思うけれど、実際に声に出せばまた怒らせるのは想像に容易かったから、ただ静かに笑んだのだ。





 翌日、天龍とユアンは皆に先駆けて宿を出ると伯爵の演説があるという噴水広場付近で食べ物の露店を出すべく確認に行き、勇人とリールは昨日まで護衛役として旅路を共にした商人に会う。さすがに昨日の今日で再び共に旅立つ事は出来ないが、改めて昨日までの感謝を伝えたいと思ったからだ。
「本当にいろいろとありがとう。旅の無事を祈っているよ」
「礼を言うのは此方の方さ」
 商人は照れたように笑う。
「俺達も色々とリグ国内の話が聞けて助かったさ。また目ぼしい話やきな臭い動きなんか耳にしたら教えてくれ。また会う事もあるだろうしな」
「おう!」
 そうして商人に別れを告げ、彼の出立を見送ってから二人も噴水広場へ。
 その頃には広場は屈強な身体つきの男達で溢れ返り、その周りを囲むように大道芸や露店を広げている人々に混ざって、温かなスープを売る天龍とユアンの姿があった。広場の外周、全体を見渡せる好位置。
「一つくれ」と勇人が声を掛けると、途端に表情を綻ばせたユアン。そんな幼子にリールは小さく笑うと、声には出さず人差し指で自分の顔を指す。
 それでは顔見知りだとばれてしまうぞ、そんな思いを込めて。
 慌てて顔を元に戻す幼子に天龍も笑い、何気ない言葉を交わす。
「すごい人だな」
「千人近く集まっているらしい」
「皆、傭兵になるために?」
 リールが話しに乗ると、その声を聞きつけた男が話に割って入って来た。
「今のご時世、傭兵稼業しか稼げる仕事はないだろう」
 これは話が聞けそうだと判断した天龍は湯気立ち昇る椀を一つ、男に差し出す。
「なんだか雲行きは怪しいがこれでも食べて元気出してくれよ」
「おお、こりゃ有り難てぇ」
 男は遠慮無くそれを受け取ると、冒険者達が何かを聞くより早く色々と喋ってくれた。
 そしてその内容は、リィムが酒を勧めていた男達から聞いた内容と似通ったもの。つまりは、それが大多数の人々の認識。
「グシタ王は確かに素晴らしい王だった! 先代のおかげでこの国は栄えたんだし、俺達リグの民は、決してリグハリオス家に怨みを持ってるわけじゃねぇ」
 恐らく彼らの胸中には不穏な噂が聞こえ始めて来た当初から正体の見えない不安や恐怖が募り、けれど声には出せない思いが積もり積もっていたのだろう。
 銘酒「桜火」の力も借り、一度堰を切った本音は止まる事を知らない。
「リグハリオス家をこのままにしちまったら、リグの国は終わっちまう! 動くなら今しかねぇんだ!」
「んー?」
 お気に入りのイルカのイヤリングを外したり衣装を変えたりと普段と異なる雰囲気を醸し出すリィムは些か不思議そうに聞き返す。
「なんだ、傭兵稼業は儲かるから今回の募集に名乗りを上げたわけじゃないのか?」
 口調も変えた彼女に、男。
「生きるにゃ金が必要だろ!」
 一気に喚いて、泣きそうな顔。
 基本的に酒には弱いようだ。
「けどな、違うんだよ。家族養うにゃ金が必要だ、少しでも稼げる仕事が欲しい! けどなっ、いくら金があったって国が崩壊しちまったら終わりだろ? エガルド卿はなっ、リグを救おうとされてんだっ、だから付いて行こうって俺ぁ決めたんだ!」
「リグを救う?」
 聞き返すリィムに、男は卓に突っ伏す。
「俺にぁよく判んねぇよ‥‥けどな‥‥グシタ王は人が変わっちまったんだ‥‥ウィルに戦争し掛けようなんて‥‥そんな暴挙‥‥俺らが止めにゃならんだ‥‥――」
 完全に酒が回ったらしい男は、それきり眠ってしまった。


 同時刻。
 傭兵になるつもりはないが伯爵の演説は聞きたいと広場に来ていた石動兄妹の傍には麗華とキース、シルバー、そしてしっかりとフードを被ったイシュカの姿があった。ほかのメンバーがそうしているように広場の出入り口や周囲の環境、人の行き来に注意を払いながら、しかし警戒ばかりしていては他者から不審な目で見られる恐れもあるため、無言にはならないよう気をつける。
 そんな中で麗華が零した呟きは冒険者達の気を引いた。
「香代さんの未来視で視えるビジョンですが、焼け野原と女性の鎧騎士、でしたね。ウィルの騎士団長じゃないわよね。リグのモニカ様だとすると‥‥確認には絵姿入手がやっぱり必要かぁ」
「その人なら、俺は会った事があるけどな」
 キースが言うと、石動兄妹は驚いた顔で彼を見る。
「そうなのか?」
「ああ。一度‥‥ウィルからドラグーンが贈られた式典の時にさ」
 長い銀髪の美しい女性。髪の色に似せた白銀の衣装は、露出は控えめなのだが清楚な色気を醸し出し、腰に帯びた武器は魔剣。
「俺に絵心があれば描けるんだけど」
 貴族として美術品の鑑定眼にはそれ相応の自信があるものの、実際に自分の手で描くとなれば話は別。他の面々にも絵心はほぼ皆無のため、そこは誰にも責められない。
「後でリール‥‥いや、リリルに描き出して貰うか?」
 慌てて名を呼び直す良哉に、本人を呼ぶ時以外は然程気を使う必要はないでしょうとシルバー。
「でも‥‥いま聞くだけでも‥‥特徴は一致していると思うの‥‥」
 香代は告げる。
 彼女自身、未来視で件の女性の姿をはっきりと見ているわけではない。だが、長い銀髪だけは印象が強くて覚えている。
「‥‥もし、その女性がリグの正騎士モニカ・クレーシェル様なら‥‥香代様がご覧になられた未来視は、どのような意味を持つのでしょう‥‥」
 イシュカの思案には良哉が。
「カインの阿呆が、その正騎士を口説き落としてたら今回の事も含めて許してやってもいいけどな」
「‥‥‥‥それは、絶対に無いと思うわ‥‥」
 昔から知る友だからこその断言に冒険者達は失笑。
 と、不意に周囲がざわつく。
 そして歓声。

 ――――――!!

 リグの国、クロムサルタの領主エガルド・J・クロムサルタが民衆の前にその姿を現したのだ。





 その人は緩やかに波打つ長い白髪を背で一つに結わえ、豊かな真白い顎鬚を蓄えた、見た目にはとても柔和な人物だった。
「皆、よく集まってくれた」
 民に声を掛け、名乗るエガルド卿の声は聴く者の心を包み込むような、不思議な力を帯びているように感じられる。
「既に聞き及んでいる事と思うが、我がクロムサルタ領は遠からず戦火に見舞われるだろう。もはや逃れられぬ道ならば、私は一人でも多くの民を生かさねばならぬ」
 伯の声を聞きながらも冒険者達の目は四方を注意深く探る。
 魔物探査のアイテムを持つ者達はそちらに目を向け、我知らず周囲に広がる緊張感。
 石の中の蝶はいまだ羽ばたかないが。
「悠陽?」
 普通の子供を装って勇人に寄り添っていた陽霊が縋りつくように彼の衣服を握り締めた。アイテムよりも、その存在そのものがカオスの魔物を嫌悪する精霊達だからこそ知り得る術。
 やはり来たか、それが答え。
「リール!」
「ああ!」
 二人は人混みの中を領主目指して駆ける。
「気を付けて‥‥っ」
 思わず呟く幼子の肩を天龍はそっと抱いた。
 そして別地点、勇人達の動きを察した麗華、キースらは投擲武器に手を掛けて周囲への警戒を強める。
 ――来る。
 しかし蝶は羽ばたかず。
 まだ遠く。
「一人でも多くの民を生かすためには、一人でも多くの戦い手が必要だ。敵は我等が王、酷な戦となるであろう。それでも我等と共に‥‥」
 伯の言葉が途切れたのは、皆より一段高みにいた彼が群衆の中で駆けて来る二人に気付いたから。その反応に弾かれるように勇人達を抑えようと騎士が行く。
「待て!」
「待てない、魔物が来るぞ!」
 リールが即座に応じれば騎士は自分の指を確認した。そこに嵌められていたのは『石の中の蝶』、彼らはやはり魔物の襲来を懸念しているのだ。
「何を言うか、まだ魔物など」
「その道具が反応を示してから動いたんじゃ遅い!」
「貴様、何を根拠にっ」
「精霊の娘だ!」
 示す陽霊の姿に騎士達の動きが止まる。
「――そなた、精霊の加護を受ける者か」
 エガルド卿の言葉に。
「チッ」
 人混みの中、舌打ちを聞いたのはキース。
 動く者に気付いた麗華。
 この人混みだ、人間の内にも敵が潜むは容易。
「蝶が‥‥!」
 それが反応を示した時、魔物は既に人々の目に触れる近距離で牙を向き、此処は戦場と化す。
「エガルド卿を御守りしろ!」
 騎士達の声と、突然の戦に逃げ惑う人々の悲鳴が交錯する中で目立つ事無く人々を誘導していたのは天龍やリィムだった。
 白魔法を発動し仲間を援護するイシュカ。
 その混乱の中で的確に敵と判断した人間の拘束に成功したのはキースと麗華。
「‥‥これだけ派手に動いてしまえば、恐らくなし崩し的に私達はエガルド卿の目に留まってしまうでしょう。別れ別れになってしまった場合には‥‥」
「ああ。情報交換にテレパシーな!」
 シルバーと良哉が早口に確認し合い、シルバーもまた伯のもとへ。傭兵希望のレンジャーとして彼を護りに行くのだ。


 後に、彼らは聞く。
 魔物の襲撃が判っていて何故自ら演説の場を設けたのかと。
 伯は答えた。
 この日に魔物の襲来があればその意図は明らか。
 民は国の真実を知るべきだと――。





 時は前後し、クロムサルタの噴水広場に魔物の襲撃があった数日後。ホルクハンデへの潜入を果たしていた昴は、同伴していた忍犬達が不意に見せた変化に足を止めた。
「どうした」
 主の言葉に忍犬達は大地の匂いを嗅ぎ分けながら、先へ。
 ホルクハンデの都オルタリカに近い森の中。
 大木の根元で死んだように眠る男を見つけた昴は自分の目を疑った。
「――‥‥カイン?」
「!?」
 名を呼ばれるなり飛び起きたのは、それだけ気を張っていたという事だろうが忍の気配を掴むには精進が足りていなかったらしい。
「ぁ‥‥!」
 昴を視認するなり、明らかに「やばい!」と言った顔で逃げ出そうとする彼を、当然確保。
「ちょっと待ちな」
 いとも容易く捕まえれば、カインはがっくりと膝を付き観念。
 別行動を取っているリラに何度も詫びながら、――諦めた。