【負の閃光3】〜エイジス砦襲撃

■シリーズシナリオ


担当:月乃麻里子

対応レベル:8〜14lv

難易度:やや難

成功報酬:5 G 47 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月09日〜07月15日

リプレイ公開日:2008年07月18日

●オープニング

 広大なサミアド砂漠にそびえ立つ頑強な要塞エイジス砦のことを知らぬ傭兵はメイにはいない。
 このエイジス砦はいったんはカオスゴーレムを有するバの侵攻に屈したものの、先の停戦条約によりメイへ返還されていた。(オルボードとロドバーは依然バの支配下である)
 だが、停戦条約を破ったバの軍は『アビス』と呼ばれる飛行能力を備えた金属ゴーレム2騎と恐獣部隊を使ってエイジス砦に猛攻撃を仕掛け、正面きって堂々とメイへの再侵攻を開始した。
 これに対し王宮は、カオスの穴封印作戦の指揮をとった勇将カフカ・ネール卿を総司令官として現地に向かわせ、『反乱軍鎮圧』以後多大な功績を挙げているオークランド卿を陸戦部隊の指揮官としてこれに随行させた。
 加えて冒険者ギルドにおいても、この砂漠の大戦に参戦する勇士が募られることとなった。


「だから、どうして俺が行かなきゃならないんだ」
 と、王都のKBC本部の一室で不機嫌に口を尖らせているのはジョゼフ・イヴェールであった。
「琢磨くんが戻らない以上、仕方ありません。私は本部を動けませんし、今回はジョゼに行ってもらうしか」
 ジョゼというのはジョゼフの愛称である。KBC内でエドガーをエドと呼び、ジョゼフをジョゼと呼んだのは琢磨が最初だという話だ。
「フン。後輩である琢磨の尻拭いを先輩である俺がするのは当然と言いたいところだが、傭兵として出向いて敵方に俺の面が割れるのは、あまり喜ばしいとは思えないが」
「それはそうなんですが」
 ジョゼフの意見ももっともだとうなづくのはKBCの優秀な書記長にして局内きってのブロンド美形『好青年』の誉れ高いエドガー・クレハドルである。
 もともとジョゼフは諜報部の汚れ仕事を請け負う裏方役で、琢磨のように記者として表舞台に立つ人間ではない。上城琢磨がこの場にいれば彼を現地に派遣すればすむ話だが、あいにく琢磨は『反乱軍鎮圧』以降行方が知れない。
 といっても、このふたりの耳にはすでに琢磨を王都付近で見かけたという情報が届いていたのだが、エイジス砦に向かうまでに彼を見つけ出せる保証も残念ながらなかった。

「ともかくジョゼは傭兵としてオークランドの陸戦部隊に加わってください。例のモナルコス鎮圧の折に、冒険者が『カオスの魔物』の気配を察知したのは事実です。オークランドとカオスの魔物の繋がりを探ることは国を思うネール卿の強い意思でもある。いくら伯爵とて、証拠がなければ公では何も言えませんからね。だから、ここは僅かな手がかりを掴むためにも‥‥」
「もういい。俺がいけばいいんだろ、いけば!」
 と、長い黒髪をかきあげながら眉間に皺を寄せて吐き捨てるようにジョゼフ。そんな彼を、なんだかんだ言っても頼りになる男だとエドガーは思う。
「さすがに先輩は物分りがいいですね。では、よろしく頼みます」
 と、にこやかに微笑む同僚にジョゼフが苛立たしそうに踵を返す。と、エドガーが思い出したように声を上げた。
「ああ、ジョゼ、それから」
「今度はなんだ」
「例の『アビス』とかいう、背中に羽の生えた巨大な2本角をはやした鉄色のゴーレムのこともできるだけ調べてきてください。聞くところによるとそのゴーレムは、過去ナイアドに現れた触手を持つタイプとは異なるようで、加えてメイのゴーレムほどには、長時間の稼動はできないようですが、空を飛べるのはやはり厄介ですから」
「了解した」
「じゃあ、気をつけて行ってきてください。骨は私が拾ってあげますから」
「誰が、バごときにやられるか。それより、俺が帰るまでに琢磨のやつ、そっちでなんとかしろよ」
「それは勿論!」
 バタンっとドアを閉め、ジョゼフが部屋を出たあと、残ったエドガーはあらためてオークランドに関する資料に目を通した。
 少し前の話になるが、前線で麻薬横領の罪を着せられた若者、彼は結局のところ証拠不十分で無罪放免となったのだが、一度は罪人の汚名を着せられ、行き場を失った彼を快く己の配下に迎えたのは、他ならぬオークランド卿であった。彼は熱弁を振るって、過酷な取調べに我慢強く耐えた若者を称え、その勇気と信念を認めて、彼に誇り高き騎士として働ける場所を与えた。現在、オークランドは王宮より男爵の爵位を授かっている。
「この男のことも気がかりですが、今はバの動向に注意しないと。そのためにも琢磨くんを一刻も早く見つけ出さなければ」
 深いため息をひとつ吐くとエドガーは窓辺に立ち、青く澄み切った高い空を、その青さに劣らぬ澄んだ瞳で見上げた。


■依頼内容:砂漠の西方よりエイジス砦を攻撃してくるバの軍を退け、余裕があればオークランドの身辺も探ること。砦の略図は図書館にあり。



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│∴∴∴∴サミアド砂漠∴∴∴∴∴∴│
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↓リザベ・オルボード

凹/エイジス砦
凸/バ軍

【確認済みの敵兵力】
アビス 2騎 (体長はカークランほどと思われる)
カオス恐獣部隊(翼竜プテラノドン 1小隊)
カオス恐獣部隊(デイノニクス 1中隊)
バグナ 5騎
バの将軍、バの騎馬・歩兵部隊


【使用可能なゴーレム】
オルトロス 2騎
アルメリア 1騎
モナルコス 10騎まで
グライダー 3騎
ダロベル(デロベ級2番艦)1隻
邀撃戦闘艦(コンゴー級) 1隻


※NPC鎧騎士(専門レベル)使用可能
※総司令官 カフカ・ネール 陸軍司令オークランド
※ゴーレム部隊の指揮は冒険者に委任。チャリオットも必要であれば使用可能とする

●今回の参加者

 ea0439 アリオス・エルスリード(35歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea1587 風 烈(31歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1702 ランディ・マクファーレン(28歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea6382 イェーガー・ラタイン(29歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb1388 服部 肝臓(39歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb4155 シュバルツ・バルト(27歳・♀・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb4244 バルザー・グレイ(52歳・♂・鎧騎士・人間・アトランティス)
 eb7992 クーフス・クディグレフ(38歳・♂・鎧騎士・人間・メイの国)

●リプレイ本文

●カフカ
「拙者、正面きっての大規模会戦は性に合わないでゴザルよ。できれば例の件の内偵調査に専念させてもらうでゴザル」
「ああ、そうだな。作戦中は厳しいが、それ以外なら俺も内偵に回らせてもらおう」
 隠密行動を得意とする服部肝臓(eb1388)がアリオス・エルスリード(ea0439)に連れられて広間の扉をくぐった。ここは貴族街の中にあるネール卿の別宅である。

「ティトルのステファンベール男爵ですと?」
 バルザー・グレイ(eb4244)が驚いたように声を上げ、同時にエクレール(稲妻)とあだ名されるこの男に覚えのあるランディ・マクファーレン(ea1702)とクーフス・クディグレフ(eb7992)が揃ってカフカを向き直った。
「ただの噂だがね。大きな声では言えないが、その貴族が金銭面を含めてオークランドの後ろ盾になっているという話だ」
 貴族とカフカは説明したが、エクレールは名の知れた豪商で、その爵位すら金で買ったと噂される狡猾な人物である。
「政治向きに関わる話をお尋ねして申し訳ありませんでした。でも、これで更に奴のことを調べやすくなります」
 バルザーはそう言って丁寧にカフカに礼を述べた。
「いずれにせよ、順調に出世している今、オークランド卿が表立って軍を裏切ることはないんじゃないかな。それよりも、俺はカフカさんの身が心配です」
「王国内での栄達の為かバとの内通に依るものかはわからないが、奴が目の上のコブであるネール卿を狙う事は考えられる。卿に許しを頂けるなら、作戦中以外は俺が卿の警護を引き受けよう」
 風烈(ea1587)の意見に賛同したランディが護衛を買ってでた。と、今まで話を聞いていたイェーガー・ラタイン(ea6382)が口を開いた。
「ところで、麻薬横領の罪に問われた若者はその後どうしていますか」
 イェーガー同様、若者の動きが気になる肝臓も耳をそばだてる。
「彼は‥‥」
 額に垂れる金色の巻き毛を指先で摘みながらカフカは言い難そうに続けた。
「オークランドの側近としてよく仕えている。まるで彼の信望者のように」
「信望者?」
「会ってみればわかるよ」
「ではそちらは後ほど挨拶に出向くとして、卿もくれぐれもご用心下さい。卿自身が本作戦の要であり、生き残ることもまた責任なのですから」
「ありがとう、今回もよろしく頼む」
 クーフスの進言に快く答えると、カフカは運ばれてきた薫り高いハーブティーに口を付けた。

●オークランド
「今回の作戦は野戦を取ることになった。厳しい戦いになるだろうが、勝利するのは我らだ」
「はい! 卿が先陣に立たれて負けた戦などございません。私は卿のもとで働けて幸せでございます」
 エイジス砦に着いてのち、冒険者が早速オークランドを訪ねたところ、ロミオという若者が立派な騎士の姿で現れた。彼こそが罪人の汚名を着せられた若者である。ロミオは見知った顔を見つけると恭しく頭を下げ、礼を述べた。
「なんだ、君たちは知り合いだったのか」
(なんかワザとらしいわねぇ〜〜!)
(まあまあ、もうしばらく様子を見ようよ♪)
 すでに殺気立っているフォーリィ・クライト(eb0754)を隣にいるエイジス・レーヴァティン(ea9907)が小声でなだめる。
「両名が反乱軍鎮圧の折にモナルコスをあっけなく撃破したという、有名な『ハーフエルフ』か」
「ハーフエルフでは問題ですか」
「口の利き方に気をつけたまえ!」
 口を挟んだシュバルツ・バルト(eb4155)を横目で睨みつけると、オークランドは不機嫌そうに席を立つ。と、今度はクーフスが恭しく頭を下げる。
「世界の敵たるカオスに与する悪しきバ国に対して、卿と共に戦えることを光栄に存じます」
「カオスに与すは言い過ぎだが、他国を侵略せんとする悪しきバ国を打ち倒すことはメイの悲願である」
「アビスという新型はカオスゴーレムではないのですか」
 イェーガーの問いかけにオークランドは悠々と答えた。
「君たちはバが魔物に乗っ取られているとでも言いたいのかね。バの騎士は血の通った人間ではなく、すでに魔物だとでも?」
「それは‥‥」
「フン。バカバカしい話だ」
 冒険者が口ごもるのを尻目にオークランドは続けた。
「カオスの力があろうがなかろうが、我らは祖国のために戦うのみだ。怖いなら今すぐ砦を去るがよい」
 強い口調で言い放つと陸軍司令官はロミオを連れて部屋を出た。烈が用意した聖なる釘の結界を難なく通り抜けて。

●合戦
「この場所でこれ以上好き勝手はさせない。ここを戦場に選んだことを後悔させてあげるよ」
 朝の光の中、土煙を上げながら突進してくる敵国の兵を睨んでエイジスが呟く。
 この砦は過去何度となく戦場になっている。苦い敗戦の記憶もあれど、仮にも同じ名を冠した場所であり、多くの戦友たちが眠るこの砦で負けるわけにはいかないとエイジスは思う。
「ほんっと、ここにはいい記憶なんか全然ないけど、ま、がんばりますかっ!」
 思いはフォーリィも同じだ。
「歩兵ごときに主力ゴーレムを砕かれたとなれば敵の士気が下がるのは必定よね。じゃあ、一人で二機ぐらい倒せれば十分かな」
「ああ」
 彼女の問いに素っ気無い返事しか返さないところをみると、すでに狂化が始まっているらしい。冷徹な戦闘マシーンとなったエイジスはゴーレムバスターを手に隊長機と思しき機体に飛びかかると、豪快にスマッシュEXをお見舞いし、フォーリィはポイントアタックを連発してバグナの足を封じていった。

 一方、烈とランディは騎士や兵士たちの援護に回っていた。
「この武具は高いからな、必ず生きて戻って俺に返せよ」
 爽やかに微笑みながら烈は戦闘馬に積んできた武具を各小隊の隊長に手渡す。数で押してくる敵に勝つために1+1を20の力にするようにと、烈は兵士を励ました。
 バルザーとクーフスはオルトロスで参戦。敵はまだアビスを投入せず、崩れかけている砦の西側を集中的に攻めていたが、
 モナルコス5騎を束ねるバルザーはその質量でデイノニクス制圧にかかり、クーフスはバグナ殲滅を加勢した。
 オークランドが指揮する騎馬隊も成果を挙げ、陸は味方有利であった。

**

「このまま終わってくれれば楽だが、そうもいかないな」
 ダロベルに乗船し、バリスタ隊の指揮を任されたアリオスが呟く。
 これまでも一緒に戦って、幾度も翼竜を打ち落としてきた弓兵たちとはすっかり息の合う彼は、翼竜の1小隊を難なく追い詰めた。勿論、コンゴー級に乗ったイェーガーとグライダー隊を指揮するシュバルツの働きも大きい。
 シュバルツはマジッククリスタルでまず敵の出鼻をくじこうとしたが、先に翼竜に乗った魔術師のストームを受けて一旦は離散。だが、彼女は動じることなく体勢を立て直し、猛進してくる翼竜をかわすとソニックブームを放ち、カオスニアン操者を見事に振り落とした。
「アドバンテージのあるもので勝負しなければ、数の差は埋まらない。皆、一撃離脱で確実に敵を落とすように!」 
 シュバルツの叫びが空を駆ける。だがこの時アリオスの予想通り、バは巻き返しを図るべく2騎のアビスを陸と空とに放った。
「アビスがダロベルに向かってゆきます!」
 コンゴー級の砲座に緊張が走る。
「バリスタで弾幕を張ってダロベルを援護します! アビスを船に寄せ付けるな!」
 イェーガーの声が船内にとどろく。しかし、アビスは翼竜よりも巧みに矢をかわすとダロベルの横っ面に回り込み、鋭い爪で砲座の一部を破壊した。

**

「総司令、このままでは」
「船を沈ませるわけにはいかん。アビスと距離を取って――」
 とカフカが言い終わらないうちに、ひとりの騎士が叫ぶ。
「我は『混沌を広げる者』に仕えし者! 我らの邪魔をするものは排除する!!」
「貴様、なにをっ」
「うるさいっ、そこをどけ‥‥うああっ」
 カフカを庇って前にでた老騎士を斬り付けようとした若者の手に手裏剣が深々と突き刺さり、剣は音を立てて床に落ちた。
「間に合ったでゴザルか」
 ブリッジ付近に身を潜めていた肝臓は刺客の顔を確かめてギョっとした。若者は肝臓たちがその身を救ったロミオであった。
「なぜ‥‥」
 と問う前に拡声器からアリオスの声が響き、アビスにバリスタを浴びせようと船の操舵に注文をつける。まだ戦闘は終わっていない。
 カフカはロミオを監禁するよう申し付けると、直ちに船の指揮に戻った。

**

『それしきの矢は屁でもないわ!』
 アルメリアから放たれた矢を背中の翼で防ぐと、アビスに乗った女騎士が吠える。
『ならば、これではどうだ!』
 陸に降り立ったアビスに、オルトロスに搭乗したバルザーが剣を振るう。渾身込めて振り下ろされた剣をアビスは両の爪で受けたが、勢いに押されて地面に倒れこんだ。
『ちぃ、ゴーレムは厄介だ』
 二打目めを身軽にかわすと、アビスは一度飛び立ってから恐獣部隊を抑えていたモナルコス一騎を空から殴りつけた。
 横倒れになったモナルコスの制御胞めがけてアビスが激しく爪を突き立てる。
「あいつ、制御胞を壊す気だ!」
『そんなことはさせん!』
 クーフスのオルトロスが割って入り、盾を押し付けながらアビスと近接戦に入った。そこにフォーリィたちも加勢に入る。
「勝てない戦じゃない! 敵を勢い付かせるな、押し返せ!」
 同時に時味方の士気を奮い立たせんと、ペガサスに騎乗したランディの声が飛ぶ。
 その直後、西の方から大きな音とともに狼煙が上がり、上空にいたアビスが地上に舞い降りた。
『撤退するぞ』
『まだ動ける!』
 だが、女鎧騎士を制してもう一騎のアビスが撤退を促す。
『ペンドラゴンは大罪人だ! 我が祖国の同胞たちの仇を討つまで私は何度でも戦うぞ!』
 女鎧騎士は大声で怒鳴ると金属の翼を広げて空高く舞い上がった。

 バ軍を押し返したものの、フロートシップは多少の手傷を負うこととなった。
 アビスはバリスタを一発まともに食らったが、堕ちることなく攻撃を続け、イェーガーが単身でホーリーアローを放つもアビスを撃墜することはできなかった。

●密談
 その夜、烈たちが兵士を集めてささやかな祝宴を始めたころ、オークランドは個室で副官とともに祝杯を挙げていた。
「ロミオが仕損じました」
「そうか、まあいい。今回の勝利で私はさらに上の信用を得ることができるだろう。ただ、ロミオのことは」
「ご心配には及びません。彼は勝手に魔物に取り付かれたのです。ロミオがそう語っているのです。貴方様が責任を負うことではございません」
「だが、知らん顔というわけにもな。後でカフカには詫びを入れておくか」
「御意に」
 副官は皿に盛られた果物に手を伸ばす。
「だが、ユリシーズよ。おまえはどうやってそうも容易く人の心を操ることができるのだ。まさか、おまえが魔物ではあるまいな」
「ご冗談を」
 冷たい微笑みを口元に浮かべると副官は果物を頬張る。
「だが、おまえのおかげで私はここまでこれた。おまえが魔物だとしても、私はおまえを大事にするぞ。私のためにこれからも尽くしてくれ」
「はい。かの者の情報が正しければ次の戦はクレナ島。大勢人が死にましょう」
「そして、勝利するのは私だ」

 彼らの会話を屋根裏で聞いていたアリオスと肝臓は、いち早くこの件を仲間に知らせた。