【死を撒く者】死村
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■シリーズシナリオ
担当:U.C
対応レベル:2〜6lv
難易度:やや難
成功報酬:2 G 24 C
参加人数:8人
サポート参加人数:6人
冒険期間:09月12日〜09月18日
リプレイ公開日:2004年09月21日
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●オープニング
「‥‥この村の住人は、どれくらいの人数なのかな?」
とある日、とある村の入口に現れた若者が、通りがかりの村人にそう声をかけた。
「ん? あ、ああ‥‥」
農夫らしく、鍬を担いだ男が50人くらいだと答えると、その若者はちょっと考える顔をして、
「そう。まあ、それくらいが丁度いいかな。少ないと騒ぎにならないし、大き過ぎると時間がかかるから‥‥」
などと、呟く。無論、農夫には何の事かわからない。
笑顔で礼を言う若者に別れを告げ、農夫は彼に背を向ける。
旅の者か、と思ったが、それ以上は特に気にならなかった。
‥‥が、
「さて、それじゃあ始めようか」
背後から聞こえてくる、若者のどこかのんびりとした声。
と同時に、農夫の傍らを火球が通り過ぎていき、前方にあった家に当たると‥‥轟音を上げて爆発した。
「!?」
声を上げる事もできず、衝撃で飛ばされて、彼は地面を転がる。
一瞬の間意識が途切れ、のろのろと顔を上げると、すぐ前の地面に大穴が開き、そこにあった家が殆ど吹き飛んで単なる瓦礫の山と化していた。遠くで誰かの悲鳴が聞こえ、近くでは‥‥。
「すぐに終わらせたんじゃ意味がない。この事が知られて、誰かがお人よしの冒険者達に助けを求めるまで、じわじわとやらないとね」
楽しげな、声がした。
そちらに顔を向ける。背後に。そこにいる、黒衣の若者に。
彼は、もう1人ではなかった。
周囲には、腐った身体を持つ、ゴブリンのズゥンビが5、6体。さらに若者の両隣には、ぼろぼろのローブを纏った男達が立っている。ただし、こちらも死人だった。ローブから覗く顔や手の肌が、いずれも土気色だ。そして、足元には一匹の黒猫‥‥。
‥‥お前は誰だ? 何故こんな事を?
そう尋ねようとしたが、口から出たのは言葉ではなく、大量の血だ。吹き飛ばされた時に内臓をやられたらしい。急速に身体から力が抜けていく。寒い。死が確実にそこまで迫っていると確信した。
黒衣の若者は、その死に行く者を見下ろすと、
「筋肉のつき方は悪くないけど、それだけだね。いいズゥンビにはなりそうもない。だから、キミはいらないよ」
笑顔で、そう告げる。
片方のローブの男の身体が淡い光に包まれ、魔法が編み出された。どうやら、この者達はウィザードのズゥンビらしい。
さらに、牙から腐汁を滴らせたコブリンのズンビが数体、ゆっくりと迫ってくる。
‥‥幸せな事に、農夫の意識は、そこで永遠の闇に飲まれた。
一瞬の間を置いて、彼の身体はウインドスラッシュで切り刻まれ、ゴブリン達に引き裂かれる。
「さあ‥‥この村が舞台だ。今回は冒険者のズゥンビも用意したよ。早く来るといい‥‥今度は僕も、やる気だからね‥‥ふふ‥‥」
眼前で繰り広げられるひとつの死を眺めながら、微笑む若者。
夕暮れの赤い光が、まるで血のように彼の身体を包んでいた‥‥。
‥‥キャメロットから3日程行った村に、今までに何度か確認された黒衣の若者が現れたそうだ。
彼は村をズゥンビで襲い、村人をズゥンビにし、家屋を破壊してと、暴虐の限りを尽くしている。
言うまでもないが、彼を止めるのが、今回の依頼である。
情報によると、現場にいるのはゴブリンのズゥンビと、ヒトのズゥンビの2種類だが、どうやら中に、ローブを纏った魔法を使うズゥンビが混じっているようだ。おそらく‥‥元冒険者、それもウィザードだった者のズゥンビだろう。他のヒトのズゥンビは、全てこの村の者だと思われる。
また、これは憶測でしかないが、今回はどうも、君達冒険者を呼び寄せるために、このような事態を引き起こしたと思われる節がある。
おそらく、熾烈な戦いとなるだろう。
向かう者は、万全を期して望むように。
‥‥以上である。
●リプレイ本文
その小さな村に、生きている住人はもはや皆無だった。
通りには死体が転がり、立ち並ぶ家の壁には、所々飛び散った鮮血が黒い染みとなってこびりついている。
人も、家畜も、飼い犬ですら、その死の洗礼からは逃れられなかったようで‥‥ただ、累々たる屍が横たわるのみだ。
「‥‥女も子供も、動物ですら容赦なしかよ。あいっかわらず、極悪に趣味が悪いよな。あの黒猫付属品!」
嫌悪感を隠そうともせず、サフィア・ラトグリフ(ea4600)がそんな台詞を口にする。
「‥‥酷いものですね。私達が彼を取り逃がした結果がこの惨状ですか」
一方、感情を押し殺したような声音で呟く、シアン・アズベルト(ea3438)。
「‥‥ズゥンビの大群なんて不愉快なモンは、これで見納めにしたいなあ‥‥」
そう口にするクィー・メイフィールド(ea0385)の表情は‥‥怒りと、どこか悲しみがある。
彼等の周囲で、ゆらゆらと人影が揺れている。
土気色の肌に、血と泥に汚れた衣服、どろりと濁って何も映さぬ瞳‥‥生ける死者、ズゥンビの群れだ。村人のなれの果てである。
逃げ延びる事ができたのは、村の全住民のほぼ半数──20数名だった。ここに来る前、冒険者達は恐怖におびえる彼らから、村の様子を聞いている。
そして‥‥逃げる事が叶わなかった村人達は、今もここにいた。それらを操る者も、また。
冒険者達の前方、村を貫く街道のほぼ中間地点に立つ、黒衣の若者‥‥。
顔には柔らかな笑みを浮かべ、足元には一匹の黒猫。両脇にはぼろぼろのローブを纏ったウィザードズゥンビを従えている。
彼らを挟み込むようにして、前後には10数体づつのズゥンビがおり、左右両側の家屋は激しい炎を上げて燃えていた。あらかじめ油でも撒いていたらしく、冒険者達の姿を確認すると、すぐに火を放ったのだ。
前と後ろはズゥンビの群れ。左と右は紅蓮の炎‥‥そのいずれかを突破しなくては、彼に辿り着く事はできない。そういう布陣である。
‥‥対して、冒険者達はどう挑んだか?
「行くぜ! 性悪根暗黒猫付属品!」
サフィアがロングソードを抜き放ち、側にいたリッカ・セントラルドールが、ズゥンビ集団へと向けてファイヤーボムを叩き込んだ。
轟音と共に火球が膨れ上がり、数体のズゥンビを吹き飛ばす。
爆風が収まるのを待たずに、あとはそのまま突っ込んでいく冒険者達。
「‥‥ふうん、正面から来るのかな。まあ、こっちもそういう風に構えてはいたけど、さて‥‥」
黒衣の若者の方は、微笑を浮かべたまま、動く気配がなかった。
豪快な笑い声と共に放たれる、ローゼン・ヴァーンズのライトニングサンダーボルト。
オーラパワーの力を身体に纏った夜桜翠漣(ea1749)の拳がズゥンビの骨を砕き、パトリアンナ・ケイジの放つ矢が的確に目標を貫いていく。
「翠漣の背後は俺が守る!」
彼女達の背にはレイリー・ロンドがロングソードとダガーを構え、さらにオーラパワーをも付与した2刀流を振るって、ズゥンビ達を近づけさせなかった。
「邪魔です。このような雑魚では私達の足止めにもなりませんよ」
シアンもまた、オーラパワーを既に使用している。ジャイアントソードの刃がスマッシュで一閃すると、立ち塞がるズゥンビは例外なくその身体を寸断されていた。
「‥‥まあ、そうかもしれないね」
が、黒衣の若者には、別に焦った様子もない。
冒険者達はそのまま一気に突き進み、最初は約50メートル程離れていた若者との距離を、あっという間に30メートル程にまで詰めてしまう。
「でも、そう簡単に行くとは思わない方がいいよ」
若者のつぶやきと共に、ちょうど冒険者達の両脇の家から、数体のズゥンビがぬっと姿を現した。
「伏兵か。でも、好きにはやらせひん!」
一番近くに位置していたクィーが向かい、先頭の奴に斬撃を浴びせる。
衝撃で後ろによろけ、倒れたのを見届けてから背後に視線をやり、声を上げた。
「あんたらは先に行くんや。ウィザードとボスを頼むで‥‥」
そしてまたズゥンビへと目を戻し、
「‥‥俗に言う『ここは任せて先に行け』ってヤツやな」
と、続ける。
「まるで犠牲になるような言い方ですね、それは」
隣に夜枝月奏(ea4319)が並び、援護しようとしたが、
「そんな気ぃあらへんて。いいから先に行って、あいつどついといてな」
振り返りもせずに、クィーは言った。
「そろそろ向こうの魔法の射程範囲です。あとは隙を与えず一気にいかないといけませんからね」
翠漣も、そう声をかけてくる。
「‥‥そうでしたね。了解です」
それを聞いて、奏もあらためて黒衣の若者へと向き直った。
構えた日本刀の刀身に炎が宿り、照り返しを受けてか、瞳までもが赤く燃えているように見える。バーニングソードの魔法だ。
「今から俺は、情けも容赦も捨てる‥‥覚悟しやがれ!!」
言うなり、ズゥンビの囲みを抜け、飛び出した。
「貴様だけは赦せん! 生きた人間を殺しズゥンビに変えるだと、俺はな〜、ズゥンビが大嫌いなんだよ!!」
その後に、既に上半身裸のレオンロート・バルツァー(ea0043)、及び、
「‥‥」
ナイフを手にしたオイル・ツァーン(ea0018)が、無言のままに風を巻いて走り出す。
冒険者達は、正面からズゥンビの群れに挑み、道を切り開いて後続を突入させる『盾』と、そこを突いて一気に目標へと接近する『矛』の2つに人員を分けていたのだ。
「‥‥なるほど、2段構えってわけだね。でも‥‥こっちはその上、3段だよ」
黒衣の若者の口元が、きゅうっと吊り上がる。
──来る!
ローブ姿のズゥンビの片方がほの赤い光に包まれ、目の前の空間に生じた炎の玉が、まっすぐに冒険者達へと放たれた。
すぐさま反応したパトリアンナがシューティングPAでそれを撃つと、とたんに爆発する。ファイヤーボム‥‥その威力は専門級はあったろう。
「次の詠唱の隙を突けば!」
奏が真っ先に突っ込んだが、
「甘いね」
爆煙の向こうで、若者の声。
と同時に、物凄い突風が街道を吹きぬけた。
「くっ!」
思わず、姿勢を低くして立ち止まる。もう1人のウィザードによるストームの魔法らしい。
さらに‥‥煙が晴れると、黒衣の若者の身体がぼんやりと黒く光っていた。彼もまた、なんらかの魔法を使用したようだ。
そして、炎のウィザードが、既に次の魔法の発動態勢に入っている。
「さて‥‥ここまで来れるかい?」
相変わらずの微笑で、若者は言った。言った後、新たな魔法の詠唱に入る。
「‥‥3人の魔法使いが順番に時間差で魔法を唱える事により、詠唱の隙を無くす‥‥そういう事か」
静かな声で、オイルが相手の意図を見破った。
ファイヤーボムの第2弾が飛来したが、今度はローゼンのウインドスラッシュが迎え撃った。
爆発、閃光、そして爆風。
それが収まりきらないうちに、ライトニングサンダーボルトが来る。
魔法使い3名によるローテーション攻撃には、まさに切れ目がなかった。
炎のウィザードズゥンビがファイヤーボムによるメインの攻撃を行い、風のウィザードズゥンビがストームとライトニングサンダーボルト、ウインドスラッシュを使い分け、足止めあるいは攻撃、さらに黒衣の若者のブラックホーリーが突出した冒険者個人を狙い打つ。これにより、冒険者側の前進は止められ、たちまちその場に釘付けとなった。
中には飛来する魔法にダーツ等をぶつけてその場で発動‥‥というような事を試みた者がいたが、ポイントアタックの技能でもなければ、それはかなり難しい事だ。ほとんど成功しなかった。
また、短剣を投げて避雷針にし、ライトニングサンダーボルトの軽減、無効化を図る者もいたが、魔法の効果は自然の物理法則には従わない場合が多く、そのような行為もほぼ意味がない。他に例を挙げるとすれば、たとえば電撃の魔法を水に撃ち込んだとしても、その魔法固有の効果範囲を越えて電撃が水中に広がる事はないのである。
さらに、それでもじりじり前に進む事をやめない冒険者達の足元、地面の中より、次々と手が突き出された。地中にもゴブリンズゥンビを潜ませていたようだ。
しかし、その手は冒険者達も読んでいた。
「舐めるな!」
奏の日本刀が伸ばされた腕を断ち、黄安成のブラックフレイム、翠漣の拳が完全に這い出てくる前にズゥンビの身体を打ち砕く。
「構ってやれなくて悪いな。淋しいだろうけど妬くなよ?」
サフィアが若者に声をかける。
「俺はズゥンビが嫌いだ! 怖いからじゃね〜! ズゥンビには俺の肉体美が理解できないからだ!!」
叫びつつ、スマッシュEXでズゥンビを粉砕するレオンロート。
クィーはバックアタックで確実に相手の死角に回り、攻撃を繰り出している。
その中に、次々と撃ち込まれる魔法。
シアンは巨剣を地面に突き立て、爆風に耐えていた。肌にピリピリと焼ける感覚があり、髪の毛の焦げた臭いを感じたが‥‥それでも前のみを見つめている。
「今行くぞ! 待っていやがれ!」
フレイムエリベイションの力を帯びた奏も、闘志はまったく衰えない。
「‥‥」
オイルもまた何も言わず、ただ己の目標遂行を目指すのみだ。
魔法を魔法で、またはポイントアタックで撃ち、直撃を避けつつ前進する冒険者達。
が、吹き荒れる攻撃魔法の余波だけでも、彼等は確実にダメージを受けていく。
相手の魔力が尽きるのが先か、あるいはこちらが倒れるのが先か‥‥。
これはもはや、互いの命を賭けた恐るべき根競べと言うべき様相の戦いだ。
「ふふ‥‥」
黒衣の若者は‥‥最初から微笑を浮かべたまま、向かってくる冒険者達を見ている。
彼に対しては、事前に翠漣がギルドに調査を依頼していたが、大した事は分からなかった。
生まれも、育ちも、本名すらも不明、だ。
ただ、組織的な動き、繋がり等は何もないようだ、という報告であった。
今回、本格的に冒険者を敵に回し、その相手をするために事件を引き起こした彼。
過酷な膠着状態に陥った今、果たして生き残るのは、彼か、果たして冒険者達か‥‥。
と──。
黒衣の若者と2体のウィザードズゥンビの両脇で炎を上げて燃え盛っていた家の片側が、大きな音を立てて崩れ去った。焼けて形を保てなくなったのだ。それ自体は不思議ではない。そして、激しい戦いの最中である冒険者達も、黒衣の若者も、目の端ではそれを捉えていたが、それ程気にはしなかった。互いに今は殺し合う相手以外に重要なものはない。
そのまま数分の時が流れ、やがて崩れた家の事など誰もが忘れようとした頃──その残骸を飛び越えて、1人の影が黒衣の若者へと迫った。
拳を構えて疾るその者は、風歌星奈(ea3449)だ。仲間達にも真意を告げず、彼女は単独で動いていたのである。全ては乱戦の隙を突く‥‥その一瞬を狙う為に。
「まだいたんだね‥‥でも」
初めて若者の顔から笑みが消える。タイミングは丁度、炎のウィザードズゥンビがファイヤーボムを放とうとする瞬間だった。いきなり現れ、接近してくる星奈に放てば、自分達も巻き込まれるだろう。それも計算の上、星奈はこの時を狙ったのだ。
‥‥が、
若者達まであと3メートルにまで迫った時、バシッと軽い音がして、彼女の身体が見えない壁に阻まれる。ホーリーフィールドの魔法だった。若者が一番最初に使った魔法がこれだったようだ。
「‥‥くっ」
すぐに態勢を立て直した星奈が、拳を障壁に叩きつける。
ファイヤーボムは冒険者達へと向かって放たれたが‥‥ドン、という爆発音は、思わぬ程黒衣達の近くで上がった。星奈の出現に、これを好機と判断した冒険者達が勝負を賭けたのだ。
続けて放たれたウインドスラッシュは、半分相打ち覚悟の奏が、炎の刃で受け止め、斬る。風の刃が寸断され、余波で彼の身体から血飛沫が上がった。いずれも浅いが、無茶である。
その隣を大隈えれーなが疾風の術で駆け抜け、星奈と共に障壁を打ち破る。
オイルがナイフを投擲し、ウイザードズゥンビの胸に突き立てた。狙いは口だったが‥‥細かい部位狙いはポイントアタックの技能でもなければ無理だ。
「もらったわ!」
星奈の鳥爪撃の蹴りが、もう一体のウィザードズゥンビを蹴り飛ばし、冒険者達の方へと吹き飛ばす。
「肉体美を思い知れ〜〜〜!!」
レオンロートが待ち構え、スマッシュEXで一撃の下に粉砕した。
「‥‥」
風のように駆け寄ったオイルが、ウイザードズゥンビの胸からナイフを抜き、二刀の一閃で相手の片腕を叩き落す。
「今度は逃がしません。沈みなさい!」
若者には、盾を掲げたシアンが突進した。ブラックホーリーが迎え撃つのと、大剣のスマッシュが、ほぼ同時に繰り出される。
黒衣が裂け、シアンの盾が宙に舞った‥‥。
「‥‥う‥‥」
漏れる、苦鳴。
シアンの片手はだらりと垂れ下がっていたが、彼ではない。
大きく切り裂かれた胸を押さえつつ、後ろによろける黒衣の若者。下がって避けようとしたようだが、間に合わなかったらしい。すぐに何かの呪文を唱えようとしたが、
「貴様は、もう終わりだ」
背後から、その胸を貫く炎の刃。
額から血を滴らせた奏が、そこにいた。
「アンタ前に言ってたな、冒険者は力を安売りするって。だけどな‥‥安売りをするからこそ、アンタみたいな悪魔と出会え、そして倒せるんやで」
オイルと共に、ウィザードズゥンビを葬ったクィーが、そんな言葉と共に振り返る。
「‥‥なるほど‥‥これが‥‥冒険者の、力、なんだね‥‥」
黒衣の若者の口から、言葉よりも大量の血が溢れ出した。
とどめとばかりに、奏が刀に力を込めようとした、そのとき──。
「!?」
反射的に、彼は刀を引き抜き、背後に向けて振るった。背筋に駆け抜けた悪寒‥‥それへと向けて。
が、刀は空を斬り、彼の頭上を飛び越えた何かが、黒衣の若者の隣に降り立つ。
「‥‥オマエモ、ココマデ、カ‥‥?」
そいつが、たどたどしい言葉で話した。背中にコウモリの翼を生やした、大きな黒い獣‥‥。
「いや‥‥まだだ‥‥まだ、僕は‥‥」
血走った瞳で、若者が呟く。
「ナラバ‥‥コイ‥‥」
1匹の獣と、1人の若者が、鳥の姿に変身する。
そのまま、あとは大空へと姿を消した‥‥。
ただ、明らかに黒衣の若者の方には致命傷を与えている。長くはもつまい。
あとは、後を追い、追い詰め、完全に倒すのみだ。
しかし、あの黒い獣はなんなのか。
若者が連れていた猫の正体らしいが、果たして‥‥。
冒険者達は、後を追う者と、村に残された犠牲者達を弔う者‥‥2つに分かれ、次なる戦い──おそらく最後の──に備えるのであった。
■ END ■