Kafの庭園 〜光の行先 〜

■シリーズシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:9人

サポート参加人数:2人

冒険期間:06月02日〜06月07日

リプレイ公開日:2007年06月10日

●オープニング

●カフの庭園

 ある日、ある時、全てを失った私は、私が私でない事を信じた。
 それが不幸だと言うのならば、不幸であることさえ私を形づくるもの。
 繰り返される毎日の中で、失われていく時間を数え幸せだと感じていた。
 憎しみは深き闇の底から呼ぶ、痛みを伴った苦しみに刻まれたのは血に染められた永遠の檻。
 滑る鉄格子の中から伸ばす手は見えない刃に傷つき、伸ばすことさえいつしかやめた。
 生は燃える炎、焼き尽き、消える寸前こそ恩寵だとあの時──彼は言った。
「君は私の手で壊し創り直すためだけに生かす。君自身の罪では無い。だが罪あればこその懺悔。罪と罰も一つの法則、君達の言う神のつくりし定め」
 笑いながら続ける言葉、そこに在るのは空虚さに満ちた欺瞞。
「つまらないだろう。この鎖を創ったのが神だと言うのならば私は彼を殺し、破壊する。夜に生まれ落ちた悲しみを胸に虚無の海へと帰そう・・・・。それが混沌の意味。さあ見なさい、くだらない世界の色を」
 命は脆く儚いからこそ美しい。彼の振るった剣に彩られ咲くツヴィトーク。
 頬に温もり赤に散って滴るその雫を見、綺麗。私はそう思った。思ってしまったから、否定するしか、救われる術は残っていない。
 もし、誰も助けてくれないのならば、私はその闇を内に進むだろうか?
「選ばれし我が花嫁。行こう、あの遠き彼方へ」
 けたたましく鳴く雄鶏、触れる指先は死の匂いがする、嫌だ・・・・・・。
 ──意識はそこでいつも途絶える。

 眠る漆黒の宮殿。その奥に閉ざされた庭園の向こう、私が扉を開くのか、鍵を持つ彼が開くのかは、分からない。 
 そう、人形なら、心はいらない。
 私は私をだから失った、壊れた人形はいつか軒先に捨てられるだろう。
 怖いなんて嘘、泣いているのも嘘。。
 ごめん、仇は討てませんでした。ごめんなさい。
 さようなら、自分。さようなら・・・・・・私。

 でも、それも──きっと嘘。


●光の行先

 太陽と月は表裏一体の関係。
 その両者ともに去った宵闇に生まれし者は理には縛られぬ、退屈こそが退廃の生まれる場所であり、衝動のありかなのだから。
 糸繰り交えて今生の連ねを世情へ問うた後、答え求める渇望の果てに見つけたものは葬送の挽歌。ゆえに奈落の番人は、彼の友足らん。
 死神の牙を我が身に飼い、その刃を振るう事にのみが彼の生きる証。辿りついたあまねく審判と槌の結末。
 月は無くとも太陽は一人輝くが、月失えば夜闇を照らす月光は無へと帰りゆく。その一対の要を手に入れるため、赤き太陽は、白い月を求めるだろう。

 無謬の残月、地に堕ちるも、空に昇るも、道先を告げる者達の意思。

 己が生きる者なら、その問いを見。
 己の生きる傷刻み、その問いを選。

 今、時は来たれり。

 儚い光、その行先は汝らの手に委ねられん。

●ギルド

 春の陽が射す日の午後、その初老の神父はギルドにやってきた。
「これで何度目ですかな」
 ちょうど執務中だった中年ギルド員が神父の話に受け答えをする。
「確か、四度目だったかな」
「そうですな、そんなになりますか」
「例の目撃者は元気かい?」
「はい」
 神父の依頼は、とある事件後預かったある少女についての話。
 一通の手紙が教会にやって来た。それは最後通牒だった。話を聞いた中年ギルド員は首を傾げつつ。
「結局事件は終わっていなかったわけか? しかし、その手紙の主が猟奇鬼である証拠がない限り、官憲は動かないだろうな」
「世間が忘れてしまっても、結末を迎えていない悲劇は終わっていないもの。例え忘れてしまいたくとも、自ら幕を引くしかないものかもしれません」
「世の中そんなもんさ。とりあえず依頼は受けた、募集してみよう」

 景色を見つめる空虚な表情、向こうを見つめる少女。その名をナターシャという。彼女はある事件の唯一の生き残りで目撃者だ。
 しかし、生き残ったことが幸せかは分からない。
 この先、彼女が進む道がどちらに向いているのか? それはまだ誰も知らない。


 光の行先
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●まとめ
 
 概要については前回までの報告書参照のこと。

●今回の要点 

 最終日にナタリーを彼が迎えに来ます。
 

●関連地域
 
 今回はキエフ内のみです。
  
●登場人物

 ■ナターシャ・アスガルズ

 会話はできません、筆談や仕草は可能。自分から積極的に反応しませんが、
 感情表現は多少可能です。

 ※その他の人物は省略します。 


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●今回の参加者

 ea0066 セツィナ・アラソォンジュ(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1019 ロザリー・ベルモンド(26歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1023 ヤグラ・マーガッヅ(27歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec1053 ニーシュ・ド・アポリネール(34歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1103 アスタルテ・ヘリウッド(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1500 マリオン・ブラッドレイ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1544 ソリュート・クルルディアス(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

キルト・マーガッヅ(eb1118)/ ニセ・アンリィ(eb5758

●リプレイ本文

●弔い

 浮かぶ雲が陽の輝きを閉ざす。
 尖塔に吊るされた鐘が泣くたび、葬列の悲哀を奏でる音が辺りに響き、灰の空から死者への手向けにも似た雨が落ちる。聖句を唱え、終末を迎えた亡骸を見送る人々の群れ、その虚ろな行進に混じり少女も歩む。
 石の建物が並ぶ通りは足音と吐く息の白さが満ちる。水をにじませる衣服は不快を含む。歩き慣れたはずの場所も、今では遠い。迷うことない路地裏さえ、出口の消えた迷路に見える。
 洗っても取れない匂い。
 その幻に脅え、気がつけば頬を拭っている。色を失った世界、見えない糸に手繰られた感覚に怖気が走る。
 視線を戻すと自らの肌を滑る雨。
 濡れた服は冷たさより生温さが際立つ、その感触に嫌悪を感じ、知らぬ間に届かない傷跡を掻こうする。
 あの日、描かれた絵。
 血と涙により描かれた刻印は、少女の背に刻まれている。
 契る手段は一つではない、冒すべきものも純潔のみではない。
 虚ろいのままに運び去ったものが何なのかは分からない。だが、いつの日かその契約を履行する時が来るのだろうか。
 また。
 鐘が鳴った。 
 

 目覚めると闇があった。
 寝入ってしまったことに気づき周囲を見回す、誰もいないことを確認した少女は静けさに安堵をおぼえる。
 最近、あの夢を見ない。
 それが良いことなのは知っている。そのかわりに昔の出来事ばかり思い出すことが嫌だった。
 意識が鮮明になるにつれて、汗ばんだ肌に寝具が触れ、気持ちが悪い。
 起きた少女は、何もまとわず裸身のままに立つ。流れる汗は首筋をつたい胸をなぞった。
 疼くのは背の傷だろうか、それとも・・・・・・。
 寒さを感じ身震いをすると、寝床に戻り寝具を羽織る、その温もりは心地よい眠りはまどろみの彼方へと誘い、少女は寝息をたてはじめた。
 
 
●承前
 
 神父は何も言わず、冒険者達を出迎えた。
 深い皺が刻まれた顔、知を秘めた瞳が優しく向けられる。
「それでは、手はずどおりに」
 教会の守りを固める冒険者達とは別に、独りセツィナ・アラソォンジュ(ea0066)は、とある村へ向かう気でいた。
「馬車ですか、知り合いに頼んでおきましょうかな」
 神父はどうやら、村までの馬車を用意するようだ。
「しかし、料金は?」
 セツィナの問いに神父は言った。
「多額の寄付が一定の期間ごとに入るのです。見てのとおりそれほど大きな教会でもありませんので、使い道に困るほどの額。どうやら依頼に関係しているようですし、こちらで用意しましょう」
「恐縮です」
 セツィナは畏まりそう返した。その様子を見ていたマリオン・ブラッドレイ(ec1500)は。
「私もついて行ってたほうがいいんじゃない?」
 セツィナに言ったようだが、
「あなたが一緒だと、まとまる話もまとまらなくなります。人は見かけによらないとは、この事ですね」
「堅物」
「それで結構。大人しく番をしているの方が、遺漏がないと言うものです」
「・・・・・・つまんないの」
 ちょっといじけたマリオンを置いて、セツィナはこうして例の村へと旅立った。
 
 ソリュート・クルルディアス(ec1544)が教会の改修をするため、雇った大工は建物を見回り調べた後、言った。
「この建物は大分前に改修してあるようだね」
 それを聞いたソリュートは
「古い建物のようですし、改修をしていても不思議ではありませんが・・・・・・詳しく分かりませんか?」
「さあ、何か手を加えたことは分かるが、それが何なのかまでは分からないな」
「そうですか」
 大工の言葉に不審を感じつつも、初めから建物自体については、それほど気にしていたわけでも無い彼女は、神父に確認するのを改修後に回した。

 ニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)庭先でナタリーに出会った。ナタリーに微笑み会釈をされた彼は、無言のままに礼を返す。
 ニーシュは、気の利いた言葉の一つでも掛けようか迷ったが、あえてやめた。その彼の背後に近寄る小さな人影が一つ。
「さあ、おねーさん帰ってきたわよ! 教会に」
「これはルーテさん、無事息災のご様子。この前は心配しましたよ」 
 振り返ったニーシュの前に、アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)の姿があった。
「短い旅に出てたからねー、ナタリーも元気そうで良かった、良かった。とりあえずガンガン遊ぶわよ」
「ガンガンですか、女性にはしとやかさと言うものも必要ですよ」
「・・・・・・それ、私に対する挑戦かな、うん」
「やれやれ、ルーテさんは相変わらずですね。ナタリーも笑っていますよ」
 どこか楽しそうな二人の様子を見て、ナタリーも楽しそうである。そんな彼らへ声を掛けたのは、
「さて、喜劇はそれくらいにして、仕事に取り掛かりましょう」
 クロエ・アズナヴール(eb9405)と、
「ナタリーさん、お元気そうでなによりですわ」
 ロザリー・ベルモンド(ec1019)の二人である。かくして、彼らは教会へと向かった。
 
「夜食の時間ですかな?」
 夜も更けた頃、神父はヤグラ・マーガッヅ(ec1023)に向かってそう言った。
「そうですね、準備は自分一人でも出来ないわけではありませんが、可能であれば、どなたかに手伝ってもらえれば嬉しいですね」
 ヤグラの返事を聞いた神父は、少し考えていたようだが、
「そうですな、ナタリーを呼びましょう。他の方は準備で忙しい、警護も兼ねればそれほど問題は無いとも思います」
「ナタリーさんですか、少しは腕があがったのでしょうか」
「最近は自分から調理場に立つようになりましたので、それなりに」
 それを聞いたヤグラは、頷き言った。
「それでは、頼みますね」
 しばらくするとナタリーがやって来て、ヤグラの隣に立ち手伝いはじめた。
「ナタリーさん、ここはこうすると良いですよ」
 失敗したことに照れるナタリーを見て、ヤグラは優しく教え、夜食の準備を続いた。

 
 フォックス・ブリッド(eb5375)は、教会にとどまらず、教会の周囲に潜むことにしたようだ。この教会は小高い丘の上にあるため、彼の求めた狙撃地点に位置する家屋は見つからなかった。
 そのため、教会入口を望む場所にある小屋に彼は伏せることにしたようだ。その小屋の扉を叩く音がする。
「誰だ?」
 警戒し扉を開いた先には、差し入れを持ったナタリーと護衛の姿があった。何も言わず差し出したそれをフォックスが受け取るのを確認すると、ナタリーは教会へと戻って行った。
 

●庭園

「ということは、数年前に大規模な改修工事をしたということですか?」
 襲撃の前日、準備がほぼ整ったあとソリュートは神父にその話を聞いた。
「はい、特に話す必要もない事と思っていましたので、何か不審な点でもあるのでしょうか」
 ソリュートは浮かんだ疑問を口にした。
「その資金はどこから出たのでしょうか? 白の教義は国教ではありません。よって国家的支援があるわけでも無い。失礼ですがここは一教会、それほど経済的に恵まれているとは考えられない」
「普通はそうなのでしょうが、資金は問題なくあるのです」
 神父は、ソリュートにセツィナに話した事を繰り返した。
「その寄付主が、どこの誰かは分かりませんか?」
「さあ、善意の寄付ですし、記名を求めているわけでもありませんので」
 神父の答えは、ソリュートの頭の片隅に引っかかるものを残す。しかし、すでにそれについて調査している時間は無い。
 何か釈然としないものを感じながらもソリュート歩く、そんな彼女はナタリーとすれ違った。
「そういえば」
 ソリュートの何気ない言葉にナタリーの足が止まる。
「絵は好きですか?」
 ナタリーは小さく頷いた。
「では、全て終ったら教えてあげますよ」
 

 マリオンは、独り庭にたたずんでいる。 
 いつもの元気の良さは影をひそめて、珍しく静かな雰囲気だ。そこへやって来たのはクロエとロザリーに引きつられたナタリーだった。 
「マリオン君、元気がないですね」
「ですわね、やはり脅す相手がいないと寂しいのでしょうか?」
 クロエにロザリーが答える。
「そこの黒いのとお嬢、まるで私が『脅すのが楽しみ』みたいな事をいわないでよ」
 三人の存在に気づいたマリオンは、彼らの会話を聞き、
「黒いの・・・・・・ですか。やはり、マリオン君は口がわるいですね」
「ええ、あれでは社交界にはデビューできませんわ」
 ウィザードは礼儀知らずが結構多いものである。世間ずれしているといえば良いのだが、世間しらずといっても良いのかもしれない。知的なイメージなわりに、なぜかそういう魔法使いが多いのは、理由があるのだろうか。
 それは良いとしてマリオンは。
「私はナタリーと遊ぶからいいわよ、クロエとロザリーは帰れ!」
 それを聞いた二人は、
「仕方ありません、見ているので存分に遊んでください」
「ええ、わたくしも見ていますので、気が済むまで遊んでください」
 マリオンはナタリーの手を引く、そんな時にちょうどやって来たのは、セイバーと愉快な仲間達である。
「ちょっと、私も混ぜてよ!」
「ルーテさん、ご婦人方の遊び場に子供が混ざってはいけませんよ」
「・・・・・・ニーシュ。矢をぶち込まれたいの」
「ぶちこむなんて、ノン。下品ですよルーテさん」
 アルタルテとニーシュを加えた庭は、人やら犬やらでいっぱいである。
「皆さん、おやつができましたよ」
 ヤグラもやって来たらしい。

 庭先が妙に騒がしいので、小屋から出るとフォックスは遠くからその様子を眺めた。内心その場に行こうとも思ったが、彼はニヒルな男である。ニヒルな男は群れないものだ。
 その小屋を扉を叩く者あり。 
「誰だ?」
 開いた先には、妙に目の細い女が一人。
「差し入れです。私には、似つかわしくない仕事ですが」
「・・・・・・」
 ソリュートの姿を見たフォックスは、なぜか落胆するのだった。

 
 その夜、ナタリーはクロエとルーテの訪問を受けた、ニーシュもルーテ付き添いで来た様だ。
 迎えたナタリーに向けてルーテは言った。
「人間だった私の父様が言ってたんだけどさ。騎士って言うのはね。みんなを笑顔にするためにいるんだよ」
 ルーテの言葉を聞いたクロエは続けて言う。
「こんな話もあります。少女と出会った道化は幸せでした。彼女が少しでも笑ってくれたこと。ただそれだけで、道化の心はこれ以上のない喜びに満たされていきました。笑顔は大事ですとても」
「うん、だからね。こーいうお仕事は正にナイト冥利に尽きるってもんよ」  
 ルーテはそう言うと、ナタリーに向かって勝利のポーズ(二本指サイン)を決めた。
「なるほど。貴女の父君は、誇るべきお方だ」
「何、照れるじゃない」
 ニーシュの声を背にクロエは、部屋から立ち去り、途中、独白した。
「だから道化は思うのです。彼女を守りたいと。 気付けば、道化の仮面は外れていました・・・・・・そう、道化でいることにも飽きました」
 と。
 
  
●行先

 その日がやって来た。
「遅くなりました」
 セツィナは無事目的を果たして教会へと戻ったようだ。

 月が夜に昇る。
 冒険者達は各々の守備位置についた、初めそれに気づいたのは入口を守護する者たちだった。
 襲撃を知らせる鐘がなり、戦士はそれを阻むべく立ち塞がる。血塗られた剣舞の末に一時襲撃を防いだ彼ら。
 続けざまに新たな刺客が現れるが、その中にあの仮面の男はいない。
 その頃。
 本陣ともいえる礼拝堂の後方からナタリーを護る者を衝撃が襲う。
 完全防備と言えるはずの教会だが、誰も内側にある礼拝堂から敵が現れるなど思ってはいない。
 報を聞いたソリュートは、前日の話を思い出し、何が疑念だったのかを思い返したが、もう遅い。
 ナタリーを守る者は数人しかいない。そして彼はこちらにいた。
「御機嫌よう、諸君。これより舞台をはじめよう。私の筋書き通り踊る君達も、また美しい」

 クロエは強い衝動を押さえ敵を切る、クロエにとってこの程度の敵は造作もなく切り捨てられる、しかし数が多い、礼拝堂内部にへ向かう暇もなく彼女は叫んだ。
「死にたくなければ退け、退かねば容赦はしない」
 女は剣持て、血を振りまき進む。

 辿り着いた先で、彼は彼に挨拶する。
「これは、領主様自ら赴くとは恐悦至極に存じます」
 慇懃無礼な態度のニーシュに、仮面の男は返す。
「世辞は良い。人形を返してもらおう、それをなくして私の世界は完成しない」
 ナタリーを庇うロザリーそう問う
「何故今になってナタリーさんを狙い始めたですか!」
 その問いに彼は答えた。
「では、君に聞こう。熟成していない酒と熟成した酒、愛すべき物はどちらだ? 私は悲哀と苦しみという名の深みのある味が好きなのだよ」
「何が言いたいの分かりませんわ」
「無粋だな」
 黙ったロザリーに続き、ニーシュはさらに彼に問おうとしたが、その余裕は無かった。
  
「ここから先は通さないわよ」
 礼拝堂内部に進入した敵は少ない。これ以上の内部を防くため入口を固めるルーテ。傷だらけの彼女は、その場を一人守っている姿は気高い。

 礼拝堂に高笑いが響く。
 倒れたセツィナ、ナタリーが駆け寄った。
「大丈夫です。それよりも、これを」
 セツィナの差し出したのは、
「貴方は両親に愛され、生まれてくる事を望まれた子供なのです。決して諦める必要はありませんよ」
 気を失ったセツィナか、ナタリーはペンダントを受け取った。
「美しい、そのきらめく感情の雫。さあ、もっと見せ給え、希望が絶望に変わる瞬間を」
 刃と鏃の嵐が過ぎ去る。
 入口前方では死闘が繰り返されている。マリオンの放つ魔法の爆音とソリュートの剣戟、フォックスの矢が飛んだらしい。敵の増援がほとんど礼拝堂に来ないのはそのためのようだ。
 敵をなぎ倒し隙を見て、女がそこに着いた時。残る守護者は僧侶と騎士だけだ。入口を守る女騎士も膝を着き、半ば意識を失っている。 
「遅い、私もそろそろ限界のようです」
 ヤグラに支えられたニーシュは血だらけでそう言った。
「後は任せてください。さあ、覚悟は良いのだろうな。同じ道化ならば、仮面を脱いだ私のほうが強い」
 クロエが剣を向けた、仮面の男は何も言わず残った配下に命令を下す。
 交える音だけが響く場を支配する。
 礼拝堂に飾ってあった花が散った。それはナタリーにメッセージとともに名も無い誰かから贈られた物。全てが終る前に、ナタリーは目を閉じる。
 暗闇だけが視界を覆う、恐怖に押しつぶされそうな気持ちを我慢する。
 どれくらい経ったのだろう・・・・・・結末は訪れた。
 
 ──To be concluded──