アンゲルの微笑み

■シリーズシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:フリーlv

難易度:普通

成功報酬:5

参加人数:9人

サポート参加人数:3人

冒険期間:06月17日〜06月22日

リプレイ公開日:2007年06月25日

●オープニング

 鐘が鳴る。
 女の振るった剣が仮面を切り裂く。
 自ら噴出した血を見、狂ったような笑みを浮かべ男は言った。
「綺麗だ。自らの命、その灯火もまた美しい。・・・・・・それほどまでにこの人形が愛しいか? よかろう、よかろう。それならば、私の城まで招こう、騎士は姫を守るのが努め、そしてそれを奪うのが魔王の役割。信じる愛とやらが真実なのか、それを試してやる。夢幻如きこの世界で神の台本を諳んじ、儚く消える役を演じる捨て駒として選ぼう」
 傷から流れる血など気にもせず、男は配下に命令を下す。その命に従い聖堂の中を霧のような物が覆った。視界を遮られた冒険者達が動揺する中で、笑い声だけが響く。しばらくして男は身を翻し穽へと戻り、礼拝堂に静寂が満ちると、剣を握った女もまた、その場に倒れた。


●教会

 静けさを取り戻した教会。今ではあの襲撃などなかったようだ。
 騒動の後、事情を聞かれた神父は、事実をありのままに話をしたようだが、やはり確証がないため官権は動かなかったようだ。
 あれからしばらく経つ。だが、今のところあちらからの接触はない。一時なのか永遠なのか分からないが、平和を取り戻した聖堂で、神父は少女と二人祈りを捧げている。
 礼拝が終った後、神父に少女は何事か意思を告げた。
「そうか、お礼をしたいのだね、ナタリー」 
 神父の言葉にナタリーは大きく頷いた。
「では、ささやかではあるが、彼らを招いてパーティーをするとしよう」
 それを聞いたナタリーは喜びの表情を浮かべた。

●手紙

 皆さんお元気ですか?
 ありがとうございました。まだ怖いのだけれど、きっと私は大丈夫です。
 それでお礼といっても、たいした事ではないけど、神父様と一緒に教会でささやかなパーティーをすることになりました。
 でも、皆さんだけではなく、ご近所の人たちも呼びますが、人数は多いほうが楽しいので、もし時間が空いていたら、来てくれると嬉しいです。 
 そういえば私、最近ちょっと食べ過ぎて太ったの気がするので、パーティーのご馳走は我慢しようかな・・・・・・なんて思ってません、ちょっと思ってるかも。あ、準備があるので、そろそろ終りにしないと。

 それでは、このへんで。

 ナタリー。

●今回の参加者

 ea0066 セツィナ・アラソォンジュ(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb5375 フォックス・ブリッド(34歳・♂・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb9405 クロエ・アズナヴール(33歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・フランク王国)
 ec1019 ロザリー・ベルモンド(26歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1023 ヤグラ・マーガッヅ(27歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ec1053 ニーシュ・ド・アポリネール(34歳・♂・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ec1103 アスタルテ・ヘリウッド(32歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1500 マリオン・ブラッドレイ(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ec1544 ソリュート・クルルディアス(29歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)

●サポート参加者

キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ キール・マーガッヅ(eb5663)/ サルース・リンド(ec3058

●リプレイ本文

 震える大気が肌に触れる。
 突き抜けるような青は見上げた向こうに続いている。
 かざした手のひら。
 開いた指先から降り注ぐ光の眩しさに目を瞑る。何かに頷いて、もう一度瞼を開くと瞳には流れていく雲が映しだされる。
 丘の上から望む風景は平凡で何も変わらない。
 遠く繋がる道、やって来る人影を見つけると、少女は走りはじめた。
 迷うことのない毎日なんてあるわけがない。
 でも、普通に悩める今は──幸せだ。

「念のためにこちらに記名をお願いします」

 真面目な顔した神父は、彼らにそう言った。
 何度も顔を合わせているはずなのに、内心そう思いつつも参加者名簿に記名を始めるのだった。 
 
 セツィナ・アラソォンジュ(ea0066)
 フォックス・ブリッド(eb5375)
 クロエ・アズナヴール(eb9405)
 ロザリー・ベルモンド(ec1019)
 ヤグラ・マーガッヅ(ec1023)
 ニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)
 アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)
 マリオン・ブラッドレイ(ec1500)
 ソリュート・クルルディアス(ec1544)
 
 旅を続け、彼は何を探しているのだろう?
 心の糧。
 その言葉を胸に刻むためここに来て、目の前に彼女はいる。おどけた様子で周囲に気を散らしつつも彼は彼女の前にいて、彼女は彼の前にいる。
「なんで、かーさまがいるのよ」
 後ろをちらちらと気にする彼女。その様子を見てニーシュは微笑ましさを感じた。
「お母様ですか? またルーテさんとは違う魅力ですね」
「それ、どういう意味よ。だいたい、保護者って何? 恥ずかしいな。それよりも聞いて、ナタリーったら、ほら」
 ルーテの手には、ナタリーに渡したはずの雛人形がある。彼女が手渡しそれを見ていたナタリーは自分の部屋に戻ると、同じ形をしているが彼女の手作りのリボンをつけた物を手渡した。
「交換ってやつなのかな、見た目あんまり変わらないけど。大事にしないとね」
「バウ」
 その時、彼女の愛犬であるセイバーが雛人形を奪うと走り出した。
「ちょ、ちょっとセイバー。育てた恩を忘れたの、返しなさい!」
 そういうなり、ルーテはセイバーを追って走り出す。
「やれやれ、ルーテさんは、やっぱりルーテさんですね。ま、それもまた良い・・・・・・待ってください!」
 ニーシュもまた、駆け出した。

 丘の上の喧騒を一人見つめる男は、宴の会場をすぐ後にする。
 託した手紙を彼女が封を開くと時、彼はそこにきっといない。
「貴女が悲しみを乗り越えて、いつか蝶のように飛び立てる日が来ることをお祈りします。勇気は貴女と共にいつも心の中にある勇気を信じて」
 手紙に、添えられた花を受け取り少女は何を思うのだろうか。
 その想いが浮かぶ。けれど、自分はここにいるほうが似合っている。
 フォックスは一人丘を眺め、番を始めた。
 
 誓いは二つ。
 だが、指輪は片方に同時に繋がっている。
「ヤグラさん、どうしましょう。指輪を抜けなくなってしまいました」
「こんな大事な時にどうして? 自分は何もしていませんよ」
 永遠の誓いに成るし、それも良いとやぐらは一瞬思ったが、一人だけ永遠でも仕方のないことだ。
 二人はそれから頑張ったのだが、なかなか指輪は抜けない。
 混乱している二人。そこにやってきた女は人差し指をロザリーに向けると無意味に偉そうに言った。
「自称お嬢様、トラップに引っかかったわね! さっき隙をみてベタベタした液を仕込んたのよ。そう簡単に幸せになろうなんて、甘いわ、甘い。交換なんてさせない」
 勝ち誇ったように胸を張るマリオン。ちょうどそこに保護係である彼が現れた。
「はい、マリオンさん。行きましょう。人の恋路を邪魔するものは、暴れドラゴンに喰われてしまいますので」
「離しなさい、セツィナ! まだ、あの澄ました黒仮面にお仕置きが残っているのよ」
「貴女黙っているほうが、可愛いと思いますが」
 セツィナの言葉に一瞬、マリオンはたじろいだが、すぐ元に戻り。
「な、なによ。そんなこと言ってもお仕置きはやめないわよ」
 仕置きというより、いいがかりのような気もセツィナはしたがマリオンの手を引いて、その場を立ち去ろうとする間際
「それでは、お二人とも。続きをどうぞ」
 セツィナの言葉を聞いたヤグラとロザリーは赤面した。

 振り返った先には、人の賑わいがある。
 その様子を確認したソリュートは、礼拝堂に視線を移し思う。
 先日の襲撃の裏が取れていない。可能性として一番しっくりくるのは、やはり黒幕が資金を供給していたという事だろう。
 それよりも気になるのは、ゴーストだ。
 昔馴染みというには、それほどの付き合いでもないが、過去の調査のさい出会った付近の住人との会話から、ソリュートは、ふとそれを思い出した。
 もし、魂が解放されていないとすると、今はどこかに潜んでいる? しかし、ゴーストは、ほぼ自我がない状態のようなもの。状況的に、この場に無意味に現れるのが必然。
(考えすぎは悪い癖ですね。街中で暴れるくらいならば、すでに何者かによって浄化されているかもしれませんし・・・・・・)
 深く考えるのはやめ、彼女もまた賑わいの中へ消えて行った。

 携えた手を握りしめ、ロザリーは進む。
 お互い何も言わない。ただ、少女はそこにいて、ロザリーは微笑むだけだ。
 ヤグラが奥にいる神父との話を終え、彼女達の元に戻ったころ、他の仲間もそこにやってきた。
 まず、ニーシュがナタリーに一礼するとその手を取った。ナタリーは何もいわず彼の手を握り返す。
「ささやかですが、これをお受け取りください」
 手渡された十字架をナタリー受け取る。セイバーをなんとか捕まえたルーテは、食べすぎて突っ張る腹部をさすりながら、ニーシュの横に立ち笑う。
 マリオンは、参加者の着飾った姿を見て。
「冒険者がそんなチャラチャラした格好してるんじゃないわよ!」
 悪ぶるがセツィナに取りなされた後、澄ました黒仮面にお仕置きを実行するため探す。だが、ちょうど席をはずしているようだ。
「私も素描程度の心得ですが、必要であれば教えます」
 ソリュートはナタリーにそう言った。
 手渡された贈り物を手に少女は笑う、贈られた絵筆を用い彼女は、未来という題名で九つの色に彩られた絵を描くのだろうのか?
 最後の花束に添えられた手紙を読むのは、まだ後先のことだが、そこにある言葉は彼女は何を想うのだろう。
 華やかな宴も終わりの時がやって来た。それぞれの思い出を刻み、立ち去る足音の群れ。
「自分も機会を見て、また来ますね。やはり女性は料理が出来たほうがよいでしょう」
「ヤグラさん、それはわたくしに対しても言っているのでしょうか、当家の料理人として召抱えるという約束で」
 いつそんな約束をしたのかは定かではないが、ロザリーの少しむくれた態度にヤグラは慌てた。
「それじゃ、ナタリーまた来るね! おねーさんを忘れちゃだめだぞ」
「ルーテさんは、忘れようにも、簡単に忘れられない御人だと思いますが」
「ニーシュ。後で酒場に付き合いなさい。反省会をするわよ」
「お守りですか、まあ仕方ありません付き合います。それではナタリー。オールヴォワール。またお会いしましょう」
 ニーシュはルーテを連れ去って行く。
「絵は練習ですよ。頑張ってください」
 ソリュートはそっけない態度にも優しさが隠れていた。
「もう、黒仮面はどこに行ったのよ! さっきまでナタリーにくっついていたのに、肝心な時にいないなんて」
 そんなマリオンの手を引きながらセツィナは言った。
「全てが終った後・・・・・・・貴女さえ良ければ御両親が眠る洞窟へと案内いたしますが。どうなさいます?」
 その問いに、ナタリーはゆっくりと頷いた。
 足音は少しずつ消えていく。
 丘を望んでいた男は、見送る少女の姿を見届けた後、無言のままに弓を下ろし街の雑踏へ歩いて行った。
 
 残された女は誰もいなくなった庭を歩む、少女に別れの挨拶を告げるため。
 羽が欲しい。
 そう、仮面を被った彼女は思った。
 見下す大地に影が伸びる。
 幼き日々は遠い時の彼方に消え去った。だが、忘れえぬ記憶は胸に残っている。
 恐れていたのは、誰でもない彼女なのかもしれない。一人飛び立つことができないからこそ、いつか羽ばたく姿に望みを託し、自分はここにいる。
 守りたいと願った。絶望という名の暗闇、その底に這わせるくらいなら、自らの傷跡など曝け出しても良かった。
 想いを秘めた彼女の眼差しは、目の前に立つ少女に向かう。
「ナタリー、私は君を信じたいのです」
 差し出された天使の羽は、陽の光の中で彼女の黒髪と共に光る。
 少女は何も言わず受け取ると笑った。
 導かれた道の行方が真実であるのかは、まだ分からない。だから、応えがなくても、それで十分。彼女はそう感じ、短い時間を過ごした後、身を返し歩きはじめる。
 丘を下る坂道を進んでいた彼女、何かに気づき、ふと立ち止まった。
 風に乗って聞こえてくる音? 歌だ。軽やかな韻律で刻まれている歌。
 その歌声を聞き振り返る。
 雲の間を縫う陽に照らされて、映し出されるささやかな情景を見た瞬間。
 クロエの被る過去という仮面は、剥がれ落ちた。

 今、アンゲルは地に舞い降りる。
 回る運命の輪。
 盤の行先はまだ分からずとも、天使がその光翼を羽ばたかせ、空に飛び立つのは、きっと。
 遠い日の事ではない。


 【光の行先】 了