●リプレイ本文
●はじまり
今回は、主にヴォルニ領主の居城での冒険者の動きを映したものになるが、その前に今までの状況を全て整理しておこう。
最初に提示された推測を載せる。
セツィナ・アラソォンジュ(ea0066)
下司の勘繰りになりますが…例の領主がナタリーの母親に横恋慕しての犯行の可能性もありますね。
で、あまりにも出来過ぎな状況ですが、彼女の夫が人間であった為に領主を継げなかった弟ではないかと。
そして死んだ彼女の姿を追い求めた結果が、猟奇犯の正体ではないかと。
もしそうであるなら、今になってナタリーが狙われる様になったのかも説明がつくかと そして他の犠牲者にはナタリーの母親と何処かしら似ていたのかも。
リン・シュトラウス(eb7760)
仮面の男が、何故ナタリーを狙うのか?
今までの話を踏まえると、似た境遇だからなのかも? と思います。
もちろん、領主が勝手にそう感じているだけにせよ、相応の根拠があるのかもしれません。例えば、両親を不幸な形で失くしたとか、半分血の繋がった兄弟がいるとか。
狂うには、狂うだけの「何か」があったはずですから。
言動からすると、ナタリーが人間らしさを取り戻すのを待ち望んでいたみたいですね。
ヤグラ・マーガッヅ(ec1023)
兄弟の諍いを示したオブジェ。
偏愛の対象だった息子を逃がした、息子が憧れを抱いていた女の娘。
これに対する答えを出す前に。
ギルドで起きたヴォルニ領関連事件から得られた事実に付加した情報を挙げる。
1、現ヴァルニ領主には弟が一人いるが、現在行方不明である。
2、キエフで起きた連続殺人事件の犯人は、現ヴォルニ領主と見てほぼ間違いない。
その目的は、ナタリーを発見するためだった。
3、悪魔の門で得られた魔剣の封印を解く箱。盗まれた箱はヴォルニ領領主の居城
にある可能性が非常に高い。
4、領主はナタリーを影から支援していた形跡がある。
それでは、なぜ領主が連続殺人を繰り返し、ナタリーを狙ったのか?
ニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)の言うように、殺人は彼の「美学・芸術」に関わることだ。本人しかその価値観は分からないのかもしれない。
後者については、セツィナの推測を取って考えてみよう。
この場合、ナタリーは身代わりである。彼が何のためにナタリーを生かし育てたのか? それは明白だ。
そしてリンの言うように人としての意識を取り戻すのを待っていた。彼の美学からみるとその可能性が強い気もする。
リンの推測を取った場合、領主とナタリーに何かしらの共通項があることになる。ただし、それがなんであるのかは今のところ不明だ。
次に、領主の兄弟について触れよう。この情報については不確定な情報が多いが、この兄弟の仲は良くなかったことは確かのようだ。
弟の放逐を、現領主が裏で画策していた節がある。
よって、ヤグラの推測にあるように兄弟間で争いがあった可能性が高い。しかし、それ封印の箱と何の関係があるのかは、調べる必要があるだろう。
以上、ここまで。
それでは、ヴォルニフにようこそ。
●ヴォルニフ
ヴォルニフ市街の賑やかさ、そして華やかさはキエフに比べるとかなり落ちる。
元々、やや武に偏った気風であった前領主が発展させた街であるため、質素を旨とし、華美を好まなかったのもあるようだ。
そんな場所で、あのような領主が生まれ育つだから、運命の皮肉ともいえるのかもしれない。中心街を通り抜けて門を通過し、道なりに進むと目の前にヴォルグの旗が整然と並べられた城が現れる。
その居城は、一地方領主の城としてはかなり堅牢な部類に入るだろう。
ヴォルニフに到着した冒険者たちは、門を通り過ぎ、城を見る位置までやって来ていた。
彼らは、強い緊張感に包まれて・・・・・・もいないようだ。相変わらず、いつものように楽しくおしゃべりしている。
時折、朱色の鎧を着た騎士とおぼしき兵が城下を駆け城に入っていった。街の住人はその姿を見ると、どこか不安げな顔をして見つめている。
なぜか、その様子がヤグラは気になった。
ソリュート・クルルディアス(ec1544)は一度ヴォルニフを訪れたことがある。
鋭い視線・・・・・・細い目なので視線の先はよく分からないが、周りに注意深くやっている。
ナタリーは、クロエ・アズナヴール(eb9405)ロザリー・ベルモンド(ec1019)、アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)などに囲まれているようだ。
出発前、ロザリーとクロエの二人に。
「お守り代わりですわ」
「私もどうぞ、きっと似合いますよ」
「二人ともありがとう」
そんなやりとりがあって、ナタリーはかんざしつけてもらい、ブルースカーフを巻いているため・・・・・・ちょっと、格好が変わっているといえば変わっているかもしれない。
「無国籍な感じですね」
セツィナが冷静に分析した。
「綺麗なご婦人は、何をつけても似合うものです」
ニーシュは、内心どう思っているか知らないが、なんであろうと褒める。それがガスコンの心意気?
「しかし思い出すわねー。昔はセイバーもホント小さくてさあ」
「こんなでした」
ルーテの話を聞いて、ナタリーが両手でセイバーの小ささを強調した。確かに今ではニーシュを組み伏せるくらい大きくなった。
「そんなところで、ほのぼのしてないで行くわよ。ここは敵地なんだから。ほら、さっさやっつけてしまいましょう」
マリオン・ブラッドレイ(ec1500)は城を杖で指して断言した。通行人の視線を浴び、かなり目立っている。
「はい、分かりました。行きますよ」
すると、マリオンの世話役であるセツィナが、どこからともなくやって来て、手を引いた。
「目的地は、すぐそこじゃない、正面突撃よ! 突撃」
そう叫びながら、引かれていくマリオンの様子を見て。
「今日は大人しく休むとしましょう、指定日は明日ですから」
ソリュートが言った、冷静である。
ということで、その日は宿に泊まることになったようだ。
●宿屋
喧騒が満ちた食堂は、騒がしさの中に静けさが流れる。リンの弾くリュートの音が場を支配する。静寂は一瞬の内に消え行き、また場に音が戻った。
一曲披露したあと、ナタリーの席にやってきてリンは食事を始めた。同席していたクロエは酒を呑んでいるらしく、頬が少しだけ赤に染まっている。
珍しくナタリーのそばにいないロザリーは、ヤグラの相手をしている。どうやら、ナタリーばかりに気を配るロザリーに、ヤグラが妬いたらしい。
「これ美味しいです」
リンはさきほどから、ヴォルニフ銘菓「美味しい保存食」を食べている。お菓子のような味がする保存食だ。
限定品のため、ここでしか手に入らないし、保存食という名前なのに保存期間が短いので、どこにも持っていけない代物だ。
「リン君は、甘いもの好きですね」
思いっきり口にほお張っているため、返事ができず頷くリン。
「私も好きです」
ナタリーもそう言うと美味しい保存食を食べる。
ちなみにルーテは。
「もう、あたしなさけないなー」
「大丈夫、ルーテさんは強いですから」
すでに酔っ払っている、ニーシュがそれを介抱する図式だ。
フォックス・ブリッド(eb5375)は最近クール路線に戻ったため、一人呑んでいる。ナタリーは、そんな彼の元に美味しい保存食を差し入れに行った。
「いただきます」
フォックスが甘いもの好きなのかどうか不明だが、彼は食べた。美味しかったかどうか彼しか分からないが。
セツィナは相変わらず、マリオンのお守りをしている。
仲が良いのか悪いのか、分からない二人だ。
ソリュートも浮かれてはいない。浮かれていたとしても、あまり表情から読めないのでなんともいえない。
しばらくして、ロザリーはヤグラを手なずけると、ナタリーの元に戻ってきた。
「今日は、ナタリーさんと一緒に寝ます」
爆弾発言をした。
といっても、ルーテが酔っ払ってしまった今、クロエかロザリーが護衛のため一緒の部屋になるのは、当たり前といえば当たりまえだ。
その発言をを聞いた、ヤグラはなぜか複雑な気分だった。
「自分というものがありながら」
などと本人が言ったかは知らないが、こうしてその日は終わりを迎えた。
●舞台
「訪れる悲劇よりも、作り出す喜劇。ようこそ諸君、私の庭へそして──さようなら」
戦士達は剣を抜いた。
広間には無数の死体が溢れている。それは裸体の女だ。腐敗が進んでいない姿は全て美しい。
「これだけの数を集めるのは苦労したよ。さて、舞踏会の始まりだ。楽しんでいってくれたまえ」
彼は後ろに下がる。
幕の後ろから、数人の僧侶とおぼしき者が現れ、呪文の詠唱をはじめる。
「愚者と名乗る人についてご存知じゃないですか? 蒼色の鎧を着た・・・・・・騎士の方なんですけど」
問いに彼が答える前に、リンは幻影を作り出す。その幻を見た彼は動揺一つせず言った。
「愚者? 自由を求める男か。やつとは、いずれ決着をつける必要があるだろう。可愛い家族だからな、どちらも」
彼は、玉座に戻る。次にニーシュが問うた。
「貴方の芸術とは何なのですか? 何を以て完成と成すのですか? その中にあって、ナタリーは何の役割を果たすのですか? そもそも貴方のその妄執は何に対して駆り立てられているのですか?」
「ノルマンの騎士。質問の数が多いぞ。こちらで選ばせもらう。生物が作り出す最高の芸術とは何かね? 音楽か? 文学か? 絵画か? 否、私は私の分身が欲しい、例え、私でなくても、全てを継承させる分かるかね、それが何を意味しているか。さて、問答の時間は終わりだ。足掻きたまえ、精一杯、美しく」
僧侶達の詠唱は終わり、死体が動き出した。
道化の騎士は剣を振るう、振るう、振るう、所詮相手は創られたもの。だが、数が多い。
ロザリーは領主に一矢報いるため、力を温存していた。いまだ刃を飛ばすその時ではないだろう。ニーシュも姿形が女性のため、少しためらった後、倒しはじめた。
ヤグラの魔法は劇的な効果をもたらす。ルーテとソリュートはナタリーを守っている。
その時だった。
「まーったく、生ぬるいわね。アイツが黒幕なのは分かってんだから、ちょっとまってなさい」
マリオンは呪文の詠唱を始め。
「みんなちょっと火傷するけど我慢よ、我慢」
火炎の球を死体の群れの中央に放つ。
轟音と共に爆発した火炎は唱えた本人、仲間も巻き込み焼き払った。
「やった! 成功!」
(これは、あとで仕置きが必要ですね)
マリオンはガッツポーズを決めている。
セツィナは、真っ黒こげになりながら、そう思った。
軽傷を負った仲間も確かにいるが、ナタリーとヤグラによって回復した。
結果、死体の群れは、ほぼ灰と化している。
「仲間ごと焼き払うとは、愉快、愉快、仕方あるまい、私が相手をしよう」
彼が動いたのを見て、ロザリーはレイピアを構え空気を斬る。
放たれた衝撃波は彼を襲う。
裂かれた服に染まる血、自ら流した赤色を見て彼は微笑み言った。
「やるな。だが、奥の手というものは最後の最後に出すものだ。そろそろ頃合だろう。あれを見たまえ、勇者諸君」
幕によって覆われている場所、広間の隅。
彼が指差し開いたそこには・・・・・・。
●封印
数枚の金貨が地面に敷かれている。
金貨は陣を成して光っているようだ、組まれた陣の中、ぼんやりと黒い何かが浮いてこちらを見ている。
彼は言った。
「ナタリー。あのゴーストは君の愛しい両親の片割れだ。おっと、勇者諸君は黙って見ていてもらおう、無駄に動くと存在の保障はできない。さて、ナタリーどうする? 選択とは繰り返し、もう一度自ら進む道決めよ。信じるも信じぬも自由。だが、二度失いたくないのならば、私の元に来るのだ」
まだ戦える。
誰もがそう思った。握った剣を振るえば、彼に簡単に刃は届くだろう。
だからこそ、ナタリーの答えを待った。
長くて短い時間は過ぎ去っていく、ナタリーは無意識にロザリオを握っていた。
彼が本当のことを言っているかは分からない、記憶にある両親の記憶は歌だけしかない それでも、失うことはやはり耐えられない。
「私は貴方と行きます。だから、みんな無事に帰してください」
どちらも選ぶことができないのなら。自分が傷つけばいい、彼女は思った。
もらったスカーフにかんざしを包みながら、ナタリーはソリュートとルーテに微笑む。
「絵、続けられるか分からないけど。ルーテさんもニーシュさんと仲良くね」
ロザリーとクロエに、もらった物を返した。
「ごめんなさい、せっかくもらったのに」
ナタリーは、進みニーシュの手を握ったあと、振り返った。。
「セツィナさん、マリオンさんを頼みます。ヤグラさん、料理教えてもらってありがとう。リンさんロザリオは持ってちゃいますね。あと、フォックスさんと神父さまによろしくお願いします」
落ちた涙を拭い、笑顔で彼女は言う。
「さようなら、今までありがとうございました」
ナタリーは歩み去り、扉は鈍い響きを伴い閉じた。
「諸君は、もはや無用の長物。とはいえ、生きて帰ってもらっては厄介なのでね、新たに歓待しよう」
再度、彼は指を鳴らす。
現れた兵を見、冒険者たちは、退却することに決めた。戦い切り抜けながらも、唯一別働隊として動いていたフォックスの働きによって、撤退する時間とタイミングを作ることができた冒険者たちは、なんとか退却した。
全員合流したあと、話を聞いたフォックスは無言のまま。
矢を折った。
続