光+− 〜Prism〜
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:5 G 85 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月05日〜12月13日
リプレイ公開日:2007年12月13日
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●オープニング
●教会
礼拝を終える鐘が鳴った。
神父は、しばし祈りを捧げる。
いつしか雪は降り始めた。白で覆われた世界は、汚れをまだ知らない地。
いずれ春が来て消え去る一時の移ろいだとしても、この場にあるのは白銀に包まれた静寂。その中をもつれた足で歩むならば、いつか転ぶ。だから、転んだあとで立ち上がることこそが神の教えだと信じた。
──なのに、今となっては、どうすることも出来ない。
失ってしまったあとで人は悔やむ、悔やんだところで何も変わらないのも知っていても 神父はもう一度祈る。
そんなある日、神父の元を訪ねた者がいる。
傍らに紫色のローブを羽織った女を従わせた蒼い鎧の男だった。
彼は、来訪した意図を問う神父を制するかのように先んじて言う。
「経緯は知っている。手は・・・・・・まだある。特に難しい話ではない。捨て駒になる者が欲しい、それだけだ。遠くない日、一通の書状が彼女、ナターシャに関係した者宛に届く。その内容を見てから決めても今回の提案について考えてもらって構わない」
事を話終わり、立ち去る際に男は言った。
「失策は自らの命を賭けて贖うもの。そう伝えてもらおう」
残された神父は無言のまま、じっと立ち尽くしていた。
●ギルド
雪の舞う寒い日の午後、その初老の神父はギルドにやってきた。
「全てはここより始まりましたね」
ちょうど執務中だった中年ギルド員が神父の話を聞いて思い出したのは、その話だった
「始まりがあれば終わりもあるものさ」
「そうですな、いずれ終わりがくるにせよ、私の依頼はいつものとおりです」
「キエフの猟奇鬼が、何のためにあの少女を狙ったのかは、さておき。決着はいずれつける必要があるだろう」
頷く神父に中年は言った。
「とりあえず依頼は受けた、募集してみよう」
ここにいない少女。その名をナターシャという。彼女はある事件の唯一の生き残りで目撃者。
何のために生き残り、これから歩むのか? 問うべきにも今や彼女は幽閉の身である。
光
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●提示された取引条件
訪れた人物は愚者と名乗る男です。
彼がなぜこの件について、知っていたのか?
その点に関しては、このさいどうでも良いことかもしれません。
愚者の提示した条件は、ある場所を襲撃し、そこにいる集団に打撃を与えるかわりに
ナタリー救出の機会を作るというものです。
なお、後日愚者の言うとおり、教会に一通の書状が届きました。
送り主はヴォルニ領主・アレクサンドル・ヴォルニ。
内容は、結婚式の招待状です。その相手はいわなくても分かると思います。
婚礼の日取りまでにはかなり猶予もありますので、なんらかの行動は起こすことも可能です。
愚者のいう事を信じ、取引に応じる場合はキエフの酒場に彼の使いがいますので、連絡をとってください。
●取引をすると決めた場合、情報として以下のものが与えられます。
襲撃する場所については、ヴォルニフ近郊にある館のようです。
館にいるのは、ヴォルニ領主の近衛部隊です。なお、この部隊は少数のようですが、実力は未知数です。
館は、一軒屋が多少大きくなった程度だと思ってください。
館の四方は森に囲まれています。積雪も多少あります。
目撃証言から、近衛は軽装が多いこと、見張りが交代で数人立っていること、出入り口は表裏に二つあり
道が出入り口に続いていることが分かっています。
人数については少数ということですので、それほど数は多くはないでしょう。
●その他
ヴォルニフまでは徒歩の場合、片道三日程度です。
取引に応じる場合、愚者が用意した馬車で送迎してくれますので、二日程度で着きます。
館は、ヴォルニフから徒歩で半日程度の場所にあります。
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●リプレイ本文
●罪と罰
待っている。
期待をしている。
だから、答えは遠のくだろうか
白光の輝きに目を閉じれば、いくつもの情景が浮かぶ。ある時は半ばにして倒れ、ある時半ばにして知ることもせず朽ちて滅ぶ残影は、手を伸ばしては届かず、諦めるたび目の前に現れる。誰も気づくことはないとしても、空しい気持ちは繰り返されていく。
灰色に彩られた風景。
匂い立つような生々しさよりも、消え去る日々の連続が今では美しいと感じる。これからも日々は続く、いつか最後は血に染まるとしても、誰を責めるでもなく、誰のせいでもなく、自らの迷いに戸惑うのが運命という名の呪縛。
「君は、君自身の思いによってここにいるわけではない。それでも私は君を求め、君はそれを受けいれた? 違うかね」
目の前に立つ男。彼はきっと何かが欠けている。少女は彼の姿を見るたび悲しみを覚えた。
あれからどれだけの月日が経ったのかは分からない。
陽はまた昇り、死神は一歩ずつ静かに歩み寄る。
●向かう途中
ソリュート・クルルディアス(ec1544)は、このパーティーにいる狐目男女二人組みの女のほうである。
出発前、彼女は愚者の使いに話を聞きに来ていた。
「それが本当にナタリーのためになるという保証は?」
ソリュートの問いに、使者は手短に説明した。
予定されている婚礼を機に愚者手勢を率いヴォルニフを強襲する。そのさい君達は式に招待されているだろうから、呼応してなんとかすると良い。逃走などの手引きはこちらのほうでつける。
そのさい障害になるであろう、領主の私兵ともいえる近衛兵を叩いておいたほうが、作戦自体の成功率があがる。今回もそのための策の一つだ。信じるか信じないかは自由だが、君達だけで行動するよりは成功率はあがるだろう。
ソリュートは、何度か頷いた後。
「どちらせよ、今はその案を選択するしかありませんね。理由はどうであれ」
自らに向けるかのように言った。
ロザリー・ベルモンド(ec1019)はナタリーに個人的な思い入れでもあるのだろう。愚者の使いにたいして、慌てて声をかけた。
「ナ、ナタリーさんは、大丈夫ですわよね。傷一つついてないですよね。それよりもナタリーさんと領主の関係って、なんですの」
愚者の使いは、少し驚きつつも、彼が知っていることを話した。
領主とあの少女の母親? と何かしら関係はあるようだが、詳しくは分からない。彼女は部屋に監禁されているだけで大丈夫だ・・・・・・と。
ロザリーは早速、クロエ・アズナヴール(eb9405)にその報を知らせた。
クロエは、あの下衆が指一本でも触れていたらぶった切る。そんな憤りを隠しつつも、冷静にロザリーに返した。
「そうですか、ナタリー君、お疲れ様でした」
「クロエさん。わたくしロザリーですわ」
気まずい・・・・・・微妙な沈黙が流れた。
「二人とも、どうしました?」
にこにこしつつヤグラ・マーガッヅ(ec1023)がやって来た。
ロザリーがヤグラに事の次第を話す間、クロエはなぜか仮面の手入れを始める。照れ隠しかもしれない。そのうちにロザリーはヤグラを連れ立ってその場を去っていった。
愚者という名の男より提示された条件を飲み。ナタリー救出に向かった冒険者たちは、途中ヴォルニフにて、一呼吸をおいた。
アスタルテ・ヘリウッド(ec1103)は、とりあえず呑んでいる。最近酒量が少し増えたのをニーシュ・ド・アポリネール(ec1053)は気にはしているようだ。
「はあ、お姉さん、もう自棄酒よね」
「自棄酒ですか? 呑みすぎは太りますよ、ルーテさん。マドマワゼルには致命的な事象だと思われますが」
太るという単語に一瞬眉をひそめたルーテだったが、気にせず二杯目に手をかけた。
「おいしー」
リン・シュトラウス(eb7760)は、お菓子好きだ。そろそろほどよいお年頃なのだが、行動と外見は子供っぽい。今も先ほど買ったお菓子をほお張りながら、リュートを弾いている。弦に食べこぼしなどがくっつかないのかは、気にしてはいけない。
「甘いものを食べ過ぎても太りますよ」
端のほうで一人、自分の世界を作り出そうとしていたフォックス・ブリッド(eb5375)は、過去のナタリースマイルを思い出しながら少しニヤケタあと、現実に戻ると、ちょうど目の前にいたリンにそう忠告した。忠告されたほうは、あまり気にもしていない。
「いいんです。戦う前の景気づけですから」
「そう、呑むのも景気づけよ!」
賛同したルーテ、ニーシュはため息をついて呟く
(酒を呑んでも背は伸びませんよ、ルーテさん)
「なーにか、いったかなあ、ニーシュ」
「ノン、無口は紳士の嗜みですから」
ニーシュに紳士は百歩ばかり遠いような気もするが、酔いかけているルーテは気にもしない。
微笑ましい? 光景というのか分からないが、その様子を憮然としてその様子を見ているマリオン・ブラッドレイ(ec1500)にセツィナ・アラソォンジュ(ea0066)は何気なく言った。
「今回、味方ごと焼き払うという素晴らしい作戦はやめて欲しいものですね」
セツィナが揶揄しているのは、この前のマリオンの起こした行動、味方火炎大爆発についてのようだ。
「なによ、あれのおかげで皆助かったんじゃない、ありがたく思いなさい。だいたい黒いのとか似非お嬢がさっさとあの変態を斬らないのが悪いのよ!」
マリオンは悪びれず言う、その態度にこれ以上言っても無駄だと思ったのか、セツィナは黙る。
ソリュートは毎度の風景になんとなく居心地のよさをおぼえつつも、遊びにきたのか、仕事に来たのか分からない仲間を見、不安の前に可笑しさを感じた。
(失敗を恐れて、縮こまるよりは大分ましですが)
ソリュートも景気づけと一杯あおった後に、そう思った。
──その頃。
「そもそも婚姻とは想い合う男女が結ぶ物と、昔家にあった本には書かれていましたわ」
「自分もそう思います」
ロザリーはヤグラと一緒に情報収集を兼ねてヴォルニフを散策していたが、急に怖気を感じたようだ。あいにく館の周囲は警備が厳重では近づけなかったため、二人は帰ってきていた。なお、今回の話はまだ領地には広まっていない。
「なにか悪寒がしますわ」
「風邪でしょうか?」
「かも、しれません」
その様子を見たヤグラはロザリーの肩にそれとなく手を回そうとしたが、邪魔が入った。
「二人とも、敵地で油断していはいけませんよ」
クロエは見かけた二人にそう声をかけた、なぜか目の前の二人は挙動不振だったが、気にもせず彼女は宿へと向かう。・・・・・・運のない二人である。
●現地
愚者の情報によって、たどり着いた場所、やや大きな館。
セツィナとリンの鳩と忍犬により、周囲の状況を偵察した結果、提供情報どおり、周囲を見張る数人の兵がいるのが確認された。罠も特にないようだ。
さらに、リンがもたらした情報にヤグラが驚きをもって答えた。
「蝶ですか!」
「はい、蝶を象った紋章をつけた服? 鎧かも知れませんけれど着た何かがいるらしいです」
ヤグラはかいつまんで、彼が知っている事を話した。過去に蝶の紋章をつけた隊商をヴァルニ領主の館に送った事があることなどである。
「それと何の関係があるのかは分かりませんが」
現状その情報が何を意味しているかは別として、襲撃する時期を彼らは決めなければならない。
まず、表と裏二つにパーティーを二分した。
表側
・クロエ・ソリュート・ヤグラ・フォックス・マリオン・リン
裏側
・ニーシュ・ロザリー・アスタルテ・セツィナ
襲撃の時は夜が白み始めた頃と決めた。寒さに震えその時を待ち・・・・・・太陽が昇った。
この場が襲撃されることは、どうやら想定外の出来事らしかった。
正面門の見張りの交代でやって来た兵士は眠りに倒れ同僚を起こそうとした時、走りこんでくる黒い戦士の姿を見
「貴様ら、何者だ」
そう叫ぶが、切っ先にて返事を返される。不意をつかれた彼らは一瞬混乱に陥った。物音を聞き、館の内部から増援とおぼしき兵士らが現れる。それを見たソリュートはクロエに下がるように叫ぶ。
その機にマリオンは自らの必殺技ファイヤーボムを打つ。爆音は辺りに轟き、焼け焦げた匂いとともに侵入者の来訪を告げた。
館からはさらに兵士が現れる。
フォックスは、木陰に隠れていた。この場所なら死角であり、敵を狙うにも援護するにもちょうどよいだろう。彼は現れ増援に向け矢を放ちはじめる。
しばらくすると、窓から矢の雨が射掛けられる。それを見たリンは射手に呪の矢を撃つ。
だが、数は相手に分がある。
一方裏側は、静かなものだった。
擬態したロザリーがそれを解き進むが、抵抗らしい抵抗も無い。なぜならこちらには見張りさえ立っていない。近づいた彼らは、あまりの静けさに何か不審を感じつつ裏門へと向かった。
たどりついた扉は鉄製で重く、その扉? 扉にみえるがこれは、扉ではなく金属の壁だ。
「これは?」
ニーシュの問いにセツィナは
「罠でしょうね。このままでは分散した分こちらが不利です。援護に向かわなければ」
「まったく、親分も親分だけど、子分も性根腐ってるわよね」
ルーテが憤慨した。
「早くいきましょう」
ロザリーがそう言った時だった。
「どぶ鼠は穴だらけになって死ぬのがお似合いだ」
掛け声と共に、窓から矢が射掛けられはじめた。とっさにルーテが前に立ち、
「ここは私に任せてさっさと行きなさい、一人や二人なんとかする」
「わたくしも残りましょう、こういう時のための、真空の刃ですわ」
レイピアを掲げてロザリーも言った。
ニーシュとセツィナは頷くと走り出し、番えた矢と、飛ぶ刃が唸りをあげて射手へと振るわれる。
数に圧倒され始めた表側だが、クロエの鬼神のごとき働きとソリュートの渋さの光る援護、フォックスの矢の連携で、着実に敵の数は減っている。どうやら敵は弓を使うことに長けているものが多いらしく、こちらも無傷ではない。
マリオンは一つ思い出した。
(この作戦の目的は敵を減らす事)
ということは、ようは建物ごとぶっ壊せばいい。なんていい案。
ソリュートもそのことには気づき
「埒があきません、このさいマリオンファイヤーで焼き尽くせ!」
そう叫んだ。
「やっぱり魔法は使ってこそ意味があるわね。最近使う機会がなくてストレス溜まってたのよ。万遍なく焼いてあげるから、安心して焼け死になさい」
これが契機となり、マリオンが建物に直接攻撃をくわえるになったためか、兵士が脱出のため門から出てくるようになる。その様子を確認したソリュートはクロエに引くように声をかける。
そして・・・・・。
表門にたどりついたニーシュとセツィナは、見る。真っ黒こげな兵士たちを
「うわ、焼き払うのはよいですけど、また無残というか、ノンノン」
「油断しないように、最後の突撃が来ます」
ニーシュは肩をすくめつつ、振り向きざまに剣を振るい、襲ってきた兵の出鼻をくじく。
「お見事」
「いえ、たんなる芸です」
セツィナは、窓に立つ兵に向かって氷柩の呪文を唱え始めた。
それからしばらくして、援軍。きっと交代要員なのだろうか兵士の一団がやって来た。
裏門の射手数人を倒したルーテとロザリーは表門のメンバーと合流して、傷ついたルーテはヤグラによって治療された。
リンは死体の転がる光景に痛みを感じたが、退却をはじめる。退却のさいセツィナの魔法が効果的だったことをつけくわえておく。
●朝日
剣を鞘に収める。
生きるということは、何かを失い進むことで、自分にとって失うものなど当の昔に無くなった。クロエはそう思ってはいた。だが、今何故にここにいて剣を振るうのか? 自らに今一度問うが答えが出るわけも無い。
「完全な勝利の前の、ささやかな勝利ですか」
彼女はふと呟いた。
誰しも、出会いのあとには別れがある。ここに集った彼らはいたずらな縁で繋がれた者だとするのならば、役割を終えればまた元の場所に戻っていくだけなのかもしれない。けれど・・・・・・。
帰り道。ふと、誰かがこう言った。
「あのバカ領主にお仕置きをしてやろう、ナタリーは絶対にとりかえす」
皆口々に賛同し、積もった雪を蹴り始めた。いったい何が楽しいのかは誰も分からなかったが、蹴りながら自分たちが仲間であることを彼らは感じていた。
いつか、旅は終わりがきてその日々は軌跡、記憶となるだろう。今まで歩いた証が彼らの歴史ならば、例え答えがみつからなくても、それできっと良いのかもしれない。
朝日──昇った太陽が、彼らを照らし出していた。
続