♯少年冒険隊シンフォニー♭ 『魔女』♪
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 95 C
参加人数:9人
サポート参加人数:3人
冒険期間:12月18日〜12月24日
リプレイ公開日:2007年12月26日
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●オープニング
●黒い男
少年冒険隊にとって、黒衣をまとった僧侶、名の分からぬ彼はある種、特別な存在だ。 アレクセイ・マシモノフが冒険者を目指した理由であり、ジル・ベルティーニが自らの過去を思い出さざる終えなかった要因、ニーナ・ニームの命を危うくした原因、倒すべき相手ではある。
しかし、憎しみに燃える彼の瞳の奥底には悲しみにも似た色も感じられていた・・・・・・今までは。事あるごとに冒険隊の前に立ちはだかる、黒衣の僧侶。いまだ名も分からず、破壊の限りをつくす彼の前に映るのは、同じ主に忠誠を誓った者の姿だった。
「お前のような、三流策士が同類とはな」
黒衣を纏った僧侶の前には、もう一人僧侶がいる。青白く怪しい目の、蓄えた髭をさする男、元ロシア王国顧問、名をラスプーチンという。
「穏やかではないな、同じ主に仕える仲間。紳士的にはいかないものかね?」
嘲りを含んだその声は冷たい。
「まあ、いい。で、今日はいったい何のようだ」
黒衣の僧侶の問いに。
「近くまでよったので、ついでだよ。そろそろ隠れているのも飽いた、時期は冬、騎士団も凍える時期。一つ二つ街を襲ってみるのも、また面白い」
「趣味が良いというか、悪いというか、小賢しい」
吐き捨てるかのような言葉など、気にも留めずラスプーチンは返す。
「褒めてもらわなくても結構。自分の仕事をするがいい。それではまた会えるとよいな同士、ゲオルグ」
「その名前で俺を呼ぶな!」
ゲオルグの名を聞いた瞬間、黒衣の男の態度が変わった。衝動と圧迫をない交ぜにした物、苦しみにも似た激情を両の目に宿し睨む。
「失敬、禁句であったかな」
意地悪い笑みをラスプーチンは浮かべた。
●魔女の森
魔女の森はアレクの故郷の村にある森だ。魔女が住むという噂がある森、実際に森の魔女と呼ばれる女も存在する。この森は、迷いの森とも呼ばれる。アレクが冒険に出たきっかけである友達のオーガ、プースキンも森の奥にある魔女の館にいた。
魔女といっても、彼女自身は特に何の罪を起こしたわけでもない。だが、隠れなければならなかった理由もある。
その理由によって今回の事件は起きた。
「鍵はどこだ?」
館の部屋には、二匹の狼を連れた女と紅色のローブを羽織った男がいた。
「久しぶりに訪ねて来て何を聞くかと思えば、知らないね」
魔女の小馬鹿にしたような態度に男は苛立ちを隠せない。
「領主の命だ、居場所を教えてくれ」
「あの馬鹿の言う事を聞く気などないのは、あんたも知っているだろうに」
そう返した魔女の最大の誤算は、目の前の男にはこれ以上問答をしている余裕は無く、実力行使にでたことだ。
かつてその村は一度灰と化し、復興の途中だ。
村は数度の災いにも持ちこたえてきた。そして、今再びやってきた者の手により、行われる行為にも果たして耐えうるのだろうか?
「鍵の情報と、村一つどちらを守るか? 選択する時だ」
魔女に向かってローブの男はそう問う。
「・・・・・・」
無言の魔女に彼は言った。
「君が何のためにこの村の近くにいたのかは、分かっているつもりだよ。時間はあまりない この程度の村、燃やし尽くすのは簡単だ。戦う力を忌避する君では、村一つ守ることすら叶わないだろう」
魔女に向かって男はそう言う。
彼女に従う二匹の狼が牙を剥くが、村人に向けられた男の杖を見た魔女の指示によって沈黙した。
●キエフ
来月の初め、アレクは齢十三を数える。
この一年何が変わったかというと、本人は気づくこともないようだ。周りはそれとなく変化を感じてはいたとしても・・・・・・。
アレク一家はニーナ祖父の家にいまだ厄介になっている。アレクがある事件の後連れて来た少女リナも、いつのまにか馴染んだようで、ニーナに懐いているようだ。
相変わらず、服装に原色を好むニーナ祖父は、その光景を微笑ましく見つめていたが、平和が長く続かないような気もしていた。
そんな、ある日のことだった。
「アレク! ニーナ」
ジルが報を連れてやって来た。凶報なのか、吉報なのかは──別として。
冒険隊
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●状況
アレクたちの故郷の村が何者かに占拠されました。村人の一部は復興を終えた教会に集められ人質となっています。
どうやら、彼らはヴォルニ領主の私兵のようですが、実態は定かではありません。風体からして魔術師の集団ではないか、そんな情報があります。
彼らは魔女の森に住む魔女もどうやら人質にしているようです。
占拠されてから一日半ほど経過しています。なるべく急ぐ必要はあるでしょう。
●場所
片道二日ほどの村、アレクの生まれ故郷です。教会の周りはそれなりに厳重な警戒がされているようです。ただし、人質の数の対して兵の数が少ないため、人質の監視・警備についてはそれほどでもないようです。
彼らがなぜこのような暴挙に出たのかは不明です。
●その他
※登場人物 「少年冒険隊」
■アレクセイ・マシモノフ 人・12歳・♂
ファイター。
実力は子供のわりに強いかな程度。
前向きですが迷いも感じる日々。
■ジル・ベルティーニ ハーフエルフ・17歳・♂
かなりの実力をもつレンジャー。
なんというか、青春。
■ニーナ・ニーム エルフ・10歳・♀
風魔法使いの女の子。ウインドスラッシュ・レジストコールド、ライトニングサンダーボルトが使えます。
脳内は、結構まともなお花畑のようだ・・・・わがままです。
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●リプレイ本文
●すすめ冒険隊
ジルの話を聞いたアレクとニーナは、冒険者ギルドへと急いだ。
彼らの依頼を危機、九人の冒険者が集まった。馴染みとなりつつあるメンバーの顔を見てアレクは一言つぶやいた。
(みんな、いつも何をしてるんだろう?)
そんなアレクの疑問など露知らず、集まった九人は冒険への準備を始める。
「あれマクシームさんじゃないすか」
「お、ジル君じゃないか、元気かね?」
「俺は元気ですよ、今日も料理教室ですか」
「いや、野暮用だよ」
「そうですかあ、それは残念」
どうやら、マクシームはディディエに色々な情報を与えに来たようだ。
さて、九人の冒険者は以下
ケイト・フォーミル(eb0516)
セシリア・ティレット(eb4721)
シャリオラ・ハイアット(eb5076)
皇茗花(eb5604)
キール・マーガッヅ(eb5663)
リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)
リン・シュトラウス(eb7760)
マイア・アルバトフ(eb8120)
ディディエ・ベルナール(eb8703)
──道中。
ニーナの面倒を見ていたケイトだったが、ニーナはセシリーを巻き込みエロエロ・エッサイム遊びを始めた。
『エロエロ・エッサイム』
それは伝説の秘術、豊胸の呪文? らしい。いまだその効果は見受けられないが・・・・・・ニーナもセシリーも。
解放されたケイトは、かつて恋破れたリディアと珍しく二人きりとなった。微妙な緊張感が二人の間に走る。
そのうち口を開いたのリディアだった。
「こうして二人で話すのは、久しぶりですね」
「う、うむ。い、今では、良い思い出、だ」
何も聞かれていないのに、ケイトはそう返す。その様子を見たリディアは微笑んだあと立ち去った。
リディアの後ろ姿を見送りながらケイトは思う。
口ではそう言ってはみたが、やはり心の傷は多少痛む。新しい相手がいないわけではない。しかし、傷心の相手が目の前にいるのは複雑な気分だ。呪文遊びをしているニーナとセシリーのほうをケイトはぼんやりと眺めていた。
「行き遅れシスターズ長姉さんが、元気ないわね」
声をかけてきたのはマイアだ。マイアはケイトの肩を二度叩くと隣に立った。
いつからそんなシスターズが出来たかは定かではない。リディアとマイアは確かに行き遅れの双璧ともいえるが、ケイトも加わるとは──それも長姉。歳の順で行けばマイアがその立場になりそうなものだが、見た目で順番は決まったようである。
「じ、自分は、い、行き遅れではなくて」
「それじゃ男嫌い? なのかな」
からかうようなマイアの問いにケイトが答える前に、遠くのほうで誰かが叫んだ。
「ニーナのバカ!」
その剣幕にマイアとケイトは声の方向を向いた。
アレクがニーナに向かって何事か怒鳴りつけている。優柔不断なアレクにしては見事な怒りっぷりらしい。怒鳴り声が辺りに響いた、それくらいには。
いったい何事が起きたのだろうか? ジルと会話・・・・・・というより一方的に話しかけられ、聞いているだけのキールは、同じくその場にいたリンと顔を見合わせたあと、視線をやった。
ニーナが起こす問題。
それは、たいてい子供の悪戯のようなもので、険悪になることは少ない。やること成すこと彼女一流の洒落が効いたものも多いが、わがままを言って困らす程度のもので、アレクが怒ることは稀だ。
言い争いの後、泣き出しそうなニーナを置いてアレクは駆け出す。ちょうど二人の近くにいた茗花は事の一切を見て──はいなかった。ニーナがアレクに何かを言ったことは確かだが、何なのかは分からない。ひとまず茗花は、うつむいているニーナへ話しかけた。
「お菓子、食べようか?」
ニーナは首を振った、弱く。
勢いよく走るアレクをすれ違いざま見送って、ディディエは思う。
子供というものは面倒なもの。物を言わない分、植物とどちらが大変は難しいところではあります。
とにかくディディエは無関係を決め込んだ。この手の事象は自分にはむいていないと判断したからだ。内心、自分が話さないでおこうとしたことをニーナがばらしたので、いっそのこと全部話そうかとも思ったが、思いとどまった。
場に、静けさが戻った。
理由も分からず、すっきりしないままジルは肩をすくめて、軽口を叩く。
「いやー若さ溢れるってかんじですよね。いいね、うん」
「自分も若いだろう」
キールがジルに突っ込んだ、今日のキールは上機嫌のようだ。
「歳を気にしだすとお年寄りになるかも、ね。です」
なぜか嬉しそうに続けるリン、彼女も上機嫌のようだ。
ジルは言い返す言葉を探していたが、諦めて解決の手段を探す。結果、この手のいざこざはリディアに頼るのが一番ということに気づいた。このパーティーで説教・・・・・・・ではなく説得する役として適任なのはリディアだろう。マイアも選択としては悪くはない。だが、毎度呑んだくれている印象が強すぎて、ジルの脳裏から排除されたらしい。
「ちょっと、俺行ってきます」
「きちんと仲直りさせてくださいね」
無言のキールとリンの声を背に、ジルはリディアの元に向かった。
リディア・ヴィクトーリヤ、キール・マーガッヅの二人は、冒険隊仲間の中でも古株といえる。アレクが冒険者となるきっかけになった事件から共にいて、今まで歩んできているからだ。そういえば、契機の事件に立ち会った者に、もう一人シャリオラ・ハイアットという兄好きもいたような気もする。
当のシャリオラは、愚者のタロットカードを拾ったせいか、愚者の呪いにかかった──とも聞くが、そんな呪いがあるかは別として。
「愚かもの死すべし」
そのシャリオラが今ここで、呟いた。
彼女は蒼い鎧の男に罵倒されたことを、まだ多少に根もっているようだ。
性格がどうであれ、シャリオラの顔かたちは良いほうといえる。誰もそれに注目しないのは、やはり普段の行いというものだろう。
メンバーから離れていたシャリオラ。そこにやってきたのはアレクだった。なぜか、息を切らしている。
「そこ行く少年。その様子だと一生懸命体を鍛えているのですか」
シャリオラに気づいたアレクは、その問いにどう答えて良いのか数秒悩んだあと。
「・・・・・・お姉ちゃん、たまにねらってボケてるよね」
だが、シャリオラは動じない。
「きっと、そういうお年頃なのです」
「どういうおとしごろなの?」
「乙女心は複雑怪奇、あまり深く聞いてはいけません」
「よくわかんない」
「分からないうちは子供です。子供は早寝早起きが肝心です」
シャリオラとアレクの不明瞭な会話はしばらく続いた。
「それで、なぜこんな寒々としたところに走りこんできたですか」
アレクは口ごもった。
「言えないならそれで良いですけど。誰だってそんな時があるものですから」
「うん」
黙ってしまったアレクとシャリオラは二人で空を眺めた。冬とはいえ晴れた今日は、日差しが強く暖かい。
「二人とも、こんな雪の中で、日向ぼっこですか? 風邪をひきます」
かけられた声に二人が振り向くと、リディアが立っている。
「そういう貴方は何の用でここに」
シャリオラの不躾な質問に、リディアはシャリオラの耳元に何事か囁いた。
「そうですか、それでは私はこのへんで、準備はしておきますよ、ええ」
含みのある言葉を残し、シャリオラは消えた。
「女の子をいじめるなんて、らしくないですね」
リディアはアレクに諭すように言った。アレクは足元に目を逸らす、雪の大地は太陽の輝きを受けて白から銀に変わった。何度か視線をリディアと銀のテーブルの間を往復させたあとアレクは、渋々口を開いた。
「ニーナが悪い」
「理由は?」
「ニーナが・・・・・・父さんの話を」
アレクの父は大分昔にこの世を去っている。その理由を詳しくはアレクも知らないし、生死不明として母からは説明されていたようだ。
そこへニーナは眼帯の女学者リュミエールから推測を聞いて、アレクに少し話したらしい。
「そうですか、けれどニーナのご両親も亡くなっているのですよ」
「分かってるよ、分かってるけど、僕」
リディアは、正論を言うべきか迷った。目の前に少年に説いたところで、半分も理解できないかも知れない。だからリディアは──。
「アレクさん」
リディアの手配により、配置されたセシリーがアレクを迎えた。自分は叱って後はセシリーに任せる。そんな周到な準備だったようだが。
「あ、お姉ちゃん! 怒られると思ったのになあ」
「何があったのですか?」
アレクは先ほど抱きしめられた感触を思い出した。それをセシリーに言うかどうか迷ったけれど、何も言わずに笑って答えた。そのうちに彼女も知る事になるが、聞いてどう思ったのかは、セシリーの心の中にある。
「ううん、母さんを思い出しただけだよ」
「アレクの機嫌は直ったらしいぜ、ニーナ」
ニーナにその報を伝えに行った時、ちょうど茗花が熊のぬいぐるみを操りあやしているところだった。
「そ、そうか直ったのなら良かった」
なんだか照れた感じの茗花はすぐにその場から立ち去った。
「とにかく、謝ってこいよ。一人が嫌なら、ケイトさんか、マイアさんあたりと行ってこい」
「やデス」
「いやって、まったく、仕方ないな、待ってろ」
渋るニーナを見て、ジルは二人を呼んできた。
「ニ、ニーナ。悪い事をしたら、あ、謝るものだ」
「さあ、いきましょう。このまま喧嘩したままじゃ悲しいわよ」
二人に手を引かれてニーナはアレクの元に引きずられるように進む。お互い気まずい思いをしながら、アレクとニーナは謝り握手した。
こうして騒動は終った。一安心したジルはいつものようにぼやいているようだ。
「なんつうか、アレクばかり役得っすよね。ジル君を優しくいい子、いい子してくれるおねーさんは、いないかな」
「おねーさんなら、周りにいっぱいるじゃない」
「え、マイアさんは、酒呑むと絡んでくるからなあ」
「私もいます」
「リンさんは、なんていうかお子様ぽいような」
「それでは、私が」
「シャリオラさんは、ブラコンって聞きましたよ」
「僭越ながら私が」
「茗花さんは、G嫌いでしょ、俺もGですよ」
「じ、自分が」
「ケイトさん、男でいいんですか?」
「それでは〜私が」
「ディディエさん、周りの悪い空気に染められてきましたね」
「俺が」
「キールさん・・・・・・俺の中の聖キール像をあまり破壊しないでください」
「先生あたりなら、いい☆だな、でも怖いからな」
そのジルの言葉をリディアが聞いていて、後で説教されたのは言うまでもない。
●村
この村に足を踏み入れるのは何度目になるだろうか? 多い者もいるし少ない者もいる。しかし、誰にしろ来訪するのは初めてではない。
復興も進み、ある程度形を成してきた村。何のために、ここに占拠したのかは、訪れた彼は知らない。
情報によると、教会に村人を人質として取っていることが判明している。
彼らは、シャリオラの口車と同時に火事騒動を起こして突撃する計画を立てた。果たして上手くいくのだろうか?
「シャリオラ・ハイアット、まあ、たまには頑張ります」
「ケイト・フォーミル、従者をする」
「ディディエ・ベルナール、情けない従者二号です〜」
「グットラック、これで変装が上手くいくかは分からないが」
茗花の魔法を受けたケイトは普通だ。どうやらやる気らしい。
こうして、先発隊が教会に向かった。
教会の周りはそれなりに厳重な警戒で、当然シャリオラたちは呼び止められた。
「何のようだ」
「キエフの教会の方から来ました」
「教会は現在閉鎖されている」
「私達は、この教会で無法が行われているという話を聞いて調査に来たんです。子供の使いじゃないんですから、皆さんの安全な顔を確認するまで帰れませんよ。それから、私達が帰らない場合、人道的な立場からキエフの教会も動きますからそのつもりで」
警戒の兵士たちは困惑したが、彼らもなぜ教会に人質を取ったのか? その理由を聞かせられてはいないため、納得していないところがあったのもある。
「し、しばらくまて、隊長に確認を」
シャリオラは、確認を取られればこれ以上進むのは難しいと判断し、ケイトに目配せした。
リンは魔女と面識があるため、彼女とテレパシーを用い会話をしていた。
どうやら狼とは引き離されているらしい、魔女は戦闘用の魔法はどうやら使えないらしい。それなら内部から村人も呼応できるように話せないか、リンは交渉する。
そのさい、シャリオラの様子をみた、リンはキールに早めに着火するように促す。
煙と炎に動揺した警備兵の隙をついて、ケイトは大立ち回りを始めた。彼女の武器はケイトスープレックスやら、久しぶりに繰り出すケイトキックである。
相手は虚弱な魔法兵だったため、思ったよりも打撃には弱い。だが、呪文の連続にケイトも無傷ではすまない。
ちょうど遠方からリディアの火炎球が着地点をずらして暴発したのが合図となった。
一方。
ジル・キール・リンの【チームミラージュ】は魔法の矢も含んだ矢を放っている
茗花とマイアによって築かれたシールド陣地にはアレク・ニーナ・セシリーが突撃の準備を始めた。ニーナは危険なのでどうやら置いていかれることになった。駄々をこねるニーナを茗花がなだめすかした。
敵の魔法攻撃も尋常ではなく、氷雪やら爆炎が皆の範囲内に陣地も入るがシールドのおかけでそれほどダメージはない。しかしそう何度も張りかえれるほど精神力の余裕があるわけでもないのが現状だ。
セシリーとアレクは教会内部に突撃を敢行した、内部の村人たち、ケイトとディディエなどと呼応して人質を助ける作戦に出たのだ。
「やれやれ、過重労働ですよこれは〜たまには華やかな舞台に上りたいものですね〜」
ディディエは先ほどから、ナイフを念力で飛ばしてかく乱、キャノンを放って転がすなど地味な活躍をしているため、あまり目立たない。
それを言うと、後ろで回復に専念しているマイア・茗花、範囲魔法は味方を巻き込むため、見ているだけなのが多いリディアはもっと地味ともいえる。シャリオラは、やることが一つなので、地味も何もないので触れない。
その時だった。
「ええい、雑魚にてこずっている場合か、敵は少数だ月魔法隊を中心に迎撃しろ」
偉そうな紅色ローブの男が指揮を始めた。
どうやらあれが頭だ。【チームミラージュ】の次のターゲットは彼に決まった。
セシリーやアレクはダメージをくらいながらも、突撃を始める。ケイトは彼女の必殺の一撃。
「ケーイト・ジャイアント・スープレックス」
掛け声を叫ぶ必要もないし、ジャイアントでもないような気がするが、とにかく脳震盪を起こしまくっている。
──解放だ! 解放だ! うぉー。
セシリーたちは無事教会までたどり着き、無事人質解放した。逃げだす人質を少数の警兵で止められるわけもない。
セシリーたちもその勢いでローブの男に肉薄するつもりだったのだが、さすがに思ったよりも傷が深くいったん陣地に戻り出撃した。
戦いは苦戦というには物足りず、善戦というには少し遠い状態で推移した。
「くそ、なんだこいつらは、ええい。無駄な兵力の損耗は私の責任問題だ。覚えていろよ」
吐き捨てる言葉も三流、それなりの負傷はしたものの、こうして朱色の部隊を撃退することに成功はした──のだが、次なる一手が待ち構えていたことは誰も予測すらしていなかった。
●再び
ちょうど、魔女がアレクとセシリーと出会い、アレクが喜んでいたときのことだ。
「これは、これは、こんなところで懐かしい面々と再会とは」
退却の合図を聞き、一息着いた冒険者の前に男が現れ声をかける。偶然通りかかったというよりも、はじめから戦いの帰趨を見定めていたかのような出現だ。
その男は──黒いフードを被り黒いローブを羽織っている。
冷えた空気がさらに鋭さを増した。フードを通して籠った声は、どこかで聞いた音。
あの声は。
「久しぶりだな、お前たち。相変わらずこんな辺境を這いずっているとは、元気でなにより。おっと、どうやら傷だらけのようだが、何かあったのか、何かあったのだろう。まあよい、久方ぶりの再開を祝して、一献どうかね? 」
黒い男は鞭を鳴す。より凶悪な姿をした獣が二匹その傍から冒険者を睨んだ。不意をつかれ回復もままならず、体勢を崩した冒険者たち。
「さて、地獄の門を開く時だ。再会そして別離、名残惜しいが、さようなら」
とっさにディディエが残った精神力を使い、ナイフを飛ばす。刃を微動だにもせず男は見た。かすったナイフにローブが裂けた。
マイアはニーナを治療している途中だった。せめてこの子だけでも守らなくては、マイアはニーナを抱いた。
男は足早に進むと、魔女とアレクの前に立つ。
「全ての元凶は小僧、お前達だ・・・・・・私の計画をことごとく邪魔をするとは、消えろ、消え失せるがいい」
打たれた鞭に獣が走る。牙は光り血が舞う。遠く気がついた、キールとジルが矢を番える間、セシリーが駆けより、魔女は何事か呪文を唱えたが効かなかった。
血まみれのアレクを見た、リンは月影の矢、シャリオラはブラックホーリーを放つが、男は無言のままそれを受けて、鞭を振るう。そのたびに獣の爪と牙がきらめくと。
アレクの意識は一瞬闇に沈みかけた。
「仕上げといこう。純なる者の魂ほど贄にふさわしいものは無い」
男の体が黒い輝きに包まれる。その前に立ちふさがったのは、
「相変わらず機というものを知らない男だ。昔馴染みに会えるのは、懐かしいことさ。でもね、この坊やには貸しがある。それを返してもらうまでは生きていてもらわなければ困る」
男は気安く魔女に対して声をかけた。
「エフェミア、お前は昔から甘い、その甘さが命取りだ。自己犠牲が崇高だとでも言いたいわけか? まあいいそれでは貴様の魂の輝きを頂こう。無力さとは、やはり──罪だな」
男の呪文の詠唱は終り、その手には白く輝く玉がある。
続けて男は、遠く弓を構えたキールに向かい、聞こえるように。
「まだ戦える。そのとおりだ、だが、そのまま置けば女はどうなる? 善人面を並べたお前たちが見捨てて戦うなどの非道を通せるわけもないよな。しかし、愉快だ。今日は気分が良い。だから見逃してやる、己の無力さを今一度味わうがいい。それでは、壮健なれ屑ども」
負傷したものもいるが、男と戦うことは無理ではない。だが、かなりの犠牲を強いる。男の言うように、このまま倒れた魔女を放置すれば命に関わるかもしれない。
黒い男の存在を前に、傷つきながらも、剣を抜いて飛び掛ろうとするアレクを駆けよってきたセシリーが抑える。なぜ止めるのかアレクは理解できない。振り払おうとするアレクに小声でセシリーは言った。
「今は彼よりも、魔女さんが心配です。いずれ決着はつければいいんです。だから今は、我慢しなさい」
悠然と男は去っていった。
再びまみえる、その日まで。
●昔話
日常と非日常の境があるのならば、重なる世界は狭間のようなもの。
閉ざされた世界に住む女は、何を見るためにここにいて、何を見て去っていくのだろうか、真実という名の掲げ、笛が吹き鳴らされる。黄昏は暗夜の向こうより来て、奪い、塵へと返す。
理解するよりも、感じることが大切だ。そう言ったの誰だろう。
「・・・・・・過去を胸に静かに余生を過ごすつもりだった。でも、坊やは知らなければならない。だから昔話を一つする。あれはもう遠い話のこと、そう
昔、四人の幼馴染がいた。彼らはそれぞれ理由があって、ある館に呼ばれた。騎士、戦士、魔法使い、僧侶の四人だ。
四人の仲は良いとはいえないが、それなりに幸せではあったけれど、館の主は少しずつ狂いはじめた。
だから、ある時、騎士は館の主に倒すことにした。戦士と魔法使いは、騎士の手助けをして、僧侶は何も言わず見守った。
けれど、館の主は狡猾で、館にいた魔法使いの母親を人質に取り、魔法使いは助けることができなくなった。
騎士と戦士の二人は頑張ったが二人では無理、逃げることにした。途中、魔法使いを助けて三人で逃げる。
三人は、無事館からは逃げることができたが、途中の森で戦士は魔法使い守り命を落とした。
魔法使いは、そのことをくやんだ。
その後戦士には辺境の村に子供が一人いたことを知る。戦士はそのことを隠していたため、館の主もどうやら気がつかなかったらしい。
魔法使いは、戦士の子供が住む村の近くの森に住み、見守ることにした。そして、いつしか魔法使いは魔女とよばれるようになった。
終」
話を終えた魔女にアレクは聞き返した。
「魔女さん? よく分からないよ」
「子供はこれだから困るのよ・・・・・・あなたの・・・・・・父親は私のせいで・・・・・・死んだ。これで分かる坊や」
「いいから、あとは私たちに任せて、ゆっくり休みなさい」
治療するため、アレクとともに魔女の言葉を聞いたマイアに向かって、彼女は呟く。
「やつらの探している鍵は・・・・・・妹が・・・・・・母に託されて・・・・・・もって逃げた、妹は領主の手にかかったとも・・・・・・聞く。鍵が何なのか・・・・・・教えられていない。
領主が見つける前・・・・・・に必ず・・・みつけなさい、あれは・・・危険・・・。坊やに・・・・・・伝えて、許して欲しいとは・・・いわない。魔女・・・・・・その名にふさわしい裁き・・・を受ける時が今来た。預かった命を・・・・・・返すだけ、それと、あの時の貸しはこれで・・・・・・よ」
言葉が途切れると同時に、魔女の胸元から銅貨が雪に落ちる。鈍く光る何の変哲もないその銅貨をアレクはどこかで見たような気がした。
●終
「ということは、やはり回復はできないということなのか?」
茗花の問いにディディエは首を振った。
「生命力自体を根こそぎ奪われているようですね〜いくら回復魔法をかけても回復は無理のようです」
この緊迫感が満ちた状況でも、ディディエはマイペースである。
「どうすれば、回復するのでしょう」
リンの問いに答えたのは、キールだった。
「奴は倒せばいい、きっとそれだけだ」
キールの言う事は、それほど外れていない。奪われた生命力の玉を取り返すには彼を倒す必要があるのは確かだろうから。
「あの男も、懲りないですね。どうやらこの事件、かなり根が深そうです・・・しかし、彼女の言う鍵とは何なのでしょう?」
リディアの問いかけに答えられる者はこの場にはいなかった。
魔女はひとまず、教会で預かることになった。魔女の家に住むというオーガについては狼ともに黙認されることになったようだ。
アレクは一人理解に苦しんでいた。自分にとって魔女は恩人である。その魔女が顔を見たこともない父親の死に関わっていたと聞かされても、やはり困惑するばかりだ。
「悩んでいるようね」
そんなアレクの前には、マイアがいた。
彼女もこれでも白のクレリックである。たまには良いところを見せにきたのだろう。あの場にいて直接話を聞いたのは、彼女とアレク、そしてセシリーの三人というのも関係していたのかもしれない。
「マイアさん。魔女さんはだいじょうぶ?」
アレクの問いにマイアは煮え切らない返事をする。
「生きているけれど、起き上がるのでやっとよ。魔法でも回復しない。きっと命自体を奪われたようなものね」
「なんで! どうすればいいの」
マイアは首を振ったあと、
「詳しい事はなんともいえないわ。あの男が彼女の命を奪ったのなら、取り戻す必要があるのは確かね」
マイアはそこまで言うと黙る。
「・・・・・・」
「ねえ、アレク君は彼女を恨んでいないの? 理由は分からないけれど、君のお父さんは彼女のせいで命を落とした。あの状況で嘘を言うとはあたしは思えない」
一呼吸おいて、アレクは答えた。
「僕ね、分からない。だって父さん見たこともないし、それに魔女さんは僕を助けてくれたから」
「そう、それならいいのよ。憎しみの連鎖を無理につなげることはない。あたしが言う必要もなかったかもしれないわね。君は強くなったもの」
マイアはアレクのくしゃくしゃの髪をかき回した後、魔女の様子を見に戻る。
「──なんていうか、俺達三人組み。みんな欠陥家族ですね、ひねくれて当然かも」
ジルがおどけてリンに言った。
「そういう言い方は駄目です。家族が揃っていなくても立派な人はたくさんいます」
「俺の家族もそれなりに複雑だな」
キールの所属するマーガッヅ家については、複雑すぎるので割愛する。キールがどこまで把握しているのか、キールの記憶の範囲内である。
「ケイトー抱っこ」
「ニ、ニーナ。アレクを、な、なぐさめなくていいのか」
「アレクはセシリーで十分デス。それにたまには痛い目にあわないと最近のアレクはバカじゃないのでつまらない」
ニーナがさらりと酷いことを言ったのを聞き
「その毒舌っぷり、私の立場も危ういですね」
シャリオラがそう言うと、皆笑った。
その頃、アレクは教会の前に立っていた。アレクを探していたセシリーは、ようやく彼をみつけて声をかけた。
「アレクさん」
「お姉ちゃん!」
セシリーはアレクになんと声をかけるか迷ったが、何も言わず横に立ち教会を見る。
「これね、僕が魔女さんに最初のお願いをする時に持っていたやつだと思う、この傷とか見たことあるから」
アレクは数枚の銅貨をセシリーに差し出す、受け取ったセシリーは言った。
「きっといつか返すつもりで、大事にしていたのだと思います」
なぜ? アレクがそう聞いた。けれど、セシリーは答えなかった。彼女自身もどう答えればいいのか分からなかったから。
時は決して戻らない。消え去った感情の渦はいつか薄れる。失われた何かを取り戻すことが出来ないからこそ彼女はただ見ることを選んだだろうか? それが正しいかどうかは誰にも決められない。
「アレクさん、魔女さんを必ず助けましょうね」
「うん」
アレクをゆっくり、力強く頷いた。
眠りゆく魔女から彼女の名前を聞きだしたリンは、閉じた瞼と髪を撫ぜたあと、彼女に捧げるための曲を弾くことに決めた。
「エフェミア・アスガルズ。どこかで聞いた縁の深い名前。けれど今はただ静かに眠りなさい。貴方の想いは空に返しましょう」
魔女の想いがどこに行くのかは定かではない。ただ冬の夜空は澄みわたり満天の星空が頭上から地を見下ろしていた。
続