【Trinitas】 一なる他者 「焔」
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 96 C
参加人数:9人
サポート参加人数:1人
冒険期間:01月13日〜01月19日
リプレイ公開日:2008年01月22日
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●オープニング
三という数字は古来より発展と調和を示す数字とされている。
起源、流布される理由は語らない。確かに三つの支点で立つものは、安定しているのはといえるだろう。
今、その象徴について話す事に特に意味はない。意味はなくとも、この先に待つのは三つの試練。
そこまで語ると占い師は黙り、カードをシャッフルしたあとで一枚引く。引いた指、視線の先には知識を司る若者、天を指す者の姿がある。
引いたカードは、魔術師と呼ばれるカード。
意味するは起源、知恵、創造。
全てはこれより創始する。
回る車輪の音。
生まれて消え、滅び生まれる間。幾度となくその音色は響いて弾ける。
訪れるものはいずれ去り。
旅立った後、帰り着く。
星空に願いをかけ、永遠という名の一瞬に幸と不幸を求め、行く道は独りでも、帰る道は孤独ではないと信じた。
けれど、虚しさは忍び寄る闇、気づいた時には誰もいない。
何故? ここいるのだろう。
振り返って見ても暗い穴が浮かび上がるだけ、諦めて歩むたび胸に潜む痛みが広がり首を振る。
冷え切った空間は白に覆われた墓標。孤高という世界に立ち尽くし、自分というちっぽけな存在を抱きしめるが温もりは無く、頬を流れ落ちる水滴だけが温かい。
断ち切ること。
消し去ること。
雲間の青が藍に変わり蒼に移るのを見て愚者は口笛を吹いた。きっと何もかも失った後でも、空だけはきっと変わらない。
終らせるために始めるのか、始める前から終っているのか? 溶け合う気持ちに終止符を打つために剣を握る。
車輪の軋む音は、引き寄せた運命の数だけ──奏でられる。
リュミエールの元にその報が舞い込んだのは、偶然というにはあまりにも出来すぎていた。
悩んだ末に、彼女は彼らに情報を伝えることにする。結果どうなるのかは、彼女にとっては思惑の範囲外でもあるが、どちらにせよ伝えないわけにはいかない。
あの騒動の後、黒い僧侶の情報を収集していたジルは、リュミエールに会ってその話を聞くと思わず返した。
「信用できる相手なの?」
確かに情報を提供する見返りにいきなり仕事をしろと言われても、困惑するのは確かだろう。
「なんとも言えない。俺からすると憎いとまではいかないけれど、腹が立つ相手ではある。しかし計算のできないやつでもないし、力はある。こう言ってはなんだけど、坊やたちだけで、黒いのの足取りや居場所ををつかむのは難しいだろう。あの男、約束は守ると思うよ。そのあたりが奴の寄って立つところだと俺は見る、いちいちやりようがむかつくけどな」
「リュミエールさん」
饒舌なリュミエールにジルは呆れた。
「なんだ」
「よくしゃべるね」
「・・・・・・」
愚者について今までの出来事から複雑な思いを抱いていたリュミエールは気持ちを吐き出した事に気づくと黙った。
「とりあえずリーダーに聞いてみるよ、答えは決まってるだろうけどね」
礼を言って去っていくジルの後ろ姿を見送りなると、リュミエールは眼帯に何気なく手をやった。
ジルの予測通り、アレクは力強く頷いた。
「行く、行くったら、行く。僕は早く」
「はいはいはい、あせるなよ。よく考えると、あの素晴らしい所業で領民を可愛がる領主様のことだ。よくきたねいらっしゃいなんて歓迎してくれるわけないだろう」
「けど」
「けども何も、俺はまだ死にたくない」
ジルの言い分をアレクは理解してはいたが、このままでは何も変わらない事にいらだちを感じていた。
無為に時が経てば魔女の命は危うくなる。解決するためには元凶を探さなければならないだろう。しかしアレクたちは冒険者であって、情報収集に長けているわけではないのだ。
考えると呼ぶには短い間の後、アレクは決断した。
「信じる」
「おい、騙されても、いいのか?
「このまま待っているよりはましだよ。嘘でもいい」
ジルは、諦めを込め息を吐く。このあたりがの頑迷さを見るたび腹立たしさを覚えるがが、一度決めてしまったことを変えないことも知っていた。
「信念とか正義なんてのを信じるやつほど、早死するもんだぞ、くだらない」
「ジルはそういうところが、可愛いよね」
頭一つほど低い位置から向けられた両の目に、何かを見透かされたような気になったジルはぶつくさ呟くと立ち去った。
こうして、リュミエールの情報を受けたアレクたちは冒険へと出ることになった。
後日この話を聞いたニーナは一言。
「男の子って不器用デス」
一
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●経緯
リュミエールの情報は、三つの話全てに共通して登場する愚者と名乗る人物よりもたらされています。
冒険隊側の認識としては、愚者と蒼い鎧の男は同一人物です。
アレクが受けることを決めてしまったため、真偽はともかく提示された条件を解決するのが目的となります。
愚者の話は、AFの居場所を教える代わりに愚者の提示した条件は、ヴォルニフ郊外にある館に封印されているアンデッドを退治することのようです。
●状況
場所はヴォルニフ郊外、領主の私邸。
館に入るまでが勝負のため野戦がキーポイントです
ヴォルニ領主は今回特別な部隊を守備隊として送ったという話があります。幻影の洞窟での研究の成果を試すという噂を愚者は手に入れたようですが・・・・・・詳しい内容については分かりません。
なお、愚者の助力は期待できません。彼は次の一手を打つ必要があるので、キエフに残留します。
●フィールド
館は堀に囲まれているため、正面にある門のみが突入口のように見えます。
門の内部は庭、ひらけているため戦うに十分な広さがあり、館までは一本道です。
ただし周囲に遮蔽物はありませんので、場合によっては矢の的、魔法の餌食にされる可能性もあるでしょう。
防御側にかなり有利な地形です。
●敵軍
愚者の情報によると、前回戦った魔法兵団の一部。蝶と呼ばれる部隊が守備しているようです。数はそれほど多くはありません。彼らは互いに協力するほど仲は良くないようです。
●その他
移動については愚者が便宜を図るため、特別考えなくも良いです。
NPCについては省略します。
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●リプレイ本文
● 0
部屋の中に影がある。
影の周りを一定の規則で並べた貨幣が置いてあった。貨幣の軌跡は何かしらの記号を示すかのように配置されている。
置かれた貨幣の円、その中央には微動だにせず、人のような影が立ち尽くしている。
「悪趣味な事をするものだな」
のぞき窓から様子を伺った後、守備兵は顔しかめ隣に立つ仲間に言う、
「憑依させてここまで運んだらしい。準備のため一時的に邪魔だったとさ、後で余興に使うという話だ。しかし、いったい何を考えているのやら、我らのいかれた領主様は・・・・・・」
「まったく、平和には遠いな」
二人はともに頷いた。
「それにしても、団長は人質を取られているという噂もあるようだが」
「噂だろ。火のないところになんとやらだが」
「口は災いのもと、とにかくこんな陰気な場所の守備とはね、年の初めから不運の神が微笑んだらしいな」
「相手が極上の美人、女神様だと思えばいい、死神よりは数倍ましだろうよ」
「ま、美しい貴婦人ならどっちでも構わないぜ、さて仕事、仕事」
過ぎ去っていく足音。
扉の向こう、置かれた貨幣は金色に輝いていた。
● 1
今回の依頼を独断で受けたアレクに対して、多少不満を感じていたジルだった。
とはいえ、とにかく受けたからには解決しなければならない。ぶつぶつ呟きつつもジルはメンバーの出迎えのためギルドへと歩む。
ギルドへの道中、見知った顔、柳とキール・マーガッヅ(eb5663)の姿を見かけ、ジルは声をかけた。
「二人とも、こんなところで何してるんすか?」
ジルに気づいた柳はキールへ意味ありげな笑みを向けると、ジルに手を振ってその場を立ち去った。
柳が去った事に不可解さを感じつつも、ジルはキールへ走りよって聞く、
「キールさん? 柳さんと何を話していたんですか」
「・・・・・・別に、なんでもない」
何か隠したような態度にジルは、
「つめてー。俺とキールさんの仲じゃないですか」
軽口にもキールは答えない、釈然としないながらもとにかくジル達はギルドへと向う。
──その途中。
ケイト・フォーミル(eb0516)リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874) マイア・アルバトフ(eb8120)
の行き遅れ三羽烏が、今後の予定について話し合っている場面に出くわす。
三人の話し合いの結果、どうやらケイトは行き遅れではなくて、自らが男性恐怖症であることを力説・・・・・・というには小声でしたらしく、他の二人は納得した。
しかし、納得したからといってこの状況が変わるわけでもない。彼女達が伴侶を見つけるのは、近いようで遠い日のことなのだ。
さて、ギルドにはやや若手が揃っていた。この場合、若手というのは若年層を指す言葉である。
名前でいうなら
セシリア・ティレット(eb4721)
シャリオラ・ハイアット(eb5076)
皇茗花(eb5604)
あたりだろう。男性が意図的に無視されているような気もするが、単に好みの問題、誤差の範囲内である。
セシリーとシャリオラはのんびり会話しており、茗花は不機嫌というよりどこか無機質な表情を浮かべぼんやりとしている。二人の話を茗花は聞いていないわけではない、しかし入り込む隙がないのだろう、じっと暖炉の火を眺めているようだ。
「相変わらず大所帯だな」
珍しくギルドにいた中年ギルド員は、彼女たちに声をかけた。中年からすると見慣れたパーティーなので、気安く声をかけたというところだろう。
「大所帯というには、ちょっと人数が少ないんじゃないですか」
シャリオラが言った。
「可愛くないねえ、お嬢ちゃん」
シャリオラが何か言い返そうとした時、
「アレクさん!」
扉が開き、誰かが入ってきた。セシリーの声から、誰なのかは言うまでもないだろう。
かけられた声にアレクは、セシリーに笑いかける。
アレクは、ディディエ・ベルナール(eb8703)、ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)の二人を伴っていた。貧相と陰気なウィザードのコンビ。
華が無い。
それを言ってしまうと終わりである。ともかく、残るはジルが引連れてくる行き遅れ軍団とニーナであった。
そのニーナは、最近影が薄い。そう自分でも感じていた。このパーティーの主役は自分。
などと思って・・・・・・いないはずだが、彼女は彼女なりに主張することもある。
例えば、それは
「お菓子食べたい、熊のぬいぐるみが欲しい、たまには遊びに行きたい」
依頼の解決や彼らの成長と何の関係があるのか不明な事ばかりだ。
こういう場合、ニーナはケイト、茗花、ラドルフスキーに預けるのが良い。マイアやリディアでは悪くないが、お説教をしてしまう時があるだろう。
ともかくニーナもそのうちにやって来て
「ラドラド!」
「久しぶりだな、ニーナ」
ラドルフスキーに駆け寄り、彼の所持していた熊のぬいぐるみを奪うと
「グッキー・ぐきぐきショッピング♪」
「ニーナ。知らない間に、何かあったのか・・・・・・」
唖然とするラドルフスキーを前に、熊の首をごきごきさせながら歌ったという。
そのうちに、ジルはお姉さんたちにいたぶられながらも、到着。全員揃い、愚者の用意した馬車によって目的地へと向かうのだった。
● 2
雪。
美しいものは、何かしら死を孕んでいるのかもしれない。
雪はその一つだろう、何者も寄せ付けず、生命を育てない白い大地に人は眼を奪われるもの。
一瞬、吹雪が途切れ風に粉雪は舞う、死と隣り合わせにある氷雪の世界、冷えた空気の中を馬車が走っていた。
馬車の目的とする場所は、ヴォルニフの郊外にある領主の私邸。
黒い僧侶との決着をつけるため、アレクセイ・マシモノフが取った行動、愚者という男との取引だった。
取引というには、条件が一方的ではあったが、アレクは急いでいた。
魔女を救うためには一刻も早く、黒い僧侶の居場所を知る必要がある。 アレクの行動について他のメンバーは特に何も言わなかった。
シャリオラは、
「べ、別に冒険隊が心配だから来たわけじゃないんですよ! 愚者の目論見を暴くためです」
そう、彼女らしい表現をした。
とにかく、やるからには成功しなければならない。
今、戦いが始まろうとしていた。
「私邸」
難攻不落というほどではないが、守るに安き、攻めるに難。
単純に直接攻略するには難しいと考えたパーティーは、攻撃するにあたり茗花・マイアのホーリフィールドを基点として突撃することに決めた。
まず、庭の偵察へキールが向かう。
塀はそれなりに高いため超えるのは至難だ。
雪は薄く積もっているが、通行に不可能なほどでも無い。どうやら手入れはそれなりにされていたらしい。
彼は雪を溶かすかどうかの選択に迫られるが、そのような行動を取れば、相手に気取られる上、行動の邪魔になる可能性もあるかもしれない。
そう、キールは判断した
門に守備兵がいて、庭の内部もそれなりの兵力がいるようだ。
キールは仲間に様子を告げた。
ディディエの透明化による奇襲は、彼自身が危険になるという意見が大勢を占めた。確かに成功すればその後の行動は容易になるだろう。
だが、庭の兵力を撃退すると同時に館から増援、または無差別に魔法攻撃をされた場合、ディディエの命に関わる可能性がある。
よって、魔法によってできた盾の背後から必要な時だけ突出し、ラドルフスキー・リディアと共に、攻撃して薙ぎ払うほうが安全という結論となる。
こうして──突撃が始まった。
門の護衛は矢によって訪問を告げられる。それは歓迎するは喜びに程遠く、血と涙で清算される類のものだった。
倒れる直前、笛のようなものを吹き襲撃者の到着を告げる。
続けてリディアの放つ爆音が轟いた。
「魔法は苦手なんだがな、で、できる限りやってみようか」
そう呟くと、ケイトはニーナを見つめ、門を越えるために走りだした。
庭の両側から射手と思われるものが放つ矢が飛んでくる。
避ける時間などない、痛みなど無視して数本突き刺さった矢ごとに門に駆け寄ってくる兵を止めるためケイトは刀を抜いた。
ケイトによって守備隊の門への侵攻を抑えた彼らは、障壁の地点を門まで移動する。
その時だった。
火炎により爆発が起きた。
リディア、ラドルフスキーの魔法ではない。
直撃。
蒸発する雪。
消し飛んだフィールド、向かってさらに矢が放たれる。
「私に任せてください」
盾を構えたセシリーがそれを受ける間に、再度フィールドを張りなおす。
だが、ケイトは戻る暇がなかった。焼け焦げた匂い、痛みに耐え。持ち込んだポーションをひたすら飲みながら、ケイトは刀を振るう。
その背後では、シャリオラが。
「やぁーい! お前のかあちゃん、でーべそ!!」
「シャリオラ君・・・・・・」
「遊んでるわけじゃないですよ、これも立派な戦略です」
呆れるマイアにシャリオラはそう返した。
どうやら、火炎球を放ったのは、敵の隊長のようであった。
戦いは──次の幕に移る。
館の扉まであと少しのところで現れたのは、見知った顔、魔法兵団の団長のようだ。
彼はすぐさま次の詠唱を始めるわけでもなく、何かカードのようなものを取り出すと場に通るような声を発した。
「呪い、放たれた悪夢というところだ。隊を一旦引け、奴らの相手は・・・・・・」
団長は、指で挟んでカードをパーティーに向けて放った、風に乗って飛んで来たカードは密集していたメンバーの中央に落ちる、そのカードは悪魔の姿を模したもののようだった。
「The Devil。夢の続きを見るがいい、見ている間は・・・・・・なんであれ、幸せには違いない」
幾人かを目眩のようなものが襲った。
カードより放たれた魔力に抵抗した者の数人いた。抵抗し切れなかったものは、身近にいる仲間に対して敵意をむき出しにした。
短い間だったが、それに乗じて敵側も攻撃をしたため、メンバーは陣地を後ろに下げざる終えなくなった。
だが、カードはどうやら一枚だけのようだ。量産が効くものではないらしい。
決定的なダメージを負うにいたらず、盛り返した後で一気に突撃したメンバーは館の内部に突入を開始する。
敵側の団長はすでに内部に下がった。
続々と突入する中、一人立ち止まったのはリディアだった。
「室内戦では私はお役に立てそうに無いので、ここから庭に向けて援護射撃をさせてもらいます」
反論する声にリディアは、汗で額についた髪に指を軽くやったあとで、瞼を伏せ言った。
「でも、死ぬつもりは無いので拙いと感じたら一目散に逃げさせて頂きますので予めご了承願いますね」
瞼を開くと太陽が見えた。
ささやかではあるが空から温もりが差していた。その弱い陽射しに、遠い春の足音を感じつつ、リディアは笑った、爽やかに。
内部に突入した後、ジルが言った。
「俺はここに残ります。リディアさんを信頼してないわけではないですけど、やっぱり一人だけ危険な目にあわせたんじゃ、甲斐性なさすぎる。探索はキールさんがいれば十分だし」
ジルの言葉を聞いた、茗花も口を開いた。
「私も残る。使える魔法も残り少ないし、脱出口を守らないと逃げられなくなるかもしれない。探索だからといって人数が多ければ良いものではないと思うが」
茗花は積極的に探索するつもりではあったが、すでに精神力を使い果す寸前だったためジルの話に同意したようだ。
「それでは、私も残りましょうか〜? 館の内部では、魔法もあまり用をなしませんから」
ディディエも言った。
どちらにせよ、時間は残されてはいない。
今は、決断する時だ。
「ジル、みんなたのむね」
アレクは走り出した。
目的の場所は思ったよりも簡単に見つかった。目印となる人物がそこにいたからでもあるが、扉の前に立った団長は追っ手の姿を確認すると呟いた
「私の命数も、ここまでというところか」
ラドルフスキーの放った火炎により、館はところどころ焼け、くすぶった匂いが周囲に立ち込めている。
「誰であろうと、魂を二度と迷わせる権利などないのよ。迷えるものは、祈りを込めて送ってあげる。それがクレリックの勤めだから」
マイアは厳かに言った。
「君の言う事は正しい。だが、正しさだけは救われない事が、この世にはあまりに多いのではないか? 死した者と生きている者、そのどちらがいったい大事なのだろう、いや──語る時間は、もう残されていない」
団長は自嘲を込めるよう返すと、詠唱を始めた。
身構えた彼らより早く、呪文は完成した。
自らを起点とした大爆発。
爆風と熱波は四方全てを巻き込む。倒すべきはずのアンデッドのいる部屋をも衝撃が襲う。
「こ、れでいい・・・・・」
彼は続けざまに詠唱を始めようとしている。
「早く! 逃げるのよ、巻き込まれる」
マイアの叫びに彼らは駆け出した。
● 3
崩壊した館は無残な姿を晒している。
(俺は、変わる事が怖いのだろうか)
キールは、崩れ落ちた館を眺めつつ自らの心に自問していた。
「? どうしたんですかキールさん、ほら追っ手が来ます」
「ジル」
「なんですか?」
「・・・・・・旅行にでも行くか」
ジルは動きを止め、キールをまじまじと見つめた。
「ぶ! き、急に驚いた。そ、そうですね、やる事やったら皆で行くのもいいかも」
それきりキールは黙った。
セシリーはアレクに何か伝えようと思った。
彼の生まれや環境がどうであれ、彼女にとってアレクはアレクなのだから、そう伝えようとは思うが本人の前に立つと、はっきりそう言えるわけでもなかった。
「あ、お姉ちゃんどうしたの?」
「ア、アレクさん、そのですね」
「何?」
その様子を眺めていたのは、やじ馬軍団である。特に誰が誰なのかは表示しない。
(久しぶりに見たが、相変わらずのようだな)
(押しがたりないデス、セシリーは)
(なぜ、私まで見ているのだろうか)
結局、セシリーはアレクとしばらく会話した後彼の姿を見送った。密かに魔法をかけるのは忘れなかった。
ディディエがアレクを呼びとめると聞いた。
「アレク君、人を助けるために、人の命を奪う、矛盾した二つ。その二つに対する答えを選ぶ決心は、つきましたか?」
アレクは一つ頷くと言った。
「まちがっていても、僕は自分が正しいと思うほうを選ぶ。それでだめかな?」
「いえ、君がそう思うのなら私はもう何もいいません」
館を去る前、マイアはケイトに話しかけた。
「あたしたちのやっている事は、もしかして偽善なのかもしれない」
「偽善でもいいと思うぞ、傷つける事は悲しいだが守りべき者は守りたい、だから戦う。自分はそれだけ、あればいい」
「そうよね、最後に奏でるメロディは一体どんなフィナーレを紡ぐのかしら」
「マイアは、し、詩人だったのか?」
「そ、たまにはね」
崩れた館。倒すべきアンデッドの姿はすでにない。
だが、本当にこれで全て終わったのか? その答えは誰にも分からなかった。
続