♯少年冒険隊♭フィーネ♪ 『断章の黒』
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:6〜10lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 95 C
参加人数:9人
サポート参加人数:2人
冒険期間:02月22日〜02月28日
リプレイ公開日:2008年03月01日
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●オープニング
●オーバーチュア
信じることが大切だとアレクは思う。
それは、ささやかではあるが何かを胸に秘めていた時代。
無知であることが幸せで、思うもの全て自らの意思のままになると思っていたあの頃、誰しも一度は思い浮かべる甘い夢想なのかもしれない。
その想いが正しいのかは誰も分からない。だが、アレクは信じることを誓いここまで歩いてきた。
彼が信念を突き通すことで、自らの限界と対決するのはまだ先の事なのだろう。
いまだ、アレクは卵の中でまどろみ、皹の入った殻を叩くに守られた雛のようなものだ。
ジルは、そんなアレクを憎んでいた。その憎しみが憧れや渇望の裏返しなのを分かってはいても、今さら失ってしまったものを取り戻すことはできない。
冒険を始め、ジルは表立ってアレクにその想いをぶつけるのやめた。彼は自らが中途半端な大人である事を理解していたし、今の置かれた立場を知っていた。
ジルはジルなりに打算・・・・・・と呼ぶほどのものではないが、孤独であるよりも心地よさを感じて今までやって来た。ジルに何のために戦うのかと聞けば、すぐには答えず茶化して誤魔化すだろう。
ジルは、自らの内に何も無いことを知っている。だからこそ、アレクを疎ましいと同時に羨ましく感じ・・・・・・好きだった。
ニーナは、単純明快な理由でここまで来た。寂しさを埋めるためらしい。だが、彼女はそれを一切表に出す事は無いだろう。
彼女は喜怒哀楽のうち、怒と哀の二つを表に出すのを嫌う。
嫌うというよりも、封印してしまったというほうが正解かもしれない。アレクもジルもニーナが本気で怒ったの一度しか見たことがない。
どちらもその話はしたがらない、よほどのことがあったのだろう。彼女は、甘えることでのみ表現してきたのかもしれない。
三人は仲間だと思っているし、これからも変わらないと信じている。
だから、愚者の使者がやって来た時、お互い無言で頷いた。
彼らにとってここまで歩いてきたことが大事で、貴重だった。
冬も半ばを過ぎ、陽も少しずつ長くなりはじめている。
見上げた灰色の空には重い雲が立ちこめる。
けれど、ふさぎ込む気持ちに終わりを告げるために歩き出そう。
願いを抱いてここまで歩いてきた。
何のために進むかを考える必要はない。
湧き上がる想いを胸を打つ、
「行こう」
──決着をつけるために。
フィーネ
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●目的
黒の僧侶を完膚なきまでに、叩き伏せる。
●場所
少し前に、戦場となった場所の近くにある集落のようです。
天候は晴れ。
ぬかるんではいません。雪はそれなりに積もっています。
雪原の真ん中に集落があります。そこに彼はいるようです。
戸数はそれほどなく、村というほどの広さはありません。
集落には風よけの林が近くにあります。
片道は、徒歩で二日程度です。
街を経由しません、準備は事前にしていきましょう。
●敵の状況
分かりません。彼単体だとしても、気を抜かないほうが良いです。
過去の状況からして、獣は使役している可能性はあります。
●NPC
■アレクセイ・マシモノフ 人・13歳・♂
ファイター。
少年期の狭間。
■ジル・ベルティーニ ハーフエルフ・17歳・♂
かなりの実力をもつレンジャー。
二つで一つ、一つは無口。
■ニーナ・ニーム エルフ・10歳・♀
ウインドスラッシュ・レジストコールド、ライトニングサンダーボルトが使える。
哀しみは笑顔の中に隠すもの。
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●リプレイ本文
──全てを忘れてしまう前に。
大人になるということは何なのだろう?
そう思ったとき、何一つ答えを導けないことに気づいた。
その疑問に対する答えを用意するため、彼と彼を歩ませた。
足踏みを続け、まどろみに浸っている時間を彼は幸せだと思っていた。けれどそれを違うと気づいたからこそ、自分で立ち歩み始めた。
過去から逃げ、歩む事を選べなかったもう一人の彼は、最後は過去に縋るようになった。それも一つの選択で、誰に非難されるものではない。だが、非難されることはなくても痛みは残り、自らを苛む。
この二人の差がいったい何なのか、いまだによく分からない。だから、答えはやはり出せなかったのだろう。
けれど、いったいどちらが幸せだったのか? それは歩んだ道が語っている気がする。
●フィーネ
雪原に吹く風は、静寂を運んできた。
散らばる黒い肉片は雪に斑を作る。
彼は彼なりの理由で立ちはだかり、冒険者もまた進む・・・・・・。
キール・マーガッヅ(eb5663)は先陣を切り、この地を訪れた。人の気配はやはりない。その後、リディア・ヴィクトーリヤ(eb5874)、ラドルフスキー・ラッセン(ec1182)、皇茗花(eb5604)、ディディエ・ベルナール(eb8703)などの調査により、集落というには名ばかりで、すでに生きている者がいないのが確定した。
何かの気配、運命にも似た何かによって、やってくるものが誰なのかを悟った彼は、長年の友を出迎えるような気持ちで、その登場を待っている。
きっと、何もかも、ここで、終わるのだろう。
──時は過ぎ。
たどり着いた客人に向かって、男は言った。
「さあ、始めようか、お前達」
彼の周囲の立つ、温もりの失せた人影が動いた時、戦いは始まりを告げた。
ケイト・フォーミル(eb0516)の振るう刃は対するものを斬る。
呼応する牙も彼女を襲うが、身を翻しては叩きつけ、振り切り、赤い線が宙を走る。
息を吐き、ケイトが再び柄を握り締めると立ちはだかる。
男を睨む青い瞳を認めると、鞭を握り、
「無駄な足掻きを」
言う。
「決着をつける」
ケイトは静かに答える。
再度放った鞭がうなりをあげた、地を叩く音に飛び退り、間合いを取ったケイトは中段に構え重心を低く保つ、その背後に人でなきもの。
前後に敵を感じ、挟撃されたことを悟ったケイト、振り返らずあえて突き進むことを選ぶと駆ける。
にじり寄り影、走るケイト。
黒と黒がぶつかる。
切っ先が裂くよりも、圧する背後の群れは女の後ろにつく、その様子を男は満足気に見据えていた。
瞬時、後方より駆けて来た女が一人、斬りかかる。
閃光は残影の如き、達するにまだ遠く、拙いとは言わぬ斬撃は、体を斬り、死に惑うものを解放する。
女、セシリア・ティレット(eb4721)は目の前の男に問いかける。
それは、魔女と呼ばれたエフェミアへの答え。
「エフェミアさんに伝えることは、後悔していないのですか?」
「後悔?」
視線がぶつかる。
風が止まる
セシリアの鼓動に伴い吐く息の白さだけが温もり感じさせる。
「・・・・・・弱者は滅ぶしかない」
男の応えに従い、滴る獣の唾が雪を溶かした。
彼と周りの境遇とは別に、こちらの周りは死人の群れに覆われていた。
倒してもきりがない。
マイア・アルバトフ(eb8120)は、柄にもなく危機感を感じてみた。
感じたところで、何が変わるわけでもないのも分かっている。
どちらにせよこの場を乗り切らなければ後はない。
「しっかりしなさい、坊やたち。まだ負けたわけじゃないわよ」
マイアは誰に言うでもなく、自分の胸に問う、神は自らと共にある。だから加護を・・・・・・いつもより強く。
輝きともにマイアの祈りによってもたらされた奇跡は、死者を真の眠りへ誘う。
マイアの祈る姿を見、茗花も神に祈る。
「神は正しいものの味方だから、きっと加護がある。信じることだ」
茗花も、その場にいるものに諭した。
雪を払って走る魔力の線は、立ち行くものを薙ぎ進む。
詠唱を続けて、撃ち、続けては撃つ。
だが、その数はいっこうに減らない。後衛についていた彼らにも敵は迫る。
ディディエは、ラドルフスキーと視線を合わせた。
「お互い、損な役回りですね」
「まったく、魔術師が前線に立つとは」
唱えてもきりがない、壁は厚く、目標は遠い。
「ほんと、あと少しなんですけどね〜。黒い人には聞きたいことも色々あるのですけど」
こんな時でもとぼけたディディエにラドルフスキーは感心した。
「どうせあの男のことだ、たいしたことは言わないさ。罵倒されるのが落ちじゃないか? 手間は話しているよりも・・・・・・。終わりをもたらす浄化の炎をくれてやる、破壊なき再生などない」
凝縮した火炎は渦を巻き上げ、弔いの賛歌と成す。ラドルフスキーの放った炎によって、また一つの命が浄化された。
シャリオラ・ハイアット(eb5076)は道中、少年達に向かって言った言葉を思い出した。
「人間一人一人は弱いです。ぶっちゃけ。だから弱さを補う様に戦うのが強いんです。だから、弱さを補えない、力を利用するだけの黒の僧侶には絶対に負けないんです」
そう、だから。私は私のやれることをやるだけ。
シャリオラはそう思った。自分に何ができるかなど、一つしかない。
「口先だけでも無いよりはマシです。どちらが神の名を語るふさわしいか? ま、分かりきってますが」
立ちはだかる敵に裁きを与え、復讐のために。いや、神の名を告げるためシャリオラは進む。
弦の鳴る音。
放たれる矢、矢、矢、矢。
手を伸ばすが、そこに番えるべきものはない。
「矢が・・・・・」
「まだ、ある。諦めるな」
疲れ果てたようなジルに、キールは静かに言った。
「キールさんは、いつも強いですよね」
「そう見えるのか。ジル、今は話すよりも」
「はいはい、まったくアレクと一緒にいると命がいくつあっても足りないや」
キールは、ジルに数本の矢を渡した。
銀色に光る矢を受け取ったジルは、
「あ、旅行忘れないでくださいよ。期待してないけど」
「考えておこう」
ジルの問いにキールは微笑んだ。
どれだけ時が経ったのだろう。
彼に付き従う二匹の獣はケイトとセシリアの手によって倒された。
しかし、ディディエ、ラドルフスキー、リディアらの魔力もほぼ尽きた。
マイア、茗花、シャリオラらもすでに疲労の極致だ。
最後の光。
マイアの放った神の拳が闇の壁を撃ち破る。
すぐさま、走るケイトは男の一撃を避け損ね直撃を受けた。
だが、ケイトは最後の力を振り絞って斬りかかる。
男もまた、避ける暇はなく一撃を喰らう。
衝撃を受けた男は、
「畜生・・・・・・死ね、失せろ、消え失せろ。友情、正義、信仰。何も人を救いはしない、救われないものの嘆きを受け止めるものなどありはない。ありもしない物を求めて震えるくらいならば、助けてと叫ぶものなど、誰も迎えにこない、壊すものは、壊せ」
逆上し、憤慨する男の様子を見届けた、ケイトは、
「笑顔は笑顔は良いものだ」
取っておき、子供達の笑顔の為、思いを・・・・・・ケイトは崩れ落ちた。
「ケイト!」
走りよるニーナ。
動かなくなったケイトを必死に揺り動かすが、反応はない。
「ニーナ」
「ラドラド、ケイトが」
ラドルフスキーは、震えるニーナを見、ケイトの状態を探る
「・・・・・・息はある」
「本当?」
ニーナは泣きじゃくり、ラドルフスキーに抱きついた。
「愚かものども、自らを捨ていったい何を守るというのだ。お前たちは・・・・・・狂っている」
落ち着きを取りもどした男に向かいディディエは言った。
「聞きたいことは多々ありますが、分からずやは極力速やかに現世からご退場して頂きましょう。春がやって来るためには冬が終わる必要がありますから」
ソルフの実を取リ出して含み、
「私は虚弱です。長くは持ちません。後は頼みます」
詠唱を始めた。
アレクは、その様子を呆然と見つめていた。
自らも戦う必要を感じてはいたが、体は動かない。意思に反してセシリアは、そんなアレクの傍によると囁いた。
「大丈夫ですか、少し休んでいてください」
「お姉ちゃん?」
セシリアは剣を構え、歩みだした。
────。
アレクは、周りを見まわした。
ゆっくりと踏み出す。
「マイアさん、茗花さん」
傍らにいた二人は無言だったが、声に反応したのは茗花のほうだった。
「無事じゃ・・・・・・ないか」
「無駄口が叩く元気があるなら、まだやれるな。受け取れ、私の最後の祝福を、そして行くんだ」
呪文を唱え終わったあと彼女は思う。
若い頃の事情なんぞ知らない。だが、過去に囚われるものに未来は奪わせない、未来か、訪れるはずの未来に・・・・・・幸運・・・・・・を。
──茗花は意識を失った。
男と最後まで対峙していたのは、セシリアだった。
アレクが近づいて来るのに、気づいた傷だらけの彼女は、
「アレクさん、私のあげた剣で」
言葉は続かず倒れた。
アレクはセシリアに贈られた剣に手をやる。
迷うアレクに気づいたのは、リディアだ。
リディアは痛む体を引きずりアレクの元にやって来た。
リディアは言った。
「私はまだ答えを聞いていない、未来は自ら切り開くもの。例え誰かを傷つけても、その覚悟が無いのなら、何も得る事などできない」
「リディア、せんせい?」
傍らに立ったリディアは残った魔力を集めて、呪文を唱えた。
「行きなさい、貴方がその手で全てを終わらせるのです。」
リディアはアレクの頬を優しく撫でた。
彼と彼はどちらもお互いを認識した。
少年は歩く、男は鞭を振るった。
衝撃に吹き飛ばされた少年は積もった雪に倒れこむ。
続く打撃は、放たれた銀の矢によって止められた。
少年は立ち上がる。
男は、叫ぶ。
矢が放たれる。
男は破壊の力を撃つ。
撃たれた友と師は倒れた。
少年は歩む、男は睨み鞭で地を叩く。
火炎と雷が飛ぶ。
男は破壊の力を撃つ。
少女と魔術師は倒れる。
男の息は荒い。
少年は男に歩みよると剣を向けた。
赤い炎が立ち昇る。
剣を振り上げた少年は、
「終わりにするよ」
下ろした。
自分が強くなったのは何のためだったのだろうか。
刃のきらめきを見た時、彼は自らたどってきたの道を顧みた。
繋がることなど必要としていなかった。けれど待ち続けていたのは、自らを呪縛を解く何かだったのかもしれない。
もう、ここには居られない。
眼を瞑る。
終わりに見る夢は静かなものを見たい。
意識が揺らぐ。
「世界を」
伸ばした手は遠く、唇は冷たい。
胸に刺さった刃がとても綺麗だ。
「偉そうなこと言ってるけど、貴方は逃げてるだけ。悪魔の門の前から逃げ出した時から・・・・・・・いえ、その前から貴方は逃げていたんだ。大きな力に縋るなんてのは完全に逃げてる人間のパターンですよ」
そうだ。
あの女が言ったように、偽り逃げ続けて来たのが分かっていても、もはや戻れやしない つまらない。
苦しい。
(弱さは悪い事ではないのゲオルグ、弱さを認めない事が過ちなの)
あの時、逃げたことを後悔はしていない。いや、後悔しているのか。
謝れれば楽に、なれるかな。
ごめん、なさい。
・・・・・・。
剣だけがその場に残る。
少年は、それを見つめ立ち尽していた。
雪原に静寂が訪れる。
眠る男が何を目指し求めていたのかは、降る雪が溶ければ消えるだろう。
疲労に満ちたその場。
黒い墓標に立つ女がいる。
風にはためく、黒いローブを見つめていた女は、乱れた髪を手で撫で付ける。
しばらくして、去り際。
吹きつける風にかき消され、誰の耳にも届かなかったが、
「忘れないであげる」
マイアは確かに、そう言った。
♯少年冒険隊シンフォニー♭ Fin