【Trinitas】 ニなる進撃 「衝」

■シリーズシナリオ


担当:Urodora

対応レベル:11〜lv

難易度:難しい

成功報酬:15 G 38 C

参加人数:10人

サポート参加人数:8人

冒険期間:01月19日〜01月31日

リプレイ公開日:2008年01月28日

●オープニング

 三という数字は古来より発展と調和を示す数字とされている。
 起源、流布される理由は語らない。確かに三つの支点で立つものは、安定しているのはといえるだろう。
 今、その象徴について話す事に特に意味はない。意味はなくとも、この先に待つのは三つのうち二つ目の試練。
 そこまで語ると占い師は黙り、カードをシャッフルしたあとで一枚引く。引いた指、視線の先には二頭の獅子に引かれた戦車に乗る王の姿がある。
 引いたカードは、戦車と呼ばれるカード。
 意味するは勝利、解放、征服。
 戦いは──続く。

  
 キエフに残った愚者の騎士は、ヴォルニ領主・アレクサンドルによって拉致された少女ナターシャの救出。
 それと同時に実の兄であるアレクサンドルを打倒する一手を指すため、眼帯の女学者リュミエールと接触した。
 孤島の地下に眠る遺跡。
 悪魔の門が開かれた頃より続く両者の確執。複雑に絡まった糸をいずれ断ち切る必要があるとお互い感じているが、あえて今回どちらも触れない。
「それで、俺にいったい何の用だい?」
 彼女の脳裏を封印の箱と呼ばれる、古びた箱の姿が一瞬よぎる。そんなリュミエールの思いなど気にもせず、愚者は友好というには程遠い口調で淡々と言った。
「最後の仕上げをする。力を貸してもらおう」
 愚者は、リュミエールに向かって自らのヴォルニへの侵攻作戦を提言し、助力を求める。
 彼の話を聞いたリュミエールは迷う。彼女からすれば、ヴォルニとは確かに関わりは深いが、命を掛けてまで手を貸すいわれもない。しかし、愚者の次に放った言葉が彼女の心を決めた。
「長き戦いに決着をつける時。その証を見せる機会だ」
 彼の発言が何を意味するのか、証とは何なのか? リュミエールはしばし考えた後悟った。愚者は自らに再度挑戦するための条件として、力を見せろと言っている。
 素直さにかけるな。
 彼の態度の呆れれば良いのか、開き直ってみせれば良いのか、彼女は悩んだ末、答えた。
「相変わらず人を試すのが好きな男だな。まあいいさ。どっちにしろあんたと戦わないと気がすまない奴もいるだろう。分かったよ人を集めよう。そのかわり」
「その代わり? なんだ」
「約束・・・・・・守れよ」
 眼帯に遮られていない場から真摯な眼差しで見つめるリュミエール。
 愚者はしばらく無言で見つめ返した後、ゆっくりと頷いた。

 
 眠るもの名を刻み、応えはない。
 吹き荒ぶ風に、はためいた古びた旗は濁った赤に染まる。
「戦う意味を考えるまえに、刃振るうのが戦士というものだろう。我が友よ」
 墓前に立つドワーフは、自らの大斧は抱いた。彼の胸に去来する思いは遠い昔、過去よやってくるもの。
 我欲のためにだけ剣を振るうものは、すでに戦士ではないよ)
 それが口癖だった彼の友は、もういない、そして友がなぜ命を落として、どこに消えた理由をバルタザールは知らない。
「だが、行くしかないのだ・・・・・」
 負った悔やみなどつまらぬもので、時は戻らないのだ。
「ここにいらしたのですか、バルタザール様。準備は全て完了いたしました」
 部下の言葉に振り返った赤髪のドワーフは厳かに宣言する。
「進軍開始!」


 ニ
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●目的

 今回はヴォルニフへ侵攻します。光のシナリオとほぼ同時期に襲撃する、陽動・撹乱・兵力分散の作戦ともいえます。
 局地戦術戦闘のためスケールは普段より大きめなので、ちょっと大変かもしれません
 
●敵情報

 ヴォルニフの領主直轄兵には、三つの近衛部隊があります。 

 打撃・狼の騎士  部隊長 「大斧のバルタザール」

 隠密・蝶     部隊長 「謎」

 魔術・鴉     部隊長 「朱の導師」


 それぞれ独自の兵力を持ち、得意分野があります。
 もっとも強力なのは狼の騎士です。
 今回迎撃部隊の主力として有力視されているのも、狼の騎士のようです。

 
●敵地

 ヴォルニフに侵攻するためには三つルートがあります。
 ここでは、A、B、Cと仮定します。
 
 ルートの環境については。

 Aは橋を渡ります。

 Bは何もありません。

 Cは森です。

 敵軍は、侵攻してきた部隊を確認して迎撃部隊を送れば良いだけなので、相手のほうが有利です。
 この作戦の目的は、例え敗北しても、光チームを成功に導くことです。
 よって勝つのは付加価値の部分となります。
     

●部隊

 部隊は「攻撃・隠密・魔術・回復・補助」の五要素の組み合わせで決まります。
 この要素から、スキルや職で活躍できると思われるものを一つ選んでください。
 一人が一つの部隊でもありますが、要素を組み合わせで多人数を一部隊に編成できます。
 要素の組み合わせで、部隊の能力値がだいたいきまり、その他に能力値やスキル、装備を鑑みて修正をします。
 自分と不適合なものを選んでも意味はないので、選択は慎重に。

 例としては

 愚者の部隊は、愚者【攻撃】・イレーネ・遥風【魔術】・メティオス【回復】
 の三つの要素で構成されています。
 この場合、相手側の部隊の編成にもよりますが、死角はそれほどありません。
 
 
●編成 
 
 愚者の騎士は独立部隊で固定メンバーですが、強力な切り札です。
 そのため、このカードをどう使うか? それも重要といえます。
 皆さんの部隊編成は目的にそって各自組むと良いと思います。
 

●情報

 今回の肝はここです。ルートは三つあります。正攻法で一点集中もよいでしょう。
 しかし、その場合消耗戦になるため、勝利するのは無理とはいいませんがきついです。
 状況を作るということは、戦闘とは違う要素ですので、得意な方を頑張ると良いと思います。  
 なお、部隊ごとに一定数兵士が配属されますが、今回は度外視してください。
 敵の部隊数は、合計20隊ほどあると考えて良いです。


●まとめ

 ・ヴォルニフへの侵攻ルートはABCの三つ。

 ・敵の総部隊数は20隊ほどで、三種の近衛から派遣される。

 ・「攻撃・隠密・魔術・回復・補助」から自分にあった物を選び、部隊の編成。

 ・ 一人一要素、一部隊。多人数を組み合わせてまとめて一部隊にもできる。

 ・編成した後、決行日に三つのルートからどれかを選択して侵攻。

 ・具体的に何をもって要素として使うかも忘れずに。

 ・予備兵力の愚者部隊はこき使え。
 
 となります。

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●今回の参加者

 ea2970 シシルフィアリス・ウィゼア(20歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 eb2918 所所楽 柳(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb3532 アレーナ・オレアリス(35歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb5195 ルカ・インテリジェンス(37歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5758 ニセ・アンリィ(39歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 eb5887 ロイ・ファクト(34歳・♂・ファイター・人間・フランク王国)
 eb6853 エリヴィラ・アルトゥール(18歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb7876 マクシーム・ボスホロフ(39歳・♂・レンジャー・人間・ロシア王国)
 eb8684 イルコフスキー・ネフコス(36歳・♂・クレリック・パラ・ロシア王国)
 ec0140 アナスタシヤ・ベレゾフスキー(32歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)

●サポート参加者

ソムグル・レイツェーン(eb1035)/ アド・フィックス(eb1085)/ キドナス・マーガッヅ(eb1591)/ エイリア・ガブリエーレ(eb5616)/ キール・マーガッヅ(eb5663)/ ミッシェル・バリアルド(eb7814)/ ハロルド・ブックマン(ec3272)/ 九烏 飛鳥(ec3984

●リプレイ本文

 後に一月の内乱、ヴォルニフ侵攻戦と呼ばれる戦いの前哨戦は、ささやかではあったが各所に萌芽が現れ始めていた。
 その最初の一手は、マクシーム・ボスホロフ(eb7876)と所所楽柳(eb2918)による噂の流布である。
 柳は、吟遊詩人に身をやつしてヴォルニフに潜入し、まことしやかに侵攻の噂を流し、マクシームもまた、それらしい噂を流した。
 これは今回の戦いが、敵の目をこちらに注目させる。その論理にかなっているといえるだろう。
 さらに、ルカ・インテリジェンス(eb5195)はキエフに住む、ある男と接触していた。
「久しぶりですね、お姉さま!」
 ルカの前にいるボリス・ラドノフという名のどこかとぼけた感じのする若者は、一応ロシアが誇る銀狐兵団の団員である。
「ボリス、話があるんだけど」
 ルカは、ボリスに提案を告げた。
 結果、ボリスは銀狐の協力は確約できないが噂を流すのは問題無いと答えた。
 この場合、銀狐が動くか動かないかが問題ではない、相手側がその噂を信じ牽制になれば良いだけなのだから。
 ルカはその後、彼女の元部下であるハロルドを奴隷のように労働させて無理矢理資料を製作した後、噂をばら撒いた。無言のハロルドが何を思って協力していたのかは、彼の手記を見るしかないだろう。
 今回、シシルフィアリス・ウィゼア(ea2970)は、ある真実にもっとも近づいた一人だろう。
 柳と彼女の縁者であるキールから話を聞き、今まで自らが蓄えた情報を元に導き出した答え、仮説は愚者の返答を聞くことで完成するはずだ。
「敵の軍を率いるバルタザールについてお話があります」
 愚者にシシルはいくつかま疑問点を切り出し確認した。その返答が否だったのか可だったのか? それについては、まだここでは伏せておこう。
 こうして、侵攻の準備は着々と整って行った。
 数日後ヴォルニフにて婚礼が行われるの報を聞いた愚者は、すぐさま冒険者たちに向かい言い放った。
「お前たちの力、見せてもらおう」
 ロイ・ファクト(eb5887)は愚者の発言を聞いて一瞬睨みを聞かせたが、すぐに無表情に戻る。エリヴィラ・アルトゥール(eb6853)も同じく複雑な気持ちで愚者の言葉を聞いた。エリヴィラはロイに向かって、どう声をかけるか悩んだが、結局何も言わず手を握って優しく微笑んだ。エリヴィラの手の温もりをかんじつつ、ロイもまた無言のまま強く握り返した。
 さて──決戦に赴く冒険者たちの姿は様々である。
 例えば、アナスタシヤ・ベレゾフスキー(ec0140)という色気と知性を兼ね備えた女性は、自分をわしと呼ぶ。そのあたりに特殊性を色々感じるがあまり気にしてはいけない。彼女はどうやら異国帰りのようだ。
 イルコフスキー・ネフコス(eb8684)は、イルイルと呼ばれる。そのあたりにも特殊性を感じるが、それは名前が長いので愛称をつけられたせいかもしれないため、気にしてはいけない。
 イルコフスキーは、初対面であるアナスタシヤに声をかけようと思ったが、
「今回は宜しくのぅ、皆の者」
 彼女のほうが先に挨拶をしたので、内心多少変わった人だと思いつつ礼をした。イルコフスキーもイルコフスキーで案外変わり者な面はありそうなのだが・・・・・・。
 そんな彼らの傍らにはニセ・アンリィ(eb5758)というデカイ何かが寝ている。
 ニセは片言で話すので、たまに何を言っているのか理解に苦しむ時もある。しかしあまり気にしてはいけない。ニセはとにかく戦うのが好きらしい。世の中には暴れん坊という生物も確かに存在するようだ。
 下町とオヂサンで一部に知られる男マクシームは、普段話さない相手と話をしようと思った。理由はないのだが、たまにはそれも良かろう、そう思ったらしい。
 さて、マクシームは誰と話すか迷った。
 アレーナ・オレアリス(eb3532)という、どこかで聞いて記憶に残っている単語「オレアリス」を含む凛々しげで強そうな新入りのお嬢さんもいた。
 マクシームは声をかけようと思ったのだが、気が引けて綺麗な顔だけ拝むとパスした。
 といっても、ロイ&エリヴィラのカップルは観察の対象としては色々楽しいが、何を話して良いのか悩む。
 たまには、イルコフスキーと神について談義するのも良いだろうか。
 アナスタシヤは知り合って間もないため、会話がかみ合わない危険が高そうだ。
 ルカはそれなりに気心も知れてはいる。だが、それでは意味がない。
 ニセ?
「オレとハナシたィのはオマエガガガ」
「いえ、結構です」
 想像しただけで、そのような場面が浮かんだので却下した。
 と、マクシーム一人で悩んでいると、シシルと柳がなにやら二人話しつつやって来た。
 ちょうど良いきっかけを得たマクシームは、咳払いをした後思い切って声をかけた。
「二人とも、ご機嫌いかがですかな?」
 格好つけているわりに決まらないマクシームの様子に柳とシシルは互いに笑いながら答える。
「よろしいです」
「よろしいかもしれないね」
 シシルの後に柳が続けた。それ以後マクシームは、どこかぎこちなく会話を続けた。
 彼の話す様子を見ていた他のメンバーも、なぜか笑いをこらえるのであった。


 そして──作戦が決行される日がやってきた。
 侵攻した愚者軍はヴォルニフを数日先の位置に陣を張る。偵察に向かったルカより諸条件が報告された。
 ヴォルニ領は山地を背後におく天然の要塞のようなものだ。領内は山地・丘陵・平地・森林で構成されており、特に森林と丘陵の割合が多い。ヴォルニフまで侵攻する場合、道は三つあり、そのうち一本は街道として利用されているが、残りの二本は完全に整備されているとはいえない道のようだ。
 ここで、三つを便宜上、その道をABCに分ける。
 Aは比較的ゆるい坂で川を越えて進む道だ。川は凍ってはいるが表面に張った氷は薄い、仮に橋を渡り終わる前に、前方抑えられた場合不利となるだろう。
 Bは街道としてい利用されている道であるため、整備されて進みやすい反面、発見されやすい。
 Cは森林に覆われているため、存在を察知されにくいが同時に侵攻する側の障害にもなりうる。この三本の道を使って、敵の軍の注目をいかにしてこちらに引き各個消耗戦に持ち込むか? もしくは敵軍を圧倒するか? そのどちらかを達成することによってこそ、今回は成功といえるだろう。
 当初、行われていた牽制行動により、近衛軍の総司令バルタザールは迷っていた。 
 近衛三軍を率いる指令のうち、魔法団である鴉の団長の行方はようと知れない。もう一人の蝶を率いるのが誰なのか? それはバルタザール自身も知らなかった。
 よって残る一人である彼がヴォルニフの防衛の要、しかし敵の襲撃のさいは指揮をとる必要もある、二つ相反する条件のため、選択を迫られることになる。
 そんなバルタザールの元に、急報が届いたのは、深夜というには少し浅い夜のことだった。
「敵か・・・・・・意地の悪いことだ、酒を呑む時間も与えてはくれないのか」
 返事を待つ部下に、自らの迷いを断ち切るかのように強く言い切った
「進軍開始! 全軍をもってこれを討つ」
 かくして、雪を血で染める戦いが始まる。
 侵攻してくるのは、二つの全であることを知ったバルタザールは、迎撃するために兵力をニ分割して送るとともに。これは冒険者側の目論見どおりともいえよう。
 ただし彼には彼なりの目算があり、伝令は飛ぶ・・・・・・。

 中央Bを進撃するのは、パーティーの過半数を超える人数だ。
 衝突したのはロイ・柳シシルらの隊には倍する兵力が迎撃に振り分けられている。
 黙々と剣を振るロイは夜闇、目の前に立ちふさがる人の壁を見、半ば高揚にも近い笑いを内に感じた。
 そんな彼の目の前で、冬の寒さを運ぶ凍風が敵を氷柱に変えた。シシルの放った魔法のようだった。
 圧倒的兵力差ともいえるが、陽動部隊であるエリヴィラ・アレーナの撹乱や柳の援護、マクシームの力もあり、今のところ五分に戦いは続いている。
 
 下部Cを進撃したのは、残る少数である。少数といっても、かなりの曲者揃いに愚者の援護があるのだが。
 月光を浴び、妙に元気なルカを横目に見てイルコフスキー、アナスタシヤ、ニセらは森を進む、さすがに寒いのか皆防寒服に身を隠していた。
 森に入り、ある程度進んだときアナスタシヤが違和感を得た。たいしたものではないのニ何かの気配だ。
 彼女が回りに警告しようとした時、魔法により先制攻撃が遠方より行われた。どうやら、敵は見えぬまま張っていたらしい、イルコフスキーはとっさにフィールドをはり、回復のための陣地を築く。不意打ちに転びかけたアナスタシヤは胸の卵の無事を確認したあと、氷の洗礼を軽く返した。
「ヴォー!!! 狩りの時間だ! 血の雨ダゼ」
 そう叫びつつも案外冷静なニセは、ちょこちょこ連携しつつ、持ち前膂力を存分に発揮突撃して暴れだす。その様子を見たルカもまた、嬉しそうに月影に消えるのだった。
 Cは、どうやら圧倒的有利に進んでいるようだ。

 一方。
 陽動部隊であるアレーナはエリヴィラに側面攻撃を任せると、一度偵察のため上空へと向かっている。空より見える灯火が戦いある場所を示しているが・・・・・・。
 アレーナは異変に気づいた、高速で移動している何かがいる。その何かは彼らが侵攻するのを捨てた上部Aルートを逆走しているようだ。
 いったいそれが何のためなのか、彼女は多少の考えてから答えを出した。あの部隊は退路を絶つ、もしくはそのまま、挟撃するための部隊だろう。
 冒険者たちの総数は少ないため、時間がかかれば負けに近づくのは必然だ。
 元々、敵を引きつけるのが目的であるため戦って勝てないとしても問題もない。
 だが、それは安全に退却できる事を想定した上での話だ。仮に狙いが挟撃だった場合、もっとも効果的なのはBルートだろう。各個撃破したあと、最後に残ったC攻略部隊を殲滅すれば良いのだから。
 場合によって壊滅は必死である。アレーナはすぐさま、降下するとこの事実をエリヴィラに告げた。
 エリヴィラはしばらく迷っていたが、アレーナに言った。
「あたし達で、少しの間なんとかしよう。アレーナさん伝令を頼めるかな」
 愚者の部隊を一時的に後方へ下げるように、伝令に向って欲しいと。
「だが、それではエリヴィラ嬢一人で向かうことに」
 エリヴィラはロイのほうへ視線をやったあと、ロイと目が合った気がしたが気のせいかもしれない、
「大丈夫、そう簡単に死ねないもの」
「分かった、すぐ援護へ向かう。それまで耐えてくれ」
 エリヴィラは事態をすぐさま駆け出す。
 陽動部隊が消えたことで、Bの情勢は支えるので精一杯となり始めている。

 その頃──。
「ちょっと柔すぎる・・・・・・かな」
 森にて戦闘を終えたルカが、ふとそうこぼした。
「おいらもそう思う、敵の数が少なすぎるよね、もしかして・・・・・・」
 イルコフスキーの不安そうな顔にアナスタシヤが答えた。
「その先はいわんでもよい、わしらが罠にかけられた可能性がある。そんなところか」
「コザカシイ、このまま突撃して敵の背後をツコウゼ」
 ニセは良い事言った・・・・・・気もしたが、本隊に予備兵力がいた場合袋叩きに合う可能があるのだ
 その時、アレーナがやって来て告げられ、彼らは後方へと急ぎ戻る。

 Bの後方迎撃に向かったエリヴィラ、やはり一人で支えるのは難しい。のちにアレーナが加わり状況は好転したが、じりじりと追いつめられている。
 バルタザールの策は、この時点では五割ほど成功はしていた。後は、彼自身が騎乗する戦車を持って中央を突破すれば、とどめの一撃となる・・・・・・はずであった。
 しかし、なぜかそれは行われなかった・・・・・・。なぜ行われなかったのか? その答えはシシルの推測の内にある。
 バルタザールは動かなかった。絶好の機会を失った後方部隊は転進したニセらに逆に挟撃され壊滅する。彼らはそのままBルートの援護に回り、戦いは膠着し勝敗はつかぬまま終わる。結果、今回の目的を果したといえる。 

 朝日に照らし出される中、赤に染まった大地に向けてイルコフスキーは祈りを捧げた。敵であれ味方であれ、死したものには平等の安らぎがあって当然だと彼は思う。
「おいら、ごめんね・・・・・・」
 傷だらけのパーティーはキエフへの帰路に着くだろう。白でも黒でもなく、灰色の勝利ではあったが勝利には違いない。
 愚者はそのままヴォルニフへと向かうらしい、別れ際、ロイとエリヴィラと彼は擦れ違う時、場の空気が少し冷える。
 その様子を見た柳とマクシームは顔見合せた後言った。
「僕が思うに、縁があるのも色々大変だよね」
「まあ、縁ってのは、自分で作るものらしいから」
「ったく、全勝できる戦いに勝てないってどういうことよ! 愚者だがなんだか知らないけど本当は激弱、激弱。んなことより、だいたいハロルドの奴が悪、あの資料が甘い!」
 ルカは結構くやしかったようだ、いまだオーバーヒート気味らしい。
「しかし、戻ってきてみれば相も変わらず・・・・・・どこも変わらずと言ったところじゃな。どうせ勝つなら、すっきり勝ちたかったが、いや、欲張りすぎじゃな」
 スクロールを返しに来たアナスタシヤの問いかけに、シシルは昇ってきた太陽を背に答えた。
「そうですね、生きてるだけで、きっと幸せですよ」
 澄んだ空気に温もりを覚え、反射する輝きの眩しさに目を閉じながらも、シシルはなぜか赤毛の少年のことを思い出すのだった。

 
 ヴォルニフ侵攻作戦は、こうして終わった。
 残るのは、愚者との因縁を断ち切ることのみ、その戦いもそれほど遠い日のことでは、きっとないだろう。



 続