【ヴォルニ戦記】 ─Luna─ Scene2
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■シリーズシナリオ
担当:Urodora
対応レベル:11〜lv
難易度:やや難
成功報酬:8 G 3 C
参加人数:5人
サポート参加人数:1人
冒険期間:05月25日〜05月31日
リプレイ公開日:2008年06月09日
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●オープニング
●ヴォルニフ
夜。
エウロペよりもたらされた報告書を読み終わったリューヌは、執務室から自ら屋敷へと向かって歩み出した。
静寂に染み入る月下を歩く彼の胸中にあるのは、一つの懸念であった。
「問題は・・・・・・」
言葉の続きは闇に消えた。
問題は、形式上の理由と跡継ぎがいないことだけではない。アスガルズ家の動きだった。祭祀を司るアスガルズ家は、伝統と形式をもっとも重んじる。
仮に器が揃わず継承を強行した場合、おそらく反発するかもしれない。
事実上、継承権の立場に近い者は両家の当主であるのは確かであり、どちらが領主を継ぐにしても、このままでは一騒動免れない。
回避するためには、正当性を主張するものが必要。
それが器である。
最後まで厄介ごとを押し付けていってくれましたね、リューヌは月を仰いでそう思った。だが、彼は前領主のアレクサンドルの行動を忌避しつつ、どこか羨んでいた自分がいることも知っていた。
何者にも縛られない自由。
例えそれが暴虐の嵐だとしても、自分は自ら与えられた役割を遂行することでしか生きられないのをどこかで悟っていた反動なのかもしれない。
「他人の事をどうこう言えませんね、しかし、いったいどこに居られるのでしょうか・・・・・・テオドール様は」
リューヌは、そう呟くと歩き出した。
●キエフ
キエフの外れに居を構えるドワーフ。
偏屈とまではいかないが人付き合いの悪い男、名をバルタザールと言う。
彼自身は楽隠居のつもりだった。しかし、最近妙に訪問者が多い。
そういえば、片言のカナを話す一度彼と剣を交えた男もやって来ていたこともあったようだ。そんなある日、バルタザールの元を訪れたのは、女だった。
女は言った。
「貴方の力が必要です。私には戦う力がありません。だから」
バルタザールにそれを断る理由はなかった。
彼と彼女は、今は亡き者の意思によりつながれるものなのだ。
こうして、女は最強の武器を手に入れた。
その武器を何に使うのかは不明である。
●召集
本日○○時をもって、Europeを召集する。
自覚と意思のあるもの集合地点に終結せよ。
以上。
ギルドにその張り紙が張り出されたのは、少し後のことである。
Europe
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●指令
前回の結果から
テオドール・ヴァルニの所在は不明だが、バルタザールの所在地を発見した。
エフェミア・アスガルズの感触は鈍い。
同時期になんらかの探索を行っている集団を発見したという報告がある。
なお、山中にある城の居場所が判明。
もっとも器のある可能性が高いのはその城だと思われる。
得られた情報によりデビルが関係している可能性が高い。
杖についても同様の報告がある。
鍵と呼ばれる要素をもつ少女が、キエフ郊外に住むという情報も得た。
もう一つ。
墓所に剣が眠り、塔には杖が翳されたという。
その半ばに城がそびえ、静かに眠りを見届けるだろう。
眠れるものは、牙を剥かぬ、だが、目覚めた者は。
目覚めたものは?
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●リプレイ本文
●コードネーム
以下、彼らをその名で呼ぶ
名無野如月(ea1003)
「フェブ」
ジョセフィーヌ・マッケンジー(ea1753)
「エース」
雨宮零(ea9527)
「ガーネット」
アーデルハイト・シュトラウス(eb5856)
「セイバー」
ルイーザ・ベルディーニ(ec0854)
「カッツェ」
●キエフ
初夏というには少しばかり早いこの季節。
やって来る黒雲に不吉な物を感じて、ガーネットは空を見上げた。
陰る陽射しに輝く瞳、左に宿る紅い虹彩が広がる。ガーネットの両目に映る色は違う。
風が運んできたささやかな湿気を肌に受け、ガーネットは雨が来るのを悟った。
キエフは、今では平穏な日常を取り戻したかに見える。街頭を行く人々の顔には、表向き影は無い。
石畳の道を歩きながら目的地に向かう、バルタザールが住む家は、キエフの外れにある。ガーネットがその家を訪れた時、人の気配は無い。
「すみません」
何度か声を掛けて、扉の前で佇んでいたが、誰もでない
「そこの家の人なら、少し前から留守だよ。迎えにえらく綺麗な女の人が来ていたね」
しばらくして、通りがかった近所の住人に、そう告げられた。
「何処に行ったのか、分からないでしょうか?」
「キエフを離れたという話は聞いたけどね、お嬢ちゃん」
「そうですか、ありがとうございます」
ガーネットは、何も言わず。そのまま立ち去る。
自分が男であることは告げなかった。
暫くすると、小雨が降り始めた。
湿る服を感触に不快感を覚えながら、ガーネットは、もう一つの目的地である丘の上に立つ教会を訪ねていた。
教会は降り出した雨に濡れて、神秘的だった。
訪れた彼は、自分の知っている情報は何も言わず、教会の主であろう初老の神父に尋ねた。
「この教会に」
少女がいますか? ガーネットに神父はいるとは告げた。しかし詳しい事は口をつぐんだ。しばらく、ガーネットは所在なさげな様子だったが、キエフでの目的を果したことを知ると、それ以上は諦めて歩き始めた。
なお、セイバーも同様の行動をした、結果はほとんど同じだった、違う点は。
「帰ってきている?」
セイバーが、テオドール・ヴォルニ。彼女の中では愚者と呼称される人物について調べた結果、その答えが導き出された。
テオドールは最近、ロシアに戻ってきたようだ。だが、どこにいるのかは定かではない。問題が複雑にならなければ良い。セイバーはそう思った。
どちらにせよ待っていたところで何も解決もしない、
「行くしかないわね」
セイバーも歩き出した。城へ・・・・・・。
●ヴォルニフ
ヴォルニフで得られた情報はそれほど多くはないが、城自体はなんらかを見張るためのものようだった事は分かった。
みつけた古い地図を見る限り、神の塔、悪魔の門、城は、三つの点で結ばれている。
その結んだ点のほぼ中央部分に記号らしきものがあるのだが、それが今で言う。
「ヴォルニフ」
ガーネットが言った。
三つの点を結んだ中央部分に現在位置するものは、ヴォルニフ。
この都市のようだ。
だが、それに何の意味があるのかまでは分からなかった。
●城
通り雨が過ぎ去ったあと、彼女達は城を目指し歩いていた。
すでに陽は西に傾きつつある。
ぬかるむ足元、跳ねる泥、渇いて剥がれる土くれを睨みながらも彼女達は進む。
途中、誰かが休もうと言ったので──休む。
「問題は戦う必要があるかないかだ」
フェブが誰に言うでもなく呟いた。
弓矢の手入れをしていたエースは無言で頷く。二人は長い付き合い、息も合っている。
「まっ、何があるか分かんないところに、わざわざ突っ込んでく必要もないにゃ、相手もなんだか分からないし、やっぱり楽してごっそり、お宝ごっそり」
カッツェは明るい、だからといって彼女が能天気かというとそれは彼女しか分からないが、
「お気楽ね、まあいいわ。それにしてもテオドール、いえ愚者が帰ってきているとは」
内心はどう思っているか分からないが、セイバーの顔色は変わらなかった。
一時の休息の後、太陽は落ちていく。
暗闇が辺りを覆う前に
「さて、仕掛けを張るとするさね、細工は流々」
エースが弓を背に乗せるといった
「仕上げをごろうじろ、かい」
フェブ後を続ける。
「いくにゃー、とつげきー」
カッツェはやたらテンションが高いが、色々考えているのかもしれない。特に今回は、
「まったく、そろいも揃って・・・・・・油断すると死ぬわよ」
緊張感が感じられない仲間に、セイバーは珍しく溜息をついた。
現れた集団前にフェブが声をかけた
「器は見つかったかい? 出来ればそいつを頂きたいんだが‥‥いやね、荒っぽい事はしたくないんだ。 ただ、下手な動きをされては困る、と言う事も知っておいて貰いたい」
普段のおどけた調子はなりをひそめ、フェブの物言いは、静かだが有無も言わせぬ圧迫感に満ちている。
フェブは時折遠くに視線をやる、そこには標的を狙ったエースのこちらを見つめている。
集団の一人、体格の良い女がそれに対してこう答えた
「こ、こ、此処にはもうな、ない」
憔悴してきった女の言葉に対して、反応したのは
「う、うそだ、ケイトちん、ここにあるってきいたにゃー」
思わず、カッツェが素に戻った。
「な・・・・・・な、なんでここにいる?」
どうやら、この二人は知り合いのようだ、色々深い仲とも言う。
「嘘をついているようには見えない、まあ、いいさ。その物じゃなくってもいい、こっちが知らない情報を洗いざらい喋って貰うんでもな。別にあんたらと喧嘩するのが目的じゃあ無いんでね」
暗闇が城を包んでしまう前に、フェブの言葉が響いた。
──謎の集団から情報得た。相手がボロボロであったため、抵抗する気力がなく、ある程度容易に情報を聞き出したのもある、彼らはそれによって事情を悟った。
器はここにはもう無い。情報を総合すると、器がなくなった今、次になにが狙われるのか。仮に、器の封印を解く必要があるのならば、キエフのギルドに保管してある宝石、もう一つはキエフにある鍵。
だが、それが狙われるかどうかは定かではない。
ガーネットがもたらした、バルタザールの不在もある。
これ以上の闘争は無意味だと悟ったため、月側のメンバーはその場を離れることにした。エースは肩透かしを食らって、どこか不満げだったが
「貫く必要がなくてよかったじゃないか、死人が一人減って万々歳だね」
と、嘯いた。
一旦、ヴォルニフに戻った後、合流したガーネットは手に入れた情報を話した。
「三角の真ん中なんて、それにいったい何の意味があるんだYO」
フェブがちょっとした・・・・・・古代語を使った。
「にゃにーそういう時代錯誤なら、まけんどー」
カッツェが勢いで訳の分からない返しをした。
「あの二人・・・・・・酔ってるわね」
セイバーは白い目で二人を見つめる。
「ああ、莫迦の夢に」
エースが一人格好つけた。
「それで、話を続けていいですか? 劇団コントの皆さん」
ガーネットはキャラクター上、そういうものを受けつけない体質のようだ。
と、いつまでもこういうことをやっているのは、ある意味人生の浪費なので、おとなしく真面目に戻ろう。
「ということは、その三点の中心がここヴォルニフということなんだね」
ガーネットが持ってきた地図の写しを見つめてフェブが言った。
「それにしても、杖と剣がみつからないばかりか、厄介ごとに巻き込まれるなんてここは雇い主に報告してみるのも一つの手じゃない」
エースが言った。
「あーめんどー、デビルはきらいにゃー、陰険でネチネチしてて、根性まがってる、どうせなら正々堂々」
そのカッツェのぼやきを聞いた、セイバーは
「カッツェ、口は災いの元よ、余計な事を言うと」
余計な事を言うと・・・・・・。
扉を開けて、走り込んできた店員、彼は開口一番叫んだ。
「お客さん、大変です! 外に変な生物が」
「な、なんだってー!!」
ということで、外へ駆け出し。
「・・・・・・頭痛が」
ガーネットは頭痛を一人感じるのであった。
駆け出したセイバーは、剣に手をやる。
フェブも刀を抜いた、燃え上がる家屋の向こう、何者かが蠢いている。
カッツェも両手の剣を何度か持ち替え、矢を番えて構えるエースが口笛を吹いた。
虚空に高らかに響く口笛に気づいた何者達かは、こちらに向かって進んできた。
それが合図だった。
ガーネットが刀を振った。
闇の中に光る目がこちらを見つめた。
と──彼らが戦っている間に
まとめておこう。
謎の集団は、自分たちと同じく器を探していることが判明した。
バルタザールは、キエフから消えた。迎えにきたのは美しい女だったようだ。
テオドール・ヴォルニがロシアに帰ってきたという話がある。ただし未確認だ。
塔・城・門を三点とした中央地点に位置するのがヴォルニフである。
そこに何の意味があるのかは分からないが、何か符号しているのは確かだろう。
杖と剣はどちらもデビルによって奪われた可能性が高い。
彼らがそれを何に利用するのかは不明である。
後にリューヌから手に入った情報だが、遺跡悪魔の門の周辺で異変が
起きているようだ。異変といってもアンデッドが確認される程度らしいが。
同時に迷いの森が迷いの森では、なくなったという話もあるが定かでない。
その夜、ヴォルニフはデビルの集団に襲われた。
デビルは小規模の集団であったため、大事には至らずに鎮圧されたが、その襲撃は住民の心に言い知れぬ不安と暗い影を落とした。
戦場では、兵士に混じって戦う冒険者数人の姿も見られたが、皆鎮圧後、無言でその場を去ったため、誰も彼らの名を知らない。
続