【揺れる心】辰一の目指すもの

■シリーズシナリオ


担当:八神太陽

対応レベル:6〜10lv

難易度:普通

成功報酬:3 G 9 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:08月25日〜08月30日

リプレイ公開日:2007年09月03日

●オープニング

 神聖暦千と二年と八の月、都村屋の従業員である虎二は再び調査に明け暮れていた。
 先月行方不明になっていた辰一が無事帰還。しかし辰一には犯人と思われる者からの手紙が届いており、龍一を始め従業員は不審の眼差しを向けていた。そして当の本人は何も知らないかのように振舞っている。
「お嬢?知りませんよ。男でも出来たんじゃないですか」
 そっけないものである。しかも重要な時期に二ヶ月も行方をくらませた男の言葉に耳を貸せるほど従業員達の心は広くなかった。当然のように辰一の居場所は狭まっていく。そこで龍一が虎二に調査を命じたのだった。
「辰一が何を考えているのか調べてほしい」
 腐っても辰一は辰一、都村屋三本柱の一人である。何の考えもなく行動する人物ではない。龍一は今の状況も辰一が作り出したものだと考えていた。しかし辰一の真意を探るために自分が動くのでは目立ち過ぎてしまう、そこで代わりに虎二に調査を頼む事にしたのだった。

 調査を始めて数日、虎二は辰一の行動周期に気付いた。毎日街の外れにある反物屋中西に顔を出しているという事だ。反物屋仲間として顔を出す事は珍しい事ではない、しかし毎日顔を出すというのは多少行き過ぎな様な気がしないでもない。
「中西屋って何かあったかな・・」
 虎二の記憶には中西屋について特にこれといった記憶はない。経営が火の車ということもなければ、うなぎのぼりというわけでもない。よく言えば安泰ということだ。
「一応報告しとくか」
 虎二は報告に向かうため中西屋を後にしようとした、しかし背後から肩をたたかれ振り向いてしまう。
「思ったより素直だな」
 虎二の頬には辰一の指が突き刺さっている。笑うに笑えない虎二は辰一の手を取り、突き刺さっている指を離した。
「何の遊びでしょうか?」
 説明を求める虎二、とたんに辰一は真顔に戻って答えた。
「それはこっちの台詞だ、虎二。お前はここで何をしている」
 それから虎二が都村屋に戻ってくる事は無かった。

 虎二が行方不明になって丸一日が経過した。さすがに問題を感じた龍一は冒険者ギルドに相談に出かけた。  

●今回の参加者

 ea9032 菊川 旭(30歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 eb0406 瓜生 勇(33歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 eb1872 瓜生 ひむか(22歳・♀・陰陽師・人間・ジャパン)
 eb3402 西天 聖(30歳・♀・侍・ジャイアント・ジャパン)
 eb7343 マーヤ・ウィズ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 都村屋はその日も表面上はいつも通り営業していた。辰一の帰還により一時的に士気が上がったのは事実だったが、虎二の行方不明で更に士気が低下していた。
「俺がいないと駄目なのかね?この店は」
 辰一は他人事のように感想を漏らした。
「その内、どっか別の店に客を持っていかれるんじゃないか?あはは」
「笑い事じゃないでしょう」
 諌める龍一、しかしこのぶっきらぼうな物の言い方こそが辰一の本質でもあった。
「何か策はあるんでしょう?」
「もちろんだ」

 菊川旭(ea9032)は辰一の様子を監視していた。他の四人が中西屋に行く間に辰一が動かないことを確認するという意味もあるが、菊川には辰一に聞いておきたいことがあった。
「辰一殿、貴殿にはいくつか聞きたいことがある」
 辰一は冷ややかな視線を菊川に向けた。
「何か?」
「二月前、辰一殿はどこにいたのだろうか?」
「故郷に帰っていると聞かなかったのか?それとも君の調査不足なのか?」
「村には行きました。あまり歓迎はされなかったけどね」
 目を細める辰一。しばらく何かを考えていたようだが、やがて立ち上がると菊川に告げた。
「ついて来い。すべてを話してやる」

 その頃、瓜生勇(eb0406)と瓜生ひむか(eb1872)は中西屋の関連施設を調べていた。反物を扱う以上、実際に商品を並べる店舗以外にも商品、材料の確保を行う倉庫が必要だと考えていたからだ。
「もしかしたら虎二さんが捕らえられている可能性もあります」
「そうだね、でも無理は禁物だよ」
 良くも悪くも虎二は単独行動の上で行方不明に陥った。調査が目的であったため単独行動の方が動きやすく、かつ都村屋には割ける人員がいなかったというのは事実である。しかし虎二が行方不明という事実は受け止めなければならない。
「一応、龍一さんが知っている限りの所を回ろうか」
 同業者として龍一もある程度中西屋については調べていた。しかし龍一自身自分の調査結果をあまり信じてはいないようだった。
「倉庫の場所は二箇所、川沿いと裏路地ですね」
「随分と離れた場所にある。土地代の節約、だろうか」
 二人は先を急いだ。

 辰一に誘われた菊川は西天聖(eb3402)とマーヤ・ウィズ(eb7343)に合流、三人で辰一の話を聞くことにした。
「確かに一人で行くのは危険じゃろうな」
「罠とみるべきかもね。だけどわたくし達三人を前に本当の事を話してくれるかしら?」
「俺は構わんよ」
 答えたのは辰一だった。
「よく考えたら一人で来いといい忘れたからな」
 辰一は外へと歩いていく。
「どこから出てきたのじゃろう?」
 西天の問いに答えられるものはいなかった。

「それで何が聞きたい?」
 近くの茶屋で辰一は待っていた。すでに団子が辰一のそばに届けられている。菊川、西天、マーヤもそれぞれ茶を注文した。
「この二ヶ月の間にいた場所です」
「取引先さ。故郷に帰る途中に会った旅商人が旅装束も売ろうと考えていてな、旅装束についていろいろ話を聞いていたんだよ」
 それから辰一は旅装束について語り始めた。美しさよりも耐久性と機能性を追及するなど、まんざらデマカセを言っているようではなさそうだ。
「しかし二ヶ月は長すぎじゃなかろうか?話を聞くだけなら一日二日あればよさそうなものじゃ」
「材料の調達もやってきたんだよ。旅装束なんて俺も作ったこと無いからな、試作品を作っては確認してもらっていたわけだ」
「それまでどこに住んでいたのかしら?」
「旅商人のテントだよ」
 場所の確認が出来ない、マーヤは表情を崩さないように茶を一すすりした。
 それから一刻程、三人は辰一の話を聞いていた。
「上手くはぐらかされた気分だな」
「・・じゃな。じゃが、何か企んでおるような気がするんじゃ」
「とりあえず時間は稼げただけいい方かしら。瓜生姉妹が何かしら掴んでくれることを期待ね」

 翌日、瓜生姉妹は二箇所の倉庫の様子を確認して戻ってきた。
「結論から言うと虎二さんはいませんでした」
「そして一箇所はいつの間にか賭博場になってたわ」
 菊川の表情が曇った。
「賭博・・?本当なのか?」
「残念というべきなのか、何といえばいいのかわかりませんけどね」
「経緯はわかるかしら?」
 マーヤが質問を投げかける。ひむかは首を横に振って答えた。
「調べれば分かるかもしれません。ですが危険な気がしました」
「そうじゃな。それに今は虎二殿の行方を捜すのが先決じゃ、いなかったのならばそれ以上踏み込む必要もないじゃろう」
「となるとあとは中西屋の中か」
 
 中西屋を調べる以上、辰一の動きを把握する必要がある。まだ聞きたいことのある菊川が辰一の動きの牽制に入った。
「辰一殿、もう一つ伺いたい事があるがよろしいだろうか?」
「ここで出来る話だろうか?」
 場所は都村屋の廊下、当然従業員の目もある。しかし菊川にとってはそちらのほうが都合が良かった。
「ここで構わない」
「ふむ、手短に願うぞ。俺も忙しい身の上なんでな」
「では単刀直入に。お池殿がいない今の状況を辰一殿はどう考える?」
「・・人は誰しも一人になりたい時がある。そういうことだろう?」
「一人になるために狂言誘拐を行ったと?」
「可能性の問題だ。俺はお嬢じゃない、お嬢の気持ちなんて本人しか分からんよ」
失礼、辰一はそう言葉を残して厠へと向かった。

 その頃、中西屋の前では美しく化粧をした西天とマーヤが控えていた。
「見張りはいないようじゃな」
 すくなくとも正面には見張りはいない、客商売をやっているためある意味当然なのかもしれない。しかしそれは西天とマーヤにとっては暁光だった。
「好都合ね」
 ちょうどその時、二人の隠れていた場所の近くの木にムーンアローが突き刺さった。
「時間じゃな、陽動らしく派手にやるとするのじゃ」
「そうね」
 西天とマーヤは正面から中西屋へと入っていった。
「虎二さんはいるかしら?」
 中西屋の中には客がおらず、従業員らしき男性が一人帳簿をつけているだけだった。いきなりの言葉に従業員は何を言っているのかわからずしばらく呆けた様子だったが、西天が一輪の薔薇を飛ばすと己の置かれた状況を悟ったようだった。
「何しやがる?」
「それはこちらの台詞よ」
「あなた達が虎二さんを隠した事は分かっておるのじゃ」
「はぁ・・?」
 青筋を浮かべる従業員、威嚇するように二人に対し大声を上げる。しかし多くの場数を踏んでいる西天とマーヤにとっては、それほど怖いものでは無かった。逆に威嚇するようにマーヤは初級のグラビティーキャノンを発動させた。
「隠すと身のためにならないわよ」
 それでも従業員は白を通した。
「知らんものは知らんよ。営業の邪魔だ、さっさと帰れ」
「虎二殿を返してくだされば帰るつもりじゃ」
 にらみ合いは続く。しかし従業員側に応援を呼ぶ気配は無かった。

 にらみ合いはしばらく続いた。その均衡を破ったのは瓜生姉妹だった。
「虎二さんを保護しました」
 裏口から入った瓜生二人はファンタズムとチャームを駆使して虎二の居場所を確認、見事保護していた。そして虎二の後ろには西天、マーヤの見知らぬ女性がついてきている。
「その女性は?」
「お池さんよ」
「ちっ・・」
 従業員は西天、マーヤの方を捨て、瓜生姉妹に襲い掛かる。そして従業員が後ろを向いた瞬間にマーヤは専門でグラビティーキャノンを高速詠唱、従業員の背中に命中させる。
「今のうちに逃げるのじゃ」
 外に待たせてあった西天のペットである水馬の后空の背にお池を乗せ、六人が都村屋目指して疾走した。

 追っ手がいたのかどうかは不明だが、六人は無事都村屋にたどり着く事ができた。都村屋では笑顔で菊川が出迎える。
「はぁ・・はぁ・・ありがとうございました」
 息を整えながらお礼を言うお池。事情の分からない菊川はしばらく呆然としていたが、背後では都村屋の従業員はお池の帰還を喜んでいる。
「やはり辰一が犯人なのか?」
 お池の帰還を聞いて龍一も姿を現した。
「辰一は?」
「厠に行っているはずだが?」
 菊川が答える。さっそく従業員が厠に向かったが、そこに辰一の姿は無かった。