【鬼種の森】挑むべき危険〜襲撃〜
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■シリーズシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:3〜7lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 44 C
参加人数:10人
サポート参加人数:4人
冒険期間:05月11日〜05月20日
リプレイ公開日:2005年05月19日
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●オープニング
鬼種の棲む森、オーガの巣と呼ばれる場所がある。
そんな場所でも、宙に浮いているわけではない以上、どこかの領地に組み込まれているわけで──当然、領主というものも存在する。
街道が走っている周辺、交易の基盤を中心として住み着いてしまったオーガ種によって領地の交易収入は圧迫され、蹂躙するオーガ種によって近隣の村の生活は脅かされ、しかも繁殖してしまって駆逐もできず、と、領主にとっては頭痛の種でしかありえなかった。
「すみません、依頼をお願いしたいんですけど」
「また船にのって代理人ですか? 使用人というのも大変ですね」
新米ギルド員フランツ・ボッシュのギルド員にあるまじき発言に、席をはずしていたエルフのギルド員は渋面を作る。オーガ種の被害に遭っている領主から送られてきたいつもの使用人は、らしからぬギルド員に戸惑いを浮かべていた。
「えぇ、まぁ‥‥」
新米ギルド員フランツは、そんな使用人の反応を気にすることなく、至極マイペースで依頼書の作成を始めた。
「ご依頼は、オーガの森に関してでしょうか」
(「フランツさん、それは立ち入りすぎです‥‥!」)
エルフのギルド員はハラハラしっぱなしだ。そんな先輩ギルド員の胸中など知る由もなく、周囲のギルド員からみると危なっかしい様相で、はい、と頷いた代理人に話を促した。
「実は先日お願いした『オーガの巣』の調査の結果と今回の襲撃、過去のデータをモンスターの生態調査を専門に行っている先生に見てもらったのですが、その結果、オーガ種のモンスターたちの生息域が森の東西で大きく二つに分かれていることが判明したんです」
「街道の左右ではなくて、森の東西ですか」
冒険者が勘違いをしてはいけないだろう、とフランツが確認をする。東西であれば、パリに近いほうが東、パリから遠いほうが西だ。使用人は深く頷く。
「えぇ、東西です。そして、ここで起きた多数の襲撃は殆どが東側。先日お願いした調査が正確であることが前提ですが、我々が迎撃したオーガ種と冒険者にお願いして迎撃してもらったオーガ種の数と想定される住処を照らしたところ、東側のオーガ種は数が激減したことが判明したのです」
西側での襲撃報告は東側の2割程度。冷静に見つめることのできる状態になって、初めてその事実に気付いたのだろう。
そして東側では30回近く、しかも騎士に10人近くの死者がでるほどの襲撃が行われ‥‥いざ防ぎきってみれば、東側で森を出てきていないオーガ種はかなり少なかったのだ。
「その残り少ないオーガ種の中で東の一帯の中枢になるオーガを討伐してほしいんです」
「中枢になるオーガと申しますと?」
「熊の体に猪の頭を持つ、バグベアと呼ばれるオーガの亜種です。依頼に先立って偵察に向かった者の話では、どうも、戦いなれた個体がいるようなのです」
使用人の青年はバグベアに遭遇したことがあるのだろう、青ざめた表情で大きく身を震わせた。
「バグベアは手下のオーガと一緒に行動しているようです。厳しい戦いになると思いますが‥‥報酬は多めにご用意させていただきましたし、そちらの冒険者さんの提案──報奨金も検討していますので‥‥」
お金の問題ではないと思いますけど、よろしくお願いします──と、使用人は頭を下げた。
ギルド員フランツは、彼とは思えぬ神妙な面持ちで頷き、依頼書を掲示した──‥‥。
●リプレイ本文
●船旅
「何を見ているんですか?」
「何をしているのかと思ってな」
風を受けていたマーヤー・プラトー(ea5254)は船乗りのお守りを首に下げ甲板へ上がって来たクライフ・デニーロ(ea2606)の声にそう応えた。友人のために今まで出合ったアンデッドやオーガ種族の情報を纏めていて気分が悪くなったようだ。お守りも万能ではないといったところか。友人はアンデッドに関する情報を求めていたのだが、生憎、クライフはそこまでモンスターに精通しているわけではなかった。
マーヤーの視線の先では可哀想なほど真っ青になった王 娘(ea8989)が親の敵とでもいうように碧く煌く海面を睨めつけ、ターニャ・ブローディア(ea3110)が拳を振り回して声援を送っている。以前共に行動した時には甲板にでることすらしなかった娘の成長を見て、水無月 冷華(ea8284)は静かに微笑む。
「宙に浮いているのに宙に取り残されないのはシフール7不思議の一つなんだぜ」
「そうなのですか。確かに、不思議ですものね」
ひょいと加わったアリア・プラート(eb0102)が嘘とも真実ともつかぬ戯言を吹き込み、サーシャ・ムーンライト(eb1502)が素直に感動する。
きびだんごの愛称で冒険者に密かなファンを抱える友人が取り急ぎ調べ教えてくれたバグベアの情報をオリバー・マクラーン(ea0130)と竜胆 零(eb0953)へ報告したルシファー・パニッシュメント(eb0031)は、銀の髪を持つ人物が届けたサイズ、脳裏に残るその人物へと振るい続けた。
「恩には着ぬ! 俺の中から消えろッ!」
「根を詰めすぎない方が良い。本当の敵へは、まだ辿り着いてすらいないのだからね」
「体を痛めでもすれば本末転倒だしな」
滴り落ちる汗に、オリバーと竜胆が見かねて忠告をした。
サイズを投げ棄て、乱暴に汗を拭うと適当な木箱へ腰を下ろす。
海を渡る風と温かな陽光は、森の粘着質な悪意とは正反対の爽快感で戦場へと向かう彼らをそっと癒した。
●鬼種の森〜森を進み〜
「あったぞ、目印だ」
木の幹に事前のレクチャー通りに記された竜胆の目印を見つけ、マーヤーが声と片手を上げる。
「それにしても、この危険な森で女性の一人歩きをさせねばならないとは‥‥」
回避に関しては達人の域にあるという、その実力は聞かされており冒険者としてのマーヤーは納得している。しかし騎士としてのマーヤーはやはり複雑なのだろう。
「男か女かよりも実力で計るべきだろう」
何か気に入らなかったのだろうか、水無月はきつく睨んで低くそう告げた。
「怒りは正常な判断力を鈍らせます。水無月様‥‥今はバグベアの事だけを」
そっと腕を掴んだサーシャの穏やかな微笑みに溜飲を下げ、頷いた。
鳴弦の名を持つ長い弓を背負ったオリバーが手にした地図から顔を上げ、空を見上げて時間を推し測る。
「そろそろ到着しても良いはずなのだけれどね」
空は薄い雲に覆われているが、時間が測れないほどではない‥‥オリバーの感覚では街道を逸れてからの時間だ。端から厚みを増し始めた雲に危険を覚えながら、オリバーは歩みを早めた。
●鬼種の森〜闇の中の平穏〜
暗闇に小さく火の爆ぜる音を聞きながら、娘は眠る仲間の邪魔をせぬよう少し離れた場所でそれを装備する。
「やっと半分か‥‥失敗はできないな‥‥」
過度に湿り気を帯びた空気に最悪の事態を想定し、しっかりとフードを被る。
そして両の足に履いた仕込み下駄で虚空を、倒木を蹴り上げ、体を温める娘。ナックル以上ナイフ未満という感触を、幼さを残した足で確かめる。
「気にする必要はありませんよ。数は足りているのですし」
「でも‥‥あたし、皆に迷惑かけちゃってるよね」
共に野営に従じる水無月はしょんぼりと落とされたターニャの肩を、優しく叩く。そう、ターニャは食料の準備をせずに出発してしまったのだ。
クライフをはじめ、数名の仲間が保存食を多めに所持していたため、幸いにして空腹に苦しむようなことはなかったのだが仲間の負担になっている気がして小さな仲間は元気が無い。
「次から忘れなければ良いだけのことです。ターニャ殿の元気がなくなることの方が、私達には大問題なのですから‥‥ね?」
「うん‥‥次からは、ちゃんと忘れないようにするね。ちょっと重いけど、頑張る」
爆ぜる炎に揺られた闇が、その濃度を増してゆく。
厚い雲に遮られ、星はみえない。
●鬼種の森〜バグベア襲撃・1〜
曇天の下、竜胆は川辺にある屋根の朽ち始めた一軒家を指し示した。
「あれがバグベアのいるあばら家だ」
「ちょっと見てくるね〜」
ターニャは木の陰を縫う様に、遠く、高く移動し『テレスコープ』を唱えた。棍棒を持ったバグベアが2匹、金棒を持った赤と青のオーガ、そして大きな斧を持ったバグベアの姿が見て取れる。
急ぎ仲間の下へ戻ると、焦点の合わぬ瞳で竜胆の頭にしがみつき、見たことを見たままに報告する。
「建物の外に出てるのもいるよ、気をつけてね」
「さてと、寝た子を起こしますか♪」
前衛・中衛が木の陰などに身を隠したことを確認し、アリアが声を張り上げ歌を歌う。ギュンター君にも教えたことのある子守唄だ。
優しいメロディラインに殺気立つオーガ種たち。
『GU‥GAA‥‥!!』
「♪〜〜‥シャドウボム!」
動き始めたことを確認し、アリアが歌を呪文に変えて不意打ち!!
「GAA!?」
一体のバグベアの影が爆発!! 陽動の一撃はバグベアに毛ほどの傷しか与えられないが、続いてクライフがスクロールを読み上げる!!
「これでどうです!? ──ライトニングサンダーボルト!!」
2体のオーガと1体のバグベアを巻き込んで、一条の雷光がモンスターに襲い掛かる!!
「お出ましのようだ」
激しい爆発音の連続に、あばら家からバグベア闘士が姿を現した!! 水無月が詠唱を終える!
「──アイスコフィン!」
水無月の唱えた魔法は、しかし氷の棺を作り上げることはない‥‥失敗!
接敵するまでの間にルシファーはミミクリー、竜胆は疾走の術をそれぞれ使用し、マーヤーと娘は自らの武器にオーラパワーを付与する。
「竜胆、武器を貸せ。オリバーもな」
「ではルシファーとサーシャも、水無月は私が」
しかし、敵もそんな余裕は与えない。サーシャの武器へオーラパワーを付与することが叶わぬまま、オーガが接敵!! 金棒を振り上げる!!
「ふん。貴様らごときでは私の動きは捉えきれまい」
余裕の表情でその金棒を避ける竜胆。舞うような動きに髪がゆれ、幼い顔に似合わぬたわわな胸が弾む。
「及ばずながら助力するよ」
鳴弦の弓に張られた弦を弾くオリバー。その音を耳にした鬼種たちは一瞬ぐらりと体を傾がせ、その動きを鈍くした!
続くオーガへはマーヤーが対峙!!
「弱きを助ける為に剣を振るう。それが我が流儀だ」
今も生活を脅かされているであろう領民たちを救うべく、崇高な目標の元に刀を振るう──飛び散る鮮血!!
3匹目のオーガへはルシファーが抑え、娘がサポートに入った。
「離れろ、娘! こいつは俺の獲物だ!」
「ミミクリーを有益に使うには中衛が正解だ」
金棒を避け、仕込み下駄で蹴り上げる!! 仰け反ったオーガの隣へ、バグベアが現れた! 娘はバグベアにターゲットをシフトする。
クライフのアイスチャクラは3回に2回という割合で敵を切り裂き、ターニャは敵の攻撃の決して届かぬ上空からテレスコープで狙いをつけ、専門級へ威力を増したサンレーザーで攻撃を繰り返す。
そしてアリアはシャドウボムで狙った影を爆発させる!
直径3mの球状へ広がる爆風も厚い雲という障害を抱えるサンレーザーもバグベアに傷をつけることは叶わず、オーガにかすり傷を負わせることしか出来ないが‥‥しかし、敵の集中力を削ぐという役割は十二分に発揮しているように思われた。
●鬼種の森〜バグベア襲撃・2〜
防御は端から考えていない──そう言いたげなマーヤー。その攻撃力は冒険者たちの中でも群を抜いており、すでに一体のオーガが退治されている。
「死体か、丁度良い──クリエイトアンデッ‥‥ぐっ!!」
振り下ろされた金棒に捕らえられたのはルシファーだ!!
「きゃあっ!」
中衛で交代要員兼回復役として控えていたサーシャを巻き込み吹っ飛ぶルシファー!!
激しく殴打された左腕は骨が折れたか意思の力では動かない。ふらつく足で立ち上がり追い来るオーガをサーシャが引き受ける。
「誰か、ルシファーさんを!」
「要らん!」
叫ぶと、携帯していたリカバーポーションを煽るように飲み干した。再び自由を取り戻した腕でサイズを握り、ミミクリーをかけなおす暇もなくサーシャと共にオーガを攻撃する!
一方、マーヤーも回避に関しては素人同然。バグベアは竜胆と娘が引き離し、罠を仕掛けた方向へと誘導していったが、水無月と2人で相手をしているとはいえ‥‥動きが鈍っていても流石はバグベア闘士の攻撃、辛うじて避けるのが精一杯だ。
しかし、4撃目でついに斧をその身に受けた!
「ぐあっ!!」
脇腹に鈍痛が走り、何かが砕ける音が体内に響く。
「代わろう、回復を!」
「すまない!」
「オニワァソトーォ!!」
腹式呼吸でしっかりと声を出しジャパンで用いられるらしいオーガ退治の呪文を唱えながら、クライフは追儺豆を投げつける!
一瞬怯んだその隙に鳴弦の弓を投げ捨てたオリバーと脂汗を浮かべるマーヤーがその位置を変えた。
預っていた二本目の鳴弦の弓を取り出し、爪弾こうと手をかける。
「だめ、もう魔法打てないよ!」
専門レベルでの魔法を連発していたターニャの魔力が枯渇した。森の中で度々レジストメンタルを使用していたアリアも、夜営当番が夜半〜深夜‥‥つまり、魔力の回復に必要な『連続した充分な休息』を取っていなかったため、いずれ魔力が尽きるだろう。体の疲れは回復しようとも、魔力はそう都合よく回復しないものだ。
とっさにバックパックをぶちまけるクライフ!
「使ってくださいっ!」
スクロールや保存食などが飛び散る中、転がったソルフの実をターニャに投げた!
「ありがとっ!!」
奥歯で噛み砕き無理やり飲み込む。強引に流し込まれた魔力を使い、折り良く雲の合間から差し込んだ太陽光を集めるように再びサンレーザーを唱える!
「いっけぇぇ!」
ターニャの魔法がマーヤーが作ったバグベア闘士の傷口を抉る!!
『グガアア!!』
苦し紛れに振るった一撃はオリバーの肩口、鎧の隙間に突き立った!! しかし鎧に挟まれ抜くことが出来ない!
傷が大きくなることを覚悟し、オリバーはバグベア闘士へと渾身の力を込めた一撃を見舞った!!
頭蓋が割れ、流れ出した明るい赤色をした体液で黒い毛をぬめらせ‥‥筆舌に尽くしがたい形相でオリバーとマーヤーを睨みつけたまま、バグベア闘士は絶命した。
●戦いを終えて
「結局、ヤツらは単純に襲ってただけみてぇだったな」
崩れずに残ったあばら家やオーガ種の身につけていた武具などをチェックしたが、黒幕らしきものを感じさせるものは何一つ見つからなかった。何かを細かく考えることもなく襲って来ていたのだろう。
街道を棄てなければならないほどの過去の襲撃を考えれば、オーガ種がそれなりの武装を整えていたとしても何ら不思議はなかったのだ。武具は朽ちて崩れるものではないのだから。
「だからこそ迷惑なのだ、アリア」
「そりゃそーだわな」
本能のままに人々へ迷惑をかけるのならば、これほど迷惑な話はない。
サーシャのリカバーに加えてポーションまで使用し傷を癒した冒険者たちは、血や汗にまみれた体を川辺で洗い流し、帰路につく。
森を出て、依頼人のお抱え御者に預けていたペットを回収し、用意されていた馬車に乗り込む。馬車で1日、ガードナー商会の船に揺られて2日。長い道のりを辿って、冒険者たちはパリの地を踏んだ。
「影音さんから寄付を預っているので、忘れる前にシャンゼリゼへ行ってきますね」
クライフの言葉に、ターニャとサーシャが反応を示す。
「あたしも行く〜」
「私もお供いたします。確かに彼女がした事は重い罪ですが‥‥彼女だけのせいというわけでもないと思いますので」
クライフが影音から預った5G、そしてターニャとサーシャもそれぞれ5Gという、一般人の一ヶ月の稼ぎにも相当する寄付を行いに行く3人の背を見送り、ルシファーは青い空の下で呟いた。
「‥‥どこもかしこも混沌ばかりだな」
「平穏というものは砂上の楼閣のようなものだからね」
不謹慎にも喉奥で愉しそうに嗤う声は真摯に応えるオリバーの耳に届かなかったようだ。
「それでも、その楼閣を守るための努力はきっと実を結ぶ」
遠くに在る森を脳裏に描き、マーヤーは静かに頷いた。
雲は風に流され、ゆっくりとその形を変えていった。