The Letter 〜Episode 2〜
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■シリーズシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:2 G 64 C
参加人数:8人
サポート参加人数:3人
冒険期間:06月17日〜06月23日
リプレイ公開日:2005年06月27日
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●オープニング
●冒険者ギルドINパリ
心なしか落ち着きをなくしたレイ・ミュラーが再び『依頼人として』冒険者ギルドの門戸を叩いた。
いよいよ、『その日』が差し迫ったのだ。
「例の件でしょうか?」
エルフのギルド員、リュナーティアの問いかけに苦い笑いを浮かべながら頷く若き騎士。
そう、それは一ヶ月前。冒険者街の一角にある何の変哲も無い家の扉をシフール飛脚が叩いたことから始まった。
「しふしふ〜♪ シフール便のお届けだよ〜!」
「ご苦労様です」
扉を開けたのは微笑みを浮かべたレイ・ミュラー。慌しく飛び去っていくシフール飛脚を玄関先で手を振りながら見送り、何の気もなく受け取ったシフール便の封を切ろうとしたレイは蝋に残された印に眉を潜めた。
冒険者や一般人は蝋に印は残さない。それは、地位のある人物が名を記す代わりに施した封蝋だった。騎士として紋章に通じた彼は、その印で差出人を知る。
「‥‥シュヴァルツ卿?」
ゲーニッヒ・フォン・シュヴァルツ‥‥それは、会った事もない貴族からの手紙だった。
そして、記された文面もまた青天の霹靂としか言いようのないものだった。一度も会ったことのないレイを『息子』と呼び、尚且つ『息子』として迎え入れようというのだ。
困惑したレイは冒険者ギルドへ依頼し、ゲーニッヒ卿の真意と真実を探ろうとしたのだが‥‥。
「数日後、いよいよゲーニッヒ卿とお会いすることになりましたので‥‥数名、立会っていただける方をお願いしようと思いまして」
「失礼ですけれど‥‥お会いするだけなら、お1人でも宜しいのではないでしょうか?」
当然の疑問である。対するレイの返答は珍しく歯切れが悪い。
「その‥‥ゲーニッヒ卿だけなら良いのですが、奥方様も立ち会われるようなので‥‥」
「何か問題でもありますか?」
「いえ、あの‥‥万が一にも泣かれてしまうと、有耶無耶のうちに息子であることになってしまいそうで‥‥。ですから、無事にパリへ戻るまでを依頼にさせてもらおうかと‥‥」
恥ずかしそうに赤面し視線を泳がせる青年は、女性の頼みに弱いという自分の性格を把握しているようだ。
苦笑しか出なくなったギルド員リュナーティアは気取られぬよう俯いたまま、依頼として最低限必要な事項を尋ねる。そして依頼書に記載すると、ふと顔を上げた。
「やはり、事情を知っている冒険者の方が良いでしょうか?」
「そうですね、ゲーニッヒ卿の真意がヴェールに包まれていますし、あまり公にならないようにしてもらえるとありがたいです」
「では、とりあえず以前の依頼を受けた冒険者に連絡を取ってみますわね」
よろしくお願いします、とレイ・ミュラーは頭を下げた。
●ゲーニッヒの屋敷
光の差す広い空間に置かれた大きなテーブルを、ゲーニッヒと夫人、そして姪のアイシャの談笑が囲んでいた。
「伯父様、伯母様、驚かせたいことって何ですか?」
「アイシャが驚く顔を見たいのよ、もう少し秘密にさせて頂戴ね」
微笑んだ夫人は、琥珀色に揺らめく紅茶に口付ける。ゲーニッヒが口髭を撫でた。
「楽しみにしておいで、アイシャ」
愛してやまない姪、アイシャの喜びに崩れる顔を思い描いてゲーニッヒは目を細めた。
差し込む陽光が穏やかな風に揺らめいた。
●リプレイ本文
●〜青く澄み渡る空の下〜
青く澄み渡る初夏の空の下を、一台の馬車がゆったりと進んで行く。その車上では声をひそめて、冒険者たちが秘密の会話中のようだ。
「御子息が亡くなったという記録が、教会の方に残っていたんです」
「早い話が、ゲーニッヒ卿の子どもに関してはしっかりとした死亡記録があったからレイさんが血のつながった子ども、って言うのはあり得ない、と言う事になるわ。この事をどう扱うかはレイさんに任せるけどね」
ナロン・ライム(ea6690)とフィーナ・アクトラス(ea9909)は依頼人レイ・ミュラー(ez1024)へ先日調べた情報の報告を行っているようだ。レイは僅かに眉間へ皺(しわ)を刻み、視線を足元へ落とす。
「そうですか‥‥ゲーニッヒ卿の御子息はやはり亡くなられているのですか‥‥」
「レイさん、1つ伺いたいのですが‥‥アイシャさんという女性をご存知ですか?」
レティシア・ハウゼン(ea4532)の質問も当然、先日の調査絡みであろう。名前に聞き覚えがないのか首を横に振るレイへ、アイシャの身体的特徴を告げる。
「栗色の髪の豊かな女性です。瞳は赤味の強いブラウン、身長は‥‥私とヘルガさんのちょうど中間くらいでしょうか。穏やかな雰囲気の14、5歳の方なのですが」
「栗色の髪の‥‥‥‥パリでその様な女性とお話ししたことがあります。良家のお嬢さんのような印象でしたが‥‥彼女が『アイシャ』さんかもしれません。ですが、それが何か?」
以前言葉を交わした女性の容姿を脳裏に描き、その女性になら覚えがあると頷くレイ。
「ゲーニッヒ卿の姪御さんなんです。その‥‥レイさんに、好意を寄せられているようで‥‥ゲーニッヒ卿にレイさんを探して欲しいとお願いされているようなのです」
レイの傍らに陣取るヘルガ・アデナウアー(eb0631)を気にかけながらも自分の調べた情報を伝えるレティシア。
レイさんは誰にも渡さないわ! とばかりに腕にしがみ付くヘルガに困ったような照れ笑いを浮かべながら、レイはレティシアの言葉に頷いた。それならば息子が死んでしまっていたところで、関係はないのかもしれない。
「ゲーニッヒ卿の企みは『姪っ子アイシャの愛する人を息子として迎え入れ、その息子と姪っ子を結婚させる事』だと思うんだ。随分手間掛かるプレゼントを企んだもんだよな、素直にうちの養子に来てくれないかって言やいいのに」
愛犬ウノと保存食の奪い合いを演じながら、マリオーネ・カォ(ea4335)が言葉を飛ばした。先日は保存食を忘れて大変な思いをしたのだ。保存食を持ってくれるパートナー・ウノに保存食を食べられてしまっては本末転倒っ!
そんな様子を横目に、レティシアは小さく溜息を吐いた。
「お子さんがおられずお寂しいから、このようなことになったのかもしれませんね。人を騙すのは良くないことですが、その気持ちはお救いできたら良いのですが‥‥」
「可愛い姪御さんの為とはいえ、困った叔父上殿ですわね」
マリオーネとウノの争いに愛犬・力丸が参加しないようしっかりと抱きかかえながら、神剣 咲舞(eb1566)も張りを失わない顔に苦い笑みを浮かべた。
「それで両親の事をでっち上げたりするのはレイさんが可哀想だよね。でも、何だかレイさんにとってもそんな悪い話じゃ無い気がしたりするのは気のせい?」
扇情的な衣装を身にまとったシャフルナーズ・ザグルール(ea7864)はゲーニッヒ卿の行動に頭を悩ませる。会ったことのない親の名を騙り、いたずらに感情を掻き乱すのなら、それは決して褒められた行為ではないだろう。
「いやぁ、そのまま息子として放り出しても面白い気がしてきたよ。‥‥と、冗談はさておいても。まあ、嵌っちゃえばそう悪い人生とも言えないけどね」
悪意のない表情で飄々と語るルティエ・ヴァルデス(ea8866)。咲舞とシャフルナーズの視線を受け、品の良い笑みを湛える。
「なんだか言葉に重みがありますね‥‥ルティエさん、その様なお知り合いでもいたりします?」
「知り合いではなくて、経験談だね。実は私も養子だから」
レイの問いに戸惑いもなく答えるルティエ。レイの置かれた立場を一番真剣に考えているのは、実はルティエだった。まるで他人事とは思えぬ状況に、我が身を重ねているのだろう。
「そうそう、私の方も前回の調査の報告をしないといけないね。今の奥方は後妻で、前妻は息子の出産時に亡くなっているらしいよ。息子も死産という事は、目の前にいる君は誰なんだろうね?」
揶揄するように目を細めるルティエへ、肩を竦めて言葉を返すレイ。
「レイさんはレイさんよ、親御さんが誰であっても関係ないわっ!」
レイより先に声を張り上げたのはヘルガだった。真理だね、と微笑むルティエがヘルガの瞳で揺らめいた。
レイはヘルガの瞳に滲んだ涙をそっと拭い、優しく抱き寄せた。
「ありがとうございます、ヘルガさん。──泣かないでください、私はヘルガさんの笑顔が好きです」
臆面もなく言ってのけるレイへ、フィーナがどこか呆れたように呟いた。
「レイさん、あなた何時か刺されると思うわ」
「‥‥気をつけます」
よく言われるのだと真っ赤になった顔に浮かべ、誤魔化すようにヘルガの金の髪をそっと梳いた。
そして、青く澄み渡る空の下、馬車はガタゴトと音を立てながら一路目的地へと進んで行く──‥‥
●〜光と風の舞い踊る庭園で〜
ゲーニッヒ卿の館を訪れた冒険者たちは、レイと共に初夏の夕べが彩る庭園へ案内された。
柔らかな夕方の太陽の光と駆け抜ける風が舞い踊る庭園は、涼やかな空気と、用意された料理の放つ暖かな香りに包まれていた。
「すっげー‥‥」
マリオーネは一瞬、その料理に我を忘れそうになったが、視界の隅をよぎったレイの黒髪に、為すべきことを思い出した。
「ふぅ、危ない危ない。旨そうな料理ってのはそれだけで罠みたいなもんだよな〜」
汗を拭う仕草をしながら誰にともなく呟いたマリオーネの言葉には意外な賛同者がいた。
「‥‥そ、そうですよねっ!! おいしそうな料理を見て厨房の料理道具が気になるのも罠みたいなものですよねっ!!」
「や、それはどうかなあ?」
あの野菜を刻んだのはどんな包丁で、肉と一緒に野菜を柔らかく煮込んだ鍋はきっと‥‥心はすっかり厨房へ飛んでしまっていたナロン、マリオーネの言葉に慌てて首を振った。
もっとも、ナロンの返答はマリオーネにはいささか同意しかねるものであったようだが。
「フィーナさん?」
心ここにあらず、という風情のフィーナへレティシアが声をかけた。礼服に身を包んだ二人、傍から見ていると立派に社交界を渡り歩くレディーである。
反応のない相手にもう一度声をかけるレティシア。
「美味しそうな料理よね‥‥」
「え?」
無意識のうちに零れたようなその言葉にレティシアが目を瞬いた。その瞬間、フィーナの腹の虫が盛大に自己主張♪
「あ、そのっ! ‥‥食い意地が張ってるわけじゃないのよ、美味しそうだなって思っただけでっ」
打ち消すように手を振るフィーナについ頬を緩めてしまったレティシアだった。
「招いておきながら待たせてしまって申し訳ないね」
「いえ、その様なことは‥‥お初にお目にかかります、レイ・ミュラーと申します」
いつものように優雅に微笑み、騎士として一礼をするレイ。傍らではルティエが同様に礼を表している。
礼服に身を包んだ用意した女性たちも居住まいを正す。
「そんなに固くならないでくれ。初めて会うとはいえ、息子にそんな扱いをされると寂しいものがある」
ゲーニッヒは寂しそうに呟くとレイの元へ歩み寄り、自分より大きなその体を抱きしめた。
「おかえり、レイ。今まで本当にすまなかった‥‥こんな父を許して欲しい」
「ゲーニッヒ卿‥‥その件なのですが、本当に私で間違いないのでしょうか?」
抱き返せば、息子という地位を認めたことになる。真摯なフィーナの視線に背中を押され、レイは慎重に言葉を選んだ。
「もちろんだとも。信用ができないというのも判るが‥‥」
「ゲーニッヒ卿のお言葉を疑うわけではありません。けれど‥‥正直に申しまして、突然すぎて戸惑っております。それに、身分のないこんな私でも、守らなければならないものがあるのです」
「レイさんは最近パリでも結構名が売れて来てるんですよ〜。今も、レイさんに『是非に』って頼まれた依頼が有って、パリに戻ったら直ぐに出発なんですよ」
にっこりと牽制の笑みを浮かべて機転を利かせたのはシャフルナーズだ。とっさにヘルガがレイの左手へしがみ付く。
「レイさんってすごく真面目な人だから、信用が厚いのよ」
「冒険者を続けるにしても、ゲーニッヒ卿の跡継ぎの道を選ぶにしても、信用を失わせるわけにはいきませんよね」
同じように儀礼的な微笑みを浮かべたレティシアが言外に釘を刺す。信用されたいのなら信用されるだけのことをしてみせろと。
「守りたいというのは‥‥そちらのお嬢さんだろうか?」
レイの左手にしっかりとしがみ付くヘルガ、その左手の薬指に誓いの指輪を認めてゲーニッヒが尋ねた。
「ええ、ヘルガさんも大切な友人ですから全力で守りたいと思います。他にも、ここにいる仲間たちや、今まで知り合った方々、そして築いてきたもの‥‥私にできる全てで守りたいのです」
友人と言い切られたヘルガはショックを隠しきれない様子だが、反対にゲーニッヒは安堵を隠さなかった。
「そうか‥‥築いてきた生活もあるだろう、無理にとは言えまいな。しかし、君に会いたいという人物に引き合わせるくらいのことは許してくれるだろうか」
どうやら息子として迎えられる事態は避けられたようだ──もちろんです、と頷くレイの脳裏にはそんな思いがあったに違いない。
「‥‥ありがとう。イリス、アイシャを」
そしてゲーニッヒに促され、夫人に連れられたアイシャが姿を現した。
「貴女がアイシャさんでしたか」
「その節は‥‥とても楽しい時間を過ごさせていただきましたわ。ありがとうございます」
レイへ向けられた熱い眼差しに、ヘルガセンサーが反応! レイの腕を抱きしめる手に力がこもる!
(「レイさんは‥‥レイさんは渡さないわっ!」)
邂逅に視線が集中する中、数名の冒険者が席を離れた。
抜け出したマリオーネは屋敷を徘徊し始めた。いや、徘徊というのは正しくない──彼はまっすぐ、ある一点へ向かって進んだのだから。
その一点とは、先日侵入した際に目にした、隠されるように飾られた肖像画の在り処である。
──はっきりと見たい、あの肖像画を。もしその面影が彼に似ていると言うのなら‥‥ゲーニッヒ卿の企みは、企みでなくただの『真実』だ。
胸に抱く思いを口にしてはいない。教会の記録が不正に書き換えられたものである可能性や、教会を騙して『死体のない葬式』を挙げた可能性、そして‥‥
たどり着いた廊下の突き当たり。重厚なカーテンは何事もなかったかのように、そこに在った。
「じゃ、ちょっと見せてもらうかな〜☆」
必死にカーテンを動かすマリオーネ。徐々に動くカーテンの影から現れたのは、煤を被った黒髪の女性の肖像画。
すっかりカーテンを退かしてしまい、改めて肖像画を見つめた彼の口から言葉が漏れた。
「‥‥やっぱり、息子だ」
額縁にははっきりと、エリーゼ・ゲーニッヒの文字が刻まれていた。前妻かどうかは不明だが‥‥けれどレイが彼女の息子であることは間違いなさそうだった。
──描かれたエリーゼは、レイと良く似た面立ちの女性なのだから。
「双子って可能性、皆考えてないのかねぇ?」
彼女が前妻ならば、アイシャとレイは正式に婚約者ということになる。例えレイに想い人がいようとも。
「どーうしよっかなー?」
厨房へ向かうシャフルナーズに同行したのは当然、ナロンである。あわよくば‥‥という想いは否定しないが、シャフルナーズに協力しようと思ったのも確かだ。
「少し気になる事が有るの。今までアイシャさんに婚約話が全然無いってのが信じられないんだよね。多分、ゲーニッヒ様が全部握り潰してたんじゃないかな」
使用人に確認したいというシャフルナーズの言葉ににっこりと頷いたナロンである。──厨房に着いた途端に目が輝いてしまったのは彼のせいではない、と思う。
しばらく使用人たちを手伝い、世間話に興じていたシャフルナーズだが、意を決して本題に触れた。
「アイシャさんって、あんなに可愛らしい方なのに、今までどうして婚約話がなかったのかな?」
「ゲーニッヒ様が断っていたと思うけれど?」
当然のようにさらりと言う使用人。彼女はゲーニッヒ卿の館の使用人でありアイシャの実家の婚約話まで把握していなかったが、婚約の話が出たことだけは耳にしていたようだ。
「‥‥あの、ゲーニッヒ様の御子息は死産だったという噂を聞いたのですが‥‥?」
ナロンが小声で尋ねる。声を潜め、噂という言葉を使われると乗ってしまうのが女性の悲しき性。
「これは秘密なんだけどね‥‥死産もしていたけれど、しっかりと生まれたお子様もいたのよ」
「それって‥‥」
ナロンとシャフルナーズは思わず顔を見合わせた。二人の思考を肯定し、使用人は大きく頷いた。
想い人レイはしっかりヘルガのガードを受け、世間知らず上に緊張を孕んだアイシャは会話も碌にできない。が、見知った顔を見つけその緊張が僅かながらに解れたようだ。
「あら、レティシア様。レイ様のご友人でしたのね」
「お久しぶりです、アイシャ様」
「あの鶏は何でしょう‥‥ごめんなさい、此方のものはジャパンでは見かけないものばかりで、何もかも新鮮で‥‥つい」
頬を赤らめる咲舞。京染めの振袖を纏った彼女はレイのことから話題を逸らし、会話のしやすい空気を作ろうとしたようだ。この辺りの器量はさすがに歳相応だといえよう。
咲舞やルティエに庭園を案内し、意を決したアイシャは‥‥レイを正面から見上げた。
「レイ様‥‥パリでお会いしたあの日よりお慕いしております。わたくしの想いを受け止めて頂くことはできませんか」
「身に余る光栄です。けれど‥‥この胸には、もうただ一人の名が刻まれております。‥‥申し訳ありません」
胸元に手を当て、ふっと穏やかな笑みを浮かべるレイ。そして、彼なりの誠意を以って返事を返した。
「‥‥それだけハッキリと申されてしまっては、諦めるしかないのでしょうね」
暫しの沈黙の後、アイシャが儚い微笑みを浮かべた。失礼いたしますね、と足早に去る彼女を追うことの出来る人物は、ここには誰もいない。
「戻りましょうか、パリに」
重くなった空気を拭い去るように、咲舞は明るく口にした。
傷付いた笑みを浮かべ、依頼人は頷いた。
──これで全てが終わると、誰もが思っていた。