【水戸城解放】戦局之弐

■シリーズシナリオ


担当:やなぎきいち

対応レベル:6〜10lv

難易度:やや難

成功報酬:4 G 34 C

参加人数:8人

サポート参加人数:4人

冒険期間:05月20日〜05月29日

リプレイ公開日:2006年06月07日

●オープニング

「忠勝が生きているというのか!」
 解放軍『雪狼』を率いる少年は明るい声を出す。
 常勝を名と運命に課せられた男は、虐げられた者たちにとって希望となる存在だ。
「本田殿が戻れば再び立ち上がる者もいるでしょう。頼房様の片腕であった本田殿であれば、光圀様の片腕となるにも十分」
 盲信する渡辺則綱は表情を明るくする。しかし、確かに頼房の片腕として源徳の名を支えるべく遣わされた高名な武将は幼き光圀を救うことであろう。そしてその名は光圀の鎧となり盾となりあるいは刀となりて少年を軽んじる者から守り戦うに違いない。
「‥‥‥」
「慧雪殿、何かご不満があられるか」
 謀略を駆使する慧雪と実直を善しとする則綱は馬が合わないのか、則綱の視線は滾る怒りを滲ませたものとなる。忠勝の生存を喜ばぬのは御庭番の勢力や発言力が弱まるためだろうと勘繰るほどに。
「何故本田殿を生かしておいたと考える? 投獄し半年も経てば、餓死させることも可能であったはず」
「それは当然、本田殿がお強かったからよ!」
「何らかの利用価値を見出したから‥‥と言いたいのか?」
「さすがです、光圀様」
 頭を垂れる慧雪の表情は、しかし一切の感情を覗かせることなく冷たいままである。そんな部下にも慣れたのであろう光圀は、ふぅむと思索に耽る。

 ──黄泉人の思惑は何なのか。

「とりあえず、生きているのなら忠勝は救い出そう」
 城内で生き延びているのであれば有益な情報を所持しているかもしれぬと慧雪も賛成をする。忠勝の配下であった則綱が異論を唱えるはずもなく、忠勝を救出することは決定事項となったわけだが──‥‥
「しかし、冒険者の力を借りるとあらば蔑ろにするわけにもいきますまい。彼らには彼らの流儀があるでしょう」
「ならば慧雪、冒険者をここへ呼んでくれるか」
「危険です、光圀様!」
「則綱、彼らの出した結果をしっかり見据えてくれ。自分で口にした約束を違えないでほしい」
 主として光圀が口にできる精一杯の言葉。
 その言葉に漸く諾と頷く則綱。

 そうして冒険者は水戸の地へと招かれる。
 ──忠勝を救い、水戸城を黄泉の者たちから取り戻す算段をつけるために。

●今回の参加者

 ea0508 ミケイト・ニシーネ(31歳・♀・レンジャー・パラ・イスパニア王国)
 ea0548 闇目 幻十郎(44歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea3869 シェアト・レフロージュ(24歳・♀・バード・エルフ・ノルマン王国)
 ea4492 飛鳥 祐之心(36歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6764 山下 剣清(45歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea6855 エスト・エストリア(21歳・♀・志士・エルフ・ノルマン王国)
 ea7123 安積 直衡(38歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea9342 ユキ・ヤツシロ(16歳・♀・クレリック・ハーフエルフ・フランク王国)

●サポート参加者

カイザード・フォーリア(ea3693)/ 以心 伝助(ea4744)/ クリステル・シャルダン(eb3862)/ 紅谷 浅葱(eb3878

●リプレイ本文

●江戸の地で
「これで少しはジャパン人の人間に見えるでしょうか」
 イチゴにプラム、大切な家族たちを冒険者ギルドの手代に預け和装に身を包んだシェアト・レフロージュ(ea3869)はオーロラのヴェールの上に彩度の低い布を被り特徴的な耳と月のような髪を隠す。
 同様に和服を纏うエスト・エストリア(ea6855)はたわわな胸に押されて開きがちな胸元を頻繁にあわせている。揃いというわけにはいかなかったが、一般の人々が日頃着ているような地味な色合いの服装は、この国では鮮やか過ぎる二人の容姿を晦ませていた。
 シェアトの控えめな物腰は大和撫子と呼ばれるものに通じるものがあったし、もともと東洋人とノルマン人のハーフであるエストの顔立ちは服装の力もあってジャパンに馴染みやすかったこともあり、さほど目を引かぬ容姿へと変貌を遂げていた。
「はい、充分ジャパン人で通用すると思います‥‥」
「せやね。あとは髪が毀れへんように気をつけておけば文句なしや♪」
 巫女装束を纏うユキ・ヤツシロ(ea9342)はジャパン人とのハーフで容姿はジャパン人に近く、ジャパン人の血を引くというミケイト・ニシーネ(ea0508)は上方の言葉を操りすっかりジャパンに馴染んでいる。
 あっという間に風体を整えた女性たちに、飛鳥祐之心(ea4492)は言葉を失う。いとも簡単に化けてしまう女性のなんと恐ろしいことか。
 ──そうこうしているうちに水戸からの使者、古賀が姿を現した。
「度々の召集ですまぬ。準備は整うておろうか?」
「それは問題ないのだが、一つ質問がある」
 荷物を背負った安積直衡(ea7123)が尋ねると古賀は続きを促した。
「藩内でしばし活動を行う時間はいただけないだろうか。少々調べたいことがあってな」
「問題ないはずだ。して、責負う者は安積殿か?」
「いや、そっちの飛鳥だ」
 山下剣清(ea6764)がひょいと示すと、飛鳥は緊張の面持ちで闇目幻十郎(ea0548)を見遣った。
「本当に俺でいいんだな?」
「二言はありません、皆も納得しているはず──何度も申しますが、自分は忍者、裏方です」
 表に出る役は遠慮する代わりに、全力でバックアップする。それが闇目の関わり方で、拘りでもあった。
「‥‥皆の代表として俺の名を。何かあれば、その責は俺が負う」
「何もないように願いたい。その少女の行動にも充分留意されるよう忠告させていただく」
 見覚えのない顔に疑惑の視線を向ける古賀、向けられたユキは飛鳥の袖をきゅっと掴んで迷い子の眼差しで見上げた。
「あの‥‥私が信用されずに足を引っ張ってしまうのなら、江戸でお待ちしますが‥‥」
「俺たちが信用している、必要な人材だ。自信を持って顔を上げていてくれ」
 励ますように、或いは自分に言い聞かすように小さな手を握りしめ、そういうことだ、と飛鳥は古賀に対し対等に胸を張った。

 そして古賀の導くままに、一同は再び水戸への道を歩み始める。
 死臭に魅入られた土地を解放するために──


●水戸に入らずんば──
「ここが水戸‥‥‥雛菊様が、生まれ育った場所‥‥」
 感慨深げに辺りを見回しながら歩くユキが呟いた名は、冒険者ギルドで目にする少女の名である。あの少女も水戸の出身であったかと思いながら到着した場所は、水戸城から徒歩で1日近くも離れた山中にある小さな集落であった。街道と呼べる道からも外れ、交易の利便性も悪い場所である。しかし、その村落こそが──水戸解放軍『雪狼』の所在地でもあった。
「この村落の者たちは、皆承知しているのでしょうか」
「当然だ。もちろん、見知らぬ者や不穏な影があれば報告が入る」
 幻十郎の言葉に小さく頷く古賀。戦力にならぬ協力者という意味であればその存在は皆無ではない、その事実に安堵しシェアトは胸を撫で下ろす。
「伝助さんの仰っていたとおり、灯火は消えていないのですね」
 遠く江戸で情報を与え、ともすれば折れそうになる心を支えてくれた友人、以心伝助にそっと感謝し、布の影でそっと微笑む。
 そこへ聞きなれぬ男の声が掛かった。
「おお、戻ったか。ご苦労だったな」
「渡辺様、お出迎え痛み入ります。件の冒険者たちをお連れしました」
 声を掛け出迎えた男が渡辺則綱──本多忠勝に代わり雪狼の実質的な指揮を執る人物だと知ったのはその直後のことである。いかにも武人という風体で、謀略を好まない男だというのはその瞳を見ていれば知り得ることである。
「こちらが飛鳥祐之心殿、冒険者たちの責任者だ」
「首が掛かればおめおめと逃げ出すかと思っておったが。気骨ある者もいるようだな」
 品定めをするように飛鳥を不躾に眺め、順に冒険者たちに視線を送る。決して好意的とは言えない視線に晒されて居心地悪くエストが身を捩った。
「あまり歓迎されていないようですね〜」
「逆に容易に信用しない用心深さを持ち合わせているからこそ解放軍の要職に就けるのではないか?」
「安積さんの仰るとおりかもしれませんね。この状況下では用心に用心を重ねる必要がありましたね‥‥」
 決して客人ではなく、背に腹は代えられぬ事情から雇った部外者なのだと。
 則綱の視線に、行動に、まざまざと見せつけられて──怒りと、悲しさと、哀れみと。様々な感情がエストや皆の胸をかき乱した。


●『雪狼』の少年
 山の急斜面を背にした寺に、解放軍の指揮官は身を潜めていた。
「刀は外さなくていいのですか?」
「信用することになっておるからな」
 幻十郎の問いかけに則綱は未だ不服そうに名目を返す。しかし帯刀を許された状況で指揮官と濃密な時間を過ごせるわけもなく──則綱と古賀が先頭と殿を務めるようにして主に断りを入れると、寺の戸を引いた。

 ──中央に座したるは一人の少年。向かって右斜め奥に一人の忍と村の女が控えている。

「遠路はるばるのご足労、痛み入ります」
 外見のままに幼い声を掛けたのは中央に座した少年である。飛鳥、幻十郎、安積にとっては見覚えのある少年でもあった。
 そしてそれは少年にとっても同じことであったようで。
「貴方がたは‥‥! その節は名乗ることもせず無礼をいたしました」
「顔を上げてください。事情はお察ししております、頭領ともあろう方がそう簡単に頭を下げられるものではありません」
 驚きとやはりという気持ちが入り混じる。そうと知って見れば、控える村娘も少年の護衛をしていた『春日』という名の女性に違いなかった。
 その春日に則綱より叱責が飛ぶ。
「春日。冒険者と接点を持たせていたのか」
「先の狼騒ぎの際に少々。そちらの面々に、その際の協力者が数名含まれております」
 まったく動じずに平然と応える春日であるが、それよりも面識があると聞かされたことに驚く冒険者である。
「そうなんですか‥‥? 何も‥‥存じ上げませんでした」
「話していなかったのか?」
「他言無用との仰せでしたので」
 幻十郎が臣下の礼をとる。そんなやり取りを目の当たりにし、漸く則綱も冒険者を信頼する気になったようだ。
「そんな時勢ではないですから、お互い窮屈な礼儀は抜きにしましょう。僕は水戸藩主源徳頼房の子、光圀と申します。現在は微力ながら水戸解放軍『雪狼』の頭領を務めています」
 光圀自ら名乗りをあげ、皆がそれぞれに名を述べる。
「お初にお目にかかります。文化や身分の違いから失礼も在るかと思いますが、様々な立場から言葉を重ねて見つかる道もあるという事、多めに見て頂きたく‥‥」
 シェアトの挨拶の後に、古賀が水戸城の見取り図を広げ、間をおかず具体的な打ち合わせを行うこととなった。

   ◆

 まず冒険者たちが確認したかったことといえば、雪狼の規模であろう。
「先の情報にもあるとおり、民は今の状況に慣れつつあります。陽動は危険ではありますが、正面から攻め開城したと言う事にしなければ民に知らしめる事は‥‥」
 陰りを帯びるシェアトに光圀は手勢を明らかにする。
「実際に剣を取って戦えるものは、則綱の指揮下に46名。僕の直轄、御庭番が慧雪以下10名。手勢はそれだけです」
「60名弱、か‥‥」
 その他、商人や一般の領民たちの中に資金面や情報収集役として積極的に協力しているものがいるが、こちらは戦力に含めぬが光圀の、そして水戸の方針のようである。
「けれど、北──御岩山に向かわせている者と魔物や不死人退治に各地を回っている者が32。その連絡役と補助に御庭番が8名、ここを離れています。実際に呼び戻して使える手勢は、この地の守りを捨てるとして‥‥武士が33、忍びが4、これだけです」
 水戸城の敷地規模は東西一里十二町、欧州風に言えば5.4kmである。本丸にはさほど重要な施設はなく、執政の中心は二の丸にある。忠勝が捕らわれている場所も二の丸に含まれており、三の丸は有力な武士たちの家屋敷が立ち並ぶ。
「水戸城からは、先日使用した経路の他に複数の脱出経路がある。主なものは二の丸にあるが、本丸、三の丸にもそれぞれ2、3の経路がある」
 それだけ経路があれば往路復路で道筋を変えることも可能ですね、と幻十郎は内心胸を撫で下ろす。
 明かされた情報に物言いたげな春日を冷徹な視線で制しながら、告げた慧雪が数箇所に筆を滑らせる。負けじと則綱も水戸城近辺に関する情報を示す。
「黄泉の兵どもは二の丸と本丸に集結しているようだ。三の丸の武士たちとは商人たちを介して連絡を取ることが出来たのだが、武装を解かねば正攻法で門を潜ることは出来ぬようだ」
 次々に提示される情報は彼らの数少ない、けれど重要な手札。確かに信用できる人物でなければ明かしたくない情報ばかりであろう。
「あ、あの‥‥その警備は黄泉人や不死人が行っているのでしょうか‥‥?」
「三の丸に居を構える武士たちだ。実質上家族を人質に取られておるゆえ我らと共に動くことは出来ぬが、黄泉人を排しに向かえば、あるいは忠勝殿が戻られれば、我らと行動を共にすることとなろう」
「せやけど、それまではこの人数やろ? 正直きっついと思うんや‥‥うちらの報酬削って回すってことで、2人くらい増員してもええやろか。もちろん、人選はしっかりと行うって条件付きで構わんのやけど」
「飛鳥殿に問題なければ構わぬ」
 命を賭せる者がいるのなら、と示され、背負った責の重さに耐えるよう、飛鳥は姿勢を正す。
「それならば、俺たちが冒険者を雇うことも‥‥責任が取れる範囲でなら構わない、そういうことですね」
 ‥‥これ以上雇う事に不満などもあるかもしれないが、下手に水戸に居る民から兵を募るより良いと考えたこともある。そして何より、飛鳥はただでさえ戦渦に巻き込まれる人々を、更に渦中に赴かせたくなかった。
 ──雪狼軍の者たちが諾と頷いたのはその決意を察してのことかもしれない。

   ◆

 夜が更け朝日が差そうとも討議は幕を下ろさない。肝心の戦略はといえば、エストが提示した案が一番具体的であったようだ。見取り図を指で示しながら、皆と吟味してきた作戦を口にする。
「まず、私達と水戸の忍者さん複数名で救出を試みます。救出後は忠勝さんを忍者さん達で安全な場所まで送っていただきます〜。その場所は光圀公の居られない場所が良いですねぇ。この際の侵入経路は裏口からとします」
 疑問点を質そうと口を開きかけた古賀を制止し、最後まで話を聞くことを優先させる則綱。
「脱出後に合図を送り、渡辺さまに軍勢を率いて表から攻め寄せて頂きます。こちらは領民へのアピールと陽動ですね〜。忠勝さまを送り出した私達は、黄泉人が軍勢を指揮して対抗を始めた所で、城内から指揮所や指揮官を狙い相手の指揮系統を乱します。その虚を突いて、雪狼軍で城を解放します」
「城周辺の情報を得、忠勝さんを救出した際の退避場所とすることも兼ね、情報収集役の『草』を数名配してもらえないでしょうか」
「その人員が惜しいですね‥‥」
 口篭る光圀に代わり、慧雪が具体的に指摘をする。
「情報収集なら城下の協力者で充分かと。それから、その戦略ならば忠勝の救出劇を派手に行い民衆の‥‥いや、三の丸の武士たち眼前に忠勝の姿を晒す方が効率的だろう」
「救出直後の彼は、衰弱であまり動けないと推測します。回復と治療のためにも一時避難できる場所が必要です」
「大人しく聞く忠勝であればな。それで斃れようとも本意であろう」
 しかし、と更に言葉を重ねようとする幻十郎に声を掛けたのは山下である。
「俺も無駄だと思う。聞くだけでもかなりの剛の者のようだし、今まで辛酸を舐め続けていたんだ、おめおめと引き下がるとは考えにくいよ」
 雪狼軍の者たちが全て冒険者の意のままに動くわけではない。例えば幻十郎に、例えばシェアトに譲れぬものがあるように、各々がそれぞれ信念を持っているのだから当然といえば当然である。その辺りを踏まえて数点の修正は必要な様であるが、概ねエストの示した概案に沿って攻城戦が行われることになるようだ。
 ──ちなみに、資金面については潤沢とは言えぬ雪狼軍だが、陽動部隊となる冒険者たちを雇う多少の金銭であればやりくりしてくれるようである。言い出した飛鳥や幻十郎、エストは懐に打撃を与えるであろう作戦を胸にしかと刻みつけた。


●城下にて
 さても少ない時間をなんとか遣り繰りし、幾つかの影が城下へと潜入していた。
「黄泉人は、人間に擬態するそうです‥‥そして、黄泉人に殺された人間は、3日後にアンデッドとして蘇るのだとか‥‥」
 ハーフエルフはどうなんでしょうか──自分で口にした言葉ながら、そんな疑問が頭を過ぎる。
 そもそも、危険を冒してまで城下に訪れたのには理由があった。
「食糧難とか聞いたんやけど、城下の人たちはどうしてるんやろな」
 ミケイトを始め冒険者たちには拭い去れぬその疑問が疲れた足を城下に向かわせたのだ。それに対する答えを得たのは商人の近辺を探っていた安積であった。
「食料は商人たちが配っているようだ。慈善事業ではなく、金が流れてきているようだな」
「雪狼軍には‥‥そんな余裕はないように思えましたけど‥‥」
「‥‥黄泉軍の連中か」
 それがどの様な面々かは忠勝を奪還していない冒険者にはわからない。わかるのは、三桁にも及ぼうという不死人が水戸城に囲われているという事実のみ。
「擬態するために人間を飼っている可能性もあるな。くそっ!」
 地面を蹴る飛鳥の元へ、シェアトと武装を解いたミケイト、そして影から護衛していた幻十郎が戻る。忠勝の住居は三の丸に在り、武装したままでは踏み入ることができなかったのだ。しかし、周囲の視線を気にし更なる危険に踏み込みながらも尋ねた本多邸で、シェアトは大きな収穫を得ていた。

「忠勝さまのお宅ではそろそろ紫陽花が見頃になるようなのですが、毎年花を咲かせないという紫陽花が一株あるそうです‥‥」