【水戸城解放】戦局之参
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■シリーズシナリオ
担当:やなぎきいち
対応レベル:9〜15lv
難易度:難しい
成功報酬:4 G 68 C
参加人数:10人
サポート参加人数:7人
冒険期間:07月03日〜07月11日
リプレイ公開日:2006年07月12日
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●オープニング
●水戸解放軍『雪狼』
江戸より北東に位置する水戸は、源徳家康の血を分けし兄弟頼房が封じられた地である。奥州藤原氏への牽制という意味も含め源徳に連なる者が配されたのは、少々政情に興味のある者であれば考えの至る処であろう。
その地が突如出現した黄泉の軍勢に蹂躙されたのは、足掛け9ヶ月ほど以前の話である。
北方より攻め入り、水戸藩の北に位置する霊峰御岩山を取り囲みそのまま南下、そして水戸藩の政治行政商業全ての面での中心であった水戸城を瞬く間に攻め落とした。
水戸を覆うゆうるりとした風土は弱者を助け強者を挫くという理想論を地で行くものであったため、一般人への被害は少なかった。水戸城主源徳頼房が無為に抵抗することよりも人々を救う道を選んだためだ。結果、早々に落城、源徳頼房と腹心本多忠勝は生死不明。御庭番として頼房の子息光圀を守護していた雲野十兵衛もまた生死不明と相成った。
現在では、水戸城は関東に於ける黄泉の軍勢の駐留地として機能しており、少数の生存者が江戸への侵攻を阻止しているような状況である。当然彼らへの支援者は少なくなく、黄泉の軍勢は彼ら水戸解放軍『雪狼』の本拠地を探り当てることも出来ず、ただただ膠着状態が続いていた。
──この膠着状態を打開し、水戸城を我が手に取り戻さんと考えたのが『雪狼』の面々である。
水戸解放軍『雪狼』の主な構成員は水戸の君主に連なる面々である。双翼を為すのは闘将本多忠勝が腹心渡辺則綱と、御庭番二代目頭目慧雪。そして旗印として担ぎ上げられているのは水戸君主が子息であり、源徳家康公の甥である光圀、齢十歳ほどの少年である。
「城を奪われたままでは、民の心はいつまでも折れたまま。城を取り戻し、忠勝を取り戻し、水戸城を黄泉の手より奪還する!」
──水戸の、そして江戸のために。
●水戸城
さて、問題の水戸城は水戸藩の中心に在る。
北は那珂川、南は仙波湖、東は崖という台地上に位置し、五重の堀が外周を廻る城である。天守はなく質素な造りの城は水戸の気風を大いに現しているといえよう。しかし、東西一里十二町──欧州に倣って表すのならば約5.4kmにも及ぶ広大な敷地はやはり源徳の威光を感じさせるものである。その全てが五重の堀に囲われ進入を阻む造りになっており、石垣は存在しない。
本丸、二の丸、三の丸という構成そのものは他の城郭と変わることはない。三の丸の城下に広がる町が城下町である。
三の丸は主に、名立たる家系の侍たちの家屋敷が並んでいる。現在、ここに居を構える侍は民を守るため、黄泉の手に下っている。
施政の中心は二の丸にあり、城と呼ばれる建物があるのもここである。二の丸の南東の端には三階四面の物見櫓が組まれている。が、櫓周辺は松・梅の林となっており、『本丸』と称されるべき城までは数百メートルの距離がある。
本丸には大きな設備はない。北西に二の丸と同じ三階四面の物見櫓がある以外に特筆すべきところは馬場や蔵が立ち並ぶ、という所であろうか。城を摂取した時点で本丸が手狭であったため、本来本丸にあるべき機能は全て二の丸に移設した、というのが公にされている事情のようだ。
三の丸から二の丸へ侵入する経路は薬師門と名付けられた重厚な門を抜けるしかない。
当然、ここにもそれなりの武士が詰めているわけなのだが‥‥
「出来るだけ、彼らの命は奪わないでほしい。民を守るために、黄泉人へ与しているだけなのだ‥‥状況が変われば、私達と共に戦ってくれる貴重な戦力だ」
●冒険者ギルドの一角で
「‥‥というわけで、依頼は伏せたまま冒険者の手配をしてほしいんだ」
冒険者の代表として、粗相があれば首を差し出すという立場におかれた青年は‥‥けれど自身の身ではなく水戸の行く末を案じ、ギルド員と交渉を重ねていた。自分たちの報酬を減らし、自腹を切り、尚且つ何か粗相があればその責はすべて青年の首に掛かる。けれど、水戸に関わりし者たちは、それでも冒険者の手を借りたいと願い──諾、と受け入れられた。
「水戸ですか‥‥」
実は、ギルドは水戸に少なからぬ負い目がある。以前、要請に応じた冒険者を派遣できず、落城を阻止できなかったという拭い去りたい過去があるのだ。水戸は源徳に連なる地。その依頼を立て続けに失敗すれば、待っているのは源徳家康公よりの信頼の失墜。
「出来うる限りの協力をする様にと、仰せつかっております」
「あと、古賀さんから別働隊との連絡係として人手を借りてきたんだ。紹介しておいてくれるかな」
「はーいっ、雛が連絡係するなのよー♪ よろしくお願いするなのねっ」
ぷにっとした子供を示され、ギルド員は笑顔を引きつらせる。
「大丈夫、なんですよね‥‥?」
「‥‥多分」
子供の実力が充分なのか、それとも他に割ける戦力がなかったのかは不明だが‥‥猫の手も借りたい状況なのだ。甘んじて受ける以外になかった。
数ある地下通路から適当なものを選び場内に進入し、忠勝を救い、光圀の下へ搬送する。
忠勝を得た雪狼軍が正面から戦闘を行っている間、裏から回り込み黄泉人を廃し、水戸城を奪還する。
数日間を要する合戦ではない。表舞台に記録の残る戦いでもない。
けれど、さまざまな箇所に波及する、とても大きな意味を持つ戦いなのだと。
──命を賭した者たちは、皆、肌で感じ取っていた。
●リプレイ本文
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夜陰に乗じ、疾走する物が十と余名。警戒しつつ先頭を走る闇目幻十郎(ea0548)は以前より死臭の濃くなった城内に口元を覆う。安積直衡(ea7123)も渋面を浮かべ周囲を見回した。
「‥‥臭い。よくもこれほどまでに篭ったものだな」
「それだけでしょうか‥‥」
巫女装束に身を包んだユキ・ヤツシロ(ea9342)が青褪めた表情で言うと、それだけでなんだか厳かに感じられてしまう。比較する記憶を持たぬ彼女には解らぬが、確かに篭るというより濃くなったという印象だと山下剣清(ea6764)も思う。
「ねえ。安積さんに聞いたんだけど、水戸の地は馬の背と称される攻め難く守り易い土地なんだよね? 黄泉人たちはどうやってこんな城を落としたんだろうね〜」
知識を愛する者と呼ばれるジェシュファ・フォース・ロッズ(eb2292)の探究心と好奇心は休むということを知らない。道々聞かされたこれまでの経緯を踏まえた上で、浮かぶ疑問を次々と口にする。
「へっ、汚ぇ手でも使いやがったに決まってらぁ」
時折り懐で惑いのしゃれこうべが振動しているのを感じながら、飛鳥祐之心(ea4492)が吐き捨てる。明るいうちに十二分に休息を取ったことが良かったのか、目は眠気を訴えることもない。
「ミケ君、どうしました?」
「ん? ああ、なんでもないんや‥‥」
地下通路の偵察から戻ってから、遠縁ミケイト・ニシーネ(ea0508)の様子がおかしいことが気にかかっていたアフラム・ワーティー(ea9711)が声を掛ける。何でもないと言いつつも、その返事は彼女らしくなく、どこか上の空だ。
『記されたものが全ての通路ではありません』
春日に掛けられた言葉がミケイトの脳裏から離れない。御庭番頭目たる慧雪の言葉を否定する春日。なにか、こう、奥歯に物が挟まったような‥‥言ってしまえば腑に落ちないのだ。何か、見落としているような‥‥そんな気がする。
「‥‥晴れると、良いのですけれど‥‥」
憂い顔で曇天を見上げるシェアト・レフロージュ(ea3869)は、時折り雲の隙間に煌く星の明かりに小さく呟いた。
その言葉は、ミケイトの胸にも、小さな一石を投じた‥‥。
●
深夜の水戸城は静まり返っていた。遠くで聞こえる剣戟と怒号──雪狼軍が三の丸に攻め入ったようだ。
本隊を、光圀をも囮にした甲斐もあり、徐々に不死者たちは城を後にしていき、冒険者たちは僅かなりとも自由を得た。シェアトの掲げる明かりが柔らかく廊下を照らし出す。
「忠勝はんは以前地下牢におったけど、今もまだ地下牢なんやろか」
「行ってみるしかないでしょうね、心当たりはそこしかないわけですし〜。幸い見取り図はありますからね♪」
とんとん、と人差し指で頭を叩くエスト・エストリア(ea6855)。
「それしかないか」
「その前に‥‥」
口を開いたユキは何か策があるのかと振り返った皆の視線の先で、スッと廊下の一点を指差した。
「‥‥お客さんがいらっしゃいましたの‥‥」
すらりと、木剣を抜く安積。
──べちょ
安積の視線の先で、粘液質な音を立てながら現れた3対の死人憑きが日本刀を構えた。
「オーラパワーを付与します、こちらへ!」
アフラムがまず前衛の安積と飛鳥に付与すると、エリベイションで自らを鼓舞したエストが鳴弦の弓をかき鳴らす中、剣戟が響き始めた!
剣が交錯し、魔法が煌く。
「棺より脱した死者よ、棺に帰れ──アイスコフィン!」
バックパックに収めたスクロールを取り出す手間を惜しみ、ジェシュファは一体を確実に氷の棺に閉じ込める。
「透け透けだけど、やっぱり棺の方がお似合いだね〜」
そんな言葉を吐きながら、じわりと滲む汗を拭う。
シェアトのシャドウバインディングが敵を捉え、ミケイトが射り、幻十郎が斬る。
傷を負った山下が下がり、ユキが癒す。
「ユキさん、大丈夫ですかぁ〜?」
「はい‥‥これくらいなら、大丈夫ですわ」
エストの気遣いに小さく微笑むユキ。回復係として随行したものの、軽微な怪我でなければ癒すことができない──それは大きなジレンマだった。
そして、地下牢へと進む何度目かの戦闘で──恐れていた事態が起きた。
●
鋭い一撃で安積が袈裟懸けに切られ、鮮血が飛び散った。
ぼとぼとと流れる、血。
ざわり、と黒髪が舞う。おどおどした揺れる青い瞳が、血の色に染まる。
「ユキ!?」
異変に気付いた山下が目を見開いた。逆立つ髪は、血の色の瞳は、狂化の証。過去、それで仲間を、自らを傷つけたハーフエルフがどれだけいただろう‥‥けれど、暴れるでもなく、呆然と佇んでいたユキは頭を抱えてその場に蹲った!
「死にたくない、死なせたくない、一人は嫌、一人は嫌なの‥‥‥死にたくない、死ぬのは嫌、一人にしないで‥‥‥」
ぶつぶつと呟き続けるユキ。それはまるで、血塗られた幼き日の悪夢であるように──‥‥ただひたすら、赤子の如く庇護を求める。
その姿に、誰より先に動いたのは見えぬ場所で同行していたはずの、そして極度の偏見によりハーフエルフを嫌悪していたはずの雛菊だった。
「ユキお姉ちゃん‥‥大丈夫なの。雛が一緒にいるのよ」
小さな手できゅっと抱きしめる雛菊。ユキのその姿が、ただ一人残された誰よりも敬愛する兄に嫌われることだけを、何よりも誰よりも恐れている‥‥そんな自分自身の姿と重なったのかもしれない。
精一杯、傷付き震えるユキをいたわる幼子と共に、シェアトは雪の手を優しく包む。
「誰だって一人は恐いものです。‥‥それを認めて、初めて手にできるものもありますから‥‥ユキさん、負けないで?」
共に生きることを誓った大切な指輪を預けた、女性のように優しい彼。そしてそんな彼を押しのけて安全を祈ってくれた友──待ってるからね、と言ってくれる人たちの存在がシェアトを支え、そして大きな力になっていることに気付いていたから。
失いたくないと思えるものが、守りたいと願えるものが、心を支え育てるのだろう。
震える紅がシェアトを見上げる。雛菊を見つめる。そしてまた、カタカタと震えながら一人は嫌だと、死にたくないと、訥々と呟きだす。
「これ以上は無理のようですね」
「そうだね。ユキさんが欠けるのは痛いけど、お互いの生存率を上げるためにも、ここは待機してもらった方がよさそうだね」
幻十郎が冷静に判断を下すと、ジェシュファも頷く。傷をいくら癒そうとも、流れ服を濡らした血はもう消えぬ。癒そうと手を翳す度に狂化してしまうのでは、皆、彼女が気になって戦いに集中できまい。このような死闘でなければ目隠しをして座すという手段もあったであろうが‥‥今その策を講じたとしても、彼女を守るために割かねばならぬ手が惜しい。
「かといって一人で残すわけにもいかないしな‥‥雛菊さん、残ってくれるか?」
提案したのは飛鳥だ。もう地下牢は目の前である、テレパシーの使い手がいるのだから多少距離が開いても問題はないだろう。しかし、敵の巣窟に少女を二人きりにするのも不安があるようで、自分も共に残るつもりのようだ。
「それなら、僕も残りましょう。残るといっても、少し離れてついていけば大丈夫でしょうか」
要は、ユキから血が視認できなければ良いのだ。
「なら、飛鳥はん、アフやん、雛ちゃんも。ユキはんを頼むな」
ミケイトがバックパックから手元の矢を補充し、仲間たちを振り返りながら進んでいった。
●
細い隠し階段を下りれば、地下牢がある。
どこかに明り取りのまどがあるのだろう、細く差し込む月明かり‥‥雲の隙間にでも位置したのだろうか。
ひんやりした空気にふうと息を吐くジェシュファは、そこに動かぬ人影を認めた。
「あれが、えと‥‥忠勝っていう人?」
「しっ。‥‥間違いない、人間や」
ミケイトが頷いてスクロールを使う。死人は呼吸をしない、ブレスセンサーのスクロールに反応するのは生者の証なのだ。そこにいる忠勝は不死人の化けた忠勝ではなかった。距離を置いたまま、再びまみえた男へシェアトはテレパシーで語りかける。
『先日ご自宅をお伺いしました‥‥この季節珍しいお花があるそうですね?』
『この時期に? ‥‥花の咲かぬ紫陽花の株ならあるが、珍しい花などあったか‥‥』
『すみません、忠勝様がご本人かどうか確認させていただいたのです‥‥お許し下さい』
守る者のない牢を幻十郎が盗賊用道具で容易く破ると、飛び込んだミケイトが清らかな聖水で傷を清め、回復薬の類で傷を癒した。エストがテレパシーで仲間たちへ救出の報を伝えると、雛菊が先んじて戻ったという連絡が帰ってきた。ここまでは比較的順調である。
「忠勝様、申し訳ありませんが‥‥正確な情報を少しでもたくさん得るために、思考を少し覗かせてくださいませ‥‥」
先ず詫びて、そして了解を得るとリシーブメモリーを忠勝へと掛ける。
──『う゛ぁぁあああ‥‥!』 隠し通路を通じて不死人たちが城内へ雪崩れ込んできたこと。
──「光圀様は追わせぬ、命に代えても」 ‥‥光圀を逃がすため雲野十兵衛が命を落としたこと。
──「魔物なぞに命を請──」 捉えられた頼房の首が無造作に切られぽぉんと宙を舞ったこと。
何度も何度も思い出し、褪せぬどころかより鮮明になった記憶──難攻不落のはずの水戸城が篭絡されていく様を、つぶさに『視』た。
「頼房様の無念、この忠勝の受けた屈辱、全て晴らしてみせようぞ!」
赤黒くこびり付いた血だったものを拭うこともせず、こけた頬と窪んだ眼窩から放たれる眼光の鋭さに見る者たちは一瞬怯む。
「先ずは本陣に合流してください。武器も無しにどうするおつもりですか」
剛の者を押し止め、幻十郎はバックパックの日本刀を念のためにと手渡した。
「業物ではありませんが、此れで暫く我慢してください」
忠勝を御庭番の忍へ託し、もう一つの目的──黄泉人を廃し城を内より無力化するため、冒険者たちは一度合流すると再び敷地内を進み始めた。
「奴は恐らく三層櫓にいる。戦局を見極めるためにな」
忠勝の置き土産となった言葉を信じて。
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「あちっ」
三層櫓への潜入を前に、飛鳥は五行星符呪を燃やし、その灰を小さな巾着に詰めて懐へ偲ばせる。
アフラムが、エストが、エリベイションをしかと唱える。オーラの魔法の加護を得る。道坂の石を設置する。
そこに黄泉人がいると思うからこそ、全ての準備を整える。
「いこう」
誰からともなく立ち上がり、その建物に踏み込んだ。
「騒がしい」
ブレスセンサーに反応がなかったから、そして忠勝を救っていたからこそ。
迷うことなく、『それ』が黄泉人であることを知った。
「冒険者か、迷い込んだのなら早々に居ね」
──ぷちっと、何かが切れた。
「おうおうおう、冥府の外道共達が城主追い出しデケェ面してやがるとは、いい度胸じゃねぇか! 雪狼の焔、飛鳥祐之心。俺らが手前ぇらに引導渡してやらぁ!!」
次の瞬間、日本刀「相州正宗」と銘無き刀が『ギィィン!!』と悲鳴を上げた!
「頼房様は確かにおらぬが、冥府の外道とは随分な物言いだな、小童!」
野太い声が飛鳥を叱咤する!
「残念だけど、もう忠勝さん‥‥だっけ、は助けちゃったんだよね〜。姿を似せても意味ないよ?」
ジェシュファがそう言葉を返す。唱えたアイスコフィンは失敗したようだ。
「ふん、つまらぬな」
本当につまらなそうに黄泉人が呟くと、その背後から死霊侍と死人憑きが数体ずつ現れた。
──ギィィン!
「灯りに支えられし影よ、揺らぐことを止め姿を縫い止めよ──シャドウバインディング」
窓辺の死人憑きが動きを止める。
「何故、忠勝殿を生かしておいたのです」
「使い道があるからに決まっておろう!」
オフシフトで翻弄する幻十郎の言葉に黄泉人が吐いて捨てる。当然ながら、それ以上は語らぬ。
「水戸城を占領してどうするつもりだったのだ」
死霊侍へ剣を振り下ろしつつ山下が漏らす。
「将軍様がこの国を手に入れるための、布石だ」
「将軍?」
この黄泉人を使役する上位の者がいたというのか。
「セーラ様‥‥御許に在るべき者を捉えて下さいませ──コアギュレイト!」
狂化してもそれは自分の責任、共に行かせてほしいと同行したユキが黄泉人を捕らえた!!
「京の都で黄泉人の上に立つ黄泉将軍という存在が確認されていたと思います‥‥」
「まさか、水戸にも」
鋭い突きを繰り出しながら安積が唸る──そんなものが江戸を睨んで潜んでいたとは。
「惑わされずに‥‥今は、城を解放することだけを」
聖水を振り撒きながらシェアトは耳に心地良い声でそう注意した。
「──水戸に住む人たちのためにも」
海辺の村を思い出しながら、アフラムは剣を振るう。
「城は、返していただきますよ!」
──キィィン!
アフラムの剣が、黄泉人の武器を弾き飛ばした!!
「冥府の外道、俺らが引導渡してやらぁ!」
飛鳥と安積の剣が、そして幻十郎の八握剣が交錯し──黄泉人を死者の国へ叩き返した!!
「死者は死者らしく、安らかに眠ることだ」
木刀を下ろし、僅かな時、死したる者たちの‥‥冥福を願った。
●
過剰なまでの準備が全て良い方に作用すれば黄泉人とて恐るるに足りぬ。
けれど一方で良いとされる状況が全てに於いて良いとされるわけではない。
冒険者たちは否応なくそれを知らされた。
「‥‥なんでこんなに多いんだ!」
しゃれこうべは鳴り止むことを知らぬかのように、カタカタと音を立て続けている。
忠勝を擁し二の丸に攻め入らんとしている雪狼軍に蓋をされた形になり、三の丸に出たはずの死者たちが二の丸へと舞い戻ってしまっているのだ。
隠し通路を抜けようにも近付くことができず、次第に二の丸を囲む土壁へと追い詰められていく──否、移動した。
「この辺りなら抜けた途端に堀に落下することもないはずですよ〜」
「ほな、急がんとな」
エストとシェアトの記憶を頼りにミケイトがウォールホールのスクロールを使用すると、壁に大きな穴がぽっかりと口を開けた。しかし、このままでは追っ手も壁の外へと飛び出してしまう。
「石と化し、地に帰れ──ストーン!」
「棺で眠れ──アイスコフィン!」
エストの高速詠唱が一体を、ジェシュファの高速詠唱が一体を、確実に無力化させる。
「ここは僕が食い止めます! 早く、穴が塞がる前に!!」
割を食うのには慣れている。アフラムが借り受けたままの霊剣「ミカヅチ」を構える。
「おうおうおう、格好付けるんじゃねぇよ。一人残して行けるかってんだ、俺も残るぜ!」
にかっと笑い、飛鳥も穴の前に立ち塞がった。
数分、ウォールホールが消えるまで。死人喰いと死人憑きが相手だろうと、持ち堪えるだけであれば比較的容易である。
そうしてアフラムが痛手を負うことになったのであるが何とか全員が生還、本隊との合流に成功し──更に一両日ほどの激しい戦いを経て、水戸の地は正当なる後継者の手に取り戻された。